シナリオ詳細
紅葉の姫、求む
オープニング
●絶世の美、紅葉姫の伝説
山々が紅く色づく季節、入ってはならないと言われる山に立ち入ってしまった男がいた。
そこは紅葉の神が治める山、人間は立ち入り禁止である。
紅葉の神は大層な人間嫌いで同時に大層美しかった。はっとするほど美しいのに、それでいて艶やかな美女のようでもあり耽美な優男のようでもあるような曖昧な印象しか残らない、不思議な神であった。
立ち入り禁止の山に踏み入った男に神罰を与える為に、男が山で酒盛りをし寝入った隙に紅葉の神は男に襲い掛かろうとした。
男は瞬時に目を覚ますと腰の刀を抜き、紅葉の神の攻撃を受け止めた。男は名のある侍であった。
紅葉の神は自分を睨み返す鋼鉄のような眼光の中に、自分とは違った美しさを感じ、男に一目惚れしてしまった。
それ以来紅葉の神は葉が紅く色づくその季節だけ人間が山に入ることを認め、しばしば人間の前に姿を現すという。
●紅葉の姫、求む
「そういう話が残っているんだって」
世界と世界のあわいを繋ぐ境界案内人カストルは、ぽんと本を閉じると顔を上げた。
そこは八百万の神が存在するという世界で、ありとあらゆるところに当たり前のように神がいるのだという。そしてそこの神は人間からの信仰があることで存在を保てているのだとか。
「いま話した伝説を元に、紅葉の神は毎年山に入ってきた数人の村人の前に姿を現し舞を踊るという儀式を行うことで信仰を保っているらしい」
今しがたカストルがめくっていた頁はその世界に残っているという伝説だったようだ。
ところが、とカストルの話は続く。
「今年の秋は暖かすぎて紅葉の神が外に出て来れないらしい」
そこまで聞いたところでイレギュラーズたちにも話の流れが読めてきた。
「このままでは信仰が薄まって紅葉の神さまが消えてしまう」
つまり……
「そこで君たちの中から志願者を募ろうと思うんだ。誰か紅葉の神さまの代わりをしてくれないかな」
この境界案内人はイレギュラーズの面々にその神さまの代わりをしてもらうつもりらしかった。
「大丈夫、君たちならきっと神さまに見えるよ」
よく分からない鼓舞と共にカストルはにこりと笑った。
- 紅葉の姫、求む完了
- NM名野良猫のらん
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年10月26日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●紅葉浅く神は隠れ
はらはらと葉の舞い落ちる山の中。されど舞い散る葉の色には深みが足りない。
本当にこの山には葉が紅く色づく為に必要な寒さが足りていないようだ。
「秋の神様なんて素敵やねぇ」
うっとりと呟くのは胡蝶(p3p009197)。漆黒の角を頭に戴くどこかミステリアスなハーモニアだ。
「豊穣を司る様な感じなんかねぇ?」
胡蝶は八百万の神々の神秘性に思いを馳せる。
せっかく信仰されているのならそれが廃れるのは物悲しい。自分に出来ることがあるなら手伝おうと名乗り出た一人が彼女だった。
「上手くいかないから出てこないとかわがままな神様だなぁ」
夜闇を想わせる美しい声を響かせたのは『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)だ。ルーキスは葉が紅く色づかないからという理由で、人間の前に姿を現わそうとしないという神に呆れているようだった。
「まあ私達で何とかなるならこういうのもアリなのか?」
さりとてこの任務にやる気がないという訳ではない。気合を入れて頑張るとしましょう、と彼女も笑みを見せた。
「ぜんぶわたしに任せればだいじょーぶっ」
『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)はくるりと翻ると天真爛漫な笑顔を見せる。
「超常現象とか見せればいいのよそういうのは」
とメリーは請け合う。
「私の外見が美しいというかは主観で判断しかねますが……」
おず、と口に出す声は少年のもののようでもあり、ボーイッシュな少女の声のようにも聞こえる。その声の主は『ナイトウォーカー』クロウディア・アリッサム(p3p002824)。黒いスーツを身に纏った赤毛のスレンダーな人物だ。
四人はそれぞれに想いを抱きながらも紅葉の神を助けようという思いは一致していた。
「さて、それでは三人には紅葉の姫さんになってもらうとしましょうかね」
ルーキスは二コリと笑ったのだった。
「化粧は薄くていいから、アクセサリーを追加してっと」
「髪のアレンジ? 長くて綺麗だから、そのままでも良いと思うよ」
「はいはいちょっとキツイけど動かないでね。和装の着付けは大変なんだ」
等々と、他三人はめいめいに着付けられていったのだった。
●紅葉の姫、参る
十の月の末。麓の村から選ばれた数人の村人が山を登っていた。
紅葉の神を祀る社に辿り着いた彼らは供え物を捧げた。
そして彼らは待った。例年のように紅葉の神が姿を現すのを。
だが一向に神は現れない。彼らが不安になり始めた頃、芝居がかった声が静寂を打ち破った。
「いやぁ、参った参った」
美声が響く。
月夜に響く力強い声だ。
「いくら上手くいかないからって不貞腐れるのは無いでしょう」
現れたのはルーキス。そして彼女にエスコートされて三つの影が姿を現す。
『姫』役を務める他の三人に着付けをし、化粧を施し、ピッタリの小道具を用意したのはルーキスだ。三人が無事帰れるようにともルーキスは腐心している。ある意味ではルーキスこそがこの作戦の要であるとも言えるかもしれない。
「連れ出すのにどれだけ時間かかったと……ほら皆様が首を長くしてお待ちですよ」
ルーキスはあくまで紅葉の神の従者か何かであるかのように振舞い、神たちに前に出るように促す。
「あ、私はただの一家臣なのでお気遣いなく」
翼の生えた腕をひらりと振って村人たちに主張しておくのも忘れない。
幾ばくかでも紅葉の神の眷属らしく見えるよう、今のルーキスは萌葱色の羽織を羽織っていた。未だ紅葉に染まらぬ深緑の色だ。
一種異様とも言えるルーキスの姿に村人たちはごくりと唾を飲んだ。しかしその異様さこそが彼らにルーキスをそれらしく見せていたのだった。
そして促されて三人の内一人が進み出た。
初めに村人たちの前に進み出たのは白地に紅葉の模様を散らせた着物を纏い、頭に角を頂いたそれはそれは美しい姫……胡蝶だ。
普段はミステリアスな微笑を湛えている口元は、今ははっと目の冴えるような紅い扇子で隠されている。扇子の向こうにどんな表情が隠されているのか、思わず覗きたくなるような魅力があった。
そっ……と胡蝶は動き出す。
音もなく彼女が扇子を振るうと、蝶を模した式神たちが彼女の周りを飛び始めた。
「お、おお……! 紅葉の神さまじゃ!」
村人たちは騒めくと、瞠目して胡蝶の舞を見つめた。神がそこにいると信じさせることに成功したようだ。
紅葉の神の姿を覚えていることができる人間などいないと知っていながらも、村人たちは一心に胡蝶に視線を注がせる。神がどんな表情で我ら人間を見ているのか。ただそれだけが知りたくて。
胡蝶は舞う。ひらめく紅い扇子は落ちていく紅葉のようで、胡蝶の顔が露わになりそうになる。そこを光り輝く蝶の式神が視線を遮るように飛び、どんな表情を浮かべているかも分からない曖昧な印象が纏わりついて離れない。
ふわり、ふわり舞いながら。蝶も揺蕩う。
村人たちはただその舞が美しかったことだけしか頭に入らない。
実際にそこにいて会った筈なのに、その美しか記憶に刻まれない。
(人前で踊るなんて、何だか久しい感じがするねぇ。本当の紅葉の神には程遠いかもしれへんけど精一杯やらせてもらうわぁ)
胡蝶はただ、舞のことを考えていただけだ。それでも胡蝶はその時まさしく、それを見ていた村人たちにとっては神の一柱であった。
「きれいでしょ、きれいでしょ!」
入れ替わるようにメリーが前に躍り出る。
胡蝶と同じく白地に紅葉の模様の着物を纏っているが、胡蝶のそれとは違って裾が短く、くるりと翻る度に彼女の健康的な愛らしさを強調する。いわゆるミニスカ丈の着物を纏った状態のメリーに可愛らしさで敵う者などいる筈もない。
袖と裾にはフリルがあしらわれており、それがメリーの金髪碧眼と調和していた。村人たちにとっては、それが不思議な雰囲気を醸し出しているように思われた。それもその筈、金髪碧眼の人間など目にするのはこれが生まれてこの方初めてなのだから。
動きやすい恰好のメリーはくるくると元気に跳ね回り、式神を舞わせる。それに合わせて揺れるメリーの金髪はまるで銀杏の葉が舞い踊っているかのようであった。その愛らしさは妖精か何かのようだった。
胡蝶のミステリアスな美とはまた別種の美がそこには存在した。
メリーもまさしく紅葉の姫であった。
「紅葉の神様は色んな姿をお持ちだというのは本当だったんだ……!」
村人たちはメリーの愛らしさに神々しささえ感じ、ありがたやありがたやと呟いて手を合わせて拝んだ。
「ふふ、そうでしょ! わたしが一番かわいいでしょ!」
メリーのこの言葉に首を横に触れる人間などいなかった。
そうしてメリーが踊り疲れた頃、最後の一人が前へと進み出た。
白いヴェールが揺れる。
紅葉を思わせる赤ふきの白無垢に、赤い打掛け。巫女のそれのような前天冠からヴェールが伸びている。ルーキスの施した目元と唇の朱は白い肌をよく引き立てていた。
何より一番目を引くのが、真っ直ぐに下ろされた見事な赤毛だった。
紅葉の神がいるとすればこんな髪をしているのではないか――――まさにそう思わされる赤より紅い見事な髪色が靡く。
月夜に姫が舞い降りた。
紅葉の姫の最後の一人はクロウディア。自分の見た目に頓着しないクロウディアであるが、鏡を見ていれば自分にこんな美しさがあったのかと仰天していたことだろう。
クロウディアはそれまで閉じていた瞳を静かに開いた。
金の双眸がゆっくりと覗く。
「…………」
ただそこに佇んでいる。
それだけでそれまで騒めいていた村人たちが何も言えなくなるような、圧倒される美しさがあった。
誰も一言も言葉を発することができなかった。
それほどまでの迫力があった。
(お腹が空きました……)
クロウディア自身は自分の扮装が功を奏しているかも分からず、ただ神のイメージを壊さないように黙っていただけなのだが。腹の鳴る音が響くことがなかったのは幸運だったかもしれない。
何を考えているか分からないその表情が、村人たちの目には人を飛び越えた存在の持つそれとして焼き付けられたのだった。
●かくして信仰は守られた
充分に村人たちの目に神性が焼き付いたことを確認したルーキスは、適当に話を着けて三人を連れてその場から退散した。
「これで終わりかな? お疲れ様」
心なしかルーキスの顔も晴れやかだ。成功を確信しているのだろう。
「ルーキスはんは裏方ありがとうねぇ。クロウディアはんもメリーはんもお疲れ様やわぁ」
胡蝶のまったりとした声が彼女らを労う。
不意に、そんな彼女らの間を一陣の風が吹き抜ける。赤い葉、黄色い葉、まだ紅葉しきっていない緑の葉……様々な色の葉が風に巻き上げられて月夜に踊る。
「わぁ……」
クロウディアが思わず感嘆の声をあげる。
その時。
「――――ありがとう」
そんな言葉が四人の耳に届いたような気がした。
美しい声であるという印象ははっきり残っているのに、その性別も思い出せない曖昧模糊とした声。
今のは何だろう。もしかしたら紅葉の神の声だったのかもしれない。もしそうだったとしたら……今回の依頼は無事成功した、ということだ。
「良かった……」
クロウディアが安堵に胸を撫で下ろす。
「わたしたちばっかり働かせて! 次があったら紅葉の神さまとやらの舞も見せてもらうわよ!」
「ふふ、そうやなぁ」
メリーが頬を膨らませるのを見て、胡蝶は微笑ましそうにくすくすと笑う。
「本物の神さまの舞か、そりゃいいね」
「ええ。私も見てみたいと思います」
ルーキスとクロウディアも同意して微笑む。
四人はそれぞれに月を見上げ、想いを馳せたのだった。
秋は深まりつつある。
この山のすべてが紅葉に覆われる日はもうすぐそこだろう。
その光景は、きっととても美しいのだろう。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
どうもこんにちは、野良猫のらんです。
秋も深まり、もうすぐ紅葉狩りの季節ですね。
ということで今回は紅葉にちなんだお話です。
●世界観
豊穣郷(カムイグラ)によく似た雰囲気の異世界です。
八百万の神が存在し、人々の信仰によってその存在を保っています。
●目的
紅葉の神に代わり、信仰を廃れさせないこと。
推奨される手法は紅葉の神に扮装し、今年も滞りなく儀式を行うことです。
●儀式について
十の月の最後の日に選ばれた村人数名が山に入り、紅葉の神に捧げ物をします。
この時にどこからともなく紅葉の神が姿を現し、舞を見せると言われています。
しかし今回は舞を踊れなくても大丈夫。一瞬姿を見せて姿を消すだけでも充分だと紅葉の神さまは言っています。
また複数人で紅葉の神に扮しても大丈夫です。性別も問いません。
神とは単数のようでも複数のようでもあり、また男でも女でもあるのです。
紅葉の神に扮する役だけではなく裏方に回っても大丈夫です。例えば化粧を施してあげたり衣装を考えたり等々。
●紅葉の神について
大変美しい神でありながら、その美しさのあまりどのような姿形をしていたか人々の記憶にまったく残りません。
逆に言えば美しくさえあるなら誰でも紅葉の神に扮することができるという訳です。
八百万の神の世界では今年の秋は暖かく、葉が上手く色づかなくてそんな美しくない姿を人に見せられないと紅葉の神は家に籠ったまま出て来なくなってしまいました。
ちなみに紅葉姫伝説に出てきたお侍さんと紅葉の神がその後どうなったかについては……伝承に残っていないので分からないそうです。
麓の村の人びとは紅葉姫伝説を神から人への悲恋だと捉えたり、いやいやその後二人は幸せに結ばれたのだと言ったり、様々に想像を巡らせているそうです。
以上です。
それでは我こそはと思う方は是非ご参加下さい。
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