シナリオ詳細
つみなきけもの
オープニング
●少年と母、研究員
檻。それは自らを閉じ込める暗き箱の名前。それを知っていた。
自分の爪は皆の柔らかい皮膚を切り裂く。
歪に伸びた牙は肉を喰い破りやすいように出来ている。
強靭な脚は走ることや跳ぶことが得意だったし、暗闇の中でもはっきり見える瞳は誰も居ない部屋をしっかり映していた。
(おかあ、さん)
微かに唇が動く。手を伸ばす。手首につけられた枷と鎖が重く身を虐げた。
どうして、自分はここにいるのだろう。バートは思い出す。
『バート、少しいいかしら』
母の柔らかい声。今まで自分を罵っていた声とはまた違う、優しい声だった。
『あなたは今からこの方に協力するの。…お母さんとは違う場所に住むことになるけれど…バートはイイコだもの。お母さんが迎えに来るまで我慢できるわね?』
それにどう答えたのだったか。…そう、バートは頷いたのだ。母が自分をお金で売り、妙な薬の実験台をさせようとしていたなんて、その時は知らなかったのだから。
それからの生活も、酷い物だった。妙な薬は自分の身体を蝕み、姿を変えるものだったのだ。
まず、身体中にもっさりと毛が生えた。口からは大きな牙が二本伸び、爪が鋭く固くなった。脚は強く走れる獣のようなものになる。
その姿はまるで肉食獣か何かのようだった。与えられる食事は生肉が一切れ。獣の姿になったバートにはそれは足りず、腹を空かす日々を過ごした。
空腹のままだと、どうなるか。自分をこんな姿にした研究者の姿が美味しそうに見えるようになった。
『だめだよ、人は美味しくないよ』
そう自分に言い聞かせる。研究員の男は自分が食事に見られていることに気付かず、何かの数値を紙に書いていた。
僕は、いつまでここに居ればいいの。そう研究員に聞いた。
『お前は母親に捨てられたんだよ。だから一生、私の実験道具だ。残念だったな』
(一生、っていつまで?ずっと?…ずっと、ここにいるの?)
そんなの、いやだ。おかあさん、おかあさんにあいたい。
(おなかもすいたもん)
バートは思いついた。この人を倒して、おかあさんに会いにいけばいいんだ。
(おかあさんは、僕を笑顔で、受け入れてくれるよね? ふかふかのお布団で、休ませてくれるよね? お腹いっぱいのごはんも、ほしいな)
あぁ、きっと。頭の中で笑顔の母を想像してバートは自分を繋ぐ鎖を千切ろうと、引っ張った。
●けもの
たしん、っとラビ・ミャウは尻尾で机をたたいた。
「…バートはこれから研究者を殺して食べた後、母親も殺して食べる」
もぐもぐっと。それから?お腹が空いた獣がどうするかなんて、決まってる。
「町の皆も、もぐもぐするんだよ。まぁ、何れ退治されるだろうけどさ。…まぁ、それはちょっとかわいそうだと思わない?」
母親に売られ、妙な薬のせいで獣になり、退治される。
「まー、母親も元々虐待とかしてたみたいだから因果応報じゃんって思うけど。そうお前たちが思って行動するなら別に構わない」
助ける、助けないは自由だ。研究者のことも。
- つみなきけもの完了
- NM名笹山ぱんだ
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年10月21日 22時25分
- 参加人数4/4人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●つみなきけもの
普通の、穏やかな町だった。これから起こる少年が起こすことなど誰も知らない。
この町の研究所で行われていることなんて誰も知らないのだ。
(我輩、これから酷い事をするのであるな)
曇り空を見上げボルカノ=マルゴットはそう思う。だが守られるべきは平穏であり、これからも続く日常。
例え、小さな悲しみがあったとしても――。
忍び込んだ町の奥の研究所の檻から抜け出す黒い影をイレギュラーズは見逃さなかった。
「ストーップ!それ以上いけないのである!」
ボルカノが黒い影の前方を制する。影の姿は黒き獣のようだった。しかし丸くて穏やかな瞳が理性を宿していることに気付く。
「おじさん、だーれ?僕は、おかあさんに、あいにいくんだ」
口から出る言葉は幼い少年の声。間延び口調は警戒をしていなかった。
少し離れた場所に立っていたメリー・フローラ・アベル、そよ、ロウラン・アトゥイ・イコロの2人についても獣の少年は気付いていない様子で首を傾げる。
「今のままでは、バートくんはお母さんに会えないのであるよ」
「え、なんで?おかあさんぼくのこと、きらいになっちゃった?」
「うむ、それは違う。…会えるようにしてあげるのである。目を閉じて、お母さんの事だけ考えるのであるよ」
心細い少年、バートの言葉に安心させるように頷き、ボルカノは気付かれないように素早く、呪いを纏った爪でバートの首を絶った。
「…あれ…?」
不思議そうな声を出しながら、バートはその場に崩れ落ちる。ころりと頭が転がった。床へ零れたのは赤黒い大量の血。近づいたのはそよだ。そっと獣の身体を抱く。
可哀想な、痛々しい獣。倒すことに理解はしている。
(結局…充足する終焉に結びが付けれたらいいと思うから)
小さな体は幼く、栄養が不十分だ、ということが理解出来た。今それを知ったからと言って、どうすることも出来ないけれど。
抱いている身体は冷たくなっていく。命を無くした身体は固くなりやがて腐る。亡骸はせめて、町の墓地に葬ろう、
(来世にお母さんと会えますように……ただの欺瞞だけれど)
おまじないをしよう。そよは転がった頭に触れ、瞼を閉じさせた。
いざとなれば攻撃をしようとしていたメリーもバートが大人しく命を無くしたことに小さく息を吐く。
(別に町の壊滅を防げとは言われてないし、どうなろうと知ったこっちゃないわね)
酷なことを思っているのかもしれない。だがメリーの思考はバートではなくその母親へと移っていた。
言葉を交わすことなく、逝ってしまったバートの姿を見て、ロウランは心を痛めていた。
出来るなら話をして、バートの言葉を聞きたかった。彼の意志と母親の意志を確認したかったのだ。
もうそれは出来ないが――。ただ、言えることは母親はこの獣をバートだと認めやしないだろうし、結局のところ、修復出来やしない程親子の意志はすれ違っていた、ということだ。
●研究者の話
彼はこの研究所の研究員である。若いながらも功績を出し、この研究も一任された。
そう、『人の身を獣に変える』研究である。これは他の研究で使われていた薬の副作用から出来た研究ではあったが、有用性が確認された為人体実験を行えることになったのだ。
検体はとある女から買い取った少年だった。少年は女――母親に会いたくて実験に協力的だった。
薬を投与した次の日から始まった変化に笑いが止まらなくなる。これは、素晴らしい研究だ。人が、人以上の力を持つようになる。これからの研究に役立つだろう。
少年で成功したから、次は成人済みの人間に試さなければ――。
「…何?脱走した?」
それを研究者に教えたのは見知らぬひとたちだった。
イレギュラーズ達は伝える、檻から脱走した少年を殺したのは自分たちだと。
このままだと町の住人も危なかったし、何より研究員だった彼も危なかった、と。
「獣の姿をしていたとしても、喋れる以上人の知能を想定するべきである」
ボルカノは研究者に言う。それには研究者も同意をして頷く。
「確かに。子供だと思って油断していた。…空腹か、確かに獣でも食料は必要だな。次の実験から考慮しよう」
満足げに頷く研究者にボルカノは続ける。
「…この実験、続けるかわからないであるが、次は本当に死んじゃうのであるよ?」
「忠告、感謝する。だが私は続けなければいけない。この実験が、研究が、変革をもたらすために、っ――?」
研究者の足元を打ち抜いたのはロウランの魔弾だ。
「…聞きたいことがあります。その薬の効き目は何時間くらいなのですか」
正直に言わないと次は頭です、と表情変えずに研究者に問う。
「ひっ!? お、驚いたな…、いや、効き目の時間だと? そんなもの無いに決まってるじゃないか」
投与すれば、投与するだけ、人から離れていくだけなのだから。効果時間等無いに等しい。
ただ身体の急激な変化によるショック死を防ぐため一度投与すれば時間をおかなければいけない。
バートが死んだ今、こんなことを聞いても意味が無い事をロウランは知っていた。だが知りたかったのだ。
その結果は救いのないものだったが。
「君たちは勘違いをしているようだが、最初にこの薬を作ったのは私ではないし、この薬の研究を推し進めているのは勿論私ではない」
おわかりだね、と研究者は笑う。
領主や神官に言ったとしても、意味のない事なのだと。この町の法律で彼は裁けるものではないのだ。
そよはぎゅ、っと大きな拳を強く握った。
聞くに堪えない話が続く中、メリーは小さく息をつく。研究者の男の独白など、所詮どうでもいいのだ。
●おかあさん
(人の売り買いに人体実験なんて、酷いこと)
ロウランはバートの母親の家に着くまでぐるぐると考えていた。自分がどう行動すればよいか。母親を断罪するのは簡単。傷つければいいのだから。
「親が子供に“反抗”するなんて許せないわ。親は子供の奴隷であるべきよ」
メリーはそう呟く。子供を傷付けるなんて、ムカつく――、そう、それはメリーの感情のみの行動だった。
(ムカつくから苦しめて殺してやる!)
内心はそう思っている。だが仲間達は優しいから殺す必要は無いと言っている。だから命だけは取らない。命だけは。
ボルカノはバートの首を抱き、母親の家のドアをノックした。
「はい、どなたかし…え?」
身なりの綺麗な女性だった。人だった時のバートを見ていればそっくりと、そう思ったのかもしれない。
「バートくんに約束したので、持ってきたのであるよ。受け取ってくださいな」
「なに、バートって、何を言って…きゃあ!何、これ、動物の首じゃない!」
ボルカノの差し出した息子の首を振り払い、地面へと落とす。
「…あなたが売ったものの成れの果てだ」
「何を言っているのか…、こんな気持ち悪いものを持ってきて、貴方達、なんなの?」
女は訝し気にイレギュラーズ達を見る。ロウランは小さく息を吐く。悲しい。バートはあんなにも母親に会いたがっていたのに。
母親は息子の姿すらわからないのだから。
「私に母の記憶はないですけど、母を恋しがる子を無碍にする気持ちだけは納得出来ません」
女は意味の分からない、そんな顔をしたけれど――。それでもロウランは言いたかったのだ。
そよはそっと落ちた首を抱く。この首も、身体と一緒に葬ろう、とそう思う。会いたかった母親に会えたのだ、彼の願いはもう、叶ったのだ。
だから、もう――、安らかに。
メリーは女の足を狙い、払う。転ばせば腕や脚、胸、顔、至る所を針で刺す。
「ひっ、いたい、いたっ、やめっ…何をするの――!」
「痛い?…それを聞いて、あなたは止めたのかしら」
子供の声が分からない耳なら、潰してしまおう。耳の穴に暗殺針を突き刺し、鼓膜を破り、両耳を壊していく。
「あ、あああああああああああっ」
聞くに堪えない叫び、痛みに泣き叫ぶ声にメリーは続いてその両目にも針を突き刺す。ぐちゅり、生暖かいものが潰れた。
流石に静止の声が他のイレギュラーズ達から聞こえたが気にしない。
「子供のことを抱けない手も、歩み寄れない足もいらないわね」
手と足も、完全に動かなくなるまで何度も、何度も突き刺す。
「…優しい仲間のお陰で、助かったわね。その状態で生かしておいてあげる」
死んだ方が良いと思える苦しみの中、これからを生きる。それは生き地獄に等しい。
満足げにメリーは微笑み女から離れたのだった。
つみなきけものは、居なくなった。
これで誰も、傷つかない。―――はずだ。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
●こんにちは、笹山ぱんだです。
今回することは
●バートをどうするか
●研究者をどうするか
●母親はどうするか
を決め、行動に移すこと。作戦がばらばらだと、町が壊滅します。
●世界は西洋ファンタジー世界。
今回登場するのはとある町のとある研究所。
研究所では人と獣の関係を実験していたようです。
イレギュラーズが到着する場所はバートが脱出しようと鎖を引きちぎった瞬間の檻の外です。
●バート
8歳の少年。薬のせいで大きな牙が生えた黒い虎のような姿をしています。喋れます。
おかあさんが好き。研究員の男は嫌い。
穏やかで優しい性質を持つ。しかし獣の性はもうすぐ理性を壊してしまうでしょう。
●研究者の男
20代後半。バートのことは人間だとは思っていません。獣の姿をしているし。
運動能力や血液検査、獣になった後の彼の知性の変化や性質の変化を確認している研究熱心な男です。
●母親
研究所のある町に住んでいるバートのおかあさん。
ヒステリックで良くバートを殴ったり蹴ったりしていた。お金に目をくらみバートを研究所へと売りました。その為少し生活が良くなりました。旦那は居ません。
好きな男の面影を持つバートのことは苦手。バートにどんな研究が行われているかは知らないし、今のバートの姿を見ても認識は出来ません。
●妙な薬
人を獣へと変える薬。どうやら最初は別の薬を作る予定だったようだが、その過程で生まれた副産物のようです。
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