PandoraPartyProject

シナリオ詳細

アスファルトはタイヤを切りつけているか

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●somebody’s pain
 20年も前の話だ。
 ターゲットを仕留め、追手の車を撒く途中で、歩行者を撥ねてしまった。
 ヘッドライトに浮かんだ妊婦の顔が、今も目に焼き付いて忘れられない。
 俺はそれから人を撃てなくなった。
 死んだ女はシングルマザーで、奇跡的に取り上げられた胎児は施設に引き取られた。
 俺は足を洗い、いわゆるあしながおじさんとしてその子――サキと交流し、援助し続けた。
  
 だが、どうやらそれも今日で終わりだ。

 軽く二桁は貸しのある情報屋からかかってきた10年ぶりの電話の内容は驚くべきものだった。
 サキの父親は黒社会のボスで、母親がホステスをしていた時に彼女を身籠ったらしい。そのボスが先日病死し――そして今日、今までのものより新しい遺言状が見つかったという。
 周囲の景色が歪み、俺は頭を抱えてしゃがみ込みたくなった。
 聞かなくても分かる。サキが相続人になった、という事だ。ボスに子どもは他にいないはずで、死の間際、ひっそり暮らす実子に今更情が湧いたのだろう。

 ふざけるなよ。俺は悪態を吐きながら、夜の街へ駆け出した。相続人なんかにすれば娘の命がかえって危ないだろうが!
 すぐに保護しなければ、組織の人間に拉致されて人知れず消されてしまう。
 
 サキは駅前の病院に勤めていて、急げば退勤時間に間に合うはずだ。50を過ぎた肉体に鞭打って走り続けると、もう少しで病院という歩道橋の上で、遠くに女の悲鳴が聞こえた。彼女の声だ。
 病院を出たばかりのサキを後部座席に押し込んだ黒塗りの車が急発進しこちらへ向かって来る――――俺は迷わず歩道橋から跳んでいた。


●伝言板の前の案内人
 はい~、集合。今回あなた達に手助けして欲しいのは彼。
 元殺し屋のハヤトさんね。
 ま、でもこれがちょっと事情があってね、あなた達に向こうの世界に行って直接暴れてもらう訳にはいかないのよ。向こうは魔法とか異能とか存在しない世界で調整が大変だし、何より彼の心が自分で解決する事を望んでいるの。

 どうするかって?
 イメージとしては守護霊?あなた達は彼に半憑依し、ギフトやスキルで彼をサポートしてあげて。半憑依したあなた達のステータスも一部は彼に反映されるわ。
 例えばあなた達がビームを撃っても、彼には自分が銃を撃ったように見えるよう、脳内変換されるから、ある程度は自由にやって大丈夫!

 “アレ”を聞きながら気持ちよく立ち去れるような活躍、期待しているわよ!

NMコメント

 どうも、かそ犬と申します。
 世界観としては魔法も怪物も存在しない、香港のようなエキゾチックな近代都市となります。例えばコンビニやネカフェなどの一般常識はイレギュラーズにも理解できるようになっていますが、最先端通信機器の使い方などは分からないかもしれません。

 イレギュラーズは案内人が語る通り、守護霊のような形でハヤトに同行します。彼は腕利きの殺し屋でしたが、引退して20年のブランクがあり、技術も体力も衰えています。ハヤトとはぐれる事はありませんが、逆にイレギュラーズが彼と離れて行動する事もできません。使い魔などは野良猫などとして独自に行動できる場合があります。
 同時に2人以上のイレギュラーズが力を貸す事はできませんので、随時入れ替わりながらサポートする形になるでしょう。メタ的に言うとハヤトというゲームキャラのコントローラーを渡し合うようなイメージかもしれません。サキに直接憑依はできませんが、スキルなどで間接的に彼女に指示を出す事はできます。

 
●プレイング
 ①から④までの各場面の状況ごとにサポートできる事を書いて下さい。心情や台詞も書いていただけると拾いやすくなります。自分のキャラクターにはできる事がないなと思う場面は空欄でも構いません。

①【救出】ハヤトは車の屋根に飛び乗ってへばりついています。誘拐犯達は彼を振り落とそうとメチャクチャに街中を走らせますが、何とか運転手を倒して車を奪って下さい。サキは後部座席にいて、もう1人の犯人にナイフを突き付けられています。この場面ではステータスはフィジカルが、スキルはアクロバットや近接戦闘系などが役立つでしょう。

②【逃走】車を奪うと、追跡の車が後ろから迫ってくるのに気付きます。ハヤトはカーチェイスにトラウマがある上、敵は遠慮なく銃撃してきます。ハヤトも拳銃を所持しているので応戦して振り切りましょう。高い反応ステータスや輪動制御、逃走、射撃系スキル、超視力などが役立つでしょう。但し通行人まで吹っ飛ぶような大規模攻撃をさせようとしてもハヤトは動きません。

③【休息】車を乗り換えて、一旦どこかへ身を隠します。怪我の治療や食料の調達もここで行いますが、負傷したハヤトが敵に見つからずに物資調達へ行けるよう助けてあげて下さい。多くの非戦スキルが使える場面です。

④【決戦】ハヤトは組織の慎重派派閥に話をつけ、サキの相続放棄を取引材料にして、仁義に反してボスの実の娘を殺そうとした武闘派グループの処分を容認させます。ハヤトは戦いやすいよう倉庫街へ移動しますので、後は追手(拳銃所持15名、ナイフのみ5名)を倒すだけです。遮蔽物は多いので戦闘系の他に隠密系スキルも活躍できるでしょう。

 
 以上となります。展開上、アドリブ多めとなると思われます。あっと驚くようなスキルの使い方など面白いプレイングをお待ちしてます。

  • アスファルトはタイヤを切りつけているか完了
  • NM名かそ犬
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月06日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手

リプレイ


 アスファルトを切り裂くような音を立てて横滑りしながら、車は幹線道路へと飛び出した。歩道で女性の悲鳴が上がる。車の屋根に1人の男がしがみついていたからだ。

「止まれ!!」
「な、なんだコイツ? 刑事か?」
「とにかく振り落とせ!」
 
 車が加速し、ハヤトの肉体は悲鳴を上げた。
 カーブに突っ込んで信号待ちの車に接触すると、彼の身体が大きく泳ぐ。
「わたしが」そこで『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が、ハヤトに憑依した。ノリアの空中親和と物質中親和を得たハヤトは、半分落ちかけながらも体勢を立て直し、まるで車体に爪先を突き刺しているかのように這い戻る。
「なんで落ちねえ?」
 驚いた誘拐犯の男は懐から拳銃を抜き、闇雲に天井を撃ってみるが、空を飛べるノリアが操っているハヤトへは当たらない。

(よっぽどその人がだいじなんだね)
『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755)は、奮闘するハヤトを見下ろし、それから後部座席で目をきつく閉じて震えているサキを覗き込んで、自分の過去を一瞬思い出した。彼のような大人が1人でも自分に手を差し伸べてくれていたら、と思いかけて頭を振る。ハヤトが窓を破ろうとしていたからだ。

「ノリアさん、代わって!」
 大きく身体を振り出し、助手席の窓を蹴破って飛び込んできたコゼット=ハヤトへ、後部座席の男が拳銃を向けてくる。
 パ! パンッ!!
 銃声がふたつ轟き、先に構えたはずの男がコゼットに肩を撃ち抜かれ――ソニックエッジで、だ――昏倒すると、再び憑依したノリアがそのふわっとした印象からは想像も付かない膂力で運転手の抵抗の意思を奪い、車を路肩に止めさせた。

 頭を銃把で殴ってから運転手と後部座席の男を車の外へ放り出したハヤトは、サキの脅えきった表情に心を痛めた。彼女にとって得体が知れないのは自分も同じなのだ。
「俺は君の味方だ。安全なところで降ろすから恐がらなくていい」
「け、刑事さんですか?」
「……」
 サキに嘘を吐きたくなかったハヤトはドアを閉める音をかぶせて聞こえない振りをした。
 


「来ましたね」運転席のハヤトの後ろで控えていた『ファンドマネージャー』新田寛治(p3p005073)が後ろを見やり、独りごちた。車を出して間もなく、ぐんぐんスピードを上げて距離を詰めてくる2台のセダンにハヤトも気付き、表情が微かに強張る。カーチェイスでサキの母親を撥ねた過去が脳裏をよぎったのだろう。

「フォローに入ったほうが良さそうです」
 察した寛治が呟くと、それならと『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)がハヤトへ憑依した。
 ハンスには、この男の生き様に感じるところがあったのだ。ままならない現実に目を逸らさず、自らの足で踏み出したのだから――ほんの少しでも背中を押さない訳にはいかないでしょう?
「さぁ、頑張って。思いのままに運んであげるから、さ!」
 前方が渋滞で閊えているのを見たハヤトは、腹を括って反対車線に乗り入れた。ハンスの超反応効果で対向車を右に左に躱しながら走り抜けて行くと、中央分離帯に乗り上げた青いセダンが大きく遅れ、一方黒いもう1台は何とか追い縋ってくる。
「やるなぁ」ハンスが追手の技量に素直に感心して言うや、聞こえたかのようにハヤトが急ハンドルで左折し、車を高速道路へと滑り込ませた。

「撃ってくるでしょうね。代わりましょう」
 ハンスと交代した寛治の言葉通り、後方へ迫ってきた車の助手席から男が身を乗り出す。程無くして発砲音が響き、後部座席のガラスに穴が空いてサキが悲鳴を上げた。
「シートに伏せているんだ!」
 ハヤトは狙いを絞らせないよう車を左右に振っていたが、横に並ばれると覚悟を決めたように拳銃を抜く。両者は2発ずつ撃ち合うも、弾丸は互いに車体へ。彼の躊躇いを察した寛治は、後続車がいない事を超視力を以って確認させ、防御無視の魔弾の力を彼の次の1発へ託した。
「終わらせて下さい」――「終わりだ」
 寛治とシンクロしたハヤトの一撃はタイヤをバーストさせ、追手はスピンしながら側壁へと突っ込んで大破。ふう、と息を吐いて一般道へ下りたハヤトだったが、どこから回り込んだものか、再び青いセダンが迫ってくる。

 一瞬うんざり顔を浮かべたハヤトが、追手の得物が大型拳銃なのを見て気を引き締め直したところで、イレギュラーズは三たびノリアに交代。右手からの直進車を危うく躱して追手に腹を晒す格好になったが、そこで彼女の攻撃反射の付与が活きた。車体で跳弾させたマグナムが誂え向きに消火栓を直撃し、吹き上がった水柱を浴びた追跡車はハンドルを誤って高速道路の橋脚へ派手に突っ込む。

「そこで、睨み合ってて」ノリアに代わったコゼットが作りだした、“銃を向ける警官達の幻影”に男達が車外に出るのを躊躇する間に、スピードを上げたハヤト達の車はあっという間に眠らない街の狭間へと滑り込んで消えた。



「あ、あの、警察署に行くんじゃないんですか?」追手を撒いて、港湾エリアの薄暗がりで停車するとサキが不安げに鏡の中のハヤトを見た。男の表情は翳っていてよく読み取れない。「刑事さん、なんですよね?」
「……警察に頼るのはもう少し後だ。買収された刑事はいる。まだ危ない」
 煙草に火を点けようとしたハヤトは、今更脇腹に鋭い痛みを感じて、思わず呻く。ハンドルに打ちつけでもしたのだろう。
「君は、怪我はないか?」はい、多分とサキが頷くと、男は、なら何か買ってこようと言って車から出た。「ここにいてくれ。心配いらない。必ず家に帰れる」

「だいじょうぶかな、サキさん。あたしだけでも残れたらな」
 よろめきながら歩き出したハヤトの影でコゼットが心配そうにサキを振り返った。彼ら4人はハヤトと別行動できない。サキの護衛に残る訳にはいかないのだ。今のところ周囲に悪意は感じないけど、とコゼットは意見を求めるように仲間達の顔を見る。

「できることがあったら、今もどんどん、こうたいしたほうがいいと思いますの」
 まずはその言葉通りノリアが再生能力を付与して近くのコンビニに向かう間にハヤトの怪我を治し、買い物中はハンスが彼の精神を落ち着かせた。そして彼が携帯電話であちこちに連絡を取り始めてからは寛治の真骨頂。
「蛇の道は蛇というやつです」
 彼のスキル効果ですぐに電話は繋がり、ハヤトは隠れ家と代車の協力を取り付けた。
 
 コゼットの能力で周囲を警戒しながら車へ戻ると、サキが少しホッとしたような顔を浮かべる。
 あの、と質問しかけたサキを制し、ハヤトは懐に手を伸ばしかけたが、すぐにそれを引っ込めた。どこから現れたものか迷彩服の大男が近付いてきて、ハヤトへ鍵を渡し、貸しがどうのと話をして、また立ち去って行った。
「車を替える。ついてきてくれ」

 地味なグレー系のセダンに乗り換えてしばらく人気のない通りを走り、2人はいわゆるセーフハウスへと辿り着いた。くたびれたアパート2階のひと部屋だ。買ってきたパンやお茶を差し出されても見るからに緊張の解けないサキに、ハヤトはようやく苦笑とはいえ笑顔を見せた。
「聞きたい事は山ほどあるだろう。こちらも君に確認しなければならない事がある」
 そこでハヤトは語った。サキの父親と組織、そして相続の事。

「そんなお金なんていりません。元の生活に戻れればそれでいいです」
「分かった。伝手がある。それで話をつける」
 サキが困惑しながらもきっぱり答え、ハヤトが携帯電話を手に部屋の外へ出て行くと、イレギュラーズからも安堵の息が洩れた。後は今回暴走した一派との決着を着けるだけだ。



 夜明けを待たずにハヤトは車を出した。サキも一緒だ。結局目の届く場所が一番安全という結論に達したのだろう。
 車は倉庫街で止まり、サキは倉庫奥の事務所へ隠れた。
 時間を置かずして何台も車が止まる音がし、黒服の男達が雪崩れ込む。まんまと誘き出された男達の前に、1人の男――と4人のイレギュラーズ――が立ちはだかった。

「もう相続放棄で話はついた!おまえらは切り捨てられたんだ」
「ふざけるな!撃てッ」
 黒服達の銃弾がハヤトめがけ雨あられと降り注いたが、それはコゼットの作りだした幻影。「はいはい、またまた、ざんねんでした」
 迷彩能力で潜んでいた寛治=ハヤトが側背から3人を無造作に撃ち倒し物陰に飛び込むと、今度はハンス=ハヤトが回り込もうとした男達へ超反応の早撃ち。コゼット=ハヤトは必中効果を与えた一撃で遮蔽物の影の敵を何人も倒した。
 
 敵はそれでも撃ち続ける。
 撃って撃って撃ち続ける。
 その銃弾の中を4人の力を得て、ハヤトは駆けた。
 寛治の技で跳弾させて倒し、コゼットの跳躍で躱し、弾切れになるとハンスの動きで敵の銃を拾いながら撃った。背後から組み付かれ、ナイフで喉を裂かれそうになった時は、ノリアの力で手首を握り潰し、投げ飛ばして逃れた。
 
 やがて動く者がいなくなり、遠くにパトカーのサイレンが聞こえてくると、傷だらけのハヤトはよろめいて膝を突いた。
「刑事さん」サキが駆け寄ってくる。
「刑事じゃ、ないんだ」苦く笑うハヤトを、サキは薄っすら涙の滲む目で見詰める。

「……ずっと援助してくれた方ですか」
「そうだ」
「母を……撥ねた方ですか」
「そうだ」

 ハヤトは銃口を自分に向け、無言でサキへと拳銃を差し出した。
 その意味にコゼットとハンスがはっと息を飲み、ノリアが見上げた寛治はといえば微動だにしない。
「見届けましょう。2人の、痛みを」
「そう、だよね」
「はい」
「うん」
 
 目を閉じるハヤト――どこで拾ったのか、サキはその額を――木槌でこつんと叩いた。
「これで、チャラです」
 泣き笑い顔のサキが彼の胸に飛び込む。きょとんとしていたハヤトもゆっくりと微笑みを浮かべ――――


 アスファルトはタイヤを切りつけているか――fin

成否

成功

状態異常

なし

PAGETOPPAGEBOTTOM