シナリオ詳細
アデプト・トーキョー1999:世紀末の亡霊
オープニング
●練達・トーキョー1999街
練達には、『アデプト・トーキョー』と呼ばれる地区がある。
主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
その内部は複数のエリアに分けられ、例えば古き良き昭和をモチーフとする『1970街』、高度成長とバブルの象徴たる『1980街』、次なる時代への道を模索し続ける『2000街』などが存在している。ここ、『1999街』は、そうした『再現性東京』の一つであり、大人たちに見切りをつけた子供たちと、彼らの世紀末と未来への不安と期待が入り混じる、独特な空気感を保ち続けた時代を、ここに再現していた。
そして――住む者の精神性も、その住む場所によって変容するのは当然のことだ。1999年、その混沌とした街並みと人々は、此処、『アデプト・トーキョー1999街』に場所を移して、静かに営みを続けている――。
A・T(アデプト・トーキョー)1999街・ポリス・ステーション。1999街の治安と厄介ごとと面倒ごとを一手に引き受ける行政機関。
温く、苦みの強いコーヒーを飲み干しながら、サカモト刑事は自分のデスクで舌打ちをした。
「見ろ、この新聞を。1999街警察の無能・世紀末の亡霊、今だ捕まらず――だとよ」
サカモト刑事が手にした新聞には、センセーショナルな見出しと共に、『ついに7人目の犠牲者!』『現代の切り裂きジャックか?!』などの文字が見受けられる。
世紀末の亡霊――A・T1999街に近頃出没しだした猟奇殺人鬼である。
「冗談じゃねぇ。とっ捕まえようとした警察に、けが人だって出てるんだぜ? 俺たちの努力は褒めてくれんのかね」
「ま、税金で食ってる俺らは一般人の下僕って事っすよ。……しかし切り裂きジャックっすか。件のごとく、娼婦だけを狙ってくれるなら、警護のつけようもあるんすけど」
サカモト刑事の部下であるアカシ刑事が言う。
「完全に無差別っすからね……しいて言うなら、1999街にいる人間だけが狙われてる、って事っすけど」
「魔物か? 噂の魔種って奴か? 1999街の外じゃラジオ野郎が出たんだろう?」
「それも、ローレットのイレギュラーズに討伐されました……そうだ、投げちまいましょうよ、ローレットに」
ああ? と、サカモト刑事は不快気な顔をした。
「ふざけんなよ。テメェの無能を叩かれて、外部にお願いしますってのか」
「でも、もし魔物だ魔種だ、としたら、連中の方がプロですよ? 適材適所。その手の対応能力だって、うちらより上の連中が来るっすよ」
ふむぅ、とサカモト刑事は唸る――面白くはない。だがそれ以上に、これ以上、殺人鬼を遊ばせておくわけにもいかないのは事実だ。
「ちっ……おい、電話帳寄こせ。外に連絡するぞ。ローレットにつなげさせろ」
サカモト刑事はアカシ刑事にそう告げると、再びコーヒーカップをあおり、今度こそそれを飲み干した。
●ようこそ混沌の時代
「はー、練達も大概未知の領域でしたけど、ここはさらに未知の領域ですね。ごったがえしてるっていうか」
『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)は、ポリス・ステーションの窓から1999街の景色を見やる。
狭く――言い方は悪いが、ごみごみとした街。しかし、薄暗い灰色のビルの中と陰には、確かに強かな生者の活動が見受けられ、混沌とした街並みを構成している。
「連絡は行ってると思うが、俺達が依頼したいのは、『世紀末の亡霊』……人殺しの捜索と、逮捕だ。逮捕と言ったが、魔種だの魔物だったりした場合は、殺しちまって構わん」
「魔種が相手、なんですか?」
ファーリナが目を丸くする――サカモト刑事は鼻で笑った。
「分からん。正体が全くつかめんのが、俺達の限界でな――じゃなきゃ、お前さんらなんぞ呼ばんよ」
「少なくとも、判明してる限りでは、なんっすけど」
ケンカになってはいけない、とアカシ刑事が、資料を手に口を挟む。
「少なくとも、出没は夜から朝にかけて――ま、真昼間っから無差別殺人する奴もそうそういないっすけどね。後は、被害が発生しているのは、1999街、この地区の中限定」
「そこまでわかってて、捕まんないんです?」
ファーリナの言葉に、サカモト刑事が嫌そうに目を細めた。
「無能で申し訳ないね……俺達も、それに付きっ切りになるわけにはいかないんだ。マンパワーにも限界があってな。それに、警察官(サツカン)を嫌ってる奴も多い」
「滅茶苦茶ですね。人が死んでるのに、警察が嫌いって」
「それが1999街の文化でねぇ、お嬢さん。ぜひ覚えて帰ってくれ」
「なんにしても――」
やっぱり、なんか喧嘩になりそうで――アカシ刑事が口を挟む。
「うちではこれで限界なんっすよ。遭遇した警察官も、返り討ちになる感じでして。となると、もう、ローレットの皆さんにお願いするしかないって言うか。ね? お願いしますよ。報酬は支払いますから。予算組んでますんで」
両手を合わせて、アカシ刑事が言う――ファーリナはため息をついた。
「まぁ、受けた依頼はきっちりこなすがローレットですし。……さて」
ファーリナはそう言って、イレギュラーズ達へと向き直った。
「少々変な場所での事件ですが、やる事はいつもと一緒です。調査して、敵を見つけて、やっつける――ではでは、お気をつけて。吉報を、お待ちしておりますよ」
そう言って、イレギュラーズ達を送り出したのだった。
- アデプト・トーキョー1999:世紀末の亡霊完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年06月25日 22時11分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●世紀末の街で
「私、蔓埼紅葉! どこにでもいる普通の女の子! 今日はこの街に趣味の映画を探しに来たんだけど殺人鬼が暴れてるみたい、よーし私が懲らしめちゃうぞー」
ぴっ、とポーズなどを決めつつ、『自称!正義の味方』蔓崎 紅葉(p3p001349)は虚空へ向けて説明じみたセリフを告げた。その先には紅葉曰く、カメラがあるらしい――どう見てもそこには何もなくて、その向こうにどこか重さを感じる空と、灰色のビルが覗くだけである。
此処は練達、アデプト・トーキョー1999街。イレギュラーズ達は、現地警察の要請を受けて、近頃街を騒がせる連続殺人鬼、『世紀末の亡霊』の討伐に乗り出したのである。
時刻は、昼――未だ人々が活発に活動を続ける時間帯であり、殺人鬼の躍る時間帯からは外れていたが、下見と情報収集のため、イレギュラーズ達はこの時間から活動を開始した。
「本当に不思議な街なの……キラキラしていて、けれどどこか鬱屈な雰囲気もあって……」
瞳を真ん丸に見開いて、街の雰囲気に圧倒されるのは『救世の炎』焔宮 鳴(p3p000246)だ。鳴のいう通り、街には生命の躍動感と、同時に何か諦観のような重い空気が混在する、アンバランスな雰囲気を纏っていた。
「懐かしき我がふるさと、東京。良く再現されている……と言っても、私自身は、20世紀末の東京の風景に、馴染みはないのだけれどね」
くすりと笑ってそう言うのは、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)だ。その眼は興味深げに、己の故郷、東京の過去の姿を映したこの街を見つめている。
「やっぱり、旅人(ウォーカー)の人たちにも、こういう所で暮らしていた人がいるのね」
鳴の言葉に答えたのは、『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)だ。
「若干レトロな感じはするけれどね。地名や、街並みを見ていると、私も、元居た世界を思い出してしまうよ」
「この街が独特の雰囲気を持っているのは、元となった時代が世紀末……時代の節目だった、というのもあるんだろうね」
ゼフィラが言う。
「未来への希望と不安……そう言ったものが、どうしても付きまとうのさ。ちょうどこの混沌世界にも、魔種という不安がある。だから、そう言った先行きへの希望と不安を併せ持っている人たちが、この街に集まったとしても不思議じゃない。興味深いね」
ゼフィラの講義に、感嘆の声をあげる鳴。
「だから、不思議な街になっているのね……」
「さて、このまま観光と行きたい所だけれど、それは別の機会にしようか。そろそろ調査を始めよう」
利一の提案に、
「はーい! では、亡霊退治、その準備、始めますよー!」
ぴっ、と虚空(カメラ)へ目線を向けながら、紅葉は言うのである。
繁華街を抜けて、路地裏へと入る。人の気配は確実に減っていたが、それでも数名の歩行者の姿が見て取れた。そんな路地裏を進みながら、『砕月の傭兵』フローリカ(p3p007962)がいう。
「やっぱり、犯行場所はこういった裏路地だろうね」
ジャケットのポケットに手を突っ込みながら、辺りを見回す。
「表通りでやってるなら、もっと騒ぎになってるはずだからね。一応、刑事のサカモトには、夜間のパトロールを増やしてもらって、路地裏から人払いをするように頼んである」
「大儀であるぞよ」
『殿』一条 夢心地(p3p008344)は、ほほほ、と笑いながら、フローリカの行動をねぎらった。
「麿も情報収集は行っておるのじゃよ。街を放浪する猫ちゃん達に、ちゅるちゅるのおやつと引き換えに情報を提供してもらったのじゃ」
すぅ、と夢心地は息を吸うと、一息でこう言い放った。
「彼奴の正体は、アンゴルモアの大王である。そして人類は滅亡する!」
な、なんだってー! と言わんばかりに、イレギュラーズ達は圧倒される……が、すぐに気を取り直すと、いや、幾らなんでも人類滅亡は無いだろう、と言う視線を、夢心地へと送った。
「なんじゃ、その目は。確かに猫ちゃん達は、『奇妙な生き物が街を徘徊している』と語ったのじゃぞ。人間や魔種なら、『人間』と言うじゃろう。じゃが、『奇妙な生き物』と言ったのじゃ。となれば、1999年、七の月にやって来る魔王、アンゴルモアの大王に違いあるまい!」
「大王、か……」
『祈りの拳』原田・戟(p3p001994)は静かに呟く。そして、胸中で、その正体に思いを巡らせた。確かに、人間の類ではなさそうである。となれば、魔物か。そして、魔物であるならば。
(……腹パンに見合う勝ち気な美少女であれば、と思ったが……そうではなかったか。血塗られし我が拳、此度は血にまみれず済むのだろう……だが、それを安心と同時に、残念に思う俺がいる……ふ、業だな……)
戟は戟だった。ブレない。
「人類滅亡はさておいて。しばらくは地理の把握に勤めましょうか。探索や戦闘への利用も勿論ですが、逃走された場合にも役立ちそうです」
『悲無量心』月虹(p3p008214)の言葉に、仲間達は頷いた。いずれにせよ、魔物が相手であるならば、戦闘は避けられまい。となれば、地理の把握という点で、イレギュラーズ達は魔物に一歩、不利をつけられている。ならばその差、覆さなければならない。
「ふふ……しかし、本当に……楽しそうな街ですね。練達は初めてではないのですが、このような街があったとは……」
月虹は、ビルに覆われた空を見上げる。昼を告げる明かりはイレギュラーズ達と、灰色の街を照らしていた。
●世紀末の亡霊
夜を告げる明かりが、街中を照らす。
不夜城、眠らぬ世紀末の街並みは、夜闇の中にあっても不自由ないほどに明るかったが、なるほど、一歩路地裏へと入れば、その明かりも届かぬ、些か寂しい。
その寂しい道を一人、歩む姿があった。
あたりをきょろきょろと見まわし――時に虚空を見つめて安堵の表情とキメ顔を見せ。何かを探すように、あるいは誘うように、ぽつぽつと、歩む。
さて、ビルの屋上から、歩くその人物を見つめる、二つの眼があった。それは、人のシルエットを持っていた。ボロボロのコートのようなものを身に着け、フードを目深にかぶったその表情はうかがい知れない。だが、まるで電球のようにギラギラと輝く眼だけは、よく見えた。
その両手は、かぎづめのように鋭く、錆か、血によるものか、黒く汚れこびりついている。
かぎづめの怪人――それこそが、世紀末の亡霊と呼ばれる、連続殺人鬼の正体である。この亡霊は、今宵もまた、標的を見つけた。
亡霊は、身体に力を込めると、屋上より飛びだった。わずかな間の飛翔。その後は重力に則って、速度をあげて地へ向けて落ちていく。
びゅう、と、風が、ターゲットの間に巻き起こった。
亡霊が落ち行く際に発生した、風であった。
「!?」
思わず、ターゲットは上空を見上げた。
目が合う。ぎらぎら輝く目。ターゲットは、状況も理解せず、しかし本能的な恐怖におびえ、驚きの眼を見せるだろう。いつも通りなら、そのはずであった。
しかし、怪人のを迎えたその眼は、確かな確信と、自信に満ちた表情をしていた。
言葉にするならば。
「かかりましたねっ!」
ターゲットはそう声をあげると、ばさり、と服を脱ぎ去った――かに見えた次の瞬間、その身体を包んでいたのは、全身に推進器を有する、危険極まりないスーツであった。
「突……撃ッ!」
ターゲットは全身に力を込め、次の瞬間、ばねのように解き放った! 連動した噴出されるブーストがターゲットの速度を増加させて、弾丸のように亡霊へと向けて解き放たれる。
撃ち込まれる、音速の拳!
カウンターでぶち当たった拳が、亡霊の胸を捉えた。ごん、と鈍い音を立てて、亡霊がビルの外壁へと叩きつけられた。
「――フッ!」
同時に、力強く息を吐きながら、筋肉質の男が奇襲を仕掛ける。その拳が鋭く、外壁に叩きつけられた亡霊を捉え、派手な音を立てながら地面へと叩き落した!
――同時に、爆発音とキラキラと輝く星が、周囲を彩った! それを合図に、7名の人物が物陰から飛び出し、亡霊を包囲する――!
「は……初めて使ったので、使い方が分からない! どうやって止まるんですかぁ~~~~これぇ!」
一方、突撃したままのターゲット……いや、紅葉が止まれず、派手に壁に激突する! ごん、と額を強く打って、ようやく紅葉は止まった。痛たた、と額に手をやりつつ、虚空(カメラ)へ向けて、ぴし、と指さし。
「現れましたね、世紀末の亡霊!」
ぎぃ、と音を立てて、亡霊は立ち上がった。ボロボロのコートの隙間から見えるのは、明らかな機械の身体である。
「へぇ、オートマタタイプの……これは魔物だね」
ゼフィラが声をあげた。
「打ち捨てられた人型の物体に、精霊や魂が宿ったタイプだ。そこは練達らしく、機械の人形か」
「なるほど、亡霊の正体見たり、という奴だな」
手にしたハルバード、『ルクス・モルス』をくるりと回転させて、亡霊へと向けて構えるフローリカ。
「タダの魔物、と言うのはつまらないが、しかしお前を放っておいてやるわけにはいかない」
「なんじゃ、アンゴルモアではなかったか……」
とほほ、と肩を落とす夢心地であったが、
「とは言え、フローリカのいう通りじゃな。そなたを野放しにしておくわけにはゆかぬ」
「ここで確実に仕留めるよ、皆!」
紅葉をかばうように、亡霊との間に立ちはだかった利一。
「――さぁ、今日もお仕事です。より良い明日、未来のため! 「世紀末の亡霊」とやらを、迅速に退治です!」
鳴の言葉に、仲間達は各々、構える。
戟はフッ、と笑い、その拳に力を込めた。
「人間であれば法によって裁かれるべきと心得ておりますが。人里の人を害する魔物を人間はどうすべきか、自明の理と言えましょう」
月虹のその言葉が合図となった。イレギュラーズ達は、包囲を狭めるように、一気に亡霊へと走り出す!
「さあ、来い! 独りで歩く女性しか襲えないとは、情けないヤツめ! 私を殺せるものなら、やってみせろ!」
利一が叫ぶ。その挑発にのった、と言うように、亡霊はそのかぎづめをぎらつかせ、利一へ向けて跳躍。両手で包み込むような動きのかぎづめ――鋭い刃物が利一を襲う。『嘯風弄月』――利一のその防御技術。受け流し、反撃を取るためのそれが、かぎづめを叩き、反らした。鉄を殴った痛みが、手に走る――。
「撃ち抜きます!」
鳴の頭上に、魔力によって練り上げられた焔の槍が出現する。鳴が手を振るえば、槍は即座に解き放たれ、亡霊へと向けて射出される。しゅっ、と音を立てて、亡霊の肩口を、炎の槍が貫いた。ボロボロのコートが炎に焼け、亡霊の機械の身体を、夜の明かりにさらけ出す。
ぎ、と音を立てて、亡霊が鳴を見やる。
「おっと、よそ見は厳禁であるぞえ? 麿は刀の扱いも学んでいるが故」
夢心地の刃が、亡霊を狙う。亡霊はとっさに、かぎづめを振るい、その刃を受け止めた。ぎぃぃ、と音を立てて、鋭い刃と爪が交差。文字通りに火花を散らし、亡霊がその身を怯ませる。
「おお、そなたも中々の腕前――じゃが」
「波状攻撃ではどうかな?」
ゼフィラは大弓を構え、精神力を弾丸に変えて撃ちだした。怯んだ亡霊のかぎづめに、弾丸が着弾――その一本をへし折り、がきん! 音を立てて地へと落下させる! 亡霊がその手をにぎにぎと様子を確かめるや、怒りに震えるように吠えた! 亡霊はその手を大きく振るい、夢心地を狙う。
夢心地は刃を交差させつつ、後方へ跳躍――。
「おお、麿の着物が」
しかし、敵の刃はわずかに、夢心地の着物を切り裂いていたようだ。ぎぎ、とあたりを睥睨する亡霊。電球のような――その実、科学的なライトが取り付けられているのは事実であるが――眼が赤く輝く。
「亡霊は亡霊らしく、消えるんだな!」
フローリカは獲物を手に、一気に亡霊の懐へと潜りこんだ。同時に、振りぬかれる重いハルバードの斬撃が、亡霊の胸部装甲を切り裂く。銃弾すらはじき返す装甲、その隙間を縫って放たれる、繊細にして大胆なる斬撃――亡霊の眼がぢかぢかと点滅する。
振るわれるかぎづめを、フローリカは獲物で受け止める。ちり、とかぎづめが、フローリカの前髪を数本、斬り落とした。
「さすがに鋭いな……だが、私の前ではそんなものはナマクラに過ぎない!」
フローリカはハルバードの柄で力強く亡霊を押し返すと、そのまま横なぎにハルバードを振るった。斬撃が、手首のあたりを切り裂く――亡霊のかぎづめが鋭い音を立てて斬り落とされた。
ぎぃ! 亡霊が悲鳴を上げる――その背後に、奇襲を仕掛けるのは月虹だ。
「動く相手を狙うのは久しぶりですので、少々お行儀が悪いかもしれませんね」
持つだけでも膂力を必要とするだろう長大な刃は、細い腕にていともたやすく振るわれた。しかしその鋭さは些かも衰えることなく、亡霊の肩口を狙う。亡霊の片腕が、刹那の間にて斬り捨てられた。
「あら、やはり、久しぶりですと加減が分かりませんね。首を飛ばすつもりでしたのに」
しとやかに笑う月虹――しかし、亡霊に与えられたダメージは甚大である。亡霊がダメージに苦しむ、その隙に、戟は一気に接敵!
「一度血に塗れた修羅の拳――貴様と俺に、如何ほどの違いがあろうか? いや、強いて言うならば、運、よな」
ごり、とその胸に、拳が突き出される。腹に与えるには勿体ない。我が拳は、美少女の腹に打ち込まれるものであるが故に。
がん、と音を立てて、亡霊は倒れ込み、勢いのまま、地を滑った。ずざざざ、と土米類をあげ、コンクリートを擦過する――。
「とどめだ! キミたち、一気に決めたまえ!」
ゼフィラの天使の福音が鳴り響く。仲間達に賦活の力を与え、その手に武器を握る力を、その足に大地を蹴る力を、みなぎらせる。
「行っき、まーすっ!」
ぎり、と立ち上がる亡霊を、突っ走った紅葉がぶん殴る――拳が亡霊の胸部を捉え、壁へ貼り付けにする。そのまま止まれず、紅葉は外壁を蹴っ飛ばして方向転換、無理矢理着地。
ごう、と吠え声をあげ、亡霊が飛びあがる。その勢いのまま振るわれるかぎづめを、利一がその防御技術によってとらえ、からめとった。
「その爪じゃ、私達は切り裂けない」
「貫きます!」
鳴は霊刀に炎を纏わらせ、鋭く、突き出した。その刃先から放たれる衝撃波――炎の衝撃波が、亡霊の胸部を、言葉通りに貫く! ぼ、と溶け落ちるような音を立てて、亡霊の胸に風穴があいた。がちがちと音を立てて、亡霊が暴れ出す。次の瞬間、残っていたかぎづめを、夢心地が斬り落とした。
「カラクリ武者よ、そなたの悪行、之にて」
「お終い、ですよ」
月虹が、亡霊の首を斬り飛ばす。くるりと舞って、地に落ちた。
「じゃあな、亡霊」
未だ眼が明滅を続ける頭を、フローリカはハルバードで叩き潰した。ぐしゃり、と音を立てて、亡霊の頭がはじけ飛ぶ。
それを合図にしたように、まるで糸が切れたかのように、亡霊の身体は地に倒れ伏し、そのまま動かなくなったのである――。
●亡霊の消えた町
「かくして、私達ローレットのイレギュラーズの活躍により、街の平穏は守られたのでした!」
ぐっ、とこぶしを突き上げ、虚空(カメラ)へとポーズを向ける、紅葉。その虚空(カメラ)のレンズの先には、赤色灯が、夜の闇を照らしていた。無数の規制線があちこちに張られて、黄色と黒のラインが危険を主張している。
数名の刑事が、イレギュラーズ達が倒した亡霊――その姿を確認する。機械人形の魔物。その死体を確認し、あれこれと証拠写真を撮っている。
「おう、イレギュラーズサン達か。よくやってくれた」
刑事、サカモトが、イレギュラーズ達へ向けて、片手をあげた。
「魔物だったわけか……となると、やっぱり餅は餅屋だった、ってわけだな……」
「まぁ、そうだね」
ゼフィラが頷く。
「キミたちを悪く言うわけじゃないが、我々に任せておいた方が確実だったね」
「分かってる。こうなってまで意地を張る程、俺も頭は固くねぇや」
「これで、この街にも平和が戻ってくる……ですね?」
鳴の言葉に、サカモトは肩をすくめた。
「まぁ、俺らの仕事はあるだろうが、ね。お前さん方に頼むような仕事は、そうそう起こらんだろう」
「だと、いいですけれど……」
利一は口元に手をやりながら、続ける。
「最近は、魔物の動きも活発のようですからね」
「今回の魔物も、そうですよ」
月虹が続けた。
「この街の中で、突然発生したようにも感じます。もしかしたら、と考えると……警戒は怠らない方がいいでしょう」
「おいおい、脅かさんでくれ」
サカモトは両手をあげるが、しかしその表情は真剣そのものであった。仮にも、街の治安を守る公的機関の人間だ。厄介ごとの予感を聞いて、不真面目でいられる者ではない。
「まぁ……ご忠告通り、しばらく警戒態勢を続けることにはするよ……で、まぁ、また手に負えなくなったら」
「その時は、いつでもご依頼を」
フローリカが肩をすくめ、言った。戟が静かに、ニッ、と笑った。
「なんにしても、此度の事件は、これにて一件落着じゃな!」
にんまりと、夢心地は笑った。
此処はアデプト・トーキョー。
次にイレギュラーズ達が訪れる時は、平穏か、騒動か。
それはまだ、誰にもわからない。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
アデプト・トーキョーは、いつでも皆さんの来訪をお待ちしております。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
ようこそ、ここはアデプト・トーキョー1999街。
世紀末と未来を待ち続ける街です。
●成功条件
『世紀末の亡霊』を倒す
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
練達に存在する、A・T(アデプト・トーキョー)1999街と呼ばれるとある区画。
そこでは、夜な夜な『世紀末の亡霊』と呼ばれる、謎の存在が殺人を繰り返していました。
皆さんには、この区画に侵入し、『世紀末の亡霊』を発見、撃退してください。
これはプレイヤー情報になりますが、『世紀末の亡霊』はぶっちゃけると人型の魔物です。戦闘は回避できないものと思われます。
●ちょっとしたフレーバー情報
#アデプト・トーキョー1999街ってどういう所なの?
練達のとある一区画に作られた、東京っぽい区画です。東京、と言う物を想像してみてください。思い浮かびましたか? だいたいそういう所です。
この区画は、とりわけ1999年代を模倣しています。近現代の東京、と言った感じです。
#西洋ファンタジーの服で行っても浮かないの?
腐ってもここは練達で混沌ですので、皆さんがどんな格好で訪れようと、違和感を覚えられることはありません。ノーペナルティです。
●警察から与えられた情報について
以下のような情報が、1999街の警察から提示されています。
「すべての被害者は、1999街で行動中に襲われている」
「被害者は、主に単独行動中に襲われているようだ」
「被害者の共通点は、女性であるという事。ひとり例外があったが、中性的な、子供のような男性だった」
「犯行時刻は夜。時間帯はまちまちだが、日中でないことは確実」
「遭遇した警察官によれば、長い爪のような刃物を持っていた。切り裂かれると、血が止まらなくなるように感じた」
「硬い……と言うか、此方の射撃をものともせず動いて見せた。少なくとも、生命力は高そうだ」
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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