PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ねこは、ねこはここにいます。

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 跳ねる、跳ねる。いつ跳ねる。ましろのねこはいつ跳ねる。
あるく、あるく。ましろのねこはいつ歩く。
どんなにかわいい見た目であっても、どんなに愛おしい姿をしてても。
けして近寄ってはいけないよ。けして、話しかけちゃいけないよ。
きっと、狂ってしまうから。

 深い深い闇夜の中で、無数の目玉がきらめいた。
終わらない夜の中で、無数の鳴き声がこだました。
みゃぁ。みゃぁ、みゃぁ。金切り声のように叫ぶそれらを恐れて、もはや人なんて一人もいない。
佇んでいるのはねこだけ。ねこと、真っ白な、人の形をした、ねこだけ。

「……だめですよ、こわがらせては。ねこと、ヒトはすみわけをすると決めたのですから。ねことヒトは関わってはいけないのですから。ヒトを呼んでは、いけません」

ましろのねこが他のねこを宥める。ましろのねこは他のねこ達のまとめ役だ。他のねこは言語を喋れない。だからこそねこが代弁し、話してやらねばならないし、ねこ達が我慢できなかった時、ちゃんと止めなければならないのだ。

――人はそれを巫女と呼び、またとある人は贄と呼ぶ。

少しだけおとなしくなったねこ達を尻目に、ましろのねこは膝を抱える。尻尾は垂れ下がり、耳はへたりと頭に沿う。そのまんまるな瞳から、涙がぽろり、と落ちた。誰にも、誰にも聞こえないように。そして誰とも目を合わせぬように、ぽつりと呟いた。

「……ねこだって。さみしいのに」

ボロ布のようなワンピースを濡らしながら、小さな体はいつまでも、いつまでもソコに佇んでいる。


 「井戸の中に猫の国がある。そんな怪談が、『賀虹町』で流行ってるみたい」

ポルックス・ジェミニが持ち込んだ依頼は、その井戸の中の調査だった。
賀虹町。イレギュラーズ達が二度ほど訪れた、怪異と日常の世界。不安定な世界なだけに怪談も、うわさ話も真実に変わりやすいという特徴を持ち、事実色々と不思議なことが連日起こったり、起こらなかったりしているらしい。

「猫の国。これは本当、なんだけど……。皆が思っているのとはちょっと違うの」

実態としては井戸の中に猫の形をした怪異を閉じ込めている、という方に近いらしい。基本的に直接人を襲ったり、害をなすことはないが存在自体が人を狂気に誘ったり、マイナスの感情を猫たちが持つ時に強く悪影響を与えたりするため、遠い昔に隔離されたようだ。けれど、最近動きが活発になっており、もしかしたら外へと出てきてしまうかもしれないのだという。

「出てきたら大変なことになっちゃうし。それに……。ううん、きっと、見て、会ってもらったら理解るよね」

言いかけた言葉を飲み込み、ポルックスは首を振って話を続ける。沢山のそれらを指揮する上位個体が一人。恐らくその中では一番知性を持つ怪異であり、もしかしたら話が通じるかもしれない。只人ならば受けてしまう猫達の精神汚染も、イレギュラーズであれば気にしなくてもいい範囲であることだし。

「なんとか、穏便に済ませたいの。……お願いできるかしら?」

出来るのならば、話し合いをしてきて欲しい、と。ポルックスは頭を下げた。

NMコメント

はじめましての方ははじめまして、またお会いした方はお久しぶりです。
金華鉄仙と申します。
寂しい誰かに、声をかける依頼です。

●世界観
 基本的には日本と同一ですが、一般の人々から隠れるように、怪異や妖怪といったものが住んでいる世界になります。語られることにより噂が真実になったり、忘れられることによって人が消えたり。そんなことが起こる世界です。
前作のライトノベル、『ゆめみるままに待ちいたり。』『鬼が不在の隠れんぼ。』と同一世界ですが、関連性はほとんどありません。
今回の舞台は小さな町、『賀虹町』(がぐちょう)にある井戸の中になります。
井戸は放棄された神社の内部に存在し、相撲取りが中には入れるぐらいには大きいです。
奥には地下空間が存在しており、なにもないがらんどうの場所に『ねこ』と『ましろのねこ』が暮らしています。

●『ねこ』について
行動、動き、気分屋なところなど基本的に猫と酷似していますが、目が人のようにぎょろりとしています。総数は分からず、暗がりを好みます。今の暮らしには満足しているようですが、何故か外へと出たがります。生物ではないため、他人の気持ちの影響を受けやすいようです。

●『ましろのねこ』について
見た目は10歳ほどの少女。色素が抜け落ちたように髪も肌も目も白いです。同じく白い猫耳と、猫尻尾があります。
他の『ねこ』達とは違い、精神汚染などの性質は無いようで、どうやら存在の成り立ちが少し違うみたいです。何年存在しているのかは分かりませんが精神的にも幼く、たどたどしい喋り方をします。
とっても寂しがりやのようです。

●目的
『ねこ』が地上に出ないように、『ましろのねこ』と『ねこ』を説得すること。

●書いていただきたいこと
やりたいこと、すること、心情。どう『ねこ』や『ましろのねこ』にアプローチを掛けるか、など。
どの子も悪い子ではありませんので、よければ優しさを持って接してあげてくださいませ。

  • ねこは、ねこはここにいます。完了
  • NM名金華鉄仙
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月17日 22時02分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
アビゲイル・ティティアナ(p3p007988)
木偶の奴隷

リプレイ


深く暗い井戸の中、ゆらりと覗く目。目。目。目。くらやみに、うかびあがる。
貴方を見つめている。そう、今井戸へと降りてきた、貴方達を。しんと静まった空間で。
ぐるりと、取り囲んで――。

「怪異のねこ、ねえ……」

「話は聞いていましたが、本当にこのような井戸の中に住んでいるとは!」

「ジメジメしてて暗い。まあ出たくなる気持ちもわからんでもないな。とはいえ退治でもなく説得か。正直俺の手に余るような気もするが」

そんな状況であっても平静を保てるのがイレギュラーズだ。周りを見回し、『貧乏籤』回言 世界と『狼拳連覇』日車・迅が言葉を交わす。

「……全部、ねこなのか。彼らが」

『鏡の誓い』ドゥー・ウーヤーは少し驚いたように体を強張らせるも、敵意のない様子を見てゆったりと肩を落とした。

なにか悪いことをしているわけではないものの、存在自体が他者を害してしまう。どうしても周りとは噛み合わない、疎まれて育ったもの。
どうにも自分と重なる所を感じてドゥーは少し同情するように目を伏せる。
お互いが傷つかないためにも、彼らには井戸の中にいてもらわないといけない。けれども――。何か、出来ることはあるはずだ。

「そ、そ、そう……だね。でも、出てこないし……おれの姿を見て怖がって、る、のかな……」

『木偶の奴隷』アビゲイル・ティティアナはただ、遠巻きに見つめているだけのねこ達に不安そうに声を震わせて。せっかく説得しに来たのに怯えられてしまったのだろうかと。自分の容姿が彼らに負けず劣らず怪物のようだと、自分自身では思っているから。

「……いえ、そんなことは、ありません」

けれども、それに応える、幼い少女のような声が一つ、猫の群れの奥から聞こえた。四人が示し合わせたように顔をそちらへと向ける。
猫の群れが真っ二つに捌ける。小さい影が四人に歩み寄る。
真っ白い髪。真っ白い肌。そして、真っ黒な瞳。

「みんな、気になるだけなのです。みなさんのこと。わたしたちをみても、こわがらないヒトが」

ぴこり、と耳を揺らめかせ、氷のように張り付いた無表情で。

「はじめまして。ねこです、よろしくおねがいします。……ごようはなんですか? それとも、まよわれてしまったのでしょうか」

ゆるゆると、尻尾がゆっくり揺れる。『ましろのねこ』は、そうして首を傾げるのであった。



「おお、貴方が! 可愛らしいお嬢さん。はじめまして! 日車迅と申します。遊びに来ました!」

「はじめまし、て? ねこに会いに来たのですか? ふしぎな、ひとですね?」

「まぁ、普通の人間ではありません故!」

 『ましろのねこ』に迅がニッコリ笑う。不思議そうにましろのねこが問えば、迅にもっさりとした狼の耳尻尾が現れた。思わずねこ達は毛を逆立て、包囲の輪が一周程度遠ざかる。

「お、おおかみ……!」

「食べません故後ずさりしないでいただけると幸いです! はい!」

「たべませんか。あんしん、です」

冷や汗をかいたとばかりにジェスチャー。迅は耳尻尾を仕舞い直し、申し訳なかったとまずお辞儀。そんな二人の姿に少し微笑ましそうにしながら、ドゥーも自己紹介を交える。

「驚かせてしまってすまない。俺はドゥー・ウーヤー。他の二人は今は……きみの友だちと遊んでるかな。俺はまず君と話がしたくて」

「わたしと、ですか?」

「うん。どうしてねこ達は、外に出たがるのかな」

問いかけに、ましろのねこの能面のような顔が少しだけ曇る。尻尾を垂らして。

「わかりませんが、きっと。……たいくつなのかもしれません」

「……そっか」

退屈。その言葉は恐らく少しだけれど見栄が混じっている。そう話す言葉、仕草からドゥーは感じ取っていた。

「なら、俺達と話をしよう。……いや、遊ぼう」

「そうです。玩具箱を持ってきました、双六や骨牌はお好きでしょうか?」

ひとまずこの子と親しくなるのが先決だろう。そう決めたらしいドゥーに迅も同調して、置かれた玩具箱を開く。ぽっかり開いた取水口から覗く光が中身を映し出した。

「すごろく……は、わかりませんが、あそぶのは……。すき、です! あそび、したいです!」

「それは結構。ルールは説明書がありますし、お教えしますからご安心ください! して、お嬢さん」

「なんですか?」

「卓を共にすればきっと僕達はもう他人ではないということになりましょう。よろしければお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「なま、え……すみません、おぼえて……わからない、です」

「では、雪姫殿とお呼びさせていただいてもよろしいでしょうか」

「ゆき……? わかりました、呼びやすいのでいいです」

兎に角頷く。あまり名前の意味をましろのねこ。改め雪姫は分かっていないようだが、確かにふさわしい名前なのかもしれない。肌は雪のように白く、瞳は黒檀のように黒い。
少し違うのかもしれないけれど、その姿は白雪にとても良く似ていたのだから。


「……あっちは少し落ち着いたかねえ」

「そう……だね」

一方、世界とアビゲイルはねこ達と遊んで……、もとい。たかられていた。
みゃあ。とひっきりなしに鳴く様は最初こそ恐怖を覚えたが、接してみると意外と人懐こい。

アビゲイルがりん、とベルを鳴らせばなんだろう? と首を傾げて近づいてきて、撫でられればぐるぐると喉を鳴らす。気を使って縮こまった体も、それを利用して首元辺りまで登ってくる始末だ。のっぺりとした体は毛一つないが、不思議ともちもちとしており、場所のせいか、ちょっとひんやりとしている。そのまま頭によじ登ろうとする猫を慌てて静止しつつ、一匹が近寄ればわさっと寄ってくるねこ達に半ばされるがままになっている。

一方、世界の手元にあるのは猫じゃらし。猫の気を引くための最適解だ。

「寂しいだけなら、これでなんとかならんもんか」

つい、と気を引くように地面を這わせ、ゆっくり、ゆっくりと引っ張る。目線が世界本人から猫じゃらしへと向かった瞬間を逃さず持ち上げ。素早く物陰へとそれを揺らした。
ぴゃ、と音がするほどの速さで数匹のねこが猫じゃらしの先に殺到する。

「元気だな……よーしよしよし、わぷっ」

勢い余ってねこが一匹世界の顔に直撃する。そのままぴったりと張り付いたのをぺりりと剥がす。ぷれん、と無抵抗に垂れ下がったねこと目があった。

確かに目線は精神汚染の効果がある気がする。心が何処かガリガリと削れていくような……。それでも世界は精神汚染に強いほうだし、イレギュラーズにとっては微弱なので問題なくはあるのだが。

「……こっちはだいぶ満足そうだな、あとは向こうの方か」

疲れたのか、すやすやと眠り始めるねこ達を地面にそっと戻しつつ、ちらり、と。楽しそうに双六に興じる3人の方向を見やうのであった。


「あがり、です」

「おぉ、抜かされてしまいましたな!」

「強い。……凄いね、雪姫さんは」

「ねこはてれてしまいます」

したん、したーん。勝負に勝ったことと、二人に褒められたこと。そして純粋に皆で遊んだことが楽しくて、ゆらり、ゆらりと上機嫌そうに尻尾を揺らして。白い肌を赤く高揚させる。
そんな彼女の前に、ぴょこんと兎のぬいぐるみが出てきたのはその時だ。

「は、初めまして、僕はアビィっていうんだ。よろしく……ね?」

後ろにいるのはアビゲイル。勿論大きな図体が小さい兎のぬいぐるみに隠れきれるはずはなく、わりと丸見えである。驚いたように目をぱちぱちとさせる雪姫に、アビィはさらに言葉を続ける。

「ねこさん……あのね。お外は危ない人がいるんだ……ねこさんを捕まえて丸焼きにしちゃう欲張りな人や
捕まえて奴隷にしちゃう悪い人がたくさんいるんだ」

だからね、ととつとつと訴える声は脅し、という声色ではない。自分がそうだったから、君達はそうはならないように。という強い思いやりを込めてアビゲイルは言葉を紡ぐ。けれども雪姫の泣きそうな顔に、詰まってしまった声を世界が拾った。

「そうではなくても、お前達の力はそうと思わなくても人を傷つける……。ヤマアラシのジレンマ、ってやつだな。外に出ないほうがいいってのはお前も分かってる。……そうなんだよな?」

「……はい。そうか、あなたたちは、ねこをとどめに来たのですね。わかっているのです。だいじょうぶです、ちゃんと、ちゃんとせっとくしますので……」

尻尾をくるりと巻いて、ぺたんと座り込む。そんな彼女に手を差し伸べたのが、迅だ。

「どうしたら寂しくないか、を聞きに来たのです。……普通の人は無理でも、我らは一緒に遊べます。こんな場所でむしろよく我慢した方では無いでしょうか。雪姫殿もねこ殿達もとてもえらいですね」

しゃがみこんだドゥーが、白猫の少女の頭をそっと撫でる。わしゃわしゃと撫でる手に、差し伸べられた声に、雪姫は顔を上げた。

「君達を外に連れ出すのは難しいけれど、代わりに俺達が遊びに来るよ。そうすれば……少しは寂しい気持ちも紛れるかな?」

「……また、ですか。また、あそんで、くれるのですか?」

ぱちぱちとまばたきをして。潤んだ瞳をそっと拭って、じっとイレギュラーズ達の顔を見る。

「勿論、俺達と。……友だちになろう」

その言葉を否定する人はだれも居なかった。伸べられた手に、手を伸ばそうとする雪姫を、止める人も。

「……みなさんは、ねこに、名前をくれました。楽しいを、ねこにも、ねこたちにもいっぱいくれました。だから、ねこは、みなさんのこと……」

迅の手を掴み、立ち上がる。

「ともだちだって、思います。……はじめてです。ヒトの、おともだちは」

「ぬいぐるみの、おともだちも!」

そう、能面だった顔を不器用に歪めてくすりと冗談を言うように、そう笑った。


昔々、あるところに。寂しかったねこが一人いました。
ねこは忌み子でした。ひとりぼっちでした。
けれど、今は友達が沢山なので幸せです。
今日もお友達の兎のぬいぐるみを抱っこして眠るのでした。友達がまた来る日を待ちわびながら。

成否

成功

状態異常

なし

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