PandoraPartyProject

シナリオ詳細

そこはオイルの名産地。或いは、奇祭に挑む戦士たち…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●その祭、正体不明
 空は快晴。
 吹く風は涼しく、濃い緑と、それから僅かな鉄錆の臭いが混じっていた。
 場所は鉄帝国。
 高品質の機械オイル製造で有名な、とある地方集落である。
 ヨハン=レーム(p3p001117)たち6名は、1枚のチラシを頼りにその集落へとやって来た。
『○○○○○リン■祭開幕!
 来たれ、挑戦者!
 鍛えた身体、磨いた技、そして熱い想いを解き放て!』
 一部、文字が滲んでいるが記載された内容は概ね上記のようなもの。
 暑苦しささえ感じるフォントと載せられた写真を見る限りでは、なるほど格闘大会の予告のようにも見受けられる。
 写真に映っているのは1人の男。オイルでも塗っているのか、黒光りする褐色の肌にスキンヘッド。鋼のごとき鍛え上げられた肉体美。白い歯を剥き出しにした晴れやかな笑顔。よほどの力自慢なのか、パンプアップした上腕二頭筋を見せつけるように曲げている。
「この色、そして艶……まるでカラメルソースのようだ。この男もまた、プリンに違いないだろう。つまりこれは、最高のプリンを決める祭に違いない」
 腕を組み、深く頷く巨躯のプリン。数多いる混沌戦士の中でも、一際混沌を極める戦士、言わずと知れたマッチョ ☆ プリン(p3p008503)その人である。
「うぇっ、この人、カラメルソースを纏ってるの?」
「……プリン……しばらく、食べられなくなりそう」
 顔をしかめた雨宮 利香(p3p001254)と、頬に一筋汗を流すフラーゴラ・トラモント(p3p008825)が悲痛な声でそう呟いた。
「……そもそも、最高のプリンを決めるとは」
 理解に苦しむ、と表情をピクリとも変えないままに、ルーナ・パプーシャ・リベルターテ(p3p008996)はそう呟いた。
「うん? マッチョプリン大祭と書いているだろう?」
「文字数は合っているけど……ねぇ、ヨハンさん。実際のところはどうなの? 最強のプリンって線は薄いとして、これって一体……何?」
 と、そう問うたのは茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)である。
 今回の参加メンバーを集めたのはヨハンだ。ゆえに彼なら、詳細を知っているはずと、そう思っての質問だった。
 けれど、しかし……。
「さぁ? それが僕にもさっぱりで……チラシを1枚渡されて、奇祭の手伝いをして来てほしいとしか聞いていないんですよ」
 ヨハンの返答は、そんな風にひどく曖昧模糊としており……。
 つまりは何も分からないまま。
 一抹どころではない不安を胸に、一行は現地へと向かう。

●熟練選手、ドーパの話
 一行が現地に着いた時点で、会場はまだ建設中のようだった。
 看板などは掲げられてもおらず、肝心の会場には金属で出来た盆型のリングがあるだけだった。大きさとしてはスケートリングほどだろうか。
「あれ? 外部からの参加者さんですか? すいません、まだ設営が終わってなくて。向こうに待合室があるから、そっちで待っててもらっていいですか?」
 会場の設営をしていた若い男性に促され、一行は待合室と呼ばれた巨大なテントへ移動した。

 待合室には多くの人で溢れていた。その数は30名を超えていた。誰も彼もがそれなりに鍛えられた身体をしている辺り、この祭りに向けた意気込みの強さが伺えた。
「奇祭って聞いていたけれど、結構大勢参加するのね?」
 と、そう呟いたのは秋奈である。
きょろきょろと周囲を見回す彼女の様子を見て、一行の元に1人の男が近づいて来た。
「よぉ、お前ら初参加だろ?」
 男性にしては低い身長。弛んだ腹に、短い手足。
 他の参加者たちが鍛えられた肉体を備えているのに対し、目の前の男性は明らかにだらしのない体付きをしていた。
「俺はドーパってんだ。10の頃から祭りに参加してる、言っちゃなんだが大ベテランだぜ。今年で28回目の参加になる」
「28回……すごいわね。お祭りにかける情熱を感じるわ」
「ま、今まで1回だって本戦に出場できたことはないけどな」
 ルーナの言葉に、苦い笑みでそう返しドーパはわざとらしい溜め息なんて零して見せた。
 大会を前に余裕の態度。他の参加者たちが、ピリピリとした緊張感を纏っている中、彼の纏う緩い空気は異質であった。なるほど、実力のほどはともかくとして大ベテランと言うのはどうやら嘘ではないようだ。
「というかお嬢さん方も出場するのか? いや、まぁ……祭りは盛り上がるだろうけどさ」
「どういうことよ? 私たちが出たら何かまずいわけ?」
「そんなことは無いさ。出るも出ないも各人の自由だからな。強いて言うなら、水着の着用を勧めるぐらいか? とはいえ、その細っこい手足でどこまで戦えるか……」
 利香の肢体を舐めるように上から下まで観察し、ドーパは顎に手を当てる。
 彼の言うように、なるほど確かに他の参加者はほとんどが男性のようだった。
「だったらさぁ、おじさん。大ベテランなんでしょ? 必勝法とかあるのなら、私たちに教えてよ」
どうかしら? と利香はドーパに身をすり寄せて、そう問うた。だらしなく鼻の下を伸ばしたドーパは、少し思案する素振りを見せたが……。
「ま、仕方ねぇな。ルーキーどもに、1つ大ベテランの俺が、指南ぐらいしてやるか」
 などと先輩風を吹かせて言った。
 確かに彼は大ベテランだが、とはいえ28年連続予選敗退なのだ。
 口ほどにも無い、を体現していると言っても過言ではないだろう。
「それは、助かるよ……予選って言っていたけど、大会はどういう流れですすむのかな……?」
 と、フラーゴラは問うた。
「ん? そこからか。まぁ、予選は簡単だ。残り4人になるまでのバトルロワイヤルさ。造りかけのリングは見ただろ? 降参して自分から出ていくか、意識を失いダウンするか、リングの外に放り出されたら失格ってわけだ」
「ほう? 基本的には力勝負か?」
 そう言ってマッチョ☆プリンは己の肉体を誇示するようにポーズを決めた。若干姿勢を前にかがめて、握った両拳を体の前で打ち合わせる。所謂それはモスト・マスキュラーと呼ばれるポーズだ。“最も強い”という名の通り、見るものに力強さを与えずにはいられない。
 事実、そのポーズをとった瞬間、選手たちの視線は一斉にマッチョ☆プリンに集まった。
「あ、あんた見たいな鋼の身体が武器ってやつもいるけどな。それだけじゃなくて、技やスピードを活かして戦う選手も多いぜ。それと頭もな」
 自身のこめかみをコツコツと叩きドーパは告げる。
 バトルロワイヤル。つまり、自分以外が全員敵ということだ。
 けれど、敵の敵は味方……という言葉もある。
 ドーパが言いたいのは、つまりそう言うことだろう。
「あぁ、予選では武器の使用は無しだぜ? 武器の使用は本戦からだ。4人がリングの中で戦って、最後まで立ってたやつが優勝さ」
「ふむふむ、なるほど。試合のルールは思ったよりも単純ですね?」
 どこが奇祭なのでしょう? と、首を傾げるヨハンであった。
 けれど、今はそれより重要視するべきことがある。そう思いなおし、ヨハンは次の質問をドーパへ投げた。
「それで、要注意選手の情報なんかも教えてもらいたいのですが」
「おう、いいぜ。たとえば、そうだな……あっちに同じ顔した3人組がいるだろ? あいつらはスリップ兄弟って言ってな、連携プレーの達人さ」
 と、ドーパが指さした先には海パン姿のスキンヘッド3人組が立っていた。
「それと、あっちの巨漢はオリオ。見ての通り、重量ファイターだ」
 次にドーパが紹介したのは、力士スタイルの巨漢であった。なるほど確かに、その巨体をリングから押し出すには、かなりの力が必要だろう。
 さらに、その隣に立つどこか陰鬱な表情の男も要注意人物だとドーパは告げる。
「よく見る顔だが、名前は知らねぇ。あんたらと同じで集落の外から来てる奴だ。どうも自分の気配を希薄にする術を持ってるようだぜ」
 不気味な野郎さ、とドーパは言って身を震わせた。
「それから、最後にあいつ……大会4連覇中の実力者でマスター・オリーブと名乗ってる」
 そこに居たのは、チラシにも乗っていた褐色肌の大男だ。
 その姿を確認したマッチョ☆プリンは「マスター・カラメル……相手にとって不足なしだな」と1人闘志を燃やしていた。
「野郎に殴られたら、10メートルは吹っ【飛】ぶぜ。それと身体能力の強化を強制的に【ブレイク】する」
 そのうえで、自身は力と速度を増す技を使用するのだというから性質が悪い。
 ほかの選手たちと比べても、その実力は頭1つほど突き抜けている。
「ま、今回もオリーブの優勝だろうな。あんたらも、誰か1人ぐらい決勝に出られりゃいいけどな」
 健闘を祈るぜ、と。
 そう言って差し出されたドーパの右手を、ヨハンは強く握り返した。

GMコメント

●ミッション
奇祭を盛り上げる

●ターゲット
・マスター・オリーブ
黒光りする鋼の身体。
スキンヘッドの大男。
大会4連覇中の実力者であり、今大会の優勝候補ナンバー1
自身の攻撃力や回避、機動を上昇させるスキルを使う。

・オリーブスマッシュ:物近単に大ダメージ、飛、ブレイク
 オリーブ渾身のスマッシュ。

・ドーパ
40近い中年の男性。
大会参加歴28年。
身体能力は決して高くはないが、知識は豊富であるようだ。

・スリップ兄弟
海パン姿の3兄弟。
力はさほど高くはないが、素早い移動と連携プレーを得意としている。

・オリオ
力士の格好をした巨漢。
今大会最高身長。最重量を誇る。
固太りした身体は高い防御力を誇り、また力も強い。

・名無しの男
陰鬱な雰囲気を纏った男性。
気配が非常に希薄である。
どうやら自身の気配を完全に遮断する技を使うらしいが……。


●フィールド
とある地方集落。
高品質の機械オイル製造で有名。
祭りの舞台となるのは、金属製の楕円形リング。
4墨には何かの管が繋がっているようだが……?
何かしら、イレギュラーズの知らないステージギミックがあるのかもしれない。

予選は参加者総当たりのバトルロワイヤル方式で行われる。
残り4名になると、インターバルを置いて決勝戦。
4人同時に戦って、最後まで立っていた1人が優勝となる。
また、決勝戦は武器の使用も認められている。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • そこはオイルの名産地。或いは、奇祭に挑む戦士たち…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月14日 22時20分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
※参加確定済み※
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
※参加確定済み※
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
※参加確定済み※
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば
※参加確定済み※
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
※参加確定済み※
ルーナ・パプーシャ・リベルターテ(p3p008996)
月に叫ぶもの
※参加確定済み※

リプレイ

●○○○○○リン■祭開幕!
 空は快晴。
 高品質の機械オイル製造で有名な、とある地方集落。そこで行われる奇祭に参加するために、ヨハン=レーム(p3p001117)たち6名は、鉄帝国を訪れた。
「聞くところによれば、ラド・バウみたいな感じのようですけど……まぁ、精いっぱい楽しみましょう!」
 などと、笑っていたのはほんの30分ほど前の話。

「えっ何あの管から出てるの……オイル……? えっこれが伝統なの? ぬるぬるで滑ろと?」
 ヨハンに詰め寄る雨宮 利香(p3p001254)。指さす先には、金属で出来たスケートリングサイズの闘技場。満たされたオイルが、リングをぬるぬるに光らせる。
 大会参加の常連であるドーパという男が水着の着用を勧めてきたのは、なるほどこういうことだったのだ。
「えっと、レスリング? 水着着てきて、よかったね……?」
 利香と同じく水着(紐)を身に付けた『恋の炎に身を焦がし』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は、リングを見渡しそう呟いた。
「……ちょっと帰りたくなってきたわ」
 『月に叫ぶもの』ルーナ・パプーシャ・リベルターテ(p3p008996)は、眩暈をこらえるように額に手をあて、そんなことを宣うた。
 そんな彼女たちの様子を、遠巻きに眺めながら大会参加者たちはくっくと肩を揺らして笑う。余所者にはオイルの洗礼を……そんな声が今にも聞こえてくるかのようだ。
「よぉ、逃げずに参加を決めたようだな。だが、容赦はしないぜ?」
 リングに立ち入る6名に向け、小太りの男性・ドーパがそう言葉を投げた。28年連続で大会参加を続けるいわば“常連”というやつだ。

『さぁ! 選手たちの入場だ! 全員、位置に揃ったな!? それでは、鉄帝国名物、オイルレスリング祭、スタァァット!』
 テンションの高い実況の合図で、オイルレスリング祭は開幕を迎える。
 このような奇祭が鉄帝国の名物だという話は過分にして聞いたことはないけれど、それはともかくとして茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)、そしてマッチョ ☆ プリン(p3p008503)の両名は壁を蹴飛ばし、最高速のスタートダッシュを決める。
「は、ちょっ!?」
 スタートダッシュに巻き込まれ、ドーパが場外へと弾き出された。目を回し、観客席に転がるドーパ、28回目の予選敗退である。
 2人を追うように、次々と他の参加者たちもリングの中央へ向けて駆けだした。
 スリップ兄弟、巨漢オリオ、マスターオリーブ……名無しの男はリングの外周を幽鬼のような足取りで滑って行った。
『まっさきに飛び出したマッチョ☆プリン! そして秋奈の2人を追って選手たちが続々とリングに跳び出した! 外部参加者にいい顔をさせてたまるかと、徒党を組んで2人に襲いかか……あぁ!?』
「そこを退けぇっ! 我が実況をしてやろう!」
『な!? ま、マッチョ☆プリン選手、どういうわけか実況席に乱入だ! 分かっているのか? アンタ、これで失格だぞ!』
 鋼の巨体が宙を舞う。頭にかぶった黄色いプリンが、挑発的にぷるんと揺れた。
 そんなプリンの様子を一瞥、秋奈は笑みを浮かべて叫ぶ。
「さぁ今年も始まってしまったオイルをオイルで洗う筋肉沸き踊るカラメルソースなお時間! いーよいーよ、そいじゃ観客席ちゃんもついでにテンアゲでいってみようZE!」
 リング中央。旋回しつつ秋奈が叫ぶ。
 飛び散るオイルが、陽光を反射しキラキラと輝く様は、ある種、幻想的でさえある。
 そう、まさしく彼女はオイルの妖精。
 見目麗しき少女によって先導されて、オーディエンスは大いに沸いた。
 混沌極まるオイルの祭典は、このような経緯をもって波乱の幕開けとなる。

●オイルレスリング祭開幕!
 マッチョ☆プリンの鋼の腕が、実況者の胸倉をつかむ。
「お前、なぜこんな末席に座っている」
『は……え?』
 顔を寄せ、プリンは低く唸るようにそう告げた。
 大仰な動作でもって、マッチョ☆プリンはリングへ向けて手を翳す。水着姿の男たちが、オイルに塗れ凌ぎを削る戦場だ。
 怒号、歓声、飛び散る汗にぬめるオイル。
 あぁ、それはなんと……暑苦しい!!
「──お前自身があの舞台に立つ夢を、見た事はないのか」
 静かに、告げる。
「しかと見た激戦を前に、胸の奥底から衝動が湧き上がった事は無いのか。思わず体が動き血を滾らせたことは」
 ごくり、と実況者の喉が鳴る。
 暫しの沈黙。やがて、彼は絞り出すかのように言葉を発す。
『あ、あるに決まってる。俺は、この集落の生まれだ。何年も実況を務めてきた。男たちの激闘をこの目と胸に焼き付けてきた。でも、俺は、貧弱で……』
 震える声が、マイクを通して客席に響く。
 気づけば誰もが、彼の声に耳を傾けていた。
 実況者である彼が、長年胸のうちに秘め続けた熱い想いに、耳を澄まさずにいられない。
「百聞は一見に如かずとは言うが。千とその目に焼き付け、万の言葉で語ったのならば幾重の経験にも勝ろう……わからぬか?」
 ドン、と。
 マッチョ☆プリンの剛腕が、実況者の胸に押し当てられる。
 衝撃で心臓が大きく跳ねた。瞬間、体中の血管に熱い血潮と滾る想いが溢れだす。
「ピースは既に貴様の内に揃っている」
『そ、そうか。そうだな! 俺は……俺だって!』
「あぁ、行ってこい。これが貴様の、未来の伝説の……華々しくも偉大なるデビュー戦だ!」
 実況者の胸倉をつかみ、マッチョ☆プリンはその体をリングへと放った。

 不安定な着地。手足をばたつかせるその様は、決して華麗とは言い難い。
 けれど、実況者は……新たに生まれたオイル戦士は笑っていた。
 駆ける彼の向かう先には、全身にオイルを纏い仁王立ちで待ち構えるマスターオリーブ。
 そして……。
「おぉぉぉ! 俺だって! おぉれだってぇぇ!!」
 雄たけびを上げ、オリーブへと飛び掛かった実況者。
 カウンターパンチ1発で、目を回してリングに沈む。
 いかに多くの戦いを、その目に焼き付けていようとも。
 いかに熱い想いを、その胸に滾らせていようとも。
 大会の覇者、マスターオリーブの鍛え抜かれた肉体は、それらを受け止め、そして撃ち砕くのである。
「……なんだこれ」
 呆然とその光景を眺める利香は、思わずそんな言葉を零した。
 
 紫電を纏い秋奈が駆ける。
 その突進を真正面から受け止めるのは、今大会一の巨漢オリオであった。
「私の防無からは逃げられないぜスモトリさん!」
 姿勢を低くしたオリオの額と、秋奈の拳が激しく衝突。体重の差か、秋奈の身体が宙に浮く。
「んなっ!?」
 驚愕の表情を浮かべ秋奈は着地。
 けれど、直後に姿勢が崩れる。足場を濡らすオイルのせいで、踏ん張りが効かないことが原因だ。一方、オリオは流石、大会常連というだけのことはある。
 地面にしっかり両の足裏を付けたまま、すり足の要領で全身。
 秋奈の逃げ場を奪うように、両手を前に突き出して……渾身のぶちかましを、その顔面へと叩きつける。
「ぐへぇっ!?」
 鼻から血の雫を散らし、秋奈の身体はリングに落ちた。
 オイルに滑り、その体は後方へと吹き飛んでいく。それを追って、さらに前進するオリオ。
 けれど、しかし……。
「あなたに恨みはないけれど……全力でと言われたからには全力で殴るわ」
 その懐に潜り込む少女が1人。
 ルーナの放った鋭い掌打が、オリオの顎を打ち抜いた。
 よろけるオリオ。動きが止まった、その隙を突きルーナはさらに追撃を加える。
 その手に纏った魔弾の放出。
 オリオの胸部を激しく打った。苦悶の表情を浮かべるオリオ。けれど彼は歯を食いしばり、再度の全身を再開する。
 遥か遠きカムイグラの地に伝わる伝統武術スモウには、防御の型など存在しない。
 鍛えた身体と精神を、ただまっすぐ、目の前に相手にぶつけ打ち砕く。
 だが、しかし……。
「今だ! 優勝は私が貰った!!!!」
 顔面を血に濡らした秋奈が、低い姿勢でリングを駆けた。
 スライディングの姿勢から放つ足刀が、オリオの膝を激しく打ち抜く。ミシ、と骨の軋む音。オリオの巨体はオイルに滑り、後ろへ向けて倒れていく。
 タイミングを合わせ、さらにもう片方の脚をルーナが打った。脚を払われたオリオは、これで完全に宙へと浮いた体勢となる。
「喰らうがいいぜっ!」
 跳躍した秋奈のフットスタンプがその顔面に突き刺さり、オリオは白目を剥いて轟音と共にリングに倒れる。
『見事! これが、イレギュラーズの、連携だ!』
 マッチョ☆プリンの実況が響く。
 歓声の響く中、オリオを沈めた秋奈とルーナは視線を交わし……。
「全力で戦えば良い……だったわよね?」
「へい、カモン!」
 掌打と拳の応酬を開始したのであった。

 リング中央、高速で回転する利香の表情は、まるで苦汁を飲んだよう。
「……もうヤケです盛り上げてやりますよ」
 腹ばいとなった姿勢のままに、彼女はそう呟いた。
 リングと体の間で豊かな胸が柔らかく形を変える。
「さあかかってきなさい、意地でも真ん中をキープして長期戦オイルバトルの真髄を見せてやりますよ!」
 参加者によるタックルを受けた利香。けれど、その勢いを回転力へと変えることで、逆に相手を弾き飛ばす。
「ぬぁっはは!! なかなか面白い戦法だな!」
 参加者たちをなぎ倒しつつ、マスターオリーブが迫る。振り抜かれた剛腕が利香のボディを打ち抜いた。痛みを与えないよう加減された殴打であったが、衝撃で利香の身体はリングの端へと滑っていく。
「ぅぅうあああ目が回るぅぅ!!」
 悲鳴を上げて滑る利香の進行方向。 
 激しく打ち合うルーナと秋奈の姿があった。
「え?」
「きゃっ!」
 悲鳴を上げる2人と利香は強く衝突。
 ルーナは素早く防御の姿勢。殴打でもって利香の身体をはじき返す。
 利香の身体はリングの中央へ滑走。
「くっ……ここまで、ですか」
 悔し気にルーナは呻き、秋奈と共に場外へ跳んだ。
『秋奈、ルーナ、失格!』
「……美味しいものでも、買いに行きましょう」
 失格になったルーナの表情は、妙に晴れやかだったという。

 交差する3つの影。
「あんたの」「誘いに」「乗って良かったぜ」
 スリップ三兄弟と同盟を組んだヨハンは、彼らを指揮し次々と参加者たちを脱落へ追い込んでいく。同盟を結ぶまでに少々ダメージを負いすぎたが、協力者さえ得てしまえば、後は指揮者の本領発揮ということか。
 そんな彼らが次のターゲットに定めた相手は困り顔のフラーゴラ。
 長く豊かな白髪が、オイルで体に張り付いているせいだ。
「彼女は強敵ですよ! 気合を入れていきましょう。レッツ、スリップフォーメーション! 女だろうと容赦するなっ!!」
 名も無き兵士を英雄に変える大号令。
 ヨハンによる強化を受けたスリップ兄弟は、列を成してフラーゴラへと襲い掛かる。
 絶え間のない連続攻撃。反撃の暇さえ見当たらない。
 素早い身のこなしで三兄弟の攻撃を回避するフラーゴラだが、次第に壁際へと追いやられていった。
「どうです!  信頼あってこそのチームプレイ! 今だ必殺、J・S・A(ジェット・スリップ・アタック)!」
 勝利を確信したヨハンの声。
 スリップ三兄弟の身体が1列に重なる。急ごしらえの戦法だが、続けざまに叩き込まれる3連撃でここまで多くの参加者を打倒してきたのだ。
 けれど、フラーゴラは淡々と……壁に足裏を付け、身を低くした。
「ローレットの仲間でも容赦しないよ……ごめんね?」
 振り抜かれたフラーゴラの手から【べとべとしたもの】が放たれる。それは先頭を走っていたスリップ兄弟三男の顔に付着し、その体勢を崩させた。
 その瞬間、壁を蹴ってフラーゴラは加速する。
 その姿はまさに蒼き流星。
 三男の顔面を踏み台に、フラーゴラは高く跳んだ。
「お、俺を!」「踏み台に」「しただとぉ!?」
バランスを崩した三男。オイルに乗って加速した次男、長男は急停止を試みるが、叶わない。
 もつれあうようにして倒れたスリップ兄弟を眼下に見据え、フラーゴラは空中で姿勢を変えた。高く掲げた細い脚。
 振り下ろす先には驚愕に目を見開いたヨハンの姿。
「……全力で行くよ」
 フラーゴラの放ったかかと落としが、ヨハンの額を蹴り抜いた。
 視界に映る、顕わになった白い脚。
 白目を剥き、リングに倒れるヨハンは一言「いい角度……」とそう呟いて意識を失った。
『そこまで! 予選終了だ!』

●オイルに塗れる戦士たち
『諸君、刮目せよ! そして喝采せよ! 決勝に駒を進めたのは利香、フラーゴラ、名無し、そして大会の覇者マスターオリーブの入場だ!』
 マッチョ☆プリンの実況と共に、拍手と歓声が降り注ぐ。
 広いリングに入場した4人の戦士たち。オイルに濡れて黒光りする肉体を誇示するマスターオリーブは、参加者たちを一瞥すると胸の前で拳を合わせてモスト・マスキュラ―のポージングを決める。
「さぁ、かかってくるがいい!」
 彼の発したその一言が、人々を熱狂の渦に巻き込んだ。
 オイルレスリング祭、決勝戦の開幕である!

 音もなく、名無しの男が駆けだした。
 その背後をフラーゴラが追いかける。
「……」
 男の放った手刀を回避し、フラーゴラはその足元へ視線を向けた。蹴りが来る、と踏んだ男は舌打ちを零し、軌道を修正。カウンターに備え構えを取るが……。
「残念……フェイントだよ」
 そう呟いてフラーゴラは火炎を纏う。
「ナイス! 合わせますよ!」
 腹ばいになった利香が叫んだ。紫電を纏った高速回転。
 フラーゴラの攻撃に合わせ、マスターオリーブを狙う心算である。
 オイルに塗れたその体はさぞよく燃えることだろう。
「行くゴラ! かますゴラ!」
 野次を投げるは秋奈であった。その顔には満面の笑み。そして手元には屋台の焼きそば。ルーナが購入してきたものだ。
 前方からは燃える狼。
 後方からは紫電を纏う夢魔。
「そのにやけた顔を焼きオリーブにしてやりますうぅぅ!」
 回避も迎撃も間に合わない同時攻撃。
 けれど、しかし……。
「甘い!」
 マスターオリーブは地面にしゃがんだ。飛び跳ねたオイルがその身を濡らす。
 その様はまさに肉の壁。
 さらに、両の腕をリングに滑らせることでオイルの波を作って見せた。
「えっ何これオイル……?? きゃあ! アアアーーーーーー!」
 波打つオイルに足を取られて、フラーゴラは顔面からリングに転倒。これ以上無く見事なスリップダウンである。
「フ、フラー!?」
 あがった悲鳴はヨハンのものか。加速した状態からのリングに熱い口づけをしたフラーゴラは、オイルを散らして滑って行った。
 そして……。
「その技は先ほど、見せてもらった!」
 しゃがんだままの姿勢でなんと、オリーブは宙へ飛び跳ねる。その足元を利香は滑り抜けていく。
 直後、音もなく名無しの男がマスターオリーブの背後へ迫った。宙に浮いた状態で、この攻撃が裂けれるものか……瞳に宿る強い意志。渾身の手刀がオリーブの胴に突き刺さる。
 ミシ、と骨の軋む音。
 それは名無しの腕から鳴った。
「私の筋肉を貫くには少々鋭さが足りないな」
 くるり、と空中で体を反転。名無しの男の手を掴み、そのまま彼を場外へ向け投げ飛ばす。
 悲鳴を上げる間もないままに名無しの男は実況席の傍へ衝突。
「きゃっ! お、オイルが……」
 悲鳴をあげるルーナの足元。血を吐き、白目を剥いた名無しの男が転がっていた。

 肩を支え合い、利香とフラーゴラは立ち上がる。
 2人の視線の先にはポーズを決めるマスターオリーブ。来るなら来い、と笑みを浮かべて2人の復帰を待っていた。
「やるわよ、フラーちゃん。このオイルとカラメルの地獄を切り抜けて、ヨハンの尻尾を引きちぎってやる」
「うん……焼きマッチョにしてあげる……!」
 ヨハンの尾の明日はどっちだ。
 マスターオリーブのオイル格闘術に隙はない。
「頑張って2人とも、終わったらご褒美に、美味しいものを探しに行こう!」
「なにしてるーゴラ! 潰せはやくっ!」
「チームプレイ! チームプレイですよ!」
 仲間たちの声援を受け、2人は同時に駆けだした。利香の腰を抱き、壁を蹴ってフラーゴラは加速する。
 飛び散るオイルと火の粉が、リングを火炎の海へと変えた。
 炎の中、迎え撃つはマスターオリーブ。大上段に構えた太い腕。カウンターパンチを見舞うつもりだ。
「……っ!」
 短く呼気を吐き出して、フラーゴラは利香の身体をリングに倒す。
 そして、跳躍。
 オイルを散らし、くるりと空中で一回転。勢いを乗せた蹴りを利香の足裏へと叩き込む。
「なっ、さらに……加速だと!」
 勢いを増した利香の突進。さながら人間大砲といったところか。
『行った、行った! 利香が行った!』
 予想外の急加速にオリーブの迎撃は間に合わない。利香は腕を伸ばし、オリーブの脚に抱き着いた。
 姿勢を崩したオリーブと、利香の身体が滑っていく。背後には壁。この速度でそこにぶつかれば、きっと2人とも無事では済まない。
 冷や汗を一筋、零すオリーブの視線の先で。
 利香はにやりと、笑みを浮かべる。
「あんたはここで、利香と逝くのよ」
 直後。
 会場を震わせるほどの衝撃を響かせ、2人の身体は壁を砕いて場外へと跳び出した。
『優勝は、フラーゴラ!」
 大歓声と拍手の雨を浴びながら、白き少女は高く拳を掲げて微笑んだ。

成否

成功

MVP

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
ぬるぬるオイルレスリング祭、これにて終了となります。
大会を大いに盛り上げてくれた皆さんに感謝と、そして盛大な拍手を!

まさかこんなにぬるぬるとした祭りとは思いませんでしたが、無事に活躍できたようで何よりです。依頼は成功となります。
また縁があれば、ぜひ「オイルレスリング祭」にご参加ください。

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