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シナリオ詳細

明鏡止水抜刀閃剣万交差

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


●概念達人平行拡散分離体
 わらじに足袋。黒袴の裾は広く。
 和服にハチマキ一本締めて。
 握る刀の柄の鉄。
 滑り、風抜き、閃き交差。
 砂利を踏む音すら置き去りに、傭兵の剣が跳ね飛んでいく。
 傾く視界。一筋を境にずれゆく視界。
 斜めに斬れて崩れ落ちる、人間だったもの。
 取り囲むは三人の傭兵たち。
 手には刀、杖に銃。
 顔なき『誰か』は刀を返し、傭兵の刀とぶつかり合う。
 火花連続、八方散花。
 くるり転じて銃弾を斬り、さらに転じて魔弾を斬った。
 ひと巡りして首を切り、吹くは血の雨、崩れる肉塊。
 閃き再び、かすむ腕。身体が転じて刀が刺さる。
 銃手は相手の額に向けて、めいっぱいに引き金を引いた。
 悲鳴と断末魔と願いをまぜて、声にならぬ声にして、魔力と弾丸が『誰か』の身体にたまってゆく。
 はじける姿は水風船。得たいの知れぬ黒い粘液があたりに散って、残るは死体が三つと魔法使いがひとりきり。
 魔法使いは膝を突き、流れ落ちる汗と鼻血をいっぺんにぬぐった。
「これがあと……三体もいるっていうのかよ」

●練達のつくりしもの
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)が懐から取り出したのは、蝋でスタンプされた封筒だった。
 印は幻想貴族がひとつ、知る人ぞ知る戦士の家柄である。
「練達が元の世界への帰還や神への抵抗を日夜試みてるのは知ってるよね?
 これはその一環として作られた、『再現された達人』さ」
 封筒を開いた中には、スケッチイラストが一枚と文書が一枚。
 スケッチには和服を着て刀を装備した、世界錯誤の男が描かれている。
 しかし顔はなく、黒く塗りつぶされていた。端には個性的なフォントで『概念達人平行拡散分離体』と書かれている。
「概念達人平行拡散分離体(フルコースオーダー)……不在証明によって制限された異世界の達人を再現する計画のひとつさ。
 ああ勿論、失敗してるよ。どころか練達を抜け出して幻想まで流れてきた。自治権の絡みもあってこちらの貴族様が討伐を買って出たけど、手持ちの兵隊を派手に喪うことになったみたいでね。
 傭兵仕事のひとつとして、ローレットに依頼が回ってきたってわけさ」

 仕組みを詳しく理解するのはきわめて困難だ。
 さわりだけを説明するなら、達人の能力をめちゃくちゃに希釈した人工生命を作りだし後から少しずつ合成させ続ければ元の能力にたどり着くのでは、という計画であったらしい。それは途中で頓挫し、破棄する段階になって人工生命が脱走したという経緯である。
 ショウは指を立てて見せた。
「ローレットが受け持つ個体数は『3』。
 ある程度分散して動いているから、チームを分けて同時にあたってね。
 それぞれのチームで戦力バランスを整えるのが肝心だよ」
 対象は刀を用いた近接戦闘を得意としている……かのようにみえるが、高い回避や防御技術でダメージを縮小したりクリティカルな攻撃を仕掛けたりといった器用な立ち回りをみせるという。こちらも、戦闘不能者の発生や相応のダメージを覚悟して挑みたいところだ……とショウは話した。
「そうそう、長い名前じゃ呼びづらいだろうから、彼らの呼び名を教えておくね。
 概念達人平行拡散分離体(フルコースオーダー)、通称――M68(エムゼクスアハト)だ」

GMコメント

【オーダー】
成功条件:M68を2体以上撃破すること(2体が撃破できた時点で成功判定)

●依頼特徴
・分断(長):味方内で複数のチームに分かれます。情報伝達ができず、戦闘中に合流することもできません。
・探索不要:探索判定をカットし、対象を発見した状態から始まります。
・殲滅(余裕有):対象を殲滅することが成功条件です。ただし全て殲滅できなくても成功条件が満たすことが可能です。

【ルール】
 このシナリオではチームを2~3に分けて戦闘を行ないます。
 人数比は自由です。参加メンバーの総合戦闘力や役割分担を見て、配分を相談してください。
 殲滅対象の捜索から発見までは判定上カットされ、リプレイでは主に戦闘シーンから開始されます。
※ただし2チーム制にした場合は3体目を見失うため殲滅対象は2体のみになります。このパターンでも成功条件を満たすことは可能です。

【フィールド】
 殲滅対象は幻想南東をバラバラに移動しています。
 仕掛けるタイミングを選ぶことによってよって戦闘するフィールドをある以下の内から決めることができます。
A『市街地』:頑丈な建物が多く高低差がつけやすい。屋内戦に持ち込むことで機動力をそぐことも可能。ただし民間人が周囲にいる。
B『森林』:木々が多くR2以上の攻撃が外れやすい。付近に一般人はいない。
C『港』:平地が多く海が近い。屋内戦には持ち込みづらい。一般人はいるが専門家ばかりで数は少ない。

【エネミー】
●M68(3体)
 作られた達人の希釈物。
 和服を着用し、刀で戦う。
 顔は認識できず真っ黒に塗りつぶされたように見える。

・能力特徴
 総合戦闘力:高い。参加メンバー数人がかりで挑むのが基本。
 長所:EXA、回避、防御技能
 短所:EXF、特殊抵抗
 パッシブ:【反】

・使用スキル
 閃剣交差(物至単【連】、高CT補正):素早い斬撃を繰り出す。
 縮地一閃(物遠単):遠くの対象を切りつけて瞬時に元の位置に戻る技。
 ×××××(非戦):一切の効果をもたない非戦スキル。正体不明。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 明鏡止水抜刀閃剣万交差完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月18日 21時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ナーガ(p3p000225)
『アイ』する決別
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
宗高・みつき(p3p001078)
不屈の
ゲンリー(p3p001310)
鋼鉄の谷の
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
長月・秋葉(p3p002112)
無明一閃
メルト・ノーグマン(p3p002269)
山岳廃都の自由人
レン・ドレッドノート(p3p004972)

リプレイ

●達人の領域、神の領域、そして限界
「ふうむ……」
 木の枝に立ち、幹に背を預ける『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)。
「強敵と聞いて浮き足立っているのが自分でも分かるな。拙者も所詮はただの修羅か……しかし」
 ぴょんと枝をとび土面へ着地する。
「悪鬼羅刹となるべき時、なのやも」
「M68……」
 そばに立っていた『無明一閃』長月・秋葉(p3p002112)がかわった形のハルバード・ウェポンを担ぎ、ずっと遠くからやってくる何者かを見つめている。
(作られた達人の希釈物……どんな達人の腕が見られるのかしら……不謹慎ながら楽しみだわ)
「正しくは概念達人平行拡散分離体(フルコースオーダー)だったかな。異世界の達人、ね」
 会話にのるようにして横に並ぶ『山岳廃都の自由人』メルト・ノーグマン(p3p002269)。
 剣を抜き、バックラーの具合を確かめた。
「そんなもんを完全再現されたらトンでもないことになってたかもしれないけど、まあ……」
 『とにかくマトモな生命体じゃないなら尚更慈悲も無し』と頭の中で続けて、戦闘の構えをとる。
「未完成だの、まだ再現しきれていないだの……俺には関係ねえ雑音だな」
 腕組みをして樹幹にもたれかかっていたレン・ドレッドノート(p3p004972)が、フードを脱ぐようにして前に出た。
「機械だろうが子供だろうが女だろうが、皆、武器を持ち、戦場に立った瞬間から俺は等しく扱うぜ」
 拳を握りしめ、口づけをするように手の甲を口元へ当てる。
「戦える相手がいることに、感謝を」
 対象はひとり。
 こちらを認識してはいるのだろう。
 だが全く歩幅も姿勢もかえることなく、どこかのんびりとさえ感じる歩行でこちらへやってくる。
 M68。顔の見えない誰か。

 幻想の東。橋を渡った先。
 どこか薄暗くすら感じる森の中で、『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)はうーんうーんと唸っていた。
「生み出された存在ってものはどうなのやら……」
(達人の混ぜ物には果たして魂はあるのか? これは送るべきものなのか? いまいちわかんないね)
 M68に対してホムンクルス問題みたいなことをぐるぐると考えているようだ。リンネ独特というべきか、人によってはさっぱりな悩みだろう。
「どっちにしろ始末するんだから確認すればいいよね。もし送れたら魂がある、送れなかったらない! それだけ!」
 最終的には叩いて決めるというゴリラ理論に行き着き、ほっぺをぱしんと叩いて元気を取り戻すリンネ。
 元気になるのを待っていたのか、その場であぐらをかいて斧を研いでいた『鋼鉄の谷の』ゲンリー(p3p001310)が顔をあげた。
「『ニホン』とかいう異世界にいる『サムライ』という奴かもしれん。どれ、一つ腕競べといこうかの。ほれ」
 ゲンリーの投げた研ぎ石をキャッチする『大空緋翔』カイト・シャルラハ(p3p000684)。
「ありがと。ところで練達って異世界に帰るの目的としてるけど、俺とかも異世界に行けるのかな? おもしろそうだよな!」
 リンネもゲンリーも、自分の生きていた世界があった。
 そこへカイトがやってきてからから笑うさまを、ちょっぴりとだけ想像できた。
「ともかく、っと」
 三つ叉の槍を掴み、しゃらんと研ぎ石を走らせる。
「楽しみだよな、戦うの!」
 待ち遠しいか。
 否、待つ必要などない。
 橋を渡って、こちらへとやってくる何者かがある。
 三人はそれを察知して、それぞれらしい笑顔を浮かべた。

 幻想の端っこ。墓地を抜けた先にある黒い森。
 その一角に、『アイのミカエラ』ナーガ(p3p000225)はいた。
 とても変わった空気の大型シャベルを抱え、ぬいぐるみを抱える少女のごとくニコニコとしている。
「タツジンさんをうすめて……?? うーん、ナーちゃんはオバカなのでよくわからないけど、アイしてしまえばカンケイないよね!」
 ナーガの独特な感性や思想を横に置いて、そばで銃の点検を終えた『不屈の』宗高・みつき(p3p001078)が至極真面目な顔をした。
「風貌を聞くと、俺がいた世界の『武士』にすげぇ似てるように思うんだが……ま、どんな姿だろうと関係ねぇけどな」
 リボルバー弾倉をはめこむ。心地よい音が森にこだまする。
(それにしても、人工生命を作り出すとは、練達の技術力は恐ろしいな。どれだけ似たようなことが行なわれてるか……そもそも達人を生み出してどうするつもりなんだ。好奇心か、それとももっと別の……)
 悩み深く、眉間に皺を寄せるみつき。
 そんな気持ちを払うかのように、『駆け出し冒険者』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)がうーんと高く背伸びをした。
「私の知ってる達人っていったら『巴』かな。未熟な私の体を使っても、すっごい強かったもん! いつかは私も、達人と言われるくらい強くなりたいしね!」
 マントを払い、鞘についた革製の固定ベルトをパチンと外し、剣を抜きは鳴った。
 墓地を抜けてこちらへと向かう何か。
 顔の分からない誰か。
 M68(エムゼクスアハト)。
 概念達人平行拡散分離体(フルコースオーダー)。
 戦いが、始まろうとしていた。

●対決
 若草を踏んで走るわらじの音。
 刀に手をかけ距離をつめにかかるM68に向け、秋葉は運良く先手を取ることに成功した。
「達人の腕前……挑ませてもらうわ!」
 初撃は『名乗り口上』だった。それなりに高い命中精度があったはずだが、M68はそれをすり抜けるようにして接近をかけてくる。命中はすれどクリーンヒットには届かない、といった所だろうか。
 まずは斬撃だ。長い距離を一瞬でつめての斬撃。
 秋葉は咄嗟にハルバードの柄で攻撃を受けたが、衝撃で派手に飛ばされることになった。
 地面をひっかくように強制ブレーキをかける。
 入れ替わるように飛び出した下呂左衛門が抜刀――の前に両腕を突き出して相手に掴みかかった。
「さあ、見せて貰おうか、銃弾をも斬るという太刀筋を!」
 掴んだ、と思った時には相手の姿がかき消えていた。
 素早く後退し、下呂左衛門の組技を回避したのだ。
「そうでござろうなぁ」
 ごろんと前転をかけてから素早く抜刀。
 カウンターのように繰り出された剣を打ち払う。
 ここからの陣形はきわめて単純。『囲んで殴る』である。
「やることやってんだ、そろそろ痛い目見る番だよM68(エムゼクスアハト)」
 背後へ回り込んだメルトが、鋭く剣を繰り出した。
 ぬるりと動いたM68が突きを回避。構わず詰め寄って蹴りを繰り出すメルト。
 たまらず足を払われたM68は転倒したが、追撃をさけるように自ら回転を加速してその場から離脱した。
 だが彼らの包囲から逃れることなどできない。
「鉄帝の拳闘士、レン・ドレッドノートだ。いくぞ」
 ファイティングポーズをとったレンが、起き上がったばかりのM68に距離を詰めた。
 剣の間合いとパンチの間合いは全く別だ。懐に入り、顔面めがけて連続のパンチを繰りだしていく。
 対するM68は首と上半身の動きで回避しつつ、いつでも刀の間合いに入れられるように後退していった。
 更に詰めようとしたところで柄頭と顔面に迫る。M68の顔面とレンの顔面にそれぞれ打撃がヒットし、互いに飛び退くように距離をとった。
 戦力的には互角かそれ以下。戦闘のセンスはありそうだが、戦術的判断が下手そうだ。生存執着の気もない。
「戦闘マシーンってわけか」
 レンは唇の方端だけを上げて、薄く笑った。

 一方。リンネたちも戦闘に入っていた。
 突っ込んでくるM68を、槍を水平に構えたカイトがぶつかっていくことでブロックする。
 胸元を派手に切り裂かれたが、歯を食いしばってこらえた。
「達人か! 希釈したのを俺に集めれば強くなっちゃうのかな?」
 なんて軽口も見せてみる。
 対するM68はきわめて冷静だ。顔が塗りつぶされたように見えないからか、戦闘という行為をするためだけのマシーンにすら見える。
 リンネはそれをじっと観察していた。
(特に非戦の正体はしっかり調べておきたいんだけど……)
 今分かるのはM68とタイマンはったら死だろうということだけである。
 戦っていくうちに分かるのだろうか。
(今回で全部終わる、とは限らないしね)
 リンネは集中して観察を続ける。
 一方で、カイトの押さえたM68に横から切りかかっていくゲンリー。
「ぬうんっ!!」
 堂々と突っ込んで斧で切りつけるゲンリーの攻撃。
 その力強さに、M68もたまらずまともにくらうことになった。
 切り裂かれた和服の下から黒いよくわからないものが吹き上がる。よく見れば、和服もまた『黒いよくわからないもの』でできていた。そもそも服ですらないようだ。
(さてどうしたものか……)
 些細なことではあるが、ゲンリーは立ち位置に少しだけ困った。
 カイトと挟撃できる位置が望ましかったが、リンネが戦う前に『敵から狙われにくくフォローしやすい位置』を決めていたので矛盾するおそれがあったのだ。最終的にはリンネにあわせて、カイトと横並びで戦うことにした。
「立っている限りひたすら全力で攻撃を叩き込む、それが儂の役割じゃ。ゆくぞっ!」
 斧を振り上げ、ゲンリーは再び斬りかかる。

 墓地を抜け、黒い森を進むM68。
 それを真っ先に襲ったのはシャルレィスによる突撃だった。
「シャルレィス・スクァリオ、いざ参る!!!」
 なんちゃって、と言いながら強烈な斬撃を加えるシャルレィス。
 それを紙一重で回避するM68。
 すぐそばにあった木の枝がスパンと切断された。
「負けないよ!」
 即座にターンをかけるシャルレィス――とは別方向から、ナーガが勢いよく襲いかかった。
 一見、大きなシャベルを振り上げて叩き付けるだけに見えるかも知れないが、場合によっては一撃で相手を死に至らしめる打撃であることがわかるだろう。
 多くの場合、わかった時には死んでいるのだが、M68はそれを、刀を背に翳すことによって受け止めた。
 爆発のように激しい火花が散り、ナーガの無邪気な顔が照らされる。
 結果的に吹き飛ばされたのはナーガの方だった。
 シャベルでの防御を打ち抜くような斬撃で、ナーガが派手に飛ばされ、地面を転がる。
 みつきはそんなナーガに駆け寄って抱え起こし、早口でライトヒール術式を詠唱した。
 ナーガから抜けていく痛み。
 みつきは深く細く息を吐きながら、M68の様子を観察した。
(正面から挑むシャルレィスに、死角から攻めるナーガ、か。できれば俺は防御に集中しつつヒールをかけたいところだが……こうなると安全地帯はなさそうだ。腹をくくるか)
 みつきは念のためにとマギ・リボルバーを構えた。

●『×××××』M68
 ぬらり。
 瞬く間、閃き交差。
 ゲンリーの髭が顎の先で水平に切れて散っていく。
 反射的にのけぞっていなかったら、斬れて散ったのは首だっただろうか。
「まだまだ、ぬうん!」
 斧をしっかりと両手で握り、水平に払うゲンリー。
 M68は跳躍によって回避し、刀を返した。
 今度こそ狙いは首だ。
 ゲンリーは喉の奥から声を絞らせるようにしてわざと転倒。仰向けに倒れて刀を回避した。
 斧を一旦捨て、ごろごろ転がって離脱する。
「いかんいかんいかんいかん!」
「やばいやばいやばいやばい!」
 転がってきたゲンリーを杖の先の出っ張ったところで引っかけて、ダッシュで敵から引き離すリンネ。
「回復連打しとくんだった! そういう相手だった!」
 暫くは軍師的支援や戦略眼、エネミースキャンに集中していようと思っていたリンネだったが、仲間がHPの5割(実質700ポイントくらい)まで放っておくのはマズかったようだ。ゲンリーが場合によっては十秒足らずで戦闘不能になりかねない事態に陥ったのだ。
 変更変更! 方針変更! リンネはゲンリーを後ろに放り投げると、その勢いのまま杖を振り込んだ。
「よっし、時間は稼ぐぜ。その間に立て直せ!」
 追いかけようとしたM68を阻むように滑り込むカイト。
 槍をぐるぐると回転させ、手のひらを突き出す。
「暫く付き合って貰うからな!」
 カイトは槍に炎を纏わせると、豪快に振り回し始めた。
 花のように開く炎の軌跡。ギリギリで防ぎながら斬撃を挟み込むM68。
 お互いに切りつけ合ったところで、カイトは翼でおおきく羽ばたいた。
 槍を手放し、相手の頭上をとる。
「そこだ!」
 素早く繰り出した短剣の一撃がM68の頭頂部を切り裂いていった。
 着地――の直後に身体を貫く刀。
 膝をつくカイト。その一方で、リンネによって回復したゲンリーが突撃した。
「『ニホン』の示現流とやらはこう叫ぶらしいの――チェストォォォッ!」
 頭頂部の傷に打ち込んだ斧が、そのまま地面まで進んでいく。
 黒いなにかになってはじけ飛ぶM68。
 飛び散ったひとかけらをぬぐい取り、リンネは目を細めた。
「分かったような気がした、したけど……なんだろう」
 何の役にも立たない技術を、M68はもっていた。持っていて、使いこなせていなかったようだ。使わなかった、ようだ。あれは、なんだったんだろう。

 走りながら銃を連射するみつき。
 相手はM68、ではない。回復魔法弾を装填し、味方に打ち込んでいるのだ。
「踏み込みすぎるな、致命傷をもらうぞ!」
「うん、ムリせずやっていくよ!」
 ナーガはM68の斬撃をシャベルで弾きながらぴょんぴょんと後退。ある程度のところで突くように防御を捨て、まるで自分を追い込むような大胆さでシャベルを叩き込んでいく。
 M68の腹にめり込むシャベル。と同時に腹を大胆に切り裂かれるナーガ。
 致命傷、はギリギリでさけたようだ。襟首をひっつかみ、回復魔法を詠唱しながら引き下げるみつき。
「ナーガさんをお願い!」
 その間を縫うように割り込むのはシャルレィスだ。刀による追撃をマントを開くことで遮り、大胆に切り込んでいく。
「やらせないよ。最後に立っているのは私達だ!」
 瞬間に四本の斬撃が交差する。
 シャルレイスはそれを必死に打ち払っていった。
 火花が散って、散りきる前にさらなる火花。合わさる火花が巨大な花へと変わる頃、頬を一本の線がかすっていく。
 流れ出す血にかまうことなく、シャルレィスはショルダータックルをかけた。
 突然のタックルに虚を突かれたのか、M68は派手に押し倒された。
 と同時に、シャルレィスの腹を貫く刀。
「勝負、あったな」
 みつきがそんな風に呟いた。
 なぜなら。
 ナーガがM68の頭めがけ、シャベルを高く振り上げていたからだ。
「いま、アイしてあげるからね!」
 打撃は正確に。
 黒いなにかをまき散らす。

 角度調整15度。スイングと同時にブースター点火。大地を豪快にえぐる穂先。
 秋葉の豪快なスイングが、防御姿勢のM68に叩き込まれた。
 派手な縦回転をかけて吹き飛び、宙を舞うM68。
「速い……けど……うちのお爺ちゃんよりも遅い!」
 M68は強敵だ。しかし秋葉からすればまだ弱い。初戦は『希釈された達人』だ。
 樹幹に足をつき、凄まじい速度で跳ね返ってくるM68。
「まだまだ!」
 回転の勢いをそのまま増して斬撃を弾きにかかる秋葉だが、最終的に弾かれたのは秋葉だった。
 ハルバートが手元から飛んでいく。
 と同時に脇を抜けていくM68。
 吹き上がる鮮血。
 ほぼ同時にとびかかったメルトと下呂左衛門。
 巻き添えをさけるためにわざと倒れた秋葉の頭上を、下呂左衛門の斬撃が抜けていく。
 同じく、暗黒を纏わせて切りつけるメルトの剣。
 二人の斬撃はそれぞれM68を切りつけ、黒いなにかをまき散らした。
 が、手応えが浅い。
 ギリギリのところでクリーンヒットを逃している。
「ならば――!」
 下呂左衛門は更に踏み込み、紫電を纏わせた斬撃を繰り出した。
 M68の腹を割く剣。一方で下呂左衛門の腕を切り裂く刀。
「代われッ」
 巧みなすり足で距離をつめ、銃弾のようなパンチを叩き込むレン。
 飛び退いたメルトは気功術で自らを回復しながらレンと前後を入れ替わる。
 一方でM68は刀で防御――するが、レンの拳が軌道をかえ、刀を両サイドから挟み込んだ。
 ばきりと音を立てる刀身。にやりと歯をみせるレン。
 次の瞬間、M68の刀がへし折れた。折れた刀身は近くの樹幹に刺さって止まる。
 が、深追いはしない。レンは飛び退き、相手の出方を待った。
「…………」
 M68の顔が、うっすらとだけ見えた気がした。
 彼は、そう彼は、殆ど柄だけになった刀を放り捨て、レンと同じようにファイティングポーズをとったのだった。
「こいつ……俺と同じ土俵に合わせる気か?」
 すり足、同時。
 ストレート、同時。
 クロスカウンター。
 が、意地を通したレンは背筋に力を込め、アッパーカットをねじ込んでいく。
 だがそこまでだ。
 こらえきれずに仰向けに倒れるレン。
 その上を飛び越えるように、メルトが剣を繰り出した。
 パンチを振り切った姿勢のまま首をはねられるM68。
 黒い何かを吹き上げ、水風船のようにはじけ飛ぶ。
 メルトはよろめき、剣を杖のように立てた。
「まったく、どこもかしこも問題だらけだ」
 深いため息。吹き出る汗。
 乱れた呼吸を整え。
「私、自由人でよかったよ」
 メルトは目を閉じた。

 明鏡止水抜刀閃剣万交差。
 これにて閉幕。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!
 good end 2『土俵』

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