シナリオ詳細
奪われたイエローマドンナ
オープニング
・砕けたイエロープリズム
ここはとある世界に劇場。
大勢の観客たちがステージの上の一人の乙女へと注視していた。
「ああ! なんて素敵なの!」
鮮やかなクロムイエローのドレスを翻し、ステージで踊るのは一人の演劇女優。
彼女の名前をマリーという。
類稀なる美貌と才能を持ち、非常に努力家の彼女は、僅か十六歳で役者ならば誰もが憧れる『ガラス・ミュール』の花形役者に躍り出たトップスターである。
その肩書に恥じぬ様にマリーは今、舞台の中の黄色の乙女『イエローマドンナ』として生きていた。
スポットライトに照らされながら、マリーはステージの中央、豪奢なシャンデリアの真下へと歩を進める。
「こんな素敵な場所で歌えるなんて夢みたい!」
王子に気に入られたイエローマドンナが城に呼ばれステージに立ち、大勢の観客たちの前で歌うというシーン。
期待に満ちた観客達、つまらなさそうな姉役の顔。
すうっと息を大きく吸い込んでイエローマドンナは、マリーは歌う。
「わ」
私は、と始まるはずのフレーズが聞こえてくることはなかった。
代わりにホールに響き渡ったのは轟音。
シャンデリラの鎖が弾け、落ちた音。
下敷きになった身体が、骨が潰れ削れる音。
惨劇を目撃した人間の悲鳴、怒声、叫び。
シャンデリラの下から真っ赤に流れ出た鮮血と、曲がった白魚の様な手が覗いていた。
それを見届けた影が一つ、舞台から姿を消した。
――いい気味よ。イエローマドンナは二人もいらないわ。
そう、呪詛の言葉を吐きながら。
・奪われたイエローマドンナ
「お前さんたち、劇に興味はあるかい。ああ、いや今回は劇を見てこいって依頼じゃねえんだけどな」
徐に語り出すは境界案内人『朧』である。
手に持ったクリアイエローの玩具のジュエルを玩び、あなた方に問いかける。
「簡単にいうと惨劇を止めて欲しいのさ」
聞けば劇場でシャンデリラが落下し、演技をしていた女性が死亡したという。
シャンデリラの鎖が痛んでいたのか、女性が立ち位置を間違えたか。
――はたまた、誰かによって引き起されたのか。
「真相は不明だが、要は依頼内容はこの女性を救えって内容だ」
どうだい、できるかい?
朧の問いかけにあなた方は力強く頷いた。
- 奪われたイエローマドンナ完了
- NM名白
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年08月02日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
存在感を放つ大型劇場。
それをじっと見つめている、四人の特異座標点がいた。
「劇場でシャンデリラが落下なんて聞くとオペラ座の怪人だったかを思い出すな」
いつぞや読んだ本の内容を思い返しながら、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は顎に手をやった。事実は小説より奇なりというが、今回の場合は『小説並みに奇なり』が相応しいだろうか。
「全く。嫉妬とは恐ろしいものだな」
くいと人差し指で眼鏡を押し上げたのは『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)である。
今回の経緯から、何者かの嫉妬と恨みから起きた犯行とは予想していたがまさかそれを実行してしまうとは。犯人は多大な犠牲を己にも強いる行為だという事をわかっていたのだろうか。
「演劇は人々を楽しませるための娯楽、その主役を務めることに、どれだけの労力を費やして来たのかは私は知らない」
けれどその主役を殺害しようだなんて、到底許されることではないと長い黒髪を風に靡かせているのは『海賊見習い』マヤ ハグロ(p3p008008)である。
たとえ命に代えても、からずかの女優を守ってみせると海賊の誇りに誓った。
「悪い子はいけないねぇ。人を傷つける悪い子はお仕置しなきゃだねぇ♪」
どこか調子が良い機嫌がよいともとれる声を上げ、スローイングナイフをからからと愉し気に回す人形は『シルク・ド・ノネット』オズ・ヨハネス・マリオット(p3p006699)であった。
「物語はめでたしめでたし! ハッピーエンドが1番だとオズは思うよ?」
ぱしりとナイフを手に収めたオズの言葉が開演のブザーとなったのか、この悲劇の結末を変える為、四人の役者たちが今、劇場に飛び込んだ。
●
「あまりこの姿になるのは好かないが」
人目がない物陰に移動したジョージは、周囲を警戒した後見事な体格のオオトウゾクカモメへと姿を変えた。
そして開け放たれていた窓から、劇場内に侵入する。
侵入した後は、また物陰で人の姿に変化し、白いネクタイを締めなおした。
堂々と出ていけば、さっそくスタッフの英字がプリントされたTシャツを着た若者に声を掛けられる。
「あ、あの! こちらは関係者以外立ち入り禁止で……」
「ああ、申し訳ない。視察に来たのだが……連絡が行き届いていなかったようだね」
あくまで穏やかに、丁寧に答えればその風格も相まってスポンサーと勘違いしたのか、若いスタッフは慌てて頭を下げた。
「た、大変失礼いたしました……! 何かあればお声がけください!」
「こちらこそ、すまなかったね。ありがとう」
こうしてジョージは堂々と関係者として混ざりこむことに成功した。
「あ、お疲れ様です。これ差し入れみたいです」
こっそり拝借したスタッフのTシャツに着替えて、洋菓子の入った箱を片手に世界は動き回っている。もちろん、差し入れみたいではなく、事前に自分が用意した菓子である。
「美味しそう! ありがとね!」
召使の衣装に身を包んでいた男性が、菓子を一つとると、私も俺もとわらわらと役者たちが集まってきた。どうやら、みんな人がいいらしい。
「そういえば、なんか噂で聞いちゃったんですけどマリーさん恨まれてるって……」
さも、風の噂で聞いたんですという顔をして本題を切り出せば劇団員達は互いに顔を見合わせた。
「これ、内緒だよ?」
くれぐれもと釘を刺し、召使風の男が声を潜め、話し始めた。
「実はもともと、このマドンナ役はローザさんって女優さんが演じてたんだ」
「ローザさん?」
「うん、その人もすごい努力家で演技の達人でずっとトップスターにいたんだけど……その、マリーさんが入ってきて……」
そしてトップスターの座を奪われ、長年演じてきたマドンナも奪われてしまった。
「……で、恨んでいると」
「あ、あくまで俺達の邪推だからね! ほんとに内緒にね!」
じゃないと殺される! と自分の身を抱きしめ震えだした劇団員たちを横目に世界は舞台を見た。
「怪しい人―? んー……いわれてみれば舞台袖でだれか見たような」
「マリーさんすごいからねー、あの才能にあの美貌でしょ? 羨むってか妬む人はいそうだよねぇ」
「にしても、見事なジャグリングだなあ! 前座で来たのかい?」
「えへへ、ありがとう! そんなところだよー!」
見事なジャグリングを披露し、オズは喝采を浴びながら情報収集に努めていた。
どうやら、彼女を妬んでいる者がいるようだという事までは掴めた。
少なくとも殺そうとしている相手の味方と聞いたら警戒されるだろう。
そうなると非常に厄介である。
「オズが大道芸人としてお話してみようかなぁ?」
もちろん、お話がちゃんとできる子だったらの話ねぇ?
つぅとナイフが冷たく光を反射した。
「おつかれさまです」
「おつかれー」
海賊の衣装に身を包んだマヤは特に疑われることもなく、劇団員に溶け込んでいた。おそらく海賊役の女性だと思われたのだろう。もっとも役ではなく本当に『海賊見習い』なのだが。
「私は先日この劇団に入ってきたばかりの見習い劇団員のマヤ・ハグロと言います。今後共よろしくお願いします。」
礼儀正しく挨拶をすれば先輩劇団員はこちらこそと頭を下げた。
「ところで、ここ最近、いつもは見ない人を見かけませんでしたか?」
「見ない人? んー、知らないな……」
お前知ってる? と劇団員が通りかかった別の劇団員に声を掛けた。
「知らない人じゃないけど……この間舞台でローザさんがシャンデリア眺めてるのは見たよ。練習でもなかったっぽいから声かけたんだけど……なんでもないわってどっかいっちゃって……」
「ローザさん?」
「あ、そっか。新人さんなら知らないよね、薔薇みたいに綺麗な赤い髪をしてるからすぐわかると思うよ!」
マヤは劇団員たちに礼を言うと足早に舞台袖へと向かった。
●
舞台袖からシャンデリアを睨みつける一人の赤い髪の女が一人。
視線の先ではシャンデリアの真下で劇団員とマリーが位置取りの確認をしている。本当はいますぐシャンデリアを落としてしまいたいがまだ駄目だ。
まだ、その時ではないと何とか己をローザは押さえつけていた。
その赤い髪をじっと見つめる橙色の髪の持ち主が一人。
「あっ、いたねぇ。お話は……うーん、どうだろう?」
舞台に忍び込んでいたオズはローザの存在を確認した。
間違いなく彼女が今回の犯人だ。
事前に決めていた合図を同じく舞台に忍び込んでいたマヤに送る。
合図を確認したマヤは頷くとローザの前に姿を現した。
「ついに姿を現したわね? 貴方の思うようにはさせないわ!」
突然現れたマヤにローザは動揺を隠せない。
こいつは誰だ? なぜこの女は私の計画を知っている?
「あ、あんた誰よ!」
上擦った声が帳を揺らす。その声に合わせるように頭を掻きながら世界が舞台の階段を登ってくる。
「トップの座を取られたらしいけどさ、そもそもこういう手を取ってる時点で自分の負けを認めてるようなもんだよなぁ」
さっさとトップを諦めて別の道や目標を見つければいいというのに。
ごく自然な、真っ当な理論に赤い髪の女は唇を噛み、叫ぶ。
「うるさいわね! 私はずっとこのマドンナを。イエローマドンナでいたのよ! なのにあの女ァ……!」
真っ赤なルージュから鮮血が細い顎を伝った。そして懐から震える手でナイフを取り出し三人へと向ける。いざというときの為に持っていたのだろうか。
が、一気に間合いを詰めたマヤのサーベルがナイフを宙へ跳ね上げた。
跳ね上げられたナイフをオズのスローイングナイフが射止め、刃をへし折る。堕とされたナイフの破片が、からんからんと音を立てて散らばった。
追い詰められ、ローザがじりじりと後退していく最中。
ホールに響き渡ったのは轟音。
シャンデリラの鎖が弾け、落ちた音。
目撃した人間の悲鳴、怒声、叫び。
唯一つ違うのは、その叫びの中にマリーの声があったことだ。
たまたま、確認の為スタッフと共に舞台袖へ捌けていた彼女をシャンデリアは圧し潰さなかった。ざわざわとどよめきのみが会場を包み込む。
何故、私はまだ何もしていないのに――。
呆然とするローザの前にコツコツと小気味よい革靴の足音を響かせ現れたのはジョージだ。
関係者として忍び込んだ彼は、例のシャンデリアを確認。
補強が難しいと悟ったジョージが選んだのは、誰もおらず、怪我もしない瞬間を見計らい、事前に落としてしまうことであった。
他の三人がローザの気を引いたことでその時が訪れ、ジョージはわざとその鎖を断ち切った。
計画が失敗に終わりへたり込んだローザをジョージは見下ろす。
「貴様が転げ落ちる未来を阻止するのは、これっきりだ。次は、無い」
たとえ、もう一人のマドンナが消えたとしても、手を汚した者がマドンナを名乗れるはずもない。
きっと彼女がもう一度舞台に返り咲いたとしても、やがて悪事は暴かれる。
そうなれば今度こそ終わりだ。
「欲しい物があるなら、己の実力で手に入れることだな」
そう言い残し踵を返す彼らの前に、もはやローザは言葉を返すことすらできなかった。
彼女の足元には砕けたシャンデリアの破片が転がり、視線の先にはこちらを見つけ心配そうに駆け付ける忌々しい女の姿。
自分が殺されかけていたなんて全く想像していないであろう彼女は手を差し伸べる。
ああ、腹立たしい。
全く持って思い知らされた。なぜ彼女がイエローマドンナに選ばれたのか。
嫉妬に狂い人を殺そうとした赤い女と、誰にでも手を差し伸べることができる黄色い乙女。
――どちらが『イエロー・マドンナ』に相応しいかなんて比べるべくもない。
いつか必ずその座を『実力で』奪い返してやるわと、ローザはその手を取った。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
初めましての方は初めまして、白です。
今回の依頼内容は文字通り悲劇のヒロインとなってしまった少女を救うというものです。
それっぽい非戦とかあればじゃんじゃか使ってください。アイテムもいいですね。
以下詳細。
●目標
マリーを救う。
方法は問いません。とにかく彼女の命を救えればよしです。
●舞台
『ガラス・ミュール』が所有する大劇場です。
ステージの上にはガラスでできた巨大なシャンデリアが飾られ、照明機材なども設置されています。あなた方が降り立つのはちょうど劇が始まる二時間前です。
さいわいまだ観客は入っていない様子で、うまく劇団員に紛れ込んだりできれば
●NPC
マリー
誰からも愛されるガラス・ミュールが誇るトップスターです。
今回はイエローマドンナと呼ばれる役を演じていました。
あなた方が何もしなければ、彼女は二時間後オープニング通り命を落とします。
真面目で舞台を愛している彼女は口先の言葉では舞台を降りようとしないでしょう。
思いの丈を伝え、懸命に訴えかければ耳を貸してくれくれるかもしれません。
???
舞台袖で事の顛末を見ていた謎の人物です。
どうやらマリーに深い恨みを抱いているようですが……?
スキルなどで探し回れば見つかるかもしれませんね。
劇団員達
みんな舞台に懸命な役者たちです。
この後悲劇が起きるなんて夢にも思いませんし、あなた方が単に事の顛末を説明しても悪い冗談だと笑い飛ばすだけでしょう。
聞き込めば何か教えてくれるかもしれません。
●サンプルプレイング
シャンデリアに圧し潰されて死ぬなんて……うわ想像したら吐き気が。
ともあれ、必ず救ってみせるよ。
【変装】【チェンジボイス】でスタッフに扮してステージを確認してみるよ。
こんな感じです。それではいってらっしゃい。
Tweet