海獣咆哮、海を裂き

オープニング

●海獣咆哮、海を裂き
　静寂の青に面す、ネオ・フロンティア海洋王国。
　周辺の諸島同士を結ぶ交易船が、燦々と降り注ぐ日射しを背に、大海原を行き交う。
「あー、今日も良い天気だ！　さぁ、野郎共、次の島へと漕ぎ出すぜえ！！」
「おーーー！！」
　海の上で、景気づけにぐびっと一杯の酒を飲み干す海の漢。
　微かな酔いを感じながら、ヨーソローと櫂を左、右と漕ぎ出していく。
　段々と勢いに乗って、船はスピードを上げて目的地の島へ。
　そこに。
「ウォォォン……！！」
　突然聞こえてきたのは、何かの咆哮。
　海の上、当然ながら獣の様な者は周りには見受けられない。
「んー。こりゃ気のせいだよな、うん、気のせい！！」
　気にせず豪快に笑い、針路を変えること無く、水飛沫を上げて全速前進。
　すると、船の真っ正面に、ざばああん、と水飛沫を上げて水上に飛び上がるのは、体長十数メートルの巨大イカと、巨大タコ。
　二つの巨大な水棲生物は、互いに絡みつきながら、吸盤で身を吸い、ゲソで殴り、イカスミで視界を奪う。
　そんな巨大水棲生物の乱闘が突如至近距離で起きたから、全速前進している船は避ける事も出来ず……その争いの中に突っ込むしか無かった。

●
「イレギュラーズの皆さん。海洋王国の海で、巨大なタコさんと巨大なイカさんが争い合って居る様なのです」
　『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がにっこりとイレギュラーズに微笑む。
　巨大タコと巨大イカが、海原の上で争う……ある意味海洋王国では、そんなに珍しい事件ではないかもしれない。
　とは言え水棲動物達がこの様に暴れ廻っていては、おちおち船を出す事も出来ない。
「これでは交易に支障がある、という事で、ネオ・フロンティア海洋王国の貴族の方々から依頼が来たのです。イレギュラーズの皆さんには、この脅威を撃破してきて欲しいのです！」
「ある程度、この巨大水棲生物たちが出てくる海域は分かって居るのです。そこで波を大きく立てたりすると、タコさんイカさん、どっちも相手が煩いと思うみたいで、開場で喧嘩を始める、という構図の様なのです」
「その貴族さんからは『一隻の船は貸すから、さっさと不快な水棲生物達をぶっ潰してきて欲しい』との事なのです。勿論海洋王国の平和の為にも、悪い事ではないと思うのです」
「とは言え巨大なタコさんイカさんは、船のことなど露知らず海上で喧嘩する様ですから、足場はとっても不安定になると思うのです。そこの所は、注意しておいて欲しいのです！　という訳で、皆さん、宜しく頼むのですよ！！」
　そして、ぎゅっと拳を振り上げるのであった。

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●海風薫る
　ネオ・フロンティア海洋王国。
　様々な交易船が島々を往来している中に、突如生まれた障害。
　とある貴族より、その障害に対処してきて欲しいという話を聞いたイレギュラーズ達は、数艘の船に分乗し、その海域に向けて漕ぎ出していた。
　とは言え広がる大海原、穏やかな波が広がるには、障害があるとは思えないのだが……。
「あはは、まさに海獣大決戦……海洋はこの手のロマンに満ち溢れていますね」
　と、受けた依頼に改めて苦笑するのは、『勇往邁進』リディア・Ｔ・レオンハート（p3p008325）。
　それに『煙草のくゆるは』綾志 以蔵（p3p008975）も、煙草の煙をくゆらせながら。
「ああ。ったくよぉ……酔っ払いの喧嘩でもそうだが、喧嘩するんだったら周りに迷惑かからないようにやってほしいもんだぜ。ま、タコやイカに言ったところでしょうがねぇだろうが」
　と、深く溜息。
　今回イレギュラーズ達が受けた依頼は、端的に言えば通商の障害を取り除いてきて欲しい、という物である。
　海賊やら、航路が無いとかではなく……巨大なイカとタコが航路上で争っていて、通商に支障が出ているから、退治為てきて欲しいという話な訳で。
「おっきなイカやタコが相手かぁ……確かイカやタコって食材になるんだよね。私、食べてみたいなぁ」
　とクヴァレ（p3p009101）がぼんやり言うと、それに『風読禽』カイト・シャルラハ（p3p000684）が威勢良く。
「ああ、タコもイカも所詮は海鮮。一番強いのは鷹だって教えてやらァ！！」
　彼の猟師の血は、この環境に湧き踊っているらしい。
　その言葉に更にクヴァレは。
「わぁい！　生で焼いたり……あ、でも吸盤に痺れ薬とかあるんだっけ？　海洋の人ならどう食べるか知ってるかなぁ？」
　そう小首を傾げる。
　それに『静謐の勇医』ココロ＝Bliss＝Solitude（p3p000323）が。
「そうね……生で食べるのは、余りお勧め出来ないわね。毒とか、イカスミとかは最低限処理しないといけなさそうだし」
「そうなんだ！　分かった！　依頼の達成、それに今日のお夕飯の為にも頑張らないと！！」
　かなり気合いが入るクヴァレに対し『特異運命座標』羽住・利一（p3p007934）は。
「まあ、交易が行えなくなると、海洋王国や商人だけでなくみんなが困ってしまう。早急に解決しようじゃないか」
　と笑い、そして以蔵とリディアも。
「そうだな。馬鹿なこと言ってねーで仕事仕事、と。これも考えようによっちゃビジネスチャンス、ってな」
「ええ、例え狂王種であっても倒して食べる海洋魂――存分に発揮致しましょう！」
　と、触発されて気合いが入る。
　……そんな仲間達の言葉に対し、海風を感じながら『戦気昂揚』エイヴァン＝フルブス＝グラキオール（p3p000072）は瞑目。
「盾か……」
　何か釈然としてなさそうなエイヴァンに、『幻蒼海龍』十夜 縁（p3p000099）が。
「どうしたんだい？」
　と、軽く声を掛ける。
　エイヴァンは静かに目を開き。
「……いや……何でもない。俺が適任なのは納得しているからな」
　とぽつり、それに縁は。
「ああ……そうだな。宜しく頼むな。正直あのリヴァイアサンを見た後だと、今回のようなどでかいタコやイカなんて、可愛いモンに思えちまうけどな。ま、何にせよ面倒な連中だってことに変わりはねぇけどよ」
「そうだな。面倒だって事は変わりはねぇさ」
　肩を竦めるエイヴァン。
　だが、そんな二人に対しカイトが。
「大丈夫大丈夫！　まぁ大船に乗った気持ちで行こうぜ！！」
　一際元気よく、そして豪快に笑う彼に頷き、針路を進めるのであった。

●海の藻屑
　そして、航路を進むイレギュラーズ。
「船で移動だなんて、なんだかお出かけみたいでわくわくしちゃうけど……でも、気を引き締めないとね」
　と、クヴァレの言葉に、そうだな、と以蔵が頷く。
　空は晴れ、海路も良好。
　その様な状況では、巨大タコ・イカが争うだなんて普通なら、誰しも思わない所だろう。
「いや……確実に近づいているな。そこまで離れてはいない」
　しかしエイヴァンは、航路の先を見据え、厳しい表情でぽつりと零す。
　それに対し、縁が。
「ああ……油断大敵だな」
　と頷きながら、エイヴァンと同じく水面を監視し続ける。
　そんな厳しい監視の目を光らせながら、更に航路を進んで行く。
　すると……海がザバァンと二つに割り開き、そこから姿を現す水棲生物。
　奇っ怪な叫び声と、咆哮が水面に響きわたり、波を立てていく。
　そして、遠くの海の上で戦うタコとイカが二体ずつ出現。
　タコが触手を絡みつかせ、動きを拘束するも、それにイカスミを顔に噴出する事で対抗。
　まさしく海獣大戦争といった光景に。
「おー、盛り上がっていますねぇ……」
　リディアが苦笑と共に言葉を零すと、それにココロ、クヴァレも。
「本当だ。イカとタコがほんとに殴り合ってる……」
「ですね。あそこにど真ん中から突っ込んで、真っ向から仕掛けるのは、流石にちょっと船の方が心配です」
「うん。戦いの中で船が壊れちゃうなんてこと、ないとは思うけど……保護結界の用意はしておいたよ。なるべくなら船が傷つかない方がいいもんね！」
「しかし気持ちとしてはタコは死滅してほしいものですが、どうせ両方倒さないといけないのですよねぇ」
「ええ。まぁ……海洋の人達に迷惑を掛けるのを、このまま放置しておく訳にはいきません！」
　そして操舵する以蔵が、真っ直ぐにイカタコの戦闘域へ針路を取る。
　無論、争うイカタコによって、海原が大きく荒れる状況。
　しかしながら、以蔵の操船技術で出来る限り船の揺れが最小限になる様に操船し、仲間達の足場を確保。
　そしてイカタコがイレギュラーズ達に気付いていない所で、エイヴァンは先ず、メイドインメイドで自己強化。
　更には飛行を持つカイト、利一、リディアは、少し浮かぶ事で、不意の揺れに対しても体制を維持出来るようにする。
　そしてある程度の距離まで近づいた所で船を停止し、一旦イカタコの戦闘を、様子見。
　変わらずイカタコはと争い合い、お互いを傷付け合う。
　勿論、その攻撃は無差別に振るわれていて……近づいてきた船に対しても不意にイカスミが掛かり、脚が船にぶつかり、傷つける事となる。
「そろそろ仕掛けましょうか。このままだと、先に船が沈没しかねません」
　と利一の提案に、皆も頷き覚悟を決める。
　そして、リディアは。
「では……参ります！」
　と、己にバトラーズハイを発動し、自己強化付与為た上で先陣を切る。
「横槍失礼しますよ！　セブンスターズ……バルムンクッ！！」
　と、『七星極光『断空牙』』で、イカへと先手の一撃を放つ。
「グゥオォォ……！」
　攻撃を喰らったイカが苦悶の呻きを上げる一方、タコは腕をバタバタさせて嬉しそうな雰囲気を醸し出す。
　でも、もう一体のイカがプシュウ、とイカスミを辺り構わず噴出。
　海面がみるみる内にイカスミに染まり、タコイカ共に暴れ廻る。
　一回り、周りに大迷惑を齎している海獣。
　当然、波も激しくなり、甲板が大きく揺れる。
「っ……！」
　その波を左へ、右へと操舵し、出来る限り足場を安定させようとする以蔵。
　そしてカイトが。
「さぁ、始めるぞ！！」
　と、タコの上空に向けて飛翔。
　飛翔してきたカイトを撃ち落とそうと、腕を振り上げてくるが、ギリギリ回避……そして、タコの頭上より羽根と炎を纏わせた竜巻のような火炎旋風を引き起こし、イカに向けて放つ。
　イカは炎に巻き込まれ、水分が蒸発し、焼けた匂いが薫る。
　でも、まだ倒れる程では無い様で、更に触腕をぐりんぐりんと振り回してタコの上に居るカイトをはたき落とそうとする。
　左から、右から立て続けの一撃を、左へ、右へ、と回避。
　それに続き、エイヴァンが。
「まぁ、取りあえずとっとと倒して美味しく頂くとしようか」
　と言うと共に、ヴィエルナシチ・ザミルザーニイを、イカに向けて放ち怒りを付与。
　ターゲットがエイヴァンへと移動する一方で、タコはまだまだイカへの狙いを変えない。
　そんなタコへ利一が接敵し、歪業を発動。
　敵に恍惚状態を付与すると共に、そこに縁が続いいて真下より狂濤を吹き上げさせる、澪標を発動。
　不意を突かれる形での噴射に、タコは驚いた模様。
　勿論そうなれば、イカと共にイレギュラーズが敵、と認識した様で。
　イカはタコとイレギュラーズ、タコはイカとイレギュラーズ……という三竦みの敵対関係。
　そして今度はタコが、吸盤の腕をパシン、と振り回して反撃。
　その吸盤が当たると、プチッとした感触と共に毒の棘が体内に突き刺さり、痺れが生じる。
「大丈夫！？」
　とココロが言うと共に、攻撃を受けた仲間達に対しEmmanuelで回復。
　続いてリディアが「七星極光『蒼炎斬』」を軸に全力攻撃。
　更に以蔵は操舵輪の近くより、ハニーコムガトリングで遠距離攻撃。
　そして、クヴァレは最後に。
「基本に忠実に。自分に出来ることを、がんばる！」
　自分に言い聞かせるようにしながら、キュアイービルで先程の吸盤の棘を解消する。
　どちらも行動が一巡し、次の刻。
　とは言えイカもタコも、やはりその吸盤や触腕を振り回し、イカスミを辺り構わず噴き出して視界を奪うのをただ単純に繰り返すがのみ。
　更に多数の腕により、一撃、二撃で済む事は無く、怒濤の連続攻撃を仕掛けてくる。
　そんなイカスミ攻撃に対しては、出来る限り回避するが……流石に躱しきれずに、暗闇のバッドステータスを受けてしまう。
　しかし、それらのバッドステータスに対しては、出来る限り早急にココロとクヴァレの二人が、Emmanuelとキュアイービルを掛ける事で、出来る限りバッドステータスを残さないようにしていく。
　又、触腕が絡みついて、拘束を受けた仲間に対しては。
「おい、獲物はてめぇだけだ、離しやがれ！」
　と、素早くカイトが飛び込みつつ、斬神空波で斬り払い、力尽くで拘束を解除する。
　そして、解除された後にエイヴァンが、先程攻撃した相手とは別のイカに向けてヴィエルナシチを発動し、怒りを付与。
　更には縁も、澪標をもう一体のタコに向けて発動、驚かせる。
　とのエイヴァンと縁の攻撃の結果、イカもタコも、奇っ怪な咆哮を更に上げ、威嚇。
　攻撃が二人に向いて居る間に、死角へと回り込む。
　そして、利一が歪業で再度恍惚を付与した相手に、リディアの七星極光『蒼炎斬』。
　恍惚効果により、ダメージを倍にして叩き込む。
　そんな連携攻撃によって、イカ一匹が一刀両断に分断され、海上へと力無く打上げられる。
「っし、先ずは一体。後３体だ！」
　とカイトが仲間達に発破を掛ける。
　イカが一匹減り、タコ二匹は、イカを殺す好機と判断したのか、攻撃の手を一端イカへと集中させる。
「よしよし……んじゃあ俺達もだ！」
　勿論、そのチャンスを活かさない事は無い。
　イレギュラーズ達も、その攻撃の手をイカへと集中させる事で、数十秒の内に残るイカをも討伐。
　残る敵は、タコ２体のみ。勿論イカが居なくなったので、真っ正面から対峙する形となる。
　とは言え、一番面倒なイカスミの攻撃はもう襲ってくる事はない。
「取りあえず、一匹ずつ確実に減らして行きましょう……特に吸盤には注意して下さいね」
「ああ、そうだな！」
　利一に頷くカイト。
　そしてカイトは仲間たちとは逆の方から。
「食えなくしてやるぜ！　まぁ毒抜きも出来るだろうしな！」
　と紅珞のシャルラハを発動し、致死毒を一体に付与。
　毒を付与されたタコに対し、後衛の以蔵と、エイヴァン、縁、利一、リディアの前衛陣が怒濤の攻撃で、その体力を削る。
　勿論、吸盤の反撃も熾烈になるが、ココロとクヴァレがしっかりとバッドステータスからの回復をサポート。
　そして……戦闘開始から十分程。
「これで、しまいさ」
　と、D・ペネトレイションを、タコの頭頂部に向けて打ち放つ。
　死の狂弾は確実に脳を貫き……最後のタコも、海上に打上げられた。

●風を纏いて
「ふぅ……どうにか終わった様ですね。皆さん、お疲れ様でした！」
　と、汗を拭いつつ、皆に振り返るリディア。
　それに縁とエイヴァンも。
「色々とイカスミやら吸盤やらで大変だったが……どうにか終わったな」
「ああ。まぁ……取りあえずは無事だ。と言う訳で……あれ、するんだよな？」
　それにこくり、と頷くリディア。
「ええ。倒したイカとタコ、私も少し分けて貰っても良いですか……？」
　と小首をかしげると、クヴァレも。
「あ、私もいいですか……？　イカもタコも、どんな味がするんだろう……！」
　キラキラした雰囲気を醸し出すクヴァレ。
「そうだな、皆、喰いたいよな！　水揚げと捌くのは手伝うぜ！」
　とカイトが意気揚々と、猟師の腕を活かして船に打ち上がったままの巨大イカとタコを下処理し、色々と切り分けていく。
　その手際の良さに関心しつつも、どんどんと積み上がっていくイカとタコの量に。
「……こんだけデカけりゃ、ここにいる奴らに分けたとしても、サヨナキドリでバーゲンセールでも開けそうだな。一応、あの人に連絡しとくか」
　以蔵が言う通り、カイトがひょいひょい全員分切り分けていっても、一人頭の量も、かなりのもの。
　その大量さに理ティアが。
「これ、ギルドで出せば皆さんきっと喜んでくれると思います！」
　と、満面の笑みを浮かべる。
　そして、一通り切り分けた後に、ココロは。
「あの……折角ですし、新鮮な内に一つ、作ってみてもいいですか？」
　とココロが手を上げる。
「お、いいな、どんな料理だ！？」
　カイトが乗ってくると、それにココロは。
「いかめし、でも作ってみたいなと思いまして……良く洗った足に餅米を入れて、みりんと醤油を混ぜて煮詰めるだけですし」
「おお、面白そうだな！」
　そしてカイトも手伝って、新鮮なイカの足を利用してのイカめしを作るココロ。
　それを夕食の代わりに、と頬張りながらイレギュラーズは帰航の路へとついた。

成否

成功

ＭＶＰ

なし

状態異常

なし

あとがき

海洋王国でのイカタコ大戦争にご参加いただきました皆様、本当にありがとうございます！
多少コミカル気味を狙いましたが、如何でしたでしょうか。
皆様、イカタコを食べて、お腹壊さないようにお気を付け下さい……ね？