イ＝ルーナクの君のハートにチェケラ♪

オープニング

●箱が語ることには

　その箱は、毎日同じ時間に喋りだす。

「ぴん、ぽん、ぱん、ぽーん！今夜も深夜■■時をお知らせしまーす。
今夜も始まりました、枕元で騒ぎ立てる、眠れない夜のあなたのお供、『イ＝ルーナクの君のハートにチェケラ♪』！

おいスタッフ。スタッフおい。言ったよ？確かにタイトル変えろって。
でもな、そういうことじゃねぇんだよ。おい、逸すな。目をそらすな。手前ぇわかっててやってんだろ」

　その箱の名をラジオという。

「いや、それは良い。よくねぇけど、今はそれを論じる時間じゃない。

てなわけで。いやーすいませんね皆さん。どうもまたスタッフと行き違いがあったみたいで。
仲良しなんですよ？これでも、普段は。
でもねー、やっぱみんなプロフェッショナルだから。ぶつかっちゃうのよ、仕事上で譲れないことがあると。
やっぱこういう意識の高さを持って仕事はしないとねーって。尊敬しても良いんですよ、皆さん。

どの口が言うんだみてぇな眼をしてるスタッフとは後で話をつけます。

さて、それでは今夜のお相手も私、イ＝ルーナクが務めさせていただきますよー」

　短い音楽が流れる。
　オープニングミュージックというやつだろう。

「ではジャブ代わりに早速お便り読ませていただきまーす。
まぁ最近はジャブどころか最初っから全力ストレートなお便りが多いんですけどね。

RN『砂漠のオオサンショウウオ』さんからのお便りです。
死相が見えてますね。一刻も早い移動をおすすめします。

『イ＝ルーナクさん、こんばんは。いつも楽しく拝聴させていただいております』

こんばんはー。ありがとうございます！

『最近はめっきり熱くなってきましたね、道を歩いているだけで干からびてしまいそうになります』

洒落になんないわー、RN的に。

『汗だくになりながら歩いているときに気がついたのですが、流れた汗をかき集めて飲めば完璧な水分補給になると思うんです！』

なりませんね。

『そのうち学会に発表しようと思っています。ノーベル賞、いけちゃいますかね？』

答えるまでもないと思いますがあえて明言しておきますね。
無理です。

まず学会で発表に辞典で無理でしょ。
よく知らないけど、そういうとこって事前審査とかあるんでしょ？
その時点で受け取ってもらえないと思います。

というわけで、砂漠のオオサンショウウオさんには経口補水液の存在を知ってもらいたいなと思いました。

では、次のお便り────」

　朗々とした声はいつまでも。

●ラジオの館
「やぁ、また来てくれたんだね」

　境界案内人、カストルは屋敷の一室で、小さなラジオを手に取ってそう言った。

「何人かは、このラジオにお便りを出してくれたみたいだね。こころなしかイ＝ルーナクさんの声も弾んでいるように聞こえるよ」

　そうだろうか。話を聞いているイレギュラーズは首をひねる。
　違いがあるようには聞こえないが、彼がそういうならそうなのかもしれない。

「でも、それで満足してお便りを出さなかったらまたラジオ存続の危機が訪れるかもしれない。よかったら、またこのラジオにお便りを出してくれないかな？」

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第1章

第1章 第1節

「それではお便り読んで行きましょう。
RN『透明しっぽの人魚姫』さんからのお便りです。

『この前は、わたしのお手紙の採用、ありがとうございましたの』

こちらこそお便りありがとうございますー。

『…でも、イ＝ルーナクさんにはひとつだけ、物申したいことが、ありましたの』

え、なに？私何かやらかしちゃった？

『それは…RNを、最初に読まれてしまったこと！』

おう？

『せっかく、「どうしてそんなものを？」って、おどろかせてから、「なるほど！」って思わせたかったのに…最初に、ネタバラシをされてしまいましたの！』

あ、あー。なるほど？
この番組先にお名前紹介するスタイルだもんね。
ちょっと悪いことしちゃったかな？

『…ふふ
けっして、怒っているわけでは、ありませんの
世の中は、ままならないことばかり…でも、だからこそ、面白いんだと思いますの
すべてが、思いどおりにしかならないのなら、漁に関する、イ＝ルーナクさんの豆知識も、聞けませんでしたから』

あ、よかったー。怒ってはなかったみたいです。
大変ですからね、リスナーさん怒らせると。
最悪仕事失いますから、マジで。

『ですので…今日の豆知識、楽しみにしてますの』

やっぱ怒ってない？このキラーパスの出し方。
急に言われてもでてこねぇな……。

えーと、大豆と枝豆って同じものなんですよ。
いやそれ豆知識じゃなくて豆の知識やないかー！って。

はい。

お便りありがとうございましたー！！」

成否

成功

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第1章 第2節

　コーヒーカップを傾けながら、貴道はラジオを聴いている。
　暇つぶしに送った便りではあるが、どのように読まれるかは少し気になる。

「では次のお便りです！
RN『ベガスの星』さんから。
一攫千金を夢見てる匂いがしますね。

えー、『ハロー、イ＝ルーナク！　ナイストゥーミーチュー！』

いやテンション高っか！
なにこれ、ベガスのノリってこんな感じなの？
ひたすら派手なイメージはあるけども。

挨拶だけに気を取られすぎましたね。

『HAHAHA、ミーはウォーカーだからラジオにも馴染みはあるが、手紙を送ったのは初めてだな！　たまには良い、何事も経験だ！』

ウォーカーってよくわかりませんが、そうですね。やっぱり何事も経験ですよ、そこのの聞き専のリスナーさんも思い切ってお便り送っちゃいなYO。

『ところでミーは最近、仕事でビッグな海蛇をブロークンしたんだが、ユーは如何お過ごしかな？』

ベガスって海蛇出るの！？
マジかよ、荒野のど真ん中にあるのに出るんだ、海蛇。
そんなビッグなエピソードの後に私の日常とか語ってられねぇよ。

『ミーは最近海獣退治ばかりだから、そろそろ飽きてきたぜ、早いところ他のものもぶん殴りたいな！　人間とかベリーグッドだよなHAHAHA！』

ベリーバッドだよHAHAHA。
遵守して！法律は！
ベガスにもあるでしょ暴行罪とか。海蛇居るくらいなんだから。

そんなベガスの星さんの良識を願いつつ、お便りありがとうございましたー！」

成否

成功

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第1章 第3節

「はーい、では次のお便りでーす。
RN『RNとは、なんだ』さんからです。
哲学ですね。

『タイトル変更、おめでとう、だ。イ＝ルーナク』

変わりましたけどね。えぇ、望む変化ではなかったよね。

『いや、ラジオというのは、パーソナリティと、リスナーの、精神的距離が近い、もの』

それですよ。
こういうね、お便りへのレスポンスがラジオの醍醐味ですから。

『フルネームは、余所余所しいかもしれない、な。どうだろうか、イ。多少は、親しい感覚に、ならないか、イ』

そこ別にファーストネームってわけじゃないんですわ。
自分でも変な名前だと思うけどイ＝ルーナクで人繋がりの名前だから。

『イは、もっと、距離を縮めたい、と思う相手などは、いるだろう、か。
マリアは、割と、いっぱい、いる。近頃は、仕事で沖に出ることも多く、忙しいが、な。
イも、仕事は、無理のない程度に、な。スタッフと仲良く、だ』

そうですねー、リスナーの皆さんともっと仲良くなりたいなって綺麗な事を言っておきますね。

でもね。

イ発言に隠すことなく爆笑してるスタッフとは仲良くなれそうにはないんだわ。
アイツいつか絶対わからせてやるからな。

えーというわけでRNとはなんださんには私からの親愛の情念を送っておきます。
お便りありがとうございましたー！」

　エクスマリアはそれをなんか部屋に用意されていた夕食と晩酌を楽しみながら聴いていた。
「ふむ。楽しいもの、だな。ラジオ、というのも」

成否

成功