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シナリオ詳細

<月蝕アグノシア>ワルプルギスナイト・リザーブ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある独白について。希代の大魔女とその血統。
 『あれ』の遺伝子が手に入った時は少しだけテンションが上がったかなぁ。
 あっもちろん最高潮はマイハニィを完成させたときだったけどね。本物が手に入った時の予行練習と分かってても……フフッ、フフッフフ。
 おっとなんだったかなそうそう『あれ』。希代の大魔女……の娘? 孫? ひ孫? 興味ないけど、あれの子孫の遺伝子だからね、当然強力な力を秘めてたよ。
 ンッンーーーーだめだめちがうちがうハニィの美しさには全然及ばないよ。そうだよね僕もだよンッフ、両思いィ!
 それで大魔女の子孫の遺伝子。これをね、僕なりにうまいことまぜてこねて上手に錬成してやったら、ハッハー、できちゃったよね『かつての大魔女』がさ。
 現役のあれと比べれば劣化互換もいいとこだけど、今回の仕事には役立ってくれる筈だよ。うんうん分かってる。終わったらい新居を建てようねぇ。ハートのシャンデリアも飾ろうねぇ。あっねえ見てよどう思うこの設計図――
「うわキモッ」

●人工大魔女『アルベドアルメリア』
 妖精郷が悪の錬金術師タータリスクによって侵略され、女王がその手に落ちようとしている。
 かろうじて大迷宮の攻略を終え妖精郷へとたどり着いたイレギュラーズたちは、門を用いて次々に突入。妖精たちの救助依頼をうけ、女王と他の妖精たちの救出を目指し動くことになった。
 これまでの迷宮探索はもちろん、深緑でおきる様々な依頼に関わり多くの経験を積んできた『緑雷の魔女』ことアルメリア・イーグルトン(p3p006810)。彼女もまた、この依頼に参加したひとりである。
「なんなのよ、この施設は……」
 彼女が任されたのは町外れの遺跡。広大なドーム状の屋内には太い木が生え、壁一面を埋めるかのごとく根や枝が広がっている。
 複雑な幾何学模様が彫刻された石の壁は植物のせいで見えないが、木の内側から漏れる青白い光がドーム全体を照らし、ここをひとつの完成した『施設』たらしめていた。
 施設と表現したのは、一定の目的があるように見えたためである。
「『フェアリーシード』、ね……」
 アルメリアの肩に艶っぽく腰掛け、頭に寄りかかるようにして囁く妖精。名をmanjusakaという。妖精郷で依頼を受けるに当たりアルメリアたちの案内役を買って出た妖精である。過去の依頼で知り合ったこともあり、そう浅からぬ仲である。
「ねえ、アルメリア。この中に私のおともだちが閉じ込められているの。あぁ、だめよ。乱暴にしちゃ……ここでするには時間がないわ。安全な場所に帰ってから、ね?」
 艶っぽくささやきかける彼女にどこかこそばゆさを感じつつ、アルメリアは仲間達と協力し、言われたとおりにフェアリーシードを袋に詰めていく。
「とにかくこれで妖精たちは助かるのよね。あとはファルカウにでも戻って……」
 と、その時。
 アルメリアのもつ鋭敏な感覚が、周囲の植物を通して『恐ろしいものの接近』を感じ取った。
「みんな、袋を安全なところへ! それと――構えて、いま!」
 ドンッ。と、ごく間近で打ち上げ花火を聞いたかのような音をたて、壁の一部が吹き飛んだ。

「ふうん……いい加減なオーダーだから、空振りかと思ったけれど……」
 長くした前髪で目元を隠し、長い耳をだした女性。
 豊満なボディラインをどこか挑発的なまでに見せつけ、女は……アルメリアにそっくりな、真っ白な女は微笑んだ。
「案外、楽しめそうじゃない」
 わずかにあいた前髪の隙間から、とろんとした目が見開かれる。
 光彩に走る虹色の六芒星が、強く輝いた。
「――ッ!」
 仲間とmanjusakaにフェアリーシードの安全を託し、自分は素早くフォースフィールドを展開。
 何重にも重ねられた魔法の大盾を、まるでそうされるのを知っていたかのごとくロックオンする『白いアルメリア』。
 口をわずかに開き、艶っぽく囁く。まるで数百人が一度に別のことを囁いたかのように音声が重なり、超圧縮された詠唱が八つの魔方陣を形成した。
 否、八つにブロック分けされた、数百枚の魔方陣を重ねたオクタコア魔術式である。
 その全てが簡単には言語化不能なほど複雑に入り乱れ、無数の自然現象を包括した『災害』を放射した。
 アルメリアのフィールドが一秒たらずで溶解し、強引に肉体を打ち抜かれていく。
「かふ――」
 ぐらつく身体。しかし倒れるわけにはいかない。
 歯を食いしばって立つアルメリアを、白アルメリアはくすくすと笑って見つめた。
「前に『見た』時よりやるようになったじゃない」
 コートを広げ、しなをつくるかのようにお辞儀してみせる。
「自己紹介してあげる。私はアルベド。名前なんてないけど……もしあなたがいらなくなったら、『アルメリア』って名乗らせて貰うわね?」
「冗談じゃないわ」
 アルメリアは即座に魔術式を構築。膨大な雷撃を白アルメリアひとりに向けて集中放電した。
 が、白アルメリアは人差し指でもみあげ髪を払うのみ。自動的に展開した多重フィールドがアルメリアの雷撃を吸収。消滅させてしまった。
「そんな――」
「言い忘れてたわぁ」
 白アルメリアは髪をくるくると指でまいてから。
「私はあなたの遺伝子から作られたけど、『それだけ』じゃあ、ないのよ。簡単に言うと……」
 フッと指先に息を吹く。
 それだけで、彼女の周囲に複数の植物性ゴーレムが出現した。
「あなたよりずぅっと、強いの」

GMコメント

■オーダー
 非常に高い戦闘力をもったアルベド、通称『白アルメリア』の襲撃を受けた皆さんは、妖精たちを救い出すべく戦うことになりました。
 しかし無制限にゴーレムを生み出し続ける力と膨大すぎる魔力を前に、勝利はほぼ不可能と見られています。
 複数の部隊が増援に駆けつける予定なので、彼らが到着するまで白アルメリアの猛攻を耐えきりましょう。

 ちなみに耐えきるべきターン数は『不明』です。
 できるだけ長く、とにかく頑張って、根性で耐えてください。
 スペックや作戦をガンガンに積み上げて、その上でメンタルでしのぐ必要があります。

 白アルメリアは彼我の戦力を測れるっぽいので、増援が到着次第リスクを計算してすぐに撤退していくでしょう。

・プラントゴーレム
 白アルメリアの召喚した植物性ゴーレム。
 歩く樹木のような外見をしており、全長はおよそ2m前後。
 打撃による近接攻撃を主体とし、個体ごとに異なる様々な毒(種類の異なるBS能力)で攻撃します。
 白アルメリアはこれを攻撃にばかり使用し、特に防御には使わない予定のようです。

 放っておくとドンドン増えるので、これを排除しながら白アルメリアの攻撃に対応しなければなりません。

・白アルメリア
 アルベドという人工生命体にアルメリアの遺伝子とフェアリーシードを合わせて完成したホムンクルスですが、特別な加工が施され通常固体よりもかなり強力になっています。
 外見はアルメリアに近いですが、記憶や経験などは引き継がれていません。
 白アルメリア個人の自我が芽生え、どこか享楽主義的な考え方で動いているようです。(といってもタータリスクの命令は絶対ですが)

 攻撃方法は複数存在し、あらゆるBSに対する耐性や高すぎる自然回復能力を持ちます。
 EXAやCTも含め攻撃性能は全力全開のアルメリアをはるかに上回るもので、チーム単位でかなり工夫しなければ耐えきることはできないでしょう。
 さしあたって、彼女の攻撃を誰かが一方的に受けきって耐え続ける系の作戦は立てない方がよいでしょう。

・フェアリーシード
 今回に回収した品です。妖精たちが入っていて、この状態から助けることができます。
 アルベドの重要な核であり、これを埋め込まれたアルベドはフェアリーシードを破壊されると死んでしまいます。
 一応安全な場所にあるので戦闘中なんかの余波で壊れたりはしないものと考えてください。

 また当然白アルメリアにも入っていますがそこが弱点なのをちゃんと自覚しているのでバッチリ守られています。少なくとも今のところは、弱点を射貫いて倒すのは無理筋でしょう。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <月蝕アグノシア>ワルプルギスナイト・リザーブLv:15以上完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年07月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
黒・白(p3p005407)
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
フォークロワ=バロン(p3p008405)
嘘に誠に

リプレイ

●死線が頬をなでるから
 崩壊した壁から光さす、石造りのドーム。
 中央につきたった巨大な木を中心に伸びる複雑な根と枝群が変容し。プラントゴーレムへと『製造』されていく。
 ねじり合わせた文字通り丸太の如き腕を振り上げるさまを見て、『緑雷の魔女』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)は咄嗟にその場から飛び退いた。
 今度こそ入念にフォースフィールドを展開。打撃はフィールドで阻まれ、飛び退いたことによる衝撃逃がしによってアルメリアへの追撃は免れた。着地と同時に回復術式を起動。自らを治癒すると、展開したままの複合魔方陣を再起動してゴーレムめがけて集中放電を放った。
 痺れてのけぞるゴーレムを見て、白アルメリアは横髪をくるくると指でまきながら甘い声を出した。
「上手ぅ。さすが、私の材料になれただけはあるわね。ゾクゾクしちゃう」
「ふっ……悪い冗談だわ。ちょっとお母さんみたいなしゃべり方しちゃってさ。
 『アルメリア』の名は絶対に渡さないわよ!」
「あら残念」
 白アルメリアはさらなるゴーレムを生成し、アルメリアへとけしかけていく。
 腕を巨大な斧に変えて殴りかかるそのさまを、豪快な跳び蹴りでもって『never miss you』ゼファー(p3p007625)が阻んだ。
 勢いで転倒したゴーレムからムーンサルトジャンプで距離をとると、槍をその場に突き立てて挑発的に手招きをした。
「見掛けはそっくりみたいですけれど……中身は本物ほど可愛くないみたいね?」
「可愛っ……!?」
 顔を赤くして振り返るアルメリア。ゼファーは彼女にぐーぱーしてみせると、引きつけたゴーレムたちの攻撃をポールダンスのようななめらかな動きで次々と回避していく。
「しかし、これは厳しい戦いになりそうですね……」
 『嘘に誠に』フォークロワ=バロン(p3p008405)は浮遊する仮面をそっと被ると、その内側で眉間に皺を寄せた。
「はじめのやりとりを見る限り、この人員で倒すのはおそらく不可能。大量のフェアリーシードを抱えて逃げるのを見過ごしてくれるような状況にも見えません。で、あれば……」
 フォークロワは白アルメリアに見えないようにハンドサインを出した。
 『ここは耐え凌ごう』というサインである。
「ん……」
 小さく頷く『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)。
 作戦規模の大きさから、フェアリーシードの運搬を手伝って貰うために追加人員が投入される予定だった。
 彼らがどのくらいの時間で到着するかはわからないが、少なくとも白アルメリアにとって『攻めあぐねる状況』にするには充分な戦力になるだろう。
 スタミナが無限に沸いてくるとも思えないので、『味方が到着するまで戦力が一定以上維持できていれば勝ち』だ。
 フォークロワはさらなるサインでゴーレムを狙う意図を示すと、『救済なき激情』の魔術を解き放った。
 仮面からこぼれ落ちた黒い涙のごときエネルギー体がゴーレムを打ち抜き、全身をぶくぶくとおぞましい病に包み込んでいく。
 直後。
 自分たちの頭上に大量の魔方陣が出現。
 魔方陣の『術式』に既視感を覚えたウィリアムは――。
「落下物に注意。全力でよけて」
 多重魔方陣を防御に極ふりしてその場にかがみ込んだ。
 魔方陣から作り出された巨大な杭が、大地に突き刺さり激しい爆発を引き起こす。
 ウィリアムが少しまえに常用していた破城槌魔術の発展系であった。
「ロートルマジックかと思ったけど、ちゃんとアップデートしてるんだね。恐れ入るよ、全く!」
 ウィリアムは反撃として地面に魔方陣を叩きつけ、スライドするように投げるジェスチャーをした。
「うちの祖母や母もそうだけど深緑の魔女は本当に恐ろしいな……でも、だから何だって話さ。強敵相手に生還するのは僕達の得意分野だ。そう簡単にくれてはやらないよ!!」
 ゼファーを中心にセットされた巨大魔方陣がパープルカラーの発光を起こし、群がっていたプラントゴーレムを破壊していく。
 その中で攻撃に耐えることの出来たゴーレムめがけ、バチンと赤い稲妻が走った。
 否――『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)が空中をまっすぐ駆け、跳び蹴りの姿勢のままゴーレムの横を通り抜けていったのだ。
 一瞬遅れて大量の火花が爆発。プラントゴーレムが炎上して崩れ落ちる。
 その様子を確認してから、マリアは白アルメリアへ振り返った。
「アルメリアのホムンクルスか。仲間の姿をした存在を攻撃するのは気が進まないね……ふふ!
 まぁそもそも分が悪いのはこちらなんだけどね!」
「勝手に皆のコピーなんて作って好き勝手して……私達も妖精も、玩具じゃないんだから……!」
 燃え上がるゴーレムの残骸を飛び越えて、『青の十六夜』メルナ(p3p002292)が高く剣を振り上げた。
 手から刀身へと伝わり、火柱のごとく燃え上がる蒼色炎。
「思い通りになんて、させないよ!」
 着地と同時に繰り出された大上段からの斬撃がプラントゴーレムの腕を切断。
 燃え上がったゴーレムがメルナに自らのツタを巻き付けて拘束しにかかるが、メルナはまきついたそばからそれを焼き切ってしまった。
 まさか、といった様子で半歩さがるゴーレム。
 その隙を突くかの如く、黒・白(p3p005407)の『ディスペアー・ブルー』が襲いかかった。
 彼の『同胞』たちの力がゴーレムたちへ掴みかかり、肉体を破壊しながら操り人形のごとく別のプラントゴーレムめがけて襲いかからせる。
 白は脳裏にずきりと走る痛みのような記憶をよぎらせ、顔をしかめた。
「あんな思いさせるもんか。コワイとすら考えられなくなるようなあんな、あんな事なんかッ!」
 悲劇を拒む心。
 死を恐れる心。
 その二つが混在し、白はとめどなく流れる汗をどこか乱暴に拭った。
「みんな、僕と白のまわりに集まって。回復と強化効率を最大にあげるんだ」
 マルク・シリング(p3p001309)は突然の戦闘で乱れかけた仲間達の動きを統率すべく声を上げ、自らを中心に『サンクチュアリ』の治癒術を展開した。
 一度は散っていたマリアやメルナがかけより、数体のゴーレムを引きつけていたゼファーが彼らを守るように槍を防御姿勢で構えた。
 ちらりとマルクへ振り返る。
「円陣形は不利じゃない?」
「だね。ドームの壁を背にして扇状に展開するんだ。少ない人数でも包囲を防げるんじゃないかな」
 マルクと白が並び、その周囲にフォークロワ、ウィリアム、アルメリアが鏃のような三角形をつくって展開した。
「あら、あら……」
 白アルメリアはその陣形を見て頬に手を当て、ゆっくりと首をかしげた。
 左手の人差し指で、いちにいさんと前衛の数をかぞえる。
「わかった、『居飛車穴熊』ね? じゃあ……こっちは手駒イッパイで攻めちゃいましょ。何秒くらい耐えられるかしら」
 そういって笑うと、更に大量のプラントゴーレムを発生させた。
 どこか絶望的にすら見える光景に、マルクは息を呑んだ。
「しのいでみせる。誰一人欠けること無く、戻るんだ」

●大魔女の血統
 三方向にわかれそれぞれの得意攻撃を仕掛けてくるプラントゴーレムたち。
 左右にそれぞれ展開したメルナとゼファーが炎や体術によってゴーレムのもつ毒を即座に浄化。集中攻撃のダメージを器用にかわしていく。
 一方でマリアはダメージの蓄積を恐れて後退したプラントゴーレムにトドメをさすべく紅の雷を軌跡にしながら無数の残像をつくりゴーレムたちを蹴り殺し、ザッと地面を軽く削る勢いで元の位置へと戻ってくる。ドッグタグが一瞬おくれてちゃりんと揺れた。
 そんな彼らの蓄積ダメージを治癒するのがマルクと白のサンクチュアリ&天使の歌の連続使用である。
 前衛タンク及び準タンクチームが受けるダメージを少なくすることでヒーラーの消耗を下げ、ヒーラーはそのタンクが戦闘不能にならないように治癒や強化を継続していく。
 そして敵の個体数が増えすぎないようにウィリアム、アルメリア、フォークロワの三人が一体ずつへの集中砲火で減らしていくという作戦である。
「順調だね」
 白のつぶやきにしかし、マルクは頷きはしなかった。
「状況は動くものだよ。最初の変化はそろそろかな」
 マルクが予想した通り、仲間のAP減少が深刻化してきた。10ターンほど連続使用すればかなりの消耗がおこるものである。
 AP吸収やHP吸収連打によって自主的にリソースを維持できるマリアくらいならともかく、殆どのメンバーに息切れの兆候が現れた。もちろん殲滅効率や回復効率も落ちるので、それまで防御に徹してAP消費を温存していたゼファーが攻撃に転じたりいざとなった時後衛神秘アタッカー(アルメリアとウィリアム)が緊急治癒に回ることが事実上難しくなったりといった変化が起こった。
 そして最大の変化が……。
「すごいわね、アルメリアちゃん。それと、お友達のみんな。
 力を合わせて沢山の敵に立ち向かう。とっても偉いし、嬉しいわ」
 ニッコリと笑い、白アルメリアは胸を持ち上げるように腕組みをした。
「でも……オモチャの相手も、そろそろ飽きてきたでしょう?」
 ゴーレムの残骸の上に座って足を組んでいた白アルメリアが、前髪をちょんと指ではらった。
「そろそろ遊んであげる。アナタたちのことも『解った』し――ね」
 大胆に足を組み直し、パチンと指を鳴らす。
 小さく開いた口から何百という多重圧縮詠唱が紡がれ、何百という魔方陣が空中に一斉展開した。
 その全てが巨大な雷の竜を生み出し、全ての竜が扇状の陣形を組んだ『全員』にたたき込まれる。
 マルクや白を中心として域範囲内に全員を収める陣形を組んでいたことから、同範囲の魔法による一斉攻撃が可能だったようだ。
 メンバーの能力構成に対して陣形を誤ったか――!?
「ぐっ――!」
 さすがにマズいと判断したマルクが前衛チームに代行防御を頼みつつサンクチュアリを連続使用。
 とはいえ今回の作戦のなかでそうした防御が十全にできるのはゼファーのみである。このままでは――と白が恐怖をあらわにしかけた時。
「一か八かだ。みんな、集まって!」
 マリアが全身から激しい電流を走らせ、突如として五人に分裂した。――否、あまりに早すぎる動きのせいで残像が生まれたのである。そしてその全ての残像が雷の竜によって破壊されていく。
「今のは……?」
 流石に死んだかなと目を瞑っていたアルメリアが薄目を開けると、バチンと赤いスパークを起こしたマリアが大地に拳を打ち付ける形で全員の前に着地。黒煙のごとき熱い煙を吐き出した。
「な、なんとかなった……かな」
「あら、まあ。残り全部を一人で受けきったの? 驚いたわ」
 すごいすごいといって、白アルメリアは手を合わせてぴょんと跳ねた。
「頼もしいお友達がいっぱい! ね、アルメリアちゃん」
「…………」
 ちらりとマルクのほうを見るアルメリア。
 マルクは咳払いをして頷いた。
「元来、『かばう』って行動は一人への攻撃を別の一人が代行するものだけど、範囲攻撃を二人以上を同時にかばえた場合それは『一回の被弾』としてカウントされるんだ。大体の場合はね」
 こんなに沢山かばえるなんてこと、状況的にも能力的にも滅多におきないけどねと、マルクは語った。
 だが一方で、白アルメリアはどこか悲しそうに首を振った。
「けど、ごめんねぇ。私、ここで全員殺さないといけないの。本当に、本当に残念だわ」
「また先ほどの攻撃を打ち込むつもりでしょうか」
 身構えるフォークロワたち。
 ――に、対して。
 白アルメリアは大きく息を吸い込み、数千規模の魔方陣を多重圧縮詠唱及び一斉展開した。ドームの全ての壁と床が魔方陣で埋め尽くされ、その全てから雷の竜が飛び出していく。

 打ち上げ花火が爆ぜる瞬間を見たことがあるだろうか。
 ドーム状の壁のうち、あらかじめ穴を空けられていた部分から真っ白な光と煙が吹き出したかと思えば、めくれ上がるように全体の壁が吹き飛んでいく。
 その中心にいた人間がどうなるかなど、想像に難くない。
(ぼくは、ぼくは――)
 風景がまるごと白い光に覆われ、肌の焼ける熱と石のような香りが感覚の全てを覆う刹那。
 白は沢山の腕の力を借りながらマルクのもとへととんだ。
 抱きしめるように包み込み…………その先は、全てが吹き飛んで消えていく。
「う、ぐ……!?」
 どのくらいの距離を飛んだのか、どこからどこへ飛んだのか。そもそもここはどこなのか。上下の区別すらつかないようなくらんだ感覚の中で、よろめきながらも起き上がるフォークロワ。
 すぐそばでは、大きな袋を抱きかかえるようにして横たわるゼファーとアルメリアの姿があった。
「ゼファーさん! アルメリアさん!」
「だい、じょうぶ……とは言いがたいわね」
 彼女たちが抱えていたのはフェアリーシードや依頼人の妖精であった。咄嗟の判断で彼女たちを守ったのである。
「優しいのね、ゼファーちゃん。あなたがアルメリアちゃんのお友達で、嬉しいわ」
 頬に手を当て、うっとりと笑う白アルメリア。
 彼女が手を小さくはらっただけで、煙と粉塵の全てが暴風に攫われて消えた。
 そこに残ったのは土をえぐりとったクレーターと、衝撃になぎ倒された木々と、かろうじて倒されずしかし放射状に斜めに傾いた木々たちだった。
「あんな場所であの魔法をつかったことがなかったの。ごめんなさいね。私、人生経験だけは少ないから」
 そう言いながら、アルメリアたちのもとへと歩き始める。
 敵に接近するというような歩き方ではない。スリットスカートから露出する豊満な足を見せつけるように、一歩一歩踏みしめてだ。
 頭を抑え、片膝立ちの姿勢でゼファーたちを庇うように腕を伸ばすフォークロワ。
 ゼファーもまた、フェアリーシードや妖精を庇うように抱きかかえる。
 と、その瞬間。
 ボゴッというくぐもった爆発音が白アルメリアを直接襲った。
 それも連続で三度。
 激しい粉塵が舞い上がり、白アルメリアが包まれていく。
 誰の仕業か? そう、ウィリアムの強襲魔法『鎧貫』である。
 空圧の爆発力をそのまま叩きつけるというシンプルな魔法だが、それだけに恐ろしい。
 血塗れの片腕をだらんと下げ、無事な腕で魔方陣を更に展開させていくウィリアム。
 ゼファーたちへと、大声でよびかけた。
「逃げるんだ! ここはもうだめだ!」
「あら……自己犠牲だなんて」
 粉塵が払われ、白アルメリアが現れる。
 さらなる『鎧貫』が、白アルメリアの展開したフィールドにまるごと吸収され消えていった。
「――っ!」
 目を見開くウィリアム。
「『夜明けの虹』……だったかしら。本当の実力は、きっとこんなものじゃないでしょうけど……」
 白アルメリアは振り返――た瞬間、肩に青い剣が突き刺さる。
 背後から迫ったメルナの剣が、白アルメリアの身体を貫いたのだ。
 激しく燃え上がる蒼い炎。
 メルナはゼファーへと振り返った。
「ここはなんとかする。だから――走って!」
 呼びかけはしたものの、メルナにとってこの『炎』はいざというときに温存していた最後の一発だった。
「素敵ね。とても感動的」
 白アルメリアはにっこりと笑って。
「けどだめ」
 ふと気づけば、皆の足下には巨大な魔方陣ができあがっていた。
 咄嗟にゼファーとアルメリアを範囲外へ突き出すフォークロワ。
 さらなる爆発が、クレーターを掘り下げた。

 走るゼファーとアルメリア。やマリアたちと合流できたが……。
「待って、お話しましょ」
 軽やかにスキップでもするような足取りで、白アルメリアが全力疾走のこちらに追いついてくる。
 マリアとマルクはそれぞれ頷きあい、くるりと反転。
「二人とも――」
 振り返るアルメリアに、マルクは指をチチッと振って微笑みで返した。
「なんとか味方と合流して。方向が正しいかどうか、今となってはわからないけど……」
「なんとか敵のカードを減らしてみる」
 マリアは白アルメリアめがけて飛びかかり、マルクも攻撃魔法を緊急起動。杖に白い光を纏わせて突撃する。
 そして――。





 そして、どれだけ走っただろうか。
 息を切らせて足をとめたアルメリアとゼファー。
「ここまで、くれば……」
 ずきずきと痛む頭を抑えながらも、呼吸を整える。
「もう……こういう運動は苦手なのに」
 アルメリアがかがんだ姿勢から立ち上がった、その時。
 ぽん。
 と。
 後ろから肩を叩かれた。
「じゃあ、宿題ね」
 自分と同じ声で、甘い甘い吐息が、耳にかかる。
 ハッとして振り返ったゼファーを、細い魔術の光が貫いていく。
 覚えていたのは、そこまでだ。
「今日はとっても頑張ったわ。アルメリアちゃん。また会いましょう? 次は、もっともっと強くなってね」

成否

失敗

MVP

ゼファー(p3p007625)
祝福の風

状態異常

マルク・シリング(p3p001309)[重傷]
軍師
黒・白(p3p005407)[重傷]
マリア・レイシス(p3p006685)[重傷]
雷光殲姫
フォークロワ=バロン(p3p008405)[重傷]
嘘に誠に

あとがき

 ――依頼失敗
 ――フェアリーシードと妖精manjusakaが持ち去られました
 ――倒されたイレギュラーズたちは、トドメをさされることなく放置されたようです

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