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シナリオ詳細

ピエロの涙
ピエロの涙

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●喝采の雨の中で
 割れんばかりの拍手と歓声が、劇場を震わせていた。
 観客は皆スタンディングオベーションで1人のピエロを褒め称える。
 大きく手を振り返しながらピエロは舞台を降りようとして――派手にこける。
 不様に転がったピエロは大袈裟に痛がり、涙すら流して見せる。
 その姿すら至極滑稽なもので、観客達は腹を抱えて笑う。
「素晴らしいぞ! エリオット!」
 こうして花形女優を欠いた舞台は、無事に成功を収めた。
 わざと転び、痛みを言い訳にして涙を流したピエロの心の内を知る者はいない。



 共演者達への挨拶もそこそこにピエロが向かった先はローレット。芸人とは縁遠い、冒険者の酒場である。
 金貨の袋を片手にキョロキョロと辺りを見渡す彼に、『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は、声をかける。
「こんばんは。ピエロさん。サフランイエローな気分……ではないみたいね?」
 仕事用の笑顔(マスク)を外し、くしゃくしゃの顔でピエロは言う。
「――ある人に、花を贈りたいんだ」
 そこには悲しみに沈む、独りの男がいた。

●貴女に捧ぐ『青い月』
 キミ達がローレットにやって来たとき、プルーはカウンター席に居た。
 キミ達がプルーの元へ集まると、彼女は青色のカクテルを眺めながら、甘くささやく。
「ピエロのマスクには、どうして涙が描かれているのかしら」
 依頼の説明を受けに来たのに、何故ピエロの話に?
 キミ達の内何人かが首を傾げれば、
「今日の私は、ホライズンブルーな気分なの」
 と、プルーは個性的な表現で返した。
 わかったような、わからないような。複雑な面持ちをするキミ達を他所に、プルーは話を続ける。
 事の起こりは数日前。とある一座の花形女優が亡くなった。
 突然の悲劇は一座にも、そして彼女の演技を楽しみにしていた観客達にも暗い影を落とす。
 このまま舞台は失敗に終わるかと思われた。
「でも、そうはならなかった。というのもこの一座には稀代の名ピエロが居たの」
 こんなときこそ全ての哀しみを吹き飛ばすような、本当に楽しく、面白可笑しい物を!
 座長が主役に抜擢したのは、ピエロのエリオット。
 水を打ったような静けさの中、エリオットは誰よりも高く飛び跳ね、滑稽に踊り、ときには客席にすら飛び出してはしゃぎ回った。
 彼の名演は、観客にも一座の仲間にも笑顔を与えていく。
 公演初日は大成功。噂が噂を呼び、今では連日客席は満員。立ち見客も出る程だと言う。
「めでたし。めでたし――ではなくて、ここからが本題よ。今回の依頼はそのエリオットから。ある山に生えている、花を取って来てほしいの」
 花の名はブルームーン。
 地球で言うところの月見草の一種だ。
 ある山の山頂付近に生えており、他の月見草と同じように、夜に花開き朝になると花を閉じる。
「ブルームーンは月見草の群生地に生えているわ。昼間は普通の月見草と見分けがつかないのだけれど、夜は別。月の光を浴びたブルームーンは、青白く光るの」
 特に満月の夜の輝きは素晴らしい。
 煌々と降り注ぐ月光の下、荒涼とした山頂に輝くもう1つの月。
 ……成る程。確かに心惹かれる景色ではある。だが、それならば景勝地として有名になるはずだ。にも関わらずキミ達イレギュラーズは誰1人として、その山とブルームーンの話は聞いたことがない。
 誰かがそう指摘すると、プルーは笑みを深める。
「勿論そうならない理由があるわ。何せ、山には魔狼の群れが棲みついているのだから」
 魔狼とは中型から大型程度の狼の魔獣だ。
 個々の戦闘能力は然程高くはなく、イレギュラーズであれば一対一でも十分に対処出来るだろう。ただ、単純に数が多い上に群れで連携して攻撃してくる。
「狼だから追跡能力は高いわね。獲物を見つけたら、執拗に追ってくるわね」
 どのような方針でどんな行動を取るかにもよるが、1、2回の戦闘は覚悟しておいた方が良さそうだ。
「それから、花の取り扱いには気を使って頂戴。彼は花が傷むのをとても気にしていたから」
 少なくとも花の運ぶ者は、花弁を散らしてしまいそうな激しい動きは避けた方が良さそうだ。
 あるいは植物の知識のある者や適したギフトを持つ者がいれば、より安全に花を運搬できるかもしれない。
「後は……山に登るのだからそれ相応の準備は必要かしら」
 大して高い山でもないが、仮にも登山だ。着の身着のままでの登山はお勧めできない。
 特に夜に行動するのなら、より安全に気を配るべきだろう。例え便利なギフトがあったとしても、油断は大敵だろう。
「――大体こんな所かしら。良い知らせを期待しているわ」
 それから出来れば土産話もね、とプルーはウィンクを飛ばす。

GMコメント

●挨拶
初めての方ははじめまして。
知っている方はお久しぶりです。

きのじんです。
この度はどうかよろしくお願いします。

●依頼達成条件
ブルームーンの『採集』です。
依頼人は「1輪だけでも構いまわないから、完全な状態での生花を採ってきてくれ」と希望しています。
今回の依頼は、あくまで採集依頼です。魔狼の撃破数は報酬に影響しません。

●情報について
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラーが集めた情報は確かなものです。
OPとこの補足情報に記載されていない、いわゆる想定外の事態は今回の依頼では発生しません。

●魔狼
10体~15体程度の群れが、3組生息しています。(最大で15体×3組)
複数の群れが同時に襲いかかって来たり、数が減った群れ同士で合流し連合して襲いかかって来たりすることはありません。

魔狼は、爪牙による噛みつきや引っかきを得意とし、遠距離から助走をつけてタックルしてくることもあります。
又、狩りの際に彼らが上げる吠え声は獲物の心を乱れさせます。

リーダーに率いられた彼らは冷徹な狩人です。
優れた連携、的確に獲物に襲いかかることでしょう。

群れのリーダーは目に見えて体格が良い個体です。
リーダーは他の魔狼よりHPは高いですが、重傷を負わせると群れの統率を大きく乱すことができます。また、リーダーが戦闘不能又は死亡した群れは即座に撤退し、以後攻撃を仕掛けることはありません。

  • ピエロの涙完了
  • GM名きのじん(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月30日 21時35分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
最強砲台
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
ワーブ・シートン(p3p001966)
とんでも田舎系灰色熊
九重 竜胆(p3p002735)
一刀繚乱

リプレイ

●行きは良い良い
 往路での戦闘は、イレギュラーズが魔狼達を圧倒する形で進んでいた。
 『Esper Gift』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)は、限界まで高めた魔力を解放する。
 はるか遠方から放たれた魔力は、風の刃となって魔狼の頭目の肩を切り裂く。
 『とんでも田舎系灰色熊』ワーブ・シートン(p3p001966)は、飛び散る血液の量から、相当の深手だと判断した。
 真正面で対峙する頭目に、ワーブは語りかける。
「これ以上のぉ、戦いは避けたいところなんだけどねぇ。特に、こういう接触ではねぇ」
 若干ゆるふわ感が漂う口調ではあるが、それとは対照的にワーブの眼光は鋭く、威圧的なものだった。
「無駄に体力を使うのはごめんだわ」
 また、ワーブの背後では『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)が魔力を高めつつ氷の刃を形成。
「今なら見逃して差し上げますよ」
 『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)もまた青い意匠の愛銃、GRG-13を構える。
 警戒態勢のイレギュラーズ達を睨みつつ、頭目は彼らの実力を推し量っていた。 
 縄張りへの侵入者を襲った頭目ではあったが、イレギュラーズ達の予想外の抵抗に遭ってしまった。
 元々10体居た仲間は2体が倒れている上に、頭目自身の傷も決して軽くは無い。
「このまま戦えば、万が一もあるですよぅ。おいらたちは割に合わない獲物だと思うんですけどぉ……ねぇ?」
 決断を促すべく、ワーブは一歩踏み出す。
 すると、気圧された頭目は一声鳴いて撤退。他の魔狼達も頭目の後を追っていく。
「退いてくれましたね」
 『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)はホッと息を吐く。
「あの咆哮は厄介ね」
 前衛を務めていた『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は、己の耳の調子を確かめつつ深呼吸を繰り返す。
 魔狼の咆哮は狩猟者のそれだ。
 仮にも魔物である彼らの咆哮には魔力が込められており、獲物の心に原始的な恐怖を呼び起こす。
 ダメージ自体は微々たるものだが、その反面音による攻撃なので避け辛い。
 また、まともに耳に入ってしまえば如何にイレギュラーズと言えども動揺から態勢を崩してしまいかねない。
 レジーナを始めとした手傷を負った者の治療するのは、『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)だ。ムスティスラーフは、癒しの力を持つ小動物を召喚しレジーナの傷を癒す。
「状態異常の回復手段があればもう少し楽に戦えたかも? やっぱりリーダー狙いが良さそうだね」
 咆哮による乱れは戦闘が長引けば長引く程響いて来る。戦闘は短期決戦が望ましいだろう。
 また、今回の依頼は採集依頼だ。咆哮の件を抜きにしても群れの頭目を集中攻撃し、追い払うという彼らの方針は非常に理に適ったものだった。
「念のため休憩を取ろうか。竜胆ちゃん、どこか良い場所はあるかな?」
 ムスティスラーフの言を受けて、『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)は、持参した地図を開く。
「少し登った先に開けた場所があるみたいです。問題が無ければ、そこで休みましょう」

●お茶会
 10分程歩いた頃だろうか。山林の合間に、やや開けた広場のような場所がある。
 イレギュラーズ達は魔狼の痕跡を調べるが、自然に詳しいシルフォイデアやワーブが辺りを調べても魔狼の痕跡は発見できない。また、クロジンデが植物に問い掛けてみればこの辺りには魔狼がやって来ないことがわかる。
「ちょうど縄張りと縄張りの間にある、隙間のような土地なんじゃないかな?」
 ムスティスラーフの推論に、シルフォイデアが確かに、と頷く。
「狼は、群れ同士の縄張りを重なり合わないようにすると聞きます。ですから、そういう場所もできるかと」
 イレギュラーズ達は、予定通りこの場で休憩を取ることにした。
 なお、念の為の休憩ではあるが、登山に対するイレギュラーズ達の備えは万全であり、体力の消耗は最小限に抑えられていた。
 登山靴、登山に適した衣服、ロープ、地図とコンパス等の必要な装備は揃っており、食料と水分も充実している。
 道中ではレジーナがファミリアを偵察に出しており、これが先の戦闘での勝利に繋がっている。
 足場の悪い難所もあるにはあったが、空を飛べるイレギュラーズが先行し、滑落防止用のロープを結べば楽に踏破できた。
 帰り道及び道中の木や石に目印を刻みながら進んでいるのも、下山にかかる時間短縮に大いに役立つことだろう。目印の位置は、クロジンデがわずかな時間の間に記憶しており、少なくとも帰り道に迷う心配はなさそうだ。
 思い思いの位置にイレギュラーズ達が座ると、エリザベスは懐から水筒を取り出した。
「こんな事もあろうかと、わたくし、このような物を準備しておりました」
 彼女がお茶を提供すれば、お菓子や食料を持参してきた者たちもそれぞれ振る舞い、ちょっとしたお茶会となる。
 ギフトのおかげで食事の必要性はないが、ユウはその場の流れに合わせてクッキーを軽くつまみつつ、ブルームーンの生態を話題に出した。
 ブルームーンとは月見草の一種であり、通常の月見草が月の魔力を蓄え変異したものだそうだ。
「要は、四つ葉のクローバーみたいなものってことね」
 変異する条件は不明だが、標高、気温、土壌環境なども影響しているらしく、生息地は限られている。平地に持って帰ることも可能が、時間を経るごとに花の輝きは失われ、終いにはただの月見草に戻ってしまうのだとか。
「概ねこんなところかしら。満月の夜に機会があれば見てみたいものね」
 ユウが話し終えるとクロジンデが手を上げる。
「《魔素変換》の人の話を補足しますとー。鉢植えにして運ぶと多少は長く輝くみたいですねー」
「補足の補足ですが、シャベルやポットは用意してあります。多めに用意してありますので、たくさん採れてもちゃんと持って帰れますよ」
 続けて、シルフォイデアが付け足した。
 装備を整える際に花屋で出会った2人は、ついでにブルームーンを長持ちさせるコツを聞いてきていた。無事に持ち帰るという点においてもイレギュラーズ達に抜かりはない。
 一通りブルームーンについて話終えると、次第に話題は依頼主のピエロに移っていった。
「今は亡き人物に花を贈る――人間社会に広く見られる慣習でございますわね。その行為にどのような意味があるのかわたくしには理解しかねますが、何か、こう……回路にノイズが走ります」
 奇妙な、しかし決して不快ではないノイズにエリザベスは首を傾げる。
「山から完全な状態で持ってくるって正直難題だけど、それを成し遂げてこそこっちも本物ってもんだよねー」
 

●帰りは怖い?
 夕暮れ時。地平線が茜色に染まり、空に白い月が浮かぶとき、地には蒼い月――ブルームーンがほのかに輝きを帯びる。
 だが、残念なことにイレギュラーズ達には景色に見とれている時間は無い。
 手早くブルームーンを採取すると、下山を開始する。
 運搬役はクジロンテとムスティスラーフが務めることとなった。
 

 灯を頼りに、夜の山中を行く。
 自然やモンスターに豊富な知識を持つイレギュラーズの働きや周囲の植物との会話で得られた情報のおかげで、今いる場所が狼の縄張りかどうかまではわかる。
 だが山中の内、『何処から何処まで』が追い払った群れの縄張りであるかは今一判然としなかった。狼の痕跡やマーキング跡などと言っても群れを区別する程の決定的な証拠は見つからなかった。また、植物にとってはあくまで狼は狼なのだ。人が森の木を一括りに考えるように、植物もまた狼達の区別がつかないのはある意味仕方のないことなのかもしれない。
 依然として警戒を怠らず下山するイレギュラーズ達の中で最初に気がついたのは、鋭敏な感覚を持つ竜胆だった。
「あっちで何かが動いたような?」
「熱源を確認しました」
 もっとも竜胆は夜の暗闇のせいで、エリザベスは対象から距離が離れ過ぎているせいで、動いたものの正体は確認できない。
「つまり我の出番って訳ね」
 頭上を旋回させていた鳥のファミリアを飛ばす。同調させた左目で魔狼の姿を確認し、レジーナの眉間にしわが寄る。
「魔狼が居た――のだけれど、9体ね」
 9体の魔狼はイレギュラーズから見て南に集結している。
 群れを率いる頭目も居て、目立つ外傷はなし。他の魔狼も無傷だから間違いなく昼に撃退した群れとはまた別の群れである。
「たった1体とは言え、数が少ないのは妙ですわね」
「プルーの腕は確かだよー。群れは10体以上15体以下は確実だと思うー」
 元ローレットの受付嬢としてクジロンテも同意する。
「別動隊がいるのかな。まず片方が先に仕掛けて獲物を誘導する。そして、もう片方が逃げ出した獲物の進路に立ち塞がる……とか」
「それ、狼がよく使う手ですよぉ。居るなら多分あっちですかねぇ」
 ハイイロオオカミの兄貴分から聞いた狼流の狩りを思い出しながら、ワーブは鼻先を北東に向ける。レジーナが再度ファミリアを飛ばしてみれば、案の定6体の魔狼が確認できた。
「ここと、この辺りに魔狼が居るとなると迂回は……無理か。連中、私たち崖のある方に追い詰めるつもりだわ」
「地の利は敵にある……か。こちらから仕掛ける必要がありそうね」
 戦闘は不可避である、と判断したイレギュラーズ達の行動は迅速だ。
 ファミリアを観測手の代わりにした温度知覚による正確無比な魔の号砲が、群れの頭目に放たれる。
 群れの内、1体がとっさにを庇うもそんなものはお構いなしに、砲撃は数頭の狼を纏めて刺し貫く。
 手傷を負った頭目は短く吠えると、本隊は更に半々に分かれて散開する。
 追撃を警戒した頭目の判断は正しかった。
「往くわよ」
 頭目を含めた4体の魔狼の前に、竜胆が躍り出る。
 一息で踏み込むと居合一閃。流星のように刀を薙げば、血風が舞い、エリザベスの号砲で深手を負った魔狼2体がどうっ、と地面に崩れ落ちる。
「あら。お見事だわ」
 竜胆の剣技に賛辞を贈り、レジーナは前に出た。
 彼女が頭目に銃口を向ければ、混乱する群れの中から3体の魔狼がレジ―ナに押し寄せるが、これもまたレジーナの計算の内。
 リーダーを狙うのは単なる振りであり、真の狙いは自身に敵の目を引き付けることになる。影色のダガーを逆手に構えたレジーナは腰を深く落とし、魔狼2体の攻撃を難なく防ぎきる。
 だが、最後の1体が飛び掛かる瞬間、やや後方にいた魔狼が咆哮する。
 魔力が篭った大音声の咆哮は、レジーナに原始的な恐怖を呼び起こす。
 彼女の防御が僅かな綻びが生じるが――
「来ると分かっていれば堪えようもあるわ!」
 迫り来る魔狼の下顎を蹴り上げ、強引に牙をかわす。
 異変を察知した別動隊の魔狼4体もまた慌てて突進してくるが、そんな彼らの前に、ワーブが立ち塞がる。
「よいしょおうぅっ!」
 ワープの剛腕がうなり、痛烈な打撃が魔狼の横面を捉えた。
 魔狼は勢い良く吹き飛ばされ、木に叩きつけられる。気絶しないだけ大したものだが、その思考は混濁し、足元すら覚束ないようだ。
「呼び出すは白の鎧。其は穢れ無きもの。何者にも侵されぬ気高き城。顕現せよ、″峻厳たる白の城塞(ハード・アイヴォリー)″!」
 別動隊の残りの3体の魔狼が果敢にワーブに攻めかかっていくのを横目に見つつ
も、ムスティスラーフは白の城塞を展開し自身の防御を固める。
 最も恐ろしいのは数の暴力で戦線を突破され、乱戦に持ち込まれて花が傷むこと。
 ブルームーンを運ぶ者はより慎重に立ち回らなければならない。
「皆ごめんねー。任せたよー」
 故に、主たる運搬役のクロジンデは、戦闘は避け魔狼から距離を取る。
 総合的な火力は落ちてしまうが、ブルームーンを守る為には仕方のないことだ。
 クロジンデと一定の距離を保ちつつ、ユウはクジロンテの後に続く。いざとなれば、我が身を盾にしてでも花の運搬役――クロジンデを守る心積もりだ。
「柄じゃないのはわかってるけど、ね!」
「ユウさん、合わせますっ!」
 ユウが淀みない手つきで宙に魔法陣を描けば、無数の氷刃が魔狼の頭目の身に傷を刻む。そしてその傷口に、シルフォイデアの呪術の炎が侵入する。しかし熱を持たない呪いの炎に身を蝕まれてもなお、頭目の闘志は揺るがない。
怒りを露わにした頭目が、雄々しく吠えればにわかに群れ全体が殺気立つ。魔狼達は四肢に力が込めて、駆けた。各前衛に最低限の抑え役を残し、怒涛の勢いで攻め寄せて来た。
「わわっ!? 通行止めですよぅ」
 ワーブは脇を抜けようとした魔狼2体を強引に押し止める。
「簡単に通しはしないわよ」
 レジーナは己を迂回しようとする魔狼1体をリボルバーで牽制。さらに擦れ違い様に1体もまたダガーで脚を切りつけ突破を阻止する。だが両者とも、それが精一杯だ。
 頭目と対峙する竜胆は、抑えという大任故に後ろを気にかけることすらままならなず、計3頭の狼が前衛を突破する。
「ここは私が!」
 咄嗟に飛び出したのはシルフォイディリアだった。
 魔狼の進路を遮りつつ、挑発すればワーブ側から突破した2体の魔狼を引き付けることに成功した。
 2頭の魔狼の連携して攻撃してくるが、シルフォイディアは巧みなステップで、回避する。
 どちらかと言えば、防御よりも回避に適正があるシルフォイディリアではあるが、一時的に持ち堪えるくらいは可能だ。
 もう1頭はムスティスラーフに肉薄する。
「僕も負けてられないな」
 それに対し、ムスティスラーフは手の中の水晶を握った。小型の魔力障壁を発生させ、魔狼の突進を食い止める。
  拮抗状態ではあったが、それも一瞬のこと。
「おイタはそこまで、でございます」
 エリザベスが魔狼に直に衝撃波を叩き込み、魔狼をすぐさま吹き飛ばす。
「竜胆、援護するわ」
 魔力を高めたユウは、巨大な氷刃を作り出し、頭目に放った。しかし、頭目に寄り添うようにして付き従っていた1頭が身を呈して頭目を庇う。
 頭目の護衛役最後の1頭はその身を凍てつかせ、生涯を終えた。
「皆ー、今だよー」
 離れた位置からつぶさに戦局を見守っていたクロジンデが声を上げる。もはや頭目を守る盾は居ない。
 頭目は口を開け、一声吠えようとした。
「――させない」
 だが、部下を呼ぶつもりで開けた頭目の口は、竜胆の流し斬りによって切り裂かれる。
 一太刀入れつつ、竜胆は素早く頭目から距離を取る。
 次の瞬間イレギュラーズ達の集中攻撃――正確無比な銃撃が、氷刃の雨が、頭上に召喚された金盥が――が殺到しついに頭目は地面に倒れ伏す。
 頭目の死と共に群れは瓦解し、魔狼達は散り散りになって落ち伸びていく。


●無言の愛情。移り気。そして――
 深夜の墓地前でイレギュラーズ達を待つ男がいた。
 寂しげな様子の彼に、ワーブは声をかける。
「ようやく持ってきたんですよぅ」
「ありがとう。今回は無理を言ってすまなかったね」
 エリオットは深々とキミ達におじぎをする。慈しみに満ちた手つきで、ブルームーンの花を受け取る。
「月見草に込められた花言葉は無言の愛情、移り気だったわよね」
 竜胆の呟きが、零れる。
 なら、ブルームーンに込められた花言葉とは?
 言外に込められた問いに、エリオットは答える。
「ブルームーンの花言葉は『喜劇』。そういうことにしてしまおう。僕は、ただ静かに彼女を愛していた。だけれどそろそろ移り気にならなくちゃ。その方が、喜劇の幕切れとしては相応しい」
「……喜劇?」
 意外な言葉に、竜胆は思わず聞き返す。
 目を丸くするキミ達に、エリオットは笑いかけて見せる。
「美女に恋するピエロなんて実に喜劇的だろう? でも僕はピエロで良かったよ。他の誰でもなくこの僕が、世界で最も彼女を笑わせた男だ! ……そう胸を張って言えるのだから」
 エリオットの笑顔には、誇りに満ちている。紛れもなく心の底からそう思っているのだろう。
「……エリオットは本物の演者(ピエロ)なんだねー」
「お褒めの言葉をありがとう。それでは、皆さんお休みなさい。どうか良い夜を」
 エリオットと別れ、キミ達はその場を後にする。
 背後からは精一杯押し殺そうとして、しかし堪え切れないような嗚咽が聞こえてきて、キミ達は足を早めた。
 エリオットの泣き声を聞くのは、何となく気が咎められた。
「悲しみに沈むみんなをピエロが助けてくれたのであればピエロは誰が助けてあげるんだろうね。僕らは彼の助けになれたのかな」
 誰ともなしに、ムスティスラーフが言った。
 それは誰にもわからない。恐らくエリオット自身すら。
 だが、夜が明ける頃にはブルームーンは枯れ、ピエロの涙もまた涸れ果てる。
 一晩で一生分悲しみ尽くしたエリオットは、ピエロとして舞台で面白おかしく踊るのだ。
 ――素晴らしいぞ、エリオット!
 と。そうして明日もまた彼は、滑稽なピエロを演じていく。
 それぞれの帰路の途上で、あるいはそれぞれの帰るべき場所で、キミ達はエリオットという男の幸福を祈った。

成否

成功

MVP

クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢

状態異常

なし

あとがき

こんばんは、きのじんです。
まずはシナリオお疲れ様でした。

今回のシナリオはモチーフとして、ピエロや道化師を主題としたエピソード、絵本、歌などを用いています。
色々チャンポンしてはいるのですが、モチーフの面影は残っています。
「おや?」という設定・表現等がありましたら……もしかしたらそういうことなのかもしれません。

あと、余談ですがオープニングでプルーさんが飲んでいたカクテルはブルームーン。
青くて甘いですが、度数は高め。飲み過ぎ注意。そんな感じのお酒です。
ジンとヴァイオレットが苦手でなければ、気が向いたときにご賞味下さい。

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