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シナリオ詳細

貴方への想いを込めて~オーガ討伐~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●むかしむかしのおはなし
 むかしむかし、ふたりの少年と少女がいました。
 お金持ちの裕福なお嬢様と、しがない冒険者の少年。
 本来なら接点などない二人でしたが、少女が悪漢に浚われたのを、少年が助けた事をきっかけにして、二人は親しくなり、やがて恋に落ちました。

 けれど、立場の違う二人は決して結ばれる事はありませんでした。
 二人は少女の父親によって引き裂かれてしまったのです。


●哀の詩
 ローレットの一画。年老いた吟遊詩人が詠ったのは少し悲しい話だった。
 だが、恋愛の物語など、つまるところは成就するかどうかが重点なのだから、叶わない恋は破れるのは当然と言えば当然だ。
 だから、決して珍しい話ではない。
 良くある物語の、一つの結末だ。
 けれど、吟遊詩人の詩は美しく、キミの心の奥に確かに響いていた。まるで、自身の事のように詠う吟遊詩人に、キミたちは興味を持ったのだ。彼のアイスルブルーの瞳の奥に、深い哀が見えた事が、とても気になってしまった。
 それはちょっとした気まぐれだったかもしれない。
 ワインやジュースを飲み、食事を取っていたキミは、そんな気まぐれから吟遊詩人に話しかけた。

 ――素敵な詩ですね

 それは社交辞令だったかも知れないけれど、吟遊詩人は少しはにかんだように笑って見せた。
「この話は実話なのです。私が若い頃の。……あの頃の私は若かった。勝てない喧嘩をするどうでも良い無謀な勇気はあるのに、肝心の愛する人を守る勇気は無かったのです」
 リュートを優しく撫でながら、吟遊詩人が苦く笑う。
 若い頃はきっとハンサムだったのだろう。年を取り皺の寄った顔立ちだが、当時の面影はきっと消えていない。

 ――それから、一度も会わなかったのですか?

「何度も会いにはいきました。けれど、彼女には会わせて貰えませんでした。もう、今から40年前の事です。その後、私は旅に出て、つい一ヶ月前にこの場所に戻ってきたのです」

 長い長い年月。人にとっての40年は、どれほどの重みなのだろうか。
 リュートを撫でるほっそりとした皺だらけの手を見ながら、キミは眼を伏せた。

「気を使わせてしまったね。すまない。けれど、良いんだよ。私なんかと一緒になったところで、幸せになれるはずがないのさ。だから、これで良かったと私は思っているんだ」
 それは吟遊詩人の本音なのか、それとも強がりなのか。
 けれど、優しく笑うその表情を見たら、何も言えなかった。
「私の詩を聞いてくれてありがとう。此処は今日で最後の日なんだ。また旅に出るんだよ。……またどこかで会えると良いね。じゃあ」
 ――さようなら
 そう言う吟遊詩人の後ろ姿は、どこか寂しげだった。

●渡せなかった手紙
「依頼なのです」
 ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が明るく微笑んだ。
「依頼主は、貴族アインシュタイン家の当主である、レティシア・ラ・アイシュタイン様なのです」
 アインシュタイン家と言えば、まだ比較的新しい家の貴族だ。彼女の父親の代で出世し、富を築いたとされている。彼女の父親には黒い噂が絶えなかったが、レティシアへの評判は決して悪くはない。優しく真面目な性格をしており、民への態度も決して傲らない真摯なものだ。
「彼女は若い頃に好きだった人がいたのですが、その方とは身分の差を理由に別れるしかなかったようなのです。……その後、一度も再会する事は叶わなかったそうです」
そういえば、吟遊詩人の話もそんな内容だったな、と思い出しながらキミは頷いた。
「実はレティシア様はお体の調子が悪くて、おそらくあまり長くは生きられないそうなのです。どうしても、死ぬ前に、その好きだった方に謝りたくて手を尽くして探されたそうなのですが、見つからず。気付けば何十年も経っていたとのことでした」
 そっと、白い封筒をユーリカがテーブルに置いた。
 アインシュタイン家の焼き印で封をされた、上質な紙だ。
「この手紙を、その方に届ける事。それが今回の依頼なのです」
 中身は?と無言でユーリカに目配せをすると、ユーリカがゆっくりと首を左右に振る。
「内容はボクにも分かりません。けれど、彼女の想いのすべてがそこに入っているのです。だから、絶対に届けて欲しいのです」 
 依頼内容は人捜し。決して難易度がそこまで高いわけでは無いようだが、周囲を見渡すと自身を含めて8人のメンバーが居た。

 ――何故、この人数を裂く必要が?
 そうユーリカ訊ねると、ユーリカが目を伏せた。

「実は、一応事前に調査したところ、幸運にも、相手の目星がついたのですが……。 その方が旅人らしく、昨晩幻想を出立してしまったのです。なので、その方を追いかけて頂きたいのです。道中はモンスターが出没する場所です。しかも、最近オーガが出るそうなので、貴方たちの力を貸してほしいのです! その方も昔は冒険者だったそうですが、今はかなりの高齢なので戦うのは難しいと思うのです。レティシア様の最後の願いをどうか叶えてあげて下さい」

GMコメント

2つめの依頼です。よろしくお願いします。
前半パートでの吟遊詩人の部分はフレーバーです。
既知情報として知っておいて問題ありませんし、関係ないと通すのも自由です!

以下情報です。

●依頼達成条件
・オーガ討伐
・手紙の配達と男の安全 
(男が死亡した場合失敗になります)

●情報確度
 Aです。つまり想定外の事態(オープニングとこの補足情報に記されていない事)は絶対に起きません。

●オーガ
 一匹ですが、体力があり、フィジカルが突出して高いです。
 ステータスでは反応がかなり高いです。
 反面、動きは全体的に大ぶりのためテクニックは低め。
 メンタルは一番低いです。
 最初の敵としては強敵でPC8人と実力は拮抗していますので、上手く立ち回る必要があります。
 また、撤退はしませんし、巨体のため人間の走る速度ではすぐに追いつかれますので討伐が必須です。
 弱そうな相手から狙います。

よろしくお願いします。

  • 貴方への想いを込めて~オーガ討伐~完了
  • GM名ましゅまろさん
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月17日 23時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ロアン・カーディナー(p3p000070)
賊上がり
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
イミル・ヨトゥン・ギンヌンガ(p3p000096)
霜の国の騎士
リリル・ラーライル(p3p000452)
暴走お嬢様
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢(休息)
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
アレーティア(p3p004118)
真理を求める者

リプレイ

●急を要する道
 開けた平地を駆ける8頭の馬が急ぎ走っている。
 ――早く追わねェと、老い先短けェ女が一人、報われねェんだ。……頼めねェか?
 ロアン・カーディナー(p3p000070)の言葉は、ローレットにたまたま居合わせた貴族の心に響いたらしい。幼さの残る可憐な貴族の少女が、8頭の馬を貸してくれたのだ。
 道は特に険しくはない平坦な道であったのは幸運だ。冒険者だった吟遊詩人は、どんな道を通れば安全なのかはある程度把握していたのかもしれない。だが、オークが出現するという情報は持っていなかったのだろう。
「しかし、何とも間が悪いというかもう少し早ければすぐにでも渡せたものを。まぁ、過ぎたことを言ってもしょうがないがな。しかし、40年……か。その時間を無駄にしないためにもこの手紙は届けねばならんな」
 『海抜ゼロメートル地帯』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)が精悍な顔を引き締め、手綱を握りしめる。
 『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)、『暴走お嬢様』リリル・ラーライル(p3p000452)、『真理を求める者』アレーティア(p3p004118) が後方で頷く。手紙をなんとしてでも届けてあげたい。その一心だった。
「先ずはゴブリンから始めよって行きたかったけど、初依頼でオーガかーボクが依頼を振る側だったころはニュービーには振らなかったなー」
 自身で依頼を振っていた『Gifts Ungiven』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)は、今回の最初にしては厄介な依頼に眉根を寄せた。
 けれど、受けたからには確実に任務は遂行する。
「何十年を跨いだ手紙、届けられなかったじゃ終わらせられないよー」
 彼女もまた、想いは一緒だった。


●オーガとの戦い
 道の先に、人の気配があった。
 見上げるほどの長身を活かし、鋭い目で保護対象、そしてオーガを見つけた『霜の国の騎士』イミル・ヨトゥン・ギンヌンガ(p3p000096)が高らかに声をあげた。
「見つけたよ!彼だ!」
 イミルの横に並ぶよう走っていた、『魔剣少女』琴葉・結(p3p001166)が手綱を撓らせる。追跡前に調査した情報で、彼の顔は覚えていた。
 初めての依頼で緊張しながらも、彼女はやるべき事をしっかりと行っていた。
 ――ガアアアアッ!
 オーガの咆哮が空気を震わせる。巨体を撓らせながら、吟遊詩人へと向うその姿。その凶行が吟遊詩人を襲う前に、イミルが吟遊詩人を庇うように馬から下り、間に身体を入れた。
 一族の中では小柄とはいえ、それでも普通の人間よりは遥かに屈強な肉体。巨大な盾を構え、その一撃を受け止めるその姿は騎士にふさわしい。
 しかし、相手は腐ってもオーガだ。ギリギリとイミルを押し返そうと、巨体を捻りながら棍棒を振り上げる。
 だが、何も壁をこなせる者はイミルだけではない。僅かに大きさでこそイミルには及ばないが、2メートルほどの巨体を持つ、頼れる男が居るのだから。
 オーガの視界を阻むように、男―エイヴァンが立つ。
「エイヴァン!ガードはアンタに任せたぜ!」
「任せておけ」
 馬から続いてロアン、エリザベス、リリル、結、クロジンデ、アレーティアが続々と降り、合流する。
「君、たちは?」
 吟遊詩人が驚いた様子で小さく声をあげる。戸惑いと、そしてどこか安心するような表情を浮かべている。
「説明は後でいたしますわ!」
 リリルが可憐な声を張り上げる。イミルの影に隠れるように素早く馬から下りた彼女は、出来る限り吟遊詩人への攻撃を阻むため、前衛として向き合った。
「我々からあまり離れるのではないぞ」
 リリルたちよりは後方、中衛の位置に立ったアレーティア。
 クロジンデは、後衛の位置、40m離れた位置まであえて下がる。狙いをじっくりとオーガへと定める。
 儚い外見をしているクロジンデは、普段ならばオーガのターゲットとして申し分がないだろう。
 だが、あからさまに武装されていない吟遊詩人がいる以上、オーガの狙いはやはり吟遊詩人だった。自身を抑えるイミルとエイヴァンを煩わしそうに、棍棒を振るい、蹴散らそうと足掻く。
 しかし、前衛は何も二人ではない。結が、背水の構えを使用した後、オーガへと切りつけた。
『イヒヒヒ、さぁ初仕事だぜ!せいぜい味方の足を引っ張らないように気を付けるんだな!』
 相棒である魔剣ズィーガーが、発破をかけると、結が少し怒った様子で言葉を紡ぐ。
「分かってるわ!一気に攻めるわ!」
 ざしゅり、とオーガの腕に大きな裂傷が出来る。
 ぷしゅり、と血が辺りに飛び散る。しかし、それくらいの傷ではまだオーガは怯まない。
 遠方から、クロジンデのマギシュートが味方の合間をすり抜け、貫くのと同時、エリザベスのマジックロープがオーガの身体を拘束する。
「この縛り心地、癖になってもノークレームノーリターンでお願い致します」
「ナイス!」
 オーガの背後へと回ったロアンが、肉薄戦で攻撃をしかける。動きが鈍くなったオーガに、エイヴァンも呼応する様に肉薄戦で攻撃した。


●戦いは終わる
 APは充分残っていた。8人の連携は、素晴らしい物だった。
 手紙を届けたい、その想いがまだ出会って間もない筈の8人の連携を完璧にしていたのだ。勿論、8人の優れた腕もあるだろう。だが、一つの想いに向って戦うというのは思いも寄らない力を生むらしい。

 ――ガアアアアッ!!!

 醜い叫びが、平原に響き渡る。煩わしそうに、オーガが無茶苦茶に棍棒を振り上げるのを見た吟遊詩人が、僅かに後ずさる。
「下手に下がらないで!守れないわ」
 敵から離れていれば安全、というのは限らない。特にこんな巨体の持ち主であれば、走る速度も速いのだ。動き自体は小回りは効かないが、一歩一歩は大きい。
「わらわ特性のポーションじゃ。とくと味わうがいい!」
 パリンと割れたその液体がオーガに触れると、オーガが苦痛の声をあげる。

 ――グウウ……!

 じろり、とオーガが吟遊詩人を睨み付けた。
 まるで獲物を狙う野獣の様な眼で。
 オーガは決して頭は良くない。だが、自身が劣勢であるという事は理解できているのだろう。
 弱いターゲットを狙う。それが、オーガの中で取れる作戦だった。
 大きな身体を吟遊詩人へと向けると、足の筋肉に力を入れ、大ぶりな速度で突進する。
「させない……!」
 イミルが阻むように、シールドバッシュを使用するが、オーガは渾身の力でそれを振り払う。
「っ……!」
 体勢を崩すイミルだったが、オーガの狙いはイミルではない。そのまま、吟遊詩人へと形振り構わず突き進む。
「行かせませんわ!」
 エリザベスのマジックロープが、オークの足に絡みつく。
(絶対に行かせません……っ)
 オーガの力は強く、エリザベスのマジックロープをギリギリと破壊するべく力を込めている。
 だが、オーガの動きは間違いなく止まった。
 この機を逃すような者は、8人はいない。
 全力で、このオーガを仕留めるのだ。そして、レィティシアの手紙を、吟遊詩人へと渡して、依頼を成功させる。それだけだ。
「鬼さん此方、手の鳴る方へ・・・・・・っての。ほれほれ、こっちじゃ」
 アレーティアが意識を逸らすべく、からかうように口にすると、怒りでオーガが吠える。

 ――ガアアアアア!

「馬鹿の一つ覚えみてぇに吠えてんじゃねぇよ!」
「悪いが、これで終わらせて貰う」
 ロアンとエイヴァンの格闘がオーガの腹に直撃すると、オーガが僅かにふらりとよろめいた。
 地道な攻撃は、オーガの体力を確かに削っていたのだ。
 クロジンデのマギシュートが再び、オーガの背へと決まると、焼けた匂いが辺りへと香る。
 遠方からじっくりと狙うことの出来たこの一撃で、オーガが膝を地に着ける。
「もうちょっとじゃぞ!」
 俊敏な動きでオーガの背後にアレーティアが触る。逆再生によって、生命の再生能力を逆流させ、身体にダメージを与えていく。

 ――オオオオオオーッ!

 最後のあがきと言わんばかりに、オーガが咆哮を上げる。
 しかし、その咆哮も刹那の灯火だ。
 オーガの腹部に、結の剣が突き刺さる。柄から一度手を離し、華麗な蹴りで剣を更に奥までたたき込むと、オーガの身体がゆっくりと地面へと倒れ込む。

 巨体が大きな音をたて、地面へと伏した。
 まだかろうじて息はあるようだ。荒い息と血を吐きながら、小さな声で呻く。
「人を襲う以上、情けはかけないけれど、せめて……」
 せめてもの慈悲からイミルがレイピアで、最後の止めを刺し、オーガは動かなくなった。

 8人での力を合わせた勝利だった。

●戦い終わって
「終わったのね」
 ほっとした様子で結が息をつく。戦果は上々。吟遊詩人も無傷だった。
 仲間たちも、重傷となるような傷はない様に見受けられた。さすがに、盾役や前衛役のメンバーには疲労の色はあったが。
「イヒヒヒ!割と良くやれたんじぇねぇの?」
 魔剣ズィーガーも結を褒めるように上機嫌で言った。
「イミル、エイヴァンは大丈夫かい?」
「ああ、問題ない。イミルは先ほど吹き飛ばされたのは平気か?」
「大丈夫……だよ」
 渾身の力で振り切られたので、後々痣くらいにはなりそうだったが、人よりも頑丈な肉体を持っている彼女にとっては、おそらくそれほどの問題ではないのだろう。
「そうじゃ、これは飲むと疲労がポンと取れる薬じゃ。タダなんじゃが飲んでみんか?」
 疲労している面々に、『即席調合』で作った薬を勧めるアレーティアに、仲間がゆるりと首を左右に振る。怪しい瓶に入った錠剤は、皆飲むのは不安らしい。
「では、そちらの吟遊詩人殿に……!」
「おいおい、やめてやれ」
 エイヴァンが慌てて止めに入った。
「まー。効果はあるだろうけどー。見た目が不安だねー」
「失礼じゃぞ!」
 クロジンデの言葉に頬を少し膨らませるアレーティア。
「あら、怪我を負われた方がいらっしゃいましたら、命を落とされる前に回復を。エリザベス特製スペッシャルドリンク(『SPD』)でございますわ。飲めば必ず「う~、不味い。もう一杯!」と言いたくなること請け合いの一品でございます。さ、ぐぐいっと。イッキ♪ イッキ♪」
「いや、遠慮しておくよ……」
 エリザベスの言葉にイミルが言った。
「君たちには礼を言うよ。本当にありがとう」
 吟遊詩人が躊躇いがちに、声をかける。
「いえいえー。でも、まだ依頼は終わってないんだよねー」
「……? 依頼?」
 クロジンデの言葉に、吟遊詩人が首を傾げる。
 リリルが、預かっていた手紙を吟遊詩人へと渡すと、彼は少し躊躇った様子で受け取った。
 その手紙の焼き印に、かつて愛した女性の一族の印があるのを見ると、表情を曇らせた。
「こ、れは……」
「アンタの、昔の恋人からの手紙さ」
 ロアンの言葉に吟遊詩人はゆるりと首を左右に振る。
「恋人、だったのでしょう?私たちはそう聞いてるわ」
『愛してたんだろぅ?』
 魔剣ズィーガーが、結の言葉に続ける。
「とりあえず、読んでやってくれ。アンタへの手紙なんだからよ」
 持って帰る気はない。そう、エイヴァンが暗に言う。
 吟遊詩人は少し躊躇いがちに、封を切ると、手紙を広げた。
 3枚に渡る長い手紙を、吟遊詩人はゆっくりと読み、視線をあげた。その瞳は薄らと涙が浮かんでいる。
「何が書いてあったのかは存じませんが、おじさまはこのまま叶わぬ悲恋を詠いながら、また自分の想いから目を背け続けるのですか?そうだ、今ならサービスでお手紙の返信の配達も承りますわよ?それとも……ご自分でお届けになりますか? 」
 優しいリリルの言葉に、吟遊詩人が泣きそうに笑った。浮かんだ涙がこぼれ落ちそうなほどに。
 エリザベスは、そんなやりとりを優しい眼差しで見つめる。二人の行く末を見届けたい。
「命というのは、限りあるからこそ激しく燃え盛り、光り輝くものだと言います。わたくしもお力添えいたします」
 (彼女の言う通りかもしれない。過去の想いだとそう言い聞かせて、自身の気持ちを騙していただけだ。本当は彼女に会いたい)
「ありがとう。君たちの言う通りだ。私は逃げていただけ。情けないな、こんなじいさんになってまで、うだうだ悩んで。……決めたよ、自分で気持ちは伝えに行く」
 その言葉に、女性陣が嬉しそうに笑った。男性陣もほっとした様子で肩の力を抜いた。
「イヒヒ!俺らの大勝利ってなぁ!帰るぜっ」
 魔剣ズィーガーが高らかに笑うと、それに呼応する様に、皆、自身の馬に跨がった。

 ――依頼は成功したのだ。

●それから
 それからしばらくして、レティシアが逝ったと風の噂が街に広まった。
 葬式は盛大に行われ、大勢の人が弔問に訪れたと言う。
「逝ったか」
 アレーティアが、酒場でグラスに入った酒を煽る。
「でも、間に合った……」
 巨体を少し狭そうに屈めながら、イミルも酒の入ったグラスを見つめ言う。
 8人は、再びこの場所に集まっていた。
 待ち合わせた訳ではない。けれど、気付いたら皆で集まっていたのだ。

 依頼人の死。
 直接会ったことはなくとも、深く関わった相手だ。寂しい、と言う感情はやはりある。
 ――けれど。

 酒場の中心。一人の年老いた吟遊詩人が詠っていた。
 叶わなかった恋の歌を。

 でも、彼が紡ぐ新しい物語は前回までとは違う。
 二人は再び巡り会えたのだ。

 あの哀しい話の続きを、吟遊詩人は紡いでいた。

 彼は旅はもうしないのだという。
 残りの人生を、この幻想で過ごす事を決めたのだ。
 愛する女が眠るこの大地に根を下ろすと。

「ありがとう」
 8人だけが知っている、吟遊詩人の嬉しそうな笑顔。
 だから、これはきっとハッピーエンドだ。

「依頼を受ける側も悪くないのかも」
 クロジンデの言葉に、仲間たちは笑った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
ありがとうございました!
また参加出来ると思って頂ける様これからも頑張ります。
よろしくお願いします。

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