シナリオ詳細
焔の武闘会
オープニング
●ある晴れた寒い日の一幕
ここは剣と魔法の世界、「エクスシード」。
平時ならば四季の花が咲き乱れ、中世ファンタジー風とでも言うべき町並みの広がる世界である。
また、剣と魔法の世界とは言うものの……俗に言う魔の者、魔王は遥か過去に討たれて久しく、人類の敵といえば凶暴化した獣や小型の魔物程度。
端的に言えば永い平穏の時代をすごしてきた世界だ。
しかし春の陽気も近いはずの今。そんな世界に、ある異常が訪れていた。
それは街中に目を向ければ分かるだろうか。
街ゆく人々はぶ厚く服を着込み、白い吐息を隠そうともせずにせわしなく歩いている。
もしくは一度この世界を訪れ、暦を見ればひと目で気づけるだろうか。
――寒いのだ。熱を失ったかのように、本来ならば訪れる春が、夏が来ないという異常。
人々はそんな中でも、明日を信じて営みを続けている。その胸中に、淡い不安を封じたまま。
●メランコリーな黄昏の一幕
そんな世界で一人、荒野に座り込む人影があった。
……いや、荒野というのは正しくない。男が座り込むのは広大な円形闘技場、その中心らしい。
闘技場の至る所には無数のトーチやランプが設置され、その一角には一際目を引く巨大な篝火が鎮座している。
それらは半分程に火が灯されて、美しい炎の揺らめきを作り出していた。
そんな闘技場で座り込む男は、鍛え上げられた上半身を晒した軽装。
武器・防具の一切は見当たらないものの、この場に相応しい闘士と推測できるその男はしかし、深い深いため息をついた。
呼応するように、その場の炎のいくつかが大きく揺らぐ。
「はあ……暇だ……」
この男こそ、この世界における熱を司る妖精、精霊、神、そのように言い表される超常存在。その現世への写し身――名をサラマンドラという。
揺らいだ松明の一つが、ため息にかき消されるように消えた。
●境界図書館にて
イレギュラーズの前で、うわずった声の少女がぺこりと頭を下げる。
「本日はお日柄もよく、じゃ、なかった。ええと、皆さん、お集まり頂いてありがとうございますっ」
頭を下げた拍子にズレた眼鏡を直しながら、少女――今回イレギュラーズに声を掛けた境界案内人、ノルン・エーリューズは一冊の本を取り出した。そして、大きく息をすって、一声。
「皆さんには、この世界を訪れて、ある人を、その……ぼっこぼこにしてあげてください!!」
- 焔の武闘会完了
- NM名だめねこ
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年05月12日 22時20分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●ある寒い日の邂逅
闘技場へ降り立つ四人。それはすなわち、この世界にとっての稀人。イレギュラーズの四人である。
虎の特徴を持つ少女、混沌世界とのつながり深い精霊種である『雷虎』ソア(p3p007025)は興味深げに辺りを見回し、一人の人影を見つけた。
ソアの持つ虎の耳がぴこりと揺れる。
その人影へ誰何するのは『踏み出す一歩』楔 アカツキ(p3p001209)。
「お前がサラマンドラか?」
その視線は油断なく、少しばかり剣呑な雰囲気を孕んで人影を捉えている。
「いかにも。そしてお主達がイレギュラーズか」
人影はアカツキの視線に動じる事なく、そしてその言葉に対しても戸惑う様子はみられない。
話が通っている、というのは間違いではないらしい。
そうして人影――サラマンドラは四人へとその視線を向けた。
「それにしても、熱い戦いねぇ。俺はどちらかというと真逆の戦い方になるんだがそれでも大丈夫か?」
「構わないさ。どんな戦い方でも、戦いは戦いだ」
白衣を纏う『凡才』回言 世界(p3p007315)の懸念の言葉を受けても、サラマンドラは鷹揚に笑う。
そして、待ちきれないとばかりに、快活な声で『何事も一歩から』日車・迅(p3p007500)は心意気を宣言する。
「天下太平は喜ばしい事ですが、暇すぎるのも問題ですね。サラマンドラ殿の心にも火が灯るよう精一杯頑張らせていただきます!」
その声を聞いたサラマンドラが笑う。直後に、闘技場を大波の如き熱気が埋め尽くし、吹き荒れた。
「楽しみにしているぞ、イレギュラーズ! さあ、始めようじゃないか……!」
●一番手(くじびきの結果)
「それでは殴り合いましょう! ここより先は言葉は不要!」
一番手である迅は誰よりも早く、凄まじい速度で飛び出して彼我の距離を消し飛ばした。
特筆すべきはこの場に居合わせた誰よりも――当然、サラマンドラすら足元にも及ばないその速力。
その速力のままに繰り出される双つの蒼き彗星は、寸前でかろうじて防がれた。防御されてなおも、武神を揺るがす衝撃。
サラマンドラの拳は一撃の重さに優れ、迅の拳は手数と速度で勝る。
そして、迅のその高い速度を破壊力に変換する蒼き彗星は、サラマンドラの拳と真っ向から渡り合える威力を誇っている。
つまり、これは、単純明快に。
「小細工無用の真っ向勝負です! 」
「面白い…受けて立つ!」
迅速強猛を旨とするその武術は、拳風に吹き散らされた火の粉が舞い焔の逆巻く中でもその速度を落とさない。
むろん、その代償も小さくは無い。肉体の限界を超えた力は容赦なく己を傷つけ続ける。
加えて拳の直撃を回避したとしても、上乗せされた炎熱は執拗にからみつき、確実かつ急速に体力を削っていく。
それでも、纏わりつく炎すら置き去りにするように。ただひたすらにこのひと時を楽しむべく――その拳は止まらない。
生命を燃やすかのように激しい、何度もの打ち合い。元より、焔の影響全てを防ぐ事は不可能。ならば、防御は最小限に。一撃でも多くの拳を繰り出す!
そしてその最中、矢継ぎ早に繰り出された蒼き彗星がついに渦巻く焔の拳を弾いた。それは紙一重で掴み取った、絶好の好機。
どこまで自らの拳が通用するのか、それを確かめるかのように繰り出す「もう一撃」は、鍛え抜かれた拳による一撃。
汎ゆる加護を突破するというその拳撃は、身を護るように吹き荒れる炎を超え強かに炎の武神を捉え撃ち貫いた。
●二番手
「互いに死ぬ心配がないなら気楽にやれるしありがたい。さて、泥仕合と行こうか」
「術しか――望む所だ!」
守りと蝕みの術を鎧いながら世界が告げれば、応えたサラマンドラが接近しようと足を踏み出し――唐突にその足が止まった。
虚空に描いた陣より生み出された白蛇がひそやかに絡みつき、静かに生命力を奪いさったのだ。
だが次の刹那には、拳の届かぬ距離から放たれる複数の炎の飛礫。さらにはそれを目眩ましに、接近を果たしたサラマンドラの拳が世界へ襲いかかる。
咄嗟の身のこなしで世界はその焔のほぼ全てを回避しきった。続いて繰り出される拳、時が立つほどに苛烈さを増すそれらにさえも、容易くその身を捉える事を許さない。
炎熱により削られゆく体力を感じても、世界はあくまで冷静に調和の力を用いた賦活で対抗してみせる。
拳と共に渦を巻く焔は白衣に刻まれた呪詛が吹き散らし、その身に届く事はない。
更にはその身に纏う守りと蝕みに加え、さらなる白蛇を生み出しての反撃すら行うのだ。長く続く均衡は、文字通りの泥仕合か。
だが次の瞬間、守りの術の切れるその一瞬。超小型感応共振端末により強化された世界の知覚が警鐘を鳴らした。
裂帛の気合と共に、サラマンドラの身体の端々がその身に絡みつく蛇ごと焔と化し、更にはその焔が世界へと襲いかかる。
消耗と引き換えに放たれる、均衡を崩す為の強引な攻撃。襲いかかる焔よりサラマンドラが至近へ現れて、威力を高めた拳を振るう。
サラマンドラが拳を振り切ると同時、世界が咄嗟に翳した掌から漆黒のキューブが現れてサラマンドラを包み込む……!
●三番手
「次は……」
「俺だ」
言葉少なに前へ出るはアカツキ。互いに至近を得手とする使い手同士、双方の間合いはすぐに縮まる。
炎熱を纏う拳をアカツキは物ともせず、お返しとばかりに意思の力を破壊力へ変換する一撃を放つ。
「貴様の拳からは何の意思も感じられんな。格下と思い油断しているのか?」
口数の少ない常のアカツキらしからぬ物言いは、彼なりの激励の形か。
「まさか。お主らのような猛者に相まみえるならば……近頃の醜態を恥じるばかりだ!」
返答ついでとばかりに繰り出された焔撃。アカツキはその力をも逆用したカウンターを放ち、渦巻く焔も意思の力をもって振り払う。
もとより、アカツキの高い身体能力と耐久力は、炎の武神を相手取ってなお不足は感じさせない。
そして油断なく戦いを進めるアカツキは、時に容赦のない反撃を繰り出す。その戦いぶりは、不動の城壁と言うに相応しいだろう。
それは一重に、守人として練り上げた技術の賜物か。
「――見せてみろ、貴様の本気を!!」
倒す事よりも、奮い立たせる目的の為に。敵を昂ぶらせるように、言葉を紡ぐ。
「ならば……ゆくぞ、イレギュラーズッ!!」
吠えたサラマンドラの身体へ、災厄たる炎が集った。それは一重に、アカツキの堅牢な防御を突き崩す為に。
その威容は見るからに凄まじい。恐らくその威力は、炎の武神の名に恥じないだろう事が伺える。
だが、それを――正面から打ち破ってこそ価値がある!
炎と共に繰り出された一撃を受け流しながら、アカツキは迫る焔に向けて掌打を繰り出す。
守り手の技はたしかに、防御の上から身を焼くその焔を吹き散らし――サラマンドラの身体へその破壊を送り込む!
●四番手
「世界に季節を運ぶだなんて精霊を超えて神様みたいだね! そんな人のお相手を出来るなんて光栄だよ!」
「お主は……すこし、似たものを感じるな」
異世界同士とはいえ、世界との結びつきの強い両者。お互いに、感じるものがあるのだろうか。
「春を通り越してもう夏にしちゃうぞ!」
人の姿を借りる事を止め、精霊としての、虎の姿を取るソア。
互いの視線が交じわるのは一瞬。ソアはその身を翻してサラマンドラへ襲いかかった。
頭上より繰り出すは精霊種としての「すごい爪」。鋭いそれは身を裂く寸前、サラマンドラにより受け止められた。
ソアは受け止められた爪にこだわらず、その首元へ食らいつき地面へと押し倒す。
瞬間、強引に放たれたのは焔の推力を用いた蹴り上げ。ソアの身体は中空へと打ち上げられるも、空中で器用に身を捻り着地してみせる。
そして、ソアの周囲で雷光が弾ける。瞬時に呼び出された雷は、防御すら許さない雷電となってサラマンドラに襲いかかった。
迸る雷は瞬時に肉体を貫き、同時に視線に絡ませた魔力――捕食者の瞳が精神を揺さぶる。
サラマンドラは身を縛る雷ごと肉体を焔と化し、その影響を脱する。だが、雷虎にはその一瞬で充分だ。
ソアは既にもう一度身を翻し、空中より雷を呼び出し練り上げている。
動きを鈍らされ地上にて向かえ撃つしかないサラマンドラは、奇しくもソアと同じようにその焔を自らの肉体へと集めた。
凄まじい雷の一閃と、荒れ狂う焔の一撃。両者の渾身の一撃が激しい雷と焔、そして砂塵を撒き散らす。
それらが晴れた後には、倒れ伏すソアと――度重なるダメージに、その身を火の粉と変えて吹き散るサラマンドラの姿。
●ある暖かな日の顛末
そして唐突に。闘技場に据え付けられたトーチにランプに篝火に。
半ば程が灯っていなかったそれらが、一息の内に、その全てに灯りを燈した。
揺らめく炎は武を競う場とは思えない程に美しく。激戦を制したイレギュラーズを称えるかのように揺らめき、柔らかな光を放っていた。
その後のお話。
一際強く燃え盛った篝火より、何事も無かったかのように――曰く、「生まれ変わった気分」らしい――現れたサラマンドラは、その務めを果たす事をイレギュラーズ達に約束した。
各々に別れを告げ、誰も居なくなった闘技場にはこれまでと違い暖かな熱と陽気に包まれている。
世界にも、暖かな風が吹き始めた。
最も。次の夏は……少しばかり、猛暑になっているかもしれない。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
始めまして、イレギュラーズ。
だめねこと申します。どうぞよろしくお願いいたしますね。
●目的
「サラマンドラ」をぼっこぼこにする。
●世界
剣と魔法の世界、「エクスシード」。
平穏が続く世界でしたが、今回は春が来ないという異常にさいなまれています。
●サラマンドラ
この世界において熱を司る精霊や神と呼ばれている存在の写し身の一つです。好戦的な武人タイプ。
まだこの世界が人類の敵に溢れていた頃は、人間達に試練と加護を与えていました。
しかしそれも永い平穏の中で廃れてしまい、暇を持て余しています。
「世界の異常は炎の力が弱まりつつある事が原因なので、サラマンドラさんをぼっこぼこにして昔の熱い戦いを思い出させてあげましょう!」
……というのが境界案内人の談です。
話は通してあるそうなので、思う存分ぼっこぼこにしてあげてください。
また、世界そのものの一部とも言える彼は、テンションさえ高ければ復活できます。
つまり、勢い余ってやりすぎてしまう心配は不要という事だそうです。
舞台は広い闘技場。特に戦う分に支障は無く、逆に小細工する余地もほとんどないでしょう。
●エネミー
・サラマンドラ
自身の司る「炎」を操る両面型。本人は近接攻撃を(極端に)好みますが、炎を撃ち出す事で遠距離にも対応でき、全ての攻撃で火炎系のBSが付与されます。
また、あくまで試練を与える存在である為に、如何なる場合も対象を死亡させる事はありません。
それは相手にもやりすぎる心配が無いということで、ひたすら、苛烈に、高いHPと攻撃力を存分に振るって炎の如き猛攻を繰り広げてくるでしょう。燃え尽きるまで。
ただし絡め手には乏しく、近頃鍛錬を怠っている事や本人の気性も手伝って、あまり心配する必要はなさそうです。
●最後に
改めて。イレギュラーズの皆様の勇姿を描ければ嬉しく思います。
いつも通りな感じで、お気軽にご参加頂ければ幸いです。
それでは、どうぞよろしくお願いいたしますね!
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