シナリオ詳細
<濃々淡々>紅の檻と色付く実
オープニング
●紅の檻
この世界に身を置いたときから、屹度。そとに焦がれるだろうとは思っていたのだけれど。
嗚呼、その理由が。
身請けではなく、只の果実だなんて、笑わせてくれるわ。
花魁の娘――茜は、窓の外に想いを馳せる。
その瞳を埋めるのは、街を往く人々でも、空模様でもなく。
枯れ木。
けれども只の枯れ木なら、花魁である茜の目になど止まる筈もない。
美しい花も、柔らかい布も、愛らしい鳥も。
茜の『欲しい』のひとことで、其れは手に入るのだ。
一度戯れに『旦那さまの瞳が欲しいわ』と、囁いてみたら、その場でくり抜こうとする男もいた。今となっては笑える話だが、そうそうないだろう。
馬鹿らしい。鬼の私に跪く等と、阿呆なのだろうか。
少しばかり退屈していたのかもしれない。
こんなくだらない世界を、愛してみたかったのかもしれない。
すべてを美しいと思えるようになりたかった。
だから、これは屹度、運命だったのだろう。
枯れ木に実る七色の木の実。たわわに実るそれ。
美味しそうだと思った。
欲しくなって、それを求めた。
次の日、男達は骸となっていた。
不思議に思った。だから、欲しいと思った。
欲しい。
欲しい。
欲しい。
欲しい。
欲しい。
抗えぬ衝動。求めているのだ。
あの果実を。この、身に。
それを求めてみたい。
それが、はじめての、私の望み。
●猛毒の果実
「やあ。毒に触れることは、できるかい?」
くるくると銀の髪を指で弄びながら、双子星の片割れ、カストルは笑った。
「濃々淡々にはね、猛毒の……だけれど、毒を抜けばとても美味しい果実があるそうなんだ。
其れをある花魁に渡して欲しいんだけど……頼めるかな?」
はい、とカストルが差し出したふたつの絵巻。そこに描かれた、七色の果実。
竹の娘の、蓬莱の玉のようだ。
美しい。そして、儚さもある。
幻のようだと思った。
もうひとつは依頼主。黒い髪に赤い瞳の鬼。
白い肌は美しく、白磁のようだ。けれど、愛嬌もある。不思議な人だと思った。
「……ふう、さて。ここで注意事項なんだけれど」
人差し指をぴっとあげて、カストルは注意を促した。
「……まあ、お察しだろうけどその果物、とる時に毒があるみたい。気をつけてね」
それじゃあ気をつけてね、とひらひら手を振って、カストルは見送った。
- <濃々淡々>紅の檻と色付く実完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年06月28日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
●検証
80 12(p3p008012)は毒発生プロセスの解明と安全な採取方法の確立を目的に、枯れ木を観察していた。
過去の採取経験などの文献、体験談の聴取、調査。またその調査から、現地における実地試験の実施。
然し、どれも見つかるはずはない。
なぜならこれは人殺しの実。誰かが実を口にする前に。誰かがその話をする前に。死ぬのだ。
まずは直接触れることにしてみる。毒が侵食する感触に思わず手を離す。触れるだけではいけないようだ。
なら、木の実ごと切り落としてみてはどうだろうか。落ちたのなら、木との栄養補給などのルートが断たれれば採取は可能ではないだろうか。
然しそう上手くいかないのが人生である。これもまた毒が回っていく。嗚呼、苦しい。
時折回復を施しては、また実験に戻る12。
術を用いて木の実を落としてから触れる。毒。実を地につかせず掴む。毒。慣れてしまいそうな域に達してきた。
直接触れてはいけないのなら、なにか布を。
マジックローブを用意して、上から被せてとる。
するとどうだろう。術を施そうが、枝を折ろうが、そのまま地面につこうが毒は回りそうになかった。
しかし布に毒が染み込んでいる気配がある。
その点をメモすると、12は他の仲間にその情報を渡すために町を駆けた。
●どくはくるしい、から、
(Uh……たのまれたとはいえやっぱり毒はいやだなぁ……。
なんでそんなに夢中になるんだろう? でもここでなんとかしないとまた取りに行って毒で死んじゃう人が増えるんだよね……困ったなぁ……)
『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は毒に対してはやはりまだ複雑な様子。
薬も、毒も。くるしいものだ。そういう認識なのである。
だから、それを他人の命も顧みずに欲しがった茜を不思議に思っていた。
然し、これも依頼である。やり遂げよう、そう決意していたリュコスは軽々跳躍すると、木の枝を揺すってみる。
下に置いておいた籠に入るようにあまり激しく揺さぶることはしなかった。町を行く人にぶつかったら大惨事にすらなりうるからだ。
(でもこれぐらい簡単なことだと前に取りに行った人もやってそうだよね……。
きれいなおねえさんだったからよろこんでもらおうとしてなにも考えられなくなったのかもしれないけど)
現実とはなんとも理解し難いものである。リュコスがゆさゆさ揺すると、案外簡単に落ちて籠の中に入っていった。
リュコスは、そんな木の実を不思議に思うばかりだった。
(よし、とれたからあとは毒抜きをしていこう……)
皮を布で包んでから、そっと皮を剥いていく。
万が一毒が染み込んできてはいけないから、布を幾重にも重ねて。
(……こんなかんじ、かな?)
剥いた木の実は瑞々しい桃に似ていた。一口齧ってみると、甘い果汁がじゅわりと口の中に広がり、美味しいなあと笑みを零したリュコスだった。
「……毒、もうないのね。どうせならあなたも一緒に食べましょうよ」
「え?」
「あら、食べないと疑われてしまうのも常では無いかしら」
(……毒はだいっきらいだけど実はとってもおいしいし……あんぜんに食べれるなら食べたいよね。うん、しかたないしかたない)
小生意気な娘である。こくり、頷くとその実をはんぶんこ。ぱくりと口に含んだ茜は美味しい、ともうひとつ食べていた。
(……そうだ、茜おねえさんに聞きたいこともあったんだ)
「茜おねえさん、なんでこんな毒のある実をほしがったの?
食べたり、さわったりしたら死んじゃうんだよ? 毒って苦しいんだよ?」
「……そうね」
だけどね。私、早く死にたいの。
そう告げる茜の顔は、幸せそうだった。
●意志の力を刃に
「風の向くまま気の向くまま来てみたら随分と物騒な依頼だね。
まぁ、確かにボクには毒の類は問題ないから人選は正しいと思うよウン」
『流離の旅人』ラムダ・アイリス(p3p008609)は枯れ木の前で思案する。
気紛れに木の実をつけるなんて、随分と怪しい話だ。そう思いながら。
今日の木は些か機嫌が宜しかったようで、幾つも実を付けていた。ほっと安心すると、アイリスは早速その木の実を取りにかかった。
譬え。
譬えこの信念が悪と誹られようとも。
黒き矜持は蝕む毒からその実を護る。
アイリスの手がその皮に触れた。毒がじわりじわり、染み込む感覚も僅かである。効いている様子がないことに安堵の息を吐くと、アイリスはいくつか実を取り袋に詰めた。
「あら、早かったわね」
「いや理解はしているのだけど普通は好き好んで毒があるよなんて言われているものをホイホイさわらないんだからね?」
「ふふ、ごめんなさいね」
灰汁抜きの手順を踏み、幾つか茹でていく。『これは旅先で知った毒キノコの毒抜き方法なのだ』と語ったアイリスに、『まあ、すごいじゃないの。ところできのこってなにかしら』と返した茜。アイリスは思わず苦笑を零した。
「調理をすれば毒が無くなって美味しく甘く食べれるらしいけど調理はどうするのかな?」
「ああ、そうね。そのままで構わないわ」
あら美味しい。いいわね、これ。
まるで林檎を食べたかのように、消耗品として食べる彼女。
あはは、と苦笑を零しながらも、アイリスは思った。
(――ボクに言わせてみればこの茜と呼ばれる花魁こそが一番の毒だと思う。彼女の毒に惑わされてこんな物の為に命をはろうとしている者があらわれるのだから)
己に深く突き刺さる視線があると、なにかしづらいというものだ。
茜はその視線の先――アイリスに『なにか文句でもあるのかしら』と不満げに見つめた。
「それとも、私の顔になにか着いてる? 依頼金が足りなかったかしら。
ああそうだわ。こんな物騒な依頼よく受けたわよね」
「えっボクはただの気まぐれだよ、たまたま立ち寄ったこの街で無邪気な願いとは言え人死にがでるような代物を求めている依頼主を見てみたいと思ったからだね。ただの酔狂だよ」
「あんたそれ自分で言うわけ?」
『あんた、面白いじゃない』と屈託なく笑う彼女。その様子を何処かおかしいと感じつつも、触れることはしなかったアイリスだった。
●子供の戯言、大人の威厳
(まあ。鬼に食われるつもりはないが――子供の望みは叶えるのが、大人の仕事ってもんだろう?)
『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は素早く木に近づくと、その毒を持つ実に触れることはなく、枝を幾つか選定し、笊で受ける。
ここまでは順調だった。
然し、全て上手くいく訳でもないのが依頼である。
晴れた昼下がり、学び舎のない子供たちの集団。
遊び場のない子供たちは、町で鬼ごっこを――、
(……っ、まずい!?)
こちらに向けて走ってきた子供を庇い、毒を受ける。
「わ、ぶつかってごめんなさい……!」
「……構わないさ。お行き」
「ありがとうおにいさん!」
無邪気に駆けていく子供。傍迷惑な話だと目を細めながら、路地裏に身を隠す。勿論、あの木の実は離すことなく。
(……全く、こんなことになるなんてな)
念の為、と持ち込んだ術に救われる。鮮烈に、不滅を示すように施した回復の術は、黒子の傷を回復していく。
「……はぁ」
ふう、と一息。その頃には、日が暮れていた。
3つほど採取してきた木の実を調理したい、と、町の厨房を借りていた黒子。
灰汁抜きの要領で、素茹でから煮汁を捨てる、といった作業を繰り返して、皮に含まれる毒を少しづつ取っていった。
「ふう、さて。こんなものかな」
ひょい、と箸でつついてから大丈夫そうであることを確かめると、その実を素手で掴む。
「……大丈夫そうだ」
黒子は調理を終えたそれを布に包むと、茜の待つ店へと駆けた。
「あら、もうできたの? 案外凄いのね。生きてるじゃない」
袋を両手に握った黒子の姿に目を瞬かせた茜。薄く笑みを咲かせるも、それは恐らく営業用のものだろう。
笑みを返すことは無かった黒子に対して『あら、案外意地悪なひと』と笑った茜は、漸く心から笑ったように思えた。
「あまり侮ってくれるなよ。……そういえば、これを取るのは命懸けなのだろう?
なら、何故欲しがったんだ?」
嗚呼、と空を眺めた茜。その横顔は寂しげで、何処か儚かった。
「……ここに居るとね。苦しいから、死にたかったのよ。
私って、鬼だから。歳を取るのが遅くてね?」
愛した人が身請けをしてくれる前に、死んでしまったのよ。
くだらない事のように離す茜に向けて手渡したのは、茹でた実の入っていない、もうひとつの包み。
「……それを望むなら。俺は、止めない」
「……あら、優しいおとこ。嫌いじゃないわ」
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
心踊る物語を貴方に。どうも、染です。
蓬莱の玉の枝、美しくて綺麗ですよね。
初めて読んだのはいつだったでしょうか、心奪われたのを覚えています。
それでは、今回の依頼の説明に入ります。
●依頼内容
七色の木の実を取る。
花魁の住まう花街にある、枯れ木。
気紛れに身をつけるそれから、不思議な木の実を取ってきましょう。
●世界観
和風世界『濃々淡々』。
色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。またヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神です。
昔の日本のイメージで構いません。
●木の実について
煌めく七色の果実。
【毒を持っているようで、とる時には注意が必要です。】
また、調理の仕方を変えると毒が無くなり美味しく甘く食べれる様子。
必要なら調理もしていいですし、一緒に食べても構いません。
●依頼主
茜と呼ばれる花魁。
赤い角を持つ鬼。黒髪に赤い瞳。
華奢な四肢と、白磁の肌。
愛らしい表情と艶やかな仕草。
看板娘と呼ぶに相応しい鬼の花魁です。
性格は気紛れで無邪気。
仕事となればその性格も変わるようですが、本質は幼い子供のようです。
●サンプルプレイング
……ふむふむ、毒があるのか。
ビニール袋にいれてとれば……なんて、安直すぎ?
以上となります。
皆様のご参加をお待ちしております。
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