PandoraPartyProject

シナリオ詳細

吸血乙女は花に恋する

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 この世界には人ならざる者が住んでいる。
 ある者は人に恩恵を齎し、ある者は人に害を為すと言われている。
 恩恵を齎すのはその土地のかみさまや、獣人達。
 害を為すと言われているのはモンスターや吸血鬼達。
 けれど近年では――人に害を為すと言われていた種族からも、人の世界に憧れる者が出てきているようだ。


 乙女は花に恋をしていた。
 少し前に読んだ小説に描かれていた美しい花。そこで主人公とヒロインが愛を誓い合って、二人は幸せになって。
 小説を読み終わった瞬間から、乙女はその花が咲き誇る景色を見たくて仕方なかった。
 けれど――ひとりでは見に行けない。
 何故ならその花は朝にしか咲かず、乙女は夜を生きる吸血鬼だから。
 夜の世界と花の生きる世界は、決して交わらないはずなのだから。

 けれど、憧れは募るばかり。
 本当は勇気を出せば見に行けるはずなのだ。
 だけれど乙女は踏み出せない。
 彼女の住まいから少し離れた所に花が咲くことは知っている。
 朝日に身を焼かないように工夫をすれば踏み出せるはずなのだ。
 けれど――やはり進む勇気が出てこない。

 一番の理由は花畑の近くに教会があることだ。
 ちょうど花が咲く時間には、聖職者達が外へ出て朝のお勤めをする。
 その時に乙女が姿を見られたのならきっと怪しまれてしまうだろう。
 最悪の場合、彼らは乙女を討伐しようとしてくるに違いない。
 乙女は吸血鬼だが人に害を為したりはしない。
 生きるために必要なだけの血を、相手の合意をもらった上でしか飲まないようにしている。それ以外では人を傷付けたりはしていない。
 けれどこの世界では「吸血鬼は人を傷付けるもの」と信じられている。

 乙女は憧れを憧れのまま胸の内に秘めようと思っている。
 けれど、もし。
 誰かが手助けしてくれるなら。
 彼女の憧れは、ただの夢で終わらないかもしれない


「来てくれてありがとう。君達にある女の子の夢を叶えて欲しいんだ」
 境界案内人・カストルはイレギュラーズ達の姿を確認し、静かに話を始める。
「向かってもらう世界は無垢なる混沌に少し似ているかもしれないね。生活様式などは幻想と大きく変わらないよ。一つ大きな違いがあるのは……こちらではモンスターとして定義される種族でも知能がある者がいて、彼らなりの暮らしをしているという事だね」
 本の中の世界では、人に害を為すと言われている存在の中にも理知的な者がいる。
 今回イレギュラーズに頼みたいのは、そんな存在の手助けだ。

「ある吸血鬼の女の子が、朝にだけ咲く花を見たいと思っている。けれど目的地の近くに教会があって、聖職者達に目をつけられるのを恐れているようなんだ」
 吸血鬼は朝日から身を守るために外套をしっかり着込み、顔を見られないように準備していく。
 しかしそんな格好で歩いていては「私は吸血鬼です」とアピールしているようなものだ。
 そんな存在を聖職者達が放っておくとは思えない。
 彼らの中では吸血鬼とは人に害を為す存在だと信じられているのだから。

「君達が聖職者の注意を引き付けたり、吸血鬼の事を上手く誤魔化してくれるのなら、彼女は花畑に辿り着けるはずだ。吸血鬼のささやかな夢を叶えるために力を貸して欲しいよ」
 よければ一緒に花畑も楽しんできてほしい、と付け加えつつカストルは話を締めた。

NMコメント

 こんにちは、ささかまかまだです。
 吸血鬼でも女の子は女の子。

●目標
「聖職者の目を誤魔化しつつ、吸血鬼の女の子を花畑まで連れていく」
 花畑へと続く道に教会が面しています。
 そこでは聖職者達が朝のお勤めをしていますので、彼らが吸血鬼の女の子を捕らえないようにしましょう。

 ただし聖職者達は悪人ではありません。彼らは彼らなりの理由で行動します。
 なので不必要な暴力はやめましょう。

 また、無事に教会の前を通り抜けたら花畑を楽しむのもいいでしょう。

●世界観
 いわゆる中世風ファンタジーの世界です。
 人間の他に様々な種族が暮らしており、その中で吸血鬼は「人に害を為す悪い種族」だと言われています。
 聖職者や冒険家といった人々がそのような悪い種族と戦ったりしています。

 近年では「悪い種族」と言われている存在からも人に近付こうとする者が出てきていますが、その事はあまり知られていないようです。

●登場人物

・吸血鬼の乙女「ノーナ」
 見た目は10代半ばの吸血鬼。
 金のウェーブロングヘアが特徴的。肌は白く目は赤く、おまけに犬歯は鋭いです。見るからに吸血鬼です。
 たまたま読んだ恋愛小説に出てきた花畑に憧れ、一目見たいと考えています。
 性格は大人しくて消極的。人に害を為さないように注意しながら生活しています。
 イレギュラーズのことは全面的に信頼します。

 朝日に体を晒すと大火傷するため、外套をすっぽり被って行動します。
 見るからに怪しいです。より良い格好が用意できるなら提案してみるのもいいでしょう。

・聖職者達×4
 朝のお勤めをしている聖職者達。
 男女比は半々で、皆成人したばかりの若者です。
 教会の前を掃除したり、体操したりお祈りしたりしています。
 彼らは信心深くて真面目な性格をしています。普通に接する分には優しい若者達でしょう。

 教会の前を通ろうとしたノーナを不審がって声をかけようとしてきます。
 ノーナが吸血鬼だと分かればとりあえず捕らえようとしてきます。
 その場合イレギュラーズ達も捕らえようととしてくるので、そうならないようにノーナの存在や正体を誤魔化しましょう。

●その他
 目的の花は「朝焼けに似た色合いをした美しい花」とだけ言われています。
 その花を楽しむことを目標にするのもいいですね。

●サンプルプレイング
 ひたすら世間話で気を引くぜ!
 朝の挨拶からお昼は何をするかが、夕飯の献立までひたすら話すぜ!
 その間にノーナに通り抜けてもらうぜ!

  • 吸血乙女は花に恋する完了
  • NM名ささかまかまだ
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月03日 22時06分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)
Legend of Asgar
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
只野・黒子(p3p008597)
群鱗

リプレイ


 吸血鬼ノーナの自宅の前に、数人の男女が姿を現す。
 彼らはノーナの望みを叶えようとするイレギュラーズ達だ。
 まずは挨拶を交わし事情の説明を。ノーナも今回の件について頼む事を決心していた。

「ノーナ様個人を見ていただく、というのも難しいでしょうからね。今回は俺達に手伝わせてください」
 身支度をするノーナの横で、『群鱗』只野・黒子(p3p008597)はこの世界の情勢を確認していた。
「味方は多く、敵は少なく。種の特性が害意はあれど、個がそれを望まぬの出れば『敵』に仕立て上げる必要はないとは思いますがね」
「ええ、ノーナのような心がけをした吸血鬼はもっと知られてもいいと思うけれど……今日のところは頭の固い聖職者諸君をからかう程度にしましょうか」
 ノーナの身支度を手伝っていたのは『オトモダチ』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)と、彼女の従者であるシルキーだ。
 黒い外套よりは自然なものを、という事で予定よりも薄手の外套をノーナに渡し、シルキーは日傘を持ってスタンバイしている。
 更にその横では『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)が一匹の猿を呼び出していた。
「外套は用意出来たし……これできっと大丈夫ね。いい? わたしの言う通りにするのよ」
 猿はメリーの言うことを素直に聞きつつ外套を被っている。その姿はノーナよりもよっぽど怪しく見えるだろう。
 全員の準備が整ったのを確認し、『ステンレス缶』ヨハン=レーム(p3p001117)はノーナの前に屈み込んだ。
「ノーナさん、今日は任せてください、天才参謀の名は伊達ではないのです。だから……ちょっと失礼しますよ!」
「あ、はい!」
 ヨハンはそっとノーナの手を取り、彼女の事を背負う。
「こんなに肌が綺麗な方に病気のフリをしていただくのは心苦しいですが。ヨハンお兄ちゃんが朝焼けの花を見つけてあげますからね、夜のお姫様……なんて」
「わ、ありがとうございます……」
 シャルロット、メリー、黒子の三人も用意を終えて、家の戸口へと向かっていた。
「聖職者の引きつけは私達の担当よね? 結構派手にやるつもりだけれど」
「過激な事じゃなければ好きにやっても大丈夫でしょう? それなら任せてちょうだい」
「現地ですぐに合流しては疑念が発生するかもしれません。再集合はここで行いましょう」
 まずは三人が出発し、少し遅れてヨハンとノーナが家を発つ。
「それじゃあ、花畑を目指しましょう!」
「はい、よろしくお願いします」
 こうしてイレギュラーズ達の、乙女の願いを叶える物語が始まった。


 事前に聞いていた通り、目的地までの道には教会が存在していた。
 戸口の前には若い聖職者達が立っており、朝のお勤めをしている様子。

「まずは俺が行ってきます」
 最初に動いたのは黒子だ。彼は聖職者達に歩み寄り、何気ない風に話しかけていく。
「おはようございます。旅の方でしょうか?」
「はい、おはようございます。そんな感じでして……よければ掃除、手伝いましょうか?」
 一緒に箒をかけながら、黒子達は雑談に興じていく。
 ごく普通の世間話から始まり、話題はどんどん深くなっていく。気がつくと神様の話へと話題は変わっていた。
「ここの神様は色々な存在を庇護して下さっているんですね」
「はい! おかげで平和に暮らせています」
「ですが、神の庇護が様々な存在に及ぶのなら……人に害を為すと言われている種族でも庇護は受けられるのでしょうか」
 黒子の問いかけに聖職者達は眉を顰める。そこからの反応は多種多様だ。
「いいや、そんなはずはありません。彼らは悪しき存在です」
「しかし……神の御心はそのような者にも届くかもしれません。神は寛大ですから――実は既に庇護は届いているかもしれないですね」
 黒子の投げかけは小さな石のようで、だけど確実に聖職者達の心を揺らしていく。
 そんな中で黒子は適宜相槌を打ち、言葉を紡ぐ。おかげで議論はどんどん白熱してきていた。

「いい調子ですね。今ならきっと注目されません。ノーナさんは病弱っぽい演技、頼みましたよ」
「わかりました……!」
 聖職者達が議論に夢中になっているのを確認し、ヨハンとシルキーはノーナと共に道を歩み始めた。
 途中までは順調だったが、教会を通り過ぎようとした瞬間。女性の聖職者がその姿を目にしたようだ。
「おはようございます。あの、そちらは……?」
「あぁ、聖職者さんおはようございます。こちらは僕の妹です。ちょっと親戚の医師の家を目指してまして」
 愛想のいい笑顔を振りまきつつ対応するヨハン。シルキーも日傘でノーナを守りつつ会釈している。
「そんなに深く外套を被って……大丈夫でしょうか?」
「あはは、毒草にでも触れたのか顔がかぶれちゃって。大した事はないんですけど、年頃ですから……お気遣いなく、大丈夫ですよ!」
 聖職者の方は不審がっているというよりは心配している様子だ。これもヨハンの演技が自然だからだろう。
「善行とかも大丈夫です。どうせ親戚の家にも用事があるので。それでは良い一日を!」
「はい、気をつけて」
 話をそこそこで切り上げ、ヨハン達はそそくさと道を行く。
 これで聖職者は誤魔化せたかのように思えたが――。

「……なあ。今の子供、やっぱり怪しくないか?」
 議論に白熱していたはずの男性聖職者がどこか不審な顔をしている。
 彼は先程の議論でも特に強く『悪しき種族は悪である』と主張していた者だ。
 男性は急いでヨハンを追いかけ、問いかけようとしたが――ここでシャルロットとメリーの出番である。
 まずはメリーが男性の方に駆け寄って、急いで彼の服の裾を握った。
「はぁっ、はぁっ……あの、助けて下さい!」
「どうしました?」
「あそこに吸血鬼がいるんです!」
 メリーが指差した先には外套を深く被った猿が待ち構えていた。猿は存在感を放ちつつ聖職者へと背を向ける。
「本当だ……すぐに退治してきます!」
 男性はすぐさま武器を手に取り、猿の方へと走っていく。
 その様子を眺めつつメリーはこっそり舌を出す。
「お固い聖職者だけあって単純ね。あの猿にはしっかり指示も出したし大丈夫そうね」
 猿の作戦が失敗したのなら、聖職者達を殺さない程度に殴って気絶させるつもりだったが、そこまでする必要もないようだ。
「悪人じゃないって言ってもわたしには関係ないし。依頼の達成のために『必要』な暴力だったらいくらでも振るってやるつもりよ」
 不測の事態に備えつつ、メリーは他の聖職者達へ目を向ける。

「旅の方、どうやらここは危険なようです。村までお送りしましょう」
「ありがとうございます。それではお願いしましょうか」
 一人の女性聖職者が黒子へと声をかけ、彼を安全な場所まで送ってくれる事となる。
 こうして現場には二人の聖職者が残ったが――彼らの耳に入ったのは、教会内部での大きな音。
 彼らが急いで教会へと戻ったのなら、そこには堂々と立つシャルロットの姿があった。
「ヘィ、ブラザーズ&シスターズ、ワッツアップ?」
 蝙蝠の翼を広げ、茶目っ気のある笑顔を浮かべるシャルロット。彼女の姿はどう見ても吸血鬼のそれだ。
「なっ、別の吸血鬼だと!?」
「教会に吸血鬼が堂々と来るとは思わなかった? 残念遊びにこれるのよー?」
 シャルロットはひらりと聖職者達の前に降り立ち、彼らを挑発していく。
「(ノーナ達はだいぶ先に進んだようね。それならあとはごゆっくり……)」
 窓からは小さくノーナ達の背中が見える。あとはシルキーの召喚が終わるくらいまで立ち回っていればいいだろう。
 そこから先は吸血鬼と聖職者の追いかけっこだ。
 それは小一時間程続き、そして別れの時がくる。
「いい運動になったでしょ? じゃ、バァイ」
「ま、待て……!」
 再び翼を広げ、シャルロットは教会から離脱していく。
 派手に立ち回っていたものの、彼女は何も壊したりしていない。聖職者達がそれに気づくのは、もう少し後の事だろう。

 イレギュラーズ達は各々の役割を終え、自然に聖職者達の前から姿を消していく。
 そしてその頃には――ノーナは無事に花畑へと辿り着く事が出来ていた。
 彼女の赤い瞳には色鮮やかな朝焼けの花が映り、その光景はきっと忘れられないものになっただろう。


 全てが終わったあと、イレギュラーズ達は改めてノーナの家に集合していた。
 ノーナは満足そうに微笑みながら頭を下げる。
「皆様のおかげで無事に花を見ることが出来ました。本当にありがとうございます」
「花畑には無事に辿り着けたのですね。ノーナ様が嬉しそうで、俺も嬉しいです」
「黒子さんの話を聞いても少し希望が見えましたね。いつかノーナさんが大人になったら、キミのように力を持たない人を助けてあげて下さい。そういう事が出来る時代がいつか来ますよ」
 後から合流した黒子は依頼の達成を聞き安堵したように息を吐き、彼からの報告にヨハンも安心しているようだ。
 聖職者の中にも理解を示してくれる人はいる。そうでない人は――今回の女性陣がしたように、ちょっとお灸を据えたりもしていけばいいかもしれない。
「同胞が喜んでくれたのなら良かった。ノーナみたいな吸血鬼がこれからも増えていけばいいんだけど」
「わたしからすれば報酬をくれるなら何でもいいわ。依頼主が誰であろうと、立場がどうであろうとも。だから今回の仕事は十分ね」
 同じ吸血鬼として、どこか姉のような暖かな笑みを浮かべるシャルロットに、報酬として渡された金貨を満足そうに眺めるメリー。
 イレギュラーズ達それぞれの反応を眺め、ノーナもどこか楽しそうだ。
「……改めて、本当にありがとうございました」
 ノーナはもう一度深く頭を下げ、帰路へとつく彼らを見送る。
 不思議な訪問者が自分を救ってくれたことも、ノーナにとって忘れられない思い出となっていった。

成否

成功

状態異常

なし

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