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シナリオ詳細

<狐の恋路お遍路>ジューンブライドに憧れて

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●雨が降るのは狐のせい
 季節は梅雨。人間と妖怪の世界も、ここのところは雨続き。
 とある地方都市の住宅地の中を、人間の少女と天狗の少女が二人並んで、傘を差しながら歩いている。服装を見るに、近隣の高校に通う生徒のようだ。
「最近雨ばっかり、いやになっちゃうわねー」
「ほんとよねー、天気雨も多いし」
「いい加減梅雨が明けてほしいわー」
 人間の少女がため息をつけば、天狗の少女も肩を竦める。人間も妖怪も、雨を鬱陶しいと思う気持ちは一緒だ。
「あ、そうそう。天気雨と言えばさ、堅川稲荷の神使さん、また振られたって噂、知ってる?」
「え、また? 先月末にも振られてなかったっけ」
 ふと思い出したように話す天狗に、人間は目を見開く。
 堅川さんの神使さんは恋多き、惚れっぽい人として有名だが、つい先日も派手に振られて大雨を降らしたばかりである。
 天狗の少女も苦笑をしながら言葉を続ける。
「それがね、五穀豊穣の祈祷に出た先で農協の職員さんに一目惚れして、猛アタックして玉砕したんだって」
「うわ……悲惨ー」
 憐れまれて、呆れられている神様の使い。
 その当の本人は件の堅川稲荷の境内のど真ん中で、雨に打たれながらさめざめと泣いていた。
「うわぁぁぁぁん! あたしのジューンブライドはどこぉぉぉぉ!」

●事件に呼ばれるのはそういう定め
「『狐の嫁入り』って言葉、みんなは聞いたこと、あるかしらー? ……くあー」
 境界案内人、『雑踏の黒猫又』稲森・千河は存外派手にあくびを零しながら、その場の特異運命座標を見渡した。
 狐の嫁入り。なんとも東洋的な響きのある言い回しだ。分かるものもいれば、そうでないものもいて。
 様々な反応を見せる特異運命座標に、千河が一本指を立てる。
「まあ、つまりは天気雨のこと。空は晴れているのに雨が降るのは、狐の嫁入り行列が今まさに通っているからだー、ってことで、そう言われているのよね」
 眠たげな目をこすりながら千河が説明する。つまりは、彼女の住む国やそれとよく似た国で言われる、伝承の一つだ。
 しかし、依頼の冒頭に話すにしては、随分と意味ありげな話というか。いつもの彼女らしからぬ話の切り出し方に、首を傾げる特異運命座標である。
「で、なんでこういう話をするかっていうとねー……んー。今回皆にお願いしたい案件にも、狐が大いに絡んでくるからなのよ」
 ぐっと腕を伸ばしながら話す彼女に、ようやく特異運命座標の面々は手を打った。
 つまりは今回の依頼の重要人物なのだ。それも、今の伝承に絡んでくるような性質だったり、立場だったりする狐が。妖怪の蔓延る彼女の出身世界、当然ただの狐であるはずもない。
 納得した様子の特異運命座標に、千河はこくりと頷いた。
「うん、要するに妖狐ってやつ。でも嫁入りして雨を降らせてるんじゃなくてね、失恋して悲しみに暮れて雨を降らせてるのよー」
 彼女の説明に、特異運命座標の肩が揃ってがくりと落ちた。
 失恋の悲しみで周囲に雨を降らせるとは、なんともはた迷惑な。というかそもそも、妖怪も失恋するのか。
「堅川稲荷の神使さん、って、市内では有名なのよ。しょっちゅう人間の男に惚れこんで自分を娶らせようとしては失敗して、その度に神社で人目もはばからず泣いてるから」
 あっけらかんとした様子で話す千河に、特異運命座標の手が揃って伸びた。なんかもうツッコミが追い付かない。
 曰く、稲荷神の使いである妖狐が、神使でありながら人間に惚れて、自分から猛アタックを仕掛けては破れ、その度においおいと泣いているという。
 いいのかそれで。そう漏らす特異運命座標に、千河が笑って返した。
「あたしの世界では結構あるのよー、神の使いが人間と結婚するって。立場はあっても結局は妖怪だもの、結婚相手を選ぶ自由はあるってこと」
 そう話す彼女も何だかんだ言って、大学生活を謳歌する学生の一人。キャンパスライフの最中に恋をすることもあるだろう、生き物なんだから。
 とっちらかりつつあった話が収まったところで、千河はひらりと手を振った。
「ま、そんなわけだから……ふあぁ。皆には神使さんを慰めたり、話を聞いてあげたりして、失恋の傷を癒してほしいんだ。神使さんの特殊能力で、泣いてる最中は雨が降るから……まぁつまり、雨も止ませてほしい、ってわけ」
 件の神使は失恋の悲しみに暮れている。想いを吐き出させてあげたり、気分転換にどこかに連れて行ってあげたり、悲しみを癒す手段は色々あるだろう。なにぶん性質は今時の女性らしいから。
 悲しみが癒え、泣くことをやめれば雨も上がる。雨が上がれば今回の案件は成功だ。
 そこまで話した彼女が、あくびを噛み殺しながらポータルを開く。開いた先の世界はいつも通り自然も文明もごっちゃ混ぜ、雨が降る音が静かに聞こえてきて。
「じゃ、準備はいいかしらー? それじゃ、よろしく頼むわねー……ふあ」

NMコメント

 特異運命座標の皆様、こんにちは。
 屋守保英です。
 梅雨の時期、思いついたので「<狐の恋路お遍路>」と題して、シリーズシナリオを運営させていただきます。
 妖狐のお姉さんの失恋を慰めてあげてください。

●目的
 ・『恋多き』堅川・竜胆の失恋を慰める。

●場面
 人間と妖怪が共存する世界のとある地方都市にある神社です。
 「堅川稲荷神社(たてかわいなりじんじゃ)」と呼ばれています。
 神社の境内で神使が恋に破れ、涙に暮れています。そのため天気は雨です。

●神使
 『恋多き』堅川・竜胆(たてかわ・りんどう)。
 性別女。年齢UNKNOWN(見た目は20代後半)。
 稲荷神に仕える神使の一人で、種族は妖狐。見た目は額と目元を朱で彩っている、胸の豊満な狐耳尻尾の女性。胸元を開けた服装が好み。
 性格は惚れっぽく押しが強い。普段は明るく快活だが、失恋は結構引きずるタイプ。
 農協勤務の職員に一目惚れし、猛アタックを仕掛けて玉砕。涙に暮れながら周囲に雨を降らせている。

 それでは、皆さんの楽しいプレイングをお待ちしております。

  • <狐の恋路お遍路>ジューンブライドに憧れて完了
  • NM名屋守保英
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月12日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

東雲・リヒト・斑鳩(p3p001144)
胡乱な渡り鳥
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
モニカ(p3p008641)
太陽石

リプレイ

●驟雨雷雨にざんざ降り
 白雨降る中、『胡乱な渡り鳥』東雲・リヒト・斑鳩(p3p001144)は傘を差しながら、堅川稲荷の境内を囲む塀の外を歩いていた。
「恋煩いは如何に名医でも治せないっていうけどねぇ……」
 境内を見やる彼の後ろについた『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)も傘を差す。元々現代日本の生まれである彼は、傘を持つ姿も堂に入っていて。
「えー、なんというかだな。恋愛経験ゼロの男にこういう事を任せるのは色々間違ってると思うんだよ」
「じゃああなた、なんでこの依頼受けたの?」
 しかしうんざりした表情でぼやく彼に、『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)が辛辣な声を投げかける。
 確かに、色恋沙汰に疎いのに恋の悩みを解決するのは難しい。世界自身、メリーの言葉にどう返したものか悩んでいる。
「それは……それを言われると……」
 言葉に詰まる彼の背中に、『太陽石』モニカ(p3p008641)が笑顔を向けた。
「まぁいいじゃない♪ 力になりたいって、そう思ったんでしょ?」
「……そういうことにしておくよ」
 彼女の朗らかな笑みに、世界も目元を和らげる。そんな会話をしながら、四人は堅川稲荷の鳥居をくぐった。

●篠突く雨に涙雨
「うわーん、うわーん!」
 『恋多き』堅川・竜胆が、派手に泣く声が聞こえる。栗色の長い髪も、胸元を開けた巫女服も、大きな耳と尻尾も、すっかりびしょ濡れだ。
 そんな彼女の頭にかかる雨が、不意に途切れる。
「おやおや、お嬢さん。どうされたかな? 君に泣き顔は似合わないよ」
「ふえ」
 竜胆が涙目で上を見上げれば、そこには傘と斑鳩の笑顔がある。
「あらイケメン」
「まあ、なんだ。悩みごとがあるなら、話くらいは聞いてやれる」
「あっこっちにもイケメン」
 次いで声をかけた世界の声に左手を向けば。イケメンが自分の傍で傘を差し伸べている。
 突然のイケメン二人に竜胆が目を見開く中、女子二人も彼女へ声をかけていく。
「お姉さん、お姉さん。そんなに泣いて、どうしたの?」
「こんな雨の中びしょ濡れだと、風邪ひいちゃうわよ?」
「えーっと……見ず知らずの人たちに聞かせるのもどうかと思うんだけど、実は……」
 戸惑う竜胆だが、その口からこれまでの顛末がぽつりぽつりと話される。
 彼女の失恋話に、メリーとモニカがこくこく頷いた。
「ふんふん、失恋しちゃったんだ?」
「そんなに泣いちゃうくらい、お相手さんの事が好きだったのかな……それは悲しいよね、今はいっぱい泣いたらいいよ」
 モニカの優しい言葉に、竜胆は再びさめざめと泣き始める。
「そうなの……仕事熱心で、気が利いて、イケメンで……あんないい男、絶対に他にはいないと」
「分かるとも、その御仁に会ったことは無いが、素晴らしい人だというのは分かる」
 竜胆の言葉に、斑鳩も優しい笑みを向けながら頷く。その農協職員がどれほどいい男かは分からないけれど、神使たる彼女が惚れるほどだ。いい男なのだろう。
「どうしてもその男を忘れられない、というのなら、外堀を埋めていくことが肝心だろうねぇ……それとも忘れて前へ、次へと進むかい?」
「忘れるしかないわ。だって……」
 次いで発せられた斑鳩の発言に、竜胆はゆるゆると頭を振る。既に諦めはついている様子の彼女だが、そんな彼女に声をかけるのはメリーだった。
「本当にそうなの?」
「えっ?」
 突然の声かけに、竜胆がキョトンとする。見目の割に随分こまっしゃくれた彼女は、黒い笑みを浮かべながら話し始めた。
「日照り続きでも作物は育たないけど、雨がずっと降り続いたらそれはそれで作物に害がありそうじゃない? お日様の光だって必要だし、水が多すぎてもいけないわ」
「そりゃ……梅雨が明けなきゃ稲の生育にも影響があるし」
 メリーの言葉に竜胆はこくりと頷く。雨は降らなくても降りすぎてもいけないのだ。それを踏まえた上で、メリーは言う。
「だから、彼と一緒になれなきゃずーっと雨を降らせて農作物をダメにするって農協を脅して、農協から職員に圧力をかけてもらって、強引に結婚にもっていけばいいと思うんだけど、どう?」
「ふあっ」
 メリーの発言を聞いた竜胆は、口をあんぐりと開けた。自分の我が儘を押し通して生きてきた、メリーだからこそ言えることだ。
「強引だな」
「こういうのは多少強引な方がいいのよ。そこまで自由自在に能力を操れるかは分からないけど、そこはハッタリかましておきなさい」
 呆れたように世界が言えば、ふんと鼻で笑ってメリーが返す。ようやく言葉の意図を掴んだらしい竜胆が、慌てて頭を振った。
「いや、無理無理無理!」
「そう? 結婚にもっていけなくても、自分をフッた男を減給や降格させるだけでも多少気は晴れると思うけど……」
 しっかり拒絶する竜胆に、メリーは笑って返す。
 が。
「だってあの人、既婚者……」
「へっ」
 次いで発せられた新事実に、メリーの表情がびしりと固まった。
 惚れた相手、既婚者だったのか。
 硬直するメリーの後ろで、世界が小さくため息をつく。
「なるほど、それは結婚どころか、お付き合いすら無理だな」
「既に誰かのものである人に手を出すわけにはいかないものね」
 斑鳩も苦笑を零しながら世界に同調した。
 人間と妖怪が定められたルールの中で生きる現代なのだ。不倫は犯罪である。
「うん、仕方ないね」
 サキュバスであるモニカも、これには肩を竦めるしかなかった。

●虹霓逃げ水雨上がり
「でも、何度も何度も新しい恋ができるのって、とっても凄い事じゃない?」
 話が一段落したところで、モニカが嬉々として竜胆に言った。
 キョトンとした竜胆へ、両腕を大きく広げてみせるモニカ。うっとりした表情を浮かべながら、彼女は話す。
「気になった人を見つけた時の、胸の高鳴り! どうやって知り合いになろうかな? どうやって一緒に時間を作ろうかな? って」
 それは恋の楽しさを礼賛する言葉。恋する気持ちを否定しない言葉。
 自分の感情を認めるモニカの言葉に、竜胆の涙が目元からポロリと零れ落ちる。
「ドキドキをいっぱい重ねて、相手がちょっと笑っただけでも、それが凄く嬉しくて――そんな時間が、凄く楽しくなかった?」
「うん……そうね」
 そしてモニカの言葉に、彼女はこくりと頷いた。頷いて下を向いたまま、竜胆がうっすら目を細める。
「惚れっぽい、ってよく他人に言われるけれど、楽しいんだもの。恋している、その瞬間が」
「楽しいならいいさ。その後の別れに苦しんだとしても、また新しい恋を探すために動き出せる」
「うんうん、何度も何度でも、恋を楽しもうよ!」
 斑鳩も竜胆に同調して、モニカが竜胆の方を優しく叩いた。それにもう一度、頷く竜胆だ。
 雨の降り方も落ち着き、そぼ降る程度になったところで。世界が竜胆へと視線を向ける。
「さて、また動き出すためには気持ちに一区切りをつけることが必要だろう。いつもは何かしているか?」
「特には……強いて言うなら今みたいに泣きまくるのが、それだけど」
 しゅんとしながら竜胆は視線を返した。確かに泣いて泣いて泣きはらすのも気が晴れるだろうが、その度に彼女は雨を降らすのだ。周囲にもあまりよろしくない。
「そうか。ならもっといい方法があるぞ。ほら」
「ビスケット?」
 言いながら世界が取り出したのは、一枚のプレーンビスケットだった。見た目は何の変哲もない丸いビスケットだ。
「腹が膨れた状態で激しい感情を抱くのは意外に難しいんだ。雨もマシになるだろうさ」
 既に雨が止みつつある空を見上げながら、世界は笑う。ここで気分を晴れさせる最後の一押しだ。
「とはいえ恋する乙女にカロリーは大敵。だから俺が用意したのがそのビスケットだ。このビスケット、一見普通だがポケットに入れて叩けば――」
 そこまで言って、世界は自分の白衣のポケットにビスケットを入れて、軽く叩く。そのポケットから中身を取り出すと。
「あれ、増えた!?」
「数が一つ増えるって寸法だ。増えたビスケットは幻だから実質カロリーゼロ。どうだ?」
「最高!!」
 喜色満面、涙もぴたりと止まって、竜胆は世界の手から差し出されたビスケットを受け取った。巫女服のポケットに入れては叩き、増えたビスケットを巾着に入れてまた叩き。
 いつのまにやら巾着はビスケットでパンパンだ。これでカロリーゼロとか、女子には天国である。
「わっはーい大量ー! いただきまーす!」
 そうして幻のビスケットをむしゃむしゃ食べ始める竜胆だ。
 微笑ましく見やったところで、メリーがふと空を見上げる。
「あ、雨……」
「上がってるね♪」
 モニカも晴れ晴れとした笑顔で空を見上げる。雨はすっかり上がって、雲間から太陽が覗いている。
 もう大丈夫だろう。そう感じた世界が菓子折りの包みを竜胆に差し出す。
「やるよ。やけ食いには量が少ないが、それでも食べて心機一転頑張ってくれ」
「んむっ、ありがとう!」
 ビスケットを飲み込み、嬉々としてそれを受け取る竜胆。尻尾も振られ、気分はすっかり上機嫌のようだ。
 斑鳩も安堵した表情で、竜胆にさっと背を向ける。
「さァて、空も晴れたことだし私はもう行くよ。これからの君に幸多からんことを」
「お姉さん、頑張ってね!」
「ありがとう皆、またねー!」
 モニカも一緒になって声をかけ、四人は神社の境内から去っていく。背中に此方に手を振る竜胆の声を聞きながら、モニカはぐーっと背を伸ばした。
「うーん、いい味だった!」
 彼女の感情はいい味だった。恋をしたら、また美味しい感情を味わわせてくれそうだ。
 神社の鳥居を再び潜りながら、メリーが傘を閉じる斑鳩に声をかける。
「ねえ斑鳩」
「うん?」
「恋愛に詳しいっての、どこまでが本当?」
 探るようなその言葉に、斑鳩は眼鏡を直しながら、笑ってそっと返す。
「徹頭徹尾、嘘さ……だって私は、嘘つきだからねぇ」

成否

成功

状態異常

なし

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