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シナリオ詳細

幻想で最も盛り上がるのは何祭? in ザティア村

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 幻想の、とある山地の山間に位置する田舎村ザティアからひとりの老人がローレットにやってきた。

「うちの炭焼き餅選手権に、イレギュラーズの方々を招待しとうございます」
 その老人アルナレド村長は穏やかな表情で、ユリーカ・ユリカ(p3n00002)にそう語った。
 近隣では餅祭りという名称で親しまれている大会だそうで、かれこれ150年近く続いている伝統あるお祭りなのだそうだ。
 内容はというと、炭焼き餅をたくさん食べて楽しんで頂くお祭りなのだという。
 つまりはフードファイトな訳だ。
 しかしこのお祭りがただのフードファイトと異なるのは、

 1.食すのは握り拳大の炭焼き餅のみ。
 2.予選と本戦の二回に分けて戦う為、胃袋との相談必須。
 3.炭焼き餅は様々な具材が中に入っているのだが、何を入れるかは参加者が自由に決められる。但し、その具材がどの参加者に当たるかは分からない。

 といった特殊ルールが存在する点だという。
 特に問題は、3.だ。
 過去には辛うじて食用に耐えられる超臭い缶詰の中身だとか、革靴を解体して煮込んだものだとか、人前では決して口に出来ないグロっぽいものだとか、要するにほとんど闇鍋に近しいものが数多く投入されてきた歴史があるらしい。
 勿論、大会運営が用意したまともな具材も、あるにはある。
 だが実際のところ、参加者の立ち位置は何かの罰ゲームに近しいというのが実情だ。
 それでも多くの村民や近隣から訪れるフードファイター達がこのお祭りに参加するのは、自らのプライドにかけて優勝をもぎ取ろうとする崇高な精神が彼らを突き動かしているからに他ならない。
 そして大会の勝利基準だが、制限時間10分間に餅を何個食べることが出来るかという数量基準の他に、数名の審査員による技術点と芸術点という全く意味不明な採点によって加点若しくは減点されて、最終的なスコアが決定されるのだという。
 最早これが何の大会で、どのような目的を持って開催されるのか。
 大会運営もよく分からなくなってきているらしい。

 以上のような話を聞いて、ユリーカは顔が引きつるのを自分でも感じた。
 果たして、こんな不毛な戦いにおとなしく招待されてくれるイレギュラーズが居るのだろうか。
「それでは、お待ちしておりますよ」
 ほっほっほっと笑いながら、アルナレド村長はローレットを後にした。
 ユリーカは一応、ロビーの掲示板に募集要項を張り出すことにした。
 もしかしたら物好きなイレギュラーズが、自身の経験値をより豊かにしたいと考えて無謀な参加に挑んでくれるかも知れない、という期待を抱いて。

GMコメント

 こんにちは、革酎です。
 どこかで見たことがあるような内容ですって?
 いえいえ、気のせいです。些細なことには目を瞑って、ごゆるりとお楽しみくだされば僥倖にございます。
 以下は、本シナリオの補足情報となりますのでご一読下さいませ。

●依頼達成条件
・餅祭りの楽しさを皆様に味わって頂く

●炭焼き餅選手権
 ルールはオープニング本文に書いてある内容が全てです。
 拡大解釈も勿論ありです。
 補足するとすれば、仁義なきバトルロワイヤルが勃発する可能性大いにあり、というところでしょうか。

●参加方法
 選手として参加するか、飛び入りの特別審査員として席を強奪するか、運営のお手伝いとしてテロリストと化すか、ご自由にお選び下さい。

●注意事項
 キャラ崩壊にも動じぬ鋼の意思を持たれている方、歓迎です。

  • 幻想で最も盛り上がるのは何祭? in ザティア村完了
  • GM名革酎
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年05月01日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

春津見・小梢(p3p000084)
グローバルカレーメイド
江野 樹里(p3p000692)
ジュリエット
モモカ・モカ(p3p000727)
ブーストナックル
佐山・勇司(p3p001514)
赤の憧憬
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
朝長 晴明(p3p001866)
甘い香りの紳士
レンゲ・アベイユ(p3p002240)
みつばちガール
グラ・プテ(p3p005031)
りさいくりんぐ・すいーぱー

リプレイ

●戦いは既に始まっている
 よく晴れた山間の小さな村は、朝から清々しい空気に包まれていた。
 だがそこを行き交う慌ただしいひとの波は、これから幕を開けようとしている激闘を静かに予感させる。
 その村こそ、幻想のとある田舎貴族が治めるザティア村。年に一度の炭焼き餅選手権が開催される、戦いの地である。
 村の大食漢や近隣から訪れたフードファイター達が、己の意地とプライドをかけて挑むこの決戦に、今回はイレギュラーズ達も参戦する運びとなった。
 果たしてその結末や如何に。

 会場となる村中央の広場には、炭焼き餅製造用テントが幾つも張られていた。
 餅米を蒸し上げ、その蒸し上がった餅米をついて餅をつくるテント、出来上がったばかりの餅で具材を包み込み、それらを炭焼きにかけるテント、そして完成した炭焼き餅を盆に並べて、歴戦の勇者達に配膳するまでの間を過ごす冷却用テント等々。
 それらのうち、具材を用意するテント内に『カレーメイド』春津見・小梢(p3p000084)の溌溂とした姿があった。
 火をかけた寸胴内では、手間暇かけてじっくり煮込んだ特性のカレーが美味そうな香りを漂わせていた。
 と、そこへ予選Eグループにエントリーされている『のうきんむすめ』モモカ・モカ(p3p000727)がカレーの美味そうな匂いに誘われ、穏やかな陽光の中をふらふらと彷徨うような足取りで近づいてきた。
「おぉー、これは美味しそうなのだ。そんなに辛そうな匂いでもないし、食欲がそそられるぞー」
「そのように感じて貰えたなら本望よ。このカレーは皆さんの食欲を大いに刺激する為に用意したようなものなんだから」
 ふふふと心の底からの不敵な笑みを漏らして、小梢はふんぞり返るような勢いで胸を張る。
 実はこのカレーは、具材なのだ(バレバレではあるが)。
 全てのカレーを愛し、全てのカレーに愛されるカレーメイド。彼女こそはカレー・ジャスティス。
 最高の美食としてのカレーを提供することで大会の意義をもう一度見つめ直して貰えれば僥倖なのだが、取り敢えず他のことはどうでも良いからカレーを食いたい。それが小梢。
 更にそこへもうひとり──お祭り法被とねじり鉢巻き、黒縁眼鏡に地下足袋といういでたちの『Red hot toxic』朝長 晴明(p3p001866)が小梢とモモカの前に現れた。
 晴明は予選Dグループに出場する選手のひとりだ。寸胴を目にした晴明は妙に大袈裟なモーションで寸胴の前に佇み、おぉこれは、と変に慄いた仕草を見せた。
「嗅いだら分かる……美味いやつやん」
 彼は日頃こんな言葉遣いを口にする人物ではない。だがこの日の晴明は餅祭りの為に一役買った盛り上げ役、いわばお祭り男として参戦していたのだ。
 お祭り男・晴明の一世一代(というほどではないか知れないが)の檜舞台であろう。
「何ッ? 美味い具材があるのかッ!?」
 特に誰かが声をかけて呼んだ訳でもないのだが、予選Cグループ出場の『GEED』佐山・勇司(p3p001514)が結構な勢いで走り込んできた。
 勇司は別段、小梢のカレーを今すぐ食いたくて駆けつけてきた訳ではなく、胃を刺激して空腹感を倍増させられるのであれば何でも良かった。
 この餅祭りにはガチの勝負に臨み、優勝を狙っている勇司。ここで食欲を増強させておくのは、決して悪い手ではない。
 既にカレーの寸胴をめぐって、三者三様の心理戦が始まっている。
 モモカ、晴明、勇司は互いに健闘を祈るなどと爽やかな笑みを交わしながら、腹の底ではどうか変な具材に当たりませんようにと神に祈るような気分だった。
 いや、これは心理戦というより、単なる神頼みか。しかしながら前向きな気分で餅祭りに臨もうとしていることだけは間違いなかった。

●炎の予選
 そして、予選Aグループの戦いが始まった。
 各予選グループにはそれぞれ十四名がエントリーされ、そのうち三名が決勝に進出する。予選グループは全部で五つのグループがあり、AからEまで組み分けされていた。
 緒戦はAグループ。ここには『ジュリエット』江野 樹里(p3p000692)と『断罪の呪縛』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)のふたりがエントリーされている。
 全員がテーブルにつくと、早速開始の合図が声高に響き渡った。
 ぜんちぜんのうの、おまつりのかみさま、を豪語する樹里。厳密にはおまつりのかみさまは嘘だと本人も認めているが、取り敢えず何か凄そうなひとがエントリーされているとのことで、何故か注目度は高い。
 今日はどのような珍味と出会えるのかと楽しみにしていた樹里は、まずは感謝の祈りを捧げる。他の選手達が開始早々がっつく勢いで餅を次々と食いまくる中で、この余裕の仕草は却って目を引いた。
 そして樹里が餅をひとつ食した瞬間、何故か後光のような輝きが。
(こ、これは……)
 はむはむと餅をひたすら食す樹里。特別な胃袋やギフトは持っていない彼女だが、この餅は美味い。
 実は樹里に供された餅の具材にはぎょーざにんにくと激辛系の何か、そして小梢が投入した美味カレーなどが投入されていた。
 いずれも、美味い。
(良いですわ良いですわ、大変結構なお味ですわ)
 まるでエクスタシーにも似た感激が、樹里の表情を恍惚とさせた。
 一方のアンナも優雅且つ流麗に、そして一時も微笑みを絶やさぬ貴族然とした食いっぷりを見せている。審査員達はその姿に、それとなく注目していた。
 無心に餅を口元へと運ぶアンナ。不意に、炭焼き餅には余り似つかわしくないような凄まじい甘味が口の中に広がってきた。蜂蜜に酸味を加えたような甘み。これは誰の具材だろうか。
 そんなことを考えていると、隣のBグループでも時間差を置いて戦いが始まっていた。
 このBグループには『みつばちガール』レンゲ・アベイユ(p3p002240)と、『りさいくりんぐ・すいーぱー』グラ・プテ(p3p005031)の両名がエントリーされている。
 レンゲは最初の一個目を口に入れた瞬間、ぐふっ、と変な音を立てて咳き込みかけた。レンゲのギフトは金剛健胃(ダイヤモンド・ストマック)。その名の通り極めて強靭な胃袋の持ち主だ。
 しかし味覚自体は常人と何ら変わりはない。いきなり襲い掛かってきた腐りかけのウミガメ肉という強大なハードルに、レンゲは初っ端から苦戦を強いられていた。
(だだだだだだ誰よこんなのブッ込んできたのッ!)
 腹の底で怒声を必死に堪えながら、しかし笑顔で審査員にアピール。余裕でございますわよとドヤ顔を披露しているが、その顔つきが微妙に腹立たしいとのジャッジを食らったらしく、後で得点を見たら変なところでマイナスポイントがつけられていた。
 それは兎も角、レンゲは死の食材と遭遇していたが、隣のグラはどうも様子が異なる。
 グラは涼しい顔で餅を食い続けていた。この予選では取り敢えず七個程度を目指し、中間順位ぐらいを目指していたが、しかしナイフとフォークを用いているのが失敗だった。
 具材にゲテモノが入っていればギフトを発動して、自分が食すことが可能な菓子類に変化させることも可能だったのだが、奇跡というか生憎というか、グラに当たったのは普通の食材ばかりであった。
 これが思わぬ形で、裏目に出た。ナイフとフォークを駆使して餅を片付けようとする戦闘スタイルも、予想外の仇となった。
(ああこれは……ちょっと失敗しちゃったかもです)
 餅をナイフとフォークで食するのは、結構難しい。一個平らげるのに、予想の倍以上の時間を要した。かといって今更スタイルを変えるのも不格好な話だ。
 結局グラは六個を食べて終了の合図を聞いてしまったのだが、最後まで残さず綺麗に食べ切るというその姿勢には、惜しみない拍手が贈られた。
 一方レンゲは、何とか九個を食い切って三位に滑り込んだ。
 Bグループよりも先に戦いを終えていたAグループでは、アンナが無事に本戦へと進んだが、樹里は三個しか食い終わっておらず、予選敗退。
 しかしどういう訳か、樹里自身は妙に満足気であった。

●お祭りという名の地獄
 各予選グループは時間差を置いて順次開始される。
 勇司のCグループもBグループに少し遅れて戦闘開始となったが、ここは波乱の卓だ。選手が次々と白目を剥いてダウンしてゆく凄惨なグループだった。
 まるで神の悪戯かといわんばかりに、この宅にはゲテモノが集中していたのである。
(野郎……負けるかよッ!)
 当初は場違い感も半端無かった勇司だが、いざ予選が始まると闘志を前面に押し出して餅に挑む。だが、そんな彼にもゲテモノ具材は容赦が無い。
 ふたつ目を口の中に放り込んだところで、突然意識が遠のいた。具材には、正体不明の色鮮やかなキノコが用いられていたのである。単純に不味いとかそういうレベルの話ではなく、本気で命の危険を感じた。
(くッ……復活してでもクリアーしてやるぜッ!)
 その意気や良し──といって良いのかどうかは分からないし、良い子の皆は絶対真似などしてはいけないのだが、ともあれ勇司はパンドラ消費に何の躊躇いも無かった。
 まさか戦闘依頼などではなく、平穏な筈のお祭り参加にパンドラを削り取られようとは。
 運命とは実に数奇で、そして残酷であった。
 さて、その後に続くDグループはどうだろう。晴明は順調に四つ目を食い終えていた。
(いける……このペースなら、いけるぞッ!)
 勝因は矢張り、事前に服用しておいた胃腸薬と、晴明が最強の調味料ペアと信じて疑わない醤油とポン酢が、良い具合に効果を発揮していたことだろう。
 和の心、大事である。
 ちなみに晴明、開始の合図と同時にギフトを発動し、周囲に甘い香りを漂わせながらいきり立って吠えた。
「皆よく聞けッ! 何故この祭りが行われ続けてきたかッ! 俺はその答えを示す為に……」
「うるせぇッ! 集中させろッ!」
「邪魔すんじゃねぇ、馬鹿野郎ッ!」
 敢え無く撃沈。晴明のアジテーションは速攻で潰された。
 怒られてしまったのでおとなしくテーブルにつき、競技に集中し始めた晴明だったが、隣のCグループでは阿鼻叫喚の地獄が巻き起こっている。
 大変だなあと思う前に、その光景を「オイシイ」と思ってしまう辺りは、晴明のお祭り男精神が如何に崇高なものであるのかを示す好例であったろう。
 晴明の見るところ、勇司は既に二回ぐらい昇天しているっぽい。だがその都度、復活を遂げている。男の中の男を思わせる執念だったが、相手はただの餅であるということも付記せねばならない。
 最早そこは、鬼が哭く卓と呼んでも良いのではないか。
 そして最後に競技が開始されたEグループは、完全にモモカの独壇場であった。勝負は実力と時の運が重要だが、モモカの場合、完全に運が味方した。
 エントリーされていたライバル達はいずれも胃袋の許容量ではモモカに及ばず、不屈のガッツで餅を次々と仕留めてゆく。その勢い、その様子、まさに無人の野を征くが如し。
「アタイの上に餅は無くッ! アタイの下にも餅は無いッ! 餅はただひとり、このアタイのみッ!」
 天をも恐れぬ鬼神の餅。今やモモカは、己自身が餅と化した。
 NTRのRは、最強の餅のRだッ、などと意味不明な台詞を吐く始末のモモカだが、短期決戦に於いては勢いに乗って周囲を完全に呑んでしまった者が勝つ(ちなみにNTRとは普通、寝取られを意味する)。
 今のモモカを止められる者は、このEグループには存在しないといえよう。
「来いよ餅ッ! 具材なんか捨ててかかって来いッ! だ、誰が具材なんかッ! 具材なんか怖かねぇッ! 野郎ッ、食い尽くしてやらぁぁぁぁぁッ!」
 とうとう食いながらひとり寸劇まで初めてしまったモモカだが、この勢いは最早本物であろう。
 そうこうしているうちにCグループでは盛大に仰臥してしまった勇司が、再び跳ね上がって椅子に戻った。命を削る戦いに、終わりは無い。
 果てしなく永遠に近い十分間であった。

●餅よ、戦士達よ、永遠に
 予選を勝ち抜いた精鋭十五名が出揃った。
 その中にはアンナ、レンゲ、勇司、晴明、モモカらの顔も見られたが、勇司だけは凄まじく憔悴し切っているように思えてならなかった。
 死にそうな顔の勇司はふと、具材テントの方に視線を向けた。
 そこでは既にスタッフの一員として清掃担当を任されるようになっていたグラが、小梢の振る舞うカレーに舌鼓を打っている姿があった。
 更にその傍らには、同じくカレースープを美味そうにすすっている樹里の佇まいも。
 華やかなるカレー女子会。激闘が続く餅祭り会場の片隅に咲いた、華麗にして可憐なるカレー。
「美味しいカレーも良いものだけど、このレンゲさんが本戦に進出するというスペシャルな瞬間に立ち会えた皆さんは、なんて幸運なのかしら」
 腕を組んでふんぞり返るレンゲだが、その独白は前後に何の脈絡が無いことを一体何人が気づいただろう。
 そうこうするうちに本戦の準備が整った。選ばれし十五名の精鋭達は己が戦場たる餅食い卓へと足を向け、静かに鎮座した。
 やがて響き渡る開始の合図。最後の決戦の幕が切って落とされた。
 食い始めて一分も経たないうちに、アンナは暖かい光が自身を照らしていることに気づいた。見ると、樹里が観覧席で微笑を浮かべてこちらを見つめている。俄然、やる気が出てきた。
 勢いに乗って手に取った餅を、がぱっと割ってみた。するとその餅は突然むくむくと膨れ上がり、通常の餅の三倍の大きさに達してしまった。中の具材に何か秘密があるようだったが、それが何なのかは分からない。
 これは食材なのかとの疑念を抱いた瞬間が、アンナにとっての鬼門だ。これは餅だ、餅なのだ──そう思い込むアンナだが、微妙に苦みを帯びた香りはなかなかにきつい。
 だが手にする餅が次々と膨張してゆく恐怖に、とうとう喉を詰まらせた。アンナは止む無く、ふっかつのじゅもんをとなえた(要はパンドラに頼った)。
 その隣では、晴明の手が止まっている。視線が宙を彷徨っていた。傍から見てもやばいのが分かる。
 と思った次の瞬間には、晴明は立ち上がって振り向き、胃の中の物体を盛大に吐き出していた。ところが、本来ならばその異臭と見苦しい光景に誰もが目を背ける筈なのだが、今回は違った。
 樹里だ。彼女の微笑みが、晴明のゲロをキラキラと輝く噴水に変えたのだ。そこへすかさずグラが走り寄ってきて、まさに流れるような手際の良さでその場を完璧に清掃してみせた。
 光り輝くゲロ。
 その高貴なる美しさが技術点と芸術点で満点を叩き出したという事態を、後世のひとびとは重く受け止めなければならないだろう。
 ともあれ、晴明は失格。
 次いでモモカも倒れた。予選でのハイペースぶりがここへきて裏目に出た。彼女は具材に斃れたのではない。己の胃袋に破れたのだ。辛うじてパンドラを投入し復活を遂げるも、その後が続かなかった。
 更にアンナも沈んだ。
 味や量にKOされたのではなく、具材として詰められていた大粒の飴玉に喉を詰まらせてしまい、窒息死する寸前に吐き出してしまったのである。たとえひと口でも、口の中の物を出してしまった時点で失格だから、これは不可抗力の不運といわざるを得ない。
 他の参加者達も制限時間の十分を待たずして、次々と倒れてゆく。残ったのはレンゲと勇司のふたりだけであった。
 最後の最後で、レンゲは試練を迎えた。超激辛具材の餅が当たってしまったのだ。優雅な笑みを浮かべて少しずつ口に運んで芸術点を稼ごうとするも、肝心の個数が稼げない。
 一方の勇司は、美味いカレー具材が連発していた。
 餅に包まれている間は正体を隠して虎視眈々と食する者を狙い、参加者の舌を狙い撃つ。口の中へ侵入を許された際に放たれる芳醇な香りは、食する者を幸福の絶頂へと誘う。
 死の組と呼ばれた予選Cグループを戦い抜いた勇司には、カレー具材は最後の褒美だった。
「皆、実に素晴らしい戦いだったよ」
 具材テントで、小梢は僅かながら感動に打ち震えつつ、戦士達を心の底から称えた。
 この後、グラが晴明のまき散らしたキラキラのゲロを持ち帰るかどうかと悩んでいるらしいことを耳にしたのだが、敢えて聞かなかったことにした。
 流石にそれは拙かろうという気もしたが、グラにはグラの考えがあるのだと自戒した。
 本当にグラがキラキラのゲロを持ち帰ったかどうかは、余人の知るところではなかったが。

 戦いは、終わった。
 死と恐怖の十分間を全力で駆け抜け、食した個数でもトップを飾った勇司が今年度の炭焼き餅選手権にて優勝を飾った。
 余談だが、表彰式でアルナレド村長が、
「冗談のつもりでご招待しましたのに、まさか本気で頑張られるとはまぁ、物好きな方々もいらっしゃったものですねぇ」
 などと発言したものだから、イレギュラーズの何人かは本気の殺意を抱いたとか抱かなかったとか。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 こんにちは、革酎です。
 皆様、実に見事でした。討ち死にを恐れぬ素晴らしいプレイングの数々でした。
 わたくし革酎も皆様の熱意に負けぬよう、もっと吹っ切れなければならぬと改めて感じ入った次第です。
 もっともっと明後日の方向に突っ走って参りますので、今後ともどうぞ宜しくお願いします。

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