PandoraPartyProject

シナリオ詳細

千の呪いと万の愛

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●千殺為万愛
 『千殺万愛』チャンドラ・カトリ(p3n000142)は、綺麗に笑っていた。その笑顔は、とても楽しそうに見えるだろう。
「ああ、丁度良いところに。宜しければ少々、お時間を頂いても?」
 そして、察しの良い者であれば何か感じたかも知れない。
 これは――いっとう面倒くさい案件に違いない、と。

●その呪いを愛と呼ぶ
 向かった先は、天義の寂れた教会。
 ごく小規模なものだが、今は人手が足りず定期的に隣村から神父がやってきて管理や行事などを行っているらしい。
 その神父が手に負えない、しかし聖騎士達も皆復興に出払っていて頼めるあてがない、と藁に縋る思いで依頼してきたのがこの一件だという。
「ご安心ください。強大なモンスターを打ち倒せだとか、暗号を解けだとか、そのような面倒なものではありません。むしろ……皆様はそれぞれの形で、守りや生存される事に長けておられるご様子。ええ、ええ。それならば安心して、この仕事をお任せできるというもの」
 そして、彼は言った。
 ――千の呪いと、万の愛を。その身に受けて下さい、と。
「やはり、隣村から時々来る神父だけでは手が回っていないのでしょうね。この教会の管轄下にある村の墓地に、亡霊が出るようになってしまいまして。それぞれ異なる呪い……怨みの炎や冷気を纏うようになって、生前の名残が妙な形で表れているようなのですが。
 このままでは、この亡霊が更に凶悪な物になってしまう可能性もあります」
 人が近寄り難い墓地を放置するわけにはいかない、それはわかる。
 呪いを得た存在となってしまった亡霊達を解放してやった方がいいのかもしれない。
 しかし、それと『千の呪いと万の愛を身に受ける』がどう繋がるのかが判然としない。
「ですから、彼らの呪いを受けて頂きたいのです。無辜の人々が尊い犠牲になる前に、彼らの呪いを、彼らの気が済むまで。彼らの話し相手をするように、彼らの求愛に応じるように。拒まず、でも斃れてしまわないように」
 中には、強い執念や無念を抱いて亡霊となったものもある。そういったものの呪いは特に強力だろうから心するように、と説明するチャンドラの表情は、どこか不気味なほどに優しかった。
「ああ、期間は3日間ほどかと。その間に例の神父が浄化の儀式を施して、亡霊を鎮めるそうです。我(わたし)達は村に逗留して、毎夜墓地に通う形になりますね。『あちら』に気に入られてしまったら、長引いてしまうかも知れませんが……その時はその時です、ふふ」
 それは真面目に困るが。
 かくしてイレギュラーズ達は、亡霊達の呪いを受けに向かうのだった――。

GMコメント

旭吉です。
この度はシナリオのリクエストをありがとうございました。

●目標
 亡霊の呪いを毎夜受け続け、亡霊が鎮まるまで耐える。

●状況
 天義のある寂れた村の夜。
 生きた人間より亡霊の方が多そうな集落です。
 亡霊がいる墓地は教会の裏手にあり、日中でも薄暗いです。
 食事は村で提供されますが、持参しても可。

●敵情報
 様々な効果の呪い(バッドステータスの【呪い】に限らず)を与える亡霊×???
  生前は騎士だったもの、魔術を使ったもの、夭折したもの、恋に破れたもの等々、様々な亡霊がいます。
  出会いたいタイプの亡霊がいればプレイングにご記載ください。
  (お任せの場合はこちらでイイ感じの出会い(?)をご用意します)
  呪いはダメージとしても与えられ、日を追うごとに強くなります(回復可能・ダメージなら増え、【業炎】なら【炎獄】になっていく、という具合です)

●NPC
 チャンドラ
  本人たっての希望でご一緒に呪いを受けていると思います
  構わなければ特に何もありません(シナリオ成否や有利不利には特に影響しません)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 千の呪いと万の愛完了
  • GM名旭吉
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月22日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)
カナメ(p3p007960)
毒亜竜脅し
霧ノ杜 涼香(p3p008455)
流体人間

リプレイ

●静かな村
 そこは若者のいない、活気の失われた村だった。「昔はもっと人がいたんだよ」と呟いたのは、イレギュラーズ達の逗留場所として家を提供してくれた老婆だ。
 聞けば、流行り病や天災などでも随分被害を受けてきたようだ。墓地にはその際の犠牲者もいるという。
「それだけのお墓……お墓の数だけ亡霊さんがいれば、本職の方でも祓い切るのに時間が掛かるのは納得です」
 霧ノ杜 涼香は教会に籠もりきりで儀式に当たるという神父の苦労を思い頷いた。
(……足りるのかしら、それで)
 一方、疑問を覚えたのは雨宮 利香だ。呪いを振り撒くような亡霊がそれほど数が多いのなら、3日程度儀式をしたところで祓い切れるのだろうか。
「亡霊からの呪いを受け続けて、成仏するまで耐えろってか。なかなかやばそうだな……」
「騎士の人来れないから、仕方ないけど……3日間かぁ……長いね……」
 改めて依頼内容を思うと、フレイ・イング・ラーセンはその過酷さに唸ってしまう。普段から垂れている兎耳が心なしか更に元気を無くしているコゼットは、利香とは対照的にこれからの3日間を長く感じているようだった。
「お墓は正直怖いけど、そういう依頼だから行くしかないよねー……あ、そういえば呪いってどんな感じのなんだろう!」
 呪いの話を思い出した途端、カナメの声に張りが戻る。それは確かに重要で、事前に知っておくべき話題だろう。
「やっぱり痛いのかなぁ、想像しただけで楽しくなってきたよ。疲れ果てた体に更なる仕打ちとか、えへ、うぇへへ……♪」
 ――そう。ドM的に最重要なのである。
「ああ、たまらないね。千の呪いも万の愛も、おにーさんにはたまらなく甘美で蠱惑的だ。とっても親しみを感じる言葉だからね」
 ヴォルペも、どちらかと言えば興奮している側である。カナメとは似て非なる理由で以て、だが。
「日も沈みましたし、そろそろ向かいましょうか。」
 窓の外を見ていたチャンドラ・カトリが、外を見たまま告げる。夕日は完全に失われ、世界は闇に満ちていた。
 いざ――千の呪いの待つ場所へ。

●初日:快楽地獄
 全員で共に呪いを受けていては3日ももたないと判断したイレギュラーズ達は、二組に分かれて交代で呪いを受けることにした。
「おや。我(わたし)の事も守ってくださるのですか?」
「アンタだけ勝手に、って訳にはいかないだろ?」
 当然のように言うフレイに、チャンドラは少しだけ驚いていたようだった。守りに長けたイレギュラーズ達が各々の得手不得手を考慮して分担した結果、初日の初手はカナメとヴォルペ、チャンドラが主に受ける事となった。
「えへへ、どんな痛みが来るのかな、うぇへへ……」
「楽しくなりそうだね!」
「ええ、ええ。これほどの未練……アイさずにいられましょうか」
 ――積極的に痛みを悦びそうな組み合わせが意図的であったかどうかは、さておき。
「これ、教会で借りたよ。暗いから、使って」
 コゼットが人数分のランタンを差し出すと、先行する三人はそれを受け取って墓地を進む。
 亡霊が後方へ及ばないよう、しかし、万が一の時にはすぐに守りに行けるよう、付かず離れずの距離を意識して。

 ヴォルペが英雄を讃える詩を捧げ、カナメが他の2人にそれぞれ聖躰を祈れば、最初の夜が始まる。
 ランタンがあっても、照らし出せる範囲は限界がある。それでなくても、人気の無い夜の墓地という場所が心許なさを際立たせるのだ。
「おにーさんを愛してくれるのは誰かな。この身が尽きるまでは喜んで受け止めてあげるよ」
 その中で、まるで恋の悩みの相談でも待つかのように語り掛けるヴォルペ。すると、辺りの温度が不自然に下がったような気がした。
「おおお、早速来た!? って、こっちもこんばんはー、かな……?」
 突然の変化に改めて墓地が怖いやら、いよいよ亡霊の呪いが来るかと思うと興奮するやらで忙しいカナメにも、冷気とは別に身体の表面からじりじりと焼け付くような感覚がある。
 ヴォルペの方へ現れたのは、思春期頃の少年。カナメの方は怒りに燃えている女性だった。
『もう……恋なんて……裏切られるくらいなら……』
「君は裏切られて心を凍らせてしまったのかな? それは確かに悲しいね」
 凍てつく風がその身を蝕んでも、ヴォルペは笑顔を崩さず。
『あの男……他所に女作って、私が邪魔になったって、毒殺するなんて! 呪い殺してやりたい!』
「カナ知ってる、痴情のもつれってやつだ……もっと詳しく教えて、火力強めで!」
 カナメは亡霊の怒りを更に引き出して受け止めるべく、ぶっちゃければその炎をもっと堪能すべく、話を促す。
 チャンドラも呪いを受けながら、亡霊の話を聞き出そうとしてた。
 聖躰の効果による棘が苦しいのか、亡霊側もずっと呪いを与え続ける事はせずに奥へ引くのだが、その度に別の亡霊が出てくる。イレギュラーズ達も交代制だが、あちらも似たような状態なのだ。それでも、ひとつひとつの呪いは軽いのか、今の所は浴びせられてもその場限りのダメージのみではある。
 しかし、それも積み重なれば。
「お手を……煩わせましたか」
「いや? むしろ超楽しいくらい!」
 1時間ほど経った頃、体勢を崩したチャンドラをヴォルペが庇い支える。ヴォルペも無傷ではないのだが、受けた傷の数が彼を更に興奮させてゆく。
「ねー、初日からテンション上がっちゃう……こんなのが3日間も……大丈夫かなぁ……」
 テンション的な意味と、体力的な意味で。
 同じく傷だらけでドM心が刺激されっぱなしのカナメであるが、これでも仲間のコンディションはしっかりと気にしている。
「ヴォルペっち、まだいきたい? カナが二人の分全部受けてもいいけど……」
「イモータリティもあるし、大丈夫! それに守りながら受けるだけなんて贅沢、独り占めされちゃうのはね?」
「やっぱり贅沢だよね……カナもわかるけど……」
 この耐久は今日だけでは終わらない。明るくなれば休めるのかも定かでない。実に勿体ない気はするが、ここは休憩すべきだろう。良い痛みは良い身体からというのがカナメの信条でもある。
「じゃあ、一旦交代しよっか! チャンドラっちも自分で受けたいだろうし!」
「ええ。それは勿論」
 かくして、初手を引き受けた一行は一旦休憩となる。その後は休憩していたイレギュラーズ達と交代を繰り返しながら、最初の夜が更けると同時に亡霊達も消えていった。
 初日の手応えとしては、概ね作戦通り。
 ついでに痛みを悦んでいた者達にとっては、これからが本番……とのことだった。

●2日目:未練地獄
「天義の料理、楽しみにしてたんだ……温かいね」
 翌日。夜に向けてなるべく体力を温存していた一行に、食事が振る舞われた。
 用意されたのは簡素な豆のスープとパン。決して豪華ではなかったが、コゼットは十分満たされていた。
 悪意を感じられない、親しみさえ感じる味。コゼットには経験が無いが、『優しい故郷』を思い出すとしたらこんな味なのだろうか、などと考えさせられた。
(優しい村なのに……なんで、みんな亡霊になっちゃったのかな。死んでからも誰かを呪い続けるなんて、きっとすごく辛くて、悲しいことなのに)
 コゼットは改めて、この村の亡霊の浄化を心に誓うのだった。

 そして、二日目の夜が来る。
「昨日はあんまり言わなかったけど、傷だらけだったのにやけに楽しそうだったよなカナメ達?」
 前日に初手を務めた一行を後列に待機させて、今日はフレイの他に涼香、利香とコゼットが初手で受けに行く。
 こちらのグループは村で借りたランタンの他にコゼットのピアスからの月光がある事もあり、前日よりは少しだけ明るかった。
「わたしは恨み言を聞き続けて悦ぶ趣味はないんですけど……ま、他の奴らに任せてられないとは思いますね」
「なるべく優しく慰めて、受け止めてあげようと思います」
 利香も涼香も、他に任せられないからこそ、耐久や回避に長けた自分達が引き受けようと思ったのだ。それは間違いない。
「呪いはちと面倒だからな、今夜も聖骸闘衣は皆に使わせてもらうぞ。涼香もあんまり無理はするな、昨日くらいの立ち回りで大丈夫だから」
「はい……なるべく、立って残っていられるように頑張ります」
 仲間達に聖骸闘衣をかけていきながら、他のイレギュラーズ達に比べれば少しばかり経験の足りない涼香をフレイが励ます。彼女も今回は守りの要のひとつなのだ。
「……くるよ」
 風音が明らかに不快な雑音に変わったのを感じて、耳元に月光を揺らすコゼットが顔を上げる。雑音は、自分達に向けられる悪意がそのように聞こえる彼女のギフト『ノイズ』だ。
「……さあ、みんな……まとめて救ってあげるわね」
 魔剣から霊石を外すと、それを胸に抱いて利香は祈る。その姿は救済を祈る乙女のような。その声は快楽に誘い蕩かす夢魔のような。
「さて、どんな亡霊が来るか……殴る蹴るで鬱憤を晴らしたい奴は俺の所に来い、受け止めてやるぞ」
 フレイの呼びかけに応えるように、彼の前におぞましい声をあげながら男の戦士の亡霊らしきものが現れた。体の半分近くを失っている所を見ると、相当惨い死に方をしたようだ。
『あああ……ウェンディ……アアァァァ!!』
 女の名らしきものを叫びながら、フレイにぶつけられる斬撃。斬撃と共に発せられる風圧は、事前にかけた闘衣の効果でどうという事はない。しかし、未練が込められた一撃は純粋に重い。前日の亡霊達より、明らかに力が強くなっている。
「女への未練か? これは随分重そうだな……!」
 まともな言葉にすらならない、文字通り呪いとなってしまった未練を目の当たりにしながら、コゼットと涼香も別の亡霊と対峙していた。
「亡霊、いっぱい……」
「フレイさんは手が離せなそうですし、ここは私が」
 次々と現れる亡霊達から、コゼットを背に庇うように涼香が立つ。
「皆さんの呪いを、受け止めます……私にできる全てで……!」
『許してよ! ゆる、許し……アアアアッ!!』
 間を置かず迫ってきたのは、腹の辺りを血で汚した女の亡霊。血の涙を流しながら襲い掛かった女は、涼香の両肩を掴んで爪を食いこませる。
 爪が与える傷以外の損傷は無いのだが、許しを求める心さえ呪いになってしまうのかと思うと、驚くと共に悲しく思えてきた。
「きっと……許してくれますよ。私は許したいです」
『許さなァァァァイ!!!』
 その声を打ち消すように背後から迫ってきた亡霊を、今度はコゼットが受け止める。
「これは……ちょっと、強そうに感じた、から」
 アンゴラの小盾で涼香の背を守りながら噛み付き攻撃を受け流し、すぐに脇へ避ける。改めて姿を確認してみれば、その亡霊は口だけが身の丈程に肥大化した怪物の形に近付いていた。
「おばあさんのスープ、おいしかったよ。温かかったの。食べたことある?」
 噛み付く呪いを紙一重で避け続けながら、言葉が通じるかもわからない相手へ独り言のように語り掛ける。
「どうして、そんな姿になるまで許せなかったのかな。苦しいと思うんだ、こんなの……」
 この人が本物の怪物になってしまう前に、何としても浄化させたい。その一念で、コゼットは捕食を回避し続けた。

 祈りながら、『救済』をしていたのは利香だ。
「……ふう」
 失われた魔力と体力を、墓地で生きていた小動物や植物達の魂を受け入れる事で回復する。
『アイ……シ……テ……イシテ……』
 回復したところで、一人の女の亡霊を目にした。彼女は女の上半身を蜘蛛の下半身と融合させた形になっていた。その姿は、もはや怪物である。
 異形に臆することなく近付くと、利香は金の瞳で女を捉えた。
「愛を求められれば愛で応えましょう。この永遠の呪いから抜け出しましょう? 私と一つになって、愛をこの世の全てに振りまくの……きっと、そっちの方が素敵よ?」
 利香が話す間にも女は蜘蛛のように糸を繰り出して、利香を捕えようとしていた。しかし彼女に誘われると、何故か目を閉じてその身を委ねたように見えた。
 それを受諾と取って、『リカ』は――女とひとつになった。
(私は悪魔ですもの……ちょっとぐらい取ろうがバチはあたらないでしょ?)
 それに、儀式の負担を減らす為にも数は少ない方がいいだろう、と。
 極めて悪魔的に合理的な、利香なりの『救済』なのだ。

 この日はしばらく持ち堪えていたが、人の形を失うほどの亡霊達の呪いに晒され続ければ限界も訪れる。この夜も、待機していた仲間との交代を繰り返して朝日を迎えたのだった。
 亡霊の呪いは、確実に強くなっている。3日目の夜は、どのような亡霊が現れるのだろうか。

●3日目:地獄の果て
 今日は神父が儀式を完成させるはずの日。今夜成功すれば、亡霊達は鎮まるはずだ。
「人の強い気持ちってのは、姿形さえ変えちまうんだな……わかっちゃいたが」
 これまでの夜を振り返って、フレイは思っていた。
 初日の夜には比較的人の形をしていた亡霊が多かったのに、昨夜は一部が異形となってしまった強力な亡霊も見受けられた。今夜は、完全に怪物と化してしまった亡霊が相手になるのかも知れない。
 それは、どれほどの強い思いを――呪いを持っているのだろうか。

 フレイの青い左眼に、昇り始めた満月が映った。

『■■■■■――!!』
 亡霊達が蠢く墓地には、呪いを抱いたなれの果てがあった。
 人の原型を残していない、黒い靄の中で蠢く一対の赤。その咆哮は、もはや何を訴えているのかわからなくなってしまっている。
「多分、死ぬほど痛いんだろうね……」
「だろうね。あれが、千の愛が凝り固まった形……おにーさんぞくぞくしちゃう」
 今夜は、初日に初手を務めた三人が再び初手を務める。カナメとヴォルペで靄を見つめていると、誘われるようにカナメが靄へ近寄っていく。
「いいよ、みんなおいで? カナがぜーんぶ受け止めてあげる♪」
 痛み。苦しみ。悲しみ。辛いもの全て。笑顔で告げると、様々な亡霊達が一斉に呪いをぶつけてくる。聖躰を降ろした体は呪いを浴びる度に聖なる棘を返すが、初日とは比べ物にならないほど呪いの『密度』が高い。
『■■、■――!!』
 そこへ、靄が咆哮をあげる。その雄叫びは明確な殺意の刃となって、全身の傷を切り開いて抉ってくるようだった。
「カナメ!」
「あっ……ヤバい……でも……イイ……♪」
 容赦なく刻まれる痛みが堪らない。呪いなどなくとも、カナメはその痛みで既に恍惚としていた。その様子を見ていたヴォルペは危機感を覚えつつも、それより自分も浴びたい気持ちが勝っていた。
「それくらいじゃ足りないよね? おにーさんにも教えてくれないかな、君達の気持ちを!」
 求められずとも、亡霊達はヴォルペにも襲い掛かった。しかし、次に靄の咆哮があがっても、ヴォルペはカナメほどの苦痛は無かった。
「さっきのヤバそうなの……何? おにーさんも浴びたかったんだけど」
「呪殺……か?」
 どこか不服そうなヴォルペに答えたのは、休憩中のはずのフレイ。亡霊が次々と襲い掛かってくる状況で、もはや休憩できるような安全地帯は無くなったのだ。
 現在の所は、フレイと涼香が決死の盾となって仲間達を守っている。
「あの、私のエンピリアルアーマーで少しでも!」
「頼む!」
 仲間達を庇っていた涼香がその場を任せ、エンピリアルアーマーを施していく。
 『呪いを浴びても』効果を及ぼさないようにしているのが、フレイが施していた聖骸闘衣だ。あの靄がしているのは、『呪いを浴びた』という事実があれば、そこから傷口を開いて蝕むという恐ろしい術なのだ。
(防御力や回復力に劣る私でも、少しでも皆さんのお力に……!)
 呪いそのものが残っていなければ、靄によって切り開かれる事も無い。その可能性を少しでも上げるための浄化の鎧が、涼香のスキルだ。
 その涼香に、靄が狙いを定めた。咆哮ではなく、睨みつけるような行動に危険を感じたコゼットが身を躍らせる。
「こっちだよ……」
 跳んで、跳ねて、丁々発止の戦いを挑む。それでも、コゼットから攻撃に転ずることはしない。今回は、そういう戦いではない。
 特に今夜は、浄化の儀式が完成するはずなのだから。
「愛が、憎しみが。呪いが渦巻いて。自分が何だったかもわからなくなってしまったのかしら」
 コゼットに引き付けられる靄を眺めて、利香が呟く。
「大丈夫。もうすぐよ……もうじき、救ってあげる」
 あれはひとつになって幸せにしたいとは思えない。悪魔は気まぐれだ。
 しかし、あれが浄化される事で救われるなら、それがいいとは思うから。
 他に気になる亡霊を見つけては、注意が自分へ向くよう仕向けた。

 昨日と同じはずの夜が、随分と長く感じられた夜明け前。
 教会のシンボルが輝いて墓地に光が差すと、亡霊達は急に静かになってその光へと入っていった。
 黒い靄となったものは暴れていたが、そこへ誘い込まれれば同じように静かに形を失っていく。
 ――墓地の呪いは、失われていった。

「みんな、ちゃんと気が済んだのかな……気持ちよく、逝ってくれたかな」
「大丈夫じゃない? ほら――」
 とても静かで、爽やかな朝じゃないか、と。
 亡霊達が消えた方向を見送るコゼットに、ヴォルペが昇り始めた朝日を示していた。

成否

成功

MVP

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王

状態異常

カナメ(p3p007960)[重傷]
毒亜竜脅し

あとがき

長らくお待たせいたしました。
皆様それぞれの呪いへの向き合い方が興味深かったです。
今回アドリブ強めになりましたが、お気に召して頂ければ幸いです。

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