シナリオ詳細
<明鏡のホーネスト>風説からなる伝説
オープニング
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ㅤツバメが低く飛ぶと雨が降る。
ㅤ黒猫が横切ると縁起が悪い。
ㅤ嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれる。
ㅤ迷信、風説、言い伝え。
ㅤ人を騙し、陥れる。本来であれば罪とされるべき“嘘”は、時に人々に警鐘を鳴らし、人々の生活を豊かに彩ることがある。
ㅤ──ここにひとつの村がある。
ㅤ村人達は、共通してとあるひとつの悩みを抱えていた。
ㅤ曰く、「子供が村の外で遊ぶのを止めたい」と。
ㅤ理由はひとつ。
ㅤ村の外は危ないからだ。
ㅤもちろん、この世界にはファンタジーな生物は存在しない。勇者がいて、魔法みたいな現象を起こすものは居るが、それはひと握りの存在でしかない。
ㅤゴブリンやスライムなんかの御伽話のような生物は存在しないのだ。
ㅤだが、そうでなくとも、ひとたび村の外にでれば、獣や人攫いがいつ襲ってくるか分からない。
ㅤ村人達は子供達に、自分の目の届くところにいて欲しい。ただそれだけだった。
ㅤだからこそ、“嘘”だ。
ㅤこの村に必要なのは、“嘘”だった。
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「やぁ、久しぶりだね。初めまして、グラスだよ」
ㅤどこにでも居そうな顔、どこにでも居そうな服装。
ㅤ村人、という言葉が酷く似合いそうな彼は、こちらに向かってひらひらと手を振った。
「今回の依頼は……そうだね、村の危機を救う、といったところかな」
ㅤ少しの間思案するように視線を彷徨わせたグラスは、再びこちらに目を向ける。
「なんて、大袈裟に言ったけど、ようは少年達が無闇矢鱈に村の外に出ないように、何かしらの迷信を用意して欲しいということだね」
ㅤただ単に噂を流してもいい。自らが子供の前に現れて脅かしてもいい。その辺りはイレギュラーズの腕次第といったところか。
「ただし、上手くやらないと子供達が怖がって、今度は家の外にすら出なくなるかもしれないからその辺は工夫が必要だ」
ㅤ鬼のような見た目で現れて、腕の1本や2本食べてしまえば、なるほど子供達が外に出ることは無くなるだろう。
ㅤだが、それでは意味が無い。
ㅤ子供達が信じて、なおかつ怖がりすぎないギリギリを狙う。それがこの依頼のポイントだろう。
「後世に残る迷信の流布。なかなかやり甲斐のある依頼なんじゃないかな」
ㅤグラスは、行ってらっしゃい、と手を振った。
- <明鏡のホーネスト>風説からなる伝説完了
- NM名七草大葉
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年07月25日 22時10分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
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ㅤ木漏れ日に溶ける影。暮れなずむ森の中は、まだ日が傾き始めた頃だというのに、すでに薄暗く辺りを彩っていた。
「ねぇ、そろそろ帰った方がいいんじゃないかな……?」
ㅤ少年が一人。名をレイテという。
「あ?ㅤまだ大丈夫だろ」
ㅤそれに返すのは、レイテよりもすこしばかり大柄の少年。名をダイラという。
「だって、さっきの紙芝居みただろ……あれが本当なら、僕達攫われちゃうじゃないか」
「はっ、お前あんな嘘信じてんのか?」
ㅤすこし怯えたようにそう話すレイテへ、強がってか否か、ダイラは小馬鹿にするように答えた。
「だって……」
「うるせぇな。これまでも大丈夫だったんだから大丈夫だろ、ほらいくぞ」
「う、うん……」
ㅤ歩みを進める二人。
ㅤふと、眼前の茂みに、淡く光るものを見つける。
「なんだ……?」
ㅤその淡い光へと手を伸ばしたダイラ。
ㅤそれを、見つけてしまう。
「わたしの……わたしの子はどこォ」
ㅤ薄汚れ、着崩れた村人服。
ㅤそして、異様に長い髪から覗かせる、紅い隻眼。
ㅤ感情の見えないその風貌において、その紅い隻眼だけが、不気味な存在感を放っていた。
ㅤ彼女は、ゆらりゆらりと二人の方へ近づく。
ㅤ膝が震える。逃げ出したい。しかし、動けない。足が動こうとしてくれない。
ㅤ──目が合う。
「見つけたァ」
ㅤそして、その声と共にそれまでの幽鬼のような瞳が、まるで嘘であったかのようにカッと目を見開いた。
ㅤ炎が吹き上がる。煌々と滾るその赤は、暗がりだった森の中を怪しく照らし、そしてその“怪異”は映し出された。
ㅤ悲鳴──
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ㅤ今回の依頼は、子供たちが信じる程の説得力のある迷信を作成すること。
ㅤ村の広場にて紙芝居屋を装った青年、『素人に毛が生えた程度の』三國・誠司(p3p008563)は、今回のチームで決めた迷信、それを紙芝居によって広める事とした。
ㅤ娯楽の少ない平凡な村であるが故に、すぐに広場は村中の子供で満たされる。
ㅤその数、約10名程。
ㅤ傍らには、それに乗じて駄菓子や玩具を売りつけようとしているのか、行商が待機していた。
ㅤ子供たちの視線が、誠司の紙芝居へと集まる。
「これは、ここに来る前の別の村に本当にあった怖い話。人さらいに子供を攫われていった若い母親の亡霊のお話」
ㅤそんな語り出しとともに、誠司による紙芝居は始まった。
「女は自分の子供を探してさまよううちに野垂れ死に、亡霊となったそうな」
ㅤ始まってすぐに行われたホラーテイストな口上により、幾人かの子供がひっ、と首を竦める。
「その女の亡霊は死んでもなお自分の息子を探し続け……夜な夜な一人で歩く子供を見つけては自分の子供だと思って攫って行ってしまう」
ㅤそんな事を語りながらも、誠司は子供一人一人に目を向ける。
「攫って深い森の奥に連れ去っていった先で、子供が自分の息子でないと解ると無残にも殺してしまうそうな」
ㅤ怯えるもの、そうでないもの、強がっている者など、誰をターゲットにすれば噂がより強固なものとなるのかを見定めていく。
「そしてまた、自分の息子を探すために森の外に出て一人ので出歩く子供を探してさまよい続ける」
ㅤそして、紙芝居の方も終盤へとさしかかる。
「だから、夜一人で出歩いてはいけないよ」
ㅤそのように締めくくった誠司は紙芝居を畳む。
ㅤ子供たちは、怖かった、夜に外に出るのはやめよう、などと紙芝居の感想を友達と話し始めた。
「怖かったねぇダイラくん。これがもし本当だったら……」
「はっ、嘘だよ、嘘。あるわけねぇだろあんなの」
ㅤそれは二人の少年の会話。
ㅤその中でも、まるでガキ大将のように振る舞う少年──ダイラを、誠司は見逃さなかった。
ㅤ──目配せ。
ㅤただひとつの視線の交差で、誠司の言わんとすることを理解した行商、『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は、すかさずそのガキ大将グループに目をやり、それとなく自分の方へと誘導する。
「おっと、そこのお坊ちゃん方」
「な、なんだよ。金ならねえぞ」
ㅤダイラが黒子が駄菓子を売りつけに来たと思ったのか、真っ先にお金が無いことを告げる。
「いえいえ、もしや先の紙芝居屋の方が語られた話、あれがただの御伽話だと思ってらっしゃるのでは、と思いましてね」
「いや、そうだろ」
ㅤ黒子の雰囲気が変わる。
「あれは本当ですよ」
ㅤさも当然のことのように語る黒子に、二人は少したじろぐ。
「ですが、ひとつ補足するならば、その怪異を避ける手段もまた存在する、という事ですね」
「……なんだよ」
「教えてさしあげましょう」
ㅤみっつ、指を立てる。
「その手段は大きく三つ。
ㅤひとつ、近くに自身の親が居ること。
ㅤふたつ、教会近くに居ること。
ㅤみっつ、村の中にいること。
以上のいずれかを守る限り、その怪異が姿を見せることは無いでしょう」
ㅤただし、と前置きし、黒子は続ける。
「そのどれにも該当せず、村の外へと出てしまった場合は……」
ㅤそこで言葉を止め、黒子は自身の三白眼を見開きいて、含みのある笑顔を浮かべ、
「おふたりとも、食べられてしまうかも知れませんねぇ」
ㅤおどろおどろしい声で、そう脅すのだった。
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ㅤ逃げる。
ㅤ逃げる。
ㅤ紅い隻眼の怪異から。
ㅤ追いつかれないように、攫われないように、必死に。
ㅤダイラとレイテ、二人は、先の紙芝居を信じきってしまった。もはや、疑う余地もない。
「どうして逃げるのかしらァ!ㅤ……一緒にお家に帰りましょう?」
ㅤなぜなら、目の前に本物がいるのだから。
ㅤ今も尚、自分達をさらおうと追いかけてくるのだから。
「はぁっ、はぁっ!ㅤホントだったんだ!ㅤくそっ!ㅤもっと速く走れよぉ!」
「む、無理だって……はぁ、はぁ」
ㅤ全力疾走。しかし、炎の怪異は、追いつけはせずとも、決して遠ざかることはなく、二人を追いかけ続ける。
「待って、待ってよォ!」
「ひぃっ、い、いやだ!」
ㅤやっとのことで村の近くに辿り着いたときには、もう息も絶え絶えで、自分達が上手く誘導されたことなど気づく筈なかった。
ㅤふと、村の近くに男が居るのを見つける。
「ごきげんよう、私は旅の陰陽師。何かお困り事で?」
ㅤちりーんちりーんと鈴を鳴らし、そう優しく語りかけるのは、狐の面を被った、いかにも魔を払ってくれそうな陰陽師だった。
「で、出たんだ!ㅤ紙芝居の化け物がでたんだよ!」
「もうすぐそこまで来てるんだ!ㅤ助けて!」
ㅤ言葉足らずながらも必死に説明する子供たちの言葉を、相槌をうちながら真面目に聞き、子供たちの頭にぽん、手を乗せる。
「なるほど、それは恐ろしいものを見ましたね」
ㅤそう言いながら、辺りをそれとなく見回す。
「確かにこの辺りは陰の気に満ちています。恐らくそれが良くないものを引き寄せているのでしょう」
ㅤ神妙にそう呟く男。もはや疑う余地もない。
「しかし、この村の中であれば安全だ。教会から強い陽の気を感じます。あれの力が届く範囲──村の中であるならば、この世ならざる者達の悪意が届く事はありません」
ㅤ教会の近くであれば安全、村の中であれば安全。二人の脳裏に先の行商、黒子の言葉が浮かぶ。
「ご覧なさい」
ㅤ男の指さす方には村の出入口があった。出入口は透明な結界のようなものが貼られており、神秘的な力で守られていることを感じさせるのには十分であった。
「安心してください、ここならもう大丈夫ですよ」
ㅤ男は、二人が安心できるように笑顔を見せ、そして去っていった。
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ㅤ噂はまたたく間に広がっていった。
ㅤ大人たちもその噂を否定することなく、どころか自分たちも見たことがある、というものだから、子供たちもすっかり信じきってしまい、何時しか村の外に不用意に出るものは居なくなっていた。
「皆様、此度はお疲れ様でした」
ㅤそう声を上げたのは、子供たちに教えを説いた旅の陰陽師──『Black rain』鵜来巣 冥夜(p3p008218)だった。
ㅤ冥夜は「シャンパン戴きましたー!」の掛け声とともに、自身の手元へとキンキンに冷えたシャンパンを呼び出す。
「少し怖がらせ過ぎてしまったかもしれませんね、ふふ」
ㅤそういってはにかむのは、子供たちを攫おうと、追いかけ回した、件の炎の怪異──『焦心』メアリー=バーン=ブライド(p3p008170)だ。
ㅤ見れば、他にも紙芝居屋の誠司、行商の黒子もその場に居り、四人は今回の働きを労うように、村の片隅にて祝杯を上げていた。
「それにしても鵜来巣様とブライド嬢の演技、なかなか様になっていましたねぇ」
ㅤ黒子が二人を労う。事実、冥夜とメアリーの演技はどちらも素晴らしいものであった。
ㅤ今回の依頼で大事なのは緩急。いかに怖がらせ、いかに安心させるか。その飴と鞭の割合によって、子供たちが怖がるか否か、怖がり過ぎないか否かが決まってくる。
ㅤその塩梅を絶妙なバランスで成し遂げたからこそ、此度の依頼は成功したと言えるだろう。
「いえいえ、それも誠司様と黒子様の入念な下準備のおかげです」
ㅤ冥夜も負けじと二人の働きを褒める。誠司と黒子、二人の根回しが無ければ、噂がここまで大きく広まる事もなかっただろう。
ㅤ親から言われただけでは信じなかったであろう子供たちも、同じ子供、それもガキ大将からの言葉ならば信じざるを得ない。それは一重に誠司と黒子の功績だった。
ㅤまさに、この依頼の成功は四人の協力によってなし得たと言っていいだろう。
「まぁ、何にせよ今回の依頼も無事成功して一安心だ」
「もし私達が紡ぐ迷信が語り継がれる物になるなら、いつかそれがきっかけで私みたいな精霊種が生まれるかもしれませんね」
ㅤ誠司がそのように締めくくると、メアリーがそれに続ける。
ㅤもし、この迷信から精霊種が生まれたならば、なるほど、この物語はまさに嘘から出たまこととなるのだろう。
ㅤこうして、四人の迷信作りは幕を閉じた。
ㅤ依頼達成の後に飲むシャンパンは(誠司は未成年であるためジュースだが)、きっと格別なものであったに違いない。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
ㅤ七草大葉です。好きなキムチは白菜です。
●目標
ㅤ「子供達だけで村の外に出ると鬼が来るよ」といった感じの迷信を作り、その迷信に信ぴょう性をもたせて子供達が無闇に村の外に出ないようにしてください。
●場所
ㅤ子供が数人居る程度の小さな村です。
ㅤ村の外には森があり、時折獣や人攫いが出るようですが、子供達は平気だと高を括っています。ちなみに今回の依頼中には獣や人攫いは出ません。
●子供達
ㅤ大体6〜10歳くらいの男の子、女の子が数人です。あんまり難しい噂を流しても分からないかもしれません。
ㅤ以上です。よろしくお願いします。
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