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シナリオ詳細

<夏の夢の終わりに>無邪気とは許されざる大罪であるも

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●「ふたり」の記憶
 寒い村だった。
 実りの秋などというものを「彼」は味わったことがない。かろうじて得た収穫から来年の種もみを引くと、いつも頭を抱えるほどの量しか残らなかった。荒野のハーブやベリーがごちそうで、つらい畑仕事が終わってもなお、狼の鳴き声におびえながら野をさすらった。夏は短く、土地は痩せていて、春などというものはそっけなく、狩猟もろくな結果がでない。行商も見切りをつけ立ち寄らないほどに困窮した村。飼料もないから、牛も豚も羊も飼えない。なんでも食べてそれなりに数が増える鶏だけが限界、それだって下手をすると卵を産むまえにつぶされる。冬の寒さに耐えられないからだ。年々、人は減っていった。
 冬が来るたびに削り取られていく村を「彼」は見ていた。見ることしかできなかった。何故なら「彼」は幼い子どもでしかなかったから。できることは大人の手伝いくらいで、生活に追われるままに日々を過ごすしかなかった。働けるものは皆働いた。そうしなければ生きることは出来なかった。それでもなお、冬はやってきた。耕した土を凍りつかせ、何もかも雪で覆う冬が。
 その年はひどい吹雪だった。秋はすぐに飲み込まれ、朝も昼も夜もわからない。地鳴りを立て我が物顔で村を蹂躙する吹雪。薪を取りに行こうにも、目をやられて凍死してしまうほどに。使い道のなくなった暖炉は、煙突から吹き込む寒風を防ぐために詰め物がされた。火が起こせないから、生のジャガイモをかじって食べた。あの歯にしみいるような冷たさは今も忘れられない。
 もう地図のどこにもない、「僕」の村。

●目覚め
 ふと眠りから覚め、錬金窯を出た彼――マルベドは、すぐに異変に気づいた。
 奇妙な感覚が体を支配していた。
 ローブの襟元を掻きよせた彼は、くしゃみをした。体が勝手に震え、歯ががちがち音を鳴らす。その気もないのに猫背になり、体が固くなる。吐く息は真っ白だった。
(そうか、これが『寒い』ということだな)
 頭の中の知識と感覚をつなぎ合わせる。ひとつ合点がいって、彼は周りを見回した。アルベドたちの寝床である錬金窯はからっぽで、皆出払っているのがわかった。それ自体は珍しいことではないけれど、この冷気。錬金術の実験場であるここは、温度管理がなされていたはずだ。それが、機器には霜が降り、床には薄く氷が張っている。中には割れている錬金窯もある。
 何が起きたのだろう。ひとまずその場を離れようと、不用意に一歩踏み出したマルベドは、滑って転んだ。おもいっきり顔から行った彼は、しばらく痛みで動けなかった。
「ギャハハハハハハ! 間抜けなアルベドも居たもんだ!」
 むっとして顔を上げると、そこにはレッドキャップどもが居た。この城を守る邪妖精、たしか造物主がアルベドたちよりも先に手駒にしたのだったか。分厚い防寒着をまとって着ぶくれしたレッドキャップは、ナイフをちらつかせながらマルベドへ近づいてきた。
「なんのつもりだ?」
「革命が起きたんだ、もう俺達はおまえらの玄関マットじゃねえ。俺達邪妖精がおまえらの上に立つんだよぉ!」
 言うなりレッドキャップは殺意をあらわにマルベドへとびかかった。マルベドは床を転がり初撃を避けると、反動をつけて立ち上がる。また滑りそうになったが、それは手近な錬金窯へしがみつくことでこらえた。
 ここで暴れるのはまずい。錬金窯はアルベドたちのベッドだ。不用意に動けばそれが壊れる。マルベドはナイフを交わしながら部屋を出た。より強い冷気が吹き付けてくる。
「何があったんだ一体!」
「ハハッ! グースカ寝てたアンタにゃわからないだろうな! 冬の王が目覚めたんだ! この胸糞悪い常春の妖精郷を吹雪へ沈めるためにな!」
 冬、吹雪。マルベドの中で何かが弾けた。嫌悪によく似た感情だった。
「……神気閃……」
 追いかけてくるレッドキャップどもを相手に不殺の呪文を唱えようとしたその時、背後から不穏な気配を感じて、彼は詠唱を中断し横へそれた。途端に目の前が真っ白になり、風を受けたローブがはためく。体中の熱をすべて奪い取られそうなほどの寒さだった。
 一瞬の濁流が消え去ると、レッドキャップどもは氷漬けになっていた。パキンと音を立て、粉々に割れ砕ける。
「無事かね? アルベド君」
 現れたのは3体の騎士だった。真っ白な鎧兜に覆われており、洗練された様子は位階の高さをうかがわせたが、どこか無機質で人間味がなかった。
「我々は冬の王の騎士だ。私はモラクル」
「我が名はセスメタ」
「ドモイだ、お見知りおき願おう」
「……マルベド、です」
「マルベド? ああ、君が危険分子、『妖精殺しの』マルベドか」
 リーダーらしきモラクルが何気なくそう言った。マルベドの胸にぐっさりと言葉が刺さる。
「エウィンでは街の区画の四割を破壊したそうじゃないか。それだけの功績をあげなから、タータリクスの元を離れイレギュラーズと接触したのは何故かね?」
「答える必要はありません」
「反抗的だな。まあいい。我らが王は慈悲深い。反省し、忠を尽くすというのなら、冬の軍団へ迎え入れよう」
「その軍団は、何をするつもりなのですか」
「もちろん、この妖精郷を氷漬けにするのだ。あの羽虫どもを根絶し、永遠に吹雪渦巻く理想郷を作るのだよ」
 モラクルはあくまで淡々と言葉を紡ぐ。
「妖精どもは哀れな冬の王を地の底深く封印し、土足で踏みつけながら自分勝手な平和を謳歌していたのだ。その報いを受ける時がやってきたのだよ。戦力は多ければ多いほどいい。マルベド君、イレギュラーズへ接触したことはこの際不問にしよう。どうだね、新たなる理想郷のために力を尽くしてくれないか」
 マルベドは沈黙した。室内だというのに、粉雪がちらつき始めた。騎士たちが無言で自分の強さを知らしめ、威嚇している。
「『寒い……村だったな』」
 マルベドがぽつりとつぶやいた。
「……冬が来たんだね、『抗うことのできない脅威が、無慈悲に命を奪う』冬が」
「王を侮辱する気か?」
 ドモイが剣を抜く。
 しばらく黙っていたマルベドはやがて、そうだね、と返した。
「これが借り物の感情でもかまわない。僕は『冬』を憎む。必要もなく命を奪うものを憎む」

●Ready
 曲がりくねった廊下をあなたは走っていた。
 壁一枚隔てた先は大広間だ。そこを制圧すれば後続のためになる。戦略上優位になることが確認された場所だ。広間までの扉は遠い、あなたは床を蹴り、走るスピードを上げた。
 ――ドゴオ!
 突然、壁が爆発し、冷たい風が吹き付けた。思わず腕で顔をガードする。薄めた目に、砕けたレンガに埋もれる青年の姿が見えた。
「う、く、大天使よ」
 治癒の光が走り、青年は跳ね起きた。彼の姿はマルク・シリング(p3p001309)にそっくりで、色を抜いたように白い。かろうじて茶色の残った髪へ雪が積もっていることにあなたは気づいた。アルベドだ、そうあなたは気づき得物をかまえた。だが。
「危ない!」
 青年はあなたへタックルして押し倒した。
 ――ドムッ! ガシャアン! ドゴン!
 次々と壁が割れ砕け、氷の海へ放り込まれたかのようにあたりの気温が下がっていく。
「他人を助けるとは余裕だな。ネズミのように逃げてしまってもいいのだよ?」
 冷気の向こうから、三人の騎士が姿を現す。あなたの存在に気づいた彼らは足を止めた。その足元からパキパキと氷が広がっていると、あなたは見て取った。
「さて、こんなところに妖精以外がいるということは……イレギュラーズだな? まずは名乗ろうか。私はモラクル。冬の王よりありがたくもサーの称号をいただいている」
「同じくセスメタである。イレギュラーズは見つけ次第首を刈れとご命令を賜っている」
「冥土の土産に教えてやろうか。俺はドモイだ」
 立ち上がったあなたは、足元が滑るのを感じた。戦闘態勢を取ろうにも体がぐらつく。
 モラクルが剣の先でアルベドを指差す。
「マルベド君、最後のチャンスだ。そこのイレギュラーズを殺したまえ。さすれば私が直々に冬の王へその活躍を奏上して進ぜよう」
「そんなことできるわけないだろ!」
 マルク似のアルベド――マルベドは叫んだ。
「では仕方がない。冬の王の名において、貴様らの首を頂戴する」
 嘲笑を含んだ声が冷たい大広間に響いた。

GMコメント

みどりです。
あなたはマルベドくんが襲われているところに偶然出くわしました。
自分の安全を守るために妖怪首おいてけな騎士を倒しましょう。
マルベドくんの生死は成功度に関係ありません。

やること
1)冬の騎士を倒す

●エネミー 冬の王の騎士 3人 戦場効果無効・火炎系BS特効
モラクル
リーダー格の男 タンクよりハイバランストータルファイター
【精神無効】【麻痺無効】【毒無効】
・局地烈風 神特レ R3の敵に対し【怒り】【氷結】
・業障吹雪 物超貫【必中】【災厄】【狂気】【氷結】
・永久氷壁 付与副 物理無効
・かばう

セスメタ
高防技・抵抗 低FB 命中切りな回復ポジ
【充填超】【覇道の精神】【精神無効】
・スノウドーム 神遠単 HP回復特大 BS回復大
・ブリザードアロマ 神自域 副 AP回復大 BS回復大 識別
・王の加護 至付与単 BS無効

ドモイ
高CT低FB高ATKの火力担当
【精神無効】【電撃無効】
・アイシクルブレード 物至単 【鬼道中】【連】【恍惚】【致命】
・ダイアモンドダスト 物超貫 【連】【凍結】【必殺】【ブレイク】
・ホワイトアウト 自付与 ブラックジャック相当

●戦場
粉雪降る凍り付いた大広間
十分な広さがあるものの部屋を覆うマイナスレベルの冷気と足元の氷により行動が失敗しやすくなります。
足元ペナルティ FB+20
飛行は3mまで 飛行時は冷気によりFB+15

●他
NPCマルベド 生死不問 友軍 戦場効果適用
マルク・シリング(p3p001309)さんのアルベドでしたが、マルクさんとトラウマを共有し、イレギュラーズたちと話し合うことで自我に目覚めました。HP爆盛り。ご本人よりは固くて避けます。盾にしましょう(提案)。
超神秘・高命中・【精神無効】
・超分析 神自域 BS回復
・魔曲・四重奏 神遠単 【毒】【火炎】【窒息】【ショック】
・神気閃光 神中範 【不殺】【痺れ】【乱れ】【識別】
・大天使の祝福 神遠単 HP・BS回復
・かばう

関連シナリオ 読まなくても構いません
<アイオーンの残夢>無邪気とは許されざる大罪であるが
<月蝕アグノシア>無邪気とは許されざる大罪である

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <夏の夢の終わりに>無邪気とは許されざる大罪であるも完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年08月31日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
武器商人(p3p001107)
闇之雲
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
桐神 きり(p3p007718)
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標
バスティス・ナイア(p3p008666)
猫神様の気まぐれ
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ

●秋後到るは
 寒い。息をするたびに冷気が体の奥へしみ込んで凍り付きそうだ。足元は滑るし、体は固くなっていく。
 そんな中、イレギュラーズの考えた通り、3騎士は陣形を整えてきた。先鋒にモラクル。その後ろにドモイ。後方にはセスメタ。モラクルはドモイをかばう心算に見える。氷の騎士はそれぞれの武器をかまえ、殺気を漂わせている。
「こんな状況じゃなかったら遊べるのになぁ」
『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は、ふわりと虚空へ浮かんだ。腰まである長い黒髪が猫のしっぽのように揺れる。隙だらけに見せて油断はしてない。手の中で『祈りの手』を弄び、ポケットへ突っ込む。加護弱しといえど過酷耐性とその箱の効果、そして各々が用意した滑り止め対策は今回の戦闘において大きな助けとなるだろう。
「のんびり滑ってみたいけどできない……全部敵が悪いね!」
 空を蹴り、滑空。その勢いでモラクルまで達し、彼は一撃を放った。
「邪魔だよ!」
 ショウ・ザ・インパクトの衝撃がモラクルを吹き飛ばす。
「ほう、やるな」
「無駄口叩いている暇はないぞ!」
『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)が横合いから飛び出した。さながら黒い旋風。力を込めた利き手をモラクルへ押し付け、爆発させる。衝術がさらにモラクルを押し出した。
「冬は嫌いじゃないが、こんな奪うだけの『冬』は間違ってる!」
 利一が叫ぶもモラクルは余裕を崩さない。細い兜の隙間からこちらの様子をうかがっているようだった。
 飛んだ先には『闇之雲』武器商人(p3p001107)が待ち構えていた。燐光が舞い落ちる。緑に淡く光る6枚羽。武器商人はやや浮かんだ状態のまま、そのプレッシャーでもってモラクルの足を釘付けにし、にんまりと口元に三日月を作った。ざわざわと地に落ちた影がうごめき、モラクルのそれに入り込もうとする。
「ヒヒ……"お遊び"であろうと騎士の名を関するのであれば、化物退治はお手の物であろ? なら喜ぶといい。我(アタシ)を打ち倒せば多少の箔は付くであろうよ。……倒せるのであれば、だがね」
「お褒めを賜るならば貴様の首ひとつでは足りんな。9つ並べてみせるのが礼儀だ。」
 言うなりモラクルは後退して足止めを切った。
「ドモイ!」
「おう」
「ここにネズミが3匹揃っているぞ」
「任せろ!」
「危ない、下がって……!」
『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)の声が届く前に。ドモイは立ち位置をモラクルの近くに移した。
「ダイアモンドダストォ!」
 ドモイの攻撃が炸裂した。豪氷が視界を遮り吹雪が雪崩れた。ごうごうと風が渦巻き、大広間にさらなる冷気が広まる。一瞬で体力のほとんどを削られた仲間。桐神 きり(p3p007718)は付与と回復のどちらかを優先するか悩み、今は回復に努めることにした。適度な位置にまで走りこみ、大きく手を広げる。
「疾風怒濤のごとくにして力知らしめよ、神速迅雷のごとくにして力満てよ、巡りの音は恩寵と共にあれ、一切の穢れは祓い清めたまえ、治癒光陣!」
 大広間の床に一瞬だけ緑色の五芒星が描かれ、散り散りに壊れて燐光となり仲間の体へ吸収されていく。
「静寂の平穏に眠る我が友、その慈悲を垂れたもう。汝は唯一にして孤高の存在なり。我が友よ、我は願うその御手御業がこの地に満ちんことを!」
 マルク・シリング(p3p001309)も続けてサンクチュアリを謡う。仲間はギリギリパンドラは免れたが、二人がかりでも回復量が足りない。さらに広範囲の回復を優先するあまり、敵の射線上へ入ってしまった。
「……業障吹雪」
 もはや雪の壁と化した吹雪が射線上の仲間を襲う。必ず命中するそれは仲間へ狂気と氷結を植え付けた。
「えええ、ちょっ! なんか総崩れの予感なんだけど!」
『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)は攻撃かBS回復かの判断を迫られた。
「そんなことないよ」
 マルベドが言った。超分析で仲間の不調を癒しながら。
「自分たちを信じて貫けばいい」
「……わかったわよ。くっ、ここは、攻撃! 元を断つ! あたしの力よ、輝け、えいおー!」
 ばさりと衣の裾がはためいた。影が発光している。その影から現れた光の玉を、ナイアは思いきり突き飛ばした。反動で猫しっぽがぴこりと揺れた。
「くっ!」
「うおおお!」
 神気閃光の雨に打たれ、モラクルとドモイが苦痛のうめきを上げる。
「優勢だと思った? 残念! 花丸ちゃんたちは負けないんだから!」
『おかわり百杯』笹木 花丸(p3p008689)の拳が炎をまとう。体を軽くかがめ、すり足で移動しながらドモイとモラクルへ近づいた花丸は、気合一閃、ドモイの胸を拳で乱打した。業火が燃え盛りモラクルや武器商人ごと燃やし尽くしていく。
「……炎!」
 利香に足止めされていたセスメタが憎々しげな声を押し出した。そのままドモイへスノウドームをかける。頑強さを取り戻すドモイ、しかしその身を焼く炎が消えることはなかった。

●反撃
 騎士たちと何度かやりあううちに、お互いに疲労がたまってきた。高火力が飛び交う戦場、足りない回復、じりじりと削られていく体力。モラクルとドモイの引き離しは術の成功率もあって思ったほど上手くはいってなかった。とはいえ戦況は五分五分といったところで、こちらからも確実にダメージを与えている。
「先手を取るから敵にいいようにされるんじゃないか?」
 利一が提案する。
「待機してそのうえでもう一度試してみよう」
「うまくコンボが繋がれば、ね」
 ランドウェラが汚れた顔を手の甲で拭い、拳を作って握りこむ。指先の感覚がなくなってきた。冷気は相変わらずひどく、行動を妨げてくる。息を吹きかけたならそのまま凍り付きそうな寒さだ。ぬぐってもぬぐってもまつげにつく氷がうっとおしい。
「こんな面倒に巻き込まれるなんてね。とはいえ、五分では勝機はない……。頼みましたよ、あなたたちが命綱ですからね」
 きりが明鏡止水を改めて己とマルクへ付与する。
「そうだね、そしてまずドモイを仕留めよう。必ず」
 マルクが覚悟を決めた。
「では散開しようか。固まっているとやつらの範囲攻撃のいい的だ」
 武器商人がふうわりと浮かび上がったまま距離を取る。
「皆さんがドモイを狙うなら、私はセスメタの抑えを継続しますね」
 利香もこくりとうなずく。豊かなバストがあわせてふるんと揺れた。
「ターゲットはドモイだね、じゃあそっちは花丸ちゃんに任せて。……マルベドさん、頼りにしてるよ。一緒に、今度は誰も失わず、皆で冬を乗り越えるためにっ!」
「うん、ありがとう」
 マルベドは花のように笑った。
 それを見てナイアは思った。
(人工生物が意思を持つことは混沌においては往々にしてあることだよね。でも、己の命の在り方を踏み越えるには……アルベドという命は呪われている)
 風が唸りをあげている。炎と冷気、急激な温度差の変化によって空気の流れが起きているのだ。耳がちぎれそうなほど痛い。
「何を考えているかは知らんが、こちらから行かせてもらおう。王より賜りしこの氷の鎧、炎で汚したることを死んで詫びるがいい!」
 モラクルの局地烈風が仲間の半分の意識を刈り取った。きりが前へ出る。
「策戦指揮は私が執る! ひと時の激情に身を任せることなかれ! 各自所定の位置にて待機、くりかえす、各自所定の位置にて待機!」
 きりは大きな目を細めて、反響する号令に耳を澄ませた。この命令は味方へ届くか、届くか? 届いた! 怒りにとらわれていた仲間は既に誰一人おらず、皆平静を取り戻していた。まずは胸をなでおろすきり。
 モラクルの号令一下、騎士たちは猛威を振るった。
「耐えろ、耐えるんだ。相手は自然そのものじゃない、勝機は必ずある!」
 マルクが皆へ呼びかける。うなずく一同。心は一つ。
 今度は利一が衝術をモラクルへしかけた。一撃、吹き飛ぶ体。バウンドし、氷の上を滑っていくモラクル。
「よし、決まった! 続け、ランドウェラ!」
「はいはーい」
 どこか余裕そうな声のまま、飛行中のランドウェラがモラクルへ急接近する。危機を悟ったモラクルが永久氷壁を自身へ付与するが……。
「はい残念さん。さっきのもこれも、物理じゃないんだよね。せやっ!」
 直前で沈み込み、伸びあがるようにムーンサルトキック。モラクルへショウ・ザ・インパクトが叩き込まれた。インパクトの瞬間、一瞬、モラクルの身を焼く炎までもが吹き飛んだ。またもや吹っ飛んだモラクルは、背後から誰かに抱きとめられた。
「やァやァ。待っていたよぉ。ここよりずっと楽しいところへ連れて行ってあげるから感謝するといい」
 ぞっとするような声音が囁く。足元の影がモラクルへ絡みつき、動きを封じる。
「モラクルの旦那。目をつぶっていてもいいんだよ? これから先は旦那には少しばかりきつい情景だろうからね、ヒヒヒヒヒ!」
 ソレが注ぎ込む嫌悪感に、モラクルは心の底からぞっとした。まるで彼が幼い、ただの氷の精だった頃、陽の光から逃げ回っていたあの頃を、不意に思い起こさせた。
「離せ、離せえっ!」
「おやまァ、リーダーともあろう者がみっともないね。少しは落ち着いてもいいんだよ?」
 同時刻、ドモイのアイシクルブレードで花丸のパンドラが砕ける。もうもうと立つ湯気の中から、花丸は立ち上がった。命の炎が、奇跡の代償が、一時的に周りの氷を溶かしたのだ。花丸は自分へ寄ってきたドモイを上から下まで眺め、鼻で笑った。
「騎士を名乗りながら誰かに守ってもらわないとマトモに戦えないの?」
「なんだと……」
「あ、怒った? 怒っちゃった? ――だったら証明してみなよ、君の力を。君の力で私を討ち果たし、己が誉れ高き騎士だって事を。ソレが出来ないのなら、君の仕えてる王様も……ねぇ?」
「王を侮辱したな貴様!」
 逆上したドモイが氷の剣を振り下ろす。
「破っ!」
 烈火の気合を放ち、花丸はそれを白羽取りした。
「やっぱりこの程度なんだね……王様もきっと泣いてるよ。軟弱者を騎士にしてしまったとね。心と体、両方鍛えてこその騎士なのにさ」
 右、少女の拳が炎を食らいドモイの胸鎧を削り取る。
 左、少女の拳が焔を率いドモイの顎を正確に狙った。
「貴様ぁ! 許さんぞ!」
 そのまま花丸はドモイの猛攻を両手でさばき続ける。だが一歩後ろへ踏み出した途端、体が浮遊感に襲われた。
(しまった転ぶ……!)
 その瞬間、まばゆい光の玉が押し寄せ、玉から溢れだした光の波がドモイの全身を飲み込んだ。
「うおおおお!」
「そっちが冬の王なら、こっちは猫神様だよ! 王より偉い神の威光をくらえ!」
 ナイアの神気閃光が炸裂したのだった。全身へガラスの破片のような光が突き刺さり、苦悶するドモイ。花丸はその隙に素早く立ち上がり体勢を整えた。ナイアはもう一発と利き手を掲げ、光球を呼び出しながら言い聞かせるように口を開いた。
「多彩な季節があるのに強引に冬にしてしまうなんて無粋な王様だね」
「……うう、貴様、貴様もか。王への侮辱は……」
「花丸ちゃんが通さないよ!」
「邪魔しやがってクソが!」
 刃と拳が打ち合わされるのを眺めながら、ナイアはさらに力を込める。
「メッキが剥げてきたね、騎士様。そんな騎士様しか従えてない王様は……きっと冬しか知らないんだね。広い世界を知らない道化なんだ。哀れだね」
 二球目が投げられた。それはドモイにぶつかり、幾千万の輝きとなってその身を貫いた。
「くおおおおお!」
「ドモイ!」
 セスメタがスノウドームをドモイへかけようとするが、既に自分の手番は使い尽くしてしまった。歯ぎしりするセスメタ。
「いひひ♪」
 不吉な笑い声がセスメタの耳朶を打つ。
「いい気になってましたか? 私の切り札……紅蓮の終焉、お見せいたしましょう!」
 魔剣グラムが黒い炎に染まっていく。利香はなんの躊躇もなくそれを叩きつけた。まさに『叩きつける』としか形容不可能なほどの乱雑な、純粋な暴力。全身を炎にまかれたセスメタの鎧が溶け落ちていく。
「わあ、熱で溶ける鎧なんて、どんだけちゃちいんですか? そんなものしか下賜されなかったってことですかあ? そ・れ・と・も」
 利香は魔剣をかまえなおした。
「私の炎が、サイコーにアツかったですか? サキュバス印の炎月輪、しかと味わってくださーい!」
 ガキン。表面の模様が溶け切った、その鎧が、利香の一撃で切り落とされた。
「これで終わりだドモイ! 僕はお前たちのような、理不尽で無慈悲な『冬』から、死を遠ざける者となることを決めたんだ!」
 マルクの詠唱に合わせてマルベドが魔曲・四重奏の用意をする。マルクの指先に灯った光が、青から緑、緑から白へと変わっていく。
「魔光閃熱波!」
 反動でぐらついたマルクをマルベドが支え、同時に己の魔術も完成させる。莫大な熱量の極太レーザーと、その周囲を守るように添えられた四本の黒い光線がドモイへ襲い掛かる。
「……う、お……――!」
 ドモイの断末魔すら飲み込んで、マルクの魔法は冷気を引き裂き、床を破壊し、そこに居たはずの存在を消去した。場違いにたおやかに立ちのぼるかげろう。
「次、行くぞ!」
「おっけーだよー」
 マルクが気を吐き、ランドウェラが笑顔で答える。最後までモラクルの援護に徹していたセスメタが炎の中傷つき倒れ、意地を見せていたモラクルもやがて溶けるように消えた。

●『冬』
「おつかれさまマルベドの旦那」
 武器商人がマルベドへ声をかけた。彼は青い顔のまま壁に背をもたれている。
「終わった、あーやっと終わった。……こんぺいとう食べる?」
 ランドウェラがさしだした金平糖を、マルベドは礼を言いつつ断った。食べても無意味なのだという。
 アルベドの生命維持はフェアリーシードによって行われる。妖精を封じ込めた宝玉だ。その宝玉から妖精の命を吸い上げ、アルベドは活動する。それはマルベドとて例外ではない。
「マルベドさん、大丈夫? 具合悪そうに見えるけれど」
 花丸に話しかけられたマルベドはなんでもないと首を振った。
「僕のことはもういいから、先へ行きなよ」
「ええー、いい男をほったらかしにするなんてできませんよー。それに驚きましたよ。アルベドが自我を……それは妖精の夢なのか……興味深いです。いずれにせよ、仲間になってくれるならありがたいです」
 利香が茶化しながら言うが、マルベドは動かない。
「ああ、もう。心配だって言ってんですよ。めんどくさい! だいたい借りを借りのままにしておくのは怖いんでね!」
 きりがマルベドの胸ぐらをつかみ上げ、強引に癒した。けれども顔色の悪さは治らない。
(もしや……)
 利一は嫌な予感に口元を覆った。ナイアが進み出る。
「命を左右するほどの決断には痛みが伴う。マルベド君、そろそろ決断する時だよ。君は善良で聡明な、そう、非常に良い人だ。だからこそ、自分の命に課せられた呪いを常に意識していたはず。取り返しがつかなくなる前に……」
「僕に死ねというんだね」
 細く長い呼吸を繰り返しながらマルベドはナイアを遮った。
「何様のつもりなの。呪われてるなんて、誰が決めることなの。君と僕の立場が逆だったら。君は迷わず自決するの?」
「……それは」
「君だって『生きていて』『おなかがすく』んだろう? ひょっとしたら僕よりおぞましいものを食べているかもしれないじゃないか、猫神様」
「それでも私は君の命より妖精を優先する」
 そう、とマルベドはじっとナイアを見つめた。
「君が僕の『冬』なんだね」
 カラン、カラカラ。銀色の何かが滑り落ちて、ナイアの足元へ。それは抜き身のナイフだった。
「僕は生きたい。生きていたい。なら君が手を汚すんだ」
「……」
「どうしたの。こうなることくらいわかるだろうに。そうでなかったとしたら君は本当に……」
 無邪気だね、とマルベドはずるずると床に座り込んだ。
「だけどそれはね。どうも仕方ないのだ。もう今日は何も云わないで呉れ。そしてお前もね、どうしてもとらなければならない時のほかはいたずらにお魚を取ったりしないようにして呉れ。ね、さよなら」
「マルベド、しっかりしろ!」
 マルクがマルベドを抱き起こす。
「僕とおまえはまるで兄弟だ、おなじ『冬』の記憶から生まれて、同じ願いを持って……」
「マルク……」
「奇跡が! 奇跡があるとしたら!」
「……いいや、もったいないよ。僕なんかに。それより選ばせるんだ、彼女に、でないと」
「『時間切れ』なんだろう?」
 利一が言った。マルベドはゆっくりとうなずいた。
「僕を兄弟と呼んでくれてありがとう、『兄さん』」
「マルベド……」
「……時に」
 ナイアがナイフを拾い上げた。ゆっくりとマルベドへ迫る。
「時に生き方を左右するほどの決断には痛みが伴う。マルベド君、君の決断にあたしはこう言うよ。貴方の人生に祝福を、と」

 ずぶり。

 フェアリーシードは、無事摘出された。
 中に入っていた妖精は助けられたことを知ると、戸惑ったように礼を言い、マルベドだった白い泥へ自らずぶずぶと埋まっていった。その妖精が最後に何を考えていたのか、もはや知る術はない。

成否

成功

MVP

羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標

状態異常

笹木 花丸(p3p008689)[重傷]
堅牢彩華

あとがき

おつかれさまでした!
FB+20はやりすぎました!楽しかったです!まる!

MVPは待機で行動順を調整し全体へ貢献したあなたへ。
称号「死へ誘う者」発行してます。ご査収ください。

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