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シナリオ詳細

<月蝕アグノシア>灰翼に守られた乙女

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 オートマタがバナナの皮を踏んだ。
 美麗な足先が天を向いて、鉄色の髪が頭ごと地面に突っ込み動かなくなる。
「うおー!」
「やったー!!」
 はしゃぐ妖精達がいるのは、とばりの森にある急ごしらえの砦だ。
砦とはいっても大きさは人間の家程度。
 開けた場所にある小さな丘の上という立地を活かし、辛うじて今まで生き延びてきた。
 バナナ……っぽい果物の皮が効かなければ、とっくの昔に全員殺されるか連れ去られていただろう。
「またきたーっ」
 歓声が悲鳴に変わる。
 同型のオートマタが2体、木々の中から現れた。
 1体は負傷機の足を引っ張り森の中に消え。
 もう1体は負傷機が取り落とした武器を回収して、妖精達に向けた。
「ひぅっ」
 錆びが浮いた鉄の処女が怖過ぎる。
 犠牲者の悲鳴が聞こえた気がして、逃げ場のない砦の中で妖精達が後ずさりする。
「なげろーっ」
「はわっ」
「なげるーっ!」
 妖精が皮を投げる。
 威力は皆無。オートマタの鉄の肌を汚すばかりだ。
 ただ、たった1人しかいない戦闘スキル持ちが、バナナの皮を絶妙のタイミングで足と地面の間に滑り込ませる。
 今度のオートマタは転けずに耐えた。
 だが体勢は崩れ、妖精達にとっての最後のチャンスがあらわれる。
「とっておきつかうよーっ」
 イガグリである。
 鉄板にも刺さりそうなトゲトゲがみっしり生えていて、妖精もおそるおそるでしか投げられず半分以上が外れてオートマタの周囲に転がる。
 高度な知性を持たないオートマタが動揺するほど、イガグリから伸びるトゲトゲは凶悪だった。
「みんな、あと少しがんばって!」
「かつぞー!!」
 誰も勝てるなんて思っていない。
 飛ぶことも歩くこともできない怪我人を置いては行けず、できる限りのことをしているだけなのだ。
 後ろを振り返って、安堵する。
 顔色の悪い妖精がハンカチサイズの薄毛布にくるまり、小さな寝息をたてている。
 まだ大丈夫。
 でも、担架を作れたとしても最寄りの妖精郷の門まで辿り着けない、そんな体調だった。
「え」
 トゲトゲが鉄の肌に刺さる音が消えた。
 ぱさりと、綺麗過ぎて背筋が冷たくなるような音が響く。
「天使さん?」
 森の中から灰色の男が現れた。
 妖精の女性陣が目をハートマークにするほどに美しく、その中で唯一まともに戦える1人が冷や汗を流すほどに強い。
 男性陣がバナナの皮を投げる。
 半ば嫉妬が理由でも狙いはこれまで以上に正確で、けれど白化して薄い灰色になった翼によって全てが効果を出せないまま弾かれる。
 乙女の形をした鉄人形が、スカイウェザーのアルベドの背中に隠れた。
 アルベドがゆっくりと歩き出す。
 1歩進む度に、2対4枚の翼と鉄の処女やのこぎりが禍々しく上下する。
「イガグリ全部出してっ」
 この期に及ん出し惜しみなどしない。
 妖精達は真剣な表情で、投げる手が傷つくのも厭わずイガグリを投げる。
 アルベドは、わざと避けなかった。
 灰色の羽に多数のトゲが浅く突き刺さり、そして投げた全員が苦痛でうめく。
「反射!?」
「やだ」
「いたいよぅ」
 妖精のほとんどが絶望で涙を流す。
 戦える妖精も、鼻の奥がつんとして目がうるんでいる。
「よくみて、弱点さがすのっ」
 必死に平静を装う。
 何人かの妖精が彼女の覚悟と気遣いに気づいて、泣きながら高性能な五感を灰翼の男に向けた。
「んんー?」
「ひだりむね、しんぞうに」
 全員の知り合いである、妖精の気配がした。
 この場の誰よりも強く自己犠牲に似た優しさを持つ女性のはずなのに、何か変だ。
「なんか、えへえへわらってるよぅ」
 立派な妖精であるのだが、誰よりも面食いで趣味もちょっと変わっている妖精だった。
 具体的にはイケメンと霊的かつ物的に一体化できてばんざーい! という感じだ。
「あたしたちに気づいて、天使さんを止めてくれるとおもう?」
「むり」
「ともだちよりおとこをゆーせんするたいぷだよあのこ」
 友のためなら命をかけて、推しのためなら魂もかけるという性格なのだ。
 宝珠にされる際に何か術をかけられたことも影響している……と思いたかった。
「ん、そろそろ」
 緊張し過ぎた心をほぐすための馬鹿話は終わりだ。
「うごける人だけ逃げて。あたしが時間かせぎする」
 覚悟を決めた目を、鉄の人形を率いる灰翼に向ける。
 シリアス妖精の後ろで小柄な妖精が小首を傾げていた。
 妖精の気配とは違う、力強い気配がアルベドとは別後方から近付いている。
 必滅の運命を蹴り飛ばして未来を引っ張ってくる、とんでもなく力強い気配であった。


「アルベドの情報なのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は真顔だ。
「なんかもう色々凄いですけど数値を盛ってはいないのです」
 アルベドについての報告書だ。
 追われた生き延びた者からの聞き取り調査や遠くからの観察で得られた情報をまとめた結果、非常に強い相手ということが分かった。
「妖精さんの保護や死なずに帰ることを優先して欲しいのです」
 撃退で構わない。
 妖精を救出等した後なら、多数で囲んで仕留める機会はあるだろうから。
「でも、倒せるなら倒してください」
 イレギュラーズに対する信頼と心配が混じり、ずいぶん珍しい表情をするユーリカ。
「依頼に細かい指定はないです」
 臨機応変に、より良い結果と未来を掴んで欲しい。
 そう言って説明を終え、ユーリカはイレギュラーズを見送るのだった。

GMコメント

 敵は強敵です。
 アルベドは防御重視ですが、部下と連携したときの総合戦闘力は非常に高いです。
 なお、心臓部である妖精(宝珠状態)は頑丈ですがアルベドに積極的に手を貸してしまっています。
 説得より説得(物理)の方が有効かもしれません、
 繰り返しになりますが頑丈です。


●成功条件
 砦にいる妖精全員の救助。


●ロケーション
 小さな丘とその周辺。
 森の中の開けた場所にある丘です。
 イレギュラーズが丘の上に到着し、30メートル先に『アルベド』がいる状態から戦闘開始です。


●エネミー
『アルベド』
 灰色の翼を2対持つアルベド。
 戦闘開始時点では本人の意思はまだ薄く、作成時点で与えられた命令「妖精捕獲後連行」と宝珠な妖精の後押し「この方は無敵よおほほ」で行動します。
 防御技術は高く状態異常も効きづらく、膨大なHPと【反】を組み合わせた反撃を行います。
 上記の能力は受動的な行動で、それとは別に以下の能動的行動を行う可能性があります。
 ・灰色の雷 【物超範】【無】【怒り】
 ・偽イモータリティ 【物自単】最大HPの5パーセントの自己回復。
 ・偽聖骸闘衣 【神近単】【BS無効】【付与】 オートマタ用

『オートマタ(鋸)』×2
 鉄色の少女型自動人形です。
 錆びたノコギリで丸太を一刀両断できる腕力の持ち主ですが、腕力と生命力を除けば優れた能力を持っていません。
 戦闘開始時には『アルベド』の左右にいます。
 『アルベド』に忠実に従い、指示がない場合は『アルベド』の護衛を優先します。
 ・鋸 【物近単】【流血】【必殺】

『オートマタ(針)』×4
 鉄色の少女型自動人形です。
 投擲技術に特化していて、命中は非常に高くそれ以外の能力は低いです。
 戦闘開始時には森の中に潜んでいます。
 『アルベド』に忠実に従い、指示がない場合は撤退の援護か、逃走する妖精の捕獲を行おうとします。
 ・針 【神遠貫】【猛毒】【足止】

『オートマタ(鉄の処女)』×1
 鉄色の少女型自動人形です。
 人間の子供なら入る鉄の処女を抱えており、その中に妖精や敵対者を入れようとします。
 戦闘開始時には『アルベド』の後ろにいます。
 ・鉄の処女 【神至単】不明のBS多数


●他
『森』
 妖精なら楽に通ることができますが、人間サイズだと少し厳しいです。
 『オートマタ』が通った後は、結構目立ちます。

『砦の妖精さん』×17
 半数近くがが重傷です。
 バナナの皮とイガグリは、まだ少し残っています。

『イケメン好き妖精』×1
 共に滅ぶのっていいよね! という考えですが、『アルベド』に埋め込まれる際に洗脳を受けたり術にかかったりした可能性はあります。
 『アルベド』に出会うまでは、命を賭けて他の妖精を守る術使いでした。
 宝珠になった今でも頑丈です。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <月蝕アグノシア>灰翼に守られた乙女完了
  • GM名馬車猪
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年07月16日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (10人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
静謐の勇医
武器商人(p3p001107)
闇之雲
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
森の善き友
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
グレン・ロジャース(p3p005709)
不沈要塞
クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)
宝石の魔女
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)
Unbreakable
クラウス・シユウル・ストレイン(p3p008567)
魔缶喰らい
稲守 朱祠(p3p008680)
黄金の小俵

リプレイ

●騎兵隊到着
 アルベドが率いる軍勢を、濃厚な情念が覆っている。
 美しい男を愛で、溺れ、我が物としようとする乙女の執念だ。
「困ったお嬢さんだ」
 『不沈要塞』グレン・ロジャース(p3p005709)は整った顔に男臭い笑みを浮かべた。
 文字通り宙を切り裂くように飛んでいるのに姿勢は安定して、今にも陥落しそうな妖精の砦の真ん中に鮮やかに着地した。
 頼り甲斐を感じさせる筋肉質な体。
 振り返る動作ひとつとっても洗練された身体操作技術が窺える。
「翼の生えた天使や白馬に跨った王子様、とは行かねえが、ヒーロー参上! ってな?」
 流し目を送ると、わーっと妖精から男女を問わず歓声があがる。
 一人殿に残るつもりだった妖精が、顔全体を桜色に上気させて一番盛り上がっていた。
「気を抜いたら駄目だ。まだ危ないのが分からないのかよ」
 『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)が一見刺々しい態度で、繊細で優しい手つきと指使いで妖精を誘導する。
「ほーらまだ痛いだろ? だから大人しくしとけと言ってるんだよ」
 清らかな音を響かせ、砦にいる妖精も砦の後ろから抜け出た妖精も区別なく癒やす。
 素晴らしい効果範囲を持つ治癒術であり、そのことが気付いた妖精がルフナへ尊敬の視線を向けた。
 そんな妖精達の横を小さな森の動物が走っている。
 見た目は幼い『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)の足下で静止し、木の実やちょっとした魔力と引き替えに情報を差し出した。
「世の騒動の種はつきまじ……かの」
 報酬を多めに渡して逃げよと命じる。
 蜘蛛の子を散らすように森へと消える小動物を見送り、クラウジアは綺麗な瞳に老練な光を浮かべた。
 情報を総合し、森の中に潜む鉄人形の位置を複数特定することに成功する。
「良い出来の人形じゃ。技術だけは褒めてやろう」
 騒動の大本である魔種の評価を少しだけ修正する。
「さて……妖精ハンティングの妨害じゃな」
 不敵に笑い、最も安全な進路を馬車に伝えた。
「みんな乗って!」
 『黄金の小俵』稲守 朱祠(p3p008680)の背後に立っているのは、見上げるほど大きな体格の軍馬とスタイリッシュで実用的なデザインの馬車だ。
「だいじょうぶ、おうまさん怖くないよっ」
 稲守が頑張る。
 軍馬は仕方が無いなぁという顔で愛想を振りまき、妖精達は最初はおそるおそる、やがて加速度的に調子に乗って馬車に飛び込んで遊び一部は名馬俵丸のたてがみを引っ張ろうとする。
 俵丸は器用に首を振り、クッションが敷かれた馬車へ妖精をまとめて放り込んだ。
「ハイヤー! 駆けろ俵丸! 皆で逃げおおせるのです!!」
 ぐんっ、と馬車が動き出す。
 軍馬は見た目より大重量の馬車を慣れた動きで引っ張り加速させ、丘を降りるときも降りきったときも一切減速させずに獣道に近い道を駆けていく。
 アルベドの作戦が、1頭と1両により崩壊しようとしていた。
 色を除けば『Unbreakable』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)に酷似したアルベドが手を振り下ろす。
 錆びたノコギリを持つオートマタが爆発的に加速し、馬車の進路からやや離れた場所に隠れていた針使いオートマタが軍馬に狙いをつける。
 作戦に開いた穴など力で補うことに出来る、圧倒的な戦力のはずだった。
「ほぅ、俺を模したか。妖精達にはすまないことをしたな」
 天には轟音。
 降り注ぐのは黒き稲妻。
 直径20メートルの円形より広範囲に発生した減少は天変地異を思わせる派手さで、黒に当たった鉄人形は灰色のアルベドではなく黒い翼を持つフレイにのみ惹きつけられる。
 主替えとまではいかないが、アルベド側の事前準備も作戦もこれで台無しだ。
「なるほどな」
 アルベドがしようとして取りやめた動作を見てフレイがうなずく。
「離れていては聖骸闘衣は付けられんだろう」
 フレイは黒い影の盾で以てノコギリを防ぐ。
 完全に防いでも痛みを感じるほどの威力はあるが、フレイの防御を崩すにも地面に打ち倒すのにも全く足りない。
 黒雷で奪った力を使い、直前に負った傷を瞬く間に癒やす。
「黒閃雷さえ当たれば俺は不沈。灰色のアンタはどうだ」
 アルベドとフレイの中間地点で、火花が散った。

●開戦
 鉄の足で踏み荒らされた地面を、黒い和装の人斬りが安定した地面であるかのように駆ける。
「イレギュラーズの写身とまさかこんな所で戦えるとはな……!」
 ここは闘技場ではなく戦場だ。
 本人ほどの練度はないとしても、本人以上の体力を持つ相手と殺し合う好機が今ここにある。
「常々斬りたいとは思っていたこの機会、人斬りとして逃すことはできぬだろうよ……!」
 連携の崩れた鉄人形になど興味は無い。
 『黒一閃』黒星 一晃(p3p004679)はノコギリや拷問器具という障害物に触れもせず、並の妖刀では及ばぬ気配を発する刃を構えて跳躍した。
「黒一閃、黒星一晃、一筋の光と成りて、白き灰翼を地に堕とす!」
 よく狙って、速度と自重を斬撃の威力に変える技を仕掛ける。
 心得のない者には単純に見えても、実際には高度な剣技と強靱な精神力と優れた身体能力が求められる刀技だ。
 アルベドは灰色の翼で切っ先を柔らかに受け止める。
 しかし切っ先が微かに向きを変える。
 強靱さと柔らかさを兼ね備えた羽が切断され、数枚切られても止まらず骨まで切り裂き腕まで届く。
「ははっ」
 灰色の光が弾けた。
 性質上、黒星の剣技でも打ち落とせない自動的な反撃だ。
 無視出来ない程度に深い傷が、黒星の胸板に刻まれる。
 アルベドの反撃はまだ続く。
 灰色の反撃は受動的な力の行使に過ぎず、本命は黒い雷と同様に多くの者を誘導するための灰色雷だ。
 範囲こそ狭いが、黒星に当てるのには十分な速度で灰色が戦場を侵食した。
「黒星の旦那はお嫌いかい? 今は特にいい目をしてると思うのだけどね」
 雷は鋭く曲がって『闇之雲』武器商人(p3p001107)に当たったはずなのに、武器商人が何かの影響を受けた気配は皆無だ。
 アルベドは微かに困惑の表情で、しかしアルベドに重なる形で吹き荒れる気配は警戒心を露わにする。
 灰の男の胸に埋まった妖精の魔法的感覚には、武器商人が人間は見えていない。
「やァ。分かるのかい」
 オートマタの1体が黒雷の影響を振り払う。
 錆と割れでささくれたノコギリの歯が武器商人に死角から迫って、明後日の方向へ弾かれた。
「我が麗しの銀の君を護ることはおにーさんの至福でね」
 サラサラのベリーショートが揺れる。
 『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)が立っているだけで、純朴な森が華やかなファッションショーのステージの雰囲気を持つ。
「なるほど」
 楽しげに微笑む。
 アルベドを覆う気配が強さを増す。
「顔が良いって大事だよね。分かる。フレイくんの顔は良いもんね」
 共感。評価。称賛。
 こじらせた妖精乙女が欲しかったものを惜しげ無く与えるヴォルペは、ある意味では魔種よりタチが悪い。
「さて、おにーさんと遊ぼうか!」
 破邪の結界で自身を覆う。
 淑女をダンスに誘う態度で、無骨な武器を持つ鉄乙女を誘い、灰色の奥にいる存在に流し目を送る。
 悪い男に抵抗を持たない存在が、華やかな破滅の待つ場所へ誘われようとしていた。

●森に潜む針
 指程度の長さの針も、常識外の高速が与えられると凄まじい破壊力を持つ。
 御者席至近に小さな穴がいくつも開いて、反対側により大きな穴が開いた。
「あわわ……大変だって聞いて来てみたものの、雑魚敵ですらわたしから見たら格上じゃないですかやだー!!」
 メッシュの白髪から生気が抜けている気がする。
 車輪の音で声が掻き消されて妖精まで届かないので、稲守は思いっきり泣き言を口にしている。
「ははは! よく言うぜ」
 『魔缶喰らい』クラウス・シユウル・ストレイン(p3p008567)は我慢しきれず爆笑した。
 妖精の脱出手段を用意する手際に限らず、稲守はいつも良い仕事をする。
「やーいやーい! お前の造形不格好ー! ……なんてね」
 稲守は光る星を当てて、妖精誘拐を狙い馬車へ飛びかかろうとしたオートマタを1体、御者席の己に引き寄せる。
「さあ、お仕事と行くか」
 不安定な馬車の上で、超未来を感じさせる重狙撃銃をクラウスが両手で構える。
 気付いた少年妖精が歓声をあげ、直後に舌を噛んで涙目になった。
「妖精なんてもんがいるなんてこっちの世界はすげぇな!!」
 小さな妖精達は悪意とも絶望とも縁遠く、猪と蝙蝠の要素が混じったクラウスの頭をきらきらした目で見上げている。
 少しばかり、こそばゆい。
「『しっかり』『きっちり』『確実に』ってな!!」
 ほとんど整備がされていない森は、オートマタの移動を妨げている。
 クラウスはしっかり狙った上で銃身に精神力を注ぎ込む。
 物質的だけでなく霊的なエネルギーも収束・加速させて、破滅的な光の束を鉄の表面に命中させた。
「防げると思ったか?」
 残念そうな妖精の声をBGMに、不敵な笑みを浮かべて重狙撃銃ストライク・オライオンに再装填する。
 形だけでなく動作も美しかったはずの鉄人形が、戦闘に向いていない内股になっている。
 機動力には変化はなくても、防御面では最悪に近い行動だ。
 直前の直撃でパーツのいくもの不具合が起こり、オートマタは通常の走りに戻れない。
「知ってるか? 狩人(オライオン)が放った鏃は……絶対に外れないのさ!!」
 光の束が銃口と人形を結ぶ。
 まともな防御が出来ない彼女は凶悪な一撃をまともにくらい、腰から腹までを破壊されて横倒しになった。
「やれやれ、守りながらはきついの」
 空飛ぶ箒の上からクラウジアが魔術をぶっ放す。
 進路上に草や蔦があっても関係無しだ。
 全てを消し飛ばして鉄の皮膚に届き、衝撃と呪いを伝えて鉄乙女を痛めつける。
「どうにかならんか?」
 御者役の稲守に向ける目は、冗談めかした口調とは正反対に真剣なものだ。
 高位の霊的存在でもある稲守が全力で頭を使う。
 何か手伝えることは、と馬車から顔を出した妖精のリーダー格に気づき、頼り甲斐のあるおねーさんの仮面をかぶる。
「さて、そこの指揮官っぽい妖精さん。あそこはあなた達の砦ですよね?」
 妖精が真剣な表情でうなずく。
「砦なら沢山の食糧や武器、修繕用の資材……色々必要ですし、それに砦を建造して外敵に備えるような仕掛けがあるなら、いざというときに砦を放棄することを考えないはずがないです」
 このおねーさん頭がいんだ! という目が向けられる。
「ってことは物資搬入用、あるいは脱出用の抜け道があるはずなんです! 妖精さん! 教えてください!!」
 妖精は数秒の間ままたきをして、申し訳なさそう表情になる。
「……ここなの」
「つまり?」
「だからここなのっ。あたし達おねーさんより小さいからっ、この幅で十分だったのっ」
 今は知っている道が、1番マシな逃走経路であった。
 道が徐々に細くなり、オートマタより馬車の速度低下が激しくなった。
「ええいこうなったら正面突破ですっ。俵丸!」
 軍馬の走りが荒々しくなる。
 揺れが増し、馬車の表面が枝に当たって傷が増える。
 その分速度が上がり、上がった速度を稲守の腕で有効利用しオートマタにこれ以上近づけさせない。
「わたしの騎乗での逃げ足は伊達じゃないです! スキル欄にも書けるレベルですとも! はい!!」
 稲守は覚悟を決めて、妖精を全員無事に脱出させるため御者に専念する。
 妖精リーダーに曲がりくねった道を詳しく解説させ、木や草が邪魔で見えない道を性格に走り続ける。
 針が飛来する。
 馬車の側面を掠める針は、小型の砲で撃ち出される砲弾に等しい威力を持つ。
 稲守と俵丸が懸命に努力しても、馬車を最後まで守り切るのは困難だった。
 この道を使うなら避けられぬ向きとタイミングで、草にも枝にも触れず音よりも速く馬車へと跳ぶ。
「わたしが、生き延びさせてみせる!」
 白く柔らかな拳がくるりと回る。
 絶妙のタイミングと神秘的な力が『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)の拳に力をもたらし、特殊な金属で出来た針を真横からひしゃげさせた。
「同じ形で強さが違う。罠ですか」
 地面から少し浮き上がったココロが手の平を開閉する。
 ちょっと痛いが戦闘続行に支障はない。
「すごーいっ」
「帆立貝のおねーちゃんかっこいー!!」
 馬車から妖精が身を乗り出し、馬車のバランスが崩れて稲守と俵丸に努力を強いる。
「ありがとう。これ借りるね」
 ココロは馬車の真横まで移動して、異様な鋭さを持つイガグリを受け取る。
 ほとんど戦闘スキルを持たない妖精とは違って、複数盛っているのに指先にも手の平にも傷をつけない、見事な体術だ。
 耳から聞こえる音の中から、車輪が地面を砕く音や魔導甲冑の駆動音を取り除く。
 そこから妖精や馬やイレギュラーズの息づかいを消すと、鉄の体が森を押しのける音だけが目立つ。
「見えました! やってみる!」
 神聖な光がココロを照らす。
 金の髪は内側から輝くようで、イガグリまでこれとは別の気配を纏って浮かび上がる。
「そこっ!!」
 光が決壊した。
 無数の障害物が存在する森の中を、隅々まで……枯れ葉の下にいる小さな虫まで神聖な光で照らし出す。
 普通に生きて死ぬ森の生き物に対しての害は皆無だ。
 殺意を以て待ち構えていた鉄人形と、馬車の近くまでとうとう到達した真新しい鉄人形にだけ、激しい光と妖精のためのイガグリが当たって突き刺さった。
「外だー!!」
 ひひーん!!
 木々の密度が減り、降り注ぐ陽光が力を増し、獣道から普通の道に変わったことで馬車が加速する。
「さよならです! 不細工人形さん!!」
 稲守は煽りに煽って、針使いのオートマタをアルベド救援に向かわないよう挑発するのだった。

●拮抗
 迎撃の灰翼ごと、守護聖剣ノルンがアルベドの体に叩きつけられる。
 見た目は派手でも、圧倒的な生命力とコピー元を真似た防御技術が邪魔してダメージは小規模だ。
「ははっ。無敵の防御力、そしてイケメンっぷりなら俺も負けてられないな」
 ノコギリのオートマタが1体、主以外の全てを見捨てて主の元へ戻りグレンを迎撃する。
 無数の小さな刃だけは非常に良く手入れされていて、グレンの銀製の全身鎧も切断してしまいそうだ。
 火花が散る。
 接触の寸前にグレンが体の向きを調節して装甲表面で受け流し、浅い傷だけで鉄乙女の攻撃を防ぎきった。
「こっちもそっちも防御が完璧なのは当然。その無敵の防御を誇るなら、敢えて避けるなんて必要ないよな?」
 オートマタを無視するのではなく、灰翼のアルベドを頭とする集団に対して正面から挑戦状を叩きつける。
 アルベドはフレイを真似た判断でオートマタを支援しようとした。
 なのに、己のエネルギー供給源である宝珠に思考を侵食される。
「随分元気じゃないかお嬢さんよぉ!!」
 グレンは勝利のルーンを描いて力を高める。
 そして高めた力を効率よく威力に変えて、素人同然のパンチを軽々躱して剣の切っ先を叩き込む。
 確かな手応えと、パンチとは比較にならない強さの衝撃がグレンの体を襲った。
「ばっかじゃないの? アルベドに手を貸して同じ妖精に迷惑をかけて、恥ずかしくないのかよ」
 ルフナの言葉には非難の響きはない。
 ただただ呆れて馬鹿にする感情だけが見えて、アルベドを包む気配が冷静な指摘を受けた酔っ払いであるかのよう怯む。
「はい終わり。どう?」
「いい感じだ。次も頼むぜ」
 治療されたグレンは、にやりと笑って剣と盾で以てアルベドに圧迫を加える。
 ルフナの森の香りのする癒やしは実に素晴らしく傷を癒やし、過酷な前衛を見事に支えていた。
「はは、楽しくなってきた!」
 華奢な手甲で包まれた拳がぶつかり、鉄の処女が激しく揺れた。
 ヴォルペの指から鮮血がしたたり、大きな装備を両手で抱えたオートマタが一瞬見惚れた。
「最期まで踊ってあげるよ」
 我が麗しの銀の君を護る片手間に、という事実を口にしないのは易しいというより罪作りだ。
 高い知性は持たないはずの鉄人形が、乙女という形とヴォルペという魔性の男に引きずられ、急激に人間味を増して激しい攻撃を繰り出す。
「どいつもこいつも派手に血を流して。ちっとは考えろよ!」
 あからさまに不機嫌なルフナは、森至近での戦闘のせいか褐色の肌がいつもより生き生きとしている。
 さらりとした白髪で隠れた瞳も綺麗な緑色で、身長差で上目遣いになるそのまなざしが実に……アルベドの中身に効いた。
「んー?」
 ルフナは相手の言いたいことを感じ取った上で聞き流す。
 故郷の森から送られてくる力を礼儀正しく受け取り己の力に変換するのに忙しい。
「なんで美人や美形がここにいるのかって? 別にアルベドの中に入らなくてもローレットに来れば顔くらい見られたよ」
 悪意のない指摘だからこそ、宝珠状態の魔法使い妖精の心に大ダメージを与えた。
「退け」
 黒星はノコギリの鉄人形に受けることを許さず、恐るべき切れ味の刀で利き腕の肩を裂く。
 特別なスキルなど使っていない。
 磨き抜いた普通の斬撃だ。
「最優先目的である妖精全員の救出は済んだ」
 アルベドの中で聞いているだろうもう1人は無視だ。
 積極的にアルベドひいては魔種に力を貸す以上、覚悟は出来ているだろうから。
「後はラーセンのアルベドと遣り合うだけだが……慣れてきたな」
 件の妖精は相変わらずでもアルベドの動きが良い。
 黒い雷に影響された部下との距離を調節して巧みに援護を行いその戦闘力を回復、維持させている。
「ちょっと大丈夫? 疲れてない?」
 ルフナの若い声は相変わらずだ。
 激しく消耗するはずの回復術を惜しみなく使い、対アルベド戦に使うための力を除けば最低限しか残っていなかった黒星にエネルギーを補給する。
「終わるまでは保つ。貴様は大人しくしていろ」
 黒星は守らない。
 力ある祭具を伴う武器商人に己の守りを任せ、攻撃一辺倒の構えから跳躍して一撃を振り下ろす。
「終わりだ」
 利き腕が切り落とされたオートマタに対して追撃。
 完全に守りの崩れた鉄人形に直死の一撃が直撃。
 殺意が膨張して黒い大顎となり、半ばまで断たれた腰から腹を噛み千切られた。
「アニキ風吹かせちゃって……」
「黒影の旦那はそういう人だからね。我(アタシ)は感謝しているよ?」
「はいはい。……助けられると思う?」
 ルフナが、アルベドが見ていないタイミングで心配そうな顔になる。
 散々煽りはしたが、助けられるものなら助けたい気持ちはあるのだ。
「もっと追い詰めてからだね」
「そっかー」
 妖精がどんな目にあうが想像出来たルフナは、妖精に対して哀れみを感じてしまった。

●針使いの最後
 オートマタの指先が音速を超える。
 見た目よりはるかに重い金属針が、調子に乗って馬車から身を乗り出す妖精を狙い放たれようとした。
「馬鹿め」
 クラウスのつぶやきは、光の束より遅れて届いた。
 手人形は光の束により利き腕の肘を消滅させられる。
 美術品のような前腕と手の平が、針と一緒に回りながら飛んでいった。
「止まるなよ」
 高速の馬車から飛び降り、親指を突き出した手を掲げる。
 馬車からの歓声が蝙蝠状の耳を刺激し、クラウスの口端が上機嫌に釣り上がる。
「これで全力を出せるのぅ」
 クラウジアの手元に、無色であるのに禍々しさが分かる何かが集まってくる。
「クラウス殿、すまぬがそっちであわせてくれ。4桁……んんっ、89にもなると力の制御が甘くなるのでな」
 数字の誤魔化し方が豪快な魔女である。
 もっとも、混沌入り前と比べて制御が甘くなった理由が混沌肯定『レベル1』がほぼ10割だが。
「改造か天然かは知らねぇが大したもんだな」
 ポストアポカリプス世界出身者が元人間の魔女に軽口を叩く。
 そして、銃と一体化したかのように正確な狙いをつけることで返事とした。
「美術品として持ち帰る余裕はないのでな」
 握り拳大の宝石が妖しい光を放つ。
 まるで今ここにいるクラウジアが幻であるかのように、宝石の存在感が高まり不吉な気配が増していく。
「鉄人形よ。元へ戻るが良い」
 術の速度は音速など軽く越えている。
 片腕を壊された人形の胸に当たり、内部に重大な損傷を与えると同時に防御を激しく乱れさせた。
「はっ、これで外したら狙撃手廃業だな」
 トリガーに触れてからつぶやく。
 言い終える前に光がオートマタへ触れ、これまでとは倍ほど違う威力で動力にあたる部分を吹き飛ばした。
「合流しますよっ、いいですね?」
 複数の衝突音を響かせながら、ココロが森から跳んで出た。
 拒絶の障壁がココロの背中で揺れ、直前に当たった針の威力を物語っている。
 オートマタの生き残りがココロを追う。
 四肢が無事な個体も全身傷だらけで、下半身が崩壊した個体は傷口から壊れた歯車が見えて無惨な状況だ。
 魔女にもクラウスにも容赦はなく、術と銃撃の連携で以て上半身のみの人形に止めを刺す。
 ココロも手加減はしない。
 弧を描いて森とオートマタの間に入り込み、敵の退路を断った上でほたてぱんちを振り下ろす。
 衝撃を逃がすには踏み固められた地面は固すぎ、両膝に火花を散らして機動力と回避能力を激減させた。
「ちっ、後は通常弾だけだ。いっそシュル缶をぶん投げて妨害しようか」
 クラウスは、十分威力がある弾を再装填しながら舌打ちする。
「止めろ。フリじゃないぞ」
 膨大な経験と知識はそのままなクラウジアには缶の中身などお見通しだ。
 だから正直、オートマタよりも恐ろしい。
「了解」
 人の好みは様々だよなと納得して、スキル無しでも高度な精度と十分な威力の射撃を続けるクラウスは、缶の中身の愛好者であった。
「そろそろあちらも決着がついているはずじゃが」
「確実に倒しましょう。アルベドと比べれば弱いとはいえ、一度逃がせば再捕捉まで時間がかかりすぎます」
 ココロは油断無く敵の退路を潰す。
「うむ」
 クラウジアは豊富な魔力量を活かして強力な術を行使する。
 4体相手に、流れ弾1発で死ぬ妖精を守りなら戦ってきたイレギュラーズだ。
 2体相手に負けることなどあり得ない。
 不利を理解したオートマタが逃走に移る。
 しかしココロに追いつかれて拳を打ち込まれる。
 物理的な破壊こそないが、体が痺れて防御が乱れてその上10メートル近く跳ばされる凶悪な技だ。
 地面に落ちて、全身のパーツの悲鳴が響く。
 残る1体も追い詰められている。。
 クラウジアが淡々と術を打ち込んでダメージと状態異常を与え、クラウスの銃撃がダメージを拡大する。
 ココロが1体を足止めしているうちに、倍以上の手数と火力の優越で鉄人形を削り切って鉄くずに変えた。
 最後の1体が立ち上がる前に、ココロがうつぶせに転がす。
「おやすみなさい」
 聖なる光が背中を焼く。
 魔法と銃からの光が胸まで射貫く。
 事切れたオートマタを、柔らかな日の光が照らしていた。

●アルベド
「抱きしめるなら自前の腕を使うんだよ、お嬢さん?」
 悪意と殺意に塗れた拷問器具を向けられても、ヴォルペは飄々としている。
 オートマタは焦っている。
 妖精捕獲後に戻ってくるはずの針装備機がいつまでたっても帰還せず、主の護衛も1体破壊されてしまった。
「おっと」
 ヴォルペを捕らえるのは諦めて、拷問器具を大きすぎる棍棒として振り回す。
 目の前のイレギュラーズは防御が巧いが回避に関してはそれほどではない。
 血は流れなくても確実にダメージは蓄積している。
 だが、その程度では全く足りない。
「まったくどいつもこいつもっ」
 ルフナが苛立ちながらの故郷の森との繋がりを強める。
 物理的には遠くても霊的には近く、ヴォルペの打撲傷が高速早戻しであるかのように消えていく。
「傷ついたらちゃんと申告しろよっ」
 これだけ強力な治癒術を連発しているのに、ルフナに疲労の気配はない。
 素晴らしいという表現では足りない回復能力と効率的運用技術であった。
 黒い雷が戦場を覆う。
 オートマタは主の力で影響を免れると確信して、丁度効果時間が切れたのに気づかず直撃を受ける。
 目の前にヴォルペという脅威が存在するのに、主を邪魔するフレイを倒そうと大きく方向転換してしまった。
「おにーさん、ふられちゃったか」
 嫌みを感じさせず、聞いている側か爽やかさを感じてしまう、脅威の対人能力を持つつヴォルペ。
 無論彼の取り柄はそれだけではない。
 鮮やかに距離を詰めて、無防備な鉄の背中に両方の手の平を押し当てる。
「ごめんね」
 足先から指先までの全てを制御して、巨大な破壊力を防御されていない箇所から内側へ通す。
 複数の不可欠の器官が砕ける感触が手の平に伝わる。
 崩れ落ちようとする鉄乙女を、ヴォルペがそっと抱き留め地面の上に寝かせるのだった。
 何十何百何千と重ねられた魔術をノコギリが切り裂こうとする。
 ノコギリの使い手であるオートマタは、開戦直後からは想像出来ないほど極端な前のめりだ。
 横から軽く触れられただけで倒れてしまいそうな、攻め一辺倒だった。
「黒星の旦那を真似たかい? 付け焼き刃の割には悪くはないけどね」
 ノコギリの歯には不死性を否定する呪詛じみたものがあり、武器商人でも直撃を受ければ危険ではある。
「足りないよ?」
 彼女の力を技では、武器商人の華やかな衣装に触れることも難しい。
 多少の消耗を強いてはいるが、それだけだ。
 武器商人が微笑む。
 オートマタは微かに惹かれるがすぐに戦いに専念し、アルベドは気づかず、アルベドを半ば支配する妖精は武器商人を警戒する。
「キミ、冷静になって考えてごらんよ」
 灰色の雷とノコギリの猛攻を受けているのに武器商人は飄々としている。
「確かにラーセンの旦那は顔がいいが」
 美男子を引き連れた美形の言葉の説得力に富む。特にこの件では。
「モノクロ版よりフルカラー版の方が髪と目の配色や服の色も事細かに知れて創作活動したい時にお得であろ?」
 趣味趣向を読み切られた言葉での一撃は、妖精の思考と魔力の運用を乱れさせるほど強烈だった。
「旦那」
 灰色の反射で浅くない傷を負った黒星が間合いを詰める。
 アルベドの刃であるノコギリ鉄人形に斬鉄かつ致命の一刀を繰り出し、灰色の翼に割り込まれる。
 黒星は止まらない。
 もとより狙いはアルベドの命。
 避けようのない反撃を真正面から受けることで守りの疎を探し当て、肉と魂を同時に両断する一閃を抉り込むように繰り出す。
 深い切り傷がついてもアルベドは倒れず、しかし明らかに息切れをしていた。
「俺を忘れるなんてな」
 アルベドの真後ろにグレンが回り込む。
 灰色の中の均衡が崩れて妖精の要素が強まるのに気づいて、戦意と殺意を抑えて熱く語りかける。
「なあ、聞こえているんだろう?」
 馬車に乗り込む前の妖精達が、あの子を助けてあげてと必死に頼んでいた様子を思い出す。
 男に狂ったとはいえ、それ以前には身を粉にして大勢を助けた人物だ。
「本来仲間の為に命張れるような妖精だ。助けてやりたいのはマジだぜ」
 至近距離で感じられるグレンの熱も、香りも、灰色のアルベドにはない。
 ノコギリによる大威力の迎撃を、軽そうな言動とは裏腹の重厚な盾防御で防ぎながらささやく。
「女子が多いイレギュラーズの中で、幸い今回イケメンはタイプ別に選り取り見取りだぜ」
 実際その通りだ。
 ナイスミドル枠はいないが、面食い妖精の趣味は年下よりなのでむしろそれが良い。
「俺とか金髪碧眼の正統派王子様タイプだろ?」
 悪戯っぽく流し目を送る。
 アルベドは活発過ぎる心臓に耐えかね、ふらりと姿勢を崩す。
 なお、グレンに口説いている意識はない。
 罪作りな男になる素質十分であった。
「どうだい。手を取るなら巧いこと口裏を合わせるよ」
 武器商人は魅力的な商品を勧める商人の態度だ。
 アルベドに与して妖精に襲いかかったのもやむを得ない理由があったと、純真な妖精達を言いくるめるのは武器商人にとっては児戯に等しい。
「ほう……始めて触れたいい男に執着しているのかい?」
 中の妖精は外界に対して言葉を伝えられない。
 意思疎通に使えるのは、宝珠とアルベドを通して漏れ出る気配のみ。
 その気配だけで伝わるほど妖精の考えていることは単純で深刻だ。
 武器商人はなるほどなるほどと経験で補うことで聞き取って、こじらせた魔法使いを諭す。
「あのね。キミ、我(アタシ)が見える程度には使えるのだろ? 生きていれば機会があるに決まっているだろうに」
 アルベドが、眉をしかめて右手を左胸にあてた。
「僕がいるからにはそう簡単に休ませてあげないよ、悪いね?」
 妙な成り行きのアルベドとその至近とは違い、ルフナやノコギリのオートマタは真剣だ。
 各地で隔絶した戦果をあげるイレギュラーズでも、これほど激しい長期戦を行うと消耗が凄まじい。
 だがルフナは相変わらず元気だ。
 イレギュラーズが負った傷全てを癒やすのは無理でも、ダメージが集中したイレギュラーズを紛れ当たりからの戦死にならない程度に癒やすことが常に可能だ。
「後でお礼しないといけないかもな」
 森に何かの形で感謝を表そうと、顔には出さずに心に決めていた。
「む」
 黒星が微かに目を見開く。
 アルベドの皮膚を裂くつもりだった斬撃が、そのままノコギリに当たって押し折りオートマタの胸に突き刺さる。
 絶妙のタイミングでの一撃は、重要部分を守る内部装甲も砕いて致命傷を与えていた。

●説得
「終わったか」
 森の気配の変化を、フレイが一番先に気づいた。
 黒雷に捕らえた針使いが無理矢理に影響下から逃れて馬車を追ったのには驚いたが、無理がたたって本来の性能を発揮出来ずに終わったようだ。
「しかし……」
 フレイ自身と形は同じアルベドを改めて観察する。
 知性と知識はある。
 けれど感情が薄い。
 ただの燃料タンクあるいは補助動力でしかない妖精に強い影響を受けてしまうほど、薄い。
「自律しているならもう逃げ出しているはず」
 確信をもって前に出る。
 戦闘時の慎重かつ果断な足取りではなく、平素の……ありのままの態度で灰色のアルベドの前に立つ。
「さて、俺のアルベド……どんなもんかな。宝珠、核にされてる妖精は偽物と本物、どっちを推すんだろうか」
 フレイは自身を飾らない。
 圧倒な素材の良さが、輝くような存在感をフレイとその言動に与えている。
「俺のところに来い」
 アルベドの心臓が勝手に跳ねた。
 己を利用すると同時に己に支配されたアルベドと、一生縁がないはずだった本物のフレイのどちらを選ぶべきか迷っている。
「本物はここにいるぞ」
 妖精が手を伸ばしたところで手に入る保証などない。
 一度言葉を交わして終わりとなる確率がほぼ10割だ。
 だが、それでも、差し出さた密はあまりに魅力的過ぎた。
 フレイとアルベドが正面から見つめ合う。
 アルベドが妖精を人質にとれば、逆転は無理でも逃走に成功するかもしれない。
 しかし燃料というより半身に近くなってしまった妖精に背かれたなら、フレイ達に立ち向かう勇気など出てこない。
 アルベドの胸から宝珠が浮かび上がる。
 灰色の指が撫でると、妖精を雁字搦めにしていた錬金術が緩んで宝珠の形が崩れていく。
「良い子だから出ておいで、本物のイケメンたちが君を待っているよ」
 ヴォルペはアルベドに目で別れの挨拶をして、魅惑的な態度で妖精へ呼びかけ人格と肉体が防ぐのを防ぐ。
 しばらくして、宝珠は無事に妖精として安定した。
「ぁ、の、私っ」
 複雑にカットされたダイヤモンドを思わせる髪の妖精が、怯えながらアルベドを振り返り、涙目になる。
 アルベドは優しく微笑み、主の我欲に振り回された部下と共に眠りにつく。
 優しい風が吹き、灰と鉄の主従の体を撫でていた。

●和解
「ばかー!!」
 馬車から飛び立った妖精が魔法使い妖精に押し寄せ、号泣しながら抱きついた。
「ごめっ……」
 少し前までアルベドと共にいた彼女は、まともに言葉を口に出せない。
 仲間の命と魂を狙う勢力に荷担したという事実が消えず、どう償えばいいのか分からないからだ。
「ふふん、どうやらまだ宝珠化が解けておらぬようじゃの」
 クラウジアが楽しげに笑って助け船を出す。
「よぉしおぬし、ちょっと回り見るんじゃ!」
 彼女を囲む妖精がきょとんとして、フレイが優しく見守り、武器商人が面白がっている。
「白色パチもんより、色付きの本物のほうが良いと思わんかの? 今なら他にもイケメンが選り取り見取りじゃぞ、お買い得じゃぞ!?」
 自分のことを言われたと勘違いした妖精が照れている。
 ルフナが苦笑して、激しい運転で体を少し打ったりもしている小さな妖精達を治療してあげていた。
「推しのためなら魂もかける……わかります!」
 ココロが魔法使い妖精をフォローする。
「さらにカッコイイ人だったら……わかります!!」
 フレイをちらっと見る。
 妖精の女性陣も、命と魂の危険がなくなったのでイレギュラーズと魔法使い妖精を見て納得顔になる。
「皆、大丈夫か? 馬車が無理なら抱えてやるが」
 フレイがしゃがんで視線をあわせると、多くの妖精が怯えそうになり……アルベドの無機質な瞳とは全く違うオッドアイに気づく。
「はい!」
「だいじょうぶです!!」
 妖精達は、すっかりもとの調子を取り戻していた。
「行こうぜお嬢さん」
 グレンが魔法使い妖精をエスコートする。
 物的距離の選択が絶妙で、負担をかけることなく妖精の和から連れ出す。
「しかし!」
 ココロの囁き声。
「ここまで仲間の妖精さんを追い詰めちゃうってのはやりすぎ!」
「そうじゃの。このままではしこりが残るかもしれぬ」
 神妙な態度でうなずくクラウジアだが目が笑っている。
「帰ってから、おしおきです」
 馬車のすみっこに、内圧で膨れた缶が1つ鎮座していた。

 臭いの被害は、妖精1人だけに留まったらしい。

成否

成功

MVP

稲守 朱祠(p3p008680)
黄金の小俵

状態異常

グレン・ロジャース(p3p005709) [重傷]
不沈要塞
クラウス・シユウル・ストレイン(p3p008567) [重傷]
魔缶喰らい
稲守 朱祠(p3p008680) [重傷]
黄金の小俵

あとがき

 見事に(行動も)イケメンでした。

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