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シナリオ詳細

<月蝕アグノシア>遠い夜明け

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 イレギュラーズは妖精郷への正規ルート『大迷宮ヘイムダリオン』を踏破、妖精郷アルヴィオンへと到達したのだが――。
 妖精郷アルヴィオンは未曾有の危機に陥っていた。
 魔種と配下の魔物たちがアルヴィオンを欲しいままにし、妖精の村や城を占拠していたのだ。
 イレギュラーズの活躍により機能が回復したゲートを使って、大勢の妖精が深緑に逃れてきていた。そのうちの一人、妖精の女王の侍女であるフロックスからもたらされた情報は、更に重篤な事態を告げる物であった。
 一つ。女王が捉えられ、妖精の町『エウィン』にある『月夜の塔』へ幽閉されてしまったこと。
 一つ。妖精達の『命』を使い、人間そっくりの形をした『白い怪物(アルベド)』が現れたこと。
 世界存続の可能性『パンドラ』を収集するローレットのイレギュラーズは、これ以上魔種の思うがままにさせる訳にはいかない。
 魔種によって蓄積される『滅びのアーク』増大を阻止するのだ。
 妖精郷アルヴィオンに急行し、妖精女王が捕えられている『エウィンの町』に出撃せよ!


 ――しひひひひ。
 だだっ広い人間サイズの部屋に、下卑た笑い声が響く。
 部屋には高い背に白いシーツを被せた椅子が一脚、真ん中にポツンと置かれているが、他に家具はおろか、絨毯すら敷かれていない。
 そのうち、主が引っ越してくるはずだが、それはこの『エウィンの町』が完全に制圧された後のことだろう。
 いまこの部屋にいるのは一人と一匹。いや、その数え方はおかしい。どちらも人ならざる者だから、いまこの部屋にいるのは二体と言ったほうが正確だ。
 ――しひひひひ。
「おもしろいね、君は。こんなにがらんとした部屋でよく笑える」 
 白いわんこの姿をしたゴーレムの頭を撫でながら、アルベドもまた柔らかく笑う。
 アルベドには『深夜の虹』という、作り主につけられた名があった。なんでも体の元となったイレギュラーズの本当の名前から考えたそうだ。
 もっとも、『深夜の虹』にとってはどうでもいいエピソードだった。だって、誰も名前で呼んでくれないし……。
 ハーモニアのような長い耳に、真っ白な指で銀の髪をかける。
「それで、僕は何をすればいいのかな?」
 ――わふ~ぅ
 白いわんこは『深夜の虹』の手の下から抜け出すと、チャカチャカと床で爪を鳴らして窓辺に寄った。ちなみに人間のように後ろ足で立って歩いて行った。前足の爪で、窓の外を指し示す。
 妖精たちが手に武器のようなものを持ってやってくる。
 それを見た『深夜の虹』は、胸に痛みを感じた。
「友だちは死んだ。友だちは死んだ。友だちは死んだんだ。だからこの手でまた殺さなくてはいけない。なぜならあの時、友だちは死んだのだから。そうだね?」
 白いわんこは犬歯をむいてしひひと笑った。


「止めたんだがな、いっちまった。あいつら、たった二人でゴーレムを倒してアルベドになった友だちを助けるつもりだ」
 ローレットの情報屋、『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)もまた、妖精郷アルヴィオンにやってきていた。
 この男、ファンシーな風景が恐ろしいほど似合っていない。それ以上に驚くのは、妖精に友だちがいたということだ。
「きっかけだ? ンなことは今どうでもいいだろ。いますぐウィリとヴェイの二人を追いかけて捕まえてくれ。場合によってはゴーレムとアルベドを相手に戦うことになるから、そのつもりで頼む」
 ウィリとヴェイが向かったのは『エウィンの町』の外れに立つ、真四角の白い建物だ。屋根に電波塔のようなものがたくさん建てられているので、行けばすぐにわかるという。
 ちなみに、魔種に利用されてアルベドの核にされたウィリとヴェイの友だちの名は、ウォルだ。
「魔物に襲われたとき、ウォルを置いて逃げたことをウィリとヴェイはひどく悔やんでいた。それが――」
 イレギュラーズも関与したある事件で、アルベドを動かす核『フェアリーシード』に妖精が使われていることがわかった。それだけではない、上手くやれば『フェアリーシード』から妖精を助けられることも分かったのだ。
 これを知ったウィリとヴェイは、新しく友だちになったクルールに手伝ってもらいながらウォルを探した。正確にはウォルをさらった魔物、白い犬のゴーレムを探しだしたのだ。
 二人は白い犬のゴーレムと一緒にいるハーモニアのアルベドの中に、ウォルはいるに違いないと踏んだ。
 こんどは逃げない。必ず助ける。だって友だちだから。
 そういって、イレギュラーズたちが集まるまでまて、というクルールの制止も聞かずに飛び出して行ったのが先ほどのことだ。
 そういうことであれば急ごう。
 イレギュラーズはドアに向かった。
「待てよ。まだ言っておかなきゃならんことがある」
 ドアの前で足を止めて振り返る。
 ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)が「なんですか」、と聞いた。
「……ゴーレムと一緒にいるアルベドだがな、ウィリアム、お前にそっくりなんだよ」

GMコメント

●成功条件
・『白いわんこ』ゴーレムの撃退、または撃破。
・5体の『ニグレド』と『深夜の虹』アルベドの撃破。
・ウィリとヴェイの保護
 ※『深夜の虹』の中にいる(かもしれない)ウォルの生死はといません。

●場所
『エウィンの町』の外れに立つ、真四角の白い建物。
 屋根に電波塔のようなものがたくさん建てられている。
 部屋が一つ。二階も地下もない。壁も柱もない。
 部屋の真ん中に、何故か椅子が置かれている。
 そのほか障害物なし。
 夜。窓から月明りが部屋の中ごろまで差し込んでいる。
 他に明かりはない。

●敵1……白いわんこのゴーレム1体
 錬金術で作られた、喋る二足歩行の石犬。
 耳は長くたれ、尻尾は短いです。
 腹がぽこんと出ていて、なんだかぬいぐるみみたい。
 【吠える】……神・範/崩れ。吠えます。
 【嗤う】……神・範/乱れ。しひひひ。
 【ぐーぱんち】……物・近単/猫パンチよりは痛いかも。
 【これが定められし旅路(ディスティニー)】……高確率で逃走。

●敵2……『ニグレド』5体
 試作『アルベド』? 黒いどろどろの人型のモンスターです。
 とくに攻撃らしい攻撃をしてきません。
 せいぜいが殴る、蹴る、抱きついて自由を奪う、程度です。

●敵3……『深夜の虹』アルベド
 イレギュラーズの血や皮膚などをもとに素体を作り、『フェアリーシード』を埋め込んでできた錬金術モンスターです。
 アルベドには、仮初の命の核となる部分(人間で云えば心臓)が、身体のどこかに存在しています。
 この核を『フェアリーシード』と呼びます。
 フェアリーシードを破壊すれば、アルベドは完全に機能停止します。
 フェアリーシードの原料は妖精です……。
 フェアリーシードを破壊した場合、材料になった妖精は死亡します。
 もとになったイレギュラーズそっくりの戦い方をします。
 だだし、錬金術モンスターですのでガチ固い……つまり強敵です!

●ウィリとヴェイ
 妖精の男の子。
 友だちを見捨てて逃げたとこを心底後悔している。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●マスターより
 よろしければご参加ください。
 お待ちしております。

  • <月蝕アグノシア>遠い夜明け完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月17日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ホリ・マッセ(p3p005174)
小さい体に大きな勇気を
すずな(p3p005307)
信ず刄
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
浅蔵 竜真(p3p008541)
晋 飛(p3p008588)
倫理コード違反

リプレイ


 『銀なる者』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)は建物の雰囲気をざっくりと掴むと、細部に注目した。
「ノブが見当たらないけど、あれがドアかな?」
 リウィルディアが示す先を見て、ドアも白いのですね、と『金星獲り』すずな(p3p005307)が言う。
 シンブルでモダンなデザインかといえば、そうでもない。屋根に突き立つ複数の電波塔が外観を著しく損ねている。建物自体が風景から浮き上がっていた。
「ずいぶんと自己顕示欲の強い方がお作りになられたようで。ところで、ウィリさんとヴェイさんは?」
「いない」
 すでに建物の中に入っているのか、自分たちと同じようにどこかで様子見しているのか……。
「建物の横に縦長の窓が四つある。ここからじゃ、奥の方はただの線にしかみえないけど。そっちにも二人の姿はない。竜真、何か聞こえるか?」
 『出来損ないの英傑』浅蔵 竜真(p3p008541)は、まだ昼の余韻を残す熱い空気に耳を澄ませた。
「静かなもんだ。裏に回ったんじゃないか?」
 それだ、と『小さい体に大きな勇気を』ホリ・マッセ(p3p005174)が指を鳴らす。
「自分もウィリとヴェイは裏口にいる気がするぜ。やつらに見つかる前に二人を捕まえねぇと」
「そうね。急いで二人を保護しましょう!」
 『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)の腕を、『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)が引いて止めた。
「まてまて。裏に回るったって、窓の前を横切ったら中にいる連中にすぐ見つかっちまうよ」
「それもそうね、でも……」
「見つかったら見つかっちまった時のことだ」
 『鋼鉄の冒険者』晋 飛(p3p008588)が首のタトゥをかきながらいう。
「身を低くして行けば大丈夫だろ」
 さっさと歩きだす晋にすずなが声をかける。
「お待ちください。万に一があってはいけません」
 窓は上から下まで、高さもさることながら幅もかなりありそうだ。見つからないようにするためには、腰を屈めるどころか匍匐前進する必要がある。八人がぞろぞろと這っていくうちに見つかってしまうだろう。
 すずなは控えめな身振りでそう説くと、助け求めるように『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)へ目を向けた。
「あの窓の高さじゃ、這ってもまず見つかるだろうね。なにかいい方法はないかな?」
 アルテミアが肘でホリをつつく。
「ほら、出番よ。得意でしょ?」
「……! 自分、裏まで穴が掘るよ。それなら見つからない」
 それはいいアイデアだ。全員が賛成する。さっそく建物の裏まで穴を掘って進むことになった。


 ホリが地面に顔を出したとたん、妖精たちは小枝の剣を投げ捨てて逃げた。
「あ、まって! 自分たちは味方だ」
  一悟に腰を持ち上げられて地上に出たアルテミアが、振り返った二人を手招きする。
「ウィリとヴェイね。安心して、私たちは情報屋のクルールに頼まれてあなたたちを助けにきたイレギュラーズよ」
「二人だけで魔物に立ち向かおうなんて、むちゃやるな。だけど勇気を奮って友達を助けに戻るその気持ちと行動は認めてやるよ」
 三人のあとに穴から出たすずなが二人の説得にかかる。
「お二人は安全なところで待っていてもらえませんか。お友だちのウォルさんは私たちが必ず助けますから」
「いやだ。もう二度と友だちを見捨てないって星に誓ったんだ」
「僕たちも一緒に戦うよ」
 アルテミアにはうんうん、と頷いた。彼らの気持ちは痛いほど分かる。
 自分が彼らの立場なら、友だちを助けて謝るチャンスを逃がしたくない。
「しょうがないわね。無暗に前に出ない事と、危なくなったら逃げる事。この二つを守れるっていうなら共闘を認めるわ」
「「ヤダ!!」」
 妖精たちは駄々をこねた。
「ウィリさん、ヴェイさん、よく聞いてください」
 すずなが、敵は一体ではなく複数いること、そのうちの一体の体の中に友だちのウォルが閉じ込められている可能性があること、二人を庇いながらウォルを傷つけないように戦うのはとても困難であることを優しく言い聞かせる。
「僕たちがウォルを助けるんだ!」
 頑として首を縦に振らない二人の額を、一悟が順に指で弾く。
「ダメだ。魔物の攻撃はこんなもんじゃない。もっと痛いぜ。友だちとはあとで話させてやるから、オレたちの後ろにいろ」
 妖精たちが涙目で頷いたところで、晋が二足戦闘ロボットを呼び出した。
 身の丈三メートルを超える鋼鉄のロボットを見て、ウィリとヴェイが濡れた目を丸くする。
「すげー」
「かっこいい!」
 こういったものは種族を問わず、男の子の心を掴むらしい。
「こいつに乗ってみたくねぇか?」
 晋はコクピットを開き、こくこくと頷いた二人に早く乗れと手振りした。
 ロボットに乗せて二人を保護する間、リウィルディアが周囲を警戒する。
「敵影なし。誰もいないし、来ない」
「それはいいが……」
 竜真が穴の大きさとロボットの大きさを見比べて、「どうする? そいつはこの穴には入らないぞ」、と言った。
 裏手にドアはない。窓もない。
 なら、とウィリアムが悪い顔で笑う。
「この壁を壊して入ろう」
 そりゃいいや、と晋が腕まくりをする。
「やりすぎるな。壊すのは壁だけだぞ」
 ぐぉぉ、とロボットが両腕をあげた。白壁に鉄の拳を打ちつける。
 轟音とともに建物全体が激しく振動した。破壊された鉄筋が金切り声を上げ、壁土が爆発しながら室内に吹き込む。
 もうもうとあがる土埃の向こうに、唖然とする犬と人の姿がぼんやりと見えた。
 竜真は壊れた壁をまたぎ越すと、シャツの袖で口と鼻を押さえながら室内に入った。
「お前がウィリアムのアルベドか。なるほど……悪辣さを感じるな」
「そういう君たちは、誰?」
 リウィルディアが答える。
「イレギュラーズよ。ウィリとヴェイと一緒に、ウォルを迎えにきたの」
 白いわんこが鳴き声をあげた。落下する土埃を持ち上げるように、黒い人影が五つ立ちあがる。
 一悟がせせら笑って啖呵を切る。
「おい、そこの出来損ないども。さっさと壊してやるからかかってこいよ」
 黒い人影――ニグレドが一斉に襲い掛かってきた。
「来たわね。返り討ちにしてやるわ」
 アルテミアは腰の後ろに隠した刀を抜くや、鋭く薙いだ。弧を描く青き炎が、室内に斜めに差し込む月光を切って飛び、ニグレドの体を裂いた。
 竜真が前に倒れ込みながらも殴りかかってきたニグレドを、ブースターシールドで叩き伏せる。
「邪魔だ」
 すずなは長刀を手に最前列へ走り出た。
「お相手いたします」
 腹の裂けたニグレドに太刀の風を当てて首を飛ばす。
「やるね」、とアルベド。
 直後、純白の光が室内をくっきりと照らしだす。
 稲妻の影がアルベドの背負う魔法陣から走り出て、壁や天井、床にあたって折れながらイレギュラーズに伸びてくる。
「――なっ」
 稲妻に触れたイレギュラーズの体がビリビリと震え、踊った。
 二体のニグレドが、すすなとアルテミアに抱きつこうとして腕を広げる。
「おっと、セクハラは禁止だぜ」
 一悟が炎を纏わせたトンファーで、アルテミアを襲うニグレドの胸をぶち抜く。
 晋も眼を吊り上げて握った拳をニグレドの脇腹に当てた。
 グズッとした、柔らかな手ごたえがあった。肝臓が潰れたような不快な感触に、思わず顔を歪める。
「見た目も叩き心地も気持ちわりぃヤツだな」
「ぎゃあ! ほんとうに気持ち悪いよ、誰かコイツを引きはがして!」
 リウィルディアが悲鳴をあげた。見るとニグレドにぴったりと抱き着かれ、黒い手で全身をまさぐられている。
 白いわんこが、リウィルディアが胸に抱きかかえる分厚い本を指さしながら哄笑した。
 ホリが鋭い爪を伸ばしてセクハラ三昧のニグレドをずたずたに切り裂く。
「テメェはお呼びでねぇ! さっさと消えろ、このエロ野郎!」
 戒めを解かれたリウィルディアは『くっころ』状態でへなへなとその場に崩れ落ちた。
「おっと、やられっぱなしの僕たちじゃないよ」
 魔法陣を展開するアルベドに先んじて、ウィリアムが魔剣の先から稲妻を撃ち放つ。
 双方が放った雷撃が、建物全体をぶるぶると震わせた。
 アルベドが膝を崩した。部屋の中央に置かれた椅子の背に寄りかかる。
 ウィリアムはそれを見て、冷たい目で微笑んだ。
「僕の偽物か……目の前で自分が動いているって不思議な気分だね。でも、まあそこはいいんだ。話に聞いていたから覚悟はしていたよ」
 つっと白いわんこへ視線を移す。
「やあ、わんこ。会いたかったよ」
「しひひひ!」
 覚えられていたことに喜んで、白いわんこが笑う。
 ウィリアムは魔物たちを中心に据えて、大きく半円を描いて距離をとりながら後ろへ回り込んだ。
 ドアを隠す位置に立ち止まると、指で自分の耳の上を示した。
「君が豪快に髪の毛をむしり取っていったせいで、元通りになるまでの時間はまさに地獄だったさ。具体的には母は笑い転げるし、父と双子の妹は何か気を遣ってくるし、末妹は泣くし……ふふふ」
「ひひひ!」
「だからね、もう一度会えたら絶対に……破壊してやると心に決めていたのさ!」


 ウィリアムは円形ハゲにされた怨みを込めた一突きを、ゴーレムめがけて繰り出した。暴圧された空気が弾丸となって石の眉間を穿つ。
「わふぅ!?」
 白いわんこは後頭部から床に倒れた。そのまま体を丸めてイレギュラーズたちの方へ転がっていく。
 リウィルディアが足で白い転がりを踏んで止めた。
「さっき僕を笑ったよね? この本を指さしながら同じをだって……でも、これはただのエッチな本じゃないんだよ、ほら」
 リウィルディアはパラリとページをめくった。分厚い本から聖なる光を迸らせる。
 それを合図にイレギュラーズが一斉に拡散、わんこ包囲網を作り上げた。
「おっと、どこへ行くつもりだ?」
 竜真はアルベドの元へ駆け戻る白いわんこに追いつくと、長い耳を掴んで引き倒した。真上から盾を振り下して、ぐぅ、と息を吐きださせる。
「いてっ」
 ぐーぱんちで脛を打ち据えられて飛びあがった。へにょへにょした腕の振りだったにもかかわらず、思いのほか痛い。
 白いわんこが、ひひひ、と牙に引っかかったような笑いを漏らして立ちあがる。
 アルテミアが白いわんこの前に立ちはだかった。
「こいつのへんな笑い声のせいだよ、きっと!」
 ゴーレムはくるりと身を翻した。明後日の方向に走り出す。
 赤い緒の草履が横手から入ってきて、わんこの逃亡ラインを踏んだ。
「なんだか親近感を覚える気がしますが、それはそれ、これはこれ」
 すずなは逃げる背に長太刀を振りおろした。縦一閃、切っ先が石肌を彫り刻む。
 仰け反りながらよろめいたところへ、今度はホリが足払いをかける。
「ちょこまかちょこまか……逃げるな、この野郎っ」
「わおぉぉん!!」
 白いわんこは遠吠え一発、気合でホリの足を飛んでかわした。勢いのまま壁を駆けあがってムーンサルトで逆襲する。
「え、私!?」
 ぐーぱんちがあわやアルテミアの鼻を折ろうという瞬間、一悟がオーラキャノンを放ってわんこをふっ飛ばす。
 晋は赤々と燃える刃を拳の先に作り上げた。
「クソ犬! これで終わりだと思ったら大間違い――」
 晋の拳が届く前に、アルベドが大いなる癒しの魔法陣を展開して白いわんこを癒した。
 超回復した白いわんこが、流れるようなサイドステップを踏んで振り下された拳の下をかいくぐり、包囲網を突破する。
「くそがっ!」
 イレギュラーズの目という目がわんこに集中した。
 隙をついたアルベドが、たった一つのドアに向かって駆けだす。
「そこをどけ、色つき!」
 ウィリアムはアルベドの熱光線を体の前で受けた。
「君、ちょっと座っててくれ」
 強く両肩をついて押し戻す。
 アルベドは椅子に当たってすとんと腰を落とした。
 こほり、と血を吐いて、ウィリアムが胸を押さえる。
「……偽物とはいえ、さすが僕。これは……かなり痛い、ね」
「いま、手当てをする!」
 リウィルディアが癒しの波動をウィリアムに送る。
 その間、他の仲間たちが白いわんこを取り囲むも、するりと間を抜けられて窓に寄られてしまった。
「待てっ」
 白いわんこは一瞬アルベドへ目を向けてから、ぐーぱんちでガラスを割って外へ飛び出した。
「逃がすか!」
「追わせないよ!」
 アルベドを囲むように、魔法陣が幾つも浮かびあがった。わんこを追いかけるイレギュラーズを、のたうつ稲妻が絡め捕える。
 短い悲鳴があがり、イレギュラーズは床に伏した。
 ウィリアムが語気を荒げてアルベドに迫る。
「なにをする。君は、君を取り返しにやってきた彼らを殺す気なのか!」
 ロボットの中からウィリとヴェイが叫ぶ。
「ウォル!」
「止めて!」
 アルベドがびくり、と体を震わせた。
「この声は……。そうだ、死んだ友だちがこの家を訪ねて来ていたんだっけ? ここに座ってお迎えしようと待っていたら、突然、後ろの壁が壊われて……。君の後ろの二人が入ってきたら、こんなふうに焼き殺してやろうと思っていたんだった!」
 仲間の回復を行っていたウィリアムを光の熱波が襲う。
 が、これは無茶だったようだ。連続発動の影響で灼熱とまではいかず、熱い湯程度まで威力が落ちていた。
 アルベドは椅子から立ちあがると、憎々し気にウィリアムを睨みつけた。首を回してロボットに斬風を叩きつける。
「お前ら、どうしてちゃんと死んでないんだ?!」
「テメェが勘違いしているだけだろうが! よく見ろ、ウィリとヴェイもちゃんと生きているぞ」
 晋はロボットを動かして、壁に開いた大穴をくぐり抜けさせた。
 コックピットのガラスに顔を押しつけるようにして、ウィリとヴェイが泣いている。
「嘘だ。友だちは……僕が名前を貰ったウィリ……は、死んだ。とっくの昔に死んでいる!」
 アルベドは大きく息を吸うと、肺から夜の闇に溶けた魔素を大量に取り込んだ。白い胸の真ん中が緑色に光りだす。
「いけません! 急いでアルベドの動きを封じませんと!!」
 すずなが叫ぶ。
「どうやらフェアリーシードは胸に埋められているようだな」
 竜真はアルベドに急接近すると、腹に拳を減り込ませた。体を半分に折り曲げたアルベドの腕を取って椅子に座らせる。
 リウィルディアが双頭の蛇を絡ませた手を、嘔吐するアルベドの背に当て魔素を奪い取った。どれだけ力を残しているか分からないが、少なくとも雷撃を連発することはできなくなったはずだ。
「ウィリ、ヴェイ、出番よ。どんどんウォルに話しかけて」
 アルテミアにうながされて、ロボットの中から妖精たちがアルベドに向かって声をかけ始めた。
「ウォル、置いていってごめん!」
「助けに来たよ。三人で一緒に帰ろう、ウォル!」
 呼びかけの度にアルベドの胸が大きく波うつ。
「いまさら! 僕を見捨てて逃げたくせに。だから死んじゃったんだ、罰が当たったんだよ! 僕は許さないからな、死ね、死ね、また死んでしまえ!」
「なんて酷い言葉……」
 すずなはアルベドの体を起こして背もたれに寄りかからせると、妖刀を回して柄を先に持ちかえた。
「二人は友だちでしょう? 口を閉じて、耳を傾けなさい。現実とまっすぐ向き合うのです」
 喉を潰して気道を塞がぬように、絶妙な力加減で突く。
 直後、あ、と小さく呟いて、拳を口に当てるウィリアムに頭を下げた。
「ごめんなさい。傷つけてしまいました……」
「え? ああ、勘違いしないで。それはただの器、偽物だ。僕はなんとも……ねえ、ウォル。二人が死んでいるという記憶は、本当に君のものかい? もしかして、アルベドの、僕の記憶と混じっているんじゃないか」
 どういうこと、と一悟がウィリアムに問いかける。
「うん、ちょっと。昔のことさ。僕も親しい友人を亡くしていてね。それで、もしかしたら、と思って」
「なるほど。そう言うことなら、この体の中に埋めたままにしておくのは良くないな」
 ホリは意識を集中させると、鋭い爪をアルベドの胸に突きたてた。沈めた指をぐっと握り込んで、フェアリーシードを引き抜きにかかる。
 アルベドは体を激しく震わせ、口から大量の血を吹きだした。色のない白い体がますます白くなっていく。フェアリーシードが発する光もだんだん暗くなってきた。 アルテミアが声を震わせる。
「ヤバいんじゃない、これ?」
 晋はロボットを振り返って叫んだ。
「お前ら! 友達に生きててほしいんだろ! 大事なダチなんだろ! 見捨てたことを死ぬほど後悔してんなら死ぬ気で呼びかけろ! ガンバレって」
「そうだ。俺たちの声よりも、君たちの声のほうがウォルの心に届くはずだ」
 竜真も声を張った。
 ウィリとヴェイ、そしてアルテミアとすずなが一緒になってウォルに呼びかける。
「ウォルさん、必ず救い出しますからね……!」
 晋はホリの腕を掴むと、一緒にフェアリーシードを引き抜ぬきにかかった。
 一悟がアルベドの後ろに回って体を押さえる。
「おら、聞こえるか! ダチは生きてるぞ! お前を取り戻そうとこいつらは命張ったんだ! お前はどーすんだよ!?」
 晋はホリと一緒にひっくり返った。
 アルベドの体から取りだされたフェアリーシードがホリの手を離れて、空中で割れた。
「「ウォル!!」」
「ウィリ、ヴェイ!」
 ロボットを飛び出した二人とシードから飛び出した一人が、部屋の真ん中でしっかりと抱き合う。
「よかった。助けられて」
 ウィリアムは椅子から滑り落ちたアルベドの目を手で閉じた。
 ホリに助け起こされた晋が、頭の後ろに手を当てながら再会を喜ぶ三人を見て苦笑いする。
「まぁ、これでどうにかなったか……いや、まだだ!! 魔種を止めねぇとな!」


 再戦を誓うイレギュラーズたちの上で、白くて平らな屋根の電波塔が揺れていた。

成否

成功

MVP

晋 飛(p3p008588)
倫理コード違反

状態異常

なし

あとがき

成功です。

白いわんこのゴーレムにはまたしても逃げられましたが、無事、フェアリーシードに閉じ込められていたウォルを救いだすことができました。
ウィリ、ヴェイも……三人ともイレギュラーズに大変感謝しています。
ありがとう、イレギュラーズ!!

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