シナリオ詳細
Faciem luna plena
オープニング
●『満月の顔』
天にはいつも星がある。
天にはいつも月がある。
それは世の摂理にして絶対たる事象だ。
暗黒の中に佇むソレは。
永劫変わらぬ景色。
永劫変わらぬ不変の象徴。
いつまでも続く――忌わしき日。
見るたびに猛る地獄の顕現……
エルス・ティーネ (p3p007325)の生涯には常に『アレ』が付きまとっていた。
世界を跨いでも存在する『満月』
どこへ逃げてもどこへ隠れてもこちらを覗いてくる。
逃がさぬとばかりに。忘れるなとばかりに。
満月の日に髪は赤く瞳は金に変貌するのが常であり、鏡を見る度想起する。
あは、あは、あははと。
笑って狂えたら――楽だったのだろうか?
それでも、多くの友の力を得て。
誰しもの言の葉が彼女に力を与えて。
ほんの少し前へと進めようになって来た。
だから。
「ねえ、エルスちゃん……」
ウィズィ ニャ ラァム (p3p007371)はもう一歩と。
想い、彼女に寄り添う様に言葉を綴るのだ。
――ラサには、とある遺跡を超えた先に、それはそれは満月が綺麗に見られる場所があるという。
砂地の中の奇跡の一角とまで呼ばれる場所。そこへ至るには些か暗き、今は朽ち果てた遺跡都市を通らねばならぬ。そこにはかつて住んでいた――今やただの魔物と化している――者達が跋扈して、只人はそこいらの新たな骨と成り果てるのが関の山。
……されど通れた先にあるは絶景の一声。
満月を眺める事の出来る最高の立地にして。
満月に『眺められる』最悪の立地。
「私と二人で、一緒に行ってくれない?」
だから。
努めて明るく、しかし大切な友人へと振り絞ったのは――勇気だ。
たった一つ。それだけがあればいいのに、なんと力のいる事か。
ともすれば彼女の心を再び追い詰めてしまうかもしれないと。呼び覚ましてしまう、そんな地へと誘うかもしれないと考えれば、どうしても喉が渇く様な感覚を得る。
また彼女に怯えた日々を。
恐怖の日々を送らせてしまうのではないか。
それならただ黙し、彼女の背を支えるだけにした方がよいのではないか――
「……ええ、ええ」
だけれども。
「ウィズィさんとなら、きっと、きっと大丈夫……」
一緒に、行くわと。
エルスの――震えたのは声か魂か。
立ち上がる。大丈夫、きっと大丈夫だと、幾度も紡ぐ言霊が耳へと届き。
さぁ……
行こう、共に。きっと貴女と一緒なら行けるから。きっと貴女と一緒に生きたいから。
二人で満月を、受け入れに行こう。
- Faciem luna plena完了
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年08月30日 22時15分
- 参加人数2/2人
- 相談7日
- 参加費---RC
参加者 : 2 人
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参加者一覧(2人)
リプレイ
●月
夜が来た。
今日もまた、夜が来た。
きっと明日も、夜が来るのだろう。
だから――
●心中
足音。聞こえてくる音は二つ分。
洞窟の中は音がより響き。しかし――かつての都市の面影を残す広大な空間にまで至れば掻き消える。広さがあればもはやここは閉鎖空間などとは言えない。
ペルアポリス中心部。
渦中を進む『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)の想いは如何程か。
滅びた都市を乗り越えて、進んだこの先にあるのは満月一つ。
ソレを眺める事になるのだ。上手く進めようとも『ソレ』と対峙するのだ。
大丈夫だと己の心に言い聞かせても、どこか心の臓が酷く響く気がする。
――満月の顔を眺めた事が幾度あっただろうか? 遥か過去はともあれとしても――
「エルスちゃん」
そんなエルスの手を握りしめるのは『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)だ。触感よりも先に『暖かい』と。そう感じたエルスが顔を上げれば目が合って。
「大丈夫。一緒に、見に行こう」
されば。瞳に映るのは彼女の強き意思。
ウィズィの青き瞳が――こちらを覗いてくる。
彼女は『満月の日』のエルスを見た事がある。あれは誕生日の日、満月と誕生日が重なった日の出来事……あの姿は今もこの瞼の裏に焼き付いている。紅き髪に金色の眼――
綺麗だと。ウィズィはただ只管に。
純粋にそう想った。
(――でも、まだ怖がってるんだな)
それは誰に対してだろうか。ウィズィに対して? それとも――『自分』に対して?
ただ確信している。彼女にはまだ恐怖――いや、それ『らしき』モノが心にある、と。握り締めた手の平から伝わって来る。言葉にせずとも分かるのだ。言い様は知れないが……彼女の不安を、確かに感じる。
だからこそ止まる訳にはいかない。
行くのだ、一緒に。
行きたいのだ、一緒に。
「ええ」
だから。エルスも手の平を握り返す。
それは意思の表れ。どこかに迷いがあってもそれでも。
ウィズィと共にならと――願ったから。強く強く握り返して。
「きっと大丈夫。私は……私は乗り越える……!」
「――それじゃ……見に行こう、満月を!」
ああ。今日こそ見上げよう。
なんとしても必ず。『満月の顔』を見上げてみせる。
繋いだ手の温もりが……彼女に力を与えるから。
歩を進める。ウィズィと一緒ならば怖くない――この滅びた都市を超えるのだ。
●ペルアポリス
滅びた都市には死者が徘徊している――耳を澄ませば聞こえてくるのは幾つかの足音。
同時に鳴り響いている金属音は鎧かそれとも剣の擦れか。
出会えば面倒であろう。故にウィズィはしゃがみ、放つは一匹の鼠。それはファミリアーの術を用いて造り出した使い魔だ……優れた耳を共有させれば、近くの敵を素早く見つけ出して。
「エルスちゃん、こっち。この先には死者がたむろしてるみたい」
「どうやら敵の数……この辺りは多いわね……慎重に行きましょう」
さすれば二人は足音を潜めつつ進んでいく。
目的は満月だ――戦闘など極力排せればそれでよい。
ウィズィが鼠を用いて先行し、耳で前方側を探っていく。そしてエルスは優れた嗅覚によって敵の気配を探る。死者であれば身に付いた血痕や、独特の臭いがあろう……特にこんな風通しの良い所でなければ尚更に。
ここは、暗い。
山の中を繰り抜いた空間にあるから当然であるが――あぁなんとも実に暗さを感じる事だ。
それは音が限定されている事にも起因する。
ここは生きている者の気配がない。もし街の中であれば歩く者がいよう。家の中で食事をする者がいよう。酒場で和気藹々と楽しむ者がいよう。それらを照らす、灯りがあろう――
しかしここにはそれらが一切ない。
暗闇と共にあるのは冥府の臭いのみ。自らの心の臓の音がやけに目立つ気がする程に。
静寂に包まれていた――此処には、碌に動物すらおるまい。
「それでも、この先に用事があるのよ……!」
感じた気配はこの先より。
路地裏に相当する道を迂回して戦闘を避け続けていたエルス達だが――どうやらこの先は少し難しいようだ。あちらこちらから敵の足音と臭いを感じ、進めば見つかり止まれば囲まれよう。
ならばと速攻。比較的敵の数が薄い地点、かつ周囲の敵と距離があり孤立に近い箇所を――
「どきなさい。容赦は――できないわ」
こじ開ける。ウィズィが盾として、エルスが矛として。
骸骨の兵士に襲撃を仕掛けるのだ。現れたウィズィの気配と声に兵士が反応し剣を抜いて、斬りかかる。大上段より放たれた振り下ろし――足のステップで躱し、見据えた一閃は。
『跳ね』の一撃。
それは月に尋め行く兎のように。淡い光を纏った武器が兵士の腹へと投擲されるのだ。
吹き飛ばされる。着弾と同時に生じた衝撃波が敵を打ちのめして。
「っ、ここで引き返すわけにはいかないのよ……! 私は――ッ」
さればエルスが息を吸い込む。
容赦はしない。元より命を失い現世に彷徨う過ちの命達だ。
終わらせる方が慈悲でもあろう。大いなる鎌に彼女の全魔と全力が込められて。
――薙ぐ。命を狩り取り、浄化せしめん。
トドメはしっかりと。死者であればもしかすれば立ち上がる事があるかもしれない。四肢を斬り落としても油断は出来ないが……止まる暇はないのだ。邪魔される場合ではないのだ――だからこそ紡ぐ一撃は全力にして積極的。
押し通る! 立ち塞がるのならば全て潰す!
「私は――ッ、この先に、用事があるのだから……!」
「エルスちゃん行こう! 排除出来たけど、音を聞きつけて敵の増援が来るかもしれない……!」
声が震える。喉が震える。
本当に私はこの先に行きたいのか?
兵士たちに阻まれ『仕方ない』とする心が欠片も無いか?
「――エルスちゃん!」
ああ。
それでもウィズィの声が。彼女の手が、私を導いてくれる。
暖かい道しるべ。
進める歩に力が宿る。走れば靡く髪――その、後ろ髪を引くような錯覚を。
振り払える。
「ウィズィさん、そこの廃墟……少し広い。彼らの目から逃れられるかも……!」
「ん、オッケー! ちょっと休憩がてら様子を見ようか……!」
道は半ば。いや半ばももう超えたか――?
奥に進めば進むほどに死者たちの気配が広がっている。やれやれ帰りも大変そうだけど。
「きっともうちょっとだよ。頑張ろう」
座り込む、深呼吸――二人の顔にあるのは微笑みのみ。
兵士達と戦う恐怖はない。きっと、絶対に。
辿り着けると信じているから。
さぁもうひと踏ん張りだ。体力と気力には注意しつつ、囲まれぬ様にもしつつ。
もっともっと進んでいこう。ここは洞窟の中であり、光が極端に限られているが――だからこそ奥に見えているモノが目立っていた。
それは外からの月明かり。
私達が求める――月がそこにあるという、確かなる証。
●どうか貴女と
金属音が鳴り響き、その度に生者と死者が交差する。
命の輝きがペルアポリスの各所で瞬き……しかし。
その光は確実に奥へと進んでいた。
時計の針が進んでいく。
歯車の音が少しずつ、世界に刻んでまた一つ。
時計の針が進んでいく。
その度に動くは天の星々も。
止まるモノは無い。常に何かは動き続ける。だから――
「つい、たッ?」
この世で彷徨い続ける亡者達が、願いもって進み続ける彼女らを止められる道理など無いのだ。
発した声はどちらのモノだったか――ああいや、もうどちらでも良い。
同じ事だ。大いなる洞窟を超え、辿り着いた先にあったのは。
満月。
白き大地。天に聳える、どこまでも煌めく大星。
此処には邪魔をするような人里の灯りは無く、木々も無い。
だからこそどこまでも晴れやかに――満月を眺める事が出来ていた。
「……凄い。大きな……満月……」
ウィズィの口の端から言葉が零れた。
意図したモノではない。ただ本当に純粋に……胸の内から言葉が零れたのだ。瞳に映るソレがどこまでも綺麗で、目が離せなかったのは何秒だろうか。一秒? 五秒? 十秒? いやいやそれとも……
それでもやがて。腰を下ろしたウィズィとエルスは二人で並んで天を見上げる。
瞳に確かに映る、満月の顔を見ながら。
「私、ね。昔、言われたの」
エルスが語るのは満月を厭う理由。
一つは知っている。それは――吸血欲が高まり、その容姿に変化が訪れるからだ。
しかし彼女の抱く理由はソレだけではない。いやむしろこちらの方が本命か――
「義妹に――言われたの……ああ、義妹がいたのは言っていたかしら。
彼女はね、私を常に嫌って疎んでいた」
エルスの義妹。かつての世界で討った、義理の妹。
侮蔑する様に『見苦しい姿』だと何度言われた事か。
表向きは――何ともないように振舞っていた。そんな言葉が響く事は無いと……しかし。
「でも。私の中で疼き、ずっと苦しかった」
蝕んでいた。
上っ面を幾度塗り直しても、奥底に入り込んだ酸の様な毒が少しずつ溶かしていた。
ずっとずっと苦しかった。
苦しかったの。
「それが満月の日にずっと、ずっと言われてたから……それはある意味呪いだったわ。ずっと心に響いて話さなかった……時折、明日が満月というだけで思い出して。その時から動悸が止まらない事もあったの……それから満月の日は……」
外に出る事を恐れ、まるでアレルギーの様に。
彼女を内へと縛り付けた。外への恐れがどこまでも。紅き髪と黄金の瞳を呪い。幾日過ぎても幾年過ぎてもその呪いが消える事は無かったのだ。もしかしたら、ここに来ると決めた――今日でさえ。心のどこかではやはり『そう』であったかもしれないし。
満月の日なんて――永遠に訪れなければ良いとさえ。
「……そっか。それがトラウマなんだね」
であればとウィズィは言葉を紡ぐ。
エルスが語ってくれたその内容。心の底から絞り出した呪いの事。
理解はしたけれど、理解が出来なかった。だって。
「エルスちゃんはそんなに綺麗なのに――なんで妹さんがそういうのか」
私には分からないけれど。もしかしたら、それって。
「……あまりに素敵だから、嫉妬してるんじゃない?」
「……えっ?」
「私が妹さんなら、絶対そうだなぁ」
ウィズィは言う。呆けた様にこちらを見つめてくるエルスに対して。
戯ける様に。
笑いかけて、空を。月を見上げて。
「ねぇ、エルス」
初めてその名を呼び捨てる。
頬を緩やかに。優しく、笑いながら。
「ほら、見て。月って、やっぱり……優しいよ」
紅い髪を撫ぜる。
掻き分ける様に。その手の指先に、多くの彼女を感じながら。
まっすぐに彼女を見据える。その瞳に嘘偽りなど一切なく。
「エルスが満月を嫌っても、満月はエルスをこんなに優しく包み込んでくれる。
……あなたは綺麗だよって、照らしてくれる」
あの空に浮かぶ大地は決して誰も拒まない。皆を必ず照らしてくれる。
貴女の顔を映してくれる。
夜に沈む世界の中でも、確かに貴女の顔を。
「もし、ね。妹さんの言葉がエルスを今でも、今この瞬間でも縛っているのなら」
顔を引きよせ額を合わせ。
「私もね、妹さんの呪詛を忘れるまで、何度でも言うよ」
瞼を閉じて。
「その髪、その瞳……綺麗だよ、エルス」
貴女に捧ぐ。
満月が来る度エルスに言うよ。
エルスは綺麗だ。満月の日に輝くその髪が、その瞳が。
きっと世界で一番なぐらい。
綺麗なんだって――何度でも。
「あっ……」
――見苦しい――よく人前に出て来れる――恥ずかしくないのか――
――人形――お飾り――笑わせてくれる――
――お父様の娘は私だけ。
「あぁ…………」
義妹の呪縛。世界を跨いでも残り続ける鎖は、ずっと解けなかった。
もしかしたらこれはずっとずっと残るのかもしれない。
永遠に。永劫に。満月を見る度思い出すのかもしれない。
「……ウィズィ、さ……」
それでも。
額から伝わって来る熱が何かを溶かした。
混沌に来てから幾度も満月の日は過ごした、けれど。
「あの、ね。混沌で初めて知ったの、満月はこんなに優しいって」
けれど、きっと。
「あなたのおかげね」
私は、この日を。この満月の日の出来事は。
「ありがとう……ウィズィ」
きっと。
ずっと忘れないだろう。
――零した涙が止まらなかった。頬の温度を下げるかのように一筋が紡がれて。
二人並んで言葉を交わす。二人並んで――夜空を見上げる。
満足いくまで、心行くまで。
……時間はあるのだから。どこまでも……
夜が来た。
今日もまた、夜が来た。
きっと明日も、夜が来るのだろう。
だから――
きっと私は思い出そう。
貴女と共に知ったのだから。
満月の顔を。
とても綺麗で、とても優しい――満月の顔を。
親愛なる、貴女と共に知ったのだから……
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――きっと次の満月を。
心穏やかに眺められる事を祈って。
リクエスト、ありがとうございました。
GMコメント
リクエスト、ありがとうございました。
月を眺める事が――出来るのでしょうか――
■依頼達成条件
遺跡を超え、月を見据える。
■遺跡:ペルアポリス
砂漠を抜けた先にほんの少し広がる荒野。
そこに小さな山脈地帯があります。
かつてここにはその山の中をくりぬいて、都市を形成していた時代があったそうです。
しかしその都市は――原因は不明ですが反乱が起こり滅びました。
多くの血が流れ、今もその時の死者が彷徨っているという話です。
……この都市の中を進むと『山の向こう側』に出ます。
そこから先には障害物も何もなく――景色を、月を。眺める事が出来るそうです。
それは大層美しいそうな……
山の中にある故か、都市は広い洞窟の様になっています。
幾つか建物なども建設されていた跡が見えますが……もはやボロボロです。
辛うじて見える大通りらしき道を進んでいけば『向こう側』へ辿り着くのはそう難しくないでしょう。しかし大通りの道は目立ち、後述する敵との戦闘が激しくなる恐れがあります。迂回も手かもしれません。
また、洞窟の中ですので灯りが非常に限られています。
■敵戦力
・骸骨兵士×??
かつて都市を警護していた者――の成れの果てです。
剣と盾(いずれも古びていますが……)を持ち、都市を巡回しています。
総数は不明ですが、生きている者を見つければ追って来る事でしょう。
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