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シナリオ詳細

緋桜の想いぞ、消ゆる地は……

完了

参加者 : 2 人

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オープニング


 狂おしい程の感情は喉の渇きにも似ている。
 時を経るごとに強くなる。時を経るごとに苦しくなる。
 ――『だから』と言えるのかもしれない。その『刀』に魂が宿っていたのは。
「うぅ……うっ……」
 カナメ (p3p007960)は歩いている。海洋の街を、海洋の影を。
 しかし彼女の瞳にかの街の光景など映っていない――あるのは唯々無念と後悔の残影。
 彼女の身の内に入り込んでいる『誰か』の世界。

 ――遅すぎた。遅すぎた遅すぎた遅すぎた!

「あぁぁぁ何故、どうして、こんな事に!」
 カナメの口から零れる節々は彼女の声であって彼女の意思ではない。
 緋桜。ソレをかつて作りし鍛刀者の霊――いや『悪霊』が宿っているのだ。
 かの者は刀をある男性へと贈るつもりだった。魂から焦がれた相手へ……自らの総てを注ぎ込んだ一刀を、是非にと手渡すつもり『だった』のだ。
 しかしそれは叶わなかった。
 道中。彼女は夜道にて襲われその命を絶たれてしまったのである。当然担い手がいなくなれば刀など意中の者に渡らず……しかしかの想いは未達であったからこそに膨れ上がる。
 渡せぬままでは死ねない。たった一振りだけでもよい、彼に、彼に――
 死の無念。天へと達せん程の悔思。
 この混沌の世に死後の世界があるかは知れぬが……彼女は黄泉への渡りを拒絶した。
 やがて宿る。件の刀に、全てを塗りつぶさんとする怨念と成りて。

 そして――現在の緋桜の所有者であるカナメの魂へと、やがて侵食した。

 たった一つの事実に気付いてしまったから。渇望した想いを遂げられぬと気付いたから。
 アレから既に百の時を超え――彼ももう死んでいるのだとすれば。
「はは、あ、はは」
 もはや何の意味もない。この意思が現世に留まる理由など、なにもなにも。
 だから死のう。
 そうだ死のう。幸いにしてここに心の臓が動いている肉体がある。
 これで死のう。海に溶けて消えれば、きっと楽になれるから。
「ああ――もう一度会いたかった――あは、は、はは――」
 黒き涙を転々と。流し流して狂い笑う。
 ……カナメの身体は動かない。彼女の意思は悪霊に押さえつけられ、深い澱みの底に沈んでいる。勿論このまま自殺などされればカナメの命も消えよう――意思の片隅で分かっているのだが、しかしそれでも力が入らず。
「あ、ぁ。ここで、いい」
 海原が見えた。
 後は腹を捌き貫き、そのまま海に落ちよう。
 生命の海に溶ければ、もしかすれば彼にそこで会えるかもしれない――
 だから死のう。刀を構え腹を見据えて。
「ぁ、っ、さ、させな……ッ!」
 命の危機にカナメの本能が警笛を鳴らす――だがそれでも主導権を握る程の事は出来ず。
 止まらない。振りかぶる刀が、夜の月に輝いて。
 微笑み携え――未練なく――

「待つッス――!!」

 ――瞬間。正に運命決そうとした、その時。
 カナメの身体に衝撃が宿る。それは――蹴りだ。
 背後より加えられた一撃によって刀の狙いが逸れて思わず地に。その声の、主は。
「なぁーにしてるんスか、僕の妹ッスよ! 出てけ、出てけッス!!」
「ぁ、あ――」
 何度も頬を叩くその存在。あぁどうしてカナメが見間違おうか。
 ――鹿ノ子 (p3p007279)。愛しい愛しい双子の姉――
「ど、ぅし、て」
「どうしてもこうしてもあるッスか! どうも様子がおかしいと思ってずっと追っかけてたんッス! そしたら段々嫌な気配がおっきくなって……!!」
 悪霊か魔物か、あるいは何かの魔術か――分からなかったがカナメは操られているのだと。悟った鹿ノ子は強引に止めに走ったのだ。
「諦めるなッス! 大丈夫ッスよ……僕が付いてるッスから!」
 身体が勝手に落ちた刀に伸びる。だが鹿ノ子がそれを全力で制して。
 言葉をかけ続ける。カナメに届くように、彼女が奮い立つように。
 だって――妹ッスから。
「戻って来るッス、カナメ――!!」
 世界でたった一人だけの片割れよ。
 どうか、いかないでほしい。どうか、こんな輩に負けないで欲しい。
 ――姉の言葉がカナメの魂に焔を灯す。ああぁ――
「あ、あああああ――ッ!!」
 そうだこんな所で死ねるものか。我が身の天使が! 至高の推しが目の前にいるのに!
 たかだか百年引き摺っている程度の――怨霊如きにこの身を繰れてなどやれるものか!
『ぬ、ぐ、ッ……! アァァァ! 抵抗を、抵抗ヲ、すルの、カ――ッ!!』
 内から猛る魂の輝きが澱みを吹き飛ばす程に。されば怨霊がかような肉体に留まれようか。
 カナメの身体から噴き出す黒き靄――怨霊の結晶体。
 黒き涙を流す悪霊の全てが彼女らの前に顕現し。
『なゼ、どうシテ、許さなイ。ソレは私のモノ! 死ネ! 死んデ!
 私と一緒ニ、死んデヨ! 許さないユルサナイ許さないユルサナイ――!!』
「何が許さないッスか! それはこっちの台詞ッスよ!!」
 それでも奴に諦める様子はない。カナメに憑りつき心中のやり直しを、邪魔をした鹿ノ子には無残なる死をと願い、強烈なる殺意の波を浴びせてきている。
 だが『許さない』などと何様のつもりだ。
 カナメの身体を操って勝手に心中などしようとした癖に――
「ここでその未練ごと砕いてやるッス! 行くッスよ……カナメ!」
「――うん! 絶対一緒に……一緒に倒そう! お姉ちゃん!」
 今ぞ刀の亡霊を乗り越えよう。
 姉妹二人で。決して別たれぬ――この二人で!

GMコメント

 リクエストありがとうございます――
 宿り続けていた悪霊を、断ち切りましょう。

■依頼達成条件
 『悪霊』を逃さずに撃破する事。

■フィールド
 海洋首都リッツパーク郊外の浜辺。
 昼や夏場であれば客も多い場所でしたが、シーズンが過ぎ夜である故か周囲には人影は見えません。或いは悪霊が自決場所に人のいない場所を選んだのかもしれませんが……とにかく一般人の心配はいりません。
 時刻は夜。ですが、月明かりがあるうえに周囲には木々などもないのであまり視界の心配はいらないでしょう。

■『悪霊』
 元々は緋桜の作成者――だと思われる人物の怨霊です。永き時を経てその魂は変質し、正に『悪霊』と化しています。現在は黒き人型の靄となっており、虚ろながら女性の様に見えます。

 自らの記憶より創り出した『刀』を用いて近接の戦いを仕掛けてくるようです。
 刀を作る人物であり、振るう人物ではなかった筈ですが……しかし百を超える時を積み重ねた怨霊は重き剣筋を有しています。恨みつらみの蓄積が文字通り悪霊の力と成っているのでしょう。

 緋桜に対し、異常な執着を見せています。
 もう想った相手はいないのですが――しかしそれでも。寄る辺であるのでしょう。
 また、カナメさんに対しては隙あらば再び体の乗っ取りを試みています。この行動をとられた場合、一時的にカナメさんは能動的行動が不能となる、もしくは文字通り操られる可能性があります。ご注意ください。
 一方で鹿ノ子さんには殺意を抱いている様です――

 彼女は遥か以前の、死者です。
 現世に存在してはいけぬ存在に――終わりを、どうか。

  • 緋桜の想いぞ、消ゆる地は……完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月29日 22時25分
  • 参加人数2/2人
  • 相談6日
  • 参加費---RC

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(2人)

鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
カナメ(p3p007960)
毒亜竜脅し

リプレイ


 想いとは強ければ強い程力を与えるものだ。
 誰かを守りたいと願う心が一体どれ程の戦いを凌いで来ただろうか。
 誰かを想う気持ちは時に――常の自分を凌駕する力を与える事があるのだ。
 しかし。
 時に想いは負の要素でも強き力を宿す事がある。
 それはまるで泥の奥底に沈むかのように。誰をも逃さぬ地獄からの手であるかのように。

「――あれが、カナの中にいた人。緋桜を作った人……」

 『二律背反』カナメ(p3p007960)の眼前にあるは先程まで己に取り付いていた正に『負』の象徴。
 緋桜の作成者の怨念。遺恨。魂……なんと表しても『悪霊』の類としか言えないだろう。
 触れていなくても感じられる棘の様な感情。
 ――ああ、なぜ、どうして。
 事情は知っている。緋桜の鍛冶場とも言うべき場所に訪れた時に『知った』のだから。
 でも。
「今更手放せないよ、今までずっとこれと百華で戦ってきたんだよ! もう……馴染んでるんだ!」
 幾度もの戦いを超えてきた。二振りの刃で、二振りの想いで。
 今更に製作者だからと出張られてもなんだというのか。如何なる無念があろうとも――自らの身体に憑りついて、ましてや自殺を試みるなど冗談ではない! そんなモノに付き合う義理はなく、強制される謂れもないのだ!
『アアア……小賢しい……! 私、ワタシ、わたしが、死ヌのだから――!』
「おーおー全く。事情はよく分からないッスよ、でも」
 怨念の雄叫び。それでも好きにさせるものかと『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)も構える。
 カナメの持っている緋桜……刀が何か事情に絡んでいるような様子は察されるが、詳しい事までは鹿ノ子は知らない。あくまでも彼女はカナメの様子がおかしかったからその後を追っていただけだから。
 それでも。
 カナメがピンチなのだ。ならば奥底にある事情などどうでもいい。
 例えば何か事情があったとしたらカナメを助けず見捨てるか――?
 否! そんな事はあり得ない!
「ひとの妹を巻き込まないで欲しいッス! 死ぬならどうぞ一人で存分に死ぬッスよ!」
『アッ、あ、アアアアアッ――!!』
 拒絶の意思を指し示した事が闘争の始まりとなったか――怨霊は甲高い声と共に突進す。
 黒き靄は憎悪の証。人型であり、朧気ながら女性の様にも見える存在は長き刀を一閃――直上より振り下ろせば砂浜を『割る』
 剛力。とても元が刀を造る者とは思えぬ一撃だ、が。
「お姉ちゃん――一緒に行こう!」
「勿論ッスよ! 死者だろうと関係ないッス……動いてるなら必ず止められる筈ッスから!」
 戦う意思を決めた二人が恐れる事などあろうか。乗り越えられぬ困難であろうか、この程度が!
 一撃を躱した二人は付かず離れずの距離から怨霊へと一直線。聖なる加護をカナメは己が身に降ろしつつ、鹿ノ子は精神を研ぎ澄まし敵の死角を見据えんとするのだ。
 幽霊だろうが死者だろうが関係ない。悪意を持ち、所詮魔物の枠組みならば倒しようがある。
『ヌゥ、アアア――! どうして、ドウシ、テ!』
 意味不明な言を紡ぎながら怨霊は二人を分断せんと更に一撃。
 どちらかといえば――狙いはカナメの方に寄っているか?
 しかしそれならそれで戦いやすいともいえる。守護の力を宿したカナメは防の力が蓄えられており、そうそう簡単に落ちる事などない。そしてカナメへと意識を寄せているのならば、その動きに呼応して鹿ノ子が背後の方へと跳躍。
 ――挟み撃ちの形だ。
 如何に膂力ある刀を振るう事が出来ようとも、前後から攻撃されれば本調子とはいくまい。姉と連携を行いながら鹿ノ子はふと、言葉を紡いで。
「何が理由で死んじゃったとか」
 どんな未練があるとか。
「深い事情はあるかもしれないッスけど――いつまでも人の妹に執着するのはカッコ悪いッスよ!」
 同時。鹿ノ子が降り注がせるは――数多の流星が如き剣撃。
 天より落つる幾多の涙の如き一撃が怨霊の身を刻むのだ。


 カナメは――不謹慎かもしれないが、ほんの少しだけこの状況に高揚していた。
 敬愛すべき存在と共に戦っている。それになんの不満があろうか。
 やはり……ああ、そうだ。
「カナは……これからもお姉ちゃんと一緒にいたいんだ……!」
 二人一緒なら決して負ける筈がない。怨霊如きに何を恐れようか。
 奴が振るう剣閃――しかし冷静に観察すれば、力に比べて技術はそうでも無いようだ。
 見える。白き刃の百華にて、受け流し無防備な敵の腹を――一閃。防の力をそのまま攻と成し斬りつけるのだ。特に相手が攻撃した後は隙が多くて。
「いいッスよカナ――このまま押し込んでいくッス!」
「うん、お姉ちゃん!!」
 前と後ろから阿吽の呼吸。流星が如き煌めきと、信ずる心から放つ一撃は隙が無く。
 怨霊が放つ剣撃は重けれど、芯が無くば捌くも可能。
『アァ……アアアッ!』
 そして怨霊の呻く声は――二人の連携を見るたびに激しくなっている。
 なぜ、どうして、貴方達だけ心が結ばれているの。
 私は願っても届かなかった。望んでも奪われたというのに――
『許せない』
 殺す。殺してやる。
 怨霊が抱いていた妄執は最早変質しているともいえるか――この二人を許してはおけない、という有り様だ。元々は愛し人がこの世に居らぬという事に気付いて逃避故の自殺が根源であった筈だが。
 それすら忘却したか。
 抱く殺意は――ああ鹿ノ子の方を優先して。
『許せな、ァ、イッ』
「来るッスか……! カナ、ちょーと援護頼むッスよ!!」
 突如として鹿ノ子の方を振り向いた――と思えばほぼ同時に刺突の一閃が突き走った。
 ただ単純に刃を突き出すだけの動作、であるが故にこそ鋭い。
 鹿ノ子の肉を抉る――一撃に終わらず二と三と続けるつもりか。カナメよりも先に鹿ノ子を始末せんとして。
「何してるのッ欲しいのはカナの体でしょ! 来てよ、逃げも隠れもしないから!」
 ならば姉を傷付けはさせまいとカナメが声を張る。奴の注意を此方へと引き付け、攻撃の勢いを分散させるつもりなのだ。本来ならば相手を上から目線で煽り視線を釘付けにする事が多い、が。今宵は異なった。
 素早い一撃の後に放つ視線に挑発の色はない。
 お姉ちゃんはやらせない――ッ! 強き意思と硬き決意だけがそこに在って。

『ナラ――貴方の身体をちょう、だい』

 怨霊……或いは怪物の視線がカナメへと向く。
 赤き血涙を流しているかのような形相。しかしそうは行くか――即座に構えた迎撃の構えは、慣れ親しんだ蝕ノ型で――
「あ、れ?」
 だが、いつもの『感覚』に成らない。
 二撃を一つとし、呪いを送り込む斬撃の秘術、紅シ雨。
 いつもであればまるで『何か』に操られるかのような感覚で繰り出す事が出来た筈なのに。
「――まさか」
 今までは。
 貴女がやっていたというの?
 緋桜に怨念として憑りついていた貴女が、経由して――
「ぅ、ぁ! 体が、動かな……あ、意識が……、……っ」
「カナ!!」
 油断――と言うよりは上手く剣撃を繰り出さなかった事による『空』を狙われたか。
 怨霊に再び体を乗っ取られんとする感覚がカナメを襲う。
 意識が上書きされるような、或いはどかされる様な不思議な感覚。自分が自分でなくなり、目前の景色がぼやけるような――感覚。脳髄を埋め尽くす『負』の感情が、カナメの総てを塗りつぶし、て。
「しっかりするッス!」
 その時。
「カナはカナッス! 僕の大切な大切な片割れ! 思い出すッス!!」
 全身に感じた暖かな感覚は――お姉、ちゃん?
 鹿ノ子がカナメを抱きしめている。強く、強く。軋む程に。
 自らの事を忘れたりなんて出来ないように。

「――悪霊なんかに負けちゃだめッス!」

 ああ……なんという暖かい抱擁なのだろうか……
 お姉ちゃんがハグ……ハグ、は、ぐ? ほああぁぁぁ! やば、推しに、抱きしめられっ!
『ヌ――ァア!? なに、この、力、は……!?』
 顔近、髪もサラサラでいい匂いで……あ、シャンプー変えたのかな? 前の記憶に残ってるのは淡くハーブ的な匂いがする感じだった気がするんだけど今はほんのり柑橘系の匂いが良くて、ほあああああ!! 体温が! いや、これは! これはお姉ちゃんの心臓の鼓動も感じて……
「推しが! ゼロ距離! ふあ、いい香り!!」
 尊い! カナメの内から湧き出るパワーははたしてなんと形容すればよかったのか。
 だが確実な事は一つ――鹿ノ子の抱擁がカナメに尋常ならざる活力を与えている事。
 負けるもんか! 推しの声に応えなくて何がファンだよ! 絶対負けない!
「悪霊になんかぁぁぁぁカナが負けてたまるかあああああああ!!」
 怨霊の絶叫が聞こえた気がした――と同時、カナメの視界が正常へと巻き戻る。
 意志を塗りつぶさんとした乗っ取りだったからこそ、意思の力で対抗する事が出来たのか。再び黒い靄として戻った怨霊だったが……しかし動きが鈍い。どうやら洗脳の失敗によって大きく体力を消耗したのか?
 まぁなんにせよカナメが自分を取り戻せたようで何よりである……! いざとなればちょっと荒療治で、こう太刀の、こうこの部分で何回も額を叩く必要があるかと鹿ノ子は思っていた。ちょっと痛いかもしれないがカナにはむしろご褒美だから大丈夫だろうと! うん!
『ドウシ、どうして、どうしてソンナに――!!』
「ああもう煩いッスねいつまでも『どうして』とか『なんで』とか!!」
 ともあれ。
 私だけはそうなれなかったのと、羨むのはご勝手だが。
「どれだけ他人を、自分が成し得なかった事を羨んで力を得ても!
 生きた人間の輝きに勝るものなどないッス!! 僕ら姉妹を――なめないでほしいッス!」
 鹿ノ子は断ずる。
「道連れがいないと死ねないくらいの覚悟なんて捨ててしまえッス!
 捨てられないなら……僕らがその未練断ち切ってやるッス!」
 何かを成すのは、たとえ一瞬の煌めきだったしても。
 『生きている』人間だけの特権なのだ。
 死人がいつまでも駄々をこねて――妹に寄り付くなッ!!
「カナ、もう大丈夫ッスよね! 最後にもうちょっと……頑張るッスよ!!」
「――うん!!」
 二人が駆ける。
 緋桜よ――憑りつきし、人よ――
 ……カナが知ったらいけない事を知ったから、あなたがそんな風になったのかもしれない。もしかしたら知らないままであったのならば――あなたが目覚める事もなく、ずっとそのまま共に入れたのかもしれない。
 だけれども。
「カナは死ねない」
 だって。
「お姉ちゃんを残して死ぬなんて絶対にイヤだ!」
 だから、お別れ。
 ……あなたをここで消すのが、カナの心からの『ごめんなさい』だから。
「行こうお姉ちゃん! 二人一緒なら絶対に負けないもんね!」
 私はあなたとではなく。
 お姉ちゃんと――歩んでいく!

 交差するは二つの刃。怨霊は刀を構えれど、もはや力無きその身でどう抗えようか。

 降り注ぐ数多の流星の如く。天より落つる幾多の涙の如く。
 止まらぬ連撃を。そして追撃を――どうして身なき亡霊如きが! 抗えようか!
「消えて……無くなれッス――!!」
 露を掻き消す斬撃が奴を襲い――
 そして消えていく。
 靄が空へと駆け上るかのように、声なき声を響かせて。
 生きる意志の光に――掻き消されるかのように。


「はぁ~……まったく、カナを追って来たらまさかこんな事になるとは思ってもなかったッスよ」
 すっかり静寂を取り戻した砂浜に鹿ノ子は座り込む。いやまさか様子のおかしい妹を追ってたら怨霊が出てきて、しかもそいつは妹を乗っ取ろうとしていたなどとどう予測すればいいというのか。
 まぁなんにせよ奴の気配は完全に消えた。
 もう一度カナメの前に現れたりする事はないだろう――と思考していれば。
「うわ、と! な、なんスかカナ!」
 背後より襲来せしは件のカナメだ。飛び込む様に抱き着いてきたカナメの顔は見れない。
 強く抱きしめられる鹿ノ子――些か困惑していれば、やがて紡がれた言葉は。

「……お姉ちゃん、ありがとう! 大大大、大好き!! 世界で一番だーい好き!」

 感謝と敬愛の――言葉。
 表情は未だ見れねども、どんな顔をしているかはなんとなく分かるものだ。
 あぁ全く。
「カナは、世話がかかるッスねぇ……」
 天を見上げれば月があった。耳に聞こえてくるのは、穏やかな波の音。
 もう少し。ほんの少しこのままでもいいかと――想うばかりであったとか。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 どうか別たれる事無く、幸多きお二人でこれからもありますように……

 リクエスト、ありがとうございました。

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