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シナリオ詳細

本日は狐日和

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●人間観察
 人間とは矛盾をはらんだ生き物である。
 あるときは銃でこっちを撃ってきたかと思えば、またあるときは薬を差し出してくるような生き物だ。
 無論、前者と後者は別の人間であるわけだが……。
「おや、お狐さん。そのケガはどうした? ……おっと、そう警戒するなよ! 別に取って食おうってワケじゃねぇさ。ほら、ココに軟膏を置いておくから使うといい。ってお前さん、人間の言葉なんか分かるかねぇ……」
 そう言って釣り人は軟膏を置いて、ぺこりと一礼して場所を変えた。……ただの狐に向かって。
 もっとも、ちょっとばかり賢い狐であったのだが。故に言っていることも(当時はなんとなく分かった程度だったが)理解できる。
 前足で軟膏をすくってせっせと傷口に塗った。
 ひりひりしてちょっと泣いた。

 人というものがどうしようもなく気になって、私は人にちょっかいをかけるようになった。
 人というのは面白い。
 愛情深い父親が、職場では部下に威張り散らしていたり。あるいは、挨拶するように人を斬るようなどうしようもない悪党が、道ばたの子猫に傘を差したりする。
 いやはや。

『呪詛』とやらのために捕まり、尻尾を失った私は、無論人間が嫌いである。
 憎くて、憎くて、仕方がない。
 地下牢に閉じ込められて、恨んで恨んでどうしようもなく吠え立てていた時、「殺す」とばかり考えていた。
 そのときでも、今思えば……長く生かすためにではあろうが、丁寧に包帯を巻いていた女中がいた。握り飯をわざと目の前で落として転がす下男がいた。
 それに……どこかの物好きのおかげで、私はこうして日を浴びている。
 人間とは……矛盾をはらんだ生き物である。

●酔っ払いたち
「わはっはは! 飲め飲め! 今日は俺のおごりだ!」
 ひどい目に遭った腹いせに、何か面白いことがないかとぶらりとふもとを回っていれば、いかにもな酔っ払い集団がいる。
「おおっ、姉ちゃん、こっちきて酒をついでくれよ」
 ベタベタ触ってくる男は非常に馴れ馴れしく、実にからかいがいがありそうである。
 店の者は、どうにも関わりたくないのか気の毒そうな顔をして、こちらを気にしながらもだんまりである。
 いいじゃないか。
 憂さ晴らしにはうってつけ!
 今日は木の葉か石鍋でも食らわせてやろうかしらなんて考えていたが、もっと面白そうな人物らが目にとまった。
 とりあえず、助けを求めてみることにする。
 善いものかか悪いものか、目の前の彼らはどちらの人間であろうか。

●助けてイレギュラーズ!
「おやめくださいませ! 私は仏に仕える身でございます……っ! だ、誰か! そこの旅人様……! どうかお助けくださいませ!」
 ふもとの茶屋にて。
 尼僧がこちらへ助けを求めてくるようであった。
 たちの悪い酔っ払いに絡まれているらしい。
 へべれけによっぱらった彼らなどはイレギュラーズの敵ではないだろう。

GMコメント

布川です!
狐さんは残念ながら不在のようですね。
その代わりといってはなんですが、なにやら尼さんが絡まれています。
気が向いたら助けてあげましょう。

●目標
・酔っ払いを打ちのめす
・尼毘(にび)の巡礼に同行する。

●もちもの
お弁当、水筒、おやつ(任意)

●登場
酔っ払い……へべれけに酔っ払った8人程度の酔っ払い。
 柄が悪いようですが特に強敵ではありません。

「ありがとうございます。助かりました」
尼毘(にび)……自称尼僧です。巡礼をしているそうで、助けてあげるとそのまま小さなお山への同行を頼まれます。
 正体は地元の化け狐。
 ピンと来る人はピンときちゃって構いません。
 前に囚われて悪徳商人に9本あったうちの7本の尻尾を奪われています。
 どこか厭世的で人嫌いそうな一面を見せます。
「人とは罪深いものですね……」
「私にはこの景色はとても美しく思えます」
「あぶらあげ!!!!!!!!!!!!!!!」
 ……気のせいでしょう。うん。
 道中、わざと木の葉だらけだったり枝だらけの歩きにくい道を通ったり遠回りしているように見えます。
 とぼけますが、からかっているようです。

 ただしそれほど悪辣でもないので、崖のほうに行こうとすると慌てて止めてきたりします。うっかり大けがしたりしたらおろおろします。
 普段は見えませんが、体にはどこか生々しい刀傷がついています。

●場所
とある田舎の小さなお山
 半日ほどで登って降りれるような小さなお山。
 紅葉が色づき始めています。レッツハイキング!
 おっと、通り雨に注意しましょう。
 幸い、降ったあとあたりで途中に天然の温泉などもあるようです。
 二つあるので男女別れたりすることも可能でしょう。
 ゆっくりしたい方は浸かっていきましょう。
 覗きをしようとすると、マスタリングの関係上、不思議な力で湯気が濃かったりでなんだかんだ上手くいかないでしょう。
 山頂は絶景です。山頂で巡礼を終えたらオッケーです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEとなっております。
 もちろん尼僧はただの尼僧でございます。え?狐?

  • 本日は狐日和完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月29日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
ヨル・ラ・ハウゼン(p3p008642)
通りすがりの外法使い
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き
妙香良 比丘尼(p3p008782)
破戒尼僧
柊 沙夜(p3p009052)
特異運命座標

リプレイ

●奇縁
 草藪でがさがさと何かが動いた。
(今のは……狸でありますか)
 あのときの狐は、今はどうしているだろうか。
『全霊之一刀』希紗良(p3p008628)はつい目で追ってしまう。
(出会えずとも、どこかで元気にしていれば充分ではありますが……)
 ふと、希紗良の耳が茶屋の喧噪をとらえた。
 尼さんが絡まれているらしい。
「どこにでも酔いに任せた狼藉者はいるのでありますなぁ……」

「はいはい。酔っ払いは散った散った。尼さん困ってんじゃないのよ?」
『never miss you』ゼファー(p3p007625)が取りなそうとするが。
「おおっ、姉ちゃん、美人だな!」
「こっちで酌でもしてくれや」
 酔っ払いに念仏であった。
「あら、いたいけな子に無体するなんてあかんなあ。おじさんら、ちょいと酔いすぎやね?」
「ああ、テメェ、なんだあ?」
 掴みかかる勢いで白い布をはらりとまくれば、市女笠から『特異運命座標』柊 沙夜(p3p009052)が顔を覗かせる。がたいの良い男に絡まれてもどこ吹く風。
「おっ、いい女だぞ!」
 魔の手が延びそうになったまさにその時、入り口からごうと風が吹いた。不意をつかれた男たちはきょろきょろと辺りを見回している。
 だが、なにもない。
 それもそのはず。霊魂操作によるものだ。
「話は!! 聞かせて!! 貰ったーーー!!」
『通りすがりの外法使い』ヨル・ラ・ハウゼン(p3p008642)が、ばあんと窓から飛び込んでくる。
「な、何奴!」
「ふっ……」
 半ば勢いで言ってみたのであったが、酔っぱらいに絡まれてる状況なのはわかる。ならば、助けなければと思うのがヨルであった。
「尼僧殿。怪我はないでありますか?」
 希紗良が尼を後ろに庇うと、尼は少しだけ目を見開いて、それから。
 ……。
 ………………。
(どこかで会ったよう、な?)
 見覚えはないのに、不思議な既視感があった。
「ああ?」
(どう見ても怪しい奴じゃな……)
『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)は酔っ払い、ではなく妖しげな尼を見ていたのだが。
(あらあら、私と同じ尼僧……と見せかけて化生の者が化けた姿ですわね)
 ふらふらと揺れる”ない”尻尾の周り。『破戒尼僧』妙香良 比丘尼(p3p008782)には見てとれる。
「こちらの御方は私と同じ仏に仕える尼僧でございます。今なら酒の酔いの所為と言う事で咎めませんのでこれ以上はご容赦頂けないでしょうか?」
 妙香良がぽんと肩に手を置いてそう告げると、込められた意味に気がついたのだろうか、わずかに強張る。
 どういう思惑かはさておき。それにはあえて、乗ってやることにしたのである。
「これも何かの縁。御仏のお導きです」
 人助けならぬ狐助けか。
「スタップ、スタップだ、どうどう」
『大地に刻む拳』郷田 貴道(p3p000401)はあまりにあっけなく酔っ払いを引き剥がす。圧倒的な腕力差。赤子の手をひねるようなものである。
「ああ、なんらあ、てめぇ」
 だが、哀れな酔っぱらいたちはその差にすら気がつかないほどに酔いが回っており。
「HAHAHA、おいおい酔っ払いども、相手見て喧嘩売った方がイイぜ?」
 爽やかに笑う貴道の白い歯がきらりと輝いた。
「ミーが不愉快に感じて、そしてやめろと言ったなら即やめるのが当然ってもんだろ?」
「なんだと?」
「なあ、やりあおうなんて思うなよ、三下のドサンピンのチンピラどもよ?」
「てめぇ!」
「……まあ、そうなるわよねえ。全く。こっちは穏便に済ませてやろうってのにこれなんだから」
 ゼファーは呆れてため息をつく。
「ほら表出え、うちらが相手するよ。ここやと邪魔やからね。それともうちらみたいな子らに負けるってびびっとるん?」
 沙夜の口調は柔らかで、であるからして言い放たれた一言の意味に気がつくのには遅れる。
 貴道は高らかに笑い、やるじゃないかとウィンクした。
「HAHAHA、まあなんだ、火種は貴重だろう?」
「後はこっちで上手くやりますよ」
 慌てて出てくる店員を、『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は押しとどめる。既に、ケガをした酔っ払いの始末をどうつけようかと考えていた。

●酔っ払いなどもののうちではなく
 尼の腕を掴もうとする酔っ払い。しかし吹き飛ばされたのは、酔っ払いの方である。
「多少痛いんは我慢して頂戴な」
 外から見れば訳も分からず気絶したようにも見えただろうか。沙夜の威嚇術であった。
 黒子は、とりあえず倒れた男を脇へと避けておく。
「知ってるかい、悪い奴ってのは殴っても構わないんだぜ、HAHAHA!」
 貴道はぼきりぼきりと骨を慣らし。
「死にはしないが、痛いぜコイツは?」
 がつんと一発、げんこつを振り下ろす。
「いっっっっっっっっでえ!!!」
 痛いで済むのは慈悲である。これですら”死なない程度に優しく撫でてやる”レベルだった。
(程々に……程々に……)
 ヨルはきょろきょろと辺りを見回し、霊に頼んで髪を引っ張ってもらう。
「ほえっ!!!」
 驚いた酔っぱらいは後ろをふりかえるが、そこにはなにもいない。
 向かってくる男を希紗良の太刀が打ち倒す。
「峰打ちであります」
「このあたりにしておきませんか?」
 妙香良の言葉にちょっと考えはしたが……妙香良を見つめてゴクリと喉が鳴る。
「いやだ! 可愛いねぇちゃんに酌をされてぇんだ!」
 聖光がほとばしる。
「なんだぁ!? ここは……あの世かあ!?」
 起き上がれば、辺りには、百合が咲き乱れていた。
 ゼファーのSweetBloom。芳香につられてよたよた歩き、そして散ったところで……。
 瑞鬼の冥途送りであった。常世と幽世。あちらで鬼が手招いている。
「ひあっ、ひあっ、ひあっ」
 ゼファーがその辺の椅子をひょいと持ち上げ、殴れば、どたりと床に倒れた。
「こんなつまんないことで死にたくは無いでしょうし、殺す気もないわ。後味悪いでしょ?
ほんと。尼さんも災難だったわねぇ。ま、酔っ払い連中なんて物の数でもないんですけど」
「酔い覚ましにはちょうど良かろうよ。お主らを助ける義理もないがわしらが相手をしてよかったと思うぞ? ……というかお主自分でやった方が楽じゃろ?」
「あらいやだ、そんな。この尼になにができるでしょう」

●お参り
 黒子が金子を包んで酔っ払いの介抱を頼めば、店員も恐縮しきりである。
「店員さん、踏んだり蹴ったりですからなぁ」
 尼毘と名乗ったその尼僧は、お参りの最中らしい。
「へぇ……女の身一つで巡礼の旅だなんて信心深いのね?」
 幾多の修羅場を潜り抜けてきたゼファー。嘘の匂いには鋭いのだ。
 軽くジャブ。
「今しがた危ない目に遭ったばかりでありますし、キサでよければ同行するでありますよ」
「いいねー余そう言うの嫌いじゃないし! お弁当なにがいいかな!」
 瑞鬼はすっと懐から包まれた何かを取り出した。こんなこともあろうかと。
「あぶらあげ!!!!!!!!!!!!!!!」
「え?」
「いえいえなんでも」
 一瞬しっぽがログインした気がするが……。
「災難でしたね……尼毘様。同じ仏に仕える者として仲良くしましょう、ええ」
 ニッコリと悪い笑みを浮かべる妙香良 。都合が悪くなれば逃げようかと思っていた尼は、ひそかに冷や汗をかいていた。
「さて、もしよろしければ巡礼のお供を致しましょう」
「なるほど、それでは何か買っていきましょうか」
 先ほどの一件もあり、黒子は結構おまけしてもらえたようだ。人数分、たっぷりのお団子である。
「あ、お茶も買わせていただきます。道中にいただきたいですし」

●山歩き
「ハイキングかい、ミーの住んでる山とはまた違ってるな、たまにはゆったりするのも悪くねえや」
 貴道は尼に続き、さくさくと山を登っていく。
(順路案内からは逸れているようですが)
 黒子はちらりと看板を見るが、とりあえず思惑に乗ることにした。
 枝の多い道を通っていたのであるが、貴道には全く意味がない。険しい岩ももはや障害物にすらなっていない。
「良い景色じゃねえか、赤く色づく紅葉かな……ってな具合かい」
「風景を眺めるのが旅情ってヤツよ」
 貴道が(無意識に)切り開いた小道を、ゼファーはのんびりと登っていく。
「……まあ、見事な光景よねえ。私も色んなところを旅して来たけれどこうして色づいて行く山は、国は違えど何処も綺麗だわ」
(……これ正規の道ではないよなぁ……妙に険しいと言うか……余中々疲れたし……)
 無論わざとであるのには、ヨルはとっくに気が付いていて。
「だいぶ歩きにくいところやね」
 沙夜は枝を手で優しくよける。
「すみません、道には不案内で」
「わかりました。こちらですね」
「あ、ちょっと、そちらは」
 妙香良がわざと進むのはだいぶ厳しい崖の方である。
「尼毘ちゃん、足元大丈夫? 気ぃつけて。あ、でも上見ると紅葉が綺麗や……」
 沙夜はほうと上を見てつまづいてこけそうになる。慌てて落ちないように引っ張りはする尼。
「っと!」
 気がついた貴道が慌てて支える。
「あ、わ、わ。はは、言った自分がこけちゃった。やっぱり足元見んとだめねえ。怪我はしてないから大丈夫よ。道、どっちやったかなあ」
「こちらです」
「ん? 今、通ってたのとは別の道を……? わざと険しい道を進む事で我々を鍛えようとして……!」
 ならばその心意気に答えねばというフリで、崖に挑もうとするヨルである。
「あ、いえ、いえ」
 その様子を見た黒子はそっと、
「道を外れてしまいましたね。こちらのようですよ」
 と、看板を指し示すのだった。
「あ、違う? ……知ってたヨ????」
「!?」
「……まぁまぁ、お弁当の稲荷寿司分けてあげるから」
「!」
 ぴんと被った布が三角に立った気がするが気のせいだろう。
 神使らのほうが上手であった。
「やれやれ」
 瑞鬼は最後尾。のんびりと苦労をせずに山道を登っていたのであった。

「尼毘様が尊いと思う景色を見れて私も嬉しゅうございます。旅の醍醐味はやはりこういう景色を見える事でしょう」
 しれっと言う妙香良に、尼はわざとだったので反論もできず。
 それでも、まあ、景色は良い。
 色とりどりの紅葉は目の保養である。
 希紗良は、山の空気を胸いっぱいに吸って歩いて行く。
「キサの住まう里も自然多いところゆえ、同じく自然多い場所は落ち着くであります」
「希紗良様の故郷もこのような場所なのですね」
「心が洗われると思わない? うんざりしたサイテーな思い出も、思わず忘れちゃうぐらいにね」
 ゼファーはくるりと振り返る。
「……嗚呼、もしかして尼さんにもそういうのがやっぱりある?」
「俗世ではそれなりに、あるものでございます」
「そっかあ」
 あなたも、と言いかけてやめる。無粋というものだ。ゼファーもそれ以上聞かなかったのだから。
「何やらお主も大変そうじゃな。亡くしたものもいつか帰って来るじゃろうて」
『幽世歩き』にとっては、失ったものもお見通しか。

●休憩
「弁当といえばコイツだろ、漬物もあるぜ」
 貴道が持ってきたのは、おにぎりである。
「意外と渋いわね」
「わぁ、おそろいやね」
「おっ、お新香かい。なんなら交換するか? HAHAHA、構わないぜ」
「わわ」
 貴道のものはかなり大きなおにぎりである。
「わけっこであります」
「余が手伝うよ!」
「コンブじゃないか、これは! 塩気が利いてるぜ」
「おにぎりは鮭とこんぶが好きでねえ。やっぱりお漬物よねえ。こういうの、ぴくにっく言うんやっけ」
「疲れた時は甘いもんよね」
 沙夜が手のひらに金平糖を転がす。
「みんなもどうぞ」
「それでは、お茶とお団子でもどうぞ。皆さんで食べようかと思っていたものですから」
「あら、ぎょうざんはいっとるね」
「みんなで食べようとおもっていたでありますよ」
 いずれ会えたら、と思っていたのだ。
「……ところで果物っておやつに入るよネ?」
 小声できょろきょろするヨルであった。
「あぶらあげのお礼というわけではありませんが。ほんとうにお礼というわけではありませんがどうぞ」
 尼が差し出してきたのはどこかでもいだようなスモモであった。
「いいのでありますか?」
「ほい」
 瑞鬼が油揚げをひらひらさせると、悔しそうにスモモがでてくる。

●温泉のひととき
 休憩してまた再開。
 尼の歩き方はどうもわざとらしいような気もするが、それでも黒子はそっと手を差し伸べるのだった。
 ぽつりと、雨が降ってきた。
 通り雨は山の気候とはいったものだ。
「あら、雨? 山の天気は不安定ねえ」
「足元は気をつけましょう」
 狐の嫁入り? なんて単語が黒子の頭をよぎったが。
「まあ、山の気候、ってことにしておきます」
 沙夜は市女笠が幸い、びしょぬれにはならなかったのであるが。
「山の天気は変わりやすい、ってのもお約束よねえ。はぁ、すっかり濡れ鼠だわ。嗚呼。濡れ狐のほうが正しかったりしてね?」
「な、なんのことやら?」
 ぴしゃりと雷が鳴る。
 豪雨を、貴道がさえぎってくれていた。
「屋根代わりにはやってやるぜ、おっと、野郎はダメだけどな!」
「あら、意外とお優しいのですね。てっきり」
「キッカケも無しに、敵意も無い相手に仕掛けるつもりなんてねえよ。え? そんな風には見えねえって? そいつは誤解ってもんさ」
 やられたらやり返すのは当然として、良い男だ。
「幸いにもこの先には温泉がありまして」
「温泉、でありますか!」
「しっかり歩いた後の温泉って絶対気持ちの良いヤツって余わかるよ!」
「また気がきいてるじゃないか」
「入って来た方がええよ。風邪引いたら危ないし」
「あなたは?」
「うち? うちは肌見せるん恥ずかしいから、先に手拭い濡らすだけでええよ」
 恥ずかしそうにする沙夜であった。
「さっと体拭いて皆の荷物番しよう思って。あ、油紙に着替えは包んで来てるしばっちりよ」
「それじゃ、お言葉に甘えて、ゆっくり浸かって身体を温めるとしましょう。汗に濡れて雨に濡れて、気持ち悪いったらですし。はーい、それじゃ男女別れてー」
「何かあったらすぐ呼びつけるといい、HAHAHA!」
「ありがと」

「わしの今回の目的は温泉じゃ。極楽極楽」
 とっぷりと肩につかる瑞鬼。
「はー。生き返る心地であります!」
「楽しんでおるか、猫の」
「紅葉を眺めながらの湯、格別であります」
「ならばよし」
「フフフ、この様な極楽な場所で裸の付き合いをしないなど勿体ない。御仏も一時の快楽に身を委ねる事くらいお許しになるでしょう」
「あっ、おやめくださいまし……!」
 などと茶番を挟みつつ。ふと、妙香良は傷跡を撫でた。
「……私に癒しの力があれば少しでも傷を癒してあげられるのに……歯痒いですわ」
「尼僧さん、普通の人ではないよネ?」
「あら、どうしてそうお思いになったのです?」
「ほら、酔っ払いに絡まれてたとき余達見てから助け求めに来たからさ。何かあるのかなって……ね」
 そんなにも早くからとはと内心舌を巻きつつ。
「うふふ、旅の尼とは仮の姿、本来は暗殺を生業と……あら、駄目ですか?」
「まぁ、深くは聞かないけども」
「キサ、いつお会いしてもいいようにと傷薬を持ち歩いたであります。よかったら持って帰って頂けませぬか?」
「ご自分はどうなのです?」
「え? キサでありますか? キサは平気であります」
 ぎゅとほっぺをやわらかくつままれる。
「わあっ」
「先ほどもそうです。手を差し伸べなければ、危ない目にも合わないでしょう?」
 ふざけた調子で言うものだけれど、どうにも真面目であったから。
 希紗良はまっすぐに見返す。
「それは、できないであります。キサにはお役目というものがありますから」
「誰でも善も悪を兼ね備え、時としてどちらにでも転ぶ。そこが人の子の良さであり面白さ。傍目から見てこれほど面白いこともなかろうて」
 この狐は、どうも楽しみ方を分かっていない。人という者は、だからこそ面白い。

「いやいや良いねぇ、ちょうど良く酒もあるしなぁ」
 女性陣が盛り上がる一方、男たちは酒を飲んでいる。無論覗きなどという不埒なことは頭にはなく、ただ景色を肴に飲むのであった。
「景色の良い温泉で酒、切っても切り離せねえもんだ、HAHAHA!」
 月見酒ならぬ紅葉酒。
 はらりと散る紅葉が水面に美しい。
「おっ、悪いな。次はミーが継ごうじゃないか」

●山頂
「人助けは気持ちがいいでありますよ」
 紆余曲折あって、たどり着いた山の上。
 短い旅路は、ここでおしまいだ。
「もう私達友達でしょう? またお付き合いくださいませ」
「気が向いたら……もぐもぐ……いいですわよ」
 妙香良の油揚げを無言で頬張る偽尼であった。
「……で。尼さん的には今日はどんな一日だったかしら」
 ゼファーがいたずらっぽく笑う。
「私達がどう映ったか、でもいいわよ。なぁに。ちょっとした興味本位よ」
「とても愚かですね。お人好しで……わざわざ顔を突っ込んで」
「それを言うなら、お主とて山から降りてこなければいいじゃろうに」
「どうしてこうもわざわざ余計なことに関わりたくなるのでしょうかねぇ」
「ああそういや、私はこちらで言う「神使」でして」
 そんな様子の尼僧に、ふと、思い出したように、黒子は言うのであった。
「同類の中には人だったり、絡繰だったり、果ては異界の神を名乗るものも居ます。
それらに比べれば多少の種の違いは誤差範囲ですし。
「敵は少なく、味方は多く」が信条ですから、害がなければ不干渉、余裕があれば手を差し伸べる、はアリだと思っていますよ」
「HAHAHA、良い子にしてれば、ミーたちは味方だ。シンプルだろう?」
「またいつかこうやって何らかの形でお会いできればとても嬉しいのであります!」
「そうですねえ。……この景色は、好きですよ」
「ふうん」
 ゼファーは肩を並べて、遠くを眺めている。
「あら、紅葉やわ」
 秋風がぴゅうと神使たちの頬を撫でていった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

というわけで、正体の怪しい尼さん(バレバレ)とのピクニックでした!
からかおうとしたようですが、イレギュラーズのほうが1枚も2枚も上手というもの。やたら小物っぽくなるのはGMのせいな気がします。はい。
まあ、ご無事で帰ってらしてね、気が向いたらまた一緒に山歩きしても構いませんわよ!
なーんて思って……いるのかもしれません。

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