PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<星芒のカンパネラ>王女暗殺未遂事件

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●14歳の王女
 猫が生まれるという。
 少女ピエラは制服の裾を翻し移送機(トレイン)に乗った。移送機(トレイン)は宇宙空間を隔てた隣惑星同士を自動で近距離移送してくれる操舵式の小型舟である。小型と云っても、人が200人は入れる広さ。今は貸し切り状態で『30人』と『2人』いる。
 『人類』は働き者で、ナマケモノだ――ピエラは思う。
「せっせと技術力を高めて、高めた技術力で如何に自分達が働かなくても済むかを追求しているわ」
 濡れたような黒髪を掻きわけて笑いかける先には、のっぽの青年がいる。
 青年は端正な顔立ちで、がっしりとした体付き。ピエラの一番大好きな紫の瞳は無表情で熱が燈ることがない。
「アレクセイ、知っていて? わたくし達『プロキオン』もそうやって生まれたのよ」
 返事は無い。
「そして、これから会う猫ちゃんもね」
 猫は、遺伝子操作により造られた生命だった。目が真っ青で、真っ白なふわふわの長毛種だときいている。
「わたくしの可愛い猫ちゃん。名前を考えてあげるわ」
 ピエラはそう言って青い瞳に微笑みの花を咲かせた。

(それにしても、つまらないわね)
 ピエラはそっと溜息を噛み殺す。
 少女のお気に入りの青年は、あくまで仕事として彼女の傍にいるだけ。彼女が(彼女なりに)親密になろうと懸命に(彼女なりに)話しかけても、愛想の欠片もないのだ。
(ちょっとぐらい恋愛ごっこに付き合ってくれてもいいんじゃない)
 どうせ、もう数年もすれば親が決めた相手と添わねばならぬのだ。分刻みのスケジュール、勉学塗れでただでさえ娯楽の少ない身。少女時代を彩る甘酸っぱい刺激を提供してくれてもよいではないか。
(でも、あまり積極的になられても、困るわ)
 むぅ、と見上げる青年の貌はやはり整っていて美しい。鑑賞しているだけでも良いものだ――これに迫られたら、それはそれで刺激が強すぎて困ってしまうかもしれない。複雑な少女心である。
「殿下、予定が押しております」
「わかっているわ」
 促され、視線一つで移送機に指示を送る。
 種としての種としての能力を進化させた『人類』は今や指一本動かさずに舟を操舵することができる。予め組まれたプログラムにより、自動で決められた航路を進み、止まり、扉を開き、閉める。この仕組みが完成した根底にある想いはきっと「人力でいちいち動かすのが面倒だから」だ、とピエラは思っている。そのうち視線を向けるのも面倒と言い出すんじゃないかしら、なんて。

 移送機の外側には宇宙空間が広がっている。広がる黒い宇宙空間は全てを呑み込むような得体のしれない深淵を湛え、無数の星々の間を移送機が行き来している。ほんの、隣の星に遊びに行くだけ。ものの数分。
 だが、その数分の間もピエラの周りにはアレクセイと彼の指揮する小隊護衛が付き従う。それもそのはず、ピエラはこの一帯の星々を統べる星間国家の王女なのだ。

 時間帯は、夜。

 『人類』が惑星の底を這っていた古き時代より、彼らは『夜』と呼んでいた。そう――ピエラは、人類が進化した種『プロキオン』であった。
 尤も、同じ蒼き星(故郷)発祥ながら進化の道を選ばなかった『兄弟人類(ソレイユ人種)』は故郷を同じくする彼ら(プロキオン)の事を『異星人(モンスター)』と呼んだのだけれども。

 移送機が高速で動き出す。ピエラは機内の椅子に淑やかに座りながら機外風景を映す窓(モニター)を眺めていた。ガタン、と只ならぬ音が響いたのはその時だ。眩い光が弾けて、視界を塗り潰す。
「殿下!」
 高く狂おしい電子音が鳴った。警報だ。聴覚を支配する人の声。悲鳴のような、怒声のような、幾つものけたたましい音群。そして、光が爆ぜる音と何かが焦げるような音と匂いと、濡れた水音と血錆の臭い。
「えっ?」
 突然アレクセイが覆いかぶさってきた。一瞬事態を理解せぬまま鼓動が跳ねる――、瞬きするほどの間を経て喉が引き攣り、目が最大限見開かれる。
「ッ、キャアアアアアッ!!」
 少女の悲鳴があがる。
 彼が自分を庇って光線銃に穿たれたのだという――事態を理解したから。


●境界図書館
「『星芒のカンパネラ』の歴史を変えてみませんか」
 翠仙(スイセン)はそう言って本のページを捲る。

「この物語は、『プロキオン』という種族が統べる宇宙世界が舞台です。ボクがお誘いするのは、このエピソード……、」
 『――プロキオンの王女であり、最有力王位継承者と目されているピエラ・レルム・ド・プロキオンが暗殺されかかる事件』。
 翠仙は丁寧に説明を試みた。

「ピエラは、齢14歳。長い黒髪に蒼い瞳の王女様です。護衛騎士のアレクセイがお気に入り。
 この日、彼女は移送機という乗り物に乗っている最中に襲われるのです。どうも護衛の中に暗殺者が紛れていたようですね」
 その事件で、お気に入りの護衛騎士が王女を庇って死んでしまいます。王女には弟がいるのですが、王女陣営は暗殺者を仕向けたのが王位継承を狙う弟王子の陣営だと思い、復讐に弟の所有惑星『カンパネラ』を焼きにいく――というのが本来の話の流れです」
 なお、首謀者の真実は原作では明らかになっていないという。本当に弟王子の陣営の誰かが企てたのかもしれないし、あるいは他の誰かが企てたのかもしれない。その真実は、今回探る方法がない。


「ですが、イレギュラーズの皆さんは悲劇を阻止し、
 死ぬはずだった人命を救うことができます」
 その歴史は変えられるのだと、境界案内人は語るのだ。


「暗殺者は4人。現場にテレポートし、ちょうど暗殺者が隠し持っていた光線銃を撃った直後、初撃に対応する事が出来るでしょう」
 阻止した後? と翠仙は面白そうに首を傾げる。
「用は済んだとばかりに無言ですぐに消えて戻ってきても良いでしょう。そうすると、現地の人々にとっては「先祖の英霊か何かが一瞬顕現し、彼らを助けた」と語り継がれるのでしょうね。王女陣営は、何も働きかけないでいると暗殺劇が弟陣営によるものだと思い込むようです。
 すぐに消えず、王女や護衛の人達に「自分たちはこういう存在」と話してみたり、「弟陣営の仕業ではないと思う」と話してみたり――あるいは逆に「弟陣営が犯人かも。あやしい!」と話してみたり。そのあたりは自由です」
 イレギュラーズには加護がある。物語世界で行動する彼らは、その世界にいる誰より強く、生命が脅かされることはない。

「いかがでしょう。
 気が向かれましたら――宇宙世界の歴史を変えてみませんか」
 翠仙はそう言って恭しく頭を下げた。

NMコメント

 おはようございます。remoです。
 今回は『星芒のカンパネラ』シリーズの続編です。過去作品を読まなくても今回のプレイに支障はありませんので、ご安心ください。

●世界観説明
 嘗て、蒼き星を起源とする『人類』は『プロキオン』という亜人種と宇宙を巡る戦争を繰り広げ、敗北しました。現在は『プロキオン』が星々を統べています。
 過去作品は
 『星芒のカンパネラ』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2296)、
 『コールド・スリープ・エラー』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2527)。
 暗殺劇は、コールド・スリープ・エラーの数か月後の事件です。
 キャラクター様は「前回の王子とイレギュラーズたちのお話を報告書や案内人の説明で知っている」と言って行動してもよいですし、「知らない」と言っても大丈夫です。

●NPC説明
 ピエラ・レルム・ド・プロキオン……暗殺の標的である14歳の王女。戦う能力はありません。
 アレクセイ……ピエラを庇う護衛騎士。イレギュラーズが何もしないでいると死にます。
 暗殺者……プロキオンの暗殺者。4人います。武器は光線銃。そして、微力ながら「足をすくったり」「原始的に振り回す武器の軌道をずらす」超能力も扱います。超能力の発動には、「働きかける対象を視る」ことが必要です。

 ●遊び方
 1、出現場所は移送機の中。暗殺者が今まさに王女を狙って行動を起こそうというタイミング。現地に出現してからPCがどのような行動を取るかをプレイングに書いてください。(例:王女そっくりの姿で敵を惑わし囮になる、王女を庇う、暗殺者を攻撃する、などなど)
 2、暗殺から守る以外で現地のNPCに自由に影響を及ぼすことができます。(例:猫の名前を提案する、王子の事を話す、自分達について話す、護衛騎士と王女の恋愛を応援しちゃう……具体的に「誰にどんなセリフを語るか」を書いてください)

 以上です! オープニングと説明に目を通してくださり、ありがとうございます。
 キャラクター様の個性やプレイヤー様の自由な発想を発揮する機会になれば、幸いでございます。

  • <星芒のカンパネラ>王女暗殺未遂事件完了
  • NM名remo
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月07日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談1日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
ライセル(p3p002845)
Dáinsleif

リプレイ

『デビュタントを控えた初夏の夜、3人の人物が王女の前に現れた。
 ……4人であったという説もある』。


●凶光
 前触れもなく光が閃く。
「殿下!」
 刹那割り込む長身は、物語から出てきたような美貌の青年――彼にとっては、この世界こそが物語の中であったが――虚空から出現したライセル(p3p002845)は身を挺してアレクセイを庇い、皮膚を灼かれる激痛に耐えた。
(俺達からしたら此処はお話の世界なのかもしれない。でも、王女様やアレクセイからしたら紛れもない現実なんだ――俺だってラクリマや妹のエミリアが目の前で殺されたらどんなに悲しいか!)
 負傷にふらつく体。激戦続きの疲弊が尾を引いていた。けれど、ライセルは躊躇わず前に出る。
(それが、自分を庇ってだったら尚更、絶望じゃないか。よくあるお話の一幕かも知れない。
 でもね。
 俺は目の前で人が死んでいくのは嫌なんだ)

「暗殺者だ!」
 護衛が放つ声は2種。
「味方……? 大丈夫か、満身創痍ではないか」
 ライセルは首を振る。
「俺達の正体なんて、今はどうだっていいだろ? それより、君は王女様を庇って!」
 騎士服に身を包んだ暗殺者側も驚きを隠せないようだった。
「邪魔者が? こんなはずでは」
「問題は無い、予定通りに」

「……やれやれ。護衛も暗殺も、どちらも楽ではないな」
 聲一つ、壁から腕が伸びる。


「幻想理論――『空 轟 壁』」


「ッ!?」
 完全に意表を突かれた暗殺者の体が壁に叩きつけられる。藻掻く敵に圧縮した空気の壁が続いて圧し掛かり、秒を要さず無力化した。
「まず1人。小手先の手段はやはり頼りにはならんな」
 姿を現したシグ・ローデッド(p3p000483)は恰も研究手法を検討するかのような口ぶりで呟く。
「……少し本腰を入れるとしよう」
 眼鏡を押し上げ、ライセルに向けるのは癒しの魔力。
「ありがたい……!」
 シグとライセルの視線が交差する。
「そっちは任せたよ! 俺はこいつらをやっつける!」
 鋼鉄の翼で敵を強打し、赤き魔剣を抜くライセル。シグは返答代わりに近くの椅子を飛ばし、ライセルの足を掬おうとする暗殺者の視線を遮った。混乱状態の機内を俯瞰し下す判断は恐ろしく的確で、行動には無駄がない。

「王女殿下をお守りせよ!」
 護衛小隊が状況に対応すべく動き出す。

(小隊の対応は聊か遅い。が、『味方』は流石疾いな)
 沈着な研究者の視界でピエラが小さく声をあげた。
「きゃっ?」
 見れば、透き通った何かが王女の体に巻きついている。
「綺麗……」
 尾に見惚れる王女の瞳が軈て見開かれる。必死な顔で自分を守るノリア・ソーリア(p3p000062)に気付いたから。
(歴史を、変える)
「守ってくださるの?」
 肯定の頷きを返すノリアの胸で鼓動が騒ぐ。
(ほんとうにそれが正しいのかは、わかりませんの)
 けれど、ノリアは目の前に悲劇があるなら助けに動かずにいられないのだ。

 機内の映像記録に姿は無いが、機内にはもう一人居たと云われている。
 ノリアとピエラの前に疾風めいて駆け付ける男の右腕はだらりと下がり、聲は笑っていた。
「僕は味方だから頼ってくれても良いのだよ?」
 ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)である。
「み、かた?」
「そ――うわっ」
「きゃ!」
 繰り返すピエラに頷きを返した瞬間、ランドウェラがバランスを崩す。敵の能力だ。ノリアが尾を伸ばし、慌てて背を支えた。
「面倒だな」
 ランドウェラは軽く床を蹴り、浮いた。同時に敵の体が吹き飛ぶ。
「な、何? 何をなさったの?」
「これで躓く心配もこける心配もない」
 ついでに距離も取れた、と微笑むランドウェラ。ノリアはピエラに「貴方達が使う超能力みたいなものですの」と教えた。

「殿下に害意を示す者は取り押さえよ!」
 現地の護衛にとっては、敵の数すらも定かではない。混迷の現場を指揮していたアレクセイがふと動きを止める。

 目の前に剣が一振り、浮いていた。英明なるシグがその身を剣に変じたのだ。

「お前さんは王女の騎士なのだろう?
 ――ならば、この魔剣に願うがいい。王女を守る力を」
 語り掛ける聲は現地の民にとって神の聲に似て神々しい。

 紫の双眸が剣を凝視する。瞬間、時が止まったようだった。
「執るが良い。敵を撃ち滅ぼすための剣を。この一瞬だけは――お前さんに力を貸そう」
 騎士は、手を伸ばした。
 後の世に語り継がれし詩にある『騎士と導きの剣の邂逅』の瞬間である。


●火種
「せいっ!」
 魔弾と血色の鎖が舞い奔る中、アレクセイが繰り出す知識の魔剣が左から右へと鋼線を走らせる。
「力が無限に湧いてくるようだ!」
 汗を拭い、アレクセイが感嘆の息を吐き剣を見る。剣は対照的に冷静な聲で使い手を導いた。そして、彼の背を守るように魔剣を躍らせるのはライセルであった。
 剣の極みを目指す騎士だからこそ、感じられる力量。アレクセイは超越者達に尊崇の眼差しを向け、助力に深く感謝するのであった。
 ピエラを守りながらノリアも水を放ち応戦している。ピエラはノリアに縋るようにしながら現実離れした光景に驚くばかりであった。
「これは、現実? よね」

「もう大丈夫! 心配いらないよ!」
 そんなピエラの傍に駆け寄るライセルはランドウェラが最後の一人を無力化するのを目撃した。
 夜色の髪が優美に靡く。髪の隙間から覗く左耳のイヤリングは涼やかに揺れ、一拍遅れて暗殺者が地を舐める。周囲の護衛騎士が称賛の眼を寄せている。
「なんと見事な技だろう」
「しかし、何者なのだ」
「味方だというが」
 視線を一身に集め、ランドウェラは敵を睥睨する。
「殺しに来てるんだ。殺される覚悟くらいはできているのだろう?」
 色彩が異なる双眸が凄みを魅せれば暗殺者が総身を震わせた。

 そんなやりとりを背に、ライセルは王女を気遣い声を掛けていた。
「無事かい? 怪我は無い?」
 王女は身を竦ませていた。ライセルは汚れた手袋を取り、洗練された仕草で礼をした。
「俺はライセル。君を守る為に遣わされた」
「ラ、ライセル」
 ピエラが繰り返す。
「皆、仲間ですの」
 ノリアが安心させるように微笑んだ。
「ピエラ」
 ランドウェラが振り返る。
「これらは殺すか? 生かすか? それともこんぺいとう食べる?」
 嗚、笑っている。
 ピエラは夢のような現実を必死で認め、その眼を見返した。
「わたくしの意見を聞いてくださるの?」
 貴方は、気紛れ一つ指一本でわたくしを殺す事もできるのでしょう――思い、ピエラはぞくりと身を震わせた。恐怖と非日常に対する興奮が混ざり合う。
「生かしたまま捕らえて……」
「この刺客、弟君の差し金だと思うかい?」
 ライセルが問えばノリアがぴくりと肩を揺らす。ノリアは、弟と友達なのだ。
 耳朶を擽る、王女の聲。
「そうね。弟の仕業かも。あの子、最近急に野心が芽生えたようで王位を狙っているの」
 同じ母から生まれた弟を語る姉の顔を彩るのは敵意であった。ふるふると首を振り、ノリアは口を挟んだ。
「わたしは、イル王子とお友達ですの」
「え?」
 ノリアが純真な瞳を向ければ、ピエラが息を呑む。
「王子様は……独りぼっちの星で、さびしそうにしていたんですの」
「ノリアは、弟が犯人だとは思っていないみたいね?」
「たまには、会いにいってあげてほしいんですの。できれば、わたしも一緒に。王子様とは、『またお会いする』と、お約束、しましたの……」
 なにせ、優しくずっと寄り添い守ってくれていたノリアの言葉である。ピエラは大きく心を動かされた。
「わたくし、弟とはそれほど頻繁に顔を会わせないし、ずっと不仲なの」
 ライセルは優しくその顔を覗き込み、助言をする。
「憶測だけじゃない、証拠を探す事が重要だよ。誰かが弟君に罪を擦り付けているかもしれない。王族たるもの聡明さは必要だよ……
気を付けて」


●王女のリボン
「契約は終了した。……後はお前さんの力で、王女を守ればいい」
 剣から人の姿へと戻ったシグにアレクセイは深々と頭を下げた。そこへ部下からの報せが齎される。
「これは、アガパンサスの意匠」
 暗殺者の懐から見つかったという大粒の指環は、月長石を填めたアームに精緻な花の意匠が刻まれていた。
「ふむ、それは?」
「現王妃が特に寵愛する商人に渡す指環なのだ。妃殿下は、覇気のない弟殿下をずっと案じていらしたが」
 小声はピエラにも届いていた。視線を向け、手を伸ばす王女の指先は白く血の気を失い、口は真一文字に結ばれていた。
「1つアドバイスをするならば。『力だけが守る術ではない』。政治力も謀略も、その全てを使うがいいさ」
 アレクセイにシグが耳打ちをする。騎士は憂い顔で頷いた。


 指環を胸元で握り、蒼褪めつつもピエラは顔をあげた。
「ありがとう」
 それは、少女らしき真っ直ぐな声音だった。

「わたくしは、今回の件について慎重に事実関係を探るわ。安易に母や弟が企てたとは決めつけない」
 そして、順にイレギュラーズを視た。視線がノリアと合い、止まる。
「来月、若いプロキオン貴族のデビュタントがあるの。商人達は自慢の品々を持ち寄り、王族も出席するわ。弟も――弟は、会場でより多くの味方を得ようと動く、かしら」
 ピエラは複雑な顔で、懐から薄桃色のリボンを取り出した。
「リボンを持つ者はわたくしの信厚き者として身分を保証するわ。……受け取ってくださる?」
 そのリボンを誰が受け取り、誰が辞退したのかは公式には記録されていない。

 王女の聲が機内に響く。
 幼さをまだ残す聲が。

「わたくしは幼き頃からずっと、努力を重ねてきたわ。ここ数か月で急に弟がやる気を出したようだけれど、母ももしかしたら弟を推しているかもしれないけれど」

「今更譲れといわれて――只の女として嫁ぐだけの一生なんて認められるものですか」

「わたくしが王になるのよ」


 呟く主に、騎士アレクセイは恭しく跪き、首を垂れたのだった。

成否

成功

状態異常

なし

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