PandoraPartyProject

シナリオ詳細

シークレット・アンブレラ

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 しとしと、雨が降っている。
 しとしと、紫陽花を濡らして。
 しとしと、雨が降っている。
 しとしと、窓を叩いた。

 あめが、ふっている。

●レイニーブルーな空の色
 鼻を擽るコーヒーの香りに少し肩の力が入った青年。雨のせいだろうか、人は少ない様子。
「いらっしゃいませ。お好きな席におかけください」
 木製の使い込まれた椅子に座って、空模様を眺める。雨足が強くなってきたから雨宿りのつもりが、心惹かれて入ってしまった。中にいる客たちの年齢層も疎らで、少女から老人まで沢山だ。少女はメロンフロートに、フワフワのパンケーキを口にしている。老人は美味しそうなカレーを口にしている。
 ふと目に付いたメニュー表を手に取って、パラパラと捲ってみる。メニューは沢山で、美味しそうで、丸っこい字で書かれた名前がなんとも言えない愛嬌を感じさせて。
 ああ、お腹がすいた。腹の音がならないうちになにか頼んでしまおう。オススメとマーカーで二重線の引かれたそれを注文することに。
 ──コーヒーと、それから……たまごサンドを。
「かしこまりました」
 初老の、白髪の混じった優しげな顔をした老人が、人懐っこい笑みを浮かべた。
 ことり、陶器の音を響かせながらコーヒーカップとたまごサンドが届いて。舌触りのいい甘めのたまごサンドと、少し苦味の強いコーヒーが妙にマッチする。
 けれど、ああ……なんだか、ねむ、くなってきて……、どう、しよう、か……。
 意識が途切れて。ああ、寝てはいけないのに。
 プツリと切れた意識の糸。腕を組んで顔を伏せてしまった。

 ……。

 目が覚め、眠っていたことに気がついた青年。
 日差しが眩しい。
 けれど。席を埋めていたことに頭を下げれば、店主は大丈夫だと朗らかに笑うばかり。他の客もそんな様子のようで、困ったように笑って。お代はいくらだ、と財布を取り出そうとすれば、もう頂きましたと告げられて。
 財布の額も鞄の中も変動はないから、渋々店を後にした。
 ただ、傘だけがなかった。

●カサクイ
「雨の日は少し憂鬱になるものだよね」
 さらさらの銀髪が少しウェーブしていて。不服そうに溜息をついたカストルは、焦茶の表紙をなぞって読み上げた。
「レイニーブルー……それがこの本の名前だよ。雨宿りのついでに、ただカフェに寄るだけの話だけどね」
 それでも、とカストルは続けた。
「雨の日ってなんだか、そんな些細な出来事を覚えていたりするものだよね」
 と。
 さあ、傘を持って。雨降りの日、カフェに飛び込もう。

NMコメント

 皆さんこんにちは、染(そめ)です。
 梅雨が近付い……ている、はずです。5月は春と呼ぶべきなのか、梅雨と呼ぶべきなのか、悩んでしまいます。
 さて、こどもの日もすっとばして雨の日のカフェに行きましょう。どうやらお代は、とあるものらしいですよ?

●目標
 カフェを満喫する。

 メニューはお任せでも、好きなものを頼んでいただいても構いません。お任せの場合は店主があれこれ試行錯誤してくれます。
 嫌いな食べ物もあれば教えてくださいね。

 思いのままに過ごしていただければ、依頼達成となります。

●世界観
 『レイニーブルー』と呼ばれる本の中。
 崩れないバベルの影響により、メニューもさくさく読めるようです。
 雨が降っています。

●NPC
 ・店主
 年齢不詳ですが、初老の男性のようです。
 朗らかな笑みを浮かべています。落ち着いた所作が特徴的です。

●特殊ルール
 PCの皆さんには内緒ですが、ここのお代は傘です。とびきり素敵な傘を持っていきましょう。
 ここの世界では、店主の作ったものを食べると眠ってしまいます(強制です)
 起きると晴れになります。持ち物は取られません、傘が無くなっていることに気づくか気づかないかは貴方次第です。

●サンプルプレイング
 私は紅茶とショートケーキを食べようかな!
 マスター、これください!
 ……! わぁ! おいしそう〜!
 それじゃあ、いっただっきまぁーっす!

 以上となります。
 ご参加お待ちしております。

  • シークレット・アンブレラ完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月02日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談3日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
回言 世界(p3p007315)
狂言回し

リプレイ

●ナイト・ブルーは珈琲に溶けて
(――実をいうと、召喚されるまで傘は持ってなかった。
 生まれがラサだから偶に降っても差す程でもなかったし、フードを被るか雨宿りすれば十分だし、おまけにこの体だ)
 人間種向けの傘には縁がないのだ。『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271) は手にした傘との出会いを思い出す。幻想で一度酷い土砂降りに降られた。ずぶ濡れになってしまった。通り過ぎてゆくヒトが握っていたそれは、少し魅力的に見えて。
(街中では変化してる方が多いし、幻想はラサよりずっと雨も多いし……結局1本買ったんだ)
 そう。この、一本だけ。

 ――カランカラン。
 少し錆びたベルが鳴る。ラダは窓際の席に腰かけると、窓越しの雨空を少し眺めてからメニュー表に視線を落とした。
「ブラックコーヒーとアップルパイをひとつ」
「かしこまりました」
 コトリ、と陶器特有の重めの音が聞こえて。コーヒーと一切れのアップルパイが届けられると、リダは早速フォークを握ってアップルパイを口に運んだ。
 じゅわり。林檎のコンポートが口の中で溶けていく。サクサクのパイ生地が口の中で解けていく。ブラックコーヒーで林檎の甘さを中和したら、口の中に広がる程よい苦み。
 ふう、と一息。
 雨の中で冷えた身体が、少しづつ温まっていくのを感じて。不確かなメロディを刻む雨音と通りの様子を眺め乍ら、ゆっくりと食べるのは贅沢な時間だろう。下手なケーキ屋よりもよっぽど美味しいかもしれない。
(美味しいな。メニューを眺めて、次は何を、頼もうか――、)


 一本だけの傘は、どうせだからと少し変わったのを買った。
 傘の内側に濃紺の空が広がっている傘だ。星座が描かれていたんだっけか。
 多分、混沌のじゃない別の世界の夜空だろうけれど。


 雨のリズムが心地よくて、腹が満ちて温まって。
 意識が途絶えたのは、何時のことだっただろうか?
(嗚呼――なんだ。うとうとしてる間に晴れてるじゃないか)
 そろそろ帰ろうか。立ち上がって店を出たラダが違和感に気付いたのは、境界から雨上がりの幻想に戻った頃。
「あれ、」
 傘がない。
(しまった、どこかに置き忘れたか。一本しかないから気を付けてたのにな)
 周りを見渡してみるも、傘の姿はなくはあ、と溜息を落とす。
 暖かくなれば雨も増える。仕方ない、と割り切ってみるも、じわりじわりと心に後悔が滲んでいく。
(また新しく買うしかないかなぁ……)


●ナイフとフォークとハンバーグ
(ボクは近ごろはカフェというものに凝ってる。
 綺麗なお店で美味しいものを食べて良い気分になるって、なんだかとってもブンカ的じゃないかな)
 『雷虎』ソア(p3p007025) は雨降りに顔を歪めていた。柔らかい毛並みはくしゃくしゃに、絡まったりなんかして、足元も泥水が跳ねたりして汚れてしまう。
 けれども。そんな雨降りだってお腹が空いたら家を飛び出してみるのも一興。淡緑に白の水玉を飛ばした傘を手の中で転がして、ソアは店を探した。

 ――カランカラン。
 焦茶の扉を開けば、鼻を擽るコーヒーの香り。うっとりしてソアの虎耳も寝てしまったり。
 店主の料理の様子が伺えるカウンター席に腰掛けて、ハンバーグステーキを注文する。愛嬌のある笑顔でかしこまりました、と返されれば、店主はきゅっとエプロンを着けた。
「それと……目玉焼きを乗せてもらえるかな?」
「はい、構いませんよ」
 店主が合い挽き肉を捏ねて丸く整え、パン粉を加えてジューシーに。ふっくら柔らかく膨らんで、こんがり焼けたハンバーグの匂いが店中に広がって行く。じゅう、と半熟の目玉焼きものせてから、甘めの赤い人参とブロッコリーを茹であげる。
 まん丸ハンバーグの隣には彩り豊かにブロッコリーと人参、それから大きめのポテト。デミグラスソースをたっぷりかけて、ソアの前に皿は置かれた。
「お待たせ致しました」
「わぁ……いただきますっ!」
 ソアの決まり事。ナイフとフォークを使うご飯を注文すること。幾らお腹がすいていたって、それだけは譲らない。
 ソアは手づかみやグーで握れるスプーンが得意である。虎の手だから仕方ないのだけれど、それでも格好良く食べる練習をしたいのだ。
 パステルイエローのワンピースを汚さないように、店主から渡された紙エプロンをかけて。指と指の間にナイフとフォークをそっと挟んで動かして、目玉焼きにそっとナイフを沈めれば、その下の肉からじゅわりと溢れる肉汁のなんと美味しそうなことか!
 今にも食べきってしまいたい気持ちと戦いながら、少しづつ口に含んでは美味しいなぁと目を細めて。つい唇を舐めてしまう癖もお店では我慢出来るようになったから、そんな自分へのご褒美にデザートも注文しよう。なんて思うにも、少しずつ満ちていく眠気に抗えるはずもなく。
(ケーキ、それともパフェ……どっちが……いいかなぁ……)
「ふみゃぁ……」
 くすくすと笑った意地悪な店主。対価には薄緑の傘をひとつ。


●黄金色の水たまり
(……雨は。好きだけれど、嫌いでもあります)
 薄曇りの空の下、『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199) は透明の傘を手に雨の街を歩く。
 レイニー・ブルー。しとしとと傘を伝う雨粒は、窓枠よりも近く、傍にあって。
 身体を冷やすと熱を出してしまう過去の自分ではない。今は確かに、この道を歩んでいくのだ。
 そうして開いた木製の扉は、柔らかなベルの音でネーヴェを出迎えた。

 甘いものは別腹だとはよく言うけれど、上限というものは誰だってある。メニューには心を擽る名前ばかり。うんうん唸って唸って、決めたのは甘いココアとふわふわのパンケーキ。
「ココア、と……ふわふわの、パンケーキを」
「はい、かしこまりました」
 目元に刻まれた深い皺が印象的な男性だった。ふわり、と笑って。フライパンでふかふかのパンケーキを生み出して、パステルブラウンの海をなみなみ注いだら、甘い幸せの出来上がり。
 ふわっと沈み込むナイフと甘いメイプルシロップ。控えめな甘さのココアがメイプルの濃い甘さを中和するから、うっとりして、ふわふわして。意識もわたあめの海に落ちていく――。

 ぱちり。
「ね、寝て、しまいまし、た……!」
 慌てる頃には空は夕暮れ、橙の滲む頃。レモンティーの空はあまりにも美しいから、思わず見惚れてしまう。
(淑女が、このような場所で、眠ってしまう、なんて。お母様が、見られたら、眦を釣り上げそう……)
 はぁ、と小さく溜息ひとつ。近くの席に座る人達も少し眠たげだから、魔法にかけられたような心地で店を出る。
 お代は要らない、だなんて釈然としないものだけれど、次に来た時はもう少し食べられたらいいな、だとか。この柔らかな日差しを覚えていよう、とか、そんなぽかぽかした、春の陽気みたいな気持ちを心に浮かべて、そのまま店の扉を抜けた。
 石畳の道に映る空。金の光が道を照らした。
 窓の外側にあった世界はこんなにも近しいところにあるのだと。
 窓の内側にいた自分の世界はあまりにも狭かったのだと。
 カランカラン、と木霊したベルの音が、ネーヴェの柔らかな耳に何時までも残っていた。

 透明なビニールの傘が、空に溶けて消えたような気がした。

●クールダウンはアイスと共に
(雨か……じめじめした空気がどうにも苦手だ。気分が下がるしカビが生えやすいし出歩くのに不便だからな)
 ぽつり、ぽつり、降り出す雨の音は心地よいのだけれど少し不愉快。濡れてしまうのは困ってしまうけれど、たまには悪くない。
 『凡才』回言 世界(p3p007315) は木製の手摺を慣れたように押すと、広がった喫茶店の様子に目を細めた。
 カウンター席に腰掛け、メニューを受け取ると迷わず甘いもののページへ。
「頼むのはパンケーキにメロンソーダにプリン。イチゴパフェにチョコサンデー……あとはバニラアイスも一つ」
「おや、お客様。アイスばかりですが宜しいのですか?」
「ああ、全部同じアイスクリームだって? 味が違うから問題ないさ」
「ふふ、そうでしたか。量は多めですが……大丈夫ですか?」
「なに、腹なら大丈夫さ。いざというときは最終兵器の別腹というものがあるからな」
 丸く成形するアイスクリーム特有の道具を使い、様々なアイスクリームを机に並べていく。溶けてゆくのが惜しいか、腹が減ったが早いか、世界は辛抱堪らず口の中にアイスクリームを運んでいく。
 冷えた身体にアイスは悪い? そんなことはない。美味しいものというのは熱くても冷たくても、心を満たしてくれるのだから!
 美味しそうに頬張る世界の様子に店主は嬉しそうに笑って。ふう、と一息ついたころには眠気が襲ってくる。
(眠いな……日頃の疲れが溜まってたのかもしれん。時間はまだありそうだし少しだけ眠っていくか……な……)
 眼鏡を外してテーブル上に置いて、くうくうと眠る頃には店主の思うつぼ。店先にある傘スタンドから傘を貰っていくと、使い込まれていた傘を撫でて店の奥へと行ってしまった。

 目を覚ました世界は、口元を一応拭いながら眠りすぎたことに気づく。三時過ぎに来たはずなのに、気付けばもう五時に。
「…………っといかんいかん。数分程度うたた寝するつもりが結構長く寝てしまったな」
「ふふ、構いませんよ」
 お代は要らないと言われてしまったので、そのまま店を出て……傘がないことに気がつく。年季が入っていた分大切にはしていたのだが、致し方ない。
「……帰るか」
 片手にあった荷物は今や遠い彼方へ。雨上がりの空は、少しずつ薄紫に染まって行った。

成否

成功

状態異常

なし

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