シナリオ詳細
月食みの道行き
オープニング
●生き人形
木箱の中は柔らかい敷布で満たされ、居心地自体は悪くなかった。
だが全身を縛り上げる縄が身動きする度に食い込んで不快だった。
何よりここがどこなのかわからないのが不安でたまらなかった。
箱の中へ押し込められた時から嗚咽が止まらない。
ああ、わたしは一体どうなってしまうの。
少女のうめきは猿ぐつわに阻まれて消えた。
あの貴族の妾話にのってしまったのが間違いだった。
両親も、娘自身も、提示された金額に目がくらんでしまったのだ。
人買いと呼ぶには過分な額は、寒村の一家には遊んで暮らせるほどのたくわえと同じ重みを持っていた。
だから人目を忍んだ妙に厳重な警備も、宝石を散りばめたさながら宝箱のような木箱へ入れられたことも、真夜中に搬出されたことにも疑いひとつもたなかったのだ。
けれど冷静になって考えれば、相手は貴族、自分の領地下の娘を一人身請けしたところでさしたる話題にはならないはずだ。
木箱に閉じ込められたまま、部屋も与えられず、食事も一日に一度、木偶人形のような老婆が匙で口の中へ押し込んでくるだけ。
彼女が我と我が身の境遇を嘆いていると、突然足音がふたつ近づいてきた。今日の食事はとうに済ませている。何の用だろう。
娘は震えながら蓋が開くのを待った。
暗がり越しに見えたのは、自分を買った貴族と世話をしている老婆だ。
少女は震え上がった。歯の根が噛み合わずカタカタと鳴る。
「しあがりはどうだ?」
「しょうしょうやつれておりますが、髪をすき、紅をさせば旦那様お見込みどおりの娘になるでしょう」
「うむ、金の髪と薔薇色の頬、何より怯えた小鳥のように無垢な青い瞳。この娘ならば秘密クラブの会員たちも満足してくれるはずだ」
そう言うと貴族は満足げに穢らわしい笑みを浮かべ、吐息が臭うほど少女へ顔を近づけた。
「おまえにはショーのクライマックスを飾る人形になってもらう。わしの別荘で開く殺人ショーのな」
●依頼
袖を引かれて、あなたは振り返った。木偶人形のような老婆がいる。
「もうし、おなたさま。口の固い方とお見受けいたします。我が主の依頼を受けていただけないでしょうか」
くれぐれも秘密厳守でと老婆は念を押し、ある貴族に仕える身だと明かした。
「依頼自体は簡単でございます。宝箱を積んだ荷馬車を一台用意しますので、主の屋敷から山奥にある別荘へ運搬してほしいのです。別荘までたどり着けばあとは私どものほうで手配いたしますので、そこまでの道行きの護衛をお願いいたします」
ただ、と老婆は言ってさらに低い声を出した。
「馬車の目撃者が出ないように、お願いしたいのです」
目撃者が出ないように? それは無理だろう。あなたは頭の中でうわさの紙切れを探し当てた。
たしかその貴族の住む街はそれなりにひとけの多いところであるし、山道は金品目当ての山賊が出るとの噂だ。
そう返すと老婆はにたりと笑った。
「目撃者をなくすことはできない、とおっしゃりたいのですね。考察はごもっともです。ですが、目撃者が物言わぬ体であったならどうでしょう。たとえば……既にこの世にいないとか」
つまり。
「皆殺しにしてしまえばよいのです。犬畜生にいたるまで、馬車の存在を知るのは屋敷と別荘に居るものだけでいい。
街の目撃者は時間帯を選んで工夫をこらせば片手で数えて足りるでしょう。
山道の山賊は剣に加えて弓まで使ってくる本格的な輩です。しかしながら数は五人と既に調べがついております。別荘の秘密を守る用心棒役でしたがそろそろ新しいのに入れ替える時期で……ひひひ、いえ、口が滑りました」
ふぅんと興味なさげにあなたは聞き流した。聞かなかったふりをするのもイレギュラーズの処世術だ。
「死体の処理に手間取りますので、街中での被害者数は抑えていただきたいところですが、山賊は手加減無しでけっこう。いかがですか、引き受けてくださいますね。もちろん宝箱の中身は秘密厳守で」
と、老婆は語気を強めた。
- 月食みの道行き完了
- GM名赤白みどり
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年04月02日 21時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●闇
絵の具で深く塗りつぶしたような闇が馬車の前へ口を開けていた。深夜の街は眠りの魔法をかけられたように静けさが支配している。そこを進むために、頼りになるのは己の五感とわずかな月明かりのみ。明かりを煌々とともしていては馬車の存在を気づかれてしまう。それはこの依頼において最大の禁忌だった。だがイレギュラーズたちの手には事前に作成していたあるものがあった。
地図である。
昼間の内に四方へ散り、イレギュラーズたちは詳細な道路情報を地図へ書き込んでおいた。さらにそこへ『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)はルート上にある店の閉店時間、浮浪者のたまり場になりそうな廃屋や広場、夜でも賑わう繁華街を調査して追加。さらには門番の交代時間まで調べ上げた。すばらしい活躍といえるだろう。『殲機』ヴィクター・ランバート(p3p002402)も馬車の大きさから通れる道の選定を済ませ、ルートは大通りを避け、住宅街をメインにと結果をまとめた。やや大回りなルートになったが、ことを急いで直線距離を走り、繁華街のド真ん中を抜けるよりも格段に安全だ。
御者役の『J(女子)K(高齢者)』マダム・ザマス(p3p002808)が席によじ登り、手綱を握った。さらに彼女が宙へ手を掲げると、彼女の両隣に妙齢(かなり苦しい)の女性がふたり出現。ザマスのギフトであるババア仲間だ。小太りのおっとりした馬場さんと背筋のぴんとした健脚そうな矢賀さんである。
「出発するザマスよ」
「そうねえ、それにしても馬車に乗るなんて久しぶりねえ」
「あれ以来じゃない? あー、あれあれ、なんだったっけ、あれよあれ」
「あーはいはいあれね」
放っておけば延々と続くババアトークを小声で続けながら、ザマスは手綱を緩めた。
(ワタクシはマダム。貧乏に負ける訳にはいかないザマス。多少キナ臭かろうと頂ける物いただけるのならえんやこらザマス)
馬車の移動速度は、傍目にはのんびりした動きにみえたかもしれない。車輪の音が周囲へ響かないよう、あえて速度を落としているのだ。街さえ抜けてしまえばあとはどうとでもなる。かくして、おぞましい欲望を乗せた馬車は進みだした。
馬車の荷台には大きめの宝箱がひとつある。それには見るからに頑丈そうな南京錠がかけられ、執拗なまでに玉掛けしてあった。よっぽど中身を見られたくないらしい。だが耳を当てれば音が聞こえる。まるで少女の泣き声のような……。
「さてはて、この『積み荷』で果たして、何をするつもりなのやら…な」
『KnowlEdge』シグ・ローデッド(p3p000483)は興味深そうに笑って宝箱の表面をなでた。その気配が伝わったのか、小さな悲鳴が箱の奥から響いた。
「おもしろい『反応』だな。臆病なミミックでも入っているのだろうか?」
そう言ってシグは笑みを深める。箱の中身の検討はついている。だが、もとより開けるつもりなどない。大事な大事な依頼品を確かめると、シグは馬車から飛び降り、やや先行した。馬車の露払いを買って出たのだ。
外へ出ると同じく『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が馬車と歩調を揃えて歩いていた。隣へ来たシグへ声を掛ける。
「目撃者を消してまで誰にも見られるなとは穏やかじゃないですねぇ。運ぶ「宝箱」とやらに余程の物が入っているのでせうか?」
「ああ、世にふたつとない宝だ」
「なるほどなるほど。命の代わりになるものはありませんからねぇ」
お互い、天気の話題でもしているのような気軽さだ。
「しかし、こう云った普通では有得ない依頼と云うのも「面白い」。折角受けた依頼なのですし、楽しんで参りましょうか」
唇の端に喜悦を浮かべ、ヘイゼルは軽く走って馬車よりもさらに先へ行く。頭の中へ叩き込んだ地図通りに曲がりくねった道を行く途中、彼女は人の気配に気づいてはっと物陰へ身を隠す。一歩一歩、石畳を踏む音が近づいてくる。それは疲れた顔の通行人だった。通行人の男はヘイゼルへまったく気づかず、そのうつむき加減の顔にはただ家に帰りたいとだけ書いてあった。
「この様な深夜に出歩くとは不用心なのですよ?」
ヘイゼルは笑みを閃かせ、両手を突き出した。電流が流れるときのようなかすかな物音。ヘイゼルが放った威嚇術が男へ命中し、男はその勢いのまま壁へめりこんだ。ヘイゼルはすばらく男へ近づき、胸ポケットから財布を抜き出す。
「不幸なあなたは物取りに出くわしたのでした。ああ、かわいそう!」
芝居がかった仕草でそう言うと、ヘイゼルは男を路地裏へ蹴り入れた。そしてルート変更をうながすために馬車のもとまでへ走っていった。
「止まれ」
ヴィクターの声が響く。つづいてザマスが手綱を引く。馬車は一時停止した。
「左へ方向転換、この先にまだ開いている飲食店がある。別の道を行く」
当初の予定をはずれて一本隣の道を行く馬車。ヴィクターを始めとする仲間たちが複数のルートを考案していたため、馬車は着実に進んでいた。しかし荒い石畳に車輪が食い込みそうだ。ガタガタと音がする。だがもし通りすがりの誰かが物音へ気づいても、『トルバドール』ライハ・ネーゼス(p3p004933)と獣人化したアンシア・パンテーラ(p3p004928)のふたりが飛んでいくし、ヴィクターのライフルが黙っていないのだが。
「それにしても……」
とライハが顎を撫でる。
「宝箱。そうか宝箱か…。何やら気配も感じるが…いや。依頼主にとっては相違なく「宝箱」なのだろう…」
「中身の詮索はよせ。どうせろくでもないことだ」
アンシアがぴしりと言った。
「同意する」
珍しくヴィクターが会話に入ってきた。己を常に最適化しているような戦士だが、今は余裕があると考えているらしい。
「運び屋の真似事だが、依頼であれば問題ない。オーダーに応えるのが役目である」
その鋼のような声音は強い克己心から生まれていると聞くものに感じさせた。余計な感情をすべて削ぎ落としたような声。
たしかに、とアンシアは思う。どんな悪事の片棒を担がされようと、自分の意志で受けることができるのだから腹はくくりやすい。なにせ召喚前の彼は嫌も応もなしに『組織』の手足として命がけの任務をこなさなくてはならなかったからだ。
そんなアンシアの胸中すら見透かすようにライハは低く笑う。
「よいよよいよ…問うまい問うまい。さて行こうか……」
馬車がふたたび移動を開始した。
一方その頃。
グリムペインの放ったフクロウが浮浪者の老婆を見つけていた。
ぼろきれを体に巻き付け、夜風から少しでも身を守ろうと体を小さくしているため、見落としそうになったが幸運にも――彼女にとっては不運にも――もぞもぞと身動きをしたところをフクロウの目に捉えられてしまったのだ。グリムペインは発見した場所へ急行し、いったん建物の影で息を整えた。片手を自分の背に隠しながら女へ近寄っていく。背後では彼の手が淡い輝きを発している。彼の得意技、黄金色の願望だ。ただの浮浪者など簡単に破壊できてしまうだろう。
「やあこんばんは」
声を掛けると老婆はびくりと震えた。虐げられたもの特有の卑屈さがその目にあった。
「こんばんは旦那。何か用ですかね」
どもりながらそういう女とグリムペインは視線を合わせる。殺してしまうのは簡単だ。だがここは馬車のルート上ではなく、肝心の馬車とも距離がある。グリムペインは片手に生じていたスキルを霧散させ、間をおかず老婆のみぞおちを殴りつけた。
「ヒッ!」
短い悲鳴を残し、あえなく老婆は昏倒した。
「街中では被害者を減らせって釘を差されたことだし」
グリムペインは夜風の当たらない物陰を探すと彼女を転がした。
「よし、一丁上がり」
斥候に出していた煤猫ちゃんが人影を見つけた。路地裏で絡み合う影がふたつ。街娼とその客だろう。『灰燼』グレイ=アッシュ(p3p000901)は二人の気を引くためにかかとを鳴らした。かつんと音が響く。
「きゃっ! 何よアンタ!」
「なんだてめぇ、見世物じゃねぇぞ!」
想像以上に陳腐な言葉を吐くふたり。あわててズボンを上げる男と前を隠す女。案外人間というものは、想定外の事態を前にするとパターン化された動きしかできないのかもしれない、なんて思いながらグレイは一点の曇もない笑顔を浮かべた。
「お楽しみのところ申し訳ないけれど」
ややタレ気味の瞳が怪しい光を放つ。
「こんな時間に出歩くのは感心しないなぁなぁなぁ。すぐに帰ったほうがいぃいぃいぃ」
街娼と男の顔から急激に表情が消えていく。まるで穴から水がこぼれるように。彼らの耳朶ではグレイのセリフが飛び跳ね、エコーがかかって聞こえていた。
「なにせ通り魔が出るらしいからねぇねぇねぇ……」
魔眼。
目のあった相手を軽い催眠状態にする秘術である。
「……はい」
グレイの目をもろにのぞきこんでしまった二人は即座に脳をやられた。ぎこちない足取りで乱れた着衣もそのままに馬車と反対方向へ歩いていく。
「うんうん。お帰りはあちら。気をつけてね」
馬車はそろそろ郊外へ続く門へさしかかった頃だろうか。死傷者を出さず街を抜けることができたのは、イレギュラーズ達の念入りな下調べと慎重な行動がもたらした結果だ。
「第一の難関はこれでおしまい、か。ふふ、ははは! 随分いい趣味をしている貴族さまだ。なに、依頼とあれば誠心誠意お手伝いしようじゃないか。不満なんてないとも。僕も、貴族さまも、自ら選び取った行動なのだからね」
●まっくら森
郊外へ躍り出た馬車は、それまでののろのろ運転とは打って変わって矢のように走り出した。山道をはみ、目的の別荘を目指してどんどん進んでいく。風を切るザマスは楽しそうだ。
「オーホッホッホッホ! 愉快痛快爽快ザマス! ああ故郷の草競馬を思い出すザマス、なつかしいザマス~!」
「マダムは馬主でしたもんねえ」
「そうそうこの間の中央競馬ね、バーバヤガガンバルゾーが一位だったそうよ」
「あらぁ~、それ本当? いけばよかったわあ」
聞いている方がげんなりするような地元トークに花を咲かせる馬場さんと矢賀さん。深夜を過ぎた未明に老婆三人が馬車を走らせる姿はかなり異様だったが、止めるものはいない。馬車はそのまま山道を爆走していく。
その時。
ザマスの胸を不吉な予感が横切った。同時に頭を沈める。斜向かいから飛んできた矢が彼女の頭があった場所を素通りし、馬場さんへ命中した。
「あれぇ~」
気の抜けた声をあげて消滅する馬場さん。引っ張られるように消えていく矢賀さん。
「山賊ザマス!」
ザマスが手綱を強く引き急ブレーキ。止まった馬車の荷台から次々と仲間が飛び降りてきた。彼らをあざ笑うように、さらにもう一撃矢が。今度は荷台へ突き刺さった。ゆっくりと木立の間から軽鎧で武装した山賊が現れる。
(1、2、3……情報では五人のはず。残りの二人は隠れているのか……)
ライハは油断なく正面の山賊たちを睨みつけると同時に礼装武具を掲げる。刃が震え、どこからともなくマーチが流れ出した。士気を鼓舞する勇壮な音色。それは殺意へ変わって山賊たちへ向けられる。イレギュラーズたちと山賊が睨み合っている間にマーチは十分に仲間へ行き渡った。しかし。
「危険ザマス、逃げるザマスー!」
ザマスは馬車を方向転換させ、来た道を駆け下った。仲間たちも次々背を向け、馬車のあとを追う。これには山賊たちも意表を突かれたのか、一瞬反応が遅れる。そんな彼らの前にがろんがろんと何かが転がってきた。剣だ。
「どうするアニキ」
「どうするもこうするもねえだろ。馬車を追うぞ!」
「この剣はどうする? 相当な値打ち物だぜ?」
「バカか! あとで拾えばいいだろう? 走れ走れ、振り切られるぞ!」
未練たらしく剣に触れた山賊のひとり。だがアニキの判断に応じて馬車を追いかけ始めた。暗闇を通し、ヴィクターが山賊の数を数え直す。
「1、2、3、4……5……ビンゴ」
木々の隙間に隠れて弓を放っていた山賊が、つられて姿を表したのだ。甲高い銃声が轟く。ザマスが再び急ブレーキ。それが戦闘開始の合図だった。
彼我の距離は30メートル。イレギュラーズの前衛たちは、まず近付く必要があった。だがこれだけ離れていては近づくだけで一手遅れを取ることになる。山賊たちはそう考え、剣を持つ三人はその場へとどまって攻撃の構えを取り、弓をもつ二人は彼らを援護するべく弦を引こうとし……驚愕に凍りついた。
「逃さないようにするのが目的で…な」
背後にひとりの男――シグが立っていた。もし山賊たちの背中に目が合ったならば、剣が人の形へ変化していくところを見れただろう。既にクイックアップで己の体の『速度』をあげていた彼は、弓を持つふたりをその場へ釘付けにした。
剣を持つ三人がうなる。そこへヘイゼルが接近。剣の一人を視線で押さえつける。
「残念ですが貴方方はバックから見捨てられたのです」
それを皮切りにライハとアンシアが走る。グレイが位置取りをし、ザマスが馬車から飛び降りて攻撃呪文の態勢に入る。そして剣を持つ山賊三人が同時にヘイゼルへ攻撃を仕掛けた。おおきく振りかぶっての袈裟斬り、乳房の下辺りを通る薙ぎ、そして刃の半ばまでを通す突き。ぬるりと刃が押し入れられ、骨を砕き内蔵を切り裂き、遅れて激痛がヘイゼルの全身に走った。常人ならばショック死していただろう。だが。
「そのこびんにはかいてあった「どりんくみー」と、ヒールオーダー!」
ぽんと小さな音をたてて現れた小瓶。そのままくだけて水色の淡い輝きに変わり、ヘイゼルの傷が癒やされていく。グリムペインが楽しげに拳を打ち鳴らしていた。
「さて。運動すると腹が減るんだ。強欲者には罰下る、そうゆう話を知らないかい? ああ、それとも。おばあさんの家に向かう少女を襲った狼は、腹を裂かれて石を詰められる、そんな話の方が好みかい?」
「な、何を言ってやがる……!」
いろめきたった山賊の前にアンシアが躍り出る。死角からの奇襲にライハがおさえていた山賊の頬がぶち抜かれる。
「悪いな……お互いに、運がさ。逃げたところでろくな未来が待ってやしない。せめて私たちの手柄になってくれ」
「ろ、るれれれっ!」
山賊はおのれ、とでも叫んだのだろうか。顔の半分をこそぎとられて、出血のせいか怒りのせいか真っ青になっている。
弓を構えた山賊が我に返り、狙いを定める。だがその足元へこつんと小石のようなものが投げ込まれた。弓を持つ男どもにはそれが何かわからなかった。当然だ。それは異世界がもたらした産物。ヴィクターの手榴弾だったからだ。余韻でころりと転がって、それは爆発した。
「……弓兵ふたりへ攻撃。なお余力ありか、粘るな」
ヴィクターが淡々と言う。今の攻撃で倒れる予定だったのだが、彼らの装備は見た目より高い性能を持つらしい。弓兵達は苦痛に絶叫し、見境なく矢をうつ。それはシグの肩をかすめ、もう一本は森の中へ吸い込まれた。
「苦し紛れの攻撃か。残念だったな」
シグがほくそ笑み、マジックロープを弓兵へ投げつける。実態のない魔法の縄が、蛇のようにするすると絡みついて動きを阻害する。そこへ馬車の後ろの方から攻撃が届いた。麻痺した山賊の額へ穴が穿たれ、後頭部から大量の血と脳漿がぶちまけられる。グレイのマギシュートだ。
「ふふ、やっぱり当てるなら頭だよね。さあ次は誰を狙おうかな、どう思う煤猫ちゃん」
彼に付き従う黒猫はみいあと鳴いた。
「やれ…用済みとは悲しい事よなぁ…。悲しいが…死んで頂こうではないか…」
眼前の剣を持つ山賊が憤怒の形相で睨みつけてくる。対してライハはどこか悟ったような微笑を浮かべていた。彼に足止めされ、山賊は満足に動けないのだ。本当は後ろで死んでいく弓兵の援護に行きたいのだろう。だが彼にできるのは身を削りながらじりじりと後ずさりをすることぐらいだ。
「忘れてもらっちゃ困るザマス! ヒロインは常にワタクシザマス!」
山賊の首から上に赤い花が咲いた。いや花ではない。小規模な爆発だ。火炎と、轟音と、それから血しぶき。すべてが渾然一体となってザマスは真っ赤な魔法の花を咲かせていた。がくりと膝をつく山賊。
イレギュラーズたちの包囲はきれいに決まり、山賊たちは砂の城が水に流されるように倒されていった。
●別幕
馬車は無事に別荘へ到着した。
さて、どんな外道であれ払う限りは立派な顧客、とはマダム・ザマスの言である。その件についてはイレギュラーズたちは全員が納得していた。ので、彼女が賃上げ交渉まで行うとは予想はしてなかった。
「街中の死傷者はゼロ、山賊は全滅。これ以上無いくらい立派にお仕事したザマス。口に戸を立てるためにも上乗せが必要とは思わないザマス?」
彼女はそう演説したが雇い主の興味を引くことはできなかったようだ。
そのあいだ、ライハは馬車で宝箱に寄り添っていた。彼は彼なりにこの「宝箱」へ愛着を持っていた。タバコを吸いながら独り言のようにつぶやく。
「うん…夢だ。あぁ…そうだ、君は夢を見ているのだ…」
妾話に夢を見た時から。吉夢ではなく悪夢だったが。
「酔えよ酔えよ。はにかめ…泣くな。最期まで夢を見ろ…そら。この先で君の妾話を皆が祝福しているぞ――?」
やがて別荘の扉が開かれ、宝箱は運び込まれた。イレギュラーズたちは報酬を受け取り、それを見届けた。まるで棺を運ぶ葬列のようだったと言う。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
おつかれさまでした。
ショーは盛大に行われたようです。
門番の存在に気づいたグリムペインさんがMVPです。
またのご利用をお待ちしています。
GMコメント
みどりです。
これは悪名依頼です。ご承知おきください。わるいことの片棒をかつぎましょう。
リプレイはふたつのフェーズから成ります。
フェーズ1 街中
かくれんぼです。
見られる心配を極力排除して進んでください。
死体は貴族の手のものが適当な理由をつけて回収しますが
あまりに多いと成果が下がります。
フェーズ2 山道
戦闘です。
山賊が五人でます。
全員が貴族に横流しされた装備で武装しており、弓と剣で攻撃してきます。
反応および防御・特殊抵抗とHPが高いです。
全員抹殺してください。逃げられると成果が下がります。
●注意
この依頼は悪属性依頼です。
成功時の増加名声がマイナスされ、失敗時に減少する名声が0になります。
又、この依頼を受けた場合は特に趣旨や成功に反する行動を取るのはお控え下さい。
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