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シナリオ詳細

天泣に祝ふ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 晴天だと言うのにぽつ、ぽつと雨が降り出した。
 まるで空が泣いているかのように、微雨が降り注ぎ、流るる雲は知らぬ顔の儘、過行く。

 豊穣――カムイグラと呼ばれたその国は遥か海を隔てた東方に存在した。
 その特異な文化は独自に築き上げられたものではあるが、この国でもイレギュラーズに求められるのはトラブルの解決が主となるのであろう。
 中務卿の建葉・晴明は七扇の筆頭たる天香・長胤により『異邦の英雄は怨霊事件の有識者である』と八百万達に告げていたらしい。仮にも中務省の頭である晴明と八百万の筆頭である長胤の声明だ。それを嘘であると断じる者も居ない。
 その日、八百万よりイレギュラーズに舞い込んだのは『晴れの日』を守ってほしいという。

 晴天に恵まれた雨季の夏日にある八百万が婚姻の儀――結婚式を挙げるのだそうだ。
 然し、穢れ――負の『淀み』がその婚姻の儀にまで影響を齎した。
 紫陽花の咲き誇る美しきその屋敷の近くに突如として発生した負の澱は晴天の空より雨を降らせる。赤く赤く、まるで不吉を呪う様な血の雨を、その『淀み』の付近にだけ。
 それが婚姻の儀を行う邸に、と言うのだから一同は騒然とした。
 両家にとっては婚姻にケチをつけられてしまうことに他ならないからだ。
「事件の解決を得意としておるのだろう?」
 高千穂と言う名のヤオヨロズはそう告げた。娘の淡藤の婚姻を何とか良きものにしたいのだという。八百万の中でもその優秀な血筋であるという天香家の分家との婚姻は高千穂にとっても『好機』なのであろう。
 ――淡藤といえば、決められた家同士の婚姻にケチをつけることはない。
 物心ついた頃よりお家の為に、と言う風に認識していたのかもしれない。
「御父様、その神使の皆様にお願いすればわたくしと明千代様の婚姻に血雨は降らぬのですか?」
「ああ、そうだ。淡藤。お前からも神使にお頼み申しなさい」
 御簾越しではあったが鈴鳴る声を響かせた八百万の娘は長い射干玉の髪を揺らして深々と一礼した。
「まずはようお越しくださいました。わたくしが淡藤……明日、婚姻を上げる高千穂の娘でございます。
 曰く、負の淀みなるものが我が邸内に発生いたしました。その具現化が、血雨であると建葉殿より伺いました。婚姻に対しての恨み嫉みを――内容は分かりませぬ――持った女狐であろうとも、仰っておりました。」
 しとしとと晴天の空に降る血色の雨は一層不気味で、妖の手ではないかとさえ考えられるそうだ。
 穢れを払えばその雨も失せ、晴天の下で行えるだろう、と。
「偽でも構いませぬ。……婚姻の儀を『わたくしより先に行ってくださいませんか』」
 それは囮、という事だ。婚姻の儀を行うものを狙うかの如く狐の妖が姿を現すと、伝え聞いたと淡藤は言った。
 自身が囮を務めた所で足手纏い――守る者が増えるだけだ、とさえ彼女は感じている。
「無論、私がと言うなれば立派に勤め上げませう。
 しかし……足手纏いにはなり等無いのです。ですから、どうか――」
 偽の結婚式を行い、負の淀みを、汚れを祓っては呉れないだろうか。
 祝言をあげることとなる乙女は頭を下げる。お家同士の婚姻であろうとも、これより添い遂げる殿方と『今から』恋をし、幸せになりたいと淡藤は願っている。
 その婚姻にこのままではいらぬ謂れがついてしまうことを恐れたのだ。
「……わたくしができることがありましたらなんなりと。
 ――神使様、どうぞ、御力をお貸しくださいませ」

GMコメント

 夏あかねです。ジューンブライドやりたかったのです。

●成功条件
 ・けがれ『血雨狐』の撃破(撃破により祓えます)
 ・淡藤姫の生存

●場所情報
 高天京のほど近い場所に存在する紫陽花の美しい邸宅。
 高千穂と言う名の八百万が住まっていますが、近くに淀みが発生してからというものの血の雨が降り続いているそうです。
 婚姻の儀の準備は進められており、必要備品などはローレットや高千穂(淡藤姫)が準備してくれます。

●偽結婚式
 所謂囮です。何組でもOKです。
 もしも、囮になる方がいなければ淡藤が「わたくしが」と名乗り出ています。また、淡藤姫は『戦闘能力はありません』。
 結婚式は和で洋でもと淡藤姫は準備を整えてくれています。彼女曰く祝言を上げるならば慣れた様式の方がよいでしょう、とのことです。
 偽結婚式を行っていると血雨は具現化し、狐の姿へと変貌します。

●血雨狐
 此岸ノ辺より溢れだした負の淀み。今回は高千穂の邸宅に運悪くできたそうです。
 赤いお天気雨を降らせ続ける妖であり、その姿を顕せば、巨大な狐が花嫁衣装を着ています。
 婚姻に対する恨み嫉みがあるのか、幸福そうに祝言を上げるもの狙う為に実体化します。
 体力は少ないですが広範囲に攻撃を行うことが可能です。

●淡藤
 高千穂家の姫君。淡藤姫です。黒髪の美しい八百万であり、天香分家の青年との婚姻を控えています。
 家同士が決めた婚姻ではありますが、「せっかくですもの、添い遂げる方と幸せになりますわ」という考えです。
 イレギュラーズに対しても好意的です。皆さんが寧ろ『新しい事を教えてくれる人』と言う認識なのでしょう。必要物は用意してくれます。
 また、囮が必要な場合は自身が囮になると立候補しています。しかし戦闘能力を有さぬために守る等の手が必要となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 ――それでは、良きハレの為に。

  • 天泣に祝ふ完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月12日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)
ナンセンス
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
メルトリリス(p3p007295)
神殺しの聖女
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨

リプレイ


 しとしとと、音立て煙る天気雨。妖のものでなければ、どれ程に風流であったろうか。その色彩をも常とは隔す、天泣の下、高千穂家が一の姫、淡藤は「よくぞお越しくださいました」とイレギュラーズを出迎えた。扇で顔を隠した美しい姫君は、婚姻の儀を迎えんとする日時が近づく中で、邸に降り注ぐ『けがれ雨』に苦難してきたそうなのだ。
「めでたい日にケチをつけるのはよくなぇよな」
 そうぼやいたのは『ナンセンス』オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)。乙女にとっては人生において一度きりと言われる晴れの舞台。それを妖に害される事は問題だ。古来より、天気雨には『狐の嫁入り』という呼び名が付いていた。諸説はあるが神威神楽での天気雨はそれ程、忌むべき者ではないのだろう。和歌を嗜む者達も多い国だ――だが、そうは言えども。
「血雨ですか。血色では、風情以前の問題なのです」
 降り荒むものが忌むべき血色であるというならば。『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)はため息を漏らす。高千穂家の一の姫が協力体制であることをは有り難い。ヘイゼルはある程度戦闘経験のある者を、と淡藤に乞うた。高千穂の家が用意したのは淡藤の側付きや警邏のもの達だ。それが皆、鬼人種であることがこの国の歴史や文化を窺えるというものだが。
「結婚か。おめでとう……いや、貴人の婚姻とはそう一筋縄ではいかない者だとは思っている。
 例えどのような思惑があろうとも、それは墓までの人生を彩る善きものだろう」
 だからこそ、妖や物の怪の手のものであるというならば全力にて祓うて見せようと『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)はそう言った。彼のその言葉に淡藤は「有り難いことでございます」と穏やかな笑みを浮かべる。
「なんだかとっても素敵。和装に日本家屋、というのかしら? 練達では目にする機会も多かったもの。それに、ここには――『神隠し』で消えた少女が訪れた筈なんだもの。彼女のことをすく罠食っちゃって思えば居ても立っても居られない」
 ふる、と首を振ったのは天義の聖騎士見習い、『聖少女』メルトリリス(p3p007295)である。彼女自身は混沌大陸にて多発した『黒き彼岸花』に纏わる神隠し事件の真相を追っている。それも、此岸ノ辺に召喚されて元気にやっていることだろう――が、このような地に置き去りにされてはさぞ心労も募るであろう。で、あるかるからこそカムイグラでの事件解決を重ねていくというやる気を出したのだが――
「けっ、けけけけけけけ、結婚!?」
 神の前にその運命を誓うというか。
 慌てたメルトリリスに『銀なる者』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)はくすりと笑う。豊穣式で頑張ろうか、とそう告げるリウィルディアにメルトリリスは慌てたようにこく、こく、と頷いた。それが偽装であれども『結婚式(かみにちかう)』というのはどうにも緊張するのだ。
「それじゃあ、僕達が偽装結婚式を行う。姫は危険な場所からは離れて置くように。
 ……聞いた話なら、恨みかい? 血雨狐の事は倒すだけではなく、根本的な部分や原因を探っておくのがよさそうかな?」
「うん。婚姻に対する恨みというのはコンプレックスやそれ以外にも逆恨みなんかもある。
 ……実に、難儀だね。狐にとっても、それに晴れの日を迎える姫にとっても迅速に解決してあげたいな」
 何かあったときに姫を守れるように。そして、偽装式に『参列客』というトリックスターとして行動できればと願う『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)は豊穣式の結婚について淡藤に問いかけた。会場には多数の婚姻の儀の為の準備を施し、着付け等も高千穂家に頼む。
「女御の衣服というのは簡単に脱ぎ捨てられる者ですので、下に戦闘用の衣服を纏ってくださいませ」
「ふむ、分かった」とマリアは大きく頷いた。どうやら淡藤はその点に対しても気を配ってくれるというのだ。
「結婚式は女性にとっての一生一度の一大事、晴れの大舞台、ってヤツでしょ?
 男もなのかも知れんけど、やっぱ主役は女の子だよね。淡藤姫にとってもこれは災難だ」
『今日も良い日だ』コラバポス 夏子(p3p000808)は偽装結婚式の準備をしながら、淡藤へとそういった。タダの雨だというならば、風流なれと笑ってすますが気色も悪い赫は台無しだ。きまって、夏子は言うのだ。最高の思い出作りをしよう、できることはいつも通りだけれど、と。
「――ま、花嫁さんにはね、やっぱり、幸せであって欲しいじゃん?」


 晴天に降る雨、狐の嫁入り。しかして、血色の雨は『婚姻』さえ迎えられぬ狐の怨念とでも言うのであろうか。望まぬ婚姻、悲恋。恋路に障害があるならば、淀む事とて必定である。それでも、高千穂の一の姫、淡藤のように気丈にも嫁ぐ相手と恋をしたいと――これからの生涯かけて新たな恋を始めるとそう微笑んだ姫君の淡い恋路を邪魔すると言うなれば、その淀み切り捨てて見せようと『玲瓏の壁』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は白無垢に身を纏い、ゆっくりと会場の中を歩み出す。
 その傍ら、合同結婚式と題打てば、せっかくの新天地なのだからとヘイゼルは偽装祝言が為に角隠しと白無垢と和装ブライダルに身を包む。和傘を手にしているのは『生憎の天気』であるからだ――どうにも、ぽつぽつと空がご機嫌斜めの気配を感じさせる。尤もらしくしなくてはと参列客も揃えているが狐の恨み嫉みはなかなかのものなのだろうか。
「……は、はわわ。顔が赤い、し、しっかり! 失礼なきようにきちんとお勤めをこなさなくては」
『カムイグラ風』というのはこういうものなのかとメルトリリスは初めて袖を通した白無垢に緊張したように顔を赤くした。偽とは云えども婚姻の契りを交わすのだ。
(……ん、いつか、好きな人ともこうして式をあげるのかな考えると考えただけ照れる。
 ――はっ、ちがう。今日はリウィルディアさまとの結婚式! リウィルディアさまの手前、他の殿方を想うなんてだめね!!)
 首を振る。ぽたりぽたりと空より落ちる血色の雨の中、そろそろとリウィルディアの元へとその足を運んだメルトリリスはそっと、リウィルディアを見上げた。
「幾久しく……今日はリウィルディアさまだけのメルトよ」
 そっと、囁くメルトリリスの手のひらをとってリウィルディアは『誘う』様に進む。グリムは礼儀作法を身につけ、穏やかにその様子を見守った――雨が降っている。ならば、そろそろ『狐』の現れる頃であろうと、そう感じたからだ。白無垢では自由には動けない。リウィルディアが自分自身の陰にメルトリリスを隠すように、オーカーの元へとヘイゼルが歩み寄っていく。
 囮同士、そして、出席者の間隔を開くことで移動がスムーズにできるようにと配慮をしたオーカーは衣装の下に武装を仕込み、敵襲に備える。戦闘を、と考えれば表情筋が強張ってくるものだが、そうしていては新郎役も務まらない。静かに息を吐く――不手際があっては新婦に失礼だろうかと、ゆっくりと顔を上げれば白無垢を身に纏い角隠しでその表情を隠したヘイゼルが居た。
(『幸福そうな新郎役』か――綺麗だとか、よく似合っているとか月並みなことしか言えないと思うが……こういうときの表情というのは難しいものだ)
 夏子はにんまりと笑みを浮かべて雪之丞を迎えた。しずしずと歩む彼女は和装にも慣れているのだろう。そっと顔を上げた雪之丞に夏子はにま、と微笑む。
「アハッ美少女と結婚役得~~ひょおぉー! はわー、嘘でも隣に美少女ってうれしいじゃん?
 慣れるほど、結婚式に参加したことない……から、楽しみ~! 嘘でも楽しんでね」
「ええ。囮とは言え、この姿は憧れでもありますから、面映いものですね」
 くす、と小さく笑みを浮かべる雪之丞。夏子の識る常識では『女の子はウェディングドレスに憧れる』というものがあるが、それと同じ感覚なのだろう。
「女の子がかわいく幸せそうに笑ってくれるんならさ、結婚式って何回やってもいい気がした」
「素敵でうね……いつかは、もう一度、袖を通す日が来るでしょうか」
 そうなれば良いですが、と降り続ける雨をちら、と雪之丞は見上げる。
「さて――血雨狐とやらはどうやら現れてくれるようだね?」
 マリアは和装に身を包み微笑みを浮かべながら――そっと、傍らに立っていたグリムに囁いた。
 祝福する演技を見せ、そして、警戒心をひた隠す二人は『サクラ』を務める者達にはできる限りの傷を負わせぬようにと狙っていた。そして『赤い雨が降り始めれば屋敷に姿を隠すように』と淡藤にマリアは再三言い聞かせていたのだ。

 ――その際に、淡藤は「皆様の晴れ姿、観たかったのですけれど」と茶目っ気を表し残念そうにしていたのは確かだが。
 事前に夏子は「きみはこれから結婚する花嫁だ。危険な目なんて会わせられない」と首を振った事を受け、淡藤はおずおずと引き下がった。
「そんな、残念そうな顔しないで。淡藤姫ちゃん。大丈夫、晴れるよ。結婚式だもんな」
「ええ……期待しておりますわ。神使様」

(……危険なのだから、申し訳ない――それに、偽装であるのだから危険を冒してまでの祝福とはいかないだろうな)
 マリアはその様子を思い出してから息をつく。背後で様子を眺める淡藤にもしもが内容にと再三の注意を配り続けた。


 ――誰か一人のための私。それはとても素敵だ。
『聖女』として、『騎士』として。民の為、そして主の為の体であれど。たった一人の為の自分で居られることはどれ程、幸せな事なのだろうとメルトリリスはリウィルディアを見上げて微笑んだ。
 ――シュバルツ、と名が浮かんだが、それを振り払うように首を振ったその視線の先に――
「――――――ッ!?」
 息を飲んだ。さっと、リウィルディアがメルトリリスを庇うように立つ。彼女の視線に存在した血雨狐は花嫁衣装に身を包みしゃなり、しゃなりと雨の下を歩いてくる。「でっ、でたな!」と口から飛び出す前に息を飲む。まずは周囲の人間の日なんだ。そそくさと場を後にする者達をマリアとグリムがさりげない様子で見守り続ける。
 オーカーはすぐ様に狐の前へと滑り込んだ。臨戦態勢を崩さぬままにその距離を詰めれば、狐が『嗤う』
「めでたい日にケチをつけるのはお前か?」
 そう囁けば雨の勢いが激しくなってゆく。後ろに抜けさせるべからずと、それ以上の進路を絶つが為、その身に圧倒的な守りを纏ったオーカーが狐をじろりと睨み付ける。
「ああ――せっかく生涯経験することのないであろう奇異なる立場になったというのに。
 新婦という立場は大変興味深かったのです。三三九度も杯交わすというその風習さえも――」
 その『知的好奇心』を満たすのも此で仕舞いかとヘイゼルはすぐさまにオーカーへトイや死を送る。
「どのような恨みがあろうが、善き日は汚し、災いを振りまくのであればお前は不正義だ。
 そのような不正義は、黒き番犬に噛まれるのが似合いだろう」
 黒曜の髪が赤い血色の雨を含んで重たくなるが、グリムは気にする素振りはない。瞬時に間合いを攻めるように奇襲攻撃を仕掛けた彼へと血の雨が囂々と降り荒む。
「白無垢は汚れてしまいますが、赤に染まるも一興ですか」
「そうかな? やっぱり純白がイイと思うけど」
 夏子はそう囁き、自身の体に守りを固めてにい、と嗤う。「待ってたよ花嫁さん」と揶揄う声音と裏腹に、その瞳は真剣だ。『俺の花嫁さん』と仲間達を呼べば、彼女たちの盾となることこそが自身の本望だと両脚に力を込めて立ち続ける。
「何か知らんが……花嫁姿で恨み嫉みがあるならソレはもう――」
 男が憎いの、と夏子の問いかけるその言葉にメルトリリスは「そのような」と息を飲む。ああ、確かに教会でもそうして懺悔するものは多いのだ。
「花嫁を殴るとかしたくないんだ……せめて気が済むまで俺殴ったら良いよ!」
 夏子がその身を張るその背後で白無垢を脱ぎ去ってメルトリリスは凜とした騎士となる。その表情に惑いはない。元は神に捧げた身だ――聖女であり、騎士。これが『メルトリリス』なのだから。
「そうこれが本当の私だわ! いつかこんな姿を好きだと言ってくれる人が出来るまで、私は聖女で騎士であり続ける――誰かのために!!!」
 声を張り上げる。妖を懲らしめてやると声は張り上げて、その距離詰める。すばしっこくも狐が動くそれを阻むように騎士は『義手』と自身の腕の区別など内容に武具を使いこなし叫ぶ。
「――――死に晒せぇぇぇい!」
 その言葉を聞きながら、この雨は特殊な戦法なのだろうかとリウィルディアはまじまじと見つめた。狐の動きをできるだけ阻み、そして被害を最小限にと狙うリウィルディアが小さく頷けばヘイゼルも同様に頷く。不吉を狙うようなその雨の中、リウィルディアは夏子の口にした『男が憎い』という推測にそうかもしれない、と呟く。
「花嫁衣裳を着ているのには理由があるんだろう? 恨みを持ち、婚礼を忌む何かが――
 それは、きっと……幸福な終わりを迎えられなかった、とか」
 リウィルディアのその声に狐が高く声を発した。それを聞きマリアが作り出した幻影と共に飛び込む。
「悪いね! 君にはここで滅してもらう!」
 リウィルディアが放つ悪意の如き黒きキューブに包まれた狐へと赤い雷を纏うマリアが飛び込んだ。赤い髪が大仰に揺れ、その勢いの儘に狐の行く手を遮る。
「その恨み、ぶつける相手は私たちだ! ――これ以上は許さないさ!」
「ええ。晴れの舞台を邪魔するなら、如何な理由があろうと、容赦しません!」
 雪之丞は距離詰める。この場所で、幸福になるはずの花嫁がいるのだ。それを思い出し、小さく息を飲んだ。淡藤は強かな娘だ。将来を人に決められようともそれに泣き濡れることもなく、観念して恋をするという。それが羨ましくて――狐は妬ましいのか、とさえ思える。
 だからこそ、幸福になって欲しい――不幸になって欲しい――祈りたい――呪いたい。
 狐と雪之丞の考えは対照的で、表裏一体で、それでいて、どこまでも交わることはない。
「恨んで嫉んで暴れてさ、一瞬気は済むかも知れないけど、多分そのままじゃ結婚出来ないぜ
 ――良い相手探しなよ 僕みたいなさ! なんなら今度デートする?」
 ぴた、と狐の動きが止まる。今だと雪之丞は飛び込んだ。その手には純黒と漆黒の二振りを握りしめて。
「――故に、白を穢す朱。貴様は、ここで消え去りなさい!」


「血の雨が止めば、きっと良いお天気になるでしょう」
「ええ。きっと素敵な日になりますよ」
 静かに息をつき、荒れた庭先に散らばった品々を拾い上げる雪之丞に池へと注ぎ入れられた血雨の残りを掬い取りヘイゼルは息をつく。
 気づけば薄れるそれは妖が滅された証拠であろうか――
「リウィルディアさま、ありがとうございました……」
 おずおずとそう告げたメルトリリスにリウィルディアは「こちらこそ」と柔らかに笑みを浮かべる。花嫁たる血雨狐が落とした角隠しをそっと抱え上げ、リウィルディアは「幸せな婚姻を迎えられなかったのだろうか」と呟く。
「どう、なのでしょう……せめて心だけでも癒やせれば良いのでしょうけれど」
「淡藤姫。良ければ狐の衣も一緒に参列させていただいても?」
 リウィルディアの提案に淡藤は柔らかに笑みを浮かべる。心を寄せることしかできなくとも、血雨狐が少しでも安らげばと願って。
「……うん、やっぱこうじゃないと、ね」
 淡藤姫の新たな門出を見守って夏子はそう呟いた雪之丞は「素敵な太陽ですね」と燦々と注ぐ夏の太陽を見上げた。
 人の恋路は見守るものだと――そう告げて。汚れなき姫君に相応しき未来が訪れるようと切に願った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)[重傷]
孤独の雨

あとがき

 (偽)結婚式おめでとうございます。
 いつか素敵な、結婚式を迎えられますように……!

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