シナリオ詳細
<傾月の京>冥き夢見し
オープニング
●必要悪
戦が始まると聞いた時、柵魔星は「さもありなん」と思ったものだった。
カムイグラの暗部として人の口の端に上る『冥』は七扇の――否さ、八扇の懐刀である。
長閑なる神威神楽という歴史に棲む異物であり、悪徳である。魔星を含め――『冥』は常に時の権力者に忠実であり続け、何と謗られようともその走狗を辞める心算は無かった。
それは別段『悪徳』を好いての事では無い。
それは別段『権力者』を好んでの事では無い。
産まれながらにそうあれと命じられた生き方というものはそう変わるモノではなく、その身に染みついた忠勇は呪いのように解けざるものだっただけだ。結局の所、『冥』の誰もが『この生き方』の他は知らず。またそれに疑問を持つような価値観を持ち合わせなかった、が答えであろう。
さりとて。
「……これは、転機になるのであろうな」
妖しげなる頭巾の向こうの表情は外には晒さず、魔星は呟かずにはいられなかった。
今や宮中は異様なる風体、尋常ならざる風情を湛えた化け物共の跋扈する魔境と化していた。それ等はこの宮殿を守る手段としては些かはしたなく。聞けば同じような者共は元は帝を遣わした此岸ノ辺までも攻め入ろうとしているというではないか。
神威神楽の宮中が伏魔殿でなかった事等一度も無いが、伏せているだけ躾が良かったというものだった。大きな変化自体は霞帝が降臨したその時より始まっていたのかも知れないが、空気が変わったのは帝が眠りにつき、あの巫女姫が現れてからだ。魔星等の実質の主君である天香長胤の行状も含めて状況は中々に余りある。
(はて、どうしたものか)
『忍』に類する者が『政治的判断』を求められる事は多くなく、同時に仕事に疑問を感じる事は正しいとは言えまい。しかして魔星は僅かながら現状に己の判断を滑り込ませていた。『冥』は天香の忠実な手足だが、彼に近い魔星だからこそ盲目的に現状を是認し難いのも事実だった。
(俺はつくづく――長胤様とは腐れ縁よ)
苦笑めいた魔星が長胤の命で汚れ仕事をこなした数は両手両足の指では足りぬ。彼が時に私欲の為に権勢を振るい、敵対者を卑劣な手段で葬ってきた人間である事は間違いなく誰よりも知っている。
しかし同時に――天香長胤は神威神楽にとって常に必要な悪だった。
彼は些か傲慢な性格であり、強権的に物事を進める癖こそあったものの、神威神楽の政を動かす為の心臓であり、傷付けた何倍もの人間を救ってきたのは確かである。『主君の贔屓目がある』と言えばそれまでだが、彼は確かに『素晴らしい政治家』だった。
『神威神楽の住民、それもヤオヨロズに位置する魔星からすれば、話をややこしくしたのは獄人、取り分け建葉晴明等を重用し始めた眠れる霞帝の方であり、巫女姫等はそもそも論ずるに値しない』。従って魔星は現時点をもってしても長胤はこの国に必要不可欠な重鎮であり、どう最悪を極めても彼を、ひいては天香家を守る事こそが国益に叶うと信じている。
「さて、今回ばかりは――中々骨の折れる仕事となりそうだ」
異郷人との戦いは最早不可避となっている。
この満月の夜は血で血を洗う恐るべき時間となるのだろうが――巫女姫は姉君に執心で愛すべき主君は弟君の件で視野狭窄になっている。故にここは小細工の一つも利かせやすい所ではある。
(魔種がどうとかいう与太話は兎も角、巫女姫の排除は問題ない。
特異運命座標なる者共が『実力十分で話の分かる連中ならば』或いは……)
繰り返すが、柵魔星にとって重要なのは自家と神威神楽の隆盛だ。
それに偉そうな顔で和歌を詠み、誰にも知られずに細君に届けろと命じた彼も決して嫌いではなかった。
●善なるもの
特異運命座標の目は節穴ではない。
神威神楽の中枢に魔種が潜んでいるのは分かり切った事実であった。
海を渡って到った新天地で活動するに当面、対決姿勢を取れないという事情はやはりやむを得ず。面従腹背、或いは温くも冷ややかな政治的駆け引きで互いに様子を伺い続けたのは事実だったが、やがて来る破綻の時はやはり約束されたものだったと言わざるを得ない。
『けがれの巫女』つづりが、高天京に存在する高天御所にて、強大な呪詛が行われることを感知したのは別段驚くべき情報ではなく、その時が来た事を告げたのみだった。
どうあれ不倶戴天の魔種と特異運命座標の道が交わる事は無い。かくて互いに『微温湯の関係』を捨て去った彼我勢力は全面的な衝突の時間を迎えるに到ったという訳である。
ローレット側の戦略目標は『大呪』の成就を期する高天御所を襲撃し、この達成を阻止する事。翻って魔種側の狙いは外界の戦力の中継点となる『此岸ノ辺』を制圧し、邪魔者達の介入を止める事になろう。
果たして攻めと守り二面の作戦を強いられるイレギュラーズだが、今晩、この場に居るのはその刃の方であった。かき集められた戦力は御所内あちこちで奮闘を続けている筈だ。呪詛により強大化した妖に、『忌』、怨霊、呪獣、肉腫に魔種――何れも厄介極まりない連中だが、
「高天御所のお庭番、ね」
呟いたこのイレギュラーズが相手取らねばならぬのは天香派の『人間』であった。
彼等は正気を保っているらしいが、高い任務遂行意識を持つ正真正銘の忍であり、七扇の直轄部隊とされる『冥』の中でも最精鋭と呼ぶべき連中であるという。
破壊工作と奇襲に優れるエリート部隊を放置しておいてはどんな不測の事態が起きるとも限らない。如何な強敵であろうとも攻め入るならばこの部隊を抑えつけるのは必要不可欠であると言えるのだが――
「……………さて、どうなる事か」
――イレギュラーズの憂鬱は相手がその『御庭番衆だけではない』事に起因する。
――気を付けて。皆とは別に宮殿を目指している人が居る。
懸念を見せたつづりから掛けられた言葉が指し示すのは死神の鬼札だ。
「……狙いは良く分からないけど」と言われるまでも無く、その目的など知れていた――
- <傾月の京>冥き夢見しLv:30以上完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別EX
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2020年10月06日 22時25分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●月夜の変
空にはぽっかりと浮かんだ不吉の月。
傾月の京――動乱の高天京。
神威神楽の政の中枢たる高天御所は平素の静けさも忘れ、尋常ならざる気配に満ちていた。
それは宮中実力者――天香長胤を担ぐ兵達である。それは魔性と化した殿中の抱く『魔』なる者共である。それは巫女姫の尖兵である。そして、そこに攻め入らんとする特異運命座標達の気配であった。
「これは数奇、と言うべきなのでしょうね」
吐息と共に言葉を零した『月下美人』久住・舞花(p3p005056)の美貌は夜に映える。
幾つかの大きな運命が交差した結果、彼女をはじめとしたイレギュラーズはこの国に在る。当初より神威神楽の中枢に魔種の手が食い込んでいる事は分かっていたが、互いに隠せぬ敵愾心を隠す――そんな温い『休戦期間』が終わりを告げたのは余りに突然の出来事だったと言える。
「――大呪を成させる訳にはいかない」
発端であり、引き金となったのは『敢然たる者』レイリ―=シュタイン(p3p007270)の呟いた一語だった。謂わば特異運命座標にとっては空中神殿の出張所とも言うべき中継点――『此岸ノ辺』のつづりよりもたらされた『大呪』の単語はまさに温い状況を劇的に変化させていた。
「個人的には大呪が成就した結果には興味があるけど……
興味だけで看過するのはあんまりだから。微力ながら僕も事態解決に尽力させて貰わないとね」
『精霊教師』ロト(p3p008480)の言う通り。
「今宵は満月。魔たるもの、大呪も死神も従えて見せましょう」
力強く響く宣誓のような『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)の言葉の通り。
宮中奥深くで密かに為される『大呪』なる災厄の正体、全容は全く知れなかったが――魔種の望む破滅的未来の感知を信ずるならば、これは決して捨て置けぬ出来事に違いない。
(豊穣の繁栄を願う気持ちを利用された、か。或いはそういう事もあるのかも知れない)
祈るように考えた『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)はこの戦いの先にある『可能性』に僅かに思いを馳せた。間違いを正したなら、お互いが歩み寄れたなら。この神威神楽に違う未来はあるのかも知れないと――
しかし、ポテトの想いを嘲り笑うかのように未来ならぬ現在は苛烈である。
「こりゃ、酷くやりあってやがるな――ゾクゾクするぜ」
大きな舌で唇をペロリとやった『大地に刻む拳』郷田 貴道(p3p000401)が目を細める。
「この仕事そのものも。それから――それから、まだ見ぬ『誰かさん』もな。
とんだ初対面になりそうだが、はてさて――どんな目が出るかな!」
東の果てのこの国を覆う不穏、その宮中に巣食う邪悪は最早その姿を隠す心算も無いらしく、住人のイレギュラーズが御所に到着した時点で既にあちこちで戦いは始まっているようだった。
「柵魔星、だっけ。忠義を尽くす相手の居る羨ましい人――
私にも素敵なご主人様が現れてくれたらいいのにね」
「会長は長胤くん嫌いじゃないよ!
上に立つっていうのは清いことだけしてれば成り立つ訳じゃないからね!
だから魔星くんとは――上手くやれればいいんだけど!」
パーティの目的は『魅惑の魔剣』チェルシー・ミストルフィン(p3p007243)や『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)の口にした柵魔星なる忍の棟梁をはじめとした一派を抑えつける事。厳密に言えば『一早く御所深くに侵入してしまえば、最精鋭部隊こと御庭番衆こそ自身等を捨て置けまい』という計算による。他の部隊に先んじて、同時に実力を見せつけるように動けばあちらの取り得る選択肢は必然的に狭まるという寸法だ。同時に何とも『微妙』なニュアンスを持つ茄子子の言が示す通り、柵魔星なる男には何かの含みがある事もイレギュラーズ側には推測されている。
――果たして。
多数の思惑の交錯する乱れの夜は文字通り運命の加速を望んでいた。この場、彼等に限らず。多くの戦士が、互いに意志をぶつけ合わせ、何かを得て。何かを失ってゆくのだろう。
断続的かつ局所的に発生する戦闘の隙を縫い、一段は宵闇の中を突く。
素早く果断に御所内部に侵入し、作戦目的を果たさんと進軍を続けていく――長い廊下を駆け抜け、奥を目指す彼らの視界に御殿の見事な庭園、中庭が現れた。
「お誂え向きと言うか何と言いますか――何とも見知った死線なのです」
余りにも『露骨』なるロケーションに苦笑を浮かべたのは『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)だった。美しい夜の庭園に異常はない。時折鼓膜を揺らす怒号や破壊音は『ここ』を発端にしていない。少なくとも一同の見る先は静まり返っていた。
「成る程、ミーにも全く掴めない。それでユーは?」
「少なくともこの目に映るものはないですね」
「成る程。遮蔽物に隠れる程度じゃないってトコか。そっちは?」
「流石と言いましょうか。でも」
貴道のハイセンスにも、舞花の透視の魔眼にもかかるものはない。
しかしながらヘイゼルだけは別だった。
「音の跳ね返りが違うのです。例えばそことか、あちらとか、向こうとか――」
庭園に潜む忍達が如何に己の存在を外の目より遮断していたとしても、『そこに存在する限り、音の反響の乱れ』だけは誤魔化せまい。
「――割れた手品は引っ込めた方がスマートだと思うのですが、どうでせうか」
「成る程な。戦い慣れている。
我々と同じく、貴殿らにとってもこの展開は予想通りだったという事か」
呼びかけたヘイゼルに応じるように複数の影が庭園の中に現れた。
月の夜から滲んで浮かび上がるように。恐ろしい程に冷たい殺気を抱く黒装束が都合五人――中でも今、低い声を発した男の存在感は頭一つ抜けている。
「ふ、良いですねこの殺気!
名うての忍びとその長! これ程の強者と立ち合える、なんたる僥倖でしょうか……!」
平素の落ち着きが嘘のように瞳を輝かせたのは『血雨斬り』すずな(p3p005307)である。
自覚しての『悪癖』には違いないが、姉弟子がそうであるのと同じように――彼女もまた、己が刀に信を問えるような場面が嫌いではない――どころか、こよなく愛していると言える。
「柵魔星とお見受けする」
「如何にも。そちらは異郷の者達で俺の敵だな。これは無意味な確認に過ぎまいが」
レイリーの言葉に魔星が頷いた。
「生憎と邪魔立てるぞ。お互い様であろうがな。この御殿から無事に帰すと思うなよ」
言った魔星に空気がざわめく。
「やっぱり、そうなりますよねぇ!」
言葉とは裏腹に何処か期待していたかのように利香が言った。
吹き抜けた夜の風に鬼気は迫り、彼我は同時に構えを取る。
戦いが、始まるのだ――
(――あの男ほどではない、けれど。
……強い。強い匂いがする。この国にも、恐ろしいほどの手練れが居るのね――)
水月月花にその身は及び――舞花の唇が笑みを刻んだ。
『この夜は柵魔星とその一派を食い止める為にある』。
だがそれだけではなく――やがて来る死神と邂逅する夜でもあるのだ。
一日千秋とは言わないが、『乙女心』は隠せない。
彼女はそれが嬉しくて――仕方ない!
●乱戦乱波I
敵は五人、翻って味方は十人――
「では、ゆるりと参りませうか」
確認と開始を告げるヘイゼルの言葉に自然に仲間達は頷いた。
速攻で肉薄し、数の優位を取れればイレギュラーズ側に傾くものも確かあろう。
そう、『人型』の数であればイレギュラーズの優位は自明の理であった。さりとて柵魔星と四人の御庭番衆――風林火山と称される――は先刻承知でこの迎撃に出ている。つまる所、それが意味するのは『人型の数の違いを含めたとしても、向こうからすれば十分に勝算がある』という結論に他ならない。
パーティの作戦はシンプルである。
まず、この場で最大に危険であろう魔星の対応はパーティ側で最も受けに優れた一人であると考えられるヘイゼルが受け持つ。仲間達も良く知る『遅延戦術の名手』である彼女の狙いは極力長く魔星を自身の元に縛り付け、『その後』を優位に運ぶ事にある。
それ以外のメンバーも忙しい。残る九人の内、六人が想定される猛攻に対応する手筈だ。それぞれ十二時から時計回りに舞花、すずな、貴道、ポテト、利香、チェルシー、レイリーが円陣を形成し、中央に支援役の茄子子とロトを配する構え。これは隙無く全方位からの攻撃を警戒すると同時に、流石にスタンドアローンで魔星に向かうは困難であろうヘイゼルを強く支援する為の動きでもあった。
「御先を失礼します。
申し訳ありませんが此処は行き止まりですよ……私を倒さない限り、では」
「――許したのか、許してくれたのかは知りませんが」と内心だけで呟いたヘイゼルは速やかに魔星に向けて距離を詰めた。彼女の口にしたのは「任せておいてね。任せるから」と口角に笑みを刻んだチェルシーの手管による。パーティの畏れるべきは折角抑えた筈の魔星の『横槍』であった。彼の邪魔――例えば広域を狙う範囲攻撃がパーティ本隊に及ばぬよう、チェルシーが画策したのは『パーティ側からのみ視認出来る形でヘイゼル周りに壁を張る』という作戦だった。
(あら! 案外うまくいったかも!)
内心で快哉を上げたチェルシーが作った『壁』は勿論、物理的な意味を持たない。作り上げられたのは一時で消える幻影に過ぎないが、成る程――ヘイゼルが一歩もそこを譲らないとするならば、射線は確かに途絶している。この瞬間を誤魔化すには十分だった。
「成る程、合理的だ」
頭巾の向こうの魔星の目が細くなる。
パーティの動きを見定めるようにしていた彼が高く口笛を吹いた時、その全ては始まった。
何処かに潜んでいた呪獣の群が四方八方より現れ、パーティ目掛けて肉薄してくる。『最短距離』を意識して移動せざるを得なかったパーティはいちいち道中を看破する暇は無く、『これ』を外すのは困難だった。だが、間一髪。この動きにもパーティは怯まぬだけの準備を整えていた。
「やはり、初手はこういった小手調べとなりましょうね。
しかし、侮れぬとは言っても――所詮は使い魔風情、疾く斬り伏せましょう!」
手古摺っていては目的達成など夢のまた夢。其れ位の気概で臨まねばその刃も曇るというもの!
「どれ程、通ずるか――」
閃いた竜胆は護剣――刃の結界である。
手近に向かってきた呪獣の爪牙をひらり避けたすずなは返す刀でこれを叩き伏せる。
「――いえ、通じさせねばなりますまい!」
作戦とは裏腹に気を吐いた彼女の――パーティ目標のクリアの方は難解だ。
「本当に気楽に依頼してくれるわよねぇ!」
「信頼されているって考えれば悪くないが、確かに今夜は『大概』だぜ」
やはり口程には厭わず嬉しそうとさえ言える利香や、肩を竦めた貴道もまた周囲を覆うように隙を狙う呪獣達との戦いを開始していた。見れば分かる通り『全周』を警戒したのはまずパーティの奏功であり、もし『前方』のみを見ていたならばこの時点で戦線は崩壊の憂き目にあった可能性さえ否めない!
元よりパーティの作戦目標は『これら難敵たる魔星以下御庭番衆勢力を自身等で引き付け、大呪阻止を遂行せんとする他の仲間達の支援を行う事』であるが、『引き付ける』という不安定な作戦目標が難しい。単純に倒せば済むのは間違いないが、仕事のオーダーがそうでない以上は『困難である』と見る向きは強く、必然的にパーティの思考は『遅延』による。ここまでは現状を見れば分かる事だ。しかして、その状況を更にややこしくするのが、この場に居ない『もう一人』の存在である。
(この上、『あの男』だものな――)
「きゃぁ! 助けてくださいレイリーさん……!」
『弱い』演技で敵を引き付けるポテトの一方で、レイリーは数を頼みに強烈に襲撃する敵影を掻き分けるように茄子子やロトを守護してみせる。
傷付きながらもその程度はあくまで掠り傷で、抜群の安定感と鉄壁を早晩から見せつけるレイリーの脳裏を過ぎるのは一人の男の顔だった。
……まぁ、そういう事にしておくか。
主等の健闘――特にそこの娘共の受けに免じて。
『あの夜』に掛けられた言葉は彼からすれば大した話ではなかっただろう。
再会したとて、問うて覚えている類のそれとも思わない。しかしながら、レイリーとしては事の他早くなるであろう再会がこの鉄火場になる事はある種の福音であると考えざるを得ないのだ。
高天御所を目指すもう一人の名前は死牡丹梅泉。
手練れのイレギュラーズの多くが知る『最悪』のジョーカーである。まずは好首尾に御庭番衆の猛攻を回避させた円形の陣も元はと言えば『彼』を恐れてのものであった。
「各自、任せる。必要に応じ動き、可及的速やかに片付けよ」
(御庭番衆にも思惑はあるようです。
どうやら天香と巫女姫では国の視点において見ている方向が違う様子ですが……
……さて、まずはこれを切り抜けねばお話すらにもなりませんか)
心あくまで静やかにその斬撃で呪獣の一を仕留めた舞花が目を細めた。
次々と襲い来る呪獣に対応するイレギュラーズの一方で魔星の号令を受けた風林火山が動き出したのだ。全レンジで殺傷力を発揮するとされる手練れの動き方は、
「まず戦わないとね!ㅤ柄じゃないけど頑張るぜ!」
「いや、そりゃそうだ。誰でもそうする。僕でも断然そうするね!」
陣形の中央――『支援役』にほぼ徹底する茄子子とロトに一層の気合いを入れさせるものになる。
「ロトくん、正直――もつ?」
「もたせてみせるさ。その心算で用意してる!」
「そうだね!」と笑って頷いた茄子子の声は問いの形をとってはいたが、ロトの強い回答を期待して引き出す為だけの言葉だったとも言えるだろう。元よりロトはソリッドシナジーとの併用で中長期戦に備え、特に防御側にも強い意識を置いている。一方の茄子子は三種の支援を使い分け、魔星と相対するヘイゼルも含めて幅広い方法で全体を支える構えである。
……つまり、結論から言えば。
風林火山の四人は円陣を数で押し込まれるパーティに接近していない。
『彼等はあくまでアウトレンジから範囲攻撃に徹している』。使い捨ての呪獣等に遠慮する事はなく、最高効率でパーティを殺傷する為に激風を、音刃を、猛火を土遁を猛烈なまでに叩きつけ始めたのだった。
呪獣で全員をレンジに押し込み、その外から最高効率で敵全員を脅かす――捨て駒の使い方を理解しきった動きは彼等が武を競わせる事に誇りを持つ武人ではなく、任務遂行に最上を置く忍である事を誰にも強く痛感させる。
「うわー! こりゃ大変じゃん!」
「合理的過ぎるんだよ!」
茄子子がロトが臍を噛む。
「――でも、負けないぞ!」
彼等やこのポテトの尽力は破綻の時間を遅らせるだろう。
しかし囲みを破れねば、結末は結局同じである。
「ああ、ホント! 確かに最短距離で殺しにくるって感じよね!」
声を上げたチェルシーの魔剣舞踏が敵を切り裂く。
一瞬で積み重ねられた大ダメージに仲間を次々と蝕む悪影響。
始まってすぐにこの戦場の正体を重ねて理解した面々は敵の猛攻を強烈なまでに押し返す!
惑えば死ぬし、ここに何の救いも無い――理解して臨まばこの戦いもまた想定の内だった。遅れて来る招かれざる客の有無を問わずして――確かにここは煉獄だった。
●乱戦乱波II
御殿の灯りに照らされた薄闇の中を銀光が滑る。
滑り滑って――それから、爆ぜる。
「――――ッ!」
吐き出されたのは『似合わない』焦りを帯びた女の呼吸。
しなやかな身体が翻り、バランスを崩すも片手をついた彼女は、その膂力とバネで全身を後方に一回転させていた。
「中々の動きだ、と言っておこうか」
「……では。それはどうも、とでも言っておきましょうか」
片膝を突いたまま、間合いの敵を上目で見上げるのはヘイゼルだ。
後方のパーティが対多数と爆撃に手を焼く一方で彼女が相対するのはたった一であった。
事これに到れば確実だ。『この魔星がヘイゼルの先行を許し、自身の抑えに向かう事を許したのは間違いなく何かの思惑があっての事である』。それはローレットのイレギュラーズの中でも特筆するべき技量を誇るヘイゼルがほぼ防御に専ずる形を取りながら早くも追い込まれている事を見れば火を見るよりも明らかだった。
「恐らくは信じぬとは思うがな。心より言っておるのだ。
俺は早晩に貴殿を片付け、全員を殺す事を意識しておる。
だというのに、貴殿はこうも俺をてこずらせる。もし、貴殿が『役目』を意識せぬのであれば、多少の手傷位は負ったかも知れまいよ」
言葉は傲慢だが、本音であるようにも思われた。
頭巾に覆われた魔星の表情は見えない。仮に見えたとして顔に出すような人物ではあるまいが、何れにせよ短期的強化(アーリーデイズ)や回復手段(ミリアドハーモニクス)を駆使して、防御中心に遅延に出たヘイゼルが少なくともこの数十秒――或いは数分を『誤魔化した』事実は変わるまい。
「つくづく我々も厄介な連中と事を構える事になったものだ」
「……それについてなのですが」
ヘイゼルはこの場を好機と読んだ。
『無駄口を叩く事は時間を稼ぐ目的とも合致する』。
同時に何らかの思惑を持つと推測される魔星から情報を引き出す――あわよくば交渉に入るのはパーティが望んだ最大戦果の一つであったからだ。
「ローレットは魔種を排す為の機関です。
此度は魔種である巫女姫の大呪阻止の作戦――
元より魔種が関わらなければ神威神楽の統治に口出す気は無いのですよ」
「……何が言いたい?」
「ローレットは魔種以外には中立。
例えば、今刃を交えている貴方方からの依頼でも受けられるという話です」
「は――」
鼻で笑った魔星が再び地面を蹴る。
目を見開いたヘイゼルは彼の姿を追い切れない。目の前で多重の残像を残した彼は幾度目か死角より出現し、その凶刃を彼女の細い頸に突き刺しかける。
……その寸前で、赤い糸が。指輪から編まれた術式が刃を辛うじて止めていた。
「冗談ではありませんよ」
「そのようだ」
「……私は、此方は本気で言っています」
「だが、どうする? 貴殿等は魔種とは相容れぬのであろう?
俺は長胤様を裏切る心算は微塵もないぞ?」
「それは――」と言葉が上手く饒舌なるヘイゼルでさえ、言葉に詰まる。
『反転を戻す手段が仮にあるとするならばローレットは全力を挙げる事も出来るだろう。しかしながらその方法は杳として知れず、現状では長胤を残すと約束する事は不可能だ』。
「手詰まりだな。しかし、『一応』その言葉は覚えておこう」
……実を言えば、既に幻影の壁は消えている。
頭巾の向こうで魔星が薄く笑った気がした。
そして、『約束されていた』異変が起きたのは丁度その時の事だった――
時はやや遡る。
激戦は尚も続いていた。
ヒーラーに出来る事はなんだろうと問われた時、ポテトは決して悩まない。
(私の役目は誰も倒れないように癒し、支えること。
戦うべき相手が誰であっても変わらずに、皆で無事に帰るためにも最善を尽くす――!)
誰かを傷付ける事ではなく、癒して支える事を選んだその時から――彼女には矜持と覚悟が存在している。自身の前に立ち、その大きな背中で誰かを守る銀色の騎士にも恥じぬよう。
(……私達は豊穣と手を取り合える良き関係を築いていきたい。
豊穣の平和を守りたい。彼等の願いが同じなら手を取り助け合いたい。
出来れば、この手を取って欲しい。もしそれが叶うなら――)
守りたいのは仲間も民も、或いは今夜の敵さえも同じだった。
彼女は、彼女の戦いを疑う事など決してしない――
(敵の攻撃から目を背けるな、盾(まもり)で死角を作るんじゃない。
神経を研ぎ澄ませ。全ての隙を埋めて見せろ。
傷付いてもいい。血を流しても本望だ。ただ、ただ、倒れるな――)
敢然と敵に立ち向かうレイリーは取り分け多く傷付いていた。
無数にも思える命脅かす爪牙を、御庭番衆の猛攻を彼女は悉く『耐えていた』。
避け切れぬならば受ければいい。確実に鎧、盾の厚い所で受け止めんとした。幾ばくかでも敵の動きを食い止めんと食らいついた。『立ち続ける事こそがレイリーの戦いであり、受け続ける事こそが果敢なる大盾の矜持であった』。
「……これって、喜んでいい事なんですかね? 絶対違うと思いますけど!」
同じく。如何に攻め立てられようとやはり利香は堅牢だった。
短くも長い時間、まさに奮迅で前線を支えた彼女は傷付き、疲れている。
だが、その減らず口を黙らせるにはこんなものでは全然足りない――そう、彼女を黙らせようと思うのならばもっと強烈で赫々とした『とんでもない代物が必要』なのは疑うまでもない。
それは例えばそんな彼女に、
「さあ、とんだ初対面がやって来たって話だな」
「死神の剣氣――『待ち侘びましたよ』」
貴道やすずなにそれを言わせた――『パーティの囲みを緩ませた存在』こそが相応しかろう。
多重の呪獣の囲みを受け、物量で押し込まれたパーティだったが、圧倒的に戦い慣れた面々は脱落者を出す事はなくこの猛攻を凌ぎ続けていた。相当に痛み、謂わば『戦う前から』余力を削り落とされた事は否めないが、少なくとも譲らず耐え続けていた。
結果含めて奏功した見事な円陣は防御的に粘り強く、必要な道具を十二分に持ち込んだ事前の準備、それ以上に退かぬ覚悟は特筆するべきものだった。受けに優れる利香やレイリーは敵の攻勢を良く止め、舞花やすずなの技量、貴道の剛拳は敵を良く叩きのめした。ヒーラーでありながらフロントの守りの一角を担うポテトは言うに及ばず、継戦を強く意識したロトや、茄子子の支援能力もこれだけの粘りを支えた大要因であると言えるだろう。
――とは言え。
正直を言えばどうするか、どう切り抜けるかといった状況だったのは間違いない。
一石を投じたのは遂にやってきた『その時』だ。遅れてきた最後の客だったという事だ。
『彼が出現した事で囲みは明らかに緩んでいた』。それは取りも直さず、パーティを囲んだ物量が『新たな侵入者』に気付いてそちらに向かったという事に他ならない。
「有象無象に随分苦労しているようではないか――特異運命座標」
……無数の屍を周囲に積み上げ、真円の月に照らされる深淵の剣士。
全身から立ち昇る妖気にも似た『赤い』殺気を隠せない男こそ、パーティが望み、そして全く望んでいなかった――何とも皮肉な死牡丹梅泉その人であった。
「我が道を血と暴力で飾りながら歩み続ける梅泉――私のご主人様になってくれたら素敵なのに」
艶然と笑うチェルシーの言葉は何処までが本気で、何処からが冗句か――
「ここからが本番よ!」
彼女の言葉に異を唱える者は居なかった。
「会長、すごく怖いけど! 後ろは任せた! 前は何とか食い止めるから!」
(どう動く……?)
茄子子と継戦闘能力を持つロトの連携はこれまでもシナジーを産んできた。
しかし、新手の爆発力を考えればこれから先は『継続』とはなるまい。数を減じたとはいえ、呪獣の囲みは全て消えた訳では無く。同時に僅かな困惑を隠せない風林火山の脅威も又然りと言えよう。
「一応、言っておくから聞いてくれ」
敵対する風林火山、そして魔星目掛けて貴道は言葉を投げる。
「『アレ』はミー達の仲間じゃあないが、ユー達にとっても最悪だ。
狂犬って言葉がこれ以上似合う相手もいねえからな。警告だけはしておくぜ」
御庭番衆にとっても突然現れた梅泉は読めない相手だっただろう。
何せ単身で敵の渦巻く殿中を突破し、多数の呪獣を瞬時に片付けた新手である。
何より手練れの彼等が相手の殺気・力量を読めない事など有り得まい。
「随分な言われようじゃな、郷田貴道。
主も『似たようなもの』と思っておったのじゃが?」
「おっと、初対面じゃなかったか? 知られてるのは悪い気分じゃねぇな。
だが、分かったぜ、ミーはユーとは相容れない。
気持ちは分かるさ、強い奴と戦いたいってのは。
……だが、俺はそれに国一つ巻き込むほど狂っちゃいない。『大呪』とやらが成功すれば、力の無い奴がどれだけ死ぬか……そいつは、あまりに誇りに欠けている」
「ええ」
と利香が頷いた。
「我々は滅びを退ける為の存在、国や民を乱す事は望みません。
『大願の為ならば今まで通り原罪の存在であれ手を組んで見せましょう』。
大呪を防ぎ、民を護る事さえ叶うなら……それさえ、一つの手段になる!」
舞花が言葉を続けた。
「天香と巫女姫では国の視点において見ている方向が違う様子ですが。
――巫女姫の大呪はこの国を大きく害する意図が明白です。昨今、精霊種をも巻き込んだ呪詛や肉腫騒ぎも全てその一環。果たして天香は、この国への災いをお望みでしょうか?」
……これは梅泉に言っているようで『魔星に聞かせる言葉』だったに違いない。
ヘイゼルがそう告げた通り、パーティの意思は一つに纏まっている。『最大限排除するべきは巫女姫エルメリアであって、天香長胤ではない。そして阻止すべくは大呪である』。
「ふぅむ? 主等、わしを前にまた小細工を企てておるな?」
愉快気に、そして何時もよりずっと冷え冷えと梅泉が笑う。
口角を持ち上げた彼はまるで舌なめずりをする猛獣のようだった。時間がない事は明白で。『パーティが生き延びようとするならば少なくとも任務の結果に相反する形ながら、御庭番衆を退かせる他は無い状況だった』。
「アレは強い相手を斬りたいだけの辻斬りです。そちらの任務を考えても退くが最上でしょう」
魔星にはたっぷり言いたい事を聞かせてやったのだ。
最早任務の達成は厳しいが臨機応変に立ち回らねばならぬのは元より知れていた事だ。
「……どうやら、貴殿等の邪魔は新手殿が務めてくれるらしい」
パーティの、ヘイゼルの言葉をどう受け止めたかは定かではないが、魔星が言った。
呪獣の囲みが解け、彼を含めた御庭番衆は殿中の闇の中にその身を翻した。元より御庭番衆は長胤の命を受けた遊撃部隊であり、その戦力をすり減らしたとはいえ、その役割は大きい。翻って梅泉もまた『大呪達成のサポートをするか、魔星かイレギュラーズを斬る』事が目的であり、魔星等が退却する事は目的の二つの達成を意味する。彼等の存在等、より優先すべき事のある余禄に過ぎない。
「結局は腐れ縁という事じゃな」
「背を向ける気も誰かの手駒となる事も、ましてや地に伏す気もございませんよ」
パーティと梅泉きりになった庭園で利香は挑戦的に彼を見た。
「お強いのでしょうね、それこそ食べてしまいたい程に。
ですが、大呪の前菜とするにはお互い勿体無いでしょう?」
利香の言葉の言外には「これで満足しろ」という牽制が混じっている。
「良い良い。その位の抵抗をしてくれねば、収まるものも収まらぬわ!」
最早、是非もなし。
一方的にそう言った梅泉が『手にした妖刀を逆の手に持ち替えた』。
「キェェェェェエエエエエエ――!」
猿叫に似た聞き慣れた気合いより、踏み込んで一閃。
それ以上言葉をかわすより先に、まさにその利香の首を斬り飛ばす――
●月下の魔
「……ほう? 今のは確実に殺ったと思うたが」
誰かの悲鳴が響くよりも先に、奇跡はそこに舞い降りた。
『確実に殺されたかのように見えた』利香は表情を引きつらせるも嘯いてみせる。
「生憎とね、簡単に死ねる程甘くないんです。
あの子はやきもちやきだし――それにね。夜は『これから』なのでしょう?」
真実、窮地にて目覚める魔王の血は彼女自身も知らない一瞬の好機。 それは命を燃やす奇跡には程遠い力、されど己を恋の炎で焼き焦がした灰猫(だれか)の前で無ければ死ぬ心算も無い、そんな傲慢な『決定』である。 なればこそ、この命を奇跡とするにはまだ早かろう!
「ああ、黙って逃げるを見逃すヤツじゃねえな!
それならこれも――上等だぜ!
元々俺は気に入らねえのさ。俺より強い奴がこの世に居るなんてのはな!」
力の漲る肉体を弾丸のように解き放ち、姿勢を低くした貴道は一閃を振り切った梅泉へと肉薄する。
「何の為に此の地へ赴いたのか。
今宵こそ、せめて一太刀、刃を合わせるまでは斃れるつもりはございません!
いえ、一太刀と言わず、刃を振るえる限り何度でも!
未だ姉様にすら及ばぬのは承知の上! 貴方は雲上の高みに違いありますまい!
ですが――それでも尚、この斬劇に付き合って頂きますとも!」
同時。
まさにしなやかにして獰猛な獣の如く――すずなが絢爛に舞嵐を刃鳴散らす!
「いいわよ、私とも付き合って! ふふっ!
構ってくれないと殺しちゃうわよ! さぁ、私を愛して!!
叶うなら――決して癒えない爪痕を頂戴な!」
『あてられた』訳ではあるまいが、叫んだチェルシーが目を爛々と輝かせていた。
一戦級のイレギュラーズの次々と繰り出す猛攻は抑圧されていた防衛戦の『憂さ』さえ晴らすようで――『左手に妖刀を構えた』梅泉は喜色満面にその全てを撃墜していく。
斬り倒された貴道が血走った眼で梅泉を睥睨した。
無理な姿勢からその膂力で強引に態勢を立て直し、渾身の拳を繰り出した。
「まだ、テンカウントには早いだろ!?」
一撃にやや態勢を乱した梅泉を美しき剣士が追撃した。
「随分と昂っていますね『死牡丹』。そこまでの貴方は初めて見ました」
「そうか? だとしたらば、喜ぶがいい。今宵の血蛭は生易しくは無い故なぁ!」
「勿論。そうでなくては」と舞花は微笑(わら)う。
「大呪の行方には此処は少々遠すぎる。
この場で足を止めたのも縁というものでしょう?
――むしろ付き合ってほしいのは此方(わたし)の方なのです」
この時を幾年待ったか。この瞬間をどれ程に焦がれたか。自分自身、『執着と渇望の理由は分からねど』、確かに流麗たる――静やかな舞花が繚乱と咲き誇り、燃えている。
「――退屈はさせません。死牡丹、梅泉ッ!」
高く斬撃が哭き、鋭い金属音が心地良く耳に響く。
「意気や良し。違うな、娘ッ!」
刃嚙合わせる事幾合か、強烈な蹴りを腹部に受け吹き飛ばされた舞花に代わり、レイリーが立ち塞がった。
「言っておくが――最後まで付き合うぞ、倒れるまで殺してみるがいい、倒せるものなら!」
高笑いを発する梅泉の刃を正面から食い止めて。
竜角のランスで目前に迫るぬらりとした血刃と鍔迫り合うレイリーは凛然と言った。
「今夜が特別なのは、決してそちらだけではない!」
何ともはや、揺らがず、退かず。
「互い満足し片方が斃れるまで――こんなに月が綺麗なんだ。笑顔で今夜を愉しもう」
その言葉は全く冗談のようだ。
「これは、きっと――大変でせうね」
「分かってる」
「……頑張ろう」
「会長も! いや、頑張らないとこれは本当に――」
痛む体に鞭打ってヘイゼルもまた前へ向かう。
支えるロト、ポテト、茄子子も余力は無いが――
生きるか、死ぬか。冗談のようでありながら――本当に違いなかった。
成否
失敗
MVP
なし
状態異常
あとがき
YAMIDEITEIっす。
そういう訳で全体VHのお戻しとなります。
簡単な補足は以下。
Q:結局どうなったの?
A:壊滅しましたが辛うじて皆生きていました。
厳密に言えば利香さんは一回死んでいますが、そこはそれ。
死んでも大丈夫な代物を持っていたので助かりました。
Q:捕虜とかにならずに済んだの?
A:壊滅した後、梅泉が適当に拾って御所外に放り出してくれました。
理由は言わずもがな、久々に多少本気を出して気分爽快に満足したからです。(イレギュラーズがかなり頑張って戦った為です)
Q:でも失敗?
A:柵魔星及び御庭番衆は無傷で退却、呪獣はかなり減りましたが一部残っている為、作戦目標を達成していません。プレイングを解釈して退かせていますが、彼等が残って乱戦になった場合、全滅(死亡付き)ないしは捕虜多数なので立ち回りは正しかったと思います。あと、やり方様々でイレギュラーズの言いたい事(伝えたい事)は魔星に伝わっていると思われます。反応は不明ですが。
名声は判定判断で+5つけています。
シナリオ、お疲れ様でした。
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
折角なので全体を一本ばかり出しておきます。
以下詳細。
●依頼達成条件
・天香の御庭番衆の動きを抑え込む
柵魔星なる頭目が何かを考えているようですが、そちらとの接触は副目的です。そもそもが達成している余裕があるかは不明です。イレギュラーズが十分な打撃を与えられなかった場合、失敗となります。
●ロケーション
遭遇戦が起きるのは御所内の庭園です。
そこそこは開けていますが、あくまでそこそこです。見目麗しい見事な夜の日本庭園ですが、奇襲を仕掛けるには悪くない場所です。(皆さんは仕掛けられる側なのですが)
●柵魔星(しがらみ-ませい)
『冥』の中でも特に信頼の厚い天香長胤子飼いの御庭番衆の長。
他戦力に比べ長胤にとってみれば確実に掌握し、同時に絶対に裏切らないであろうと確信出来る切り札的存在です。
極めて回避と殺傷力が高く、ハイバランス。
ありとあらゆる手段で敵を屠る術に優れます。
戦闘能力等の詳細は不明。ただ、めちゃくちゃ強いぞ。
●御庭番衆(風・林・火・山)
魔星子飼いの忍者集団。数は四。
基本的にハイバランスの構成でその上、それぞれ得意分野を持ちます。
一人一人が対応力に優れ、スタンドアローンでの戦闘も連携での戦闘もこなす精鋭。
全ての射程距離にも対応できる陣容を揃えています。
魔星を含め、彼等の一番危険なのは『本気で最短距離で勝ちに来ること』です。
メタ的に言うとAIが危険。『ご都合主義で優しくしてくれる敵ではありません』。
●呪獣
御庭番衆が使い捨てに使う戦力です。
それなりの数がおり、これも決して侮れる戦力ではありません。
●死牡丹梅泉
サリューの客将。神威神楽の物見遊山。
御馴染み剣夜叉。因縁浅からぬジョーカー。
つづりの感知した『もう一人』。
彼が宮殿を目指すのは大呪を止める為ではありません。
『神威神楽を庭にして怨霊を斬る彼は、より大きな敵を求めて大呪の成就を望んでいます』。それか駄目なら『柵魔星なる手練れかイレギュラーズを斬りたい』と思っています。何時出現するかは不明で、動きも読めない。
誰にとっても明確な敵であり、凄まじく迷惑な存在です。
こいつのせいで難易度が一個上がっています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●Danger! 捕虜判定について
このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。
以上、宜しければご参加下さいませませ。
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