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シナリオ詳細

<奇神封紀>特異運命座標、山に詣でること

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 汗のように涙が流れる。いや――涙のように、汗を流しているのか。
 それとも涎か。無様にも、俺が……。
 体液がぽたぽたと焼けた岩肌に落ちると、塩のごとき物がわだかまった。
 ――その山は、登れば登るほど気温の上がる特異環境。
 山頂に巣食う奇神(くしがみ)へ、村々の望み背負って、男は荒行、一人旅。
 まもなく、まもなく……と思い続けて、はたしてどれほど経ったか。
 とうに植生は絶え、前方、嫌がらせのように居続ける太陽に、網膜が縮む。
「では、妾(わらわ)の取り子となれ、男。
 さもなくば盲いるばかりのその御身を、ひっ転がして谷底にでも捨ててやろうか」
 奇神、匹津布四(ひつぶし)。日の神、うつくしき日の光の神。
 直視してはならぬもの。そばに置いてもならぬもの。
 故に山深くに追いやられたもの。
 逢えたな、と男は思うばかりで、ついに言葉も、弑神の短刀も刺し出せぬ。
 あえ、と言葉ならぬ音が舌の上で粘つき、転げ落ちるのみ。
 おそらく犬のように、だらんと垂れ落としているのだろう。
 すると、ふと。
「よい。そなたの心は妾が決める。今決めた。ここがそなたの終じゃ。
 さて――妾が神体、人なる身には苛烈ゆえな。この目隠しで和らげて進ぜよう」
 柔らかな布が、男の目を覆い隠した。それとは別、くすぐるような薄布の触感が、後ろ毛のあたりをなでて過ぎ去っていく。
「もう何も見ずとも良い。穢土の諍いも、浄土の謳いも。
 妾がそなたの目とならば、太陽こそがそなたの目じゃ。
 月の阿呆にゃ文句は言わせぬ。星の遠きも、望むのならば。
 うむ、ぶっちゃけそなた妾の超絶タイプじゃし、NOというなら『付いていく』ぞ!」
「……それは…………こまる、な……………………」
 ん、と匹津布四は気づき、ぱちんと指を鳴らした。するとやにわにミニチュアサイズの雨雲が男の額の上に生まれ、浄水を降らす。
 沁みこんでいく――男はみるみるうちに、生気を取り戻した。
「お前に降りてこられては人界の終わりだ。その故に、俺が遣わされたのだが――」
「だが? だが、何じゃ。言うてみい」
「――だが。お前にだけは降りてもらいたくない理由が、一つ増えた」
「惚れたか? 一目惚れか?」
「似たようなものだ」
 そう言って男は、都合よく気絶するのであった。

 では、からくりを記そう。
 この二人、否、一人と一柱は、これが初対面ではない。
 奇神の方、匹津布四は、その言葉の通り太陽を目として使うことができる。
 その能力でずっと、ずっと男を見ていたのだ。で、惚れた。
 弱きを助け強きをくじく、気持ちの良いツンデレ好青年なのだから、無理もない。
 対して男の方も、実はこの干渉に対抗する能力を授けられていた。
 弑神の短刀。これには、奇神の力を『返す』呪が混じっている。
 視線を返すのだから、『見返す』こととなる。で、惚れた。
 表情豊かで愛らしく、しかし神としての威厳を保とうと必死なのだから、無理もない。
 かくして、両者はこれまでに冒険小説の一つや二つ余裕で記せそうなほどのフラグを建てまくっていたのだが、その詳細は割愛することとする。
 大切なのは――。

「――これから、じゃ。これからどうするか……」
 岩肌に寝かす訳にもいかず、いやこの男は余裕で寝るだろうがなーとも思いつつ、匹津布四は男に膝枕をしてやっていた。
 そして、ため息。
「神たる妾ならば余裕なのじゃが――この山、人の住むにはあまりに適さぬ。
 や、妾のせいだってのはわかってるんじゃがな?」
 弱々しいセルフツッコミに聞き入る者もおらず、ただ乾いた風の吹き流れるのみ。
「むむむ……じゃが、マジで困ってるのは事実。
 こいつもなー! 考えなしになー! 妾と会いたいが為になー!
 会いたい、が、ために……むへへへへへ」
 男はただその為に、情報を集め、怪異を鎮め、荒行をこなし、ようやくここにたどり着いたのだ。それをこのような、本当に何もない(けれど愛はある)荒野に置いていては。
「――死ぬぞ、こやつでも」
 そんな事になったら、果たして自分が何をするか、本当はわかっている。
 わかっていて、考えないようにしている。
 匹津布四は男の前髪を指櫛で梳いた。


「ということで、ローレットの皆さんの出番です。
 山頂まで歩いていって、この新婚さんのために立派なお社など建ててあげましょう。
 大丈夫! 材料は(他の奇神さんの手伝いもあって)必要以上に用意があります。
 ただし――持っていくのは、徒歩です。自力です。人力です。
 さすがに麓からというのは酷なので、八合目辺りからのスタートになります。
 暑さの備えを、お忘れなく! ……山頂の気温、四十度くらい、ありますので」

NMコメント

 こんにちは、はじめまして。
 ノベルマスターの君島世界です。
 今回は、<奇神封紀>という異世界にて、新婚カップルのお手伝いをお願いします。
 なあに、特異運命座標なら登山くらい余裕余裕。ちょっとばかりレベル無視で疲労困憊する程度です。あ、日焼けもしちゃうかもですし、弱い方は目の保護もお忘れなく。
 お社の建立には、新婚カップルも手伝ってくれますので、知識やスキルがなくても単純な軽作業程度のお手伝いで大丈夫です。
 誰にでもできる簡単なお仕事ですので、ぜひご参加を!

 ――そういう売り文句の仕事は、単純な肉体労働だって、ぼく知ってる。

 それでは、皆様の暑さ対策プレイングをお待ちしております。

  • <奇神封紀>特異運命座標、山に詣でること完了
  • NM名君島世界
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年09月18日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
鮫島 和真(p3p008994)
電子の蒼海
隠岐奈 夜顔(p3p008998)
必殺の銃弾

リプレイ


 横を見てはいけない。断崖に絶壁に魂を持っていかれるから。
 上を見てはいけない。容赦なき陽光に瞳を潰されるから。
 足元を……ただ足元だけを見て、代わり映えのない岩肌を見つめて、人は山を登る。
 神の山、その八合目。禿山にこびりついた泥と乾苔に塩気の多い汗を零しながら、『電子の蒼海』鮫島 和真(p3p008994)はひたすらに登山という現状を維持していた。
「(       )」
 その魂曰く、虚無である。nullではなくvoid。意思代入関数にひたすら虚無を注ぐ。
 考えたら負けのような気がしていた。己は何を以て、このような苦行に身を捧げているのか。
「(       )」
 意思代入関数に繰り返し虚無を注ぐ。思考は、今の自分に余計だ。
 そうこうしているといつしか自分というものがなくなり、機能のみが残っていく気がしてくる。
 これが、無の境地だろうか。それとも魔境か。
 果てのない潜航(ダイブ)のその果てに見る、電脳と実存の交錯点……。
「(そうか)」
 思考が浮上する。深海の泡のように。マグマの雄叫びのように。
「(だから人は 山 に登るのか)」
 ああ。嗚呼。
 得心して和真は往く。
 なんだか身体が軽くなってきた。
 その軽さは、そう、思考の軽さなのだろう。
 肉体は今こそ、意識に追いついた――!

 ――この時、真道が残した登山ルートは、後に『匹津布四の和真道(わしんどう)』として多くの修行者に好まれることとなるのだが、それはまた、別の、お話。


「残暑がきつい……」
 に続くどーしようもないダジャレを、『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)はついぞ口にすることはなかった。英断である。
「うむ、よくぞこらえたぞ娘。もしも件の戯言を【再び】申せば、この山はたちまちのうちに針山と化しそなたの舌を刺すであろうからな。それとも、それが好みかえ?」
 と、匹津布四の声。声はすれども姿は見えず、つまり神通力である。
「……いいから。それよりもどこか、休めそうな所はないの? 秘密の木陰とか池とか」
「うむ、無いな。無い――おおそうじゃ、妾らの神域を建てたのち、そなたらで道々に祠をこしらえるがよい。存分ほめて遣わすぞ?」
「無いかー……」
 セリアはおしゃべりな神性の言葉を聞き流し(その程度なら無礼と思わぬほどには寛容なようだ)、改めて自然会話スキルで山の言葉を聞いた。
 するとこの先、大岩の向こう、こちらからは陰になって見えない場所に、格好の休憩地があるとのことだ。
「……いや、あるってさ。あっち」
 セリアは連れのゼノポルタ、『星影の双子』隠岐奈 夜顔(p3p008998)に言った。すると匹津布四の気配が、いたずらに笑いながら消えていく感覚がある。
「お帰りなすったか」
「バツが悪いんじゃない? 騙せなくて」
「そうかもしれないな。だがしかし、話を聞いていると――」
 夜顔は腕を組む。
「――どうにも奇(くし)な御魂と感じられる。その休憩地だって、つい今しがた出来たものかも知れないぜ」
 一霊四魂の考え方である。そもそもは和(にぎ)の魂と想像していたが、やはりというかなんというか、これまでの匹津布四の態度は実に多面的で、つまりよっぽど人間臭くある。
 これで見た目がロリっ子なら申し分ないが。夜顔は素直にそう思った。
「まあ、霊験のみで神を量るのもアレか」
 汗を拭う。と、ペースを上げた。中間地点とはいえ目標が定まれば、自然、そうなると思って。
「あ、コラ、だからって急ぐな! フィジカル8は伊達じゃないんだから……!」
 セリアはくらくらする頭を手当てで支え、残当、夜顔の後塵を拝すのであった。
 がんばれセリア。負けるなセリア。夜顔のフィジカルはまだ5だぞ。

 さて。
 燃えさしの両名が木陰に座って休憩していると、その横に複数の気配が通りがかる。
 いち、に、たくさん。列をなして歩くそれらは、めいめい小さな荷物を持っていた。
 釘やら針やら、そういった「ごく小さなもの」だ。例えば板だとか鎚だとか、そういう大きなものは、持っていないし持てそうにもない。
 そういう大きなものは一身、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)が背負っている。
 風呂敷ごとふらふらと進む、その通りすがりに世界は、セリアと夜顔とに視線を合わせた。
 ――秒で、わかりあえた。
「ありがとよ精霊さんたち。ここが、終点か――」
 世界は膝から腹、胸へとスローモーションで倒れこみ、死んだ(死んでない)。
「――死ねば、ようやく休める――」
「生きてるぜ。だから、今は安らかに死んどけご同輩」
「お墓は立てないから成仏して。そもそも必要なのはこっちだって話……ふふ……」
 セリアは力なく笑った。

「――だ、そうだが、お前様よ」
「――それは困るな。困るだろう?」

 という話声は、すぐに、片方が匹津布四のものだと知れる。
 ならばもう片方、男前で、強さと優しさを兼ね備えていそうで、それでいて聞き覚えのない声は!
「「「でたなリア充!」」」
「ありがとう、遠き地の友よ!」
 なんか素直に誉め言葉として受け止められてしまった。しかも結構嬉しそうに。
 これでは爆発しろ言いづらい……と内心、歯ぎしりした。
「ああ、ところでその『リアジュー』なる物言い、さきほど来た異界人も言っておったな。褒めるのはいいが、そのあと『爆発しろ!』と続けるのはいかがなものじゃろうな」
 言ったのか!! 和真!!
「まあまあひーちゃん。彼らには彼らの礼儀があるのだ。それを尊重してこその神であろう」
「ふ――ふん! そんなこと、ダーリンに言われずともわかっておるわ!」
 うん、一刻も早く爆発してほしい。
 ともあれ――強引にでも話題を変えないと憤死しそうだ――ともあれ、今回は声だけの顕現ではない。匹津布四もダーリンも、実際にその姿をこの場に現している。
 どういうことだろうか。
 イレギュラーズの(特に夜顔の熱い)視線に気づいた匹津布四が、あだっぽく微笑んだ。
「ふふん。すこしだけなら、力を弑させ――殺して山を下りてもよい、譲歩してやろうと思い立ってな。ダーリンの案じゃ、そうするのが、つ、つま、妻の努め、よ……♪」
「うむ! わが妻、匹津布四は、これより四海の民あまねく照らす陽となる!
 その為には、人の世に漸近せなばならぬ。なんとなればこの山、あまりに険しいゆえに!
 というか俺ならぬ人の足では無理だろうと、そう思っていた。いたんだがな!」
 ダーリンは筋肉質な笑顔で、親指の筋肉を立てた。
「前の和真君もだが、特異運命座標と言ったか!
 ――ここまで来るとは余程山登りが好きと見える!」
「いやいやいやいや」
「いやいやいやいや」
「いやいやいやいや」
 異口同音だった。おそらく和真も山の上で同じことを言っていることだろう――。


 パァン!
「さて!」
 という匹津布四の一言と一拍とで、景色ががらりと変わった。
 イレギュラーズの四人(いつの間にか和真も合流している)のいる木陰はそのままに、川は流れ小鳥はさえずり、どこかからともなく硫黄の――おそらくは温泉由来の匂いまで漂っている。
 ダーリンの持つ弑神の短刀が、輝き(チャージストック)を失ったことに気づいた者もいた。
「ここに妾らの神域を建てようぞ!
 時間は千文字も残ってはおらぬゆえ、巻いてお願いするぞえ!」
「なに、図面は俺の頭の中にある。皆はゆるりと休み、時々きびきび働いてくれればそれで良し!」
 とダーリンが言うと、セリアは不敵に笑みを浮かべた。
「乗り掛かった舟よ。最後まできっちり手伝わせなさいな、半神さん」
 という彼女のポケットには、仲間たちにわけてもらった携行品「久遠氷糖」があった。さすがはイレギュラーズ御用達のアイテム、こういう時の回復効果は抜群である。
「というわけで匹津布四さーん、ちょっとちょっと」
「ん? なんぞ?」
 と軽い手招きで呼ばれた神と気軽に肩を組んで密談モードに入るセリアである。
「ハート柄の……YESは『はい喜んで』で、NOは強引に……」
「……な、なんと……破廉恥な、しかし奥ゆかしい……うむ、採用っ……!」
 なんらかの密約が成約したようだ。一人と一柱は固い握手を結んだ。
「……はー…………」
 その様子を、なんとはなしに見る夜顔。すると。
「横恋慕かな? ん?」
 筋肉顔が視界の横からにゅうっと突き出してきた。
「うわあッ! ――と、そ、そんなんじゃないです、よ?」
 とは言うものの、夜顔が無意識に抱きしめていたひんやりシープくんはきっちりその部分が凹んでいる。疲れているらしい。マジで。
「解る。俺もかつては虚空に幻を抱き、無聊を殺したものだ。
 どうしようもないな、このようじょしゅM」
「それ以上いけない」
 いけなかった。
「……なので、せめて手伝うぜこのリア充め。あの柱とか、どこ持ってけばいい?」
「ああ、あの――ばくはつしているあたりだ」
「ばくはつしているあたり」

「ホワイト職場ばんざーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!」
 世界が、ばくはつさせていた。
「え、何? いきなり精霊たち強くなって? 俺の言うこと絶対服従じゃん超楽ー。
 よーし次、ええと、そこの川ふっとばして滝にしてみよーかー図面通り!」
 ――妙にテンションが高いのは、精霊からのフィードバックの影響である。
 先の匹津布四による地形操作、それが霊脈を活性化し、ゆえに精霊も超強化されているのだ。
「はい! どっかーんへぶし」
「神当身っ」
 どすっ。
 ばたーん。
 世界は匹津布四の前にぶっ倒れた。手刀がぎらりとひかる。
「相性良すぎじゃぞお主……。こんなアゲっぷり、よほどの術者でもそうそう至れぬわ」
 言い零すと、この一瞬で地面に「ょぅι゛ょ」と書き残した世界をどこかへずるずると引きずって行くのだった。

 その後の世界の行方は、杳として知れない(ちゃんと混沌に帰りました)。

成否

成功

状態異常

なし

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