シナリオ詳細
気が付かなければ才は消える
オープニング
●自信喪失の元神童、酒浸る
神童も二十歳過ぎればただの人とは言うが、本当にそうなるとは思わなかった。この俺がだ。
子供の頃はどんなヤツと比べても、戦いの腕は一番だった。
もちろん天賦の才というか、血筋からくる生まれながらの才能も信じていたし、それにおごらず、修行も積んだ。
全てのものが止まって見える位に動体視力がよかったということもあった。
敵が攻撃しようとする、その予備動作を見ただけで、この後どんなふうに襲ってくるかといったことも、直感的に分かった。
だから敵が動こうとした瞬間に次の行動が予想でき、それを抑える形に反応して動く。
他人の目には、それが俺の先制攻撃と映っていたようだった。
たとえ気づくのが一瞬遅れても、敵の繰り出してくる武器の軌道を見たうえで反撃しても、十分に勝てていた。
当然、そのスピードは、人並み以上に重ねた修行の結果なのだが、身体が勝手に反応してくれたからでもある。
なのに最近は、いざ実戦となると、若造どもに出遅れてしまっている。
敵の動きに身体が反応できず、若造どもが敵をすべて倒してしまうからだった。
剣の腕は俺の方がはるかに上なのに、いざ戦闘開始となると、何も出来ず、ただ突っ立っているだけで終わってしまっていた。
きっと、ただいるだけの木偶の坊などと陰口を叩かれているんだろう。
俺だって、出来るなら活躍したいさ。だがな、出来ないまま終わっちまうんだ。
結局、若い頃は、運がよかったり、状況が勝手に上手く回ってくれてたのを、自分が天才だと勘違いしてたんだ。
その運が、二十歳過ぎて使い切ってたってことさ。よくある、失くして初めて気づいたってやつだ。
こんなふうになるんなら、早めに己の才能と実力の限界に気づいて、別の道に行けばよかったんだ……。
●酒場の看板娘の依頼
「って、依頼を成功させて戻ってくる度に、ぐでんぐでんに酔っぱらって言いだすのよ。いやんなっちゃう」
「だからね、報酬は私が出すからタイラーの自信を取り戻させて欲しいのよ。元々もの凄く強い人なんだから」
依頼者であるネリー・クワバーは、そんなふうに説明した。
彼女は、タイラー・オーキスが通う酒場の看板娘である。若くとび抜けてかわいい。
「え? なんでそんな事を?」
「あんなふうに超強力なマイナスオーラを放ってくれてると、その威圧感だけで他のお客が怯えたりして、お店の雰囲気が悪くなるのよ」
今は昼過ぎなのに客は多く、雰囲気も明るく笑い声も多い。食事も出すとはいえ、ここは朝から酒を呑ませる酒場なのにだ。
夜になれば人はさらに増える。儲けもそれにつれて多くなるだろう。
そんな明るく愉しい雰囲気を、ただいるだけで壊しているともなれば、店側はもちろん、ネリーにも看過できないのだろう。
ネリー達接客担当の従業員は、客からのチップが収入源の重要なひとつとなっているからだ。
「そう言うわけで、アイツの事を頼んだわよ」
- 気が付かなければ才は消える完了
- NM名壬熊
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年08月13日 22時45分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●仕込みは十全に
昼前の、まだ準備中の時間。『群鱗』こと只野黒子(p3p008597)は、今回の依頼者が居る酒場へと向かっていた。
依頼を引き受けた時、ある物を用意して欲しいと頼んでいた。
それを受け取りに来たのだ。忙しいのが分かっている依頼者を、どこかに呼びつけられるほど黒子は傲慢ではない。
「これが最近の依頼者リストよ。これでいい?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「これは、この村で会える人たちの分だけだから、実際にはもっと沢山あるのよ」
「そうでしたか。やはり、評判は良いんですね」
「ええ、なのに最近は自己嫌悪が酷いのよ、だから……ね?」
「はい、お任せください。……ああ、それともう一つよろしいでしょうか?」
「え、なに? 出来るだけのことはするけど?」
「宿をご紹介いただけませんか? ギリギリまで聞き込みをしたいんで」
「ふふ、わかったわ。今夜泊まれるよう、話を通しておくわね」
●勘違いの行く末
『新たな可能性』月錆 牧(p3p008765)は、昼時の混雑の落ち着いた頃を見計らって酒場を訪れた。
ネリーは店の奥の薄暗い隅を指差して、タイラーはあそこよ、と教えた。
牧がネリーからこの依頼を受けた時、軽く考えた。
若い頃は、勝ちが重なり、それを戦闘の天才とおだてられ、調子に乗って慢心した。
だが、ビギナーズラックがなくなり、次第に自分の本当の実力が理解できるようになった。
ろくに修練もせず、昼間から呑んだくれだした。
その結果、当然のこととして戦闘能力が落ちる。それが自分でも分かるようになり、自己嫌悪に陥って呑んだくれているのだろう。
今日、この店に来て、改めて確信した。
昼間から酒場にいるのがいい証拠である。酒場にいる以上、酒を呑んでいないはずがない。想像した通りだろうと。
牧は怒りを抑えきれず、タイラーの傍らに行くや、いきなりジョッキを持った腕を腕力に任せ掴みあげた。
すでに半分以上は呑まれていて、揺れたジョッキからわずかな泡さえもこぼれなかった。
「昼間っからあなたは何をしてるんです?」
「いたたた、急になんだ? 俺が飯を食っちゃあダメなのか?」
「飯? そのジョッキには何が入ってるんですか?」
「水だよ」
「え、あ、お酒じゃない?」
「泡、ないだろ? 匂いを嗅いでもいいぞ」
「……」
「昼間から呑むほどの祝い事なんて何もない。それとも俺が、酔っ払いに見えるのか?」
たしかにタイラーは酔っ払ってはいなかった。予想が間違っていたことに困惑する牧。何故酒を飲んでいないのか?
そんな牧の手首を、背後からヌッと現れた男が掴んだ。牧は思わずタイラーの腕を放した。
「おいおい、この男はそんな男ではないはずだ」
背後から現れた男は、そう声をかけてきた。
『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)、彼もまたネリーに雇われた冒険者である。
本来なら皆が集まってから出ようと思っていたのだが、やってきた最初の娘と乱闘寸前の険悪な雰囲気になった。
そのため、仕方なく出てきたのだ。
「悪いな、タイラーさんよ。アンタが飲酒中の愚痴で気分を悪くする奴が多いんだ」
「アンタは?」
「俺はジョージ。見てわかるだろうが、アンタと同じ冒険者さ」
「……俺は、なにか迷惑をかけてるのか?」
「アンタの陰々滅滅した愚痴で周囲の人間の酒がまずくなるってのは分かってるだろう? その話に尾ひれがついたらしい。で、清廉潔白なお方たちの中には、そんなアンタを酒乱のクズ野郎と思いこんでるのもいるって事さ」
「そ、そうか……。やっぱり俺は……」
タイラーは、薄々気づいてはいたものの、あえて気にしなかったことが、皆に知れ渡っていたことに愕然とし、蒼白になった。
「ああ、いやいや、そうではない。だから落ち着いてくれ、な?」
「な、なにがだ?」
「飲酒中にこぼす愚痴が陰々滅滅で気に触るというだけだ」
ジョージはここに来る前に、若い冒険者達から色々と聞き込んでいた。
数々の依頼をこなしてきたタイラーの実績に基づく事実や評判や印象などである。
いくら優秀でも、現場で役に立たない者に依頼は来ないはずだ。
タイラー自身は仲間の後ろに立っているだけだと言うが、戦闘にはそういった役割もある。先頭切っての突撃だけが戦いではない。
「アンタと一緒に依頼をこなした若い者たちから評判を聞いたんだ。そしたらな、飲酒中の愚痴以外は評判は良いんだ」
「……そ、そんなことは」
「いいか、アンタは必要とされているんだ。わかってるだろ?」
ジョージは牧を落ち着かせつつ、話を続けた。
「アンタは戦闘開始時につい出遅れてしまうって言うがな、そもそもアンタの攻撃の特徴は待ち……後の先だ。そんな奴が敵より先に剣を振るってどうするんだ?」
「だが、一番強い俺が先頭を走らないのはおかしいと思わないか?」
やれやれとジョージは少し呆れ気味に質問に答える。
「人には役割ってのがあるんだ」
「あ、ああ?」
「イマイチ理解はできてないようだな。裏に出ろ、試してやろう」
「なぜだ」
「アンタの強さを、アンタ自身に教えるためだ」
「そ、そうなのか?」
「ほら、そこの姉さんも来いよ。こいつが鍛錬を怠ってないことが納得できると思うぜ」
「……わかった、見極めよう」
ジョージはタイラーと牧を酒場の裏に連れて行き、戦う準備をする
●教訓訓練
「さあ、準備ができたら言ってくれ」
タイラーは、その場に置き忘れられていた木剣を手に取った。
一方のジョージは素手のままである。両の拳を軽く握り、半身になって構える。
「よし、準備はできた……何時でも良いぞ」
「ああ、わかったよ」
そう言うやジョージは飛び込みざま、少し大ぶりな動作で殴りかかった。
タイラーは一瞬、怪訝そうな表情を浮かべ、その攻撃を最小限の動きで横に避けた。と同時に、ジョージの背中に木剣の切っ先を、相手が感じる程度のかすかさに触れさせた。
「おいおい、フェイクもなしに大ぶりなだけのパンチじゃあ、誰だって避けられるぜ」
「はは、そうか……では、次だ」
仕切り直し、ジョージは構えなおすと、何度も試すように攻めかけた。タイラーはそれを全て最小の動きで受け流した。
今回の目的は倒すことではない。タイラーに実力が本当にあるかを試すのだ。
ある程度攻撃をし、避けられるということを繰り返す。
「やっぱりアンタは強いじゃないか、なぁ、姉さんよ?」
ジョージは牧に問いかけた。
「たしかに、鍛錬もきちんとしているようだ」
「だ、そうだ。アンタは自分のやりたい事と立場の違いに気づいてないのでは?」
「俺の立場……?」
「ああ、そうだ。でくの坊のように立ってるだけの人間を、危険な冒険にわざわざ同行させる者はいない」
「そ、そうなのか?」
「そうだ。だからアンタの愚痴は見当はずれだったんだよ。……俺が言えるのはここまでだな」
ジョージは牧を連れ、その場を去ろうとした。
「お、おい、待ってくれ」
「なんだ?」
「今夜、この酒場に来てくれないか? 奢らせてくれ。二人ともだ」
ジョージと牧は返事をしないまま去っていった。
返事はないが、きっと来るだろう。タイラーはそう思い、酒場に戻った。
●千客万歳
「あの……タイラーさんですか?」
「今日は千客万来だな、どうした?」
酒場でジョージと牧を待つタイラーへ、黒子が話しかけてきた。
「いやぁ、この辺の若手の冒険者の方の成長が著しいと聞きましてね。というのも、タイラーさんのおかげだとの事で。お会いできて光栄です」
「そ、そうなのか……?」
黒子はおだてつつ、タイラーの評判をそれとなく伝えた。彼の機嫌は良くなっていった……その時。
「おや、有名な方? だったら、ここ、よろしいかしら? マスター、ラム酒があれば頂戴な」
客のふりをして酒場に入ってきた『海賊見習い』マヤ・ハグロ(p3p008008)が、偶然を装ってタイラーの隣に座った。
「あなた、凄腕の冒険者なの? 向かうところ敵無しってところかしら? 私はまだ見習いの冒険者なの。よかったら、貴方の武勇伝を聞かせていただけないかしら」
「今日は何なんだ、一気に運が良くなったのか?」
「さてね? あなたも呑みましょうよ」
「あはは、そうしましょう」
「おいおい、勝手に決めるなよ……まあ、いいか。呑もう!」
おだてられて気を良くしたタイラーは、大量に酒と肴を注文した。
待ってたとばかりに、注文した品が運ばれてくる。たちまちテーブルの上は酒と料理の皿で一杯になった。
それをタイラー達はつぎつぎと平らげていく。
「お話を伺ったところ、ずい分活躍されているとか?」
「活躍を? それなら嬉しいが……ああ、そういや、この前……」
タイラーは気分よさ気に、以前アドバイスをした若者が敵を倒した話をはじめた。
黒子は集めてきた情報を出しつつ話を続けさせ、マヤはそれらすべてに、その時はどんな状態だったのか質問を投げかけた。
「よう、派手にやってるんだな」
周囲の席も巻き込んで盛り上がってきた時、ようやくジョージと牧がやってきた。
「おお、お前らも飲め!」
「そうだな、盛大に呑むか!」
この夜の酒場は、タイラーの自虐が店内に響くことがなかった。いあわせた人は皆、楽しく呑めたようである。
この日、タイラーが自分の役割を理解し、自信をとりもどしたからだった。
タイラーは大いに笑い、呑み、食らいつづけ、陽気な酒場の普通の客と化していた。
今後、よほどの事がない限りタイラーが自信を失う事はないだろう。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
初めまして、壬熊と申します。
王道を目指しました、よろしくお願いします。
●目標
実力はあるが、活躍が出来ないのに依頼を成功している冒険者に自信を取り戻してあげてください。
この冒険者は何も出来ない自分が嫌で、悩んでいるようです。
また、依頼が成功するとお酒を飲み、何も出来なかったと愚痴を言い、周りの雰囲気を悪くしてしまうようです。
酒場としては、楽しくお酒を飲んで貰いたいのでどうにか出来ないかと依頼をしたようです。
言葉で褒めるなどではなく、このような成果を上げているので大丈夫である理由がわかれば気が付いてくれるかもしれません。
●世界観
毎日依頼に困らない程度の大きい町にある酒場が舞台です。
酒場は繁盛しており聞き込みなどはしやすい場所となっています。
また、酒場の裏には少し動ける庭的な場所もあります。
●サンプルプレイング
自分自身の仕事に自信がないのか、ならば依頼に困って居ない理由を探そう。
なんで依頼をするかを前の仕事の依頼主に聞いてみたら理由がわかるかも!
理由を聞いたら、なんで依頼を頼むかを教えよう。
理由があるのだから自信を持ってね!
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