PandoraPartyProject

シナリオ詳細

狂気という名の……

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ちょっとした違和感
 幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の公演。
 色々ときな臭い噂こそあったもの、講演は大成功中であり、特に問題は今の所起きていない。
 長期間の講演という事で、街は非常に賑わっており、街の住民も実に楽しそうだ。

 しかし、そんな楽しい出来事の裏で、奇しくも同時期に嫌な事件が多発するようになっていた。
 理由は全くの不明ではあったが、普段の行いからは想像できないような事をしでかす者が、今幻想内に溢れはじめているのだ。
 大人しかった男が突然荒々しい性格となり街で暴れる、などは軽い方だった。
 人の命を殺める事すらも、躊躇わない様な、そんな住民がちらほらと出ているのだ。
 勿論、幻想でイレギュラーズへの依頼がある場合、そういった猟奇的な事件や、化け物による被害などは決して少ないとは言い切れないので、それほど目立つ、と言うわけではないのかも知れないのだが……。
 だが、それでもだ。ちょっと、最近の事件については少しだけ引っかかる所があるのは事実だった。


●ある女の思い

 ――ああ、なんで貴女は私を見てくれないの。

 ずっとずっと、好きだった。
 小さい頃からずっと一緒で、いつも側に居た貴女。
 どんなに素敵な人が貴女の前に現れても、私が一番素敵だと言ってくれた。
 どんなに辛いときも側で一緒に泣いてくれたし、楽しいときは一緒に笑っていた。

 これからもずっと一緒だと思っていた。

 けれど、貴女はあの男を連れてきた。

「エリス。貴女には最初に紹介したかったの。私の大切な人よ。婚約するの」

 ほんの少し照れた顔で私にはにかみながら紹介する様は、恋する少女そのものだった。
 そんな表情は初めてだった。
 長い間ずっと一緒に居てはじめて見た表情。

 ――ああ、なんで、そんな男なの。私の方が貴女を分かっているのに。

 そう思ったらもう我慢が出来なかった。
 私は側に置かれていた斧を手に取って、その男へと振り下ろした。

 血に染まる床、倒れ伏した男。
 そんな様子を貴女は呆然と見ていた。
 屋敷の中に女の悲鳴が響く。
 男が連れていた護衛の傭兵どもが騒がしい。

 ――ああ、邪魔だわ。皆、邪魔。

 幸い斧はまだ手元にあるのだから。
 泣き叫ぶメイドをその手にかけ、傭兵どもの鎧の上から鉄槌を下す。
 骨を砕く鈍い音が心地よく、女の悲鳴が聞こえなくなれば、辺りは静寂のみ。
 
 ――やっと静かになった。

 全員その場に倒れたのを確認して、私は貴女の手を握った。

 ――ああ、貴女はもう私だけのもの。誰にも渡さない。


●血なまぐさい事件
 依頼を振り分けている、情報屋ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、最近の依頼の傾向にちょっとだけ眉を顰めた。
「最近、少し騒がしい気がするのです」
 以前から盗賊やら狂った貴族やらの依頼は普通にあったのだが、最近の依頼は、ちょっと偏っている気がする。
 イレギュラーズへ依頼するような内容の場合、大抵普通の人では片付けられない依頼が多いので殺人とか、そういう場合が多いので気付きにくいのだが、たくさんの依頼を受けているユリーカから見ると、ほんのちょっとだが違和感があるのだった。
 今回の依頼もそうである。
 依頼内容に目を通しながら、ユリーカはため息をついた。
 だが、そんなちょっとの違和感を顔に出していては、情報屋は務まらないだろう。
 そう思い気を引き締めるのだった。

 イレギュラーズを集めて、ユリーカが依頼内容を説明する。
「今回の依頼主は、シモン・トレド様と仰る方です。商人さんなのですが、実はお嬢さんが誘拐されてしまったのです」
 依頼内容としてはそれほど珍しいものではないだろう。
 誘拐事件は割とちまたではポピュラーである。
 ユリーカは静かに頷きながら続ける。
「はい。入り口はそんなに珍しい話ではないのです。裕福なお嬢さんの誘拐なんて、幻想ではありふれてる光景です。ただ、ちょっと犯人が今回問題なのです。実は誘拐犯は既に分かっているんです。この誘拐犯、エリスさんと仰るまだ10代の女の方なのですが、浚われたお嬢さんである、シエルさんと仰る方とは幼い頃からの大親友なのです。二人はいつも何をするにも一緒で、大きくなってからも互いを一番大切に思ってたくらいでした。エリスさんは貴族のお嬢さんなのですが、飾らない気さくな性格をした優しい女性で、シモン様もエリスさんを可愛がっていました」
 話を聞いている限りでは、誘拐する理由など無さそうではあるが、女の内情など分かりはしない。
 もしかしたら内心嫉妬で狂っていたのかもしれないのだから。
 そんな君の心の声を予想した様にユリーカが君を見つめた。
「確かに女の人の嫉妬は怖いですから、そういう動機もありえるのですが……。ただ、エリスさんとシエルさんの場合、こういっては何ですが上にいるのはいつもエリスさんで、シエルさんが勝っている所は正直ちょっと見当たらないのです。容姿も家柄もエリスさんのほうが優れてますし、勉強や運動もエリスさんのほうが出来るらしくて、シモン様曰く娘が嫉妬で事件を起こすのであればまだ納得する、と言う位なんです。唯一といえば、最近シエルさんに恋人が出来た事くらいなんですが……」
 自身が優れていたのに、下に見ていた友人に恋人が出来た。
 それも立派な動悸だろう。
「ただ、もしそうならちょっと今回の事件はおかしいのです。まず、浚われる直前に、シエルさんはエリスさんに恋人を紹介したのですが、その男性はその場でエリスさんに斧で頭を割られて殺されてしまったのです。一緒に護衛していた3人の傭兵と、あと目撃していた屋敷のメイド7人もその場で惨殺されています。その後、エリスさんはシエルさんを連れてその場を逃亡。生き残った執事によって事件が発覚した、と言う状態です。エリスさんは今、自身の別荘にシエルさんと潜伏中、です。……衝動的犯行と言えば、まぁありえるんですけれど、でもシモン様の評するエリスさんがそんな行動を取るのはちょっと不可解、と言う、ところなんです。性格的にあり得ない、というか。シモン様としては、娘のシエルさんの救出はもちろんの事、出来ればエリスさんについても無事に捕まえて欲しいとの事でした。あ、これが別荘の地図です。そんな大きな別荘ではないんですが、貴族の館ですので、そこそこ広さはあるのです。ちなみにエリスさんは結構強いらしいのです。まぁ、傭兵3人と男性一人、女性メイド7人をその場で殺せるくらいですから。あと、どうも潜伏している屋敷に、チンピラなのか分からないのですが柄の悪いのが出入りしているみたいですので、その人たちも多分戦いになったら参戦してくると思います。加えて獰猛な番犬が2匹いる、と聞いています。……依頼の成功を祈っているのです」

GMコメント

狂気の女の依頼です。
一体彼女に何があったのかは不明ですが、普段人なんて殺さない様な明るく気さく、嫉妬とは無縁のような性格の彼女が、貴族男性一人、メイド7人、傭兵3人を斧で撲殺し、友人であった女性を誘拐し、自身の別荘に立てこもっています。

●犯人
エリスと呼ばれる女性。18歳。
グラマーな美女です。
性格は気さくで快活。気性は温厚そのものでしたが、犯行時は本人とはかけ離れていた、狂った性格になってしまいました。
大きな斧を武器とし、狂った事でリミッターが外れているのもあり、そこそこ強いです。

●誘拐された女性
シエル・トレド。18歳。
どこにでもいそうな女性で、背も普通、スタイルも普通、顔も普通です。
性格はちょっと気が強いですが、普通の完成の女性です。

●屋敷に出入りしているチンピラ
8人ほど居ます。手にはロングソードやナイフなどを持っています。
どうも、このチンピラについてもちょっと精神的に不審な点が見受けられるようです。

●獰猛な犬
2匹

  • 狂気という名の……完了
  • GM名ましゅまろさん
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月16日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マグナ=レッドシザーズ(p3p000240)
緋色の鉄槌
恋歌 鼎(p3p000741)
尋常一様
アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)
幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る
アミ―リア(p3p001474)
「冒険者」
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
獄ヶ原 醍醐(p3p004510)
契約済み
ジェーリー・マリーシュ(p3p004737)
くらげの魔女
アイオーラ・イオン・アイオランシェ(p3p004916)
奇跡の一刺

リプレイ

●別荘まで
 エリスの一族の別荘までの道は平坦だった。
 何にも邪魔されることはなく、道中にはモンスターなども居なかった。
(近頃、血なまぐさい事件ばっかで、気に入らねえ)
 『緋色の鉄槌』マグナ=レッドシザーズ(p3p000240)は 鋭利な眼差しを細めながら、今回の事件について考えた。
 何か原因があるはずだったが、その原因がはっきりしない。
 事件の裏に何か背景があるのではないか、そう考えてはいるもの、誰がそんな企みを抱いているのかまでは情報不足すぎて分からないからだ。
 今の自身にできるのは、目の前の敵を潰すことだけ、それだけだった。
「奇妙な事件が続くものだね。まぁ、殺して潰してハイ終わりっていうのも後味が悪いしね。どうにかできればいいのだけれど。命が助かったから安心かはさておきね」
  『尋常一様』恋歌 鼎(p3p000741)は、ため息をつきながら呟いた。
 実際、いくら貴族とはいえ、ここまでの惨事を引き起こして、無罪放免とはならないだろう。
 たとえ生き残っても、その先にある未来は暗いものであると想像に難くない。
「愛とは時に狂気に似ているのかもしれませんね。ただ、その愛をどうするのかは狂気によって為されるべきではないと思いますが……」
 鼎の言葉に反応するかのように、『幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る』アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)が苦く笑う。
 無罪にはならないとはいえ、彼女は出来る限り生きて捕まえることを望んでいた。
「んー、欲しい物は手段を選ばず手に入れるって言うスタイルは嫌いじゃないけどねー」
 『「冒険者」』アミ―リア(p3p001474)は、その言葉に少しだけ意を唱えた。
 勿論、殺人を犯してまで達成するという事に対して賛同しているわけではない。
 ただ、やり方がちょっと悪いのだ。
「難しい問題ですが……。今は果たすべき依頼を果たしましょう。今回、これ以上亡くなってよい方はいないのですから 」
 既に大勢の人が犠牲になってしまっている。
  『希望を片手に』桜咲 珠緒(p3p004426)は、決意を秘めた眼差しで敷地内の鉄製の扉を開ける。
 門番はおらず、外側からでも簡単に外せるような扉だった。
「鍵はかかっていないようだね。もっと警戒しているかと思った」
 『契約済み』獄ヶ原 醍醐(p3p004510)が屋敷を見上げながら、意外そうに眉根を寄せた。
 本来の姿は精悍な男性の姿の筈だが、ウォーカーの不思議な生態(?)によって、今の姿は小柄な少女である。
「確かにもっと警戒しても良さそうだけれど……。でも、殺人を犯している以上、正当な護衛は望めないのかもしれないわね」
 『くらげの魔女』ジェーリー・マリーシュ(p3p004737)が、少しの沈黙のあとそう推測する。
 突発的犯行である可能性も高いので、そんな余裕がないのかも知れなかったが、依頼遂行には都合が良い展開なのだから、喜びこそすれ、残念に思う事も無いだろう。
「考えたって仕方ないわ。行きましょう」
 『揺蕩いの青』アイオーラ・イオン・アイオランシェ(p3p004916)は、そんな面々を前にマイペースに戦陣を切る。
 目的を迅速に果たすため、8人は屋敷の中の探索をはじめた。

●潜入
 屋敷の探索を開始した面々。
 鼎は、ファミリアーを私用しネズミを一匹召還した。
 醍醐が人助けセンサーを使用し、屋敷の中の彼女の意志を探る。
 彼女が少しだけ助けて欲しいと願っていれば、感じることが出来る。
(シエルさん、無事であればいいんだけど)
 そう強く願いながら意識を集中させると、僅かではあるが、女の助けを求める声を感じる。
「……この声が……?」
 会ったことがない為、実際の声など分かりはしないが、この状況で助けを求めるのは一人しか居ない。
「いたんだね。ネズミを向わせる」
 概ねの方向を醍醐から聞いた鼎が、そちらの方向へとネズミを走らせた。
「私も探します。方向が同じなら、広く探索すれば確実でしょう。幸い屋敷の中はそれほど複雑ではないようですし」
 館内には植物がいくつか存在していた。
 自然会話を使用し、エリスたちの居場所を探るように声をかけると、彼らはここを通ったと教えてくれた。
「犬はまだ出てこないね」
 アミーリアが犬を警戒して辺りを見渡すものの、それらしき気配はなく、鳴き声も聞こえない。
「番犬の鼻を誤魔化す手段は、残念ながら用意できませんでしたし、探されていないのであれば、それに超したことないのかもしれません」
 色々と考えたものの、こちらがアドバンテージを持つ襲撃であるならともかく、今回は地の利もすべて敵側にあった。
 正直な話、無力は厳しい話だった。
 珠緒が、苦々しく呟く。
 注意深く辺りを見渡しながら、部屋の中を覗き込むアイリス。
「こちらにはいないようですね」
 中には誰の気配もない事を確認すると、共に探していたアミーリアに首を左右に振ってみせる。
 方向と大体の距離が分かった以上、その範囲内を探すしかない。
 屋敷が広大でないのが幸いだった。
 8人で探索をし、彼女たちの大体の居場所を予測した。

 そして、鼎のファミーリアがついにエリスの居場所を補足したのは、探索をはじめて1時間の後の事だった。

●シエルの想い
「エリス、貴方どうしちゃったの……っ?」
 屋敷の中で一番広く作られている応接間の奥の床に、シエルが怯えの混じった眼差しで友人だったエリスを見上げながら、悲痛な声を上げた。
 こんなとんでもない事をするような友人ではない事を、シエルは良く知っていた。
 愛した男を殺されてなお、それでもエリスに対する友情は潰えていないのだ。
「ふふふ……」
 けれど、エリスはシエルの言葉には応える気がないのか、ただ不気味に遠くを見つめて笑うだけだ。
 手には屋敷から持ちだした巨大な斧が握られている。
 エリスの周囲には、チンピラたちが8人いて、酒を飲んだり、ゲームに興じたりと、こちらはまだ人間らしい性質が残っているようだ。
 だが、エリス含めた全員に共通するのは、その目がどこか濁っており、虚であるという部分だった。
(誰か助けて。私を、エリスを助けて)
 先ほどから出来るのは心で叫ぶことだけだ。
 信心深い訳ではないけれど、神様が居るのならば助けて欲しい、そう強くシエルは願った。
 エリスが濁った目でシエルを見つめて、その首に手をかける。
 女の手で骨は折れないが、窒息死させる事はそれほど難しくない。
 ゆっくりとこめられた力に、シエルは身体を震わせた。

 ーーお願い……っ。誰か!!

 強くシエルは心の中で叫んだ。

●エリス
 ーーきゃいーん!

 犬の鳴き声がけたたましく響いた後、番犬を務めていた1匹の犬が、扉ごと室内に吹き飛ばされた。
 傷だらけになった番犬は、びくびくと身体を震わせた後、そのまま動かなくなる。
「間に合ったっ!」
 強いシエルの叫び声を聞いた醍醐が荒い息で叫ぶように言った。
 続いた面々も室内足を踏み入れ、己の武器を構える。
 眉に深い皺を刻んだエリスが、彼らをその視界に認めて忌々しげにシエルの首から力を抜いた。
「ごめんなさい、通して頂戴ね」
 そう痛ましげにジェーリーが吹き飛ばした番犬に声をかけながら歩を進める。
 意思疎通をかける前に、番犬を倒さなければいけなかったという事実には心を痛めるが、シエルの命には変えられない。
 訓練された番犬である彼らは、主を裏切らない。
 たとえ、彼らが慕うエリスではなくなってしまったとしても。
 各々好きな事に興じていたチンピラたちも、腰の剣に手をかけ、イレギュラーズへと向き直った。
 シエルとの間には距離がある。
 けれど。
「ハーイ、素敵なお嬢さん。お邪魔するわよ」
 物質透過ですり抜けたアイオーラが、エリスの隙をついて、シエルの腕を引っ張り抱き寄せた。
 素早く後ろに庇うようにシエルの身体を動かし、短剣を構える。
 物質透過ですり抜ける事の出来る彼女ではあったが、彼女自身に探知能力があるわけではないし、この館の地図があるわけではないため、さすがに他のメンバーより先に潜入する事は叶わなかった。
 だが、9人+2匹と一人で戦うのは、正直な所厳しいため、それらは幸運な結果となったと言えよう。
「貴様……!」
 シエルを奪われたエリスが憎々しげに、アイオーラを睨んだ。
 手にした斧を振りかぶると同時、控えていたもう1匹の番犬がアイオーラへと同時に襲いかかる。
 その一撃を滑り込んだマグナが受け止め、近術の一撃でエリスを攻撃する。
「やるじゃねえか。なら、次はこっちの番だ。ブッ飛べやぁ!」
 放たれた一撃を斧で受け止めながらも、後ろへと僅かに傾いたエリス。
 鼎の死霊弓が、その隙を狙い襲いかかると、それを避けるためにエリスがシエルたちから距離を取る。
「代わるよ」
「ええ」
 後衛である鼎にシエルの身柄を預けたアイオーラが、襲いかかってきたチンピラの一人を短剣で素早く切り裂いた。
(チンピラはあまり強くないみたいね)
 ジェーリーのマギシュートが一人のチンピラを捉える。
「はぁい、ワン・ツー♪」
 アミーリアが連携するように、近術の一撃を同じチンピラへと繰り出す。
 吹き飛ばされるチンピラの合間を縫い、エリスが斧を振り上げ、アミーリアへと震う。
 器用にいなしながらも、それでもエリスの力押しにアミーリアが後ろへと下がる。
「すごいパワー!」
 明らかに普通の女の攻撃ではない。
(……今は任務を果たすしかない、ですね)
 珠緒は、魔弾を唱え、エリスを狙った。
 色々と思うところはあるものの、一番守らなければいけないのはシエルだった。
「貴女を助けるために……私は戦う! これ以上取り返しがつかなくなる前に」
 そう決意したのは醍醐だ。
 彼(彼女?)は今回のメンバーで、エリスを助けることを一番望んでいた。
 勿論、他のメンバーも不殺を願ってはいたものの、明確に強く声明していたのは醍醐だった。
 チンピラの二人が同時にマグナへと襲いかかる、それをハサミで受け止めつつ、流したマグナだったが、そこに3人目のチンピラの一撃が入った。
 決して重傷ではないが、それでも腕から、つつ、と赤い血が流れ、床へと垂れた。
「治します」
 傷ついたマグナの傷をアイリスがすぐさまSPDで癒やす。
 血はすぐに止まり、マグナは再び敵へと向き直る。
(こいつらも狂ってるみてーだが、知ったことか。こっちだって怒り狂ってんだよ!)
 チンピラたちを見て、やはりな、とマグナは眉を顰めた。
 エリスほどぶっとんではいないが、やはり目が異常なのだ。
「私だって、貴女の気持ちは分かるわよ……。ああ、貴女、恋した人と一つになれない、わね? 女だから、夜毎恋人と肌を合わせているからか、そのせいか……なんとなく、女の勘かしら?貴女の目付きは、どこか昔の私に似ているもの」
 エリスと対峙し、短剣で押収するアイオーラの言葉、それはアイオーラの説得だったのかもしれない。
 けれど、エリスはアイオーラの言葉は端から耳に入っていなかった。
 いや、彼女の言葉だけではない。
 愛しいはずのシエルの言葉さえ、エリスには何一つ届いていなかったのだから。
 説得が不十分なのではないのだ。
 端から説得自体をこのエリスたちは受け入れる、「器」がないのだろう。
 正気ならば心情に訴えかけたり、恐怖を与えればある程度は効果がある。
 だが、この狂った彼女たちは、それらを受け付けるようには出来ていない。
「狂気を理解することはもとより、女性同士の人間関係に絡みそうな動機も
桜咲には推し量るべくもない領域ではありますが、傷つき、血を流すのは 痛い。そのくらいは、わかるのです。傷を負った事実は体だけでなく、心も痛ませます。この痛みは、ご自身だけでなく、周囲の方にも伝わります」
 だから、真摯な珠緒の言葉にも、エリスは応えない。
 その眼差しには狂おしいまでの憎悪しか、もはや灯っていない。
 チンピラたちも、最低限の理性はあるようには見えるのだが、彼らもまた正常な思考回路ではないのだろう。
 脅したり、心情に訴えかけても、その攻撃を止める事は無かった。
 一人、また一人とその命の灯火が消え、亡骸が床に横たわる。
 そして、最後に残ったのは満身創痍のエリス一人だった。
 8人の攻撃を徐々にエリスの体力を奪い、傷を与えていた。
 だが、エリスには焦りも哀しみも見受けられない。
 本能のまま、斧を振り上げて、突進した。
 視線の先にシエルだけを見つめて。
(エリスさんはどうしても殺したくない。本当にこんなことをする人ではないのであれば……。生きてほしい……!)
 そう強く願った醍醐だったが、エリスの執念は凄まじく。
 もはや立っているのもやっとの筈なのに、エリスの歩みは止まらない。
 醍醐のマギシュートが、出来る限り彼女を殺めないように足を狙う。
 普通の状態の人間なら痛みに足を止めるだろう。
 だが、どんなに血まみれになろうと、エリスは斧を振るい続ける。
(ああ、貴女は止まらないのですね)
 珠緒が哀しげに視線をエリスへとやった。
 味方の回復をメインにしていた珠緒だったが、彼女もまたマギシュートをエリスへと放った。
 エリスを助けたいというイレギュラーズの心は尊い。
 けれど、8人とシエルはもう何となく気付いていた。
 全員の説得にも耳を貸さない、いや貸すことの出来る理性など残っていないエリスは、もうその命の火が消えないと止まれないのだと。
 斧の一撃を、アミーリアが側面を叩き軌道を逸らしたの同時、珠緒のマギ  シュートがエリスの腹部へと直撃し、エリスは口から血を吐いた。
 戦いを固唾を飲んで見守っていたシエルが、苦しげに言葉を紡ぐ。

――終わらせてあげてください

 その言葉に、イレギュラーズたちは決意を決めた。
 急所をあえて外していた各々の攻撃は、エリスを殺すためにその威力を最大限に発揮する。
 鼎の死霊術が、斧へと放たれ、斧が地面と堅い音をたてて落ちる。
 禄に役に立たなくなった右腕で斧を拾おうとするエリスを阻むため、アイリスがSPOを投げる。
 毒の薬を受けたエリスが怯んだ隙に、アミーリアが接近し、その身体を吹き飛ばす。
 それでもなお、シエルに手を伸ばすエリスに、珠緒、醍醐、ジェーリーのマギシュートが襲いかかる。
 それもなお斧を執念で拾ったエリスだったが、アイオーラの一刀両断で、その腕ごと切り落とされる。
 ぐらりと僅かに傾いたエリスの身体を、右手に込めたマグナの魔力が腹部を貫いたのを最後に、エリスは地面へとその身体をゆっくりと沈めた。
「悪ぃ」
 マグナが苦しげに小さく呟いた。

●終焉
 エリスを囲むように、8人とシエルが立ちすくむ。
 もはやエリスは何も言わない。
 浅い呼吸を繰り返し、ただ天井を見つめるのみだ。
 瞳からゆっくりと光が消えていく。
「ああ、エリス……!」
 その手を、シエルが堅く握りしめた。
 彼女の心が救われたのかどうかは分からない。
 けれど、エリスがシエルに抱いていたのは間違いなく愛情だった。
 アイリスがシエルを気遣うように、そっと肩を抱いた。
「シエルさん……」
 珠緒は、そっと祈りを捧げる。
(エリスさんの魂がどうか安らかでありますように)

 10分ほどそうしていだろう。
 エリスの手から力が完全に抜けのを感じたシエルは、その場で慟哭した。


●疑問
 こうして、シエルは無事に救出された。
 エリスの捕縛こそ叶わなかったが、シエルが無事であったという事に依頼人は心底ほっとした様だった。
 シエルの希望で、エリスを含めた8人と番犬2匹の亡骸は丁重に葬られた。
 8人の救出メンバーに深く頭を垂れたシエルは、哀しげな顔で微笑んでいた。
「憶えてるなら、こうなる前に何か変わったことは無かったか聞きたかったのだけれど……」
 別れ際、鼎がシエルに尋ねた。
 本当は無事に捕縛したエリスに聞くつもりだったのだが、既に彼女は物言わぬ存在だ。
 身近にいたシエルであれば、何か知っているのではないかと淡い期待からの質問だった。
 シエルはゆっくりと首を左右に振る。
「サーカス、とか見にいったりした?」
  醍醐が、サーカスの関係ではないかと質問したが、シエルは不思議そうに首を
傾げた。
「サーカス、ですか。確かに今人気絶頂ですが、私もエリスも興味はなかったですし、見に行ったことはないと思います。ただ、そういえばこの間エリスのお兄様が見に行ったと言っていましたけれど……。ごめんなさい、本当に心当たりはないの」
(狂気は……とても脅威的な力になるわね。……私、とても悲しいわ。だって誰かを愛する気持ちで、誰かを傷つけるような事をするなんて。もしかしたら誰かがそうさせようとしてるだなんて……)
 ジェーリーはエリスを思いだし、心の中でそう呟いた。
 愛情がこんな悲惨な出来事を生み出すのは哀しすぎる。
 今回は悲しくも救えなかったが、もし同じ様な事件があったのなら、その時こそは。
(今はただ、エリスさんが静かに眠れる様に)


 帰路についた8人はシエルの言葉と、各々の考えに頭を悩ませるのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。(`・ω・´)
依頼は無事に成功となり、簡易な情報が示唆されました。

サーカスの謎が判明する事を祈っています。

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