PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ブルーミストの飛沫

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 穏やかな春の日差しが王都のラドクリフ通り、飴色の石畳を明るく照らしている。
 木々を新芽が彩りはじめ、霞掛かったアイル・トーン・ブルーの淡い空を着飾らせていた。

 街では早速、かの幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の初公演が終わり、多くの観客を魅了したと言う。
 その評判は素晴らしく、今回の長期公演には否応なしの期待が高まっているのだった。

 だが――

 突如けたたましい音が鳴り響く。

 倒れる音。重い木のテーブルか。
 陶器か硝子の割れる音。小さな転げるような音。
 甲高い悲鳴が聞こえる中で、イレギュラーズは倒れた老婆を助け起こす。
 たった今、イレギュラーのブーツが踏みつぶしたものはリンゴであろうか。

 ともかく老婆を立たせ、怒号が聞こえる方へ視線を向ける。
「だから値引けって言ったんだよ! 糞マヌケの畜生が!」
 青果露天商の簡素なテーブルを盛大に蹴倒した男が叫んでいる。
「んだと、オラァ!」
 露天商も黙ってはいない。
 喧嘩だろうか。
 ないとは言わないが、ちょっと短気に過ぎる様子に引っかかりを感じるが。

「おうおうおう、天下の往来で喧嘩たあ、いい度胸じゃねえか」
 怒声を浴びせ合う二人に向かって、熊頭――獣種の男が突然にいきり立つ。
 知っている。あの男はこの先のパン屋ではなかったか。
 気さくで親切な男だった筈なのだが。
 パン屋は握りしめた木の棒で、露天商を殴りつけた。

 だが危機一髪。勘定台を砕いただけだ。
「邪魔すんじゃねえぞオラ!」
 露店商は反撃とばかりにナイフを握りしめ。
「娘に何しやがる!」
 あろうことか、突然近くにいた少女を締め上げ、首元に刃を突きつけたのだ。
「てめえら、この餓鬼がどうなってもいいってんだな!」
 誰も彼も突然、気が触れたとしか言いようがない状態に見える。
 少女はハイライトの消えた目でなすがままになっていた。しかし、その手には護身用の短剣が握られているのが見える。

 客が値引き交渉をする。これは分かる。
 店主が値引き交渉に応じない。これも分かる。
 客が値引き交渉を断られて頭にくる。まあ分かってやってもいい。
 キレた客が突然勘定台を蹴りつける。この辺りから理解に苦しむが、そんな粗野な男も居るかもしれない。
 だがそろそろ場合によっては『お縄』だ。
 そして喧嘩する二人に第三者が突然、棍棒で殴りつけるに至っては異常と言うほかない。
 更にはそれに対して、近くにいた子供にナイフを突きつけるというのは狂っている。論理も感情もまるで話が繋がらないではないか。

 一先ず目に入った情報はそれだけだが、事態そのものはそれどころではない。
 そこかしこで怒声と悲鳴が聞こえ、あれこれと大変なことになってきてしまっている。


「丁度よかったわ。みんな集まって聞いてちょうだい」
 混乱の中に響くのは、聞きなれた声だった。こんな状態では安心感さえ感じる。
 騒乱を目にしたイレギュラーズの前に現れたのは赤いドレスを靡かせる『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)だった。
 けれどそのの言葉は、ひどく『らしく』ない。

「あれを頼むわ」
 彼女は普段と比較してあまりに端的過ぎる言葉でそう告げた。
「私は情報収集。それから依頼の発行手続きをするから」
 なるほど。
 依頼という訳だ。

 比較的治安の良いラドクリフ通りで、突発的な騒乱が起こることは非常に珍しいことだろう。
 ローレットの仲間が、この場にたまたま居合わせたことだけが不幸中の幸いか。

 さて。衛兵が現れるまで、ほんの数分といった所だろう。
 彼等がやってきたら事態を任せれば良い訳だが、さてどうしたものか。

 多少手荒な真似をしてでも暴徒を鎮圧する必要はあるだろう。
 ザっと見た限りでもあちこちに居るから、かなり急いでやらなければならない。
 もちろん殺すのはもっての外だ。

 次に、恐慌し、上手く避難出来ない無力な人々を上手く誘導して退避させる必要がある。
 大人もいれば子供も居る。老人も居るか。これはとにかく数が多い。

 視線を合わせて頷き合ったイレギュラーズ達は、各々の役割を得て駆けだした。

GMコメント

 もみじです。狂気の広がりを収拾させてやりましょう。

●ロケーション
 王都。ラドクリフ通りの果物露店前。
 活気があり、比較的治安の良い地域です。
 サーカスの公演があり、人々の数は多いです。

 突如数名の人が暴れ始めました。
 騒ぎは拡大傾向にあります。
 その中で対処すべき範囲は幅20メートル、長さ50メートル程の空間です。

 怪我人を抑えるのは困難と思われますが、上手く頑張ってみて下さい。
 また暴動のように火が付くと収拾がつかなくなる危険性があります。こちらも頑張ってみてください。

●目的
・衛視が来るまでの数分間、可能な限り被害を低減させる。
・人々を上手く逃がすなりする。
・暴れている数名を速やかに殺さず鎮静化させる。

●あるもの
〇人々
 逃げまどったり、叫んだりしている普通の人達です。
 ざっと50人ほど居るでしょう。

〇暴れている人
 一人一人はひどく弱いですが、常軌を逸した様子です。
・露天商1名
 物腰の柔らかい人物でした。ナイフを少女に突きつけています。

・獣種のパン屋1名
 熊頭です。気さくで親切な男でした。棍棒を振り回しています。

・男の客1名
 身なりの小奇麗な男です。値切りを強要する見た目には見えません。

・少女1名
 男の客の娘です。露天商にナイフを突きつけられたまま目のハイライトが消えた目で護身用の短剣をたった今抜き放ちました。

・+α(作戦中に増える恐れがあります)

●情報確度
 Bです。ひとまず眼前で起きていることが全てです。
 が、不測の事態が発生する可能性は否定しきれません。

●相談
 これから皆さんが書かれることを、一瞬で考え、現場では数秒ぐらいでやったんじゃないでしょうか。
 PCってすごい!
 そこは深く考えなくても大丈夫です。

  • ブルーミストの飛沫完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月21日 20時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リオネル=シュトロゼック(p3p000019)
拳力者
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
リュグナート・ヴェクサシオン(p3p001218)
咎狼の牙
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
ロズウェル・ストライド(p3p004564)
蒼壁
疾風(p3p004886)
超軼絶塵

リプレイ


 幾分と霞の掛かった薄い空はアイル・トーン・ブルーの趣を見せていた。
 ピィと鳥が上空を飛んでいくのが見える。王都のラドクリフ通りに響いたのは硝子の割れる音。
『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)の赤いヒールが運悪く転がって来たリンゴを踏み潰す。
 眼の前で倒れた老婆を助け起こして、リンゴの代金を握らせたエリザベス。
「失礼致しました。ささ、こちらへ」
 老婆の手を引いて安全な方向へ向かわせる。
 この常軌を逸した空間に『拳力者』リオネル=シュトロゼック(p3p000019)は耳を欹てた。
 彼が捉える音は人々の怯えた声と狂人達の怒号。これが原罪の呼び声の影響なのだろうかと思考を巡らせるが憶測の域を越えない。ウォーカーには届かない声はどのようなものだろう。
「なんて、考えてるヒマもねーっての」
 靭やかにその場から屋根の上へと翻ったリオネルは、助走を着けて軽々と向こう側へ飛んだ。

 買い出しに来ていただけなのに、と肩を落とした『青き戦士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)はコメット・ブルーの瞳を上げた。介入しなければ事態は悪化の一途を辿るであろう。
 それこそ、収拾の付かない大惨事も有り得る。アルテミアは青い瞳を流した。
 視線の先には『超軼絶塵』疾風(p3p004886)の姿が見える。頷き合い作戦を瞬時に立てる。
 アルテミアは棍棒を振り回しているパン屋へ。疾風は小奇麗な格好の男へ。同時に地を蹴った。
(何でこんな事態になるんやろうかね)
 疾風は吹いてくる風に嫌なものを感じで眉を寄せる。粘つくような湿った風。早く鎮めなければと人混みを避けて行く。
 その隣で足早に去っていく色彩の魔女を見送ったのは『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)だった。
「プルー、報酬は弾んでもらうわよ」
 折角の休みに街を歩けば、仕事が降って湧いて来たのだ。やらないでもないが報酬は有って然るべきだろうとリノは妖艶な笑みをこぼす。
 しっとりとした光沢を放つ夜色のチョーカーが尾を引いて。気怠げな金の瞳は人混みの先に見える少女へと注がれていた。その場に居合わせた仲間が動くのを確認して移動を開始する。

(巻き込まれないように去ろうと思ってたんですけど……アタシ)
『落ちぶれ吸血鬼』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)は小さくため息をついた。
 暴れている輩が眼の前に居たとして、面倒事に巻き込まれたくないという思いは至極当然の摂理であろう。イレギュラーズとて人である。しかして、一応建前上はローレットに所属している扱いなので、事件とあれば解決しなければならない。面倒くさいと思いながら黒い羽を広げ頭上へ舞い上がった。
「……アァ!? 分かってんのか!?」
 露天商の声だろう。少女に突きつけられる刃に気付いた数人の人々が、怯み悲鳴を上げる。
 幾人かは我先にと他人を押しのけて逃げゆこうとするが、危険を察知出来ていない人混みに阻まれていた。「どけよ!!!」
「おい、何だ!?」
 逃げる人に肩を捕まれた男は戸惑い非難の声を上げる。
「皆さん、落ち着いて!」
 落ち着いた声色で諭す『蒼壁』ロズウェル・ストライド(p3p004564)が押されて、転んだ子供を拾い上げた。母親にそっと手渡し、逃がすために親子の背を押す。
「ここは危険です。安全な場所へ」
 不安そうな顔でロズウェルを見上げる親子。力強い眼差しで見つめれば、騎士然とした風貌に安堵の表情を見せる。
「は、はい」
 親子の向こう側、『咎狗の牙』リュグナート・ヴェクサシオン(p3p001218)が声を張っていた。
「俺達はイレギュラーズです、この騒動、我らで預からせて頂きます!」
 ロズウェルとリュグナートの落ち着いた声は頼もしく見えただろう。


 ――――ブォォォォオオオオオオオオ!!!


 突如、通りに響いた聞き慣れない音。決戦の狼煙――――ほら貝である!
 エリザベスの荷物の中に搭載されていたそれが猛威を振るう。
 何故と仲間の視線が問うて。
「……女性にそんな質問をするものではございませんわ」
 ほんのり頬を赤らめるエリザベス。いや、そこ頬を染める場面なのか!
 しかして、聞き慣れない音にその場に居た人々の行動を止める事に成功していた。


 一瞬、足を止めた人々の合間を縫ってアルテミアがパン屋の熊男へ接敵する。
 左右に流れる青。キャンパス・ブルーが翻った。姿勢は低く熊男の視界に入る間も無く急接近した青き戦士は体を捻り踏み込む。白いブーツが土を喰んだ。
 視覚の外側から迫りくるアルテミアの攻撃。
 下段からの突き上げ攻撃を熊男の顎に叩き込んだ。
「アガッ……!?」
 抜き身の剣であれば致命傷を負わせる事が出来る間合いだったであろう。しかし、刃は鞘の中に仕舞われたまま。白銀の鞘が陽に照らされ鋭く光る。
 棍棒を掻い潜るまでも無く、一瞬の内に熊男を圧倒した。
 巨体が後ろ向きに倒れて地に伏す。用心深く様子を伺っていたアルテミアだったが昏倒した相手は起き上がる気配もない。無闇に暴れられる方が痛い目を見る事は明らかで。
 彼は早々に倒れて幸せだったのかもしれない。
 アルテミアが熊男を早急に圧倒したお陰で暴動が起きる可能性は減っているはずだ。

「なあ、そんな暴れんと。な? そんな街中で物騒な事する理由あらへんやろうに」
 疾風は小奇麗な身なりの男の前に出て声を掛ける。
「うるさい! ガキが口出しするな!」
 男の言葉を受け可憐なうさ耳少女の唇がニヤリと歪んだ。少女の皮を被った好戦的で獰猛な本性が垣間見えた。暴力的な反撃を誘導するかの如く可憐な笑顔で近づいて行く。
 そこはかとなく感じるのは狂気か恐怖か。男は疾風を押しのけるように払った。
 乾いた音が疾風の頬を打つ。
「お前は今手を出したな? やり返されても文句を言うなよ?」
 少女には出せないであろうワントーン低い声。
「貴様、男か! ……ギャァ!!」
 男が言い終わる前に蹴りを叩き込む疾風。転がる男はまだ意識がある。気絶させる程度に手加減をして地を這う男の腹部を何度も蹴り上げる。
「……パパ?」
 ハイライトの消えた目で少女が小さく呟く。父親に縋ろうと手を伸ばせば、首元に突きつけられたナイフに肉が食い込んだ。白い首筋にブラッディ・レッドが一筋流れる。
「ガハッ……!」
 口から唾液を撒き散らしながら昏倒した男を疾風は素早くロープで縛り上げた。

「おい……あれ、大丈夫なのか?」
「死んでるんじゃ?」

 男を軽々と持ち上げた疾風の背後から囁かれる声。好奇の目。自分だけは安全であるという慢心からくる身を滅ぼす好奇心。
「無意味に暴れたらあんたらもこうなるで。この辺危ないからおとなしく避難せえや」
 厳しい口調で言い放つ疾風に野次馬達は恐れをなして、そそくさと踵を返す。
 不安で煽る事は良くないのかもしれない。けれど、手段なんてものは、この状況下において選んでいられないのだ。
「ハイハイ、物珍しいのは分かりますけど」
 路地裏に転がされた男がどうなるのかと興味深々で覗き込んでいた人々に上空から降り注ぐ声。
 クローネは黒い蝙蝠の翼を広げて浮かんでいた。
 陽光を浴びてプラチナに輝く髪はゆるやかに揺れて。シトリンを讃えた瞳は蠱惑的。
 幻想の象徴。麗しの吸血鬼に人々は魅了される。
「巻き込まれたく無かったら去りなさい!」
 鶴の声とはこの事か。クローネの呼び声はカリスマ性を帯びて、どこかその声に応えたいという想いを湧き上がらせる。生来の彼女であれば、この様な目立つ行為はしたくないし、する機会すら無きに等しい生活をしていたのかもしれない。
 しかし、目立つ事を似合わないのだと卑下する彼女は、それでも儚く美しい魅力があった。
「今回ばかりは……」
 仕事であれば、自分が出来る限りの事をする。
 消極的な言葉とは裏腹に。この場において彼女の力は大いに効果を発揮したのだ。

 リュグナートは思惟する。華やかなサーカスの裏側で交錯する不穏な揺らぎ。祭り気分で浮かれるのとは訳が違う何か。赤青の双眸は人の流れを見つめている。それに逆らって向かってきた少女をリュグナートが引き止めた。
「ちょっと、何なの? この先のパン屋に行くつもりなのよ」
「待って下さい。この先は危険です」
 訝しむ顔で青年を見上げる少女。リュグナートの後ろには当のパン屋の主人が倒れている。
 状況を把握するように青年と主人を交互に見つめた。
「パン屋の主人、大丈夫なの? 何か物騒な事にでも巻き込まれたの!?」
 馴染みの店長が倒れていれば心配にもなるだろう。しかして、悠長な事はしていられない。
「ご安心を……」

「何だァ!? てめぇ! 痛えじゃねぇか!」
「わざとじゃ、無いわよ! これぐらいどうってこと無いでしょ。男なんだから」
「あぁ!? 男も女も関係有るか!!!」

 怒号はリュグナート達のすぐ側で聞こえた。咄嗟に少女を庇ったリュグナートの頭で硝子瓶が砕ける。
「きゃっ」
 喧嘩を始めた男が投げた瓶は大きく反れてリュグナートの前に居た少女に落ちてきたのだ。
 血が額を伝う。
「だ、大丈夫なの?」
 それでも少女を安心させるように笑顔を向ける。
「これぐらいどうってことないですよ。それより、危険ですから一緒に逃げましょう」
「わ、分かったわ」
 少女を連れて現場を離れるリュグナート。ロズウェルに目配せして暴動が起きそうな予感を知らせる。

「謝れッつってんだろうがよ! このクソあまが!」
 とうとう口論では収まらず男が女の髪を掴んで引きずり倒した。
「いやぁあああ!?」
 髪の毛を強引に引きずられればそこは内出血になり髪の毛が抜け落ちる。
 危険を察知したロズウェルは素早い動きでグレートソード抜いた。刃で傷つけぬ様、刀身で男を打つ。
 煽りで女も引っ張られるが、クローネのフォローが入りしっかりと抱きとめた。
 地に転がった男を見て困惑する人々。
「殺したりはしていません!」
 峰打ちであり、一時的な処置であると声を張るロズウェル。その中の逞しそうな青年に声を掛ける。
「申し訳ありません、この近くの衛視がおられるだろう場所へ行って応援を呼んで頂けませんか」
 プルーが呼んで来てくれているとはいえ、少しでも早く到着すればこの状況も収拾へと動くとロズウェルは踏んだのだ。
 初期段階から被害の拡大傾向が見られる中、8人では抑えられない恐れもあるかもしれない。
「わかった」
 青年は頷くと広場の方へと駆けていく。


 この間も鳴り続けていたほら貝の音――――




「ストップ! おイタはそこまででございますわ!!」
 エリザベスの声が通りに響く。
「何だぁ!?」
「――ところで、皆様はキノコとタケノコ、どちら派でございましょうか?」
 エリザベスが意味のない質問を露天商に投げかけた。空きを作り、少しでも会話を長引かせる作戦。
「はぁ? この餓鬼諸共、殺してやろうか? アァ!?」
 露天商が刃先を少女から離し、エリザベスに向ける。


 そう、この時を待っていた。


 リオネルは屋根の上から露天商の背後に降り立つ。エリザベスが援護の為、露天商の足元を銃で撃ち抜けば砂と共に銃声が響いた。
「事情は知らんけどな」
 ぽたり。ぽたり。
 アガットの赤が地面へ落ちる。
「とりあえず落ち着こうぜ。深呼吸でもしてよ」
 抜き身の刃を握ったリオネルの手から血が流れていた。ナイフごと取り込めればよかったが、世の理は都合よく出来てはいなかったのだろう。
 それを気にする様子も無く、自身が傷つくよりも子供が傷つくよりはマシだとリオネルは笑う。
「何だおまえ!!! くそ! 離せ!!!」
 リオネルがナイフを握った事で動揺した露天商は少女を突き飛ばす。
 それを上手く受け止めたリノは少女を優しく抱きしめた。
「オンナノコは優しく扱わなくちゃダメよ」
 リオネルに向き合った露天商はめちゃくちゃにナイフを振り回す。それを最低限の動きで軽々と避けたリオネルは露天に並んだリンゴを足で拾い上げた。
「よっと」
 向かってきた相手に足払いを掛けて転がす。盛大に転げた露天商の口に器用に切り分けたリンゴを突っ込んだ。モゴモゴと文句を言う露天商。
「払いは落ち着いてからってことで、ヨロシク」
 エリザベスと連携してリオネルはロープで男を縛り上げる。

 リノは露天から離れた場所に少女を連れてきた。
 腕の中の少女はまだ短剣を握ったままだ。リノは少女の頭を撫でて落ち着かせる。
「ごめんなさいね、その危ないモノちょうだい?」
「パパ……」
 かたかたと小刻みに腕を震わせながらリノに短剣を向ける少女。
「大丈夫よ、ちょっとお昼寝してるだけ」
「お昼寝?」
 リノの優しい声に少女の瞳に光が戻ってくる。カラン、と短剣が地に落ちて乾いた音を響かせた。
「あ、私……、その。何で、ごめんなさい」
 少女は自分の行いに驚きその場に座り込む。
「大丈夫、心配ないわ」
 優しい言葉を掛けて少女を抱きしめるリノ。素直に応じる少女。


 ――――
 ――


「暴れてる者が居るのはこっちか!?」
 ガシャガシャと音を立てながら衛視が走ってくる。先程ロズウェルが言伝を頼んだ青年が全力で走ってくれたのだろう。
 イレギュラーズの連携によって暴発を未然に防ぐことができたのだ。
 アイル・トーン・ブルーの空は薄く綺麗な色で広がっていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
ついでに資料の為にタケノコが私の机の上にあります。資料です。資料。
またのご参加おまちしております。もみじでした。

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