PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Liar Break>籠の中の蠍

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 静かな邸宅一室、開け放たれてある窓から心地よい風と、鬱陶しくも恵まれた暖かい日差しが降りてくる。
 その一室にて『蒼の貴族令嬢』テレーゼ・フォン・ブラウベルク はぐったりと机に伏していた。
「はぁぁ……もうやになります……」
 だるそうにしながら、やや年上の女性秘書のじっとりとした視線を受ける。
「姫様。代行をされると決めたのは貴女でしょう」
「分かってますけど……お外行きたいです……」
 美しい風貌を面倒くさそうに歪め、テレーゼは言いつつも目を通した書類にサインを残す。
 それを幾枚か繰り返したのち、テレーゼは呆然と椅子にもたれかかる。
「もう……はぁ」
「はい、お疲れ様です。今日はこれで終わりですよ」
「そうですかぁ……じゃあ! もう外行っても良いですよね!?」
 ぐぐっと体を伸ばし、ばっと体を起こす。その直後だった。
 扉をノックする音がする。時計を見て、まだお菓子には速すぎるのを確認し、やや面倒くさそうにしながらも、入ってくるように指示を出す。
 入ってきたのは、眼帯をした細身の傭兵だった。彼はすぐにテレーゼに向けて口を開いた。
「姫様……見つけました。というよりも、相手の方から来ます」
「副頭領さん……? どういうことでしょう?」
「――この町を狙ったアイツらの本隊……の残党です」
「あっ……それですか……分かりました。教えてください」
 その瞬間、テレーゼの雰囲気ががらりと変わる。やや冷然と、少しの威風さえ感じさせながら、真っすぐに見据える。
「はい、敵は姫様の領土の中にある街道沿いの牧場を蹂躙し、そのあとで北西に逃げようとしています」
「北西というと、お母様のご実家のある……そうですか。お茶目なことですね」
 命一杯の皮肉を込めて、テレーゼはそう吐き捨てるように告げると、少しだけ目を閉じた。
「その砂蠍の残党さんたちはどれくらいいるのです?」
「ざっと見て30人ぐらいかと」
「……足りませんね」
「足りません」
「では、あの方達にもお手伝いをお願いしましょうか」
 テレーゼは柔らかく笑う。それは、どこまでも貴族然とした、静かな怒りの双眸で。


 ブラウベルクの町にある酒場に依頼があると招聘されたイレギュラーズ達は、酒場の一角で丸テーブルに集まっていた。
 そこでイレギュラーズを集めた張本人、テレーゼは険しい表情で彼らを待っていた。
「ええっと……レオンさん? でしたか。ローレットの。あの方が検問を強くしろっておっしゃったのでやってみたら、毒蠍の残党の一部がかかりました。この集団を――全員殺してください」
 テレーゼはどこまでも冷厳に、ブラウベルクの町の酒場に集まったイレギュラーズに告げる。
 ノーブル・レバレッジ作戦の成功。その影響は大きかった。
 自分達の権益が阻害されるのを恐れた者、あるいはこれこそが自らの益となると判断した者。
 俄かにローレットに協力的になった貴族や、民衆の手によって形成された幻想という一国を用いての檻は、収容者達を確実に追い詰めつつあった。
 強まる包囲網に、収容者――幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』は各地である種の自棄ともいえる反撃に打って出てきた。
 そんなサーカスの者達を討つべく、多くのイレギュラーズは出撃している。不倶戴天の敵たる魔種の影さえ見える現状に、イレギュラーズ達も本気になっていた。
 だが、今回の話はその大規模な作戦とはやや別の話。檻に入り込んでいたのは必ずしもサーカス団だけではなかったのだから。
「この集団は私の領土の私の家族の財産を奪った奴らです。なので生かす気はありません。皆様は魔種との戦いで忙しいかもしれませんが、なにとぞ一つ、御助力いただきたいのです」
 そう言ってテレーゼは頭を下げて、それから今回の依頼を語り始める。
「敵はざっと30人ぐらいでしょう。本来なら私が雇っている傭兵団で片づけるべきなのですが……如何せん相手の数が多すぎるのです。なので今回は皆様と、うちの傭兵団で共同戦線をお願いしたいのです」
 そういうと、テレーゼは隣に控えていた眼帯の男に視線を向ける。
「その30人は現在、ブラウベルク領を北西に進んでいます。この賊なのですが、このままいくとブラウベルク領を離れてしまいます。そして恐らくですが、隣接する領土への検問で止められることはありません」
「つまり、私たちはこの領内で、そいつらを倒すんだな?」
「はい。それから、我々傭兵団の動きはお気になさらず。どう扱ってくださっても結構です。最悪、囮にしてくださっても構いません」
 イレギュラーズの一人の返答に男は静かにそう告げると、そのまま次の情報に移る。
「今回の戦場候補は二つ。検問の程近くの代わり、全員が広く場所をとれるこの平原と……もう一つはここです。実はここにはブラウベルク家がもっと栄えていた頃に使っていた城塞の跡があるのです。やつらはおそらくここで休むはず」
「その代わり、こちらでは場所を大きくとるのは難しそうだな」
 城塞の跡地がある辺りは平原より遥かにブラウベルク領の内陸部にある。
 逃げられる可能性はあるが広大で動きやすい場所で戦うか。逃げられる可能性は低くなるが、狭い場所で戦うか。二つに一つと言える。
「どちらの戦場を選ぶのかは、皆様に任せよう」
 眼帯の男はそう言って締めると、ぽんと男の隣で手を叩く音がする。
「――さて。そんな堅苦しいし血なまぐさい話はまぁ、続けるにしても、お腹がすきましたので。この酒場でお食事をしましょう」
 それまでの雰囲気の一切を消し飛ばし、ほわっとテレーゼが言う。その変わり様に一部のイレギュラーズがぎょっとする中で、早々にテレーゼがドリンクと軽食を頼みだした。

GMコメント

初めまして。あるいはこんばんは。
春野紅葉と申します。それではさっそく捕捉おば。

・任務条件
【達成】
毒蠍の残党を全滅させる。

【失敗】
こちらが全滅する。
毒蠍の残党が検問を抜け、隣接の貴族領へと逃亡する。

・敵情報
【人数】
30人ぐらい
【バルドゥイン】
この毒蠍を率いている幹部とも言えない男。
多少は知恵が回りますが、基本は脳筋です。
めちゃくちゃに目立つ三角柱のような穂先の武器を持っています

【毒蠍残党】
全員、鎌や剣、槍、拳、弓矢、銃などのいわゆる物理系の武器を使っています。

【実力】
一般毒蠍はイレギュラーズと対等かイレギュラーズの方がやや格上です。
バルドゥインは現状のイレギュラーズより確実に強力です。
相対する時には注意して下さい。

・味方情報
【人数】
10人
【頭領】
大剣を使う大柄な男です。

【副頭領】
眼帯をした男です。
参謀タイプ。

【傭兵団】
物理系の武器を持っています。

【実力】
メタな話、皆様の平均ぐらいになります。

【そのほか】
皆様のプレイングによる指示通りに行動します。囮として使うのも良し、肉壁にするもよし、遊撃してもらうもよし。お好きなように使ってください。
使わない場合、人数差で負けてしまいますのでお気を付けください。

●戦場
【1】
平野部。
広大なフィールドかつ良くも悪くも見晴らしがいいです。奇襲には向きませんが真っ向勝負、連携などには向きます。
ただし、敵の逃げる検問所のほど近くなので逃げられたら作戦失敗になります。

【2】
城塞跡地。
通路や路地などの多い城塞跡地です。とっくの昔に廃墟されているため、門はありません。奇襲に向きますが、連携には向きません。
また、やや内陸部にあるため逃げられる心配は少ないです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <Liar Break>籠の中の蠍完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月29日 22時46分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
ミスティカ(p3p001111)
赫き深淵の魔女
ゲンリー(p3p001310)
鋼鉄の谷の
百目鬼 緋呂斗(p3p001347)
オーガニックオーガ
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ニル=エルサリス(p3p002400)
気象衛星 ひまわり 30XX(p3p002661)
お天気システム
Briga=Crocuta(p3p002861)
戦好きのハイエナ
ヴァン・ローマン(p3p004968)
常闇を歩く

リプレイ


 薄霧の中で『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)は朽ち果てた砦を見上げて思案する。
「前回の蜂起の時といい今回といい、嫌なタイミングで騒ぎを起こしてくれるものだね。もしかすると、今はこういう混乱が起こっている時でもないと動けないくらいの規模しかないのかな?」
 それに対して 『断罪の呪縛』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は静かに頷く。
「サーカスとは直接関係はないけれど。こんな時だからこそ、厄介事の芽は摘まないといけないわね」
「えぇ、蠍なら、それらしく砂の中に潜っていればいいものを……今後の憂いが無いように、この場で一人残らず狩りましょう」
 それに続くように『赫き深淵の魔女』ミスティカ(p3p001111)は首肯し、そっと空へ鴉を飛ばす。
 中に入っているであろう盗賊たちの声はしない。おそらくは眠っているのだろう。
 目を閉じ、集中する。鴉と五感を共有して、砦の内部の情報を伺う。
 そうやっていて最初に思ったことはこの砦の攻めにくさだ。
 縦横に巡らされた路地と、常に上から撃ち殺せるような建築物の窓配置、そして言わずもがなのやたらと高い城壁。
 それらは総じて、この城砦を作った人物が物理的な攻撃で決して砦を落とさないように――あるいは城壁が落ちようと内部で絶対に殺すように。そんな気概さえ感じさせる。
 もっとも、上から溶かされたような後を残しているのを見るに、魔法で外から攻められることを考慮していなかったようだ。
「把握したわ」
 ミスティカはそういうと、把握した毒蠍達の居場所をメモにとっていく。
「五人一組で二手に別れよ。編成は任せる。イレギュラーズ突入後に城塞跡地に突入し、遊撃に当たれ。それと法螺貝が5度鳴ったら、片方は出口を封鎖し敵の逃走阻止に回れ」
 『鋼鉄の谷の』ゲンリー(p3p001310)の指示に従って、傭兵団達が班分けしていく。一方でイレギュラーズ達も二手に別れる。
「さてさて、今日もお仕事日和だお。害虫駆除と洒落込むんだぬ。そりゃもう、徹底的に……にゃ?」
 ニル=エルサリス(p3p002400)の言葉に同意するように互いが互いに頷きあい、総勢二十人の面々は壁を乗り越えて砦の中へと踏み込んだ。


 A班となった五人のイレギュラーズ達が侵入して少し。やや入り組んだ路地の一つに差し掛かった時だった。
静かに迅速に、陽動とともなるべく、しかし真正面から堂々と侵入した彼らの前に、一人の毒蠍の姿が見えた。
「火事場を狙ってくる毒虫共め。ここできっちり駆除しておかねーとな!」
 それを見止め、高らかに宣言しながら、大鐵を構えるは『暴猛たる巨牛』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)だ。
 大鐵を振るい、気の砲弾を打ち抜いたルウに対して、その毒蠍は驚いた様子を見せ、そのまま建築物の陰へと跳んで逃げ込んでいく。
 空しく走った気弾はその向こうにあった建物の壁を盛大に粉砕する。
「なにもんだ、てめえら!!」
 壁の向こうから男の声。逃げていった毒蠍であろうか。
「運がなかったわね。……依頼人のオーダーよ。一人たりとも見逃しはしないわ」
 アンナは静かにそう告げる。
「はっ、どっちが!」
 嘲るように男はいう。その直後、ルウに向けて背後から一本の矢が飛ぶ。しかし、ルウは後ろを見ることなくそれを難なく避けた。
「こそ泥らしく卑怯な手ぇ使うじゃねえか!」
 視線の先にいたのは、建物の中にいた女。その手には弓が握られている。
「世間様がサーカスで大騒ぎになってる時にこそこそと残党様が脱出行。これでは蠍というかネズミなのです」
  『お天気システム』気象衛星 ひまわり 30XX(p3p002661)はそんなことを言いながら、おもむろにレールガンを構えて女に向けて引き金を引いた。バジィッと音を立て、狙いすまされた精密射撃が女へと炸裂する。女の悲鳴が、建物の中から聞こえた。
「どうした!!」
 レールガンと壁が飛んだ音が聞こえたのか、また一人、毒蠍が姿を現わす。
 槍を持ったソイツに向けて走り出したのは 『常闇を歩く』ヴァン・ローマン(p3p004968)だ。ヴァンは一気に槍使いに接近すると、流麗に舞うがごとく剣を閃かせる。
「子供だなどと思わないでくださいね」
 男の胴部を微かに裂いて、ヴァンは静かに告げた。うめき声を聞きながら構えなおし、ヴァンは男を真っすぐに見つめる。
「吹っ飛ぶんだお!」
 その隣、 ニルはそれに続くように槍使いをどつき、吹っ飛ばす。
 アンナは仲間達が戦いを開始した頃、アンナは密かに迂回して、建物の影に隠れた男の背後へと回り込む。
 男は気づいていない。どうやら、派手な動きをしながら接近してくるルウの姿に集中しているようだ。
 息を殺し、抜いた憧憬の水晶剣。影から優雅に放たれた、流麗なる剣戟が最初に見た男を背後から切り捨てる。
「うぐっ!? 小娘がぁ!!」
 舌打ち、反転してのアンナへ剣戟を見舞う。しかしアンナはそれを軽く交わして後退する。
「てめえらが何もんか知らねえが、俺達に喧嘩売ったんだ、買ってやろうじゃあねえか!」
 猛る男だったが、背後から放たれたルウの気弾に心臓辺りをくりぬかれる。こふっと血を口から漏らし、男はそのまま地に伏していった。
「ぽこちゃかパーティ、はっじまっるお~!!」
 そう、テンション高く ニルは言うと、その斧使い達へとわけも分からない、けれど鋭い一撃を見舞っていく。


 A班がいるであろう方向から、戦闘の音がこちらまで来ていた。まだ、法螺貝の音はない。
「派手にやってるみてェだなァ」
 『戦好きのハイエナ』Briga=Crocuta(p3p002861)が立ち止まって音の方を向く。
「合図の法螺貝の音はなってないみたいだね」
「一度も聞こえてないから、まだバルドゥインとも遭遇してないみたいだね」
「……来たみたいよ」
 メートヒェンの言葉に答えるようにミスティカが言った。
 ミスティカの視線の方角、鴉が空でカァと啼く。その啼き声に導かれてきたかのように、毒蠍らは姿を現わした。
「こっちにもいやがるのかよ……」
「貴方達の行動は全てお見通し。私達に目を付けられたのが、運のツキだったわね」
 両手にナイフを持った男に対してミスティカは静かに答え、自らの力を増幅させる。
「それじゃあ、行くかのう」
 ゲンリー、メートヒェン、Briga、緋呂斗の四人が前に出て、ミスティカは少し後退する。
 対するように、敵もそれぞれ武器を構えた。後衛の弓使いが二人に、それぞれナックル、ナイフ、十字槍を持った前衛の毒蠍が三人。人数は互いに等しい。
 まず動いたのはBrigaだ。 巨大なバトルアックスを悠々と振り上げ、前にいた十字槍の男へと振り下ろす。血飛沫が上がり、男がふらふらと後退する。
「棘が抜けた蠍野郎が! 尻尾巻いて砂の下に隠れてりゃ良かったのになァ!」
 にぃ、と狂気に満ちた戦好きの笑みを浮かべ、Brigaはブンと斧を振るう。それに怯えたようにして、弓使いの毒蠍の一人がBrigaに向けて矢を放つ。しかしその矢とBrigaの間に割り込んだメートヒェンがその鏃を綺麗に当てて蹴り上げる。
 ふわりと舞ったスカートの下を見せず、メイドは静かに前衛に立ちふさがった。
「そんな矢で攻撃が当たるとでも思ってるのかな?」
 さらりと挑発し、メートヒェンは構えなおす。その隣で緋呂斗は自らの筋力を強化し、ナイフ使いへと肉薄し、その長大なる剣を使って斬り上げた。
 うめき声を上げたそいつは、仕返しとばかりに緋呂斗へ向けてナイフを投げつける。頬をかすり、ナイフは緋呂斗の後ろへと消えていく。
「君たちはサーカスではないけど、悪いことをしたんだよね。だから、手加減はしないよ……」
 静かに、しかしその瞳にはっきりとした闘志を燃やしている。石畳を大きく踏み込んで相対する。
 ゲンリーは仲間たちの活躍を横に見ながら、ひたすらに前へと立ち向かっていく。ナックルを持った男に間合いを詰めさせないようにしながら、ドワーフとしての誇りを胸に、前へと踏み込んだ。

 戦闘が始まってから確実に時間が経っていた。
 激しい衝突の音が、城塞のいくつかの地点で轟くのをいくつか繰り返す。
 じりじりとした太陽の陽射しが城塞に影と反射光を彩り、戦いに加えて暑さからか、イレギュラーズ達の中には目に見えて汗をかいてしまう者もいた。
 相対していた全ての毒蠍を倒している。数え間違いがなければ、あと二人倒せば、合図をするべく決めていた目標の10人だ。
「ったく、だらしねえ。まぁだ突破口の一つも作れねえとは」
 そんな声に続いて、その声の方角にあった建物が折れ曲がるようにして砕け、轟音と土煙をあげる。
 開けた場所をそいつは悠々とした足取りで乗り越え現れた。
 イレギュラーズ達の中でも、どちらかといえば実力者揃いであるはずの今回のメンバーだったが、それでも、あるいはだからこそ、直ぐに何者か理解した。隆々とした筋肉と、身体に刻まれた幾つもの傷跡、そのやけに大きな武器。
「お主がバルドウィンじゃの」
「あぁ? なんだちっこい爺さん、アンタ、オレの名前知ってんのか?」
「いいなァ! 強そうじゃねェか!」
 獲物の実力にBrigaは斧を握りなおし、メートヒェンはバルドウィンとの直線上に移動して壁役として全力を発揮せんと構えを取る。
「ボォォォオ」
 ゲンリーはそんな仲間たちの行動をみとめ、合図の法螺貝を吹いた。戦場にその音を一度。それはバルドウィンと相対したらと決めた合図だった。
「おうおう、いきのいい。で? そこをどいてくれるわけ……はねえよなぁ。あっちで馬鹿でけぇ陽動もしてるんだしよ」
 A班がいるであろう方向を顎で示し、やたらとでかい三角柱のような武器を無造作に構えたかと思うと、一足飛びで駆け抜け、眼前にいるメートヒェンに向けてゆらりと動かした三角柱を叩きこむ。
「くっ……!?」
 その所作、動きの軽やかさからは想像できないほどの重たい一撃が、メートヒェンの腹部を打ち据える。固めた防御技術の賜物か、その一撃は思っているよりも軽い。
「私みたいなか弱い女1人も倒せないなんて、噂の盗賊団もたいしたことなかったんだね」
 メイドとして、騎士として、守りの要として、ここで倒れるわけにはいかない。メートヒェンは何でもないと言わんばかりに、バルドウィンを挑発する。
「ははっ! いいねえ! そうこなくちゃよ。雑魚をいくら屠ったか知らねえが、言うだけのことはあってくれよ?」
 ガラの悪い大男は、楽しげに笑んだ。それに答えるように、ミスティカは巨大なる魔導砲に己の心の内にある闇を種として充填させ――放射する。黒き光弾は、真っすぐに照射されてバルドウィンの肩口を打ち抜いた。
 対応するように動いたBrigaは、己の血を力に変えて渾身の力を込めた捨て身の攻撃を叩きこむ。
 バルドウィンはそれを受けて足をもつらせ後退する。それを追いすがったゲンリーは更に深くバルドウィンへと突撃し、その懐へと入り込む。
 ガンッと強い音を立て、振り上げたランページは三角柱に防がれる。
「しびれるねえ。けど、疲れてんじゃねえか」
「攻めて、攻めて、攻め抜くのが鋼の谷のドワーフの流儀よ」
「いいねえ、好きだぜ、そういうの」
 楽しげな笑みを崩さない。緋呂斗はその様子を見据え、飛び込む。ゲンリー同様に懐に潜り込み、その長大なりし剣を見舞う。対し、バルドウィンはゲンリーの斧を弾いた流れそのままに、緋呂斗の剣をするりと交わす。
「はっはっ! いいねえ、いいねえ!! こうでなくちゃよぉ」
 ブゥンと音を立てながら三角柱を頭上で回転させる。目の前の敵の実力をはっきりと感じながら、イレギュラーズ達はじりじりと自分の間合いを整えていく。
 そんな時だった。A班とは違う方向から、五度に渡る法螺貝の音が戦場に響いた。戦いは、この男を倒せば終わる。
 少なくとも、もう逃亡を許すような状況ではなくなりつつあった。


 苛烈な戦いは続く。A班の面々は最初に法螺貝が鳴った方――バルドウィンと会敵した味方の所に辿り着くと、目の前に広がる光景に敵の実力を思い知らされた。
 戦いの痕跡は、元々は建物であっただろうモノを僅かな塀のような薄い遮蔽物へと変えている。
 仲間も倒れた者がみえる。相対する大男の動きの緩慢さが聞いていたよりも弱そうに見えることを考えるに、倒れた者達の奮闘はたしかな功を持っているのだろう。
 アンナはミスティカの砲撃を躱したバルドウィンを見据えて、水晶剣を軽やかに振るい、斬撃を飛ばす。全くの死角であろう位置からの斬撃は、バルドウィンの背中を大きく切り裂いた。
「ガァッ!?」
 振り返られる。こちらに顔が向くよりも前、ルウとヴァンが突貫していた。
「アンタが蠍の大将かい! 大人しく潰されとけや、オラァ!」
 至近距離まで接近すると共に、掌に作り出した小型の気功爆弾を、掌底と共に叩き込む。ルウ自身をも痛めつける爆発を受け、敵が痛みにうめいた。。
「逃がしませんよ」
 それに続くように辿り着いたヴァンが躍るように名工の鍛え上げた剣で切り刻む。
 ニルが深呼吸をして呼吸を整え移動するのを見ながら、ひまわりは静かにやや後ろに下がる。
 それは、より精密に、研ぎ澄まされた最高の一撃を鼠で大きなソレに浴びせてやるための下準備。
 呼吸を整える。自らの持つ手数ははっきり言ってかなり少ない。だからこそ――決めるはただの一撃。
 静かに、落ち着いて、渾身の砲撃を撃ち放つ。ガリガリと音を立て、大地を削り、融解させながら、とっておきの一撃が、バルドウィンの胸辺りを打ち抜いた。
 恐らくは、肺のあたりか。
「ああぁぁぁががが……つぅあば!?」
 叫び、狂い、口から大量の血を吐く男に対して、ゆらりと動いたのは緋呂斗だった。
「まだまだ…負けるわけにはいかないんだ」
 こぼすように口にした言葉と共に、鈍重な一撃を、その心臓へと叩き込む。ずしりと重たい敵の身体が、緋呂斗の身体に倒れこんでくる。
「……僕は人のためになることをしたいだけなんだ」
 バルドウィンの身体を押し返して、大地に倒れた男を見降ろして漏れた一言は、苦しそうな声を残している。
「大丈夫かしら?」
「ありがとう。まだ大丈夫だよ」
 近づいてきたアンナにメートヒェンは頷いた。
「大将首は討てたがまだ終わっちゃいねぇ」
 ルウが反動でしびれる自分の腕を軽く振るいながら言うと、ヴァンが頷いて。
「お仕事の説明だと一人も逃したら駄目だって言ってたので……逃しません」
「ええ。こいつらにはせいぜいあの世で恨んでもらいましょう」
 ミスティカも残して鴉を呼ぶ。共有した情報から盗賊の残りの数を把握して、大体の場所に見当をつける。
「悪いけど、私は残っていいかな?」
 そう言ったのはメートヒェンだった。
「もう動けなくなった仲間がいるし、念のために見ていた方がいいと思うんだ」
 体力には自信がある。もっとやれるだろう。だが、倒れた戦友達を見捨てることは流石にできない。
 他の面々が頷くと、メートヒェンは仲間達を出来る限り壁際に寄せて、戦える者達を見送った。


 ただでさえこちらとほぼ同数に減った戦力、注意すべきだった大将首はもうない。
 それが意味するこの戦いの結末は、最早決まっているに等しい。
「火事場泥棒ども! 逃げる場所があると思うなァ!」
 ルウは猛りながら目に付いた毒蠍を気弾で撃ち殺す。
「あら怖い。私と少し踊って頂けないかしら?」
 振り上げられた剣を目にアンナは上目遣いで毒蠍を見つめ、次の瞬間には華麗に切り刻む。
 恐れおののき、逃げようとした者の前に立ちふさがったニルは、そのまま男の首元を握り、くるりと大地へたたきつける。頭部を強打したその男は、二度と起き上がってこなかった。
「恨んだりは無しですよ。…悪いことをした、貴方達がいけないんですから」
 そう言い残したヴァンの剣が、毒蠍に首をさっくりと胴と別れさせる。
 前衛の手早い行動で恐慌状態となった敵の残党は、ひまわりとミスティカが正確に撃ち殺していく。
 文字通り、一人残らず城塞の床に命を散らすまで、イレギュラーズ達の戦いは終わりを告げなかった。


「……そうですか。ありがとうございました」
 全ての敵を屠り、それを纏めて埋葬したイレギュラーズ達がブラウベルクの町に訪れると、依頼主である【蒼の貴族令嬢】テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)は感情の見えない声でいう。
「ごめんなさいね。相手が賊とはいえ、文字通り皆殺しにしろというオーダーをしてしまって」
 そう謝りつつも、静かに目を閉じて、一つ息を吐く。
「あまり気分は良くないかもしれませんが、皆様のおかげで、領民を虐げたやつらを排除できましたから……気に病むのはやめてくださいね?」
 最後まで貴族らしくそう告げて、少女はイレギュラーズ達から視線を外し、夕焼けに代わりつつある空に横顔を晒す。
 その表情が少しばかり痛そうに見えなくもなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おかえりなさいませ。
激闘お疲れ様でした。

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