シナリオ詳細
灰色融解ワンルーム
オープニング
●見慣れない天井は何時しか見慣れた天井に変わっていた。
ピッ。ピッ。ピッ。
心音と同じか、僅かに遅れて。電子音が乾いたワンルームに響く。
白い部屋。飾られた花だけが色彩を放っているようにすら感じられる。
部屋の中央――ベットの上、眠る少女はやけに細くて。柔らかに降り注ぐ日光に身を捩り――目を開いた。
「……」
声にもならない細く短い息を吐いて、少女は細く白い腕をのばした。空は青い。雲ひとつ無く、ただ、青が広がる。広大なキャンバスに青の絵の具を塗りつぶしたようだ。
ガラガラガラ、と。横開きの扉が開かれる。
「まあ、幸宮さん。三日ぶりのお目覚めですね。まずはお水を飲みましょうか」
「……は、ぃ」
やけに喉が渇いていると思ったら、もうそんなに眠っていたのか。少女は支えられながら起き上がり、淡々と水を飲んだ。
じわり、じわり。喉奥に広がる潤い。
「昨日は雨が酷かったんですけど、今日は凄く晴れてるんです。折角ですから窓を開けておきますね」
五月の爽やかな空気が吹き抜ける。細く柔らかな髪が風に靡いて――嗚呼、今日はいい日になりそう。
「またお昼に来ますね。ゆっくりしていてください」
友達なんて居ないけれど。誰か間違ってこの無色彩の病室に迷い込んでこればいい。立ち去る看護師さんに小さく礼をして見送った。
こんなに広い部屋で独りぼっち。それってなんだか、世界から取り残されたみたいじゃないか。
どうせなら王子様でも来るといい。魔法使いでも、妖精でも、構わない。
眠り姫だなんて嘲笑される私には、御伽噺の仲間達が来てくれさえすれば、それで。
まあ、誰も私を知らないのだけれど。
心の中の私はやけに雄弁で。一人は寂しいのだという本音を、シーツに零すことで紛らわせた。
ねえ。遊びにおいで。
●少女は友を望んだ。
「初めまして、お客人。今宵の物語は病弱少女のお話さ」
碓氷の髪を靡かせて。魔法使いの装いをした少女――フィスは、くるりと杖を奮った。その手の中には真っ白なカバーの本がひとつ。
「これかい? これはキミたちが今回向かう物語さ」
崩れないバベルはいつだって上手く働きかけてくれる。最初はよくわからなかったその字も、今や――嗚呼、理解出来た。この物語の名前は、
「力の代償」
くすくす。面白そうに笑って、フィスは告げた。
「力の代償は、命かな? 面白いね……ああ、勿論冗談さ。面白いかどうかはキミ次第、だからね」
パン、と。乾いた本を閉じる音がやけに鮮明に響き渡った。
「さあ、行っておいでよお客人。キミを待つ子が居るみたいだよ」
フィスの声が耳元で聞こえた気がして振り返り、何も無いことに違和感を覚えて前を見ると、そこにフィスの姿はなかった。
- 灰色融解ワンルーム完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年05月14日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談3日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●「一日目。ロウス。私の友達。不思議なひと」
薬の香りに懐かしさを覚えて。ああ、けれど。あまり好ましいものでもない。『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は白い廊下を通り、抜け、進んで。
(ふむ、舞白と友達になれば良いのか。
友達というものは簡単に成れるものだったかなぁ……こう、時間をかけて育んでいくものではないのかい?)
些か納得はいかないが、それが依頼であるのならばそれに従おう、と。ランドウェラは思い立って、勢いよく病室の扉を開けた。
「やあ初めまして舞白。ランドウェラ=ロード=ロウスだ。
気軽にランドウェラとでも呼んでおくれ。長いならロウスでも構わないぞ」
少女の顔には困惑の色。ああ、そうか、死期が近いのね。と呟いてから、舞白は笑みを浮かべた。
「はじめまして。私は……ええ、舞白。そうね、なら、ロウスと呼ばせて頂くわ」
其処に座って、と指し示された椅子に腰かける。ふぅ、と一息。
「ああ、そうだこれは食べれるかい? こんぺいとう。甘くておいしいんだ」
幾つかの塊が入った和紙の袋を小さな掌に乗せて、舞白はそれをきゅっと握りしめて。
「結構日持ちするから好きなタイミングで食べておくれよ」
じいっと金平糖を眺める舞白。小さめを渡した心算だったけれど食べにくかっただろうか。
「砕いた方が良いかい? ……あっ食べなくても見るだけで十二分に楽しめるから。砕かない方が良いか」
白と赤の目を弓なりに歪めて、ランドウェラは笑みを浮かべた。
「お近づきの印は渡した所だし、それじゃあ友達になろっか」
「舞白は本が好きと聞いたから物語が好きという事であってるかな? あっているなら僕の話をしよう」
「ええ、お話しも読書も大好きよ。聞かせて頂戴、ロウス」
「ああ、任せておくれよ。文字で読むより本人が語るほうが面白いだろうしさ?
一応保険だけかけておくけど、つまらなかったらごめんね」
くすくす。あはは。それでね。うんうん。そしたらさ。まぁ。
渇いた空気に満ちる声。幸せの音にほう、と息を吐いて。
「……ああ、面白かった」
「それは何より。……所で舞白は『癒しの力』の能力を持っているそうだね。
その能力を使いすぎて病院にいるんだよね。次会う時まで使わないでくれとお願いしたら使わないのかな」
きょとん、と瞬きしてからその顔は綻んで。
「判ったわ。私、この力は使わない。だからまたきて頂戴、ロウス。
私疲れちゃった。だから、少し眠ることにするわ」
「ん? 疲れ切ってしまった? 僕は疲れてないよ。
今度は舞白の話を聞かせておくれ。また会おう」
●「二日目。ソア。私の友達。可愛いひと」
「がおー!」
虎の姿で白い病室の扉を開けて。あらあら、私は食べられてしまうのね。と呟いて、舞白は『雷虎』ソア(p3p007025)を迎えた。
「えへへ、驚いた? ごめんなさい。
舞白さんだよね、ボクのことはソアって呼んでね」
両腕を上げてにっこり。愛らしいソアの
「いらっしゃい、ソア。食べるなら優しくして頂戴ね」
「食べないから安心して! そんなことよりもさ。ねえ、どこかにいこうよ、だってとてもいい天気」
空を指さし車椅子の準備はOK。ソアがだめかな、と瞳を潤ませるものだから舞白はくすくす笑って了承して。
白の檻から抜け出そう。ボクの手が連れて行ってあげる。
「ボクはここじゃない世界から来たんだ。その世界の精霊なんだけど……伝わるかなぁ」
「ええ、勿論。ソアは虎で、ヒトで、精霊なのね」
そうだよ! と、背中から聞こえる優しい声。舞白は森に興味津々で、ソアに質問しては楽しそうに表情を変えていた。
「そうだ。ボクにも超能力があるの、見せてあげる」
森の王たる力を発動させて、ソアはリスや小鳥においでと呼びかける。
ひょっこりと顔を出して。小鳥にリスに兎に、車椅子に座った舞白の元へと集って愛らしく戯れる。
「わぁ! 動物たちが来てくれるのね」
「うん、まぁそんな感じ。こんなにいっぱいいるの見たこと無いでしょ?」
ソアがはい、とリスを手に乗せてあげると、舞白は恐る恐るリスに触れて。
「ええ。どきどきしてるわ。ソアって凄いのね」
リスと触れ合っていた舞白は、でも。と続けた。
「大丈夫、ボクの力はいくら使っても何ともないから。それよりも舞白の話を聞かせて欲しいな。
まだこの世界のこと良く知らないから」
近くの草むらに座ったソアは、ね? と首を傾けて。断れるはずもないし、断る理由もないから舞白は頷いた。
それから、と。森に生えた花を編んで、わっかにして。不器用な手先を治すため、というのもあるけれど、今は純粋に仲良くなりたいと思ったから。花冠を舞白の頭にのせると、ソアは笑った。
「ねえ、お友達になろうよ。舞白さんのこともっと聞かせて!」
●「三日目。世界。私の友達。素敵なひと」
(友達になるねぇ。どう考えても俺は向いてないと思うんだが……。
今から別の人と交代しちゃダメ? ダメかぁ、ダメだよなぁ……とりあえず何とかしてみよう)
『凡才』回言 世界(p3p007315)は頭を抱えて。目の前に座る舞白はにっこりと笑みを浮かべて不思議そうに首を傾ける。
(まず病室から出ないとな。何か話題のタネを探さないと)
「えー、今日はいい天気だな」
「そうね。快晴だわ」
「……貴方の好きな物は何だ?」
「本かしら。読書とお喋りが好きよ」
「そ、そうか……普段はどんなことをしてる?」
「寝ているわ」
「…………なんだこれ、お見合いかっ!!」
「ふふ、世界ったら照れ屋さんね?」
「そういう問題じゃないし否定してくれ」
(だが幸い本が好きだって情報は入手した。ならば行くべき場所は一つ、図書館だ!)
世界が車椅子を押し、舞白の案内で道を進む。こっちよ、ああ間違えた、あっち。なんて繰り返すうちに、大きな図書館へたどり着く。
端の方に腰掛け、二人はまたお見合い(笑)の続きを。幾分かは仲良くなれた気がするけれど、どうだろうか。
(さて到着っと。ここならば最悪お互いに本を読むことで時間が潰せる。……が、今考えたらそれじゃあ目的を果たせないじゃないか。
幸い話題のタネは見つかったし何とか会話は続けられそうだ。本が好きならば何度かはここに足を運んだことがあるはずだ。そうでなくても彼女の読んだことのある本くらいなら多分あるだろう。そこからいままで読んだ本、好きなジャンル、お気に入りの本……そんな感じで本に関する話を膨らませていこう)
思考が早い。世界はため息を吐いてから、よし。と切り替え、声をかけた。
「オススメの本でも教えてもらおうかな。できればすぐに読み終えられそうなやつがいいかな」
「ええ、それは構わないのだけれどどうして短めなの?」
「短めなら感想をすぐ言えるだろう?」
当たり前のような顔をして告げるものだから、舞白はくすくす笑って。世界はさらに頭を抱えるのだが。
「ええと、それじゃあ。英雄のウタと、ミリオン。あとは国語は難しいとか、どうかしら」
「了解……だけど、本棚がありすぎてわからんぞ」
「ああ、そうね。一緒に探すところから始めましょうか」
舞白はあっちよ、と指をさし。世界は舞白の座る車椅子を押して、ふたり、図書室の奥へと進んでいった。
●「四日目。シルヴェストル。私の友達。賢いひと」
(力を得る事で短命となる、か。僕とは逆だね。
まあ、利点としては長命なだけで、それ自体もそんなに良いものではなかったけれど。変なところで死にやすくなったし、力を得たと言っても桁違いというわけでもなかったし)
「……まあ、承知の上で貰ったものだからね。文句なんてないさ」
シルヴェストルは車椅子を押して、舞白を外へと連れだして。
「今日は天気がいいのね」
「そうだね。ずっと屋内に籠もりきりというのは、どうしても気が滅入るものだよ」
だからと云ってただ森を歩くのはつまらない。だから。
「テイクアウトで軽食と飲み物を買って、良い感じのところで休憩がてらおやつにしようか」
「あら、私お財布を持ってきていないわ」
「大丈夫さ、そのくらい出すよ。それに、僕は気にせず、好きなものを頼むと良い。
決まらないと、若い子のセンスがよく分からない僕みたいなお兄さんが勝手に頼んでしまうから……なんてね」
「ふふ、それじゃあ頼んでしまおうかしら。ええと、そうね。ホットドッグとメロンソーダを」
「それじゃあ同じものを」
二人仲良く同じものを注文し、受け取ったシルヴェストルはそのまま森の小道を進んでいく。
ゆるりゆるりと、ゆっくり進んでいく道、変わっていく風景が心地よくて、舞白はまわりをきょろきょろ見渡しては目を輝かせていた。
「どうかな。ただのんびりと散歩するだけでも、良い気分転換になるだろう?」
「ええ、とっても。凄いわね……」
「ふふ、気に言って貰えたなら何よりさ。さて、そろそろお昼にはいい具合だろうけど、どう思う?」
「そうね、少し小腹の減るころだわ?」
後ろに立つシルヴェストルのほうを見やり、お腹がすいたとアピールしてみせる舞白は、シルヴェストルがはい、と紙袋を渡すとごきげんに鼻歌まで歌い出す始末。
「ご機嫌そうで何よりさ。休憩する場所は……どこにしようか。
僕としては景色のきれいな場所か、静かなところが良いと思うけれど……幸宮さんが気になったり、好みの場所があれば、そこが良いね」
「あ、それなら私、いい場所を知っているわ。シルヴェストル、あっちなのだけれど」
「わかった。案内してくれるかな」
勿論、と年相応に胸を張って。指し示したひかりの溢れる道を、ふたりで進んでいった。
●Next
「ねぇ。私は、如何するべきなのかしらね」
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
病院って白いですよね。どうも、染(そめ)です。
病弱な女の子はお好きですか。染は大好きです。繊細ながら美しく、儚さを覚えます。
それでは今回の依頼の説明に入ります。
●目標
幸宮 舞白と友達になる。
ゆきみや ましろ。女の子です。17歳くらい。高校生ですね。
幼い頃から病弱でこの病院に入院してるようです。七階の一番奥の部屋が病室。
黒い髪と黒い目をした、線の細い少女です。
くだものや読書が好きです。友達を欲しがっています。
また、次回作もこちらのシナリオの続きを予定しております。ぜひぜひ友達になってあげてくださいね。
●世界観
『力の代償』
という物語の中。
現代日本によく似た世界ですが、超能力者が居ることが大きな違いです。
超能力者は二つのグループに対立していて、良いことをする超能力者と悪いことをする超能力者に別れているようです。
超能力者はその力と引き換えに短命で、大人になることが難しいと言われています。
舞白もその一人です。舞白の能力は『癒しの力』です。他人の傷を癒すことに長けていたようです。
●病院について
超能力者専用の病院です。特殊な石を使ってできているため、超能力者も普通の人間のように入院することができます。
薬の匂いがきついです。
病院内には図書館やカフェなど、リラックスできる場所の他、庭、森、池などだいぶ自由な自然があるようです。
他にも色々な場所がありますので、プレイングに自由に書いて頂ければ採用いたします。
舞白と一緒に行く場合は車椅子を押してあげてくださいね。
●サンプルプレイング
舞白ちゃん、果物が好きなの? わたしもだよ!
林檎に苺に、スイカにメロン! え、林檎以外果物じゃないって? そんなぁー!
そうだ、この病院には森があるんだよね。車椅子を押すから、一緒に行ってみない?
美味しい果物が沢山あるはずだよ! ねっ、行ってみよう!
以上となります。ご参加お待ちしております。
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