PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<巫蠱の劫>赤酸塊のくずれ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 酸塊の髪飾りを付けた娘が居た。その腕に抱くはその日一日の腹を満たすための握り飯が二つ。遅くまで働く父の元へと届けに行くのが日々の日課であった。奉公先で余った漬物を三切れ分け与えられたことが喜ばしく、汗水垂らし懸命に日銭を稼ぐ父に少しでも喜んで欲しいと彼女は足早に田舎道を行く。でこぼこと盛り上がった土に気をつけながら履き古した草履でしかと踏みしめる。奉公に出る以上、お館様に気に入って貰えるようにと父が少ない銭で娘に買い与えた酸塊の髪飾りと赤い一張羅は彼女にとっても気に入りのものだ。
 走り、辿り着いた父の職場は喧噪に濡れていた。叫声、呻き、そして――獣の声がする。
「おとう」と。
 唇から声を漏らし大切に抱き締めていた握り飯をぽろりと落とした。囂々と燃える。赤い炎がやけに印象的で――彼女の身に付けている酸塊の髪飾りのように赫々たる色をしていた。


 カムイグラで行われた夏祭りは一先ずは『成功』の内に終わったと言えるのであろう。浴衣や水着コンテストも盛況であり、その盛り上がりに『外つ国』から客人を迎え入れたばかりの神威神楽では嬉しい悲鳴も聞こえてくる。離脱したとは言え、政の中核を担っている建葉・晴明も忙しそうに宮中に出入りすることが多かった。
 その彼が違和を感じたと言うのだから相当のことだ。贅を尽くした煌びやかな宮中内裏。その様子とは懸け離れたぴりりとした空気が蔓延している。それは宮中内裏のそと、神威神楽の都である高天京でも同じ事だ。疑心暗鬼に駆られるように人々は牽制し合う。その光景に晴明は夏祭り以後、何か様子がおかしくなっていると気付いたのだという。
「……英雄殿達、少し良いだろうか」
 そう告げた晴明の背後では忍集団『暦』の一人である弥生という青年が『女性に怯えるように』肩を竦めてから曖昧な笑みを浮かべる。
「あんたらに話せって中務卿殿が言うからさ……全く、俺に指図して良いのは『奥方』だけなのに」
 ぶつぶつと呟く弥生――どうやら彼の言う『奥方』とは『章姫と一緒』 黒影 鬼灯 (p3p007949)がその腕に抱く美しい少女人形の事であるらしい。晴明は「すまない」とその堅物っぷりと反映したかんばせに僅かな申し訳なさを浮かべている。
 どうにも厳しい顔立ちと言葉遣いをする青年だが、肉腫による暴動を熱中症であると片付けたりお茶目な面を多分に持ち合わせる彼に弥生は遣り辛いと溜息を吐いた。
「……高天京に奉公に出てる鬼人種の娘さんからのタレコミなんだけどさ、
 妖が突如として暴れ回ってる……らしい。叢原火って分かる? 鬼火の一種。
 死者の怨念が火となって浮かび上がる――らしいけど、これは炎の中に僧の顔が浮かぶだけって感じ」
 普通にしていれば害はないという。突如として火の玉に浮かんだ人面を見れば驚くだけだと告げる晴明に弥生は「だったのにね」と溜息を吐いた。
「その『叢原火』が突然凶暴化して暴れてる。それで、高天京で新しく作る予定だった茶屋が全焼。何人かの犠牲者も出てる」
 幸いにして、相談を持ちかけたという件の奉公に出ている鬼人種の娘やその父親は無事であったらしいが、怨嗟に形相を歪ませた僧は顔半分が抉り取られている格好であったそうだ。
「それと中務卿の話を組み合わせた結果、まあ、面白くないことに気付いたんだ」
「ああ。最近京で流行の兆しを見せる『呪詛』がある。その呪法というもの、妖の身を刻みその怨嗟を呪術とするらしいのだ。叢原火もそれに使用されたのだと思われる。
 生きたまま身を刻まれた妖は恨みの余りに無関係の人々を焼き殺そうとしているのだろう。その呪詛が何処に使用されたかは分からないが……」
 晴明の視線を受けて弥生は頷いた。今はこの『叢原火』への対処をする方が先であろう。『叢原火』はその焔で周囲を焼き払わんと天よりやってくる。居場所は弥生が突き止めた。これ以上の犠牲者や火災を防ぐためにも先ずは『叢原火』へと対処して欲しい。
「呪詛については?」
「……引き続き此方で対処しよう。『暦』にも力を借りたいと思うが――」
 晴明の言葉に弥生は小さく笑った。『奥方様のため』になるなら任せてくれ、と。

GMコメント

 夏あかねです。カムイグラの夏、呪詛の夏。

●成功条件
 叢原火の撃破

●『呪獣』叢原火
 ある呪詛の呪法によりその身を刻まれて強化され怨嗟に駆られて人々を焼き払う鬼火。
 通常であればそれ程害のない妖ですが、その怨嗟と『呪詛による影響』は著しく激しく炎を纏い続けます。
 BSは炎に関する物が多く、範囲攻撃主体となります。
 また、鬼火を生み出し、眼前に存在する対象を恨み続けるようです。

●『呪獣』鬼火
 叢原火より生み出された鬼火です。数は無尽蔵に増え続けますが、叢原火が倒されれば消え去ります。
 ダメージはそれ程多くありませんが、無作為に様々な対象を貫にて狙い続けます。どちらかというと『面倒』な相手です。

●友軍:弥生
 忍集団『暦』の一人。可愛い物や美しい物が大好き。女性が苦手な弥生ちゃんです。
 可愛い物が好きである故に、 黒影 鬼灯 (p3p007949)さんの嫁殿である章姫を敬愛しています。
 サディズムを内包し、痛めつけることを好む性癖の持ち主です。戦い方もその性癖に似合う、罠等を駆使し、攻撃力や防御は低いが、高命中と高反応、豊富なBS技と言った雰囲気です。
 無尽蔵に湧き上がる鬼火の対処を行います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 それでは、どうぞ、宜しくお願いします。

  • <巫蠱の劫>赤酸塊のくずれ完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月29日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
鷹乃宮・紅椿(p3p008289)
秘技かっこいいポーズ
マギー・クレスト(p3p008373)
マジカルプリンス☆マギー
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし
喜久蔵・刑部(p3p008800)
『元』獄卒
ルクス・フォウ・リリディア(p3p008908)

リプレイ


「弥生さんとお仕事なのだわ!」
 幸福そうに跳ねる声音に全くと言う溜息が重なった。全くと溜息を吐いた『章姫と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)は此度の任務に同行することとなる自身の部下、弥生をちらりと見遣る。仮にも高天京の中でも地位の高い『中務卿』に座す晴明に対して『あの態度』なのだ。優秀ではあるが難が少々ある――弥生という忍びは章姫には傅くが他には中々辛辣な態度を取る。
「それで? 『叢原火』だったか。昔はよぉく見たもんだ。
 その辺をふよふよと泳ぐように漂ってなぁ。んだけど、それが呪詛のせいで凶暴になってるときたか」
 その妖は『『元』獄卒』喜久蔵・刑部(p3p008800)にとっては馴染み深い。「嫌な世の中になったモンだ」と呟けば『スモーキングエルフ』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)は違いないと小さく笑う。
「いくら『元は害の無い』妖であったとしても、身を刻まれりゃ凶暴にもなろうってもんだ。
 元は被害者である辺り、叢原火にも同情はするんだが……かと言って、無関係の人を襲ってるのは見逃せねぇな」
 呪詛の手順は実に非倫理的だ。妖のその身を切り刻んで滲んだ妖気や怨嗟を媒介にして相手を呪い殺すそうだ。実を切り刻まれる痛みに恨み、それが妖を凶暴化させたというならば――『小さな決意』マギー・クレスト(p3p008373)は「ひどい」と言った。
「ただそこにあるだけならば害のない妖だと聞いていたのに……
 こんな、こんな酷いことをするなんて。呪詛と言えば、この間も、祭りの邪魔をするように仕組まれていましたが……あれも関連しているんでしょうか?」
 誰が何を狙っているのか。思惑渦巻くのは確かなことだ。マギーがしっかりとした足取りで進む中、彼女の姿をその双眸に映した弥生は何処かへと姿を隠す。
「……あれ?」
「『女ァ……!』って言っていたのう」
 こてんと首を傾いだ『秘技かっこいいポーズ』鷹乃宮・紅椿(p3p008289)。女性が苦手な弥生が自身らから距離とをったことを気にする素振りはない。
「それにしても呪詛と呪獣か。最近よくこのような妖の話を耳にするようになってきたの。
 害が出ておるのであれば、対処せねばなるまい。
 しかし、こうやって地道に対処してゆけば、いずれキッカケも作れよう」
「千里の道も一歩からッスね。
 うーん、肉腫が退いたと思ったら今度は呪詛ッスか。……それで、呪詛って?」
 よく分からないもので有ることは分かるけれどと『黒犬短刃』鹿ノ子(p3p007279)はその目を丸くした。「僕にはよくわかんないッスけど、良い物ではないんスよね?」と唇に指先当ててぱちりと瞬けば『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は大きく頷いた。
「呪詛。人や霊――霊も人間であると定義すれば――が人為的に物理的でない手段に出る『まじない』の事だな。
 聞けば元はそれ程害のない妖って話じゃねえか。それが『ああも』なるってんだから良いことではないな」
 裏で良からぬ事を考えている輩がいるか。その様な呪術を考えつく『呪い師』の存在を勧化図に入られないとジェイクは溜息を吐く。
「特に茶屋が全焼ってのが許せねえ。俺と嫁のデートスポットだったのによ。
 ……カムイグラに来て遭遇する事件は、こんなのばかりだ。さっさと叢原火をぶっ殺して楽にしてやろうぜ」
 新婚旅行先での想い出があわや『全焼』というのだから我慢ならぬとジェイクが吐き出した溜息にルクス・フォウ・リリディア(p3p008908)は眼前にゆらりと揺らいだ篝火をその双眸に映してからころりと笑う。
「消える事もできないまま、その半身を削られる、なんてなかなか、なかなか。
 怒り心頭になっちゃうのもわかるよ。うん。本当。そんな事って儘あることではないからね」
 ルクスの三眼の魔道は呪詛の気配をひしひしと感じ取る。高天京に重くのし掛る呪詛の蜘蛛を祓うが如く明るい声音は悍ましくも怨嗟を告げた妖へと一つ、告げた。
「呪いに使われるなんて、君もツイてないよね。僕達がちゃんと眠らせてあげるよ」


 近頃は何処を歩いたって呪詛呪詛呪詛と、嫌になる。これも神使の仕事だというならば掌上げて「はい、頑張ります」と返すしかないというならば仕方がない。気は進まないと『普段ならば害にもならぬ』妖を見据えて刑部は『巨腕』を振り上げた。狂化の公正派か列なり、脳内麻薬の分泌は痛みよりも戦場駆ける攻撃性を増してみせる。
 地を踏み締めて、焔など何ら怖くはないのだとガンガンと全線進む刑部は「さぁてと」と小さく笑う。
「早く終わらせてやろうかぁね」
「ああ。同情すれども無差別に人を襲撃するとなればこれ以上の被害が出るのも忍びない。
 ……これ以上被害が広がる前に此処で倒しておくかね」
 肩を竦める。炎など自身も恐ろしくはないのだと砂漠の精霊との『契約』で作り上げた刀の切っ先を向ける。シガーのやや後方、『女性陣に怯えたような』弥生の様子を伺う。
(章姫ちゃんと言ったかな――『奥方』の前で格好付けてアピールする可能性もあるかな。
 今回は回復手も居ない速攻戦術だ。彼にも無理が無いように気を配っておかねばならないか)
 無尽蔵にその姿を顕わす鬼火を只の一人で相手をし続ける。其れがどれ程に危険であるかはシガーも、そして彼ら忍び軍団を束ねる鬼灯さえ知っている。弥生に言わせれば「頭領と手合わせするより楽だけど」との事なので其れが章姫へのアピールなのか、頭領への厚い信頼なのかは分からないが……。
「弥生、無理せず」
 鬼灯の言葉にちらと視線を向けた弥生は「はいはい」と言わんばかりのおざなりな反応を見せた。
「弥生さんは強いけど一人でずっと鬼火さんの対処をしていたら疲れちゃうと思うのだわ。だから、これは厳しいなぁってなった時点で教えてほしいのだわ!」
 鶴の一声――否、『女神の神託』。章姫に「分かりました、奥方様」と背筋をピンと伸ばして答えた弥生の様子にジェイクは小さく笑う。
「……尻に敷かれてるのか?」
「お尻に敷いては居ないのだわ!」
 ジェイクの呟きに不思議そうな反応を返す章姫。まあ、と肩を竦めてジェイクが真っ直ぐに見詰めたのは叢原火ただ一つだ。弥生の負担となる鬼火はこの妖が存在するだけで無尽蔵に生み出される。其れが茶屋に炎をくべる火種たり得ることは分かっている。外部に逃すわけにも行かないと足止めの『罠』を張り巡らせる弥生に任せて今は一気呵成に『本命』を穿つだけだ。
「さあて、おっぱじめようぜ!」
 狼牙と餓狼。自分の手の延長。弾丸さえも自身の指先が獲物を穿つように、鋼の驟雨を降らせ続ける。その鋼鉄の雨を鮮やかな黄金の色に映す鹿ノ子の手首ではひやりと冷たい永久氷樹の腕輪が揺れる。
「これも豊穣のため! 僕のご主人を早く見つけるため! ――そして、遮那さんのため!」
 仲良くしたいと願ったのは天香家――この国の中枢に『根を張った』有力貴族、その冠を頂く当主の『義弟』――の少年。彼の愛する祖国を守るためだと太刀を手に、圧倒的な眼力で叢原火を見据える。
「さあ、行くッスよ――!」
 軽やかに。鮮やかに。まるで蝶が如く、深々と降り積もるは痛みとその身を苛む反動。ステップを踏み締めるようにして、断ち切るための刃を振り下ろす。
「ふむ。炎は広がると大変なことになってしまうからの。ここでなんとしても止めねばな」
 ひんやりするのじゃと腕輪を揺らした紅椿。持ち主を転々と変える魔剣であれど自身の獲物と認識したならば『従え』と言う様に由緒正しき鷹乃宮の令嬢は狐面お置くより真っ直ぐに妖を見据えた。


 原因不明の出火。犯人は妖です、なんて、そんな事件が多発しては周りの迷惑になる。そして、『神使』――特異運命座標の仕事なのだから、この事件を見て見ぬ振りは出来ない。ルクスは神秘への親和性を高めていく。
(ここから呪いの件も何か手がかりを見つけられたらラッキーなんだけど……)
 炎に恐れはない。高いレベルで独自の魔術を行使するルクスが真っ直ぐに放ったはマジックミサイル。弾丸を撃ち込むルクスの傍らで、ぐんと飛び込む刑部は乱撃の如く鋭利に、そして敵だけを識別する確かな技量を持って周囲を巻き込み続ける。
「まんだまだ弱いオイラだけんど、この一撃は効くぞぉ」
 にい、と小さく笑みを浮かべた。速攻戦術と言えども『早く倒さねばならぬ存在から生み出される敵勢対象』を纏めて最期に倒せるのは幸運か。
「あ、また増えそうなので、気をつけてください!」
 鬼火が増えるタイミングをチェックしなくてはならないとマギーはまじまじと見詰めている。この呪獣は『巻き込まれた側』だ。それでも容赦をしている場合ではない明けの明星の名を冠する銃を握りしめて見えない悪意で叢原火を追い詰める。
 利用されている。『誰かが誰かを苦しめる』それに巻き込まれた様にその身を切り刻まれた――その怨嗟が苦しめていることは百も承知だ。然し、それで新たな犠牲を孕んで別の恨みを重ねてしまうのならば。
「ボク達が怨嗟を断ち切ります」
 そう願わずには居られない。祭りの邪魔をするように仕組まれた一件、京に蔓延る闇。その何方もが『関連性』がある可能性は否定できず、寧ろ、何者かの思惑が背後に潜んでいる可能性はある。
 一刀両断刃を振り降ろした紅椿が舞うように一歩後退する。入れ替わるように熱砂の精による砂嵐が吹き荒れる。無限の紋章をその身に顕わして鬼灯は――否、鬼灯の傍で楽しげに微笑んでいる章姫は何かを思いついたように「鬼灯くん!」と嬉しそうな声音で彼を呼んだ。
「ああ、どうかしたか?」
「ええ、ええ、弥生さんにお願いしたいことが出来たの!」
 言うが早いか弥生が直ぐさまに章姫の許へと距離を詰める。鬼灯が彼に指示を下していた蛾、其れを上回る勢いで『絶対的に服従』されるのが嫁殿の『お願い』だ。
「何でしょうか!!!!!」
(……凄ェ反応だな……)
 思わずそう感じたシガーは炎を揺らがせる叢原火を見遣る。ジェイクや、そして刑部が巻き込み鬼火にそれ程心配は無いが矢張り回復手が存在しないことは必然的に自身らの付加も大きいか。
「あのね、味方を巻き込まないように罠を沢山設置して欲しいのだわ!
 弥生さんはそういうのが得意だと聞いたの。見てみたいのだわ。お願いできるかしら?」
「勿論です!!!!!」
 章姫のお願いは実の所、鬼灯が頃合いを見て『指示』をしようとしていた事だ。淡々と叢原火と相対する鹿ノ子は弥生が自身を巻き込まぬように罠を張り巡らせていることをその耳で感じ取る。
(なら――こっち!)
 跳ねる様に。蝶が踊るような軽やかさで複数回にも渡って切り刻む。小さなダメージでも積もり積もれば大きくなるのだ。相手の隙を見極める。罠も同じだ。自身と同じ『細かな蓄積』を狙っている。
「さあ、深々と降り積もる雪の如く、蓄積するダメージに抵抗できるッスか!?」
 炎が僅かに散る。それが鮮やかな花を思わせた。その花をも真っ直ぐに貫くはジェイクの降らせる雨。
「ひでえツラをしているじゃあねえか。今から俺達が楽にしてやるから感謝しろよ!」
「ああ。悪霊は大人しく、隠世の向こう側で閻魔様の沙汰を待っとくのが道理ってなもんだ」
 刑部は頷いた。元が『害のない妖で有ろうとも、怨嗟に塗れて人に害を為す存在』となったのならば、何処まで行っても怨霊だ。腐っても怨霊に名を連ねてしまった存在をそう野放しにはしては居られない。
 念には念を入れて確実に消し去れるようにしたい。それは仕事を確実に遂行するという意味も込められる。
「どんだけオイラ達を恨もうがお前さんは所詮ただの悪霊なんだよなぁ」
 そう呟く。刑部の傍らより魔力の弾丸が飛び込んだ。炎に苛まれることなくともその怨嗟に体を焼かれるのは確かだ。素早い撃破を行わねば鳴らぬと傷をその身に刻みながらもルクスは攻撃を重ね続ける。
「纏めて斬る、巻き込まれないようにな!!」
 シガーの堂々と叫んだ言葉に「ええ、此の儘、倒しきりましょう」と祈るようにマギーはそう言った。追い詰める、何処までも見えざる敵意でその体を『分断』するように。
 踏み込む紅椿に合わせて、鬼灯はくるりとその身を反転させた。叢原火の炎が揺らぐ。
「今だ」と彼はそう言った。その声に頷いたは桃と葉の色。極彩の少女が放つ『小さな攻撃』が降り積もる傷となり――その妖の身を地へと打ち倒した


「ん。終わり、かな? おっつかれさま~」
 ほう、と息を吐いたルクスの傍らで薄れる炎を見下ろしてシガーは「叢原火に話を聞くのは難しい、か」と溜息を吐き出した。その呪術によって顔面を僅かに削り取られ、切り刻まれた部位の炎がちり、ちりと小さく音を立てているその様子はあまりにも痛々しい。
「……話が聞けたなら呪詛の実行者について知れたら良かったけどなあ……」
「そうですね……周囲の敵勢反応はなさそうですが、呪術に用いられた叢原火は『不運』であっただけで、呪詛の対象はお嬢さん達とは別なのでしょうか」
 弥生が此度の仕事を入手した『切欠』の鬼人種達は巻き込まれた側なのだろう――この叢原火を媒介にした呪詛が何処かに存在し、誰かを脅かした可能性があるのかとマギーは困ったように眉をへにゃりと寄せる。
「呪詛はどこで使用されているのでしょうか……」
「どうなんじゃろうな。例えば宮中の諍いに巻き込まれたのかも知れぬが、これも憶測じゃな。
 しかし……はぁ、しかし憩いの場である茶屋が減ってしまったのは痛手じゃな。妾にも何か手伝えることがあれば良いのじゃが」
 がくりと肩を落とした紅椿に『奥方にでろでろに甘やかされて幸せなほどに褒めて貰おう』と特異運命座標たちに混ざっていた弥生はそう、とジェイクの背後に隠れて顔を覗かせる。
「茶屋はどうせまた再建するらしい。何かレシピの案なり提案すればいいんじゃないか」
「……どうして俺に隠れた?」
 呆れ半分のジェイクに弥生は何も云う事は無い。弥生の提案に大きく頷いた紅椿は幸福そうだ。しかし、何処か不安げな鹿ノ子は「カムイグラに何が起っているんスかね……」と呟く。
 自身の『ご主人』――魔種カミツメの事も気がかりだ。彼と言えば、その実力はお墨付きなのだから心配ではないが『呪詛』に狙われる可能性が有るのではないかと不安になる。
「どうだろうな。……よからぬ事を考える輩がいるのは確かだな」
 それでも、今は一時訪れた平穏を喜ぶべきだろうかとジェイクは高天京に行き交う人々を眺める。
「よくやったな弥生」
「弥生さん頑張ったのだわ! いいこいいこなのだわ!」
 頭領とは言わず奥方様と喜び尻尾を振るような従順さを見せている弥生にマギーは小さく笑う。
 刑部が護った『現世』の平和は――そう、長くは続かないのかも知れない……。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ルクス・フォウ・リリディア(p3p008908)[重傷]

あとがき

 お疲れ様でした。
 呪い、呪詛。果たして何に繋がっているのでしょう……。

PAGETOPPAGEBOTTOM