シナリオ詳細
ふわふわ雨音パジャマパーティー
オープニング
●雨降り窓とカプチーノ
異世界にも梅雨はやって来る。Cafe&Bar『Intersection』がある世界も例外ではなく、店主の神郷 蒼矢(しんごう あおや)が店の窓から外を覗くと絶え間なく雨が降っていた。
「うーん、なかなか止みそうにないなぁ……」
こうも連日雨模様が続くと晴れの青空が恋しくなる。思わずはぁと溜息をつくと、お客さんと溜息が重なった。思わず互いに顔を見合わせる。
「ごめん、店員がこんな暗かったら、美味しくなくなっちゃうよね」
「いえっ! 全然気にしてません。私の溜息はまた別で……」
女性客は愛想よく笑ってくれたが、その顔には疲労の様子が見て取れた。おまけに目元にクッキリと分かるほど濃いクマが出来ている。
「何かあったの? もしよかったら僕に聞かせてくれないかな。悩みって、吐き出すだけでも楽になるものだし」
「お気遣いありがとうございます。でも……本当にくだらない話ですよ?」
「君が悩んでる時点でくだらなくはないよ。物事の重要さなんて人それぞれだもん」
そういう細かな"差"が色んなトラブルに発展する事を蒼矢は知っている。それは店主としての経験則ではなく、境界案内人として色々な世界を見てきた事によるものだ。
「ありがとうございます。実は……」
そこまで言うならと、彼女は口を開き、ぽつりぽつりと話しはじめた。
悩みを聞く蒼矢の目はどこまでも真剣で、カプチーノの泡のようにふわふわとした彼の優しさが、女性客の心をほぐす。
「ーーなるほどね」
ひとしきり話を聞いた蒼矢は、最後にニッコリと微笑んだ。
「そういう事なら、力になってあげられそうだ。とっても頼りになる仲間がいるから」
●雨音の中のパジャマパーティー
「待ってたよ、特異運命座標。今回の依頼は……これっ!」
所変わって境界図書館。集まったローレット・イレギュラーズの前に蒼矢が取り出したのはーー寝心地よさそうなフカフカの枕だった。
「僕が異世界で切り盛りしてるカフェに、困ってるお客さんがいてさ。
彼女、最近ひとり暮らしを始めたんだけど寂しくって、いつも寝付けないみたいで……。
だから皆でパジャマパーティーして、ぐっすり眠ってもらおうと思うんだ!」
幸い、カフェの二階はお店の業務用スペースとして借りており、空間をちょっとした小技で歪めて6人寝ても大丈夫な広さの部屋を確保出来るそうだ。
「えっ。なんで6人って言ったのかって?」
特異運命座標が4人とお客さんが1人。後は勿論ーー。
「僕も参加するに決まってるじゃないか!」
- ふわふわ雨音パジャマパーティー完了
- NM名芳董
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年06月22日 22時10分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●
天窓をぱらぱらと雨粒が打つ。
だだっ広い殺風景な部屋に抱えてきたマットレスを降ろし、ふぅと『小さな決意』マギー・クレスト(p3p008373)は息をついた。
「ジェラルドさん、ここに敷いていいですか?」
「いいと思うぞ。上にはニャムリが持ってきた布団……は、どうなってんのよソレ!?」
脚立に登り、天井の照明へ布をかけていた『戦場の医師』ジェラルド・ジェンキンス・ネフェルタ(p3p007230)が思わずぎょっと目を見張る。
無理もない。目の前をふよふよと敷布団が空を泳ぐシュールな光景に誰がツッコまずにいられよう。敷布団を追いかけるようにワンテンポ遅れて掛け布団が視界を横切る。
「空飛ぶ敷布団と……天翔る掛け布団…だよ?」
「名は体を表すといいますし、それなら飛ぶ事も……」
"宙に漂う枕"をお腹に抱えてふよふよ浮く『いつもすやすや』ニャムリ(p3p008365)は、まるでそれが普通と言わんばかりの様子だ。つられて『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)も納得しつつ、自前の掛け布団をマットレスの上に敷いていく。
「そういえば、ジェラルドさんは、先ほどから何を……?」
「照明器具に布を掛けてるんだ。少し明度を下げて部屋全体を暖色にたら、落ち着ける空間になると思ってな」
睡眠は人生の大部分を占めるから、快適に眠ることは重要だ。パジャマパーティーという乙女達のイベントに男一人で乗り込んだのは、医者としての立場と面倒見のよさが故だが。
「そういえば、神郷は女子の中に1人混じるつもりだったのか? 意外とむっつりだな?」
白羽の矢が向いた蒼矢はというと、まだ布団を敷いていないマットレスの上で早くもごろ寝を決め込んでいる。
「えっ。パジャマパーティーって男はしないの!?」
「ジェラルドさんが指摘してるのは、また別の問題だと思うのですが」
マギーが助言を与えても、ピンと来ていない蒼矢。その隣でニャムリが思い出したかのようにぽつりと零す。
「蒼矢はぼくとも、寝た事あるけど……激しかったねぇ」
((何が!?))
「あ、あのぅ……」
何人かの心の声が同時に重なると同時、おずおずと部屋の入口の方からフワフワ尻尾の女の子が声をかけてくる。依頼人のリズが来たようだ。
「いらっしゃい……お夕飯は、済ませてきました、か?」
フェリシアの優しい声にも一瞬だけピクッと耳を立てる。よほど怖がりな性格のようだ。それでも女子の多さとお部屋の柔らかい雰囲気に安心したようで、ゆっくりと部屋に入って来た。
「はい。お風呂にも入ってきました。……あ、この子」
ふとリズが視線を向けた先に愛らしい長い耳が揺れる。気づいたマギーがその子を抱えて彼女の元へ近寄った。
「小さい頃から一緒に寝ているウサギさんのぬいぐるみです。
名前はヴァイオレット。ボクはヴィーって呼んでいます。
その、お恥ずかしながら……この子がいないと、ボクもあんまり眠れないので」
「わ、私も……」
お泊り用のボストンバッグからリズが取り出したのは、こげ茶色の子熊のぬいぐるみ。
「ニーナです。宜しくね」
「宜しくニーナ。ボクはヴィー」
人形ごしに挨拶してみれば、自然とお互い頬が緩む。
「今夜はその、宜しくお願いしますっ」
●
「きゃー! なんて可愛いのかしら!」
パジャマに着替えたジェラルドが女子陣と合流すると、思わず黄色い声をあげる。
乙女の寝間着は夢と可愛いがたっぷり詰まっているのだ。褒められて照れながら、ブランケットや枕を抱えるリズとニャムリ。
「君のパジャマ姿も……ふわぁ。…素敵だよ…?」
「ニャムリさん、立ったまま寝てません?」
うつらうつら頭が揺れるニャムリを、リズがあわあわしながら支える。
「もう立派な眠りの空間だから……このお部屋…」
耳を澄ましてみれば、ほら。
きらきら輝く星の音に、小鳥の囀り。風のざわめき。
自然を切り取ってきたような音と共にオルゴール優しいメロディが流れ、ささくれたリズの心をまぁるくしていく。
「何だか、聴いてるだけで心が洗われますね……」
「気に入ってもらえたなら、よかった……です」
音楽を用意したのはフェリシアだ。ふ、と優しく微笑みながら柔らかな彼女の手を引いていき、ふかふかのクッションを敷き詰めた特等席にまふっと座らせる。
手元にも花柄の可愛いクッションを渡してあげれば、リズはぎゅっと抱きしめた後、ほんわり頬を緩ませた。
「はい、とっても気に入りました。それにこのクッションも……気持ちいいなぁ」
「今夜はたくさん、おしゃべりしましょう」
リズの横に腰かけながら、フェリシアは穏やかに話を続ける。
「最近あった嬉しいこと、美味しいごはんのお話も……不安な事だけでなく、楽しかったことも思い出してお話すれば、きっと怖い気持ちも……どこかに行ってくれる、はず……です」
部屋に入って来た時の彼女は怯えが見えた。少しでも癒してあげたいとう彼女の気持ちに口元が緩むリズ。
「フェリシアさん……ありがとう」
私……と切り出しかけて、ふと鼻孔を擽る不思議な香りに意識が逸れる。
「不思議。甘い匂いなのに、ちょっぴり苦いような……」
「よく特徴に気づいたな」
香りの主はジェラルドだった。開栓した小瓶から液体をとろりとコットンに垂らすと、リズの方へ持って来る。
「ネロリはビターオレンジの花から取れる精油なんだ。柑橘系の爽やかさとフローラルさ。そしてビターと名につく通りほんのりとした苦みが気持ちいいだろう?」
「はい。ずっと嗅いでいたくなりますね」
もう一つあるぞ、とジェラルドは新たな瓶を取り出す。蓋を開けた瞬間、今度は何処かで嗅いだ事のあるような馴染み深い香りが部屋を満たした。
「あれ? 何だろう、この匂い……」
「こっちはラベンダーの精油だ。誰でも一度は嗅いだ事のある香りかもしれないな。しっかりとしたフローラルな香りが特徴だ。名前の由来が『洗う』という言葉だという通り、疲れた心を洗うように癒す力を持っている」
どっちがいい? とラベンダーもコットンにしみ込ませ、リズや仲間に聞いてみる。
これもいい、あれもいいと共通の話題で楽しく盛り上がる様は、しっかりパジャマパーティーの女子会のノリだ。
「それじゃあ、ネロリの香りにしようか」
じゃれあいの末に決まった香りのコットンをアロマポットに落とし、ロウソクに火をつける。
部屋じゅうを満たすいい香りに、リズもすっかりご機嫌だ。
「ほのかに香る程度を鼻ですって、鼻で吐く様にするんだ。折角いい音楽も流れてるし、ストレッチしながら"あれ"を待とうか」
下半身を中心に、血の巡りが良くなるように身体をゆっくり解していく。
「皆さん、お待たせしました」
丁度ひと段落着く頃だった。下の階からお盆を持ったマギーと蒼矢がやって来る。持って来たのはほこほこと湯気を立てる、美味しそうなハーブティーだ。
「屋敷では、ボクが眠れないときに、ばあやがハーブティー入れてくれて……。
その夜は朝までぐっすりと眠れたんですよね。
なので、神郷さんにリラックスできるハーブティーをお願いしたんです」
遡る事、数十分前。
「いいよ。カモミールにリンデン、蜂蜜を混ぜて……」
頼まれた蒼矢は、あっという間に不眠解消のハーブティーを用意した。手際の良さは流石カフェのマスターといったところだ。
「淹れてもらっていいですか? ボクが淹れるよりきっと美味しいと思うので……」
「マギー、それなら僕が教えるから、一緒に淹れてみようよ」
ハーブティーを美味しく淹れるのに必要なのは、飲む人への気持ち。
心を込めてポットやカップを温めて、お湯で蒸らしたその後は、飲みやすいようにとろりと蜂蜜で気遣いを。
「頑張って淹れてみました。もっと小さい頃は甘くしたホットミルクでしたけど。ボクはおねえさんになったのでハーブティーなのです!
……リズさんは、どっちがお好きですか?」
「ミルクも好きだけど……マギーさんが淹れてくれたハーブティー、飲んでみたいです」
いい香りと独特の味のハーブティーは、少し癖があって大人の味だ。運動した後の身体に染み渡り、リズをほっこりと息をつく。
「今日は本当に来てよかったです。皆さん凄く優しくて……」
皆の持て成しで、リズは心をすっかり開いていた。楽しいお喋りの最中、緩やかにBGMが消えていく。
「あ、音楽が……」
「——♪」
心を外側から包み込むような優しい歌声。フェリシアが紡ぐ子守唄は、聴く人を眠りの世界に誘い始める。
「リズさん」
ウトウトし始めた彼女の元へ寄り、くるんと丸くなるニャムリ。
「枕みたいに、ぼくに頭を乗せて眠っていいよ」
「いいんですか?」
最初は提案に驚いたものの、ニャムリのふわふわな身体はパジャマ越しでも触り心地が良さそうだ。誘惑に負けて、頭をそっと乗せてみる。
(……なんだか…落ち着く…)
それはまるで、お母さんのお腹の中のよう。トクン、トクン……と間近に聞こえる心臓の音と、人肌の温もりがリズの心を落ち着かせていく。
「リズさん、よく、眠れそうですか……?」
彼女より先に寝る訳にいくまい。眠気なまこでマギーがそっと声をかけると、ニャムリが人差し指を立てる。しーっとジェスチャーして彼女を示すと……すやすや、心地よさそうな寝息が返事とばかりに返ってきた。
夢のため、故郷から離れたこの街へ独りでやって来たリズ。
臆病な性格で、話せる相手はニーナだけ。彼女の心を救ったのはーー特異運命座標。
降り続く雨の合間にかかった虹のように、突如現れた素敵な"奇跡"。
●
「"激しい"って、そういう事かよ……」
真夜中に目を覚ましたジェラルドが隣を見ると、蒼矢が芸術的な寝相でジェラルドの頬を蹴った直後だった。やれやれだと身を起こし。皆の寝顔をそっと見下ろす。
「——まぁ、依頼は成功したし……今回は大目に見てやるか」
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
雨の日でも楽しめる事を、という訳でパジャマパーティーはじめます!
●目的
カフェの女性客(リズ)に安眠してもらう
パジャマパーティーを楽しむ!
●登場人物
『カフェのお客様』リズ
ふわふわな尻尾を持つリスのブルーブラッドの小柄な女の子。年齢18才くらい。
臆病な性格で、一人暮らしをはじめたら眠れなくなってしまった寂しんぼ。
寝不足で目元にくっきりクマが出来ており、ちょっとやつれ気味です。
『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)
いつも気だるげで猫のように気まぐれな男。仕事はしたくないが、困っている人がいれば一歩を踏み出すための力になりたいと思っている境界案内人。
異世界でカフェ店主をしており、しばしばその世界で起こった事件を依頼として持ってきている。
●場所
異世界にあるCafe&Bar『Intersection』の上の階、スタッフ用の部屋。
広々としたフローリングの部屋で、大きな天窓から雨が降る様子を見上げる事ができます。
●その他
・部屋はただの空き屋のような状態なので、布団をしくか、ベッドを運び入れるか……など寝床の相談はしておいた方がいいかもしれません。
・必要な小道具があれば、蒼矢に用意させることもできます。勿論直接持ち込んでもオッケーです。
説明は以上となります。それでは、よい旅路を!
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