PandoraPartyProject

シナリオ詳細

鏡に映る心

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鏡の怪
 長い年月を経た器物には魂が宿るという。それが例え神社に祀られた祭具であったとしても、打ち捨てられ、見るも無残な姿となってしまっては恨み辛みから妖と化すのもまあ仕方のないことなのだろう。
 しかして鏡とは古来より神を招き、照らし、魔を払うモノだと言われている。だが同時に影を映し、呪い、魂を抜き取るといった話もある様に、魔を呼び寄せるといった側面もある。要するに道具は使い方次第ということなのだが......。

 ――――誰もいない朽ちかけた社の奥、ほこりの積もった薄暗い部屋の中で台座に置かれた鏡が妖しくギラリと輝いた。

●映し出すのは
「鏡に映しだされるのはいったいどこまでが自分自身なのかな?」

 境界案内人のカストルがよく来てくれたと皆を出迎えるなり口を開く。

「この世界、名もなき小さな世界の山奥に存在するある古い社。そこにある鏡を壊してきてほしいんだ」

 鏡を壊すだけと言えば簡単に聞こえるが、イレギュラーズに頼むようなことだ。何か一筋縄ではいかないことがあるのだろう。

「この鏡なんだけれども、社に祀られてからとても長い年月を経て魂を得ようとしているんだ。それが善良なものだったのなら放っておいても良かったんだけどね......」

 どこか悲しそうな表情を浮かべるカストル。その顔から窺い知れるのは鏡に宿ったモノが良からぬものだということ。

「力を得て間もない今なら破壊するのも難しくないはずなんだ」

 だからこそ、まだ誰にも危害が及んでいない今のうちに壊してほしいと、そう頼むカストル。
 かつては信仰の象徴であったモノが、敬ってくれた人々を傷つけるなんて悲しい未来を避けるためにも。

「ただ気を付けて、相手は鏡だけあってきっといろんなものを見せてくるはずだから......」

 でも君たちなら、イレギュラーズなら心配はいらないだろうねと、そう言って微笑むカストル。

「僕はただ送り出すことしかできないけれども。皆気を付けて、いってらっしゃい」

NMコメント

 特異運命座標の皆様、初めまして。外持雨です。
 夏なのでここはちょっとホラーちっくなのを一つ。

●目的
 ・社の奥にある鏡を破壊する。

●舞台
 山奥にあるさびれた神社。あたり一面ボロボロで今にも崩れ落ちそう。

●鏡について
 かつては力ある神具として信仰を集めていたが、今となっては落ちぶれてしまいかつての栄光は見る影もない。長い年月放置されていたおかげで恨みが積もりに積もり妖怪に堕ちかけている。
 鏡そのものに戦闘能力は一切ありませんがその代わりに色んな幻を見せてきます。それはあなたが抱く過去への後悔やトラウマ、現在の不安や未来への恐れだったりします。この辺りをプレイングに書いていただかないとどうしても文章が短くなってしまいますのでご注意ください。
 要はまあ、皆さんの心の闇が見てみたいなぁ......というだけの話。
 幻もただ見せられるだけで戦闘は発生しません。笑って蹴飛ばすなり、勇気をもって乗り越えるなりしてください。そうして鏡を壊せば依頼完了となります。

 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしております。

  • 鏡に映る心完了
  • NM名外持雨
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年09月17日 23時01分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
武器商人(p3p001107)
闇之雲
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
鮫島 和真(p3p008994)
電子の蒼海

リプレイ


 ――静寂。

 ただの静けさではない。張り詰めた糸が今にも切れそうな、そんな緊張をはらんだ不快な静けさ。未だ昼前だというのに木々に遮られた光は薄暗く、それが余計に不気味さを醸している。
 そんな山道をしっかりとした足取りで『ホストクラブ『シャーマイト』店長』鵜来巣 冥夜(p3p008218)が進んでいく。

「この手の物は祓えの力がある者が居た方が安心でしょうから、陰陽師として参加した訳ですが……これはこれは。私よりも怪異にお強い店主が居るではありませんか!」

 頼りになる味方がいるのはありがたい、と隣を歩く『闇之雲』武器商人(p3p001107)へと語りかける冥夜。

「鏡、鏡ねぇ……」

 だが話しかけられた方はあまり良い顔をしていない。姿を映すモノ、それも魔に近いとなると厄介な性質を持っているのは間違いない。

「さっさと壊してしまわないと……」

 大事な小鳥もいることだしねぇと小声で呟き、ちらりと横目で『甘くて、少ししょっぱいレモネードを』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)を見やる。

「うん? どうしたんだ紫月?」

 そんな心の内を知ってか、首を傾げるヨタカ。
 彼の問いに答えようとした武器商人を『電子の蒼海』鮫島 和真(p3p008994)の声が遮る。

「どうやら着いたようだよ」

 目の前に現れたのは朽ちた鳥居。その大きさからみても立派な社だということが伺える。しかしそれもかつてはの話。
 くぐった先は相手の領域だが引き返すという選択肢はない。一瞬の逡巡の後、同時に鳥居をくぐり境内へと踏み入る。

 ――プツリ、と。糸が切れたような、そんな気がした。


 ほんの一瞬、瞬きと間違えるような間の暗転、その刹那に世界が入れ替わる。

「皆……」

 不安を覚えたヨタカは皆に話しかけるも違和感に気づき、言葉に詰まる。
 さっきまでいた場所はこんなにも霞がかかっていただろうか?
 何の反応も返ってこないのもおかしい。慌てて辺りを見渡して、そして気づく。

 誰も、居ない。一瞬で、この世界には自分一人。

「……ねぇ、紫月?」

 湧き起こる不安。心の拠り所へと呼びかけるも、返事はない。
 いや……

『キャハハハハ』

 返ってきたのは嗤い声。これは嘲笑っている声だ。
 誰を?
 決まっている。今ここにはヨタカの他に誰もいないのだから。

『汚らわしい』
『アストラルノヴァの面汚し』
『あんたなんて居ないきゃ良かった』

 怖い恐い嫌だ。

『お前なんて生きている価値もない』

 嫌だ怖い助けて助けてお願いいい子にしてるから。息を殺して、誰にも見つからないようにしてるから。
 蹲り目を閉じ耳を塞いでもなお聞こえてくる嘲笑。
 あの場所が嫌で嫌で。だから逃げてきた。
 息が苦しい。喘ぐように言葉が零れる。

「助けて……」

 サラリ、と何かが顔をくすぐる。目を開けてみれば、長いシルクのような銀の髪。手触りはさらりとして気持ちいい。
 そっと微笑んでいる顔が、髪の隙間から覗く紫紺の瞳がじっと見つめて。
 もう嘲りも嗤い声も聞こえない。紫月が自分を助けに来てくれた。それだけですべてから救われた。そんな気がした。したのに……

『小鳥なんていなければよかった』

 最も傍にいてほしい人から言われた、最も聞きたくない言葉。

『自分でもわかっているんだろう?』

 いやだ。聞きたくない。やめて。

『誰もお前を愛してくれないって』

 いやだ。

 手が震えて涙が落ちる。胸が苦しい。息が、できない。
 視界が歪んで暗くなって。ゆっくりと地面が近づいてくるのだけが見えて。

「……もう、やめて」

 意識が暗闇に塗りつぶされた。


「おや……?」

 気づけば社どころか何もない、ただ広い空間に迷い込んだ武器商人。
 いや、本当に?

 不意に足が止まる。足が何か、柔らかい”ナニか”を踏む。そう、これはまるで人の身体のような。

 誰の?

 それはきっと、自分が見たくないと願っているもの。
 確かめたくないという感情と相反する思考がせめぎ合い、恐る恐る足元へと目を向ける。

「……小鳥」

 ついさっきまで、すぐ傍らで微笑んでいたヨタカの身体。冷たくなったそれが自らの足の下にある。
 偽物だと分かっていても急ぎ足を退ける。同時に辺りを見渡すと、目に飛び込んでくるは棺桶の山々。無造作に積み上げられた棺の中にはヨタカの、小鳥の亡骸。
 そのすべてが苦悶の表情を浮かべている。

 大切なものを穢された。

 ふつふつと怒りがわいてくる。無意識のうちに握った拳から、血が垂れていく。
 これは幻だ。そう自分に言い聞かせていると何者かが足を掴む。

 冷え切ったこの手は。これは、誰の手だ?

『ねぇ、紫月……』

 ああ、これは。この手は、小鳥の。

『どうして、来てくれなかったの……』

 彼の声で、彼の顔で。

「ああ、不愉快だ」

 喋るな。

「確かに我(アタシ)は『置いていかれる』ことが憂鬱でたまらない」

 『置いていかれる』ことが怖い。喪うことが怖い。

「だけど無駄に長くは生きていない。とっくのとうに覚悟の上さ」

 とはいえ番の、己が半身の死に顔を見せつけられて平常心を保ってはいられない。

「このコは我(アタシ)の番で、我(アタシ)の眷属。まだまだ死なせるつもりなんてないんだよ」

 だから、妖怪にすらなりきれていない紛い物が、大事な小鳥を穢すんじゃない。

 怒りを込めて振り抜いた鎌が世界を裂いた。


「しかし心の闇を見せる鏡とは。破壊することにためらいはありませんが、同じ無機物としては同情致しますね……店主? 団長?」

 目を離した一瞬で二人が消え、代わりに冥夜の前に現れたのは……

「鬼が出るか蛇が出るかと思いきや……これは……」

 これも同情を抱いたせいだろう。こういった類のものに同情など、心の隙を晒すだけでしかないというのに。

 ああ、だが。目の前の人影には覚えがある。

「懐かしい、と言えたものでもありませんね」

 まだあどけない顔つき。鏡を見るたびに映っていたあの顔はよく覚えている。
 紛れもなく幼い頃の冥夜自身。
 あれはいつだったか。慕っていた兄が鵜来巣の家を裏切り、出ていった時か。
 あんなに一緒にいて、会う度によく成長したと褒めてもらえたのに。どうして置いていったのかと虚空へ問いかけていた頃。

 結局、兄にとって私は不要なものでしかなかった。足手まといでしか。

 古傷を撫でられているような感覚に思わず顔をしかめていると、幼い冥夜が口を開く。

『ねぇ』

 淡々と、問いかけてくる。

『そんなに大きくなってもまだ何もできていないの?』

 何のことかは問うまでもない。

 未だに兄の悪事を正すことも出来ず、誰かに愛されることもなく。身なりは一人前になろうとも、何もかもが中途半端で。だから誰にも認められることもない。

『それでもまだ”道半ば”なんて言うつもり? 本当に愚図だね』

 幼い姿を、声を真似て、今を嘲り笑う。
 真実を突きつけながら、自虐と嘲笑とを混ぜた表情で。泣きながら笑っている。

 かつての自分もあんな表情を浮かべていたのだろうか。

 今の冥夜では言い返せない。まだ成し遂げていない自分では言い返す言葉を持たない。
 だから、今の自分は。拳を握り、軽く引いて殴る。
 幼い自分を、ではない。不甲斐ない自分自身を。

「てめーに言われなくても知ってる!」

 赤く腫れた頬と引き換えに平静を取り戻した心。

「俺は愚図だ。だから嘆く暇はねぇ!」

 だから、やることは決まっている。
 視界が歪んでいく。いや歪んだのは視界ではなく空間そのもの。

「一歩でも前へ進むだけだ!!」

 そうすれば、いずれは辿り着けるのだから。


「ここは……いや、そういうことかな」

 渦巻く霧の中に気づけば自分一人。だが和馬は慌てる素振りすらない。どうせ何が来るかはわかっている。なら……
 まっすぐと前だけを見る。
 時折、何かの影がふと視界の端に映るが気に留めない。
 すべては幻。和馬にとってもう意味なんてないもの。
 だから気にしない。もうとっくの昔に解は得ている。だからなのだろう、すべてが朧げな影でしかないのは。

 前へ、前へと進むほどに霧が薄れていく。

『……』

 ナニかが後ろから呼びかけてきた。そんな気がした。

 振り返ると同時、視界が晴れる。立ち込めていた霧は消えただ朽ちた鳥居のみが目に映る。

「あれは……」

 心当たりはあるような、ないような。どこか引っかかる微妙な心持ちに目を細める。
 だがそれも数秒の間だけ。やるべきことはまだ、この先にあるのだから。
 社の中、蝶番の外れた扉の隙間から見える鈍い光。あれが今回の元凶だろう。
 とりあえず、まずやるべきことは定まった。


「ほら。起きるんだよ小鳥」

 武器商人の腕の中。涙で顔を濡らしたヨタカが目を覚ます。

「紫月……?」

 確かめるように、そっと手を伸ばして武器商人の頬をなでる。

「本物……だよね?」

 その一言で察しが付く。彼が何を見せられたのか。

「大丈夫だよ小鳥。アレは幻。ほら、綺麗で可愛い顔が台無しじゃないか」

 安心したのだろう、落ち着いた寝息を立て始めたヨタカの顔を服の袖で拭うと、近くにいた冥夜へと預ける。

「よろしいのですか、店主?」
「だってねぇ、お返しをしないと」

 顔には出ていないが、実はかなりお怒りのようだ。

「私も思う所はありますが、お譲りしましょう」
「ほら、これが例の鏡だろうね」

 和馬が差し出したのは、装飾がなされた古い鏡。
 それを武器商人はにっこりと笑って受け取ると、地面へと叩きつけ、踏み砕く。

「よくも我(アタシ)のモノを虐めてくれたじゃないか。なァ?」

 鏡の破片が粉となるまで、踏み砕く武器商人。やがて満足したのか、おもむろに足を止めるとヨタカを抱きかかえて社に背を向ける。冥夜も和馬も、もうやるべきことはないと帰路につく。
 彼らが去ったあとに残された、砂となった鏡。ほんの一時の泡沫の悪夢。その元凶は一陣の風に吹かれて消えていった。

成否

成功

状態異常

なし

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