シナリオ詳細
夢追う瞳
オープニング
●夢の扉をどうぞくぐって
その扉の先に私はゆけぬ。
これは罰なのだ。
扉の先に広がる世界を、指を咥えてみていろと。
花に、海に、空に。触れることを許さぬ罰なのだ。
「だが、誰しも一度は”一番美しい”ものを見たいと夢見るものだろう?」
真っ白い空間に三枚の扉が浮かんでいる。
白めいた橙色の扉は、朝日に照らされた海岸へと続く微睡みの夢。
透き通る水色の扉は、陽光に木漏れ日差す森へと続く昼中の夢。
染め抜く紺色の扉は、月光にさざめく湖の畔へと続く星々の夢。
その扉たちを前に、赤い一つ目を覗かせた黒い影の男はキミに囁いた。
カメラは与えよう。扉をくぐる権利も与える。
だから、扉をくぐれぬ私の代わりに探してきてくれないだろうか?
「一番美しい、その景色を」
●夢という名の。
「今回は人によっては難しい依頼かもしれないね。いや何、やることは至極単純さ」
『境界案内人』カストル・ポルックスは、柔らかな笑みと共に特異運命座標たちに一冊の本を手渡す。
それは『扉と男』と題された写真集のような様相の本だった。
「その本の中の世界で、それぞれ君たちなりの”一番美しい”と思う景色を見つけてほしい」
そしてそれを写真に撮り、黒い影の男に見せれば任務完了、というわけだ。
”一番美しい”とかいう正解なんてないにも等しい命題に、黒い影の彼は囚われ続けている。
囚われて、求めて、狂って、罰を下された。
「だからきっと、人それぞれの正解があるんだと教えてあげられれば彼を救うことができるはずなんだ。頼んだよ、特異運命座標たち」
牢獄(ゆめ)に囚われた彼に救い(こたえ)を。
カストルをそっと特異運命座標たちの背を押すのだった。
- 夢追う瞳完了
- NM名凍雨
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年05月10日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
●
真っ白な空間に浮かぶ扉。
『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)は意気込むようにこくりと頷いた。
「きっと素敵な写真を、撮ってきます」
対し、写真を一枚撮るだけなら楽でいい。そうマイペースに構えるのは『凡才』回言 世界(p3p007315)だ。
「一番美しいねぇ。そんなの条件次第で色々変わってくるものだが」
ぼやきつつも扉を眺める。さくっと撮り終えれば扉の先を楽しむ時間もあるだろうと目算をつけていた。
「探し求めてしまうような好きな物があるのは素敵じゃあないか。狂ってしまうほど好きな物は僕にはないからねぇ」
『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は目を細めて笑う。
けれど同時に不思議にも思うのだ。確かに存在しているはずの扉の先に行けないとはどういう了見なのか。
求めるものを見つけることができなかったのか。
それとも。
ランドウェラの視線が影の男を見据えた。
「どれが最も美しい景色なのか選べなかったから、とか」
なんて。気まぐれめいたセリフと共にランドウェラは影に背を向ける。
その背に、影の答えがかけられることはなかった。
各々扉を選ぶ中『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)には一つの考えがあった。
(でも、このことは、影の方には、秘密ですの)
この思い付きは最後のとっておきにしたっていいだろう。さて今は影の男に向き直る。
「お前は扉の先にゆかぬのか?」
「ええ。わたしはここで、あなたとおしゃべりしたいですの」
おしゃべり? 意外な返答に影がいぶかしげに揺れる。
けれどおっとりした雰囲気のノリアには、どうにも警戒の色さえ薄れてしまうようで。
はぁ、仕方ない。そう言いたげに影の男がどっかりと白い空間に座り込む。
ふふ、と笑みを零したノリアは寡黙な彼を相手に言葉を紡ぐのだ。それは彼女らしく丁寧に、包み込む海の様に穏やかに。
「皆さんは、どんなお写真を、撮ってくるのでしょうか? ランドウェラさんのはロマンティックそうですの。世界さんのは案外繊細かもしれません。ネーヴェさんのは、きっと……」
●
薄い橙色の扉に手を掛けた。
大きな耳をもつネーヴェには聴こえてくるのだ。扉の向こうで波のさざめく音が。
えい、と思い切って開けた扉の向こうに広がるのは、朝日に照らされ輝く海と砂浜。
のんびりと波打ち際を歩く。砂浜の白さはネーヴェの白い耳のよう。
砂間に見える貝殻やいきものを踏まないように気を付けながら、何を撮ろうかと考えた。
何を撮るか決めて朝へ来たわけではないけれど、一日の始まりには素敵な出会いが似合うから。
事実、ネーヴェには魅力的な出会いが訪れた。
砂浜に隠れたいきものたちや貝殻。
常に新しい表情を見せてくれる波や、後ろを振り向けば波に消える足跡。
ほんの少し意地悪な波は、ネーヴェのサンダルごと足を濡らしていく。きっと悪戯好きなのだ。
潮の匂いも、響く波の音も。
今このひと時だけの出逢いと思えば、惜しくなってしまうほど。
「もし残しておけるなら、写真ごと残せればいいですのに……」
何を撮るか決まらないまま、砂浜から視線を外して顔を上げた。
息を呑む。優しげな赤い瞳が大きく開いて、唯、目の前の景色をみつめるのみ。
綺麗な、綺麗な、朝焼けの空。
薄明るい朝空に鮮やかなグラデーションを描く、その光は海に反射して。
きらきら、透き通っていて。透明なまでに煌めいていた。
「……すること、終わっちゃいました、ね」
ネーヴェだけの“一番美しい”景色を見つけてしまったから。
カメラのレンズを合わせ、その一瞬の景色を切り取った。
終わってしまえば少しだけ残念なような、寂しいような気持ちにもなってしまう。もっと迷っても良かったかもしれないけれど。
「でも、きっと、あれ以上はないともわかっているのです」
そう、ひとりごちた。
●
さて、気だるげに目を細めて昼の扉に手を掛けたのは世界だ。
押し開けた扉の向こうに広がるのは穏やかな空気に包まれた森の中。樹の影から小動物が顔をのぞかせていた。
陽の差す地面は柔らかく、森には緩やかに時間が流れている気がして。この中で昼寝したらさぞ気持ちが良いことだろう。
「先に写真撮影を済ませておくか」
その後になんの気兼ねなしに昼寝や散歩を楽しもう。そう決めて、木々の間を歩き出す。
それでは何の写真を撮ろうか? “一番美しい”なんて移ろいやすく可変的なものだ。
辺りを見渡す世界の前に、淡い木漏れ日溜まりが目に入った。
なんとはなしに手を入れてみる。ほっとするようなぬくもりが手に伝わって、世界は思わず目を細める。
木漏れ日の明るさと、森の暗さ。そのコントラストはきっと美しいだろう。
世界は木の多い場所を探してシャッターを切るのだった。
「ふむ、食べれそうな木の実もいくつか生っているみたいだな」
森の中を散策しながら低木をかきわけてみると、いくつか熟れた実が顔を覗かせる。
摘み取って口に放り込めば甘い果汁が口いっぱいに広がって。思わずお、と声を漏らした。
あともういくつか頂こう。そう思ってぷちりと実を摘み取ったその時。
「なんだ、一緒に食べるか?」
ふわふわした毛並みのウサギが一匹。そろりそろりと世界の様子を窺っていた。
森の恵みは等しくあるものだ。世界が実をいくつか投げてやると、最初は警戒していたウサギも徐々に近づいてくる。
「おまえ、いい昼寝場所とか知らないか」
そう聞けば、理解したのか偶然か。ウサギがすぐそばの樹を見上げたのをみて、世界もつられて上を見上げる。
目に入ったのはほどよく日陰になっていて、なんとも寝やすそうな木の枝だ。
ありがとう。そう声を掛けようと視線を戻せば、ウサギはもう走っていった後だったけれど。
世界は木に登って目を閉じ、体を包む微睡みに身をゆだねるのだった。
●
ランドウェラは白い空間に浮かぶ扉をぐるりと見渡すと、紺色の扉に左手を掛ける。
朝も昼も素敵な時間帯ではあるけれど、ランドウェラには少し眩しく感じられてしまうから。
「やっぱり夜が似合いかな」
呟いて扉をくぐる。
その先に広がるのは月と星空。そして静かな夜の光を湛えた湖だ。
風に長い黒髪が揺れる。見渡す限り美しくはあるのだが、撮れる写真は一枚のみ。ランドウェラだけの何より美しい景色を探さねばならない。
夜を前にして、ランドウェラの左右で色の違う瞳が瞬いた。
色にひとつとして同じものはない。それは夜の色とて同じこと。
月と星の光のそれぞれにさえ唯一の色があるのだと、ランドウェラは知っている。
目を細めて夜の空を眺めては、湖水に足の先を浸した。
ぱしゃり、ぱしゃり。
水の跳ねる音と共に小魚が足の周りを縫うように泳ぐ。
「静とした夜よりも騒がしい夜の方が好きなんだ。邪魔だったらごめん」
その呟きに応えるように、すり寄っては泳ぎ去っていく小魚たち。
そのまま月と星の満ちる夜空にレンズを向け、波打つ湖面を添えてシャッターを切る。
現像された写真に映る少しばかり賑やかな夜を見て。
何処までも穏やかに、何処までも嫋やかに。ランドウェラは笑むのだった。
●
「皆さん、おかえりなさいですの」
三者三様の様子でイレギュラーズ達は白い空間に帰ってきていた。
ある者ははにかみながら、ある者は自信満々に、ある者は眠たげに。
「ほら、写真だ。お気に召すものだと良いんだけどな」
「なかなか綺麗だろう。あと湖で遊ぶのは楽しかったぞ」
ネーヴェと世界に続いてランドウェラもふふん、と自慢げに影の男に写真を見せる。
「どうだい、黒い影の男よ。僕の撮った景色は君が美しいと思えるものかな」
質問の答えが例えノーであれ、それがランドウェラの一番であることは揺るがないとわかっていて、問いかけた。
男は、黙ったまま。
その様子はどこか途方に暮れる迷子の様だった。
「あぁ、困った。私にはやはり“一番美しい”がわからないのだ」
そんな影の様子を見て、ネーヴェが言葉を紡ぐ。
「わたくしたちは、それぞれ一番美しいと思えるものを、撮って参りました。でもこれらは、あなたの一番では、ないでしょう?」
揺るがぬ“一番美しい”なんてありはしないのだ。
ナンバーワンではなくて、オンリーワンの、自分だけの唯一をネーヴェ達は見つけてきたのだから。
男は言葉もなく、黙りこくったまま。三枚の写真を唯、見つめていた。
「皆さんで、写真を撮りませんか?」
その静寂を破ったのは、嬉しそうにノリアが打ち鳴らした手の音。
というのも、この依頼を聞いたときノリアははて、と首を傾げたのだ。
4人のイレギュラーズに対し扉は3つ。足りなくはないか? 否。扉は3つだが部屋は3つではない。もう1つあるではないか。
(『この部屋』も、うつくしい景色の候補、ということなのかも、しれませんの)
だからノリアが撮ると決めたのは、同じ目的のため、ゆく先は違っても力を合わせた仲間たちの光景。
それがノリアの思う“一番美しい”景色なのだった。
「その一枚はきっと、かけがえのない思い出になると思いますの」
笑みと共に、さぁ並んでと影の男の背をそっと押し出した。
ファインダーの向こうにはそれぞれの“一番美しい”写真を胸にした3人のイレギュラーズ。そして黒い影の男。
ノリアがタイマーをかけようとカメラを覗き込む。
「待て」
黒い影の男の手が動く。それに引っ張られるようにノリアの手からカメラが離れ宙に浮いた。
「私がシャッターを切ろう。そして、その後は。私だけの“一番美しい”景色をまた、探しに行くよ」
お前たちがそうしてくれたように。
黒い影の男の指がくいと動いて、宙に浮かんだカメラのシャッターがひとりでに切られる。
写真の中には4人のイレギュラーズ。
そして不器用に笑う、一人の男の姿があった。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
こんにちは、凍雨と申します。
心を捉えて離さないものはあるでしょうか? 目に焼き付いて離れない景色は?
今回はそんなお話です!
●目的
参加者には最初に「一枚だけ」写真が撮れるインスタントカメラが渡されます。
『扉と男』という本の中を散策しつつ、あなただけの”一番美しい”と思う景色を見つけて下さい。
そしてそれを写真に撮り、黒い影の男に見せれば任務完了です!
●世界観
『扉と男』
真っ白な空間に三枚の扉が浮かんでいる世界です。扉の先はそれぞれの場所に繋がっています。
扉のほかには、一つ目の黒い影の男しかおりません。
男はかつて一番美しい景色を探し求めて狂ってしまい、以来黒い影となっています。彼は扉をくぐる権利を与えることはできますが、自分で扉をくぐることはできません。
・朝の扉
時刻は朝。朝日が昇ったばかりの海岸に繋がっています。魚や海生生物も豊富な海で、白い砂浜が綺麗です。
・昼の扉
時刻は昼。木漏れ日の差す森に繋がっています。暖かな気候で動物たちも多くみられます。木の実などもあるようです。
・夜の扉
時刻は夜。月光と星を映した湖に繋がっています。小魚などもいるようで、水深は浅いです。
●注意点
・選べる行先は一つだけです。最初にどの扉をくぐるかを明記してください。
・写真を撮って見せるのが目的ですが、最終的にそれが達成できれば好きに過ごして下さって構いません。
●サンプルプレイング
私は朝の扉に行こうかと思います。
朝は一日の始まりですもの、きっと素敵な景色が見つかるはずですわ。
それに、綺麗な貝殻も見つけられれば楽しいと思いますの。
写真を撮ったら、貝殻も一緒に黒い影さんに見せに行きましょう!
それではご参加お待ちしております!
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