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シナリオ詳細

≪忘却の夢幻劇≫黒蛙亭の一夜

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●逃げる貴婦人と侍女
 何処まで行っても終わりのない森の中、貴婦人と侍女は駆けていた。突然の襲撃により護衛は全滅。命からがら逃げだして獣道を走り続けることどれだけか。追っ手は撒いたようだが、勝手知らぬ森の中、体力は尽き、戻るに戻れず、進むに進めず。
 やがて、疲れ果てて、立ち止まり、座り込む。
「奥方様、お体、大丈夫ですか……」
 侍女がそっと水の詰まった革袋を差し出せば、貴婦人は息を整えてから少しずつ水を飲む。
「ええ、わたくしは大丈夫です。心配なのは、この先のこと――何処ぞに旅籠があれば、傭兵を雇って先に進めるのですが。剣も持たぬ女二人が森を行くのは無謀というもの」
 ふいに、遠くで獣の吠え声がし、二人は身を縮めた。
「奥方様、このままでは」
 貴婦人と侍女は顔を見合わせる。
「ええ、このような場所で獣の餌になるのはまっぴら御免です。前言撤回。危険なことには変わりがありませぬが、先に進みましょう」

 肩を寄せ合って、森を進む二つの人影。獣の吠え声と風の音に怯えながら進む二人の道を照らすのは、月星の微かな灯りのみ。

「奥方様っ、灯りが――」
 何処まで歩いただろうか。月が傾いてきた頃、侍女が声を上げる。
 人の住む家特有の灯りが、煌々と道の先で輝いていた。思わず二人は疲れを忘れて駆け出す。
 やがてたどり着いた建物には一つの看板。そこには、『黒蛙亭』という文字が見えた。
「もうし、誰か――、我々は旅の者、一夜の宿を頼みとうございます」
 貴婦人が声をかければ、ぎい、と音を立てて立て付けの悪い扉が開く。皺だらけの手が二人を招き入れる。
「おお、これなら蛙様も満足されるだろう」
 老人の声は扉の音にかき消えて、二人に聞こえることはない。 ぎい、と扉が閉まる。空には雲が現れ、月の光は隠されつつある――。

●怪しき宿屋の一夜
「今回行ってもらうのは、剣と魔法の世界だ。〈混沌〉と変わりない? 確かに、今の一言だけではそうかも知れんな」
 境界案内人、『学者剣士』ビメイ・アストロラーブは一冊の古い本を取り出し、皆に見せた。何の獣のものかわからぬ暗い革の装丁に、掠れた箔押しが微かな金色で文字を書いている。
「舞台は『忘却の夢幻劇』、勇士の剣が全てを定め、盗賊が闇の中を舞い、妖術師が禁断の術を紡ぐ世界。神々はおおむね非情で、怪物も数多。ありていにいって〈混沌〉よりも野蛮な世界だ。その一方で様々な神秘的な景色や出会いもある。退屈はしないと誓うよ」
 ビメイは片眉を上げて続ける。
「無論、ただの観光旅行では、ないがね――森の中にある、奇妙な宿屋に泊まってもらいたい」
 ぽん、と机に置かれた本のページが捲れ、挿絵が現れた。
「いつ現れたかわからぬ宿屋というだけでも怪しいのに、時折客が行方不明になるという話だ。しかも面倒なことに今、旅の貴婦人と侍女が道に迷ってここに泊まっているという。そして、宿の主人はその実邪教の信奉者で生贄を求めている、という寸法だ」
 ページが更に捲れて、別の挿絵が現れた。古風な装い――ひだの乱れた一枚布の長衣を身に着けた女性と、侍女が心配そうな表情を浮かべている。
「君達の使命は、この謎の宿屋から貴婦人を救い出す――以上だ」
 そうして、ビメイは出来るな? と言いたげな表情で皆を見た。

NMコメント

 神秘と怪奇の『忘却の夢幻劇』へようこそ! ろばたにスエノです。
 いかにも怪しい宿屋に泊ってしまった貴婦人と侍女を助けましょう。

●今回の舞台
 闇深い森の中にある謎めいた宿屋、『黒蛙亭』です。
 今は使われなくなった森の中の街道に、ぽつりと立っています。まっすぐと街道を進めば、(道こそ荒れていますが)半日歩けば、豊かな穀倉地帯へと出ます。
 分かる範囲内では二階建てで地下室があります。一階は酒場、二階が寝室となっています。痩せた老人が一人で切り盛りしています。食料品等があまり届かないのか、酒と料理はあまり美味しくありません。
 貴婦人と侍女が泊っているのは二階の一番奥、森がよく見える一番いい部屋です。
 『黒蛙亭』に関しては僅かにこのような噂が伝わっています――『森の中の旅籠に気を付けろ、あれは化け物の宿、蛙の餌食になりたくなければすぐ逃げろ』
 
●NPC
 ・貴婦人:サリューラ。20代前半の女性、穀倉地帯を治める領主の妻です。都市で開かれる宴に出た帰り道に、盗賊の奇襲に合い護衛が全滅。侍女と二人で森を駆けていた所、『黒蛙亭』を見つけてそこに一夜の宿を取りました。戦闘能力はありません。
 ・侍女:アダ。16才を過ぎたばかりの娘です。サリューラの信頼あつく、普段から側に付き添っています。お茶をいれるのが得意で、すばしっこいですが、戦闘能力はありません。
 ・老人:痩せています。名前は分かりません。濃灰の長衣を身に着け、首からは黒水晶で出来た太った蛙の飾りを下げています。妙な香の匂いもします。正直宿屋の主人といった雰囲気はあまりしません。その正体は蛙の魔神を信奉する妖術師で、貴婦人と侍女を生贄に捧げようとしています。多量の蛙を操ることが出来ます。毒を盛った蛙もいます。大きい蛙もいます。形勢不利と見たら魔神を召喚しようとするやもしれません。ですが本人の戦闘能力は高くありません。接近戦に持ち込めばあっさりと沈むでしょう。

●目標
 貴婦人と侍女を無事に宿の外に連れ出すこと。老人の討伐等はサブ目標です。ですが、老人は新しい生贄が来たとあなた方を『丁重に』もてなすことでしょう――。

  • ≪忘却の夢幻劇≫黒蛙亭の一夜完了
  • NM名蔭沢 菫
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月11日 22時20分
  • 参加人数4/4人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
紅楼夢・紫月(p3p007611)
呪刀持ちの唄歌い
Binah(p3p008677)
守護双璧
リィン・リンドバーグ(p3p009146)
希望の星

リプレイ

●四人の仕込み
 暗い森の中、『黒蛙亭』を遠くから見ながら作戦を確認し合うのは、四人の<特異運命座標>。
「ははあ、宿屋の主人が実は……といった内容ですね」
 合点がいった、と不敵な笑みを浮かべたのは『(((´・ω・`)))』ヨハン=レーム(p3p001117)。
 それに合わせてこくりと頷くのは『希望の星』リィン・リンドバーグ(p3p009146)。長い袖をひらひらさせながら、腕を組んでいる。
「知ってしまった以上放っておくわけにもいかない。――というわけで、ご婦人達を助ける手筈の相談をしておきたいのだが、いいかな」
 了解、と言いたげにヨハンの猫耳がぴくぴくと動く。作戦を練り合うヨハンとリィンの横で、どこか退屈気に空を見上げるのは、彼岸花の華が絡みついた髪の、六翼の娘――『呪刀持ちの唄歌い』紅楼夢・紫月(p3p007611)。
 ――妖術士ねぇ、いつの世も生贄を求め様とするんはよくあるんかねぇ。
 彼女は、そのようなことを思いながら、武具の確認をしている。

 月の光は雲に覆われ届くことはない。星の光もまたしかり。
 しばらくの会話の後、『守護双璧』Binah(p3p008677)が改めて作戦を確認するように皆に問う。
「僕は、サリューラ貴婦人と侍女アダを護れるよう、しっかり戦闘で護衛役としてがんばります。他の皆さんは……」
「私も戦闘班やねえ。大して愉しめそうも無さそうやけど、まぁやれるだけやるかねぇ」
 紫月が僅かな溜息と共に、刀の柄を叩く。
「僕はサリューラ貴婦人への交渉を受け持ち……」
 ヨハンの言葉を継ぐように、リィンが頷く。
「僕は客として宿の主人の目を引いておこう」
 そうして四人は目配せをする。作戦は整った。後は実行のみ。
「この世界全ての救済ともいきませんが、目の前の邪悪を放っておいて帰るのも後味が悪いでしょうし。黒蛙亭の営業も今日で店じまいといきましょうか!」
 ヨハンがびしり、と指さす先は『黒蛙亭』。果たしていかなる敵が待ち受けているのか――。

●客達
「おうおうこれは、沢山の旅人さんで……。今宵は空も暗い。道に迷われましたかな?」
 痩せこけた灰衣の老人が、四人の客の姿を見てにたり、と笑う。ここは『黒蛙亭』、悪しき噂の伝わる魔性の宿。老人は笑みを浮かべたまま、首からかけた黒水晶の蛙像を大事そうに撫でた。
「ああ、我々は山に薬草を採取してきていたのだが、迷ったのだ――というわけで、一夜の宿を頼みたい」
 外套を身に着けたリィンの姿はまさに薬草取りの少年、といった様子であった。老人はおやおやこんなに小さいのに大変なことで、とにたりとした笑みをさらに大きくする。
「部屋は一つで構いませんかな。今は先客が居まして一番眺めの良い部屋は埋まっておりますが、大部屋ならば空いておりますよ」
「それでお願いします」
 Binahが後ろから頷くのを見て、それではと老人は宿帳を四人に渡す。
「では、記帳を」
 順繰りに名を書いていく四人は、宿帳にサリューラとアダの名前が書かれているのを確認した。
「部屋は二階に入って一番すぐ、右の部屋となります。お疲れでしょうから、食事は後で運びましょう。それでは、ごゆっくり」
 老人――宿の主である妖術師は、笑みを崩さぬまま、四人を案内する。つん、と儀式めいた香の匂いは薄れることなく、灰衣が揺れるたびに、濃くなっていくようであった。

●貴婦人と侍女
 サリューラは寝台に腰かけ、窓から夜の森をずっと眺めていた。外は暗く、何かが見えるわけではない。それでも寝付く気にはなれなかった。食事にも手を付けられず、時折吹く風の音に体をすくめ、また夜の森を眺めるのみ。下の喧騒も耳に入らず、ただ、恐怖と緊張に支配されていた。
「奥方様――、あの、そろそろ休まれては」
「すまないこと、アダ」
 心配そうにアダは敬愛する女主人の方を見る。何時ものようにお茶を出したら、彼女は安心してくれるだろうか。
「あの、私、お茶の葉とポットがないか聞いてきますね!」
 飛び出そうとするアダであったが、ノックの音に気付き、立ち止まる。
「どなたですか……」
 恐る恐る扉越しに誰何するアダに、愛らしい声が返す。
「ああ、怪しい者ではありませんよ――なんていったら怪しさばりばりですが! 同じ宿に泊まったもので――まあ、いわば、用心棒のような者です、サリューラ様」
 突然のことに、サリューラとアダは顔を見合わした。

「つまり、わたくし達は……生贄にされる、と」
「呑み込みが早くて助かりますよ。そしてその生贄にされるのを止めて、街までエスコートするのが僕らというわけで!」
 最初は疑っていたサリューラとアダであったが、ヨハンの弁舌巧みな説得によって、状況を受け入れたようだ。ヨハンと共に来ていたBinahの立ち居振る舞いと紫月の得物を見て、ひとかどの使い手であると納得したこともあるのだろう。
「でもでも、……妖術師が相手となると、どこまでも追って来るのではないですか? 空を飛んだり、森で迷わせたり……そもそもこの宿屋から出るのだって、難しいのでは」
 アダはぎゅっと己の裳裾を掴む。不安を隠せない様子だ。
「ああ、その辺りの調整は僕の仲間がやっているので、大丈夫です。それに――サリューラ様、アダ様、二人は僕が絶対に護ります」
 Binahの真摯な表情を、これが最後の望みといわんばかりに、二人の女は見つめている。

●妖術師
「無事に策は上手く決まったようやねえ、リィン」
「無論だろう。しばらくはあの妖術師、ありもしない隙間風の出所を探っているはずだ。あの広さでは、探すのもしばらくかかるだろう」
 どんなものだ、とリィンは紫月に胸を張ってみせる。四人と二人の集団は、妖術師を部屋の調査に釘付けにしておく、というリィンの策のおかげで上手く彼を撒いて宿の外に出ていた。
「後は逃げる、前に……! サリューラ様、アダ様! 僕の側へっ」
 突如、殺気もなく――びちゃりと何かが落ちて潰れる音。それは雨。大小さまざまの蛙の雨であった。貴婦人と侍女は必死に身をかがめながら、Binahの陰に隠れている。Binahは優し気な顔立ちに決意の色をあらわに浮かべ、蛙から二人をかばっている。
「蛙程度が相手なんは正直つまらんねぇ。少しでも愉しめたらええんやけどなぁ」
 唄と共に斬撃が舞う。紫月の妖刀『紅蓮時雨』が蛙の雨を一体の獣相手のように切り刻み、動かぬ肉塊へと変える。
「あちゃー、気付かれてましたか。まあ、こっちも最初から倒すつもりなので何の問題もないのですがね!」
 不敵に機械の耳を動かしながら相手の次の出方を探るヨハン。その表情は理知を武器とする軍師のもの。
 奇妙な香の匂いが強まれば、いつの間にか蛙の雨は止み、そこに立っていたのは灰衣の老人。いつの間にか四人と二人の周囲を大小さまざまな蛙の群れが囲んでいた。
「今宵のお客様は生きが良いようで……蛙様も大層喜ばれることでしょう」
 妖術師が喉で笑う様子は蛙の鳴く様に似ており、それに呼応するかのように周囲の蛙らの鳴き声も強くなる。
「グッドイブニング! 騙し合いで僕と渡り合ったつもりでしょうかご主人!? こちらは遠距離近距離盾に僕、色々取り揃えた嫌な布陣ですよ!」
 びしりとヨハンが妖術師を指さす。その目に見えるのは勝利の道筋。
「戦闘態勢! オールハンデッド!!」
 全員を鼓舞するヨハンの掛け声と共に、<特異運命座標>らは妖術師と対峙する。

「所詮旅人風情、魔神に勝てるわけがなかろうて」
 人には意味を理解できぬような魔性の言葉で妖術師は呪文を唱え始める。蛙達を操るために、そして己の守護者たる蛙の魔神を呼ぶために。
「ふむ、老人が魔神を召喚する前に片を付けたいものだな」
 リィンは魔弾を放ち、老人の詠唱を邪魔しようとし――妖術師は忌々し気にリィンを睨む。
「ここは通さない、盾である僕が相手だ!」
 群がる蛙をあしらうのはBinahと紫月。Binahの名乗り口上は高らかに、決死の盾の構えを取り、サリューラとアダを護り続ける。何匹もの肉食蛙が腕に食らいつこうとするが、それを振りほどき、はじき返し、時折叩き潰す。その横で紫月は唄を紡ぎながら蛙達を斬る。鮮やかな蛙が毒液をまき散らして襲い掛かれば、ヨハンの術が毒を中和する――。

 妖術師は劣勢であった。故に、短剣を取り出し自らの胸に刺す。

「おお! 偉大なる膨れの主、我が守護者よ! 御身に我が血肉を捧げましょう――」
 叫べば大小さまざまな蛙らが寄り集まり、彼を食べ始める。血の臭いが広がり、どこからか禍々しい鳴き声が聞こえてくる。
「己を生贄に捧げて一気に儀式を進めるつもりかっ」
 Binahは短く叫び、側に居た紫月に目配せした。
「やらせはせんわぁ」
 遊ぶようであった紫月の殺気が増す。
「今だ!」
 ヨハンの手から放たれた稲妻の短剣が妖術師に襲い掛かる。痺れに妖術師の詠唱が止まった一瞬、紫月が間合いを一気に詰めた。
 変幻の一撃から続けて放たれるは外三光。妖刀『紅蓮時雨』が唄うように妖術師の首を落とし――。

 蛙の鳴き声は止み、悪しき気配は去った。

●そして夜は明ける
「被害は――ないようやねぇ」
「そのようですね」
 間延びした声で紫月は最後の蛙に止めを刺す。それを見ながらBinahは貴婦人と侍女を助け起こしていた。
「後は僕らが街まで送ります、サリューラ様、アダ様……立ち上がれるかい?」
 サリューラは一礼し、アダは少し頬を染めた。夜明けは近く、空は薄紫色へと変わりつつある。
「それにしてもあの老人は魔神に生贄を引き換えに何を得ていたのだろうな……」
 思案するリィンの呟き。屍は何も答えない。黒水晶の蛙像は壊れ、原型を残していない。
「大方、力が欲しかったという所じゃないかな」
 ヨハンが空を見上げ、肩をすくめる。

 かくして、『黒蛙亭』の一夜は終わりを告げたのであった。

成否

成功

状態異常

なし

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