PandoraPartyProject

シナリオ詳細

4人の王子と嘆きの花嫁

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●シンデレラの魔法が解ける時
 あぁ、まるで夢のよう! 王子様と2人、こっそり舞踏会を抜け出すなんて……!
「ミス・グレース。足元に気を付けてくださいね」
「ありがとう御座います、フィーエ様」
 魔法の国の4人の王子。その中でも末のフィーエ様は噂通りに思慮深くお優しい殿方で。
 月明りに照らし出された横顔は、溜息が出るほどに美しくーー童話の王子様が目の前へ現れたかのよう。
 ときめきで火照る手をフィーエ様に握られて、覗き込まれてしまったら……心臓が止まってしまいそうッ!
「ミス・グレース。僕は貴方に伝えなければならない事があります」
「フィーエ様……?」
 迫る唇にそっと瞼を閉じる。私の深紅の唇にあのお方の柔らかな唇がーー重なる事はなく。

 じゃくり。

「……え?」
「ごめんなさい、そして……さようなら」

 グレースの身体が崩れ落ちる。地へと倒れ込む前にフィーエはその身体を抱き留め、彼女の鎖骨に出来た2つの牙の痕を指先でなぞった。
 みずみずしい柔らかさを持っていた彼女の身は砂漠のように干上がり、王子の腕の中でこと切れているのが見てとれる。

「僕達はヴァンパイア、貴方がたは人間。主と家畜……食う者と食われる者。その運命に抗う事は出来ないのです」
 そうーー奇跡でも起こらない限りはね。

 城の方から12時の鐘が響く。急がなければ。もうすぐ舞踏会を終えた花嫁候補が帰路につきはじめる頃なのだから。
 フィーエは蝙蝠のような大翼を広げ、庭園から飛び去った。

ーー彼女の足からガラスの靴が、片方だけ脱げてしまったと気付かずに。

●物の記憶を知る男
「"繋がった"……」
 久しぶりの感覚に『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)は眉をひそめた。
 彼は時折、異世界の"物"の記憶を見る事がある。そしてそれは、必ず何かしらの助けが必要な記憶だった。
 怠惰な男にとって迷惑きわまりない力ではあるものの、困っている誰かをそのままにしておくのはどうもむず痒い。
 そういった意味で、彼は潔癖症なのである。

「特異運命座標、突然だけど……君達、ウエディングドレスを着た事はある?」
 その日集まった4人に向けて、蒼矢はそう切り出した。その場にたとえ男がいようと性別なしがいようと関係ないといった風に彼は語る。

「とある魔法の国の小さなお城に、4人の王子が住んでいてね。彼らは夜ごとに花嫁を選ぶ舞踏会を開催しているんだ。
 ドレスコードはもちろん、ウエディングドレスを着用する事。そこまで聞くだけだと、まさにライブノベルらしい御伽噺なんだけどね」

 そこで蒼矢の声のトーンが落ちた。いつもの明るげな笑顔から、少し悲しそうな笑みへと変わる。

「花嫁選びなんて真っ赤な嘘。王子4人の正体はヴァンパイアで、彼らに見初められた人は皆、血を吸われ尽くしてしまうんだ。
 僕に依頼してきた"クライアント"は、一般人に被害が出ない状態での終息を望んでいる」

 要は舞踏会のど真ん中で暴れるのはご法度という事だ。おまけに城の警備は固く、潜り抜けるには花嫁候補として潜入する他ない。
 己の魅力の限りを尽くし、王子に選ばれて誘いだされる事が重要となる。
「僕も4人の従者として、こっそりサポートするよ。一緒にこの悲劇を終わらせよう!」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 6月といえばジューンブライド。ウエディングドレスを纏っても、特異運命座標は戦う運命なのです。

●目的
 ヴァンパイア×4の討伐

●場所
 異世界『グラン=ヴァンペール』
  混沌の幻想によく似た景観の平凡な世界。吸血鬼や狼男、おとぎ話の怪物が人間に混じって密かに暮らしています。
  今回の舞台はその中にある魔法の国のロート城と呼ばれる立派なお城。華やかな舞踏会の会場はもちろん、眼下には美しい薔薇の庭園があります。オープニング内に描写されていない部屋や場所でも、お城にありそうな場所であれば採用されます。

●エネミー
 4人兄弟のヴァンパイア。いずれも王子としてこの城に住んでいます。王妃や国王の姿はありませんが、国の人々はその事に疑問をもっていないようです。
 彼らはいずれもアンデッド型。至近の相手への噛みつきによるドレインや引っかき、蝙蝠を使った中・遠距離攻撃を持っているそうです。
 長い間、襲われる事もなく好き勝手美女を貪っていたため、彼らは戦い方を忘れており、ヴァンパイアの最大の利点である不死性を失った事に気づいていません。

 その他の情報として、4人ともイケメンである事が報告されています。

 長男:アイン
  深紅のダブレット(王子服)を纏った王子。オレ様系男子です。
 次男:ツヴァイ
  深蒼のダブレット(王子服)を纏った王子。面倒見のいいお兄さんです。
 三男:ドライ
  漆黒のダブレット(王子服)を纏った王子。敬語ドS男子です。
 四男:フィーエ
  純白のダブレット(王子服)を纏った王子。オープニングで描かれた通り、優しい裏に冷淡さを秘めた男性です。

●その他
・己の魅力の限りを尽くし、王子に選ばれる事が重要なシナリオです。どんなウエディングドレスを纏うか、どのような誘惑をするかが肝となります。
・王子達は気に入った相手と2人きりになろうとしますが、花嫁達に誘われる場所があれば、その場所へ向かうようです。偶然を装って鉢合わせさせれば、仲間と共闘して倒す事も可能です。
・『境界案内人』神郷 蒼矢も従者として潜入します。声をかけられればサポートをしてくれるようです。

 詳細説明は以上となります。それでは、よい旅路を!

  • 4人の王子と嘆きの花嫁完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月15日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
Luxuria ちゃん(p3p006468)
おっぱいは凶器
かんな(p3p007880)
ホワイトリリィ
糸杉・秋葉(p3p008533)
黄泉醜女

リプレイ

●乙女心は揺らがない
 明るいシャンデリアの光に照らされた幅の広い階段。その両側には王子の個性を現すような4色の薔薇が並べられ、今宵の舞台を彩る淑女へと華を添える。
 休みなく紡がれる奏楽隊のメロディーも飽きたとばかりに、壁際で腕を組む『黄泉醜女』糸杉・秋葉(p3p008533)。
「……ふぅん、イケメン吸血鬼に誑かされて命果てるなんて…ね」
「秋葉君、興味なさそうなのが顔に出ちゃってるよ♡」
 持前の愛嬌を振りまきながら『己喰い』Luxuria ちゃん(p3p006468)が秋葉の顔を覗き込む。
「私としては共感できないシチュだから同情できないわ。まあ…その無念を晴らす事には協力出来るけど」
「いい事じゃない。向こうのハニートラップは効かないって事でしょう。2人はどう?」
 水を向けられた『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は頬を赤らめる。
「わたしには、恋する方が、もう、いますから……」
 お節介な友達に"本番の練習だよ"と促されて来たものの、良かったのだろうかと気後れ気味だ。彼女の気持ちを察したか、『実験台ならまかせて』かんな(p3p007880)が優しく肩に手を置く。
「私も、心に決めた人が居るから」
 かんなもノリアも真実の愛を知っている。だから此処に立っている。
 花嫁候補の淑女達と談笑している4人の王子——彼らの罪を問わなければ。
「目標は各個撃破ね。運が良ければ会いましょう」

●王子様は悪夢のように
「その時、俺は刃を振り下ろしてこう叫んだ。"悪しき竜め、お前も命も今日限りだ!"ってな」
 きゃー! と黄色い声があがる。取り巻きの花嫁達に自身の英雄譚を語っているのは長男アイン。王家のプライドを体現したような自信と美貌に周とりまきの女性は骨抜きだ。
(フッ……誰もが俺に夢中だ。この女を除いたらの話だが)
「まあ、アイン様は本当に男らしいのね」
 アインの深紅を引き立たせる青緑のウェディングドレスを纏いながらも、他の女のように露骨に媚びる風もない。名前は確かーー秋葉とか言ったか。
「ハッ、よく言うぜ。腹の内ではどう思ってるんだか」
「ふふ……私がどう思ってるか…知りたい?」
 読めない本心。ミステリアスに笑うこの女は、一体なにを考えている?
ーー面白れぇ。
「ついて来い」
 取り巻き達が名残惜し気に求める声も知らぬふりで、アインは強引に秋葉の腕を掴み、そのまま何処かへ連れて行こうと歩き出す。

「たっ、大変ですの! 秋葉さんが独りで連れて行かれてしまったんですの……!」
 不死を忘れたと聞いてはいるが、敵は恐ろしいヴァンパイア。個人戦でどうにかなるとは限らない。遠くから柱に隠れてチラチラと観察していたノリアがはわわと慌てた様子でついて行こうとすると、立ちはだかるように漆黒のマントが視界を塞ぐ。
「何処へ向かわれるのですか?」
「ドライ様……その…人の波に酔って、休憩しようと思った所ですの」
「ははっ、面白い冗談だ。貴方ここに来てからずっと、どの王子も避けていたでしょう?」
 揶揄うような声音に戸惑うノリア。
(どうしても心の奥にチラつきますの。大切な人の優しい笑顔が……)
「わたしなんかでは貴方には相応しくありませんの」
「それを決めるのはお前ではなく、この私だ」
「いいえ。私には、愛しい人が……」
 拒む彼女の顎を、グイとドライが強引に掴む。
「二度同じ事を言わせるな」
ーー調教が必要だ。
 耳元で囁かれた不穏な言葉に、ノリアの潤んだ瞳は見開かれた。

(アインもドライも、客人を置いてどこへ行ったんだ? あれほど"食事"のタイミングは被らないように気を付けろとーー)
「ツヴァイ様」
 声をかけられツヴァイが意識を戻すと、烏の濡羽のように深い黒のウエディングドレスを纏う美女が目の前に立っていた。
「あの……私、ドレスがどうしてもこれしかなくて、誰も相手をしてくださらなくて。貴方様も……こんな場に真っ黒なドレスを着るような女では、ダメでしょうか?」
「駄目だなんてとんでもない。よく似合っていますよレディ。それに黒のウエディングドレスは、"貴方以外の色に染まりません"という素敵な誓いもあると聞きます」
 穏やかなる深蒼は叡智の証。爽やかな笑顔で切り返すツヴァイへLuxuriaは花のような微笑みを向ける。
「お優しいのですね、ツヴァイ様」
「真実ですよ。良ければもっと近くで見せて戴けませんか?」
 手を引かれた瞬間、大きく身をぐらつかせるLuxuria。その身体をすかさずツヴァイが抱きしめる。
「あぁっ申し訳ございません! その、どうにもなれないヒールなもので……」
「失礼、レディ」
「つ、ツヴァイ様っ!?」
 ふわりと身体が浮いた。足を痛めたと思われたらしい。お姫様抱っこされたまま、Luxuriaはツヴァイと人混みへ消えるーー。

「どうぞ素敵な夜を」
 押しの強い女性と距離を置いた後、フィーエは独り溜息をついた。兄達の考えた食事の罠は効果的である反面、どうも気疲れしてしまう。今宵は独りでもいいか等と考えている時に、ふと彼の目に留まったのは、ゴシック風のドレスを纏う人形のような美少女だった。
 彼女は踊るでもなく、食事を楽しむでもなく。たった一人で壁際の花に徹している。
「君、あまり楽しんでいないようだね」
 声をかけられると、かんなは一度フィーエを見た後、すぐに目を逸らす。
「舞踏会のマナーなんて知らないし、色々と心苦しいのよね」
「もしかして、ご家庭の事情で無理な参加を?」
「そう。私、心に決めた人が居るから、声を掛けて貰ってもご一緒はできないの。ごめんなさい」
 妃という地位に目が眩むのは娘達だけではない。親族や奴隷主人。様々な思惑が彼女達をこの場所へと追い込むのだ。
「実の所、私も兄達の顔を立てて出席しているだけで疲れていた所なのです」
 ですから一緒に抜け出しませんか?
 誘いと共に差し伸べられた手を、かんなは目を伏せたまま静かにとった。

●剥がれる仮面
「これは……いったいどういう事だ!?」
 城の屋上、王子だけが知る魅惑の空中庭園は荒れ放題に花が散り、風に浚われた花びらがツヴァイの頬を掠めていく。
「遅かったじゃねーか、愚弟よぉ」
 手負いでありながら火傷を庇いもせず、剣を構えたアインが笑う。追い詰められていながらも、その表情は楽し気だ。
「ふふ、私本当は貴方の事タイプじゃないよね……関係を持つだけなら結構いい線言ってるけど…ごめんなさいね」
 秋葉の右手に豪炎が集約し、振り下ろされた剣を受け止めると共に爆散する。彼女の周りには今まで喰らった花嫁達。結ばれる事のなかった、理不尽に刈り取られた乙女の悲鳴が怨嗟を込めて木霊する。それさえもアインの目には添え花としか映らない。
 おぞましい光景を背負い立ち、黒から白へ染まりきった髪の美しき巫女。その姿が最期まで瞳に焼きついて。
「くそ、いい女だ」
 こんな女に殺されるならーー悪くない。

「困りますね。最後まで身勝手な兄を持つとッ!」
 ドライの爪が鋭く伸びる。恐怖を刻み込もうと振り下ろしたそれは、ノリアに届くよりも前に流水によって押し流された。
「兄上……逃げ…」
 水溜りの出来た庭園に佇むノリア。プリンセスラインの綺麗なウエディングドレスが濡れて、きらきらと星空の光を反射する。
「恐ろしい人でしたけど……兄弟思いでは、あったんですのね」
「貴方はどうなの? ツヴァイ様」
 喉元へ触れる指先は冷たさと仄暗い気配をもって伸ばされる。
"星が見たいな♡"
 可憐な花のように微笑んで、ささやかな願いを告げたLuxuriaはとても愛らしくて、"美味しそう"で。なのに今はーーぞく、とかけられた声に背中が泡立つほどの恐怖をツヴァイに刻む。
「Luxuria、君も……ッ!」
 抱いていた手を離すツヴァイ。その瞬間にヒュッ! と空気を裂くように鞭がしなり、放たれたソニックエッジが彼の身体を弛緩させ、屋上の外へと吹き飛ばした!
「あらぁ、しぶといのね王子様」
 屋上の手すりにかけられた片手を踏みつけ、ぐりぐりと踏みにじりながら彼女は嗤う。
「靴擦れを……起こしたのでは、っ……!」
「ヒール? 普通に穿きこなせるわよ♡
 それにしても……これじゃドレスの内側が見えちゃうわね」
 吸血鬼でありながら、王子達はその座に胡坐をかきすぎた。飛ぶ事すら忘れた彼に最早再起の術はなく。
「ーーま、それくらいは最期なんだから見せてあげる♡」
 ガツッ! と最期にヒールで手を蹴りつけてーー下から聞こえた潰れる音に、Luxuriaは花のように微笑む。
「大勝利♡」

「私も似たような存在なの」
 かんながフィーエに連れ出された場所は、皮肉にもグレースの命が潰えた庭園だった。雨風に打たれて煤けたガラスの靴を拾い上げ、軽く撫でてやるかんな。
「だから、貴方達の重ねた業に思う所はあっても……口を出すつもりは無かったわ。
 でも、考えたの。もし、あの子がここにたどり着いていたら──なんて。ぞっとしない話よね」
 不穏な空気にフィーエがスラリと刃を抜く。それをかんなは冷たく見据えてーー手元からガラスの靴が消えたかと思えば、一瞬にして握られる槍。
「なんの事か分からないと思うけれど……私にとっては、とても重要な事なのよ」
 あの無垢なる白い笑顔が血に染まる。それはあってはならない事……だから。
 振り下ろされた剣がドレスの裾を破いても、かんなは恐れず立ち向かう。
「大丈夫よ”王子様”。これなら私も――踊れるわ」

 ノリア達がかんなの元に駆けつけると、そこにはドレスを血に染めた彼女がぽつんと立っていた。4人が立ち去り、残されるのはガラスの靴。
「さようなら。楽しい舞踏会だったわ」

 こうして花嫁の悪夢は泡沫となって朝日に溶け、不思議な昔話だけがその領地で語り継がれるようになったという。
 4人の王子と嘆きの花嫁。美しくも哀しい物語――。

成否

成功

状態異常

なし

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