PandoraPartyProject

シナリオ詳細

わたし、かわいい?

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

⚫可愛くなりたい!
「えーっ、あのヨーミが相談ー!?」
「こ、声が大きいよ……」
 会議室の様な部屋の中、机を挟んで向かい合う二人の少女が、姦しく話していた。
 いや、正確に表すなら、姦しいのは一人だけなのだが。
「ゴメンゴメン。でも、あの研究室に籠りきりの貴女にそんなこと言われるなんて、驚いちゃってさぁ」
 頭を掻きながらにへらと笑う女の子に、ヨーミと呼ばれた少女は眉尻を下げて頬を膨らませる。
「おっ、なになに、なんかあった?」
 騒ぎを聞き付けた同じ年頃の子達も集まって来て、結局、ヨーミの相談事はその場の5人と共有されることになった。
「いやね、ヨーミが可愛くなりたいんだってー」
「えぇ!?」
「そ、そんなに驚かないでよっ、普通でしょ!」
 がやがやと集まる少女達は、とても楽しそうな雰囲気でおしゃべりに興じる。
 座ったままのヨーミを中心に、女の子達が集まる形だ。
「ヨーミは自分の魔術も教えてくれないし、お洒落もしないしさ。皆もっと、知りたかったし遊びたかったんだよ」
「そうだったんだ……ごめんね、みんな」
「ううん、いいっていいって!それで、どんな感じになりたいの?」
 と、女の子が問いかければ、ヨーミは恥ずかしそうに目を伏せてもじもじと足を擦り合わせる。
 そして、あのね?と区切りを入れて、
「私、みんなになりたいの。協力して、くれる……?」
「え、うん、いいけど……」
「あたしたちになりたいって……?」
 許可を得られた事に安堵のため息と朗らかな笑顔を浮かべるヨーミに、女の子達は首を傾げる。
 参考にしたいってことかな?
 と、そう当たりを付けるが、
「じゃあ、貰うからさ、とりあえず一回死んでね」
「なにーー」言ってるの。
 言葉が言い切られる事は無く、口を開いていた女の子はそのまま地面に倒れる。
 いや、その子だけではない。集まった5人の内、4人が動かなくなっていた。
「な、なに、なんなの……ヨーミ!どういうこと!?」
 残ったのは、最初に話していた少女だけだ。
 異常な事態に関わらず、変わらない微笑でいられるヨーミへ恐怖の表情を向ける彼女は、周りに倒れ伏した女の子達を見る。
「みんな、みんな……なんで、どうして……?どうして死んでるの……!」
 光りを無くした眼が、宙を向く視線が、意志の灯らない事を如実に伝えてくる。
「私ね、わかったの。可愛いみんなみたいになるためには、みんなの可愛い部分をもらえばいいんだ、って」
 クスッと笑って言われる台詞は、とてもまともな思考とは思えない。
 普通じゃない。そのはずだ。
「みんな協力してくれるって言ってくれた。私なんかのために、いいよって……だからね、私嬉しくて!ああ、楽しみ、楽しみ……私、可愛くなるから、ね?だから、あなたも、ちょうだい、ね……?」
 返事はない。
 なぜなら、女の子の命は、既に無いからだ。
「安心して、ねぇ。安心して?大丈夫、そのために私の研究があるの。そう、教えてあげなくてごめんね?ふふ、そう……私の死霊術は、確かに、成功するから」


●願いと欲望と
 ローレットにイレギュラーズを呼び出した『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、渋い表情を浮かべていた。
「……さて、仕事だよみんな」
 それでも、伝えなくてはならない。
 溜め息を一つ吐いて意識を切り替えた彼は、概要を話し始めた。
「幻想の森の中に、小さな集落がある。ああ、集落と言っても田舎ではない、とある研究機関だ」
 そこでは日々、魔にまつわる事柄を調べているという。
「魔術、魔物、魔法と、それらに類する薬学や鉱物なんかが、それだ」
 事件はそこで起こった。
 ある日を境に、その集落との連絡が取れなくなった事で、様子を見に行くことになったのだが、
「研究員や住民、合わせて50程の人間が居た筈の場所は、ただ一人の人間によって壊滅していた」
 そう言って、似顔絵とプロフィールが書かれた紙を見せる。
 ヨーミ=クローザー、14歳。
 小さな頃から死霊呪術を学び、研究していた少女だ。
 幼いながら整った顔立ちの、そばかすがある普通の女の子に見える。
「その似顔絵は、もう使えない。すっかり見た目が変わってしまっているからね」
「変わってる?」
「彼女は、その、なんだ。殺した女の子の部位を、自分に張り付けているみたいだ」
 それは例えば、肌だ。
 きめ細かい女性の肌を剥がし、自分の顔に張り付ける。
 例えば、脚を。
 スラリと伸びた細い脚を、付け根から取り外して、切り落とした自分の足に縫合し、くっつける。
「そんなことが、可能なのか……?そもそも、自分の足を切り落としてその上に他人のモノを付けるだなんて、一人で出来る範疇じゃない」
「殺した人間の遺体を、死霊術で使っているのさ。いや、遺体だけじゃない、くっつけた腕や脚だって神経を通わせているわけじゃないんだ。動かすのだって、恐らくその応用だろう」
 そこまでして得られたモノはなんだったのか。それは、彼女にしかわからない事だろう。
 そうして失ったモノは、彼女にはわからない事だろう。
「そんな無茶を通した彼女は、正直長くない。直に、自滅の道を進むことになるだろう。だが、それが訪れるまで彼女は人を殺し、自分を他人で着飾り続ける」
 放っておくわけにはいかない。
 新たな犠牲者を生まないため、早急に彼女を始末しなければ。
「彼女と敵対すれば、恐らく操られた死体を使って来るだろう」
 研究の報告書を見れば、ヨーミが一度に操れる遺体は4体だ。普通の人間と変わらない挙動を可能とし、兵器利用を想定したギミックも組み込まれている。
「毒や麻痺を付与してきたり、範囲の広い自爆をしてくる様だ」
 爆発には燃焼系の魔術も組まれており、まともに喰らえば炎にまみれる可能性がある。
 バッドステータスへの対策が必要だろう。
「ヨーミ自身も優秀な呪術師だ。攻撃はもちろん、操る遺体を消耗すれば、新たな遺体を使ってくる事が予想される」
 なにせ50人分の遺体があるのだ。素体に困ることはない。
「これ以上の被害は看過できない。みんな、難敵ではあるが、よろしく頼むよ」

GMコメント

 『マスターコメント』
 ユズキです。
 やばいやつです。

●依頼達成条件
 ヨーミ=クローザーの撃破

●出現敵
 1:ヨーミ=クローザー。優秀な死霊呪術師。
 使う術は、
 ・自己回復の治癒
 ・死霊召喚による補充
 ・魔術による遠距離呪殺
 
 2:死霊×4
 場に存在出来るのは4体まで。
 攻撃手段は、
 ・毒の爪による近距離攻撃
 ・麻痺性を持った中距離ブレス
 ・自爆による範囲炎攻撃

●ポイント
 場に居る死霊が減ると、ヨーミは1ターンを消費して別の遺体を死霊として補充します。
 ヨーミは自分の行いに何の疑問も抱いてはいません。普通の人間と変わらない認識ではあるので会話等は可能ですが、控えめに言ってサイコパス系統なので話が通じるとは思わないでください。
 

  • わたし、かわいい?完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月30日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
Remora=Lockhart(p3p001395)
Shark Maid
七篠・縁(p3p002043)
幽かなるモノ
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
ルクス=サンクトゥス(p3p004783)
瑠璃蝶草の花冠

リプレイ


 雲一つ無い青い空を、鳥が飛んでいた。
 緑生い茂る森の上を回り、風を受けて翼をはためかせ、下降する。
 そうすると大地には、太陽の光を受けた鳥の影がうっすらと写った。
「……なるほど」
 低空飛行を続ける鳥の視覚を借りた『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は、理解の言葉を作る。
「Hey?現場はどうなってるんだい?」
 それを隣で聞いていた『ボクサー崩れ』郷田 貴道(p3p000401) は、呼び掛けと問いを同時にかける。
「そうね」
 答える声を作ったレジーナは後方へ振り返り、仲間を見た。
 隣の貴道を含めた6人に顔を向け、言葉を続ける。
「とても気持ちが悪いわ」

 森を抜け、集落の入り口に立ったイレギュラーズ達は、その言葉の意味を理解した。
「こりゃ、ひでぇな」
 『暴猛たる巨牛』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)は、端的に現場をそう評した。
 敷地としては広くなく、入り口から全ての物が見渡せる程に、建造物や障害物は少ない。
 その中でも、奥に見える横長に大きい建物が、恐らく研究機関の中枢なのだろうとわかる。ある点を除けば、至って平凡な村だろう。
「やれやれ、ですね」
 被った帽子の縁を摘まんで、『Shark Maid』Remora=Lockhart(p3p001395)はぼやく。
 ……どうやら片付けも知らないくらい、躾のなってない方のようです。
 と、あちこちに飛び散って張り付いた染みを見て、そんな風に思う。
 地面や壁に出来た赤黒い彩りは、被害者達の痕跡なのだろうと容易く推測出来た。
 所々に散らばる肉片は動物に啄まれて散乱し、腐った肉の嫌な臭いが、不快感を底上げしている。
「死体、ないね」
 痕跡はあれど物はない。
 そんな現場の違和感を、『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)が指摘した。
「……無いのは死体だけじゃなさそうです」
 そう言葉を重ねた『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)は、ルフナを見る。
 図らずも同じ、ネクロマンサーの能力を持った二人にしか解らない事だが、辺りには被害者の霊魂が無い。
『敵の元に集められていると考えるのが妥当だ。魂も、体もな』
「そういうことか」
 ティアに宿る魂の言葉に、ルフナは頷く。
 しかし、そうなると。
「これで、戦う前に死体の処理をするのは難しくなったのぅ……」
 戦闘開始前に、少しでもヨーミの戦力を削る。それが作戦の一端だったのだ。
 まっこと、ままならぬ事よ。
 と、『瑠璃蝶草の花冠』ルクス=サンクトゥス(p3p004783)がため息混じりに呟いた。
「ま、でも、いくしかないね」
 うさ耳パーカーに付いたフードを目深にして、『幽かなるモノ』七篠・縁(p3p002043) が言う。
 そのまま奥の建物を指差し、
「あそこにいるんだよね?」
 と確認の言葉を作る。
 偵察のファミリアを回収したレジーナはその問いに頷き、それを確認したイレギュラーズ達はそのまま、研究所へと足を進めた。


 曇りガラスの開き扉を開けた先は、外以上の臭いが充ちていた。
 閉めきられた屋内に死体を放置していれば当然だが、その悪臭は想像以上に気持ちが悪い。
 それでも行くしか無いと、8人は死体の転がるエントランスホールへ足を踏み入れた。
「あれ、お客様、かな」
 と、不意に出迎えの声が聞こえる。
「ようこそ、歓迎したほうがいいよね……お茶でも出そうか?」
 それは、今通路から出てきたという風な女からの声だ。
 首をコテンと傾け、快活な声色で、笑うように問う仕草は、しかし。
(こいつがヨーミか……!)
 ツギハギ痕だらけの顔では、気色悪いだけだ。
 肌の色、瞳の色、声すらも、既に自分のものではないと思える違和感の塊。それがターゲットのヨーミ=クローザーであることは、疑い様もない。
 だから、強襲する。
「さあ参りましょう、雄々しくそして、勇ましく」
 高らかに響かせたRemoraの声に乗って、左右へ別々に、弧を描くようにして行くのは、貴道とルウの二人だ。
 死体が落ちて無いルートを通り、最短で、そこへ辿り着く。
「女性には紳士的に行きたいがね」
「根っからの狂人じゃあしょうがねぇ」
 ダッキングでヨーミの懐へ行く貴道は、一瞬の溜めを引いた拳に与え、そして溢れる膂力で棍棒を振り上げたルウは強い踏み込みを入れる。
「ユーは既に、モンスターだ!」
「イカれた頭をブッ叩いてやる!」
 攻撃は同時だった。
 風を切る様なストレートと、空間ごと潰すかの様な振り下ろしがそのまま、空を切る。
「怖い、怖いよ……」
 怪訝な表情のヨーミは、恐れなど全く感じさせない動きで移動していた。
 借り物の脚で地を蹴り、後方へ、だ。
「助けて……!」
 そして叫ぶ声は、目の前の二人に向けられたモノではない。入れ替わる様に前へ出た、死体に向けたモノだ。
 その死体は攻撃後の硬直を持つ二人の間に滑り込み、そして。
「ァ」
 炸裂した。

「こりゃちとまずいのぅ」
 ルクスは、肩に掛けたバッグから触媒を取り出しつつ、その一連の動きを見ていた。
「化け物に成り下がってしまっていても、優秀というのは変わらないものであるか」
 言いつつ取り出すのは夾竹桃の押し花だ。危険や用心を表すそれを捧げ、ヨーミの足元に花を実らせる。
「綺麗だね……?」
 遠く、ヨーミの感想がルクスに届く。強い効果は発揮しなかったようだ。
「こっちも油断、できないね」
 そういうティアを含めた5人の前に、3体の死体が立ちはだかる。
 辺りに散らばって倒れていた死体達だ。
 動き出したのは、強襲する動きを見せると同時。明らかに、図ったタイミングとわかる。
 それは、つまり。
「最初っから殺る気満々ー、ってわけだ」
 フードの奥で笑う縁があっけらかんと言い、死体へ投げつける毒瓶を構える。
「こっちも、同じ死霊術を扱う身として赦せないから」
 その動きを認めたティアが、先陣を切った。
「それに、みんなの無念は晴らすから」
 4枚の翼で空を叩いて加速を入れ、黒塗りの大鎌を体ごと捻る。
 そうして行うのは、横薙ぎの一閃だ。 
「ポイポイポー……ぽい?」
 黒の線が3体の死体を一文字に切り抜けると同時、縁が投擲を行う。
 緩やかな弓なりの軌道で飛んだ瓶は、しかし、途中で割れる。
「……突っ込んできましたかー」
 頭から突撃してくる死体にぶつかって、だ。飛散した液体が肉をドロドロに溶かすのも構わずに、敵は縁へと肉薄する。
「一手間違えれば、全滅もあり得るわね」
 その死体へ、横合いに位置取るレジーナがリボルバーを向け、そう呟く。
 外せないのだわ。
 と、そんな自分を追い込むプレッシャーが、レジーナの糧になる。
 だから、その糧を加えて、射撃した。
「――」
 銃口から飛び出した弾丸は、鈍く重たい音を鳴らして死体の右足を破壊する。
 前へと駆けていた体は支えを失い、でんぐり返しの様に転がって、その活動を停止させた。
「――どうか、声が届くなら」
 死して尚、去る事を許されない魂達へ、ルフナは語り掛ける。
 どうか。
「僕に力を貸して」
 多量の霊魂へ呼び掛け、その応えは彼の魔銃に宿り、そして
「ヨーミを倒すため、あの死体を釣り出す……!」
 銃弾が、空を行った。


 幅の広い通路で、貴道とルウは戦っていた。
 エントランスからは離れていない、ただ少し進んだだけの位置だ。
 ……思ったよりクレバーじゃないか。
 後退を封じる為に挟み撃ちを狙っていた貴道だが、左右の幅が制限された路で上手くは行っていなかった。
 作戦が悪かったわけではなく、ただヨーミにも戦闘のセンスがあった、というだけだ。
「あぁ、なんて、ひどいこと……どうして? なぜそんなことができるの……?」
 そんな嘆きを訴えるヨーミの目には、涙が浮かんでいた。
「私の友達を……刃物で、銃で、毒で傷付け破壊するなんて……ひどい!」
「元はといやお前が殺して、今戦わせてるのもお前だろうが!」
 非難に真っ向から反論して、ルウが行く。
 メイスによる攻撃が、袈裟の筋をなぞって放たれる。
「みんなは協力してくれてる、それだけだよ。だって、友達だもの」
 それを、盾の魔方陣でヨーミが止める。
「友達が困ってたら、助けてあげる。それって、普通でしょ? 私だって、そうするもん」
「は、イカれに何言っても無駄か――!」
 怪力が、盾をヒビ割れさせていく。
 耐えきれず瓦解が遠くないその鍔迫り合いを、ヨーミが終わらせた。
「!?」
 わざと体勢を崩し、ルウが込めた力の方向を下へ狂わせたのだ。
 その隙に彼女は後方へ跳び、
「夾竹桃という植物には、油断大敵、という花言葉があるが」
「え……?」
「今の貴様に合ってるであろうよ」
 ルウの背後、ルクスにより呼び出された花弁が舞う様に連なり、縄となってヨーミの胴と腕に巻き付いた。
 跳躍の最中での拘束は一瞬の浮遊を彼女に与え、そして、その一瞬を貴道は逃さない。
「美への追求という強欲を認めよう。だが友と呼んだそれを殺すではなく破壊と言ったユーが友を語るなど、ただ、単に!」
 拳を握り、足で地面を踏みしめて、引き絞った腕で溜めを作る。
 そうして踏み込み、腰の捻りを経て、破壊力を込めた拳を、
「ミーは気に食わねえ!」
 ヨーミの顔面にぶちこんだ。
「ヒギャ」
 鉄を捻る様な悲鳴で吹き飛ぶ体は通路を横断し、木壁を破って砂ぼこりをあげる。
 ……仕留めたか……?
 思い、身構える3人の元に、声が届く。
「ああ、ひどい、ひどいよ……」
 嘆くような声だった。すすり泣く様な、女の子の声だ。
 それは、埃の収まった部屋で、縄を千切って立ち上がるヨーミのもの。
「ふふ、うふ、ふふ……ああ、おめかししなくちゃ……ね」
 殴られて剥がれた肌皮の奥で、化物が笑う。
「HAHAHA、ユーのドス黒いハートとソウルは、どれだけ取り繕っても醜いぜ!」


 移った戦場の部屋は、化物の研究室だった。
 ツギハギの施術に使われたと思わしき寝台は赤黒く、辺りは人体のパーツが散乱して腐食し、うず高く積まれた肉のオブジェは化物が友と呼ぶ者達だ。
「きて」
 喚ぶ。
 肉塊の中から、這い出る様に4体が。
「たすけて」
 乞う。
 望みに応じさせられた死体達は、不自然に伸びた爪を構えて、壊れた壁から飛び出る様に突撃していく。
「悪いけど、それは無理」
 そこへ、天使が舞い降りた。
 2対の羽で浮くティアだ。
 3つの瞳で眼下を見下ろし、翳した手を横へスライドさせる。
『欲望のまま行動する輩に慈悲はいらん』
「容赦無く殺させてもらうよ」
 そうして、言葉の通りの攻撃が降る。拡散する無数の魔弾は雨となり、死体を打ち付けていった。
 上からの圧力が、死体の足を鈍らせる。
 その隙を逃さない様にと、レジーナは引き金に指を掛けた。
 照準の向こうに死体があり、その奥には筋繊維を剥き出しにしてイビツに笑う化物がいる。
「隣の芝生は青い、とか。そういうものだと思うのだけれど」
 嘆息する様に息を吐き、思う。
 良い物だからと切り貼りしても、優れたものになるとは限らない、と。
「汝がハーブだとして、集めた香木と合わせたところで、ただの悪臭となるのだわ」
 言った所で無駄なのだろうけど。
 そう心中で呟いて、死体の脳天へ弾丸を撃ち込んで破壊した。
 3体に減った死体の狙いは限られる。
 そもそも遠距離への攻撃手段を持たない彼らには、直上のティアへのブレスが一番簡単で、
「まあそうしますよね」
 だから、先読みした縁が毒瓶を放り投げた。
 ブレスの為に空気を取り込み、大口を開けた死体の上に、だ。
 そうして放たれたブレスは毒瓶を空中で砕き、液状の中身がそのまま、口内に零れて体内へと注がれる。
「――」
 死体故に苦しみもがく事は無いが、それでも毒の影響で四肢か痙攣していく。がたがた、ぶるぶると震える様を見て、フードの奥で縁は可笑しそうに嗤っていた。
「残りは2体かな」
 体勢を建て直し、移動を再開する死体へ魔銃を向けたルフナは意思を捉える。
 それは、先に破壊された2体から漏れ出た魂の嘆き、怒り、悲しみの想いだ。
 束ね、混ぜ合わせ、銃身へと装填したそれを、彼は放つ。
「死して尚の辱しめよりは、多少マシだと思って、損傷は我慢して」
 体に風穴を開けて貫き、崩れ落ちる死体は最期、足掻きのように自爆する。
 適正レンジ外からの爆風に肌を焼かれながら、
「……すまない」
 彼は静かに目を伏せた。


 騒動の中、化物は首を傾げていた。
 なぜ襲われるのだろう、だとか。なぜ友達が壊されていくのだろう、だとか。
 ただ不思議に思い、そして、
「あ、減ったから足さなきゃ、だね」
 在庫を確認するように壊れていく体を見て、その結論を大事にした。
「哀れですね」
 と、答えが出た所に死体が吹き飛んで来る。語りかけてくる様な声もだ。
 目を向けると、小柄なディープシーの女が、吟う様に言葉を奏でている。
 Remoraだ。
 青い波の余韻を払うようにして歩んで来る彼女は続ける。
「私は斯様にも可憐であります。が、貴方の様に奪ったものではなく、自身の努力によるもの」
 努力ならばした。今もしている。大変な努力を。
 だから化物はやはり、首を傾げるしかない。そして、思い付く。
「貴女の声素敵だね。私もそれ、欲しいな」
「……その精神こそ、何よりも恥ずべき部位でありましょう」
「じゃあ、それも変えなきゃだ」
 忙しくなる。早く目の前の人たちを追い払って、協力してくれる人を見つけなきゃいけないから。
「度し難い程の害悪であるな」
「気狂いを慮った所で、非生産的さ」
「なんでそんなこと言うの……?」
 酷い中傷と悪口だ、と、抗議の声を上げる。
 ……ただ、可愛くなりたいだけなのに。
 思っても、伝えても、彼らは解ってくれない。
 解ってくれないなら、
「私の邪魔、しないで。速く帰って!」
 足元に転がる死体に命じて追い出してやる。
 そう考え、だから実行した。
 跳ねる様に起きた死体が行くと同時に、巨体が突っ込んでくる。
「また、あなた……!」
 ルウだ。
 何度も何度も、傷を厭わず迫ってくる、危険な人。
 そう認識するからこそ、自分が巻き込まれる事も承知で、化物はルウの目の前で死体を爆発させた。
「ぉ」
 だが、止まらない。
「おおおお!」
 爆炎を突き破る姿勢は低く、化物の目の前で更に屈む。
「なん」
 そうして行ったのは、両手で握ったメイスによるかちあげだった。
 フルスイングでぶちこまれたそれは、化け物のあばらを砕きながら吹き飛ばし、天井をバウンドして地面に墜落する。
「ああ、大変……また、よごれ……はやく、かわいく、な……」
 砕けてひしゃげた体を見ながら呟く言葉が、最期になった。


 夕暮れで紅く染まる空に、黒い筋が伸びる。
 弔いの炎から出る黒煙だ。
 集落の端に集めて埋葬したお墓の前で、数人のイレギュラーズは黙祷していた。
「……可愛くなりたいって気持ちは、可愛かったんじゃないかな」
「そういうものかのぅ」
 酒と甘味をお供えしたルフナの呟きに、ルクスは隣で答える。
 どうか今度は、ただの女の子として幸せになるように。そして、どうか。
「次は理不尽な死のない、誰よりも幸福であれることを、祈ってる」
 そうして彼らは、研究所の資料と共に、ローレットへの帰路についた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ユズキです。
アドリブとかアレンジとか多くなった気がします。
楽しんでいただけたら幸いです、お疲れ様でした。

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