血雨少女と夏満喫

オープニング

●監獄島
　幻想国における治外法権。そんな言葉が罷り通るのはこの場所位ではなかろうか。
　大罪人――それは『幻想国において』だ――を収容する絶海の孤島。それは幻想国における最も安全な場所だと葛西いずみは言った。
　この場所で何が起こっても内々で処理される。身の内に沸き立つ衝動を我慢しなくてよいというのは彼女にとってどれ程に幸運な事であろうか。
　そう、ここは幻想国で最も安全なのだ。かのアーベントロートの暗殺の手も及ばず、王国に有り乍ら王国から隔離された場所。それが『監獄島』と呼ばれる場所であった。
　この場所の王に君臨するのはローザミスティカと呼ばれる女であった。貴族殺しの大罪人たる彼女を篭絡し、監獄等の実質的な権限を得たいというフィッツバルディ公による秘密裏の『オーダー』はこの監獄に収容される者達の願いを聞き届けることであった。
　謎多きローザミスティカ。彼女だけではない。看守や囚人たちの願いを聞き届け、この島の支配権を得るが為に特異運命座標はこの島へと踏み入れるのだった。
　尤も――この島に居るのは罪人だけではない。何故……？　此処が幻想国で一番安全だからだ。

●
　混沌大陸には無数の少数部族が存在している。例えば、鉄帝国内に存在する3つの部族が徒党を組んだノーザン・キングスという連合国家――名乗る分はタダだとでもいうことか――そして、パサジール・ルメスの様な流浪の民など。
　葛西いずみという少女はそう言った場所の出身であった。普通の女学生として日々を送る毎日の中、その胸に沸き立つ殺人衝動を抑えることができず、夜な夜な剣を振るう毎日。
　彼女はその血では犯罪者と呼ばれていたが、その美しさと手際の良さから『監獄島』の王であるローザミスティカに気に入られ、日々を優雅に過ごしていると言うわけだ。
　だからで有ろうか、収容されている『囚人』であろうに――水着姿であるのは。

「こんにちは」
　うっとりと微笑んだいずみは「合法的に『看守』の仕事で罪人の処刑を為ていたのですけれど……夏なのです」とこてんと首を傾ぐ。
　そう、監獄島の塔はひやりと冷たく涼しいが――外に一歩でも踏み出せば灼熱である。身を焦がすような異様な空間が其処には存在しているわけだが……。
「私も夏を楽しみたいのです。
　素敵でしょう？　今回も看守長に頼んで皆さんを呼んで貰いました」
　そう微笑んでから、突然、近くの看守に目隠しの準備を頼んだいずみ。その抜群のスタイルを誇る『殺人鬼』は手には刀を握りしめてのスイカ割りスタイルだ。
「――ということで」
　その儘、ゆっくりと歩き出し、人の形を為た人形の首を落とす。
「斬首しましょう。夏ですので」

　――どういうことなのか、さっぱり分からなかった。

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●
　世間は夏、燦々と降り注ぐ太陽が心地よい――等とは言ってはいられない状況であると『きらめけ！ぼくらの』御天道・タント（p3p006204）はこれでもかと言うほどにしおしおしていた。天蓋に飾られた美しい太陽の如く、ギラギラと高貴なる輝きを発してくれるのかと思いきやしおしおと梅干しの様に枯れてゆく。
「おーっほっほっ……ほっ……
　こわすぎますわ……どんな怪談よりも人間が一番こわいですわ……」
　小さく身震いをする。折角の夏を楽しむイベントなのに。タントはしょんぼり気味なのだ。誰だ、ローレットで「夏を楽しむイベント」だと言ってタント様を連れ出したのは。
　眼前で日本刀片手にうっとりと微笑む黒髪美女。黒いビキニはたわわに実った双丘が今にも溢れ出しそうにぱつりと張っている。アロハシャツにハーフパンツ、サングラスをきらりと輝かせた『ファンドマネージャ』新田 寛治（p3p005073）は「成程」と頷いた。
「夏の砂浜で美女とキャッキャウフフの追いかけっこ。最高ですね」
「そうでしょう」と美女、こと、葛西いずみが微笑んだ。その妖艶なる笑みに寛治はにこりと愛想の良い笑みを返す。
「――ここがローザミスティカの支配下である監獄島で、追っかけてくる美女が殺人鬼、という事を除けばね」
　そう。ここは幻想王国の監獄島。危険極まりない囚人達を隔離した場所なのである。何故、そんな場所でバカンスになったのかと言えば――
「またか非国民め！」
『人生葉っぱ隊』加賀・栄龍（p3p007422）が敵意を剥き出しにする葛西いずみという殺人鬼をこの監獄島の実質的支配者に当たるローザミスティカが気に入っているからであるという。彼女曰く、『気まぐれで美しい高貴な花は狂ったモノがお好き』なのだそうだ。
「結構自由に過ごしているな貴様！」
「これもローザミスティカ様のご厚意の賜物です」
「くっ……依頼内容が葛西討伐じゃ無いのは何故なんだ。祖国の恥！　此処で切り捨ててやりたい！」
　噛みつくような勢いであった栄龍の声色は次第に困惑に満ちあふれる。祖国の恥と、どうして俺はこんなに普通に対話を――と思わず宇宙にまで飛んでいきそうな思考を戻したのは水着を着用し今まさにバカンス気分でビーチボールを手にした『おかわり百杯』笹木 花丸（p3p008689）の楽しげな声音だった。

　夏だ！　海だ！　＼スプラッターだっ！？／

　――栄龍は頭痛が止まらなかった。花丸は日本刀を片手にうっとりと微笑むいずみをびしりと指さして「どうして！」と叫ぶ。
「確かに夏で水着だけど、どうして……どうしてっ！　……ハァ、嘆いてても仕方ないし切り替えていこう！」
「それは秋奈ちゃんも聞きたい！」
　水着姿で可愛く決めた戦乙女、『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈（p3p006862）はこの理不尽な状況に頭を悩ませていた。
「水場でキャッキャウフフじゃなく！　今日は逃げ回るって言うのがオーダーなんでしょう？」
「あら、逃げなくても良いですよ」
「そう言ってー！」
　逃げなかったらポロリ（違う意味）が襲うくせにと非難めいた声を上げた秋奈。くすくすと小さく微笑んだ『睡蓮は妖しく微笑む』日暮 琴文美（p3p008781）。掉挙の肌に黒曜の角を二本持った幼い少女のナリをした彼女は召喚前の自身の悪行を思い返す。其れを想えばこそ――葛西いずみとの命がけの鬼ごっこは胸が高鳴ると言うものだ。
「召喚前のわたくしだったらとても楽しめそうな方……
　まぁきっとうっかり殺してしまいそうですがねぇ。ああ、誠に残念です」
「ふふ、『うっかり殺されてしまう』のは其方かも」
　殺人鬼の言葉に琴文美は「まあ」と唇で弧を描く。白い砂浜で堂々と立っていた『陸の人魚』シグルーン・ジネヴィラ・エランティア（p3p000945）は此度は逃げる係。
「――って事で！　ドキッ、血雨少女と鬼ごっこ！　……頑張るぞいっ！」
　やる気十分の花丸に「ドキドキだね……」とシグルーンは首を傾いだ。

●
「うふふー、すっごい親近感！」
　セーラー服に刀持ち。殺人剣の使い手たるいずみをその双眸に映したとき『三者三刃』すずな（p3p005307）は確かに親近感を感じていた。今は水着姿ではあるが、常のいずみの情報を見たときに『剣士だ！』と感じたのは確かなことで。混沌剣豪七番勝負を嗜むすずなにとっていずみの存在は心躍るものである。
「生い立ちや、人斬りの性に関して少々思うところはありますが……
　――それに触れるのは無粋。今はこの剣戟で語り合うのみです！
　さぁ、お相手下さいな！　きっとお気に召して頂けるでしょうから……！」
　嬉しい、といずみは微笑んだ。二人ずつのチームを組んで『葛西いずみ流　夏の嗜み』を行うために目隠しをしたいずみが「それでは」と刀を振り上げる。
「いーち」
　ばしゅ、と首が飛んだ。すずなは「おお……」と声を漏らす。
「にー」
　ポロリ（意味深）を見ないように花丸と寛治は走り出す。同様に栄龍と秋奈も走り出した。
「さーん」
　やけに楽しげであるこの人斬り。罪人の首をポロリ（意味深）するだけで満足しろよと栄龍は考えた。
「しーぃ」
　目を塞いだのはタント。上空に危険生物が存在しないかを確認するように空を仰いだ。
「ごー」
　……あ、こんなにも夏の空って綺麗なんですわねと虚無顔オフモードのタント様が底には立っている。
「ろく」
　ウキウキモードのすずなが剣を握りしめる。目的は時間稼ぎであるが、露骨な遅延狙いはしないと言うすずな。ワクワクしているとタントは肩を竦めた。
「なーなぁ」
　語尾にハートマークでも着きそうな葛西いずみの斬首の様子から距離を取るのは琴文美とシグルーン。此度の役割は自分らしくないと琴文美はそう思う。
「はぁち」
　すずなが、スタンバイモードに変化した。
「きゅーう」
　うう、とタントは唸った。「すずな様がイキイキしておりますわ～～……」としおしおしたタントは叫んだ。
「やるとなりましたら覚悟を決めント様ですわ！　やりますわよ！」
　覚悟が決まったタント様、略して覚悟を決まっタント様はきらめきポンポンを揺らす。
「じゅう――さあ！　『殺（おにごっこ）』しましょ？」
「ええ！　ええ！　ええええい！　ええいままよ！
　いずみ様！　わたくしを仕留めない方が長く斬り合いを楽しめますわよ！！」
「成程？」
　儚き花は輝きを纏いながらも上目遣いで懇願する。剣を構えたすずなが踏み込むそれに合わせ齎すのは晴明に活力と希望を注ぐ太陽の力。大量の魅力を一身に受け止めた輝く覚悟の決まっタント様にすずながにい、と唇を吊り上げた。
「感謝致しますタント様！　私の本気、しっかり見て下さいね……！
　勿論いずみ様も！　愉しく舞い、刃鳴散らしましょう！」
　剣がぶつかり合う。足下の砂に足首までずぶりと食い込むほどの重みにすずなの心が躍った。
　単調な攻めではこの殺人鬼は楽しんでは呉れないだろう。ならば――竜胆より揺らめく清廉なる気配を払うが如く重ねたのはあの手この手、居合、袈裟斬り、横薙ぎ、唐竹、突き――全てが全てすずなにとっては幸福なのだから。
「刃にて火花散らしあう、至高の時間――いずみ様も堪能下さいませ……！」
「こんなこと申し上げて『焼きもち』やかれないかしら？」
「はい？」
「――私、どうやら貴女のこととっても好ましいようです。ふふ、楽しみましょうね」
　退屈なんて忘れるように。人体の急所を狙うすずなの刃を受け止めていずみが踏み込む。それはすずなと比べれば荒削り。もしも剣術を正しく極めた者が見たならば乱雑で落第点で、それでいて、人の命を奪うことだけに特化したその剣に非難が殺到するだろう。
　すずなに回復を重ね続けながらタントは「ひえ」と何度も繰り返した。覚悟は決まっタント様でも剣士達の気持ちは分からない。
「ひっえええええ……なんですのなんですの、何が楽しくて笑っておりますのぉぉ……」

●
　一定時間とはいえ逃げ続けるというのは自分らしくない行動であると琴文美は認識していた。シグルーンとペアを組み、基本は逃走を優先する。
「ああ、全く残念です……」
「そう？」
「ええ。だってあれ程素敵な方と手合わせできないのですから」
　落胆に肩を竦める琴文美。万が一の事があればシグルーンが逃してくれるという手筈――だが、すずなと思う存分に戦った後のいずみは『戦闘不能になったイレギュラーズは取り敢えず殺さず置く』というローザミスティカの言いつけより、タントを追いかけ回していた。
　逃げることは出来ないかと魚の尾鰭で足跡を消してみせるが、いずみが直ぐに捕らえたのはシグルーン。
「先に逃げて」とシグルーン告げた言葉に琴文美派大きく大きく頷いた。見晴らしが良いけれど、試せることはある、そして逃げることだって出来るはずだ。
「おーーたーーすーーけぇえええ！」
　逃げる専門チームである二人が距離を取っていればその背後でタントの叫び声が響いている。
「逃げの一手ですわーー！　ステイ！　ステイ！　わたくしを仕留めない方が以下同文ですわーー！」
　――ちなみに、すずなはと言えば「最高でした！　また死合いましょうね！」と言うことでおもてなしという役割を完遂したようだった。
「おや、どうしますか？」
「ええ！？　こっちにきたー！？」
　寛治の言葉に振り向いて花丸は両手をバッと広げた。走ってくるタントを庇うようにぴょこんぴょこんと反復横跳びをする花丸は「ヘイヘイヘーイっ！」と煽るように手招く。
「鬼さんこちら、手のなる方へ……って今のはやっぱナシ！
　ポン刀持って追いかけられるとか絵面怖すぎるんだけどもーっ！？」
「なら止まって頂ければポロリ（意味深）しましょうか？」
　くすくすと微笑んだいずみを受け止めるように花丸がその身を投じる。「奥義ー！」と叫んだのは真剣白刃取り。額のその直ぐ近くに存在する刀にタントの「ひぎゃあああ」という声が聞こえたが花丸は冷や汗を垂らしながら余裕ぶって笑みを浮かべた。
「――さっ、やろっか？」
　其の儘、砂浜に脚を沈め、傷つけ壊すことしか出来ぬその拳を一気にいずみへと放つ。堅く傷だらけになった少女の拳がいずみの刃を退ける。
「いずみさん、よそ見しないでね。私はよそ見していて良い相手じゃ無いはずだよ。
　――他人に目を向けるなんて許さない。本気になってよ」
「上等な口説き文句ですね」
　うっとりとしたいずみに花丸は小さく笑った。逃走時間を引き延ばすために距離を取っていた寛治は弾丸を幾重も重ね続ける。愛用のステッキ傘から放たれる弾丸は人を食ったように翻弄するが――ここでもファンドマネージャは仕事を忘れることはしない。
「初めまして、葛西様。素敵でセクシーな水着を間近で拝見させていただき、ありがとうございます。戦闘のどさくさで、ちょっとくらい触っても許されませんかね？」
　挑発であった。挑発のつもりであったが花丸と相対していたいずみはにんまりと微笑んだのだ。
「乙女の柔肌に触れたい？　ええ、結構ですよ。けれど――」
　雨が降るだけですし、と微笑むその声に傘は常備しておりますからと寛治は自身の傘を揺らしてみせる。大人のジョークを展開する二人の真ん中で戦い続ける花丸は『隔離された殺人鬼』という強さを感じていた。
　お洒落闘衣を揺らして花丸は何度も攻撃を重ねる。それに合わせて『対話』し続ける寛治は何となく好感を覚えていた。
　――ちなみに此処でもタント様は覚悟を決めっタント様として回復と支援を行っていたのだった……。

●
　本日の秋奈ちゃんは『お預け』を喰らっていた。分類的には同じ刀使い。いずみにはそれなりに親近感を感じていたが――すずなが一番槍を務めている上、今回は出来る限りの時間稼ぎと逃げるのが優先だ。折角なら死合いも行いたがったがお鉢が回ってくるまでには幾分かの時間が掛かる。
　一定時間逃げ回ることが必要となるならばすずな・タントチーム、花丸・寛治チーム、そして秋奈と栄龍チームの3チームでシグルーンと琴文美を制限時間いっぱい逃し続けて勝利を得るという作戦の元、『葛西いずみを楽しませて』居たのが実情だ。
（まあ、守備メインとか逃げ腰戦闘だと、いずみちゃんは気に入らないよね。うんうん）
　頷いた。敵意むき出し鳳圏の恥だと叫ぶ栄龍をちら、と横目で見てから秋奈は「まあ―、逃げるのってなーんかシャクだけど」と緋い刀身を握りしめる。
「いっちょ私の華麗さを見せてあげたいじゃない？　ばびゅーんっといっちゃうよー！」
「見せて頂けるので？」
「もっちろん！　いずみちゃんにも『満足』してもらいたいしね！
　倒れるまで好きなだけ攻めつつ逃げるのだっ。今回はこんな形になっちゃったけど、普通の死合いしよねっ」
　ぶいぶい、と微笑んだが砂を握り目潰しするように放つ。砂浜を移動する秋奈と栄龍に追いついてきたいずみに「進路妨害、イエーイ！」と秋奈は小さく笑う。
「葛西イイイイ！」
　栄龍は叫んでいた。
「懲りない快楽主義め！」と苛立ち露わに歩兵銃銃剣を向ける。秋奈が「あっ」と告げるが早いか栄龍は特攻していく。恐ろしい勢いである。其の儘攻撃する派防御構造の破壊を行う兵器の名を冠する一撃。いずみの刀を弾くように放った一撃に眉を顰める。
　いずみを睨め付けた栄龍は怯むこともしない。血が溢れようともそれが『普通』で在るかのように立ち回る。まさに神風特攻隊だ。
「殺されるくらいのやつをお望みだろ！　くれてやる！　お前は前に会った時とちっとも変わらんな！」
　お前の満足なんて知るかと頭突きを放てばいずみの視界が眩む。しかし、勢いの儘日本刀がぐん、と持ち上げられた。斬られるかと栄龍が認識したのも束の間、その刀を受け止めたのは秋奈である。
「ひゅー！」
「まあ」
　刀が翻る。栄龍は「葛西！」と叫び再度攻撃を放った。まだまだ、戦える。これは死闘ではなく時間稼ぎだ。此の儘、時間経過を狙うのみである。
　然し、いずみの狙いがそれたのは一人逃げ回ることに徹していた琴文美の姿を見つけたからだろう。
「わたくし、とっても弱いので、手加減して下さりませんか？」
「ぽろっとしてから、でいいですか？」
　首を傾げるいずみ。琴文美は最終的には逃げ回ることに長けたタントを護るように立っていた。
　だが、最初に与えられた制限時間はもうそろそろだ。一刀、放たれた其れが琴文美の体を傷つけるが『其れを厭うことは無い』
「終了ですよ」とどこからともなく『声』がかけられた刹那、ぴたりといずみの体が止まる。それも異様だ。倫理も無くルールも存在してなさそうな殺人鬼は此度の遊戯のルールをしっかりと守っているのだ。

「はぁ……やられてもこの身がゾクゾクしてしまいます……ふふふ。
　この身の恐怖体験はとても素敵で愉悦ですねぇ…また、このわたくしに恐怖を与えて下さいませ……とても好ましい」
　うっとりとした琴文美のその横顔にげっそりとしたタントが「疲れましたわ……」と呟いた。
「おーたーすーけー！！」と叫びながら制御不能なブリンクスタで天までカッとぶ勢いであったタント様。
（この身が恐怖を感じるなんて…此度、久方ぶりなのですから……ふふふふ。
　わたくしは加虐的で被虐的なだけなのです……そこに何の変質が？）
　タントや花丸のような怯えた様子を見ていればぞくりとして『虐めたくなる』のが琴文美の筈がその性格性質に何らかの変化が生じているのは確かなようだ。
「いやはや、良い体験でした」
「新田さんは何かあったのですか？」
　傷の手当を受けていたすずなに「此方の話です」と寛治は言った。
　ちなみに、花丸曰く「葛西様、触っても？」と応えれば「刺激的に雨を降らせましょう」と怒らなかった狂った殺人鬼さんは其れはもう……良き経験を頂けたそうです。ソフトタッチで。
「あちこちやられたな……まったくはた迷惑なやつだった……。
　目的なく武力を行使するとは理解できねえな。鳳圏に生まれたのに祖国のために尽くさんとは」
「あー……どっちかって言うと尽くしてるんじゃ無い？」
　秋奈の言葉に栄龍は「なに？」と首を傾いだ。祖国のためでは無いが、葛西いずみは夏の『ちょっとした見世物』を彼女へと与えたのだろう――この監獄島の主、ローザミスティカへと。

●
「どうだった？」と問いかけたのは美しいルージュをその唇に引いた女であった。金の髪にフィッツバルディ公と同じ濃紺を身に纏った監獄の女王はテーブルの上にコインを投げて寄越す。
「とっても楽しかったですし、ええ、祖国の気配を感じながらこれほどまでの死合いを行えるだなんて。
『ローザミスティカ』――いいえ、ベルナデッド様。ローレットととの楽しい遊戯の時間を有難うございます」
　いずみはうっとりとしたようにそう言った。普通であればこの女を飼い慣らすことは難しいのだろうが、人心掌握に長けたローザミスティカにはよく懐いているのだろう。いずみは「これは私の気持ちだとお伝え頂いても？」とうっとりと微笑む。
「――また、お会いしましょうね。イレギュラーズ」

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

あとがき

　お疲れ様でした。
　葛西いずみちゃん可愛いですね。脱ぐと凄いタイプなのでしょうか！

　監獄島にも色々と渦巻いています。又、皆様のお越しをお待ちしております。