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シナリオ詳細

はじまりはスライムから
はじまりはスライムから

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 幻想国内、とある街の郊外に広がる草原。
 一年を通して常緑の草に覆われたこの草原には、街と街を繋ぐ街道が通っており、日々多くの者や物が行きかっている。
 視界いっぱいに広がる緑の絨毯と石畳の白との対比が美しく、訪れる者や街に戻る者は皆、この草原に差し掛かると間もなく到着するであろう街を思い、ほっと息をつくという。
 草原には魔物が生息していることも確認されているが、ほとんどの種は凶暴性が低く、力も然程強くない。
 徒に手でも出さない限り、襲われることは滅多にない。そのため、この道を用いた近隣の村までの移動であれば、護衛を伴わずに行き来する者もいるほどだ。

 風もなく、穏やかなある日のこと。
 ちょうど真上にのぼった陽に照らされながら、青空の下、一台の行商馬車が街へと向かう。
 この分なら、おやつ刻の前には街に着けそうだと御者を務めている男が笑みを浮かべた、その瞬間――

『きゃんきゃんきゃんきゃん!』

 突然、高い複数の鳴き声が響き、左右の草むらから薄ピンク色の何かが現れた。
 それらはぽよぽよっと、ぷにぷにっと、毬にように地面にバウンドすると、そのまま馬車に跳びかかる!
「うわぁっ!?」
 御者は慌てて手綱を引いて馬を止める。
 急停車の衝撃に、何事かと荷台に乗っていた他の商人たちが馬車を降りたときには、馬車はすっかり薄ピンク色に囲まれ、しがみつかれ、進むに進めない状況に陥っていた。
 斯くして行商人たちは、興奮する馬を宥めたり、馬車に群がるぽよぽよを引っぺがしては放り投げを気が滅入るほど繰り返し、やっと街に入る頃には、もうすっかり日が傾いていたという。


「というわけで、依頼なのです!」

 ユリーカ・ユリカ(p3n00002)がビシリ、ペン先をイレギュラーズに向け、ポーズを決めながら声を上げた。
「今回の依頼は、わんちゃん……じゃなかった、イヌ型スライムの撃退なのです」
 内容としては単純である。ある草原に大量発生してしまったスライムを退治、あるいは何らかの方法で人に近づかないようにしてほしいというものだ。
「イヌ型スライムさんは、名前のとおり、デフォルメされたわんちゃんみたいな、丸くてころころした形のスライムなのです。女の人やちびっこに人気があって、街道を行き来するときにおかしをあげる人もいるみたいですね。そのせいで、人を避けるどころか懐いて近づいてきてしまうみたいなのです」
 一匹二匹であれば問題ないものも、わらわらと群れを成して迫ってくれば、やっぱり怖い。きゅいきゅい鳴きながら押し寄せてくるスライムを馬が怖がり、草原を通る行商や旅行者に僅かながら影響が出てしまっている。
 幸い、襲われて怪我をするという事故はまだ発生していないが、対処するなら今の内だということで、ギルド『ローレット』に依頼が回ってきたというのが今回の依頼の流れであった。

 具体的な数は決まっていないが、退治するのであれば大体40~50匹。
 特に街道周辺に出る者を中心に対処してもらえれば、スライムも人に近づかなくなるだろうとのことだ。
 街道に出れば、喜んで尻尾のような職種をふりふり近づいてくるだろうから、捜索等も特に必要はない。
 罠や捕獲用の網を用意すれば、よりスムーズに仕事を進められるだろう。

「あ、そうだ。せっかくなので、お役立ち情報なのです!イヌ型スライムさんは、甘いものが好きで、反対に辛いものや刺激物が大の苦手みたいなのです。それから、視覚が鈍い代わりに、嗅覚がすっごくいいのですよ!」
 何か仕掛けを用意するときに使えるかも知れないのですと言って、ユリーカはペンを指先で回す。
 それから、眉根にしわを寄せ、できるだけ厳格に聞こえるような声をつくりながら言葉を続けた。
「見た目はかわいいし、人懐っこくて愛嬌もあって、ちょーっと心が痛むかも知れないのですが、ここは心を鬼にして、何とか追い払ってきてほしいのです」
 これもお仕事ですから!
 生真面目を装って言ってから、緑色の目はきょろきょろ、辺りを見渡す。
 誰にも見られていないことをよーく確認して、目の前にいる面々にだけ見えるように、こっそりと舌を出した。
「でも、仕事の合間にちょっとだけなら遊んでもいいかもしれないのですけどね?」
 なんて。
 それじゃあ、がんばってほしいのですと付け足して、新米情報屋はいたずらっぽい笑みを浮かべるのだった。

GMコメント

 お初にお目にかかります。
 PPPシナリオ実装おめでとうございます。
 GMとしてお世話になります、次波木夜一と申します。
 どうぞよろしくお願いします。

●成功条件
 イヌ型スライム40匹以上の退治、あるいは、何らかの手段を用いた撃退

●イヌ型スライム
 10匹集まってようやくイレギュラーズ1人と同等になるかならないか程度のか弱い魔物です。
 数だけは多いですが、基本的にはじゃれてくるだけでほとんど害はありません。敵意もありません。
 知能も低く、仲間がやられても危険だと認識するまで時間がかかります。
 ただ、一定数やられると、流石に危険を感じ、触手を巻いて逃げるようです。


++++

 非情な心でイヌスラを切り捨てる仕事人に徹するも良し。
 ちょっとおばかなイヌスラたちに振り回されるドタバタを満喫するも良し。
 いずれにせよ、楽しい冒険の始まりとなることを願って。

 皆様の個性あふれるプレイングを楽しみにしております。

  • はじまりはスライムから完了
  • GM名次波木夜一(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月28日 21時35分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
上谷・零(p3p000277)
フランスパン・テロリスト
フィンスター・ナハト(p3p000325)
幻眼
アルテミス・カリスト(p3p000550)
正義の騎士
朝長 晴明(p3p001866)
Red hot toxic
リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
分の悪い賭けは嫌いじゃない
カルマリーゼ・セフィラ(p3p003135)
黒き森の賢者
レスト・リゾート(p3p003959)
遠足ガイドさん

リプレイ


 八人が村の外へ踏み出すと、爽やかな風が通り抜けた。
 鮮やかな緑の上を光が走り、小高い丘も越えて、あっという間に見えなくなる。
 それは、彼ら<特異運命座標(イレギュラーズ)>と呼ばれる面々の湧き上がる期待。そして、これからこの世界のあらゆる場所を駆け巡り、冒険を繰り広げるであろう彼らの未来を想起させる光景であった。
 
 天気は快晴。空には、空中庭園が見える。
「いいお天気ね~」
 おっとりとした声が風に乗る。『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)は、まるでピクニックにでも来たかのような軽やかさで日傘をくるりと一回転させた。
「害のない魔物の駆除……か。まぁ最初はこんなもんじゃろ」
「確かに害はないようですが、放っておくと収集つかなくなるかもしれませんよ」
 この依頼も大事なものだと『幻眼』フィンスター・ナハト(p3p000325)にフォローを入れられ、『桃巫女狐』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は、それもそうじゃと頷くと、空と草原を映したかのようなオッドアイを細めた。悪戯っぽい笑みを浮かべ、隣の少年に声を掛ける。
「なんじゃ、零殿。おぬし、緊張しておるのか?」
声をかけられた『フランスパン売りの少年』上谷・零(p3p000277)は、ぎくりと肩を跳ね上げる。
「は、初めての依頼だから……しっかりやんねぇとな……!」
 スライムなら、まだ怖くはないかと思ったものの、なんと言っても初依頼。やはり緊張するものは緊張する。
「かわいい外見に、つい手を抜いてしまいそうですが……正義の騎士として、人を困らせるスライムを退治してみせます!」
 その傍ら、『正義の騎士』アルテミス・カリスト(p3p000550)は、緊張と不安を跳ね除けるよう、優しげな印象の顔をきりりと引き締め、声高らかに。
「うん、皆で力を合わせて頑張ろう」
 フィンスターの激励を開幕の合図に、八人は依頼に取り掛かった……と、思いきや。

「わたくしは貧弱に定評があるので力仕事はできそうにありませんが、応援ならお任せください」
「カルマリーゼさんも手伝うんですよ?!」
 お茶目にも、何食わぬ顔でみんなを見送ろうとする『黒き森の賢者』カルマリーゼ・セフィラ(p3p003135)を、正義の騎士は見逃さなかった。
 

 イレギュラーズは今回の依頼に二日間を費やすことに決めていた。一日目はスライムを捕獲するために使う材料集めや罠づくりをおこなう。
 材料収集班のメンバーは、まず『Red hot toxic』朝長 晴明(p3p001866)のもとに集まった。
「これが薬の材料になる植物のリストだ。よろしくな」
 無精髭にタバコの匂い。気だるげな雰囲気を纏っているものの、商売人ゆえか社交的な晴明は笑顔で班員に声を掛ける。もっとも、今回の依頼における彼の上機嫌は、また別の理由だが……
――スライム避けとスライム寄せの薬が作れれば、一儲けできるかもしれない――
そんな邪な(商人としては真っ当ともいえる)考えを胸に、晴明は集まりつつあるイヌ型スライム……通称イヌスラを眺めた。
(イヌスラが金の入ったズタ袋に見えてきたぜ……!)
 抑えきれない怪しげな笑いを漏らす男の姿に、イヌスラたちも思わず後ずさりした。

 材料を集めを始めたイレギュラーズの周囲を、イヌスラが跳ね回る。
 スライム同士でころころじゃれ合ったり、餌をおねだりしてみたり。
大量発生との言葉どおり、揺れる草の隙間、あちらでもこちらでもスライムの姿が覗く。ぽよんぽよんと軽快に弾む姿は見ている側も心が和む。
「心を鬼にして、と言われましたが……それが、1番の難題かもしれませんね……?」
 『不運な幸運』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)は、既に足元に集まってきているイヌスラを見てつぶやいた。
 自然や植物に詳しい彼女は、メモに書かれた薬草類を難なく集めていく。ギフト【ハードラック】も発動しているが、今のところは変わりはない。平和そのものだ。
 見上げた空を、小鳥がゆっくりと旋回した。ただの小鳥に見えるそれは、レストの召喚したファミリアーだ。光を浴びた小さな眷属は、流れ星のように空を駆け、草原を見渡す。
「上から見てもきれいね~。あ、カルマリーゼちゃんだわ~」
 レストが小鳥の目を通してカルマリーゼを見つけたのと同時に、カルマリーゼもレストのファミリアーに気づいたらしい。にっこり笑って近くのイヌスラを抱えると、その前足をぴょこぴょこ振って。
 つられて、レストも手を振り返す。
 きっと、カルマリーゼからはレスト本体は見えていないだろうけれど、何だか嬉しい気分になって。気持ちを表現するように、小鳥は高く空に上った。

「よっと。このぐらいの木なら、何てことないの」
 木の上にあっという間に駆けあがり、葉を摘みながらリアナルが得意げに銀色のしっぽを揺らす。ぐるりと草原を見回して、罠作り班の位置と、そこに向けて射線の通る高台に見当をつけると、ぴょんと飛び降りた。
「あとは草系の植物だけか。……うーむ、見分けがつかぬ」
 草原には似た形の草花も多い。ならば詳しい者に聞くのが一番と、リアナルは大きく声を上げた。
「フェリシア殿ー! ちょっと見てほしいんじゃがー!」
「! は、はい……!」
 呼ばれたフェリシアはリアナルの方へと向かおうとするが……慌てたためか、不運にも小石に蹴躓いて。
 草の上に倒れたフェリシアが起き上がろうとすると、海を思わせる水色の目に、ある植物が映った。
「あ、れ……? これは……」
 地面に張り付くように生える一株。低い視点でなければ、その草を見つけることはできなかっただろう。手早く小さな幸いを摘み上げると、フェリシアはリアナルの方へと向かった。

「何でこの草がここに……?!」
 集められた材料のチェックをしていた晴明が、思わず声を上げた。
「珍しいものなのかや?」
 リアナルが首を傾げると、横にいたイヌスラもそれを真似る。すっかり仲良しだ。
「あまり幻想では見ない植物なのですが、もしかしたら、馬車が種を運んできたのかもしれません、ね……」
 はにかむフェリシアが説明を、続けて晴明が補足する。
「潰して煮ると、少量でも強い粘りが出るのさ。糊とか、薄めて薬液のとろみ付けに使ったり、止血にも使えるな。幻想で買ったら、それなりの値段になる」
 フェリシアは、事後処理の時に使えるかと思って取ってきましたと頷いた。
 なるほどと納得する他の三人に向け、晴明はいかにも親切な様子で声を掛ける。
「こんだけありゃ十分だ! それじゃ、後は俺がやっておくから、レディたちは罠作りの手伝いを――」
 その手元。件の植物を袖口に隠そうとする密かな動き。
しかし、その手が事を成し遂げる前に、白く嫋やかな手がそれを阻んだ。
「晴明君?」
「ミ、ミス・カルマリーゼ」
 にっこりと、しかし、有無を言わさぬ笑顔で隠者は振り返る。
「わたくしは、晴明君の見張りをしておきますね」
 皆様、いってらっしゃいませと手を振るカルマリーゼの隣、がっくり肩を落とす男の姿があった。
 
 ところ変わって、罠作り班。
「これでも騎士ですから、力仕事はお任せください!」
 そう宣言し、意気揚々と罠作りに取りかかったアルテミスは今――
「……なんだか、自分の墓穴を掘っているような気がしてなりません」
 と、不穏な呟きを漏らしていた。

「ふ、不吉なこと言うなよ……!!」
 同じ作業に当たっていた零が思わず声を上げる。
いかに平和に見える草原でも、言葉に出されると少し心配になってしまって。
「大丈夫ですよ。皆でしっかり相談しましたし、きっと上手くいきますよ」
 明日の待機場所にする木の具合を確認したフィンスターが、木の上から飛び降り、音も立てずに着地する。彼の言葉に込められているのは、油断ではなく信頼だ。集まったメンバーへの信頼もそうだろうが、しっかりとした相談ができたという信頼でもある。
「うん、バランスは良さそうだ。木箱の設置が終わったら、俺も手伝いますね」
 用意していた木箱の罠の調整に取り掛かりながら、青年は二人に向けて声を掛けた。
彼の言葉に不安な気持ちはリセットされて、零とアルテミスもまた、張り切った様子を取戻し、再び手を動かし始める。
「そうだな。折角の異世界、折角の依頼なんだし、楽しまなきゃ損だもんな」
 多少、臆病なところはあるが、根はポジティブな零である。励ましの言葉に、彼の持ち前の前向きさが顔を出す。アルテミスだって負けてはいない。
「村の皆さんの生活が脅かされるなんて、黙っていられません! 頑張ります!」
 真面目で誠実なところは、騎士である彼女の長所だ。自分で自分を奮い立たせながら、一生懸命に作業を進める。
 三人で作業を進めて暫く、一つ目の落とし穴は無事に完成した。
 ちょうど二つ目に取り掛かったタイミングで、材料収集を終えた他のメンバーも応援に駆けつけ、作業は六人がかりになって。
人手が増えたこともあり、作業はスムーズに進む。調合の下準備が終わった晴明と、カルマリーゼが合流した頃には、罠はすっかり考えていたとおりの配置で出来上がっていた。
 フィンスターが汗を拭いながら、全員に笑顔を向ける。
「これで明日はばっちりですね! 皆さん、明日も宜しくお願いします」
 今日はよく眠れそうだと楽しく話しながら、一行は一時、草原を後にした。


 翌日、イレギュラーズは再び草原に集合した。
 今回も昨日同様、二班に分かれての作戦だ。作戦に入る前に、スライムの誘導を担当する班は甘い匂いがする薬を、罠に掛かったスライムの対処をする班はお仕置き用の辛い薬を、一本ずつ晴明から受け取った。
 昨日に比べて風は穏やか。これなら、香りが風に流されることもないだろう。
 全員が自分の配置に着いたことを確認し、まずは誘導班が行動を始める。

 きゅぽん。

 試験管から栓を抜く小気味良い音が響き、間もなく周囲は甘い香りで満たされた。
 匂いに敏感なイヌスラたちは、疑う素振りも見せず、大喜びでイレギュラーズの元へと集い、周囲にはあっと言う間に人だかりならぬスラだかりができていく。
「さぁ皆様、此方で御座いますよー」
 カルマリーゼが先導気分で手を上げて、笛吹のおとぎ話さながら、薄ピンク色の行列が進み出す。
 これほどイヌスラたちが強く反応したのは、薬の効果だけではない。誘導班のメンバーが、彼ら一人一人が持つ唯一無二の能力『ギフト』を併用していたことも影響している。

 カルマリーゼは、自身の抱える病【緑樹病】によって変じた自身の特性を活かしてイヌスラを誘う。俺の香りに酔いなと冗談めかす晴明の【媚毒の甘霧】は、薬の香りと混ざり合い、言葉どおり惚けるほど濃厚に。フェリシアは前日も用いた【ハードラック】で不運に隣り合う幸運を呼び寄せようとしている。アルテミスのギフトは、スライムやオークに関しては悪い方向に働くことが多いが、今回はまだその効力は落ち着いているようだ。
中でも、特にイヌスラたちの人気を集めているのは、フランスパンを生み出すことができるという零のユニークなギフト【Infinite bread】だ。
甘い匂いだけでなく、実際に食べられることは大きな魅力なのだろう。零がフランスパンを千切って地面に置こうとする前に、もうイヌスラたちは零の手に群がる始末だ。
「おお……スライムもフランスパン食べるんだな……。よーしよし、味わって食べるんだぞ」
 気分は動物の飼育員。零の言葉に応じるように、イヌスラはきゃんきゃんと高く吠えた。
「……それにしても本当に懐っこいな。芸でも覚えさせたら見世物になるかねぇ?」
「本当に……しっとりもちもちで、気持ちいい、ですしね」
 進行の合間、のんびりとした会話が挟まる。待機中のリアナルによる通行人への根回しも功を奏し、作戦は至って順調である。
やがて目標地点が近づき、フィンスターとレストの姿が見えた。――それを見るや、ノリのいい黒い森の隠者は躊躇なく動いた。
「あぁ、アルテミス君あぶなーい」
「あっ、きゃあっ!」
 甘い匂いの薬液が、思いきりアルテミスに掛けられる。揮発性の液体は体温で見る見るうちに大気に混ざり、彼女の持つ【騎士の責務】の効果と重なり合って……途端、スライムたちは闘牛のような勢いでアルテミスに殺到する!
「スライムがこっちに……?! と、とにかく、罠に誘導しなきゃっ」
「わ、私も、ですか……?!」
 巻き込まれたのは、偶々アルテミスの隣にいたフェリシアだ。諸共イヌスラに追い回される不運に見舞われ、罠へと全力疾走を強いられる。
 二人の命運を分けたのは、一瞬の判断であっただろう。フェリシアは罠を迂回し、裏側へと回り込み、性格同様一本気なアルテミスは、勢い余って落し穴へと華麗なるダイブを決めた。
 罠班として待機していたリアナルは、その様子にケタケタ笑いながらも、仕事はきっちり。先頭集団からはぐれた後続イヌスラを、威嚇射撃で追い込んでいく。
 あるものは木箱に、あるものは落とし穴に……ほとんどのスライムがいずれかの罠にかかったことを確認し、フィンスターは樹上から飛び降り、木箱をがっちりブロックした。イヌスラたちが箱から抜けようとしても時すでに遅く、自分の持つスキルを把握し、最大限に活用したフィンスターの前には太刀打ちできようはずはなかった。
 イヌスラをしっかり確保している間も、フィンスターは自身のギフト【PhantomEye】を使って万全を期す。彼の澄んだ青の目が見えざる世界を映しだし、周囲に潜むイヌスラの有無を知らせる。一方、レストは昨日同様、ファミリアーの目で広範囲の探索を担当する。罠班の三人による包囲網は一部の隙もないと言って過言ではなく。
取り逃したイヌスラを何匹か捕まえ直して箱に入れ、最後に、追い立て役のリアナルが、イヌスラを一匹小脇に抱えて合流し、無事、捕獲作戦は終了した。

 しかし、今回の依頼内容は「イヌスラを街道や人に近づかないようにする」ことだ。それには、捕獲だけでは足りない。
 そのため、彼らはイヌスラの苦手な刺激の強い匂いを使い、イヌスラにお仕置きするという方法を準備していた。
 お仕置き用の薬を手にした罠班の面々がトラップに近づく。木箱の方は問題ないが、最大の問題は穴に落ちた……
「わ、私のことは気にせず、スライム退治をーっ!」
 混乱したイヌスラに揉みくちゃにされながら、騎士の声が響く。
「いいの?! 本当にいいの?!」
 あんまりな惨状に、怯える零が、本当に薬を投げ込んでいいのか躊躇うのも無理はない。
けれど、これは依頼だから。そう自分たちに言い聞かせ。
 情報屋も言っていたじゃないか。
「すまない、アルテミスさん……!」
「終わったら、村でお風呂を借りましょうね~」
 心を鬼にしろ。悲鳴は聞こえないふりだ。
 燃え上がるように真っ赤な液体が、無慈悲に罠に放り込まれた。


「はぁ、ひどい目に遭いました……」
「はぁ、とんだ計算違いだぜ……」
「はぁ、納得がいかぬ……」
 三つの声が重なった。
 村で湯浴みしてようやく人心地ついたアルテミス、スライム対策の薬で儲かるはずが、被害が収まり薬が売れなかった晴明、そして、イヌスラを連れ帰ることができなかったリアナル、三人の声だ。
 お仕置きの後、街道沿いに辛い匂いを放つ植物や、フェリシアの見つけた草で塗料風にした薬を処理した一行は、捕まえたイヌスラを逃がし村まで戻ってきた。
 罠から逃がすと、あれほど人に懐いていたイヌスラたちは、蜘蛛の子を散らすように、ぴぃぴぃ鳴きながら逃げていった。心は痛むが、作戦が成功したことは疑う余地もない。
 依頼に参加した者の大半は、可能であればイヌスラを飼いたいと希望していたが、その中でも取り分けリアナルの熱意は強かった。ローレットで飼うのは……イヌスラ牧場をつくるのは……家から絶対に出さないなら……と、粘り強く交渉に臨んだが、どんなに弱く人懐っこくても魔物は魔物。村や街に入れることは難しい。村でイヌスラを飼わない理由もまた、そこにある。
 とはいえ、村にとっても、愛すべき隣人であるイヌスラを気に入ってくれたことは、村人たちにとっても嬉しいことで。助けてくれたお礼とお土産にと、村でつくっているイヌスラクッションを一つずつ持たせてくれることになった。
 依頼を終え、この後は零のギルドで打ち上げ代わりのパンパーティーを開くことになっている。出されるパンに期待する者、仕事を終えて安心する者、それぞれが打ち上げを楽しみにしている様子で。
そんな中、唯一クッションと睨めっこしていたリアナルをレストが励ます。
「きっとまた遊ぶ機会があるわ~。リアナルちゃん、元気出して~?」
小さく唸っていた巫女狐は、吹っ切れたように大きな声を上げた。
「ええーい! こうなりゃヤケ酒じゃー!!」
「付き合うぜ、ミス・リアナル!!」
「どうせなら酒だけじゃなくフランスパンも……いっそ固定客に……」
 賑わう声が次第に草原から遠ざかる。
 人目につかなくなるかも知れないが、スライムたちはこれからも元気に草原を駆け回るだろう。そして、一匹のスライムも殺めることなくそれを成し遂げたのは、彼ら<特異運命座標(イレギュラーズ)>なのだった。

青年は草原を振り返り、再び片目を閉じる。
遠く幽かに、小さな薄ピンク色のオーラが、確かに見えた。
「何はともあれ、一件落着かな?」
 肩を竦めて笑うと、青年は仲間たちと並んで歩き始めた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

大変お待たせしました。『はじまりはスライムから』リプレイ返却となります。
イレギュラーズの皆さん、相談からプレイングの送信、そして依頼返却までお疲れさまでした。
当方としても初めてのリプレイとなります。
ご参加いただいた皆さん、どなたも本当にキャラクターの魅せ方、描き方がお上手で、執筆する側としては本当に楽しく取り組むことができました。
楽しすぎて字数が本当に足りず、もっと皆さんの色んなシーンを描きたかったのですが、力不足で口惜しい限りです。

楽しかったと同時に、自分自身の課題も知ることができたリプレイでした。
未熟なGMに大事なキャラクターを預けてくださった皆様に心より感謝申し上げます。
このリプレイが皆様の楽しみの一つと感じて頂けることを願っております。
依頼にご参加いただき、本当にありがとうございました。

それでは引き続き、良い冒険を!!

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