PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<鎖海に刻むヒストリア>セイレーンの海~レベッカ鎮魂戦~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●追憶
 沈んでいく。沈んでいく。
 人が、星が、世界が、海へと――。
 沈んでいく。
 幾度目かの航海に出た豪華客船、『さざ波の揺り籠』号は、不運な嵐に巻き込まれ、その腹を、海原へとさらけ出していた。
 天地がひっくり返る事態の中、従業員として乗船していたレベッカは、上層を目指して走る。
 生き残るため。夢を叶えるため。約束を果たすため。
 だが――。
 生き残るためのすべは、全て上層の人間に掻っ攫われた。
 船の上層と下層、レベッカ達下級の従業員と豪奢な乗客たちを隔てる、重く冷たい扉は閉ざされ。
 レベッカ達は船と共に遺棄された。
 ――どうして。
 レベッカは思う。
 ――あたし達とあなた達は、如何ほどに違うのか。
 違いはない、とあの時出会った、あの人は言ってくれたはずだ。
 もう一度会えると、あの人は言ってくれたはずだ。
 あの人が与えてくれた希望を。
 レベッカは今、摘まれようとしている。
 ――ああ、妬ましい、妬ましい。
 持って生まれたあなた達が。
 堂々と星の下を歩けるあなた達が。
 ――あたしだって、何も変わらぬはずなのに。
 それは、希望を抱いたが故に生まれた雑念。
 自らの価値を認めたが故に生まれた瑕。
 嫉妬。その時、生まれた生の感情が――。
 魔種に拾われるのは当然の帰結であったか。
『ああ、心地よき嫉妬よ。お前が望むのならば、私はお前の手を取ろう。しかし努々忘れるなかれ。この海に生きるという事は、いずれ廃滅の果てに潰えるという事だ』
 脳裏に響く、誘惑の魔手。
『その僅かな間の夢を見る権利を――お前に授けよう。愛しき嫉妬よ』
 レベッカはその手を取った。

 幽霊船と化した『さざ波の揺り籠』号、その豪奢な船室のベッドの上で、レベッカは目を覚ました。
 ずきり、と頭が痛む気がした。あの時の――自分が反転した時の夢を見ると、いつもそうだ。頭が痛む。心が痛む。だから、思い出したくはない。でもどうしてか、最近はよく、その時の夢を見る。
 あの人に、逢ったからかもしれない。あるいは夢の覚める時が、近づいているからかもしれない。
 だとしても。
 レベッカはベッドから立ち上がった。手触りのいい寝間着を脱ぎ捨てて、クローゼットの中からとっておきの白いドレスを取り出す。
「大丈夫。大丈夫。信じれば絶対、この夢は覚めない」
 廃滅の病など――きっとあの人が、何とかしてくれる。
 そしてその果てに。
「今度こそ、家族になろう。深い深い海の底で、ずっとずっと、えいえんに過ごすの……」
 レベッカを乗せた船は、今まさに、廃滅の海へと向かう。
 そこに行けば――愛しいあの人が、待っているはずなのだから。

●魔種を迎撃せよ
「作戦への参加、感謝いたしますぞ、イレギュラーズ殿。では、本作戦について、あらためて説明いたします」
 絶望の青、後半海域へと向かう船上。その船室にて、3隻の船を率いる船長は、イレギュラーズ達へと告げた。
 まずは、状況を説明しよう。アルバニアを追い詰めるための、絶望の青攻略は破竹の勢いで進行していた。廃滅の病を患う仲間達を救う為を考えれば、その士気が上がるのも当然といえただろう。
 一方、海洋王国女王イザベラとソルベは一計を案じる。それは、かつての敵国であるゼシュテル鉄帝国を、援軍として利用する物であった。
 かくして計は成り、ゼシュテルの大艦隊をも含めた海洋・ローレット大連合艦隊は、絶望の海を一気に踏破するべく、背水の陣ともいうべき大勝負に出た。
 もちろん、これを黙って見過ごすわけがないのが、冠位魔種、アルバニアだ。
 アルバニアもまた、総力を以ってこの大連合艦隊の阻止すべく、ついにその姿を表したのである。
 さて、そんな最中、アルバニア軍への合流を目指し、『セイレーンの海』と呼ばれる破滅海域、その海域を形成する魔種『深海の令嬢レベッカ』が動き出したのであった。
「セイレーンの海はアンデッドの荒れ狂う絶死の海。これをアルバニア達に合流させれば、此方の被害は免れません」
 そこで、このレベッカを討ち取るべく、迎撃艦隊が結成されたわけだ。
「我々は、三隻でこの敵に挑みます。本船は、レベッカの乗る幽霊船、『さざ波の揺り籠号』へ直接攻撃を仕掛け、残る二隻で周囲の幽霊船やアンデッドを排除、援護を行います」
 テーブルに置かれた海図と、各々の戦力を現すコマが目に入る。作戦はシンプルだ。突撃し、敵を排除し、帰って来る。後は己の腕と、仲間を信じるだけだろう。
「相手は魔種。危険な作戦になりますが、皆さんの力を信じ、託すしか、我々にも手はありません。くれぐれもお気をつけて。……では、参りましょう」
 船長に見送られて、船室を出る。前方には、既に荒れ狂う海と、数隻からなるアンデッドの幽霊船団の姿が見えた――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 アンデッド蠢く死の海、『セイレーンの海』。
 そこに待ち受ける魔種、レベッカを排除しましょう。

●成功条件
 『深海の令嬢』レベッカの撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●原罪の呼び声について
 このシナリオにおいては、高度の原罪の呼び声が発生することが予測されます。
 くれぐれもその誘惑に乗る事の無いよう、警戒をお願いします。

●状況
 絶望の青を一気に踏破するべく、行動を開始した大連合艦隊。それを阻止すべく姿を見せた冠位魔種アルバニア。
 その戦いに参戦すべく廃滅の海に現れた魔種レベッカ。彼女を撃退するのが、このチームの目的です。
 レベッカは数隻からなるアンデッドの幽霊船団を率いています。この幽霊船団の相手は、3隻の海洋艦隊が相手にしますので、皆さんはレベッカの乗船する『さざ波の揺り籠号』に直接乗り込み、船上のアンデッド、そしてレベッカを撃退してください。
 さざ波の揺り籠号へは、海洋艦隊の旗艦が突撃して皆さんを送り届けてくれるため、トラブルなく乗り込むことができるものとします。
 作戦決行時刻は昼。周囲は嵐で荒れ狂っています。

●エネミーデータ
 アンデッド直掩兵 ×5
 特徴
  レベッカを守る、直掩のアンデッド兵士です。名無しの一兵士ですが、直掩を任される程度の能力は持ち合わせています。ちなみに、すべて男性のアンデッドのようです。
  高いEXFとHPを持ち、至近~近距離の物理攻撃を仕掛けてきます。
  また、BSとして『怒り』や『流血』を付与してきます。

 『深海の令嬢』レベッカ ×1
 特徴
  アンデッドの幽霊船団を率いる『セイレーンの海』。その中心である女性魔種です。
  今回は撤退などせず、最後まで戦う事でしょう。
  HPなどは低い部類ですが、その分EXAと反応が高く、アンデッド直掩兵を盾にし、後方から中距離~遠距離範囲攻撃の連打を行う事が主な攻撃手段のようです。
  範囲攻撃には『識別』を持つほか、BSとしては『魅了』『不運』を付与。『呪殺』を持つ単体攻撃なども使用してきます。
 また、以下の特殊スキルを持ちます。

  原罪の呼び声『嫉妬』:想
   1.呼び声に応えた純種を反転させる。
   2.フィールド上にいるすべての『女性』ユニットは、『怒り』にかかりやすくなる。
   3.フィールド上にいるすべての『男性』ユニットは、『魅了』にかかりやすくなる。
    (『性別不明』ユニットは、両方を受けない)

●重要な備考
<鎖海に刻むヒストリア>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <鎖海に刻むヒストリア>セイレーンの海~レベッカ鎮魂戦~完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年05月23日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
寒櫻院・史之(p3p002233)
若木
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
シュリエ(p3p004298)
リグレットドール
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)
空気読め太郎
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
北辰連合派

リプレイ

●敵地へ
 絶望の青、その海の上を勇敢に進むは、海洋軍所属の三隻の船。
 その行き先には、恐ろしいほどの暴風が吹き荒れている。荒れ狂わんばかりの海が、船を待ち受けている。
 その嵐こそが、彼らの標的だった。
 動く海域……いや、その者がいる海域こそが必滅の海域となるという、魔種と言う災厄。
 その在り様はまさに、船を誘惑し沈めるセイレーン。
 魔種の名を、レベッカ、と言った。
「海洋軍もイレギュラーズも関係ない。ここに居る以上は同士だ」
 甲板上、仲間達――イレギュラーズ達だけではない。ここに集まった船乗りたちに聞こえるように、『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)は声を張り上げた。
「共に闘おう、そしてこの海を希望の青へ変えてみせよう!」
 おう! おう! おう! 船乗りたちから鬨が上がる。これよりともに、魔種の海域へと突入する仲間達――作戦の中核はイレギュラーズ達であるが、その作戦を支援する船乗りたちもまた、重要な友であるのだ。
「女王陛下のために!」
 史之が女王へと心酔していることを知っていたのか――あるいは、その心を同じくするのか。数名の船乗りが、そのように声をあげたことに史之は気づいたから、微笑んで見せた。
「もちろん。女王陛下のために」
 称賛の笑い声が響く――海洋軍の船乗りたちの士気は、これ以上ないほどに高まっていた。これならきっと、魔種の誘惑にも耐えてくれるだろう、と史之は思う。
「すごいね。まさに決戦、って感じだよ」
 にこりと笑って、『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)が言う。事実、これは海洋の命運をかけた決戦、その一翼を担う戦いだ。
「まさに。此度の戦いも、物語に残されるものとなるはずです」
 『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)はいつもの調子を崩さずに、告げる。
「物語……か。勇敢に、悪を挫く英雄譚、ってところかな?」
 ヴォルペの言葉に、四音はゆっくりと頷いた。
「一つの物語は、確かにその通りでしょう」
「一つの?」
 ヴォルペの問いに、四音はゆっくりと、視線を移す――ヴォルペが視線を追ってみれば、そこには『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)の姿があった。
「もう一つ。騎士と令嬢の物語としての側面。果たしてどのような結末を迎えるのか――いえ」
 結果はもう、分かっているのかもしれなかった。
 この物語が、勇敢なる者たちの英雄譚で終わるのならば。
 騎士と令嬢に待つものは、一つの別れであるのだ。
「――なんにしても」
 ヴォルペは言った。
「おにーさんは守るだけさ。……少しでも、物語に悲しみを残さないようにね」
 そう言うヴォルペに――四音は変わらず。にこりと笑いかけた。
 当のリゲルはと言えば、静かに己の拳を見つめていた。繋いだ手。放してしまった手。また会える、と言うおまじない。頬に残る感触。
 この手で何ができる。この手で何をすべきか。
「……リゲル」
 そんなリゲルに声をかけたのは、『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)だ。リゲルは拳から目を離し、ベルフラウへと笑いかける。
「……なにかな」
「不躾ではあるが……レベッカは、卿を好いていたのか?」
 リゲルは一瞬、目を丸くして――苦笑してから、頭を振った。
「分からない、と言うのが本音だ。でも、私は……俺は、彼女を、大切な友人だと思っていた。彼女と初めて会った時の、あの、どこかキラキラとして笑顔に……今思えば、恋をしていたのかも、知れないな」
 思い出しながら、とつとつと、告げる。ベルフラウはゆっくりと息を吸い込んで。
「そうか」
 告げた。
「……卿の正義を見せて貰おう」
 ベルフラウが言う。それは、ベルフラウにとって、励ましの言葉だったのかもしれない。だからリゲルはゆっくりと頷いた。
 己の正義を見せるという事は。それは。
 その先に待ち受けることを、頭にしっかりと描きながら。
 ぽつぽつと、雨が降り始めた。それは最初は優しく――すぐに激しく、叩きつけるようなそれへと変わっていく。
 徐々に、魔種の領域に突入しているのだという事が、分かった。
「すごい嵐だ……!」
 『空気読め太郎』タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)が、甲板上で声をあげる。同時に、激しく船が波にうねる。並の人間ならたまらず膝をつきそうなほどの揺れだが、そこはイレギュラーズ、皆が体勢を保っている。
「敵は、目に見える奴だけじゃない、か……この風、この雨、この揺れも敵になる……!」
「そうだ……だが、この程度は織り込み済みじゃないかな?」
 『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)が言う。もちろんだ。そのくらいの覚悟も対策も、タツミはもちろん、イレギュラーズ達はしてある。
「興味深いのは、このすべてを拒絶するような魔種の嵐。その発生原理も、理由も、興味深い。つながりを求めながら、まるで臆病にもそれを拒絶するようにも見えるじゃないか?」
「魔種にも……何か、事情があるってんだろ? わかってるよ。でも、見逃してやるわけにはいかないんだ」
 タツミが言うのへ、ラルフは頷いた。
「もちろんだ。私達は……全能のそれではないのだからね」
 バタバタと雨が降る。風がラルフの身体を打ち据える。
「希望、か」
 誰にも聞こえぬように、ラルフは呟いた。
「船が近づいてきたにゃ!」
 嵐にも負けぬような大声で、『爆殺人形』シュリエ(p3p004298)が声をあげた。敵船、『さざ波の揺り籠』号は、もはや目と鼻の先だ。
 すでに、残る二隻の船は戦闘に入っている様子で、嵐を切り裂くように剣戟と、雄たけびが聞こえてくる。
 この旗艦の行うミッションは、イレギュラーズを『さざ波の揺り籠』号へと届けること。そして可能な限りその場に位置し、イレギュラーズを回収することだ。
「よろしくお願いします、イレギュラーズさん!」
 船員が声をあげるのへ、シュリエは頷いた。
「任せるにゃ! みんな無事に帰って来るから、美味しいご飯を用意して待ってるにゃよ!」
 にっこり、船員達を安心させるように、シュリエが言う。
「任せてください、腕によりをかけますよ! ……間もなく、接触です!」
 その言葉から間もなくして。ごうん、と音を立てて、船と船が激しく接触した。その瞬間の、わずかな間、イレギュラーズ達は一気に、敵船へと乗り移るべく跳躍した! 嵐と雨を切り裂いて、イレギュラーズ達が跳ぶ! 果たして次の瞬間には、一行は敵船の甲板へ乗り移ったのである!
「いらっしゃい」
 そんなイレギュラーズ達へ――。
 声をかけたのは、深海の令嬢、レベッカだった。

●さざ波の揺り籠
「レベッカ。会いに来たよ」
 リゲルは揺れる甲板の上で、ゆっくりとレベッカを見据えた。
 いつもの白いドレスを着た彼女は、嬉しそうに微笑んで見せる。
「来てくれたのね、リゲル……ううん、来てくれる、ってわかってた。それに、お友達も」
 じろり、とイレギュラーズ達へ、レベッカは視線を巡らす――それだけで、胸の奥よりじわじわと染み出す、強烈な不快感のような、焦燥感のようなもの。
 これが魔種の原罪の呼び声、その一端なのだろう。それを全力でぶつけてこずになお、脳髄を侵蝕せんばかりのそれは、まさに歩く毒物。
「レベッカ――違う。違うんだ」
 リゲルがゆっくりと、頭を振った。
「今日の申し出は、ダンスじゃない。……勝負を、しようか」
「勝負?」
 くり、と小首をかしげるレベッカ。リゲルはゆっくりと――剣を抜き放った。
 銀の剣が、光り輝く。
「君が勝てば、君が望むがままにすればいい。だが俺は、負ける気はないよ」
 それを合図にしたように、イレギュラーズ達は一斉に構える。明確に叩きつけられる敵意を、レベッカはしかし、「へぇ」と薄く笑ってみせた。
「あなた達、リゲルをそそのかしたのね?」
「そう思うならそれで結構」
 史之が挑発するように笑った。
「『さざ波の揺り籠』号ね。都合のいい夢の中にこもっているわけだ。残念だけど、かなわない夢もあるんだよレベッカ。おまえは人として生きることを手放したんだから」
 ぎり、と――。
 レベッカは表情を凍らせた。
「思い出した。あの時逃げ出した奴。そんなあなた達に何ができるの?」
「もちろん! 今日こそはその息の根を止めてやる! もうおまえの居場所はどこにもない!」
 史之の言葉に、レベッカはニコリと笑んだ。
「リゲル、あなたの友達って、悪い人ばっかり」
 すぅ、と息を吸い込む――。
「来るぞ。対処したまえ」
 ラルフが声をあげる――その瞬間、歌声が、響いた。脳髄を直接抉る様な、暴力的な奔流――嫉妬の歌声。それがレベッカから放たれた一種の魔術攻撃だと理解した瞬間には、イレギュラーズ達はとっさに飛びずさり、その影響圏から逃れた。
 続く第二射の魔術歌唱が、イレギュラーズ達を襲う! 物理的な衝撃すら伴う歌声!
「リゲル、あなたも少し痛いかもしれないけれど――」
 レベッカは、冷たく言い放つ。
「ごめんね。本気を出すと、こうなっちゃうから」
 それを見計らったかのように、甲板に散らばっていた骨や肉片が音を立てて合体し、5体のアンデッドを生み出す。
「直掩兵か……!」
 リゲルが叫び、駆けだす――標的、レベッカへと向けて。
「合間をすり抜けるにゃ! とにかくレベッカを抑えないと不利にゃよ!」
 シュリエもまた叫び、駆けだす――。
「ダーティな一撃にゃ! 逃れられるかにゃ!?」
 駆けつつ、放つ魔光がレベッカを狙い撃つ――レベッカはアンデットを生み出し、それを盾として受け止める。ばずん、と音を立てて、盾は魔光によって粉砕される。
「レベッカッ!」
 史之の放つネメシスの裁きの閃光。とっさに跳躍したレベッカだったが避け切る事はできず――擦過する光が、レベッカの肌を焼いた。
「くっ……お肌が荒れちゃうじゃない……!」
 忌々しそうにぼやくレベッカ――歌い上げる魔術歌唱が、史之を中心に爆発する!
「ちっ……このまま回復に回るよ! 後は――」
「任せたまえ。その歌声、封じさせてもらおうか」
 ラルフは『アウトレイジⅡ』に、剥奪術式を編み込んだ魔弾を装填。一気に撃ち放った。放たれた銃弾が、レベッカの腕を貫く。
「……! よくも……!」
 レベッカの注意が、ラルフへと向いた。レベッカは嫉妬の歌声から編み上げた真っ黒な剣を手に、ラルフへと接近戦を仕掛ける。すれ違う、刃と、銃。
「――君は」
 ラルフが、言った。
「ああ、希望が欲しかったのだろうね、君は」
「――!?」
 レベッカが、息を呑んだ。
「だがね。奈落に引きずり込むのを希望とは言わぬ。自分が奈落に落ちたままでは――永久に、救われる事は、ない」
 どこか自嘲気味に語られる、挑発の言葉。レベッカは頬を怒りに赤く染めて、叫んだ。
「だったら――どうすれば正解だったの!?」
 死に瀕して。
 死に飲まれて。
 此処から希望を望むのは、いけなかった、のか。
「――さて」
 ラルフは冷たく、そう言い放った。答えを教えてやる義理など、無いというように。
 あるいはその答えを、ラルフもまた探しているのかもしれなかった。

「さて、君たちの相手はおにーさんだ」
 一方で、アンデッド兵とレベッカを引きはがすように、その合間に立ちはだかるイレギュラーズ達がいる。
「姫と騎士の間に入る様な、無粋は止めて貰おうか!」
 ヴォルペとベルフラウだ。ヴォルペの『満月の銀狼』が輝き、力となる。
 刃を振りかざし、突進してくるアンデッド。ヴォルペは手甲で振り下ろされる刃をはじき、カウンターで殴り飛ばした。ぐちゃり、と肉片がはじけ――瞬く間に元の位置へへばりつく。
「やれやれ、死んでるのに死ににくいって言うのは、なんだかね」
「怯むなよ! 私達が今、二つの盾だ!」
 ベルフラウは二振りの『ローゼンハイリガ』、それぞれ違う名を持つそれらを振りかざし、アンデッドの斬撃を受け止めた、振り払い、刃を突き刺す――アンデッドがなお立ち上がるなら、再び。まだ立ち上がるなら、三度。
 ベルフラウとヴォルペ、二人に役目があるならば、それはこの戦場に立ち続ける事だった。魔種の討伐に注力する仲間を守るために、ここでアンデッドを足止めし続ける。それが二人の役目だ。
「奮い立て! 振るい立て! 私達こそが卿らを押しとどめる壁と知れ! 此処を通りたくば、この旗を折ってみよ!」
 ベルフラウがの鬨が上がる。アンデッドたちはその長大なる城壁を、超える事はかなわない。
「やれやれ、そうなるとおにーさんも……はは、楽しくなってきた!」
 その身に負った傷は、決して浅くはない。だがヴォルペはその口元を愉悦に歪め、さらなるアンデッドの襲撃を受け止めて見せるのである。
「なんだか皆テンション上がってんねぇ!」
 ぐお、と大きく拳を振りかぶるは、タツミだ。全身を燃焼させるがごとき、全力の構え。その拳に宿る、魂のオーラ――それは、竜だ。
「分かるよ……今はやらなきゃならない時だ! だったら全力で! それをやるッ!」
 タツミの放つ、拳の一撃。竜のオーラは物理的な衝撃波となって、アンデッドを強かに殴りぬける!
 そのままアンデッドは、竜のオーラに飲み込まれて消滅――二度と立ち上がることは無い。
「よっしっ! 次はどいつだ!」
「ふふ、頼りになりますね」
 四音が微笑んで、回復術式を編み上げる。嵐の闇を切り裂く福音の音色が、仲間達の傷を癒し、ギリギリの所で命を留めさせていた。
 四音の回復術式とて、無力という訳ではない。だがそれ以上に、敵の攻撃は激しかったといえるだろう。だが、瓦解せぬところで留めていられたのは、イレギュラーズ達の士気と、ダメージコントロールの力だ。
「こちらはまさに王道、不死者に立ち向かう英雄たちの戦い。実に良いですよ。さて」
 四音はちらり、と、視線をやった。
「あちらは――」
 そこでは、魔種とイレギュラーズ達の戦いが、未だ続いていた――。

●シンデレラの夢の終わりに
 こんな形になってしまったけれど。
 君に会えて良かった。
 白いドレスも、似合っているよ。
 君はきっと……俺の初恋の人だったんだ。

 こんな形になってしまったけれど。
 あなたに会えて、よかった。
 あの時と変わらない、キラキラの瞳。
 あなたはやっぱり、あたしの初恋の人。

「うにゃぁーっ!」
 生み出されたシュリエの黒い球体が、レベッカの生み出した黒い刃と衝突。黒い刃を飲み込み、消えた。
「恨み辛み、お前にも色々あるんだろうにゃ。でも……もう、休めにゃ! 」
 シュリエが叫ぶ。その声が、耳朶を震わせる。
「終わらない……あたしのユメは終わらないっ!」
 再び、魔力の刃を生み出す――それは先ほどよりも小さく、脆く見えた。
 徹底的に、レベッカの得意とするフィールドで戦わせずに封殺する。その作戦は功を奏していた。レベッカは徐々に――確実に、追い込まれていた。
「レベッカ!」
 リゲルが、その銀の剣を振り下ろす。黒と銀の刃が、交差した。

 出会った頃の君の笑顔が好きだ。
 強く聡明な君が好きだ。
 ダンスに誘った時は、あれでも緊張していたんだよ。
 今の君も素敵だが……。
 闇に囚われた君を見ていると……悲しくなるんだ。

 違うよ。
 あたしは聡明なんかじゃなかった。強くなんかなかった。
 ただ、諦めて……大人ぶってただけ。
 本当に強くなれたのは……あなたに出会えたから。
 あなたに再会できて、本当にうれしかった。
 でも、今、あなたを見ていると……とても、悲しくなるの。

「レベッカ……!」
「リゲル……!」
『だからっ!』
 銀の剣が、黒の剣を弾き飛ばす。
 レベッカの瞳が、驚愕に見開いた。
 息を吸う。とっさに息を吸う。魔術歌唱の展開――。
 がはっ、と。
 レベッカが息を吐く。
 喉元を抑える。視線を移す――。
 ラルフの術式が、それを止めた。
 ――ああ、ああ。そうか。
 レベッカは。
 ――あたし、リゲルを……傷つけてたんだ。
 とん、と。
 銀の剣が、レベッカの胸を突き刺した。
「……悪夢(ゆめ)は、終わりだよ。レベッカ」
 リゲルは、微笑んだ。
「そっか。終わっちゃうんだ」
 レベッカも、微笑んだ。
 とん、と。
 レベッカは、リゲルを突き飛ばした。
「ねぇ、リゲル。あなたやっぱり、こっちに来ちゃダメ」
 目の前に、扉が見えた。
 善と悪。
 可能性と魔。
 あるいは、生と死。
 そう言うモノを隔てる、開けてはいけない扉。
「あなたはきっと――ずっと、あたしの王子様でいて」
 レベッカは微笑うと。
 ゆっくりと――倒れていった。そして、海へ。青い海の中へ。
 沈んでいく。沈んでいく。
 はた、と――。
 雨は止んだ。
 風は止んだ。
 雲は何処かへと消え去り。
 ただ陽光だけが、辺りを照らしていた。
「終わった……のか?」
 タツミが声をあげるのへ、四音は頷いた。
「はい。物語はこれにて」
 ――閉じる。

 今はその用をなさない、ただ沈むのを待つだけの揺り籠の上で、イレギュラーズ達は立ち尽くしていた。
 やがてそんな彼らを迎えに、大きな歓声と三隻の船が、海風を割いてやって来る。
 今は嵐は消え、絶望は消え。
 静かな凪となった、海の上で――。
「さよならは言わない。きっと、また会える、から」
 リゲルは寂し気に、呟いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、『セイレーンの海』は海域より完全に消滅しました。
 今はただ、すべては静かな凪の中に――。

PAGETOPPAGEBOTTOM