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シナリオ詳細

超現実主義における再会への願いと絶望

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●イラド氏のアトリエより
 一年ほど前の出来事である。
 謎多き画家ilad rodavlas氏の遺したアトリエが全焼するという事件が起きた。
 検証の結果火のついた松明を用いた放火であると結論づけられたが、アトリエは三年もの間誰も入っておらず、誰かが侵入した形跡もないことから、室内に突如火のついた松明が現われたと結論がつけられた。
 その不可解な事件をきっかけに焼け残った絵画は好奇な貴族たちの注目を浴び、いわくつきの絵画としてオークションでいくつもの高値をつけた。
 幻想貴族のみならず大陸中に散ったというこの『イラド遺画』。
 そのひとつが、今回の依頼の品――いや、舞台である。

●ある絵画世界における探求と救命
「絵画の中に世界があったんだ。本当だ、見間違いなんかじゃない!」
 所変わって幻想王都、ローレットにほど近いレストランの個室席。
 無数に飾られた高級な絵画や壺。足音を殺しそうな絨毯や手触り最高の椅子やテーブル。
 貴族のお部屋だとしてもおかしくないほどの部屋で、ある貴族が声を荒げた。
 高そうなテーブルを拳で叩く。
「すまない。最初から、順を追って話そう」
 暫くその様子を眺めていた(もしくはなだめにかかった)イレギュラーズたちを前に、貴族は深く深く息を吐いた。
「兄は絵画の鑑賞が趣味だったが、ある画商のツテてイラド遺画のひとつを手に入れたのだ。
 ねじれた木やチーズのように溶けた時計や、奇妙に整形された荒野や……とにかくよくわからない絵画だ。私は美術知識はサッパリでね。
 しかし兄はえらくご機嫌で、毎日のようにその絵画を眺めていた。
 何日かして、兄は変なことを言い始めた。
 『絵の向こうから声がする』という。
 兄は絵画に金をつぎ込む悪癖はあっても、よくない薬をやったり酒におぼれたりする人じゃない。きっと夢でも見たんだろうと思った。
 けれどそれから暫くして、兄は『向こう側の者と友達になった』と語りはじめた。
 愚かなことだが……兄が私をからかっていると思ったのだよ。
 私は幽霊やアンデッドのたぐいが苦手で、幼少時はそれで兄からからかわれたこともあったからな。
 だが、よく聞いておくべきだったのだ。もしくは医者にでも診せるべきだった。
 兄はある朝『向こう側の者に会いに行く』と言ったきり、部屋に籠もってしまった。
 食事の時間になっても出てこないのでメイドが様子を見たら、兄の姿はなかった。
 それからもう何日もたっている。どこかに出かけたのなら帰ってくるなり連絡をよこすなりするはずだ。
 私は絵画に秘密があると思った。
 きっと塗料に特別な薬物が仕込まれていて、兄を狂乱させたのだと思ったのだ。
 だから絵画を調べることにした。そして知ったのだ。
 絵画に触れた途端、まるで水面に手を沈めるかのように『向こう側』へ行ける事実に」
 イレギュラーズたちに依頼されたのは、絵画の『向こう側』への侵入と探査である。
「兄が生きていたら連れて帰ってほしい。もしそれができなくても、その証拠になるものを持ってきてくれ最悪、話だけでもいい。
 何も分からぬまま待つのは、つらすぎるのだ」

GMコメント

【依頼内容】
 『絵画の世界に入り、貴族の兄の消息を探る』
 兄の名前はドメネク。
 依頼主(弟)はファリブという。

 ドメネク氏が生きているなら連れ帰り、もしそれができなくても何かしらの証拠をもって帰ること。
 最悪でもドメネク氏がどうなっているのかをファリブ氏に伝えることができれば依頼の最低成功条件は満たされます。
(※最悪、でっち上げた話を信じさせて納得させることでも成功条件を満たすことはできますが、あまりお勧めしません)

【絵画世界】
 情報確度C
 いかなる存在があるかは不明です
 場合によっては戦闘の必要が生じるでしょう
 探索のヒントは沢山ありますが、どうしても困ったら『敵らしきものと遭遇したら倒す』と決めて戦闘プレイングを詰めれば、少なくとも成功条件を満たせなくなることはないでしょう。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 超現実主義における再会への願いと絶望完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月01日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

蜜姫(p3p000353)
甘露
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
ケント(p3p000618)
希望の結晶
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
アトス(p3p004651)
片割れ
アイオーラ・イオン・アイオランシェ(p3p004916)
奇跡の一刺

リプレイ

●Paranoiac Critic
 人生の中で、絵画のなかに入る経験はいかほどあるだろうか。
(随分と不思議な話ですね……)
 『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は依頼のあった絵画を見つめていた。
(絵画の怪異は決して珍しくはない、残念ながら大半が偽証だったりするけどね。まさか幻想で本物を目にする機会に恵まれるとは……)
 同じく黙って絵画を見つめていた『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)。
「まずは絵画の世界へ出発する前に、準備を済ませておきたいですわね。すぐに戻ってこれるとは限りませんので。ひとまずは食料と……ハッ」
 隣では『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)がメモを片手にキリッとした顔をした。
「バナナはおやつに入りますか?」
「入ります」
「なんと」
「ただし絵画の中にまで入るとは限りません」
「なんと!?」
 それはちょっと聞いてない、という顔で振り返ると『青き戦士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)がさもあらんという顔で頷いた。
「念を入れておいて損は無いわ」
(絵画世界へドメネク氏が入って何日も経過している。まだ生存していると仮定しても『何事もない』とは考え辛いわね。それに『声』の主がコンタクトを取った理由も……)
 『片割れ』アトス(p3p004651)が白いワンピースの裾を揺らしながら、絵画を色々な角度から見ていた。
「中はどうなってれるのかな?」
 とてもわくわくした様子だ。
 まずは観察だ。
 『希望の結晶』ケント(p3p000618)は一旦絵画を前にして、暫くじっと見つめてみた。
(依頼主は兄を大切に思っている。向こう側はそんな彼を置いていき心配させてまで、過ごす価値のある場所なのだろうか)
 なんにしても自分で確かめ、聞かねばならないだろう。
 『揺蕩いの青』アイオーラ・イオン・アイオランシェ(p3p004916)もじっくりと観察してみたが、絵画そのものに特別な様子はない。
 後ろでは依頼人のファリブ氏が心配そうに見つめている。
(別の世界へ、ね……。私はダーリンがいない世界なんてちょっとどころかかなり考えたくないけど……ドメネクさん、何があったのかしら?)
 一方で、『甘露』蜜姫(p3p000353)は絵画よりもファリブ氏のことを気にかけているようだった。
(弟さんすごくつらそうで、みてると蜜姫も心が「きゅっ」てなっちゃうの。だからお兄さんと無事に再会して「ふわっ」てなれるよう頑張るの)
「購入した時と今とで絵に変化がないか画商さんに確認したいの。連絡は……」
 ファリブ氏は首を横に振った。
 絵画の先に消えたという兄ドメネク氏は画商のツテでこのイラド遺画のひとつを手に入れたという。
 どういうツテなのか、ファリブ氏は把握していないようだ。そも、絵画にまったく興味がなかったのでイラド遺画についても真剣に聞いては居なかったらしいことは、最初の話で分かっている。
「まずは絵柄ですね」
 四音は絵画をざっくりと鑑賞しなおしてみたが、なんというか……なんとも奇妙な絵画だった。
 普通の絵画といえばそうなのだが、妙にねじれた木に溶けた時計がひっかかっていたり、黄土色の荒野が広がっていると思えば所々コンクリートで整形したかのようなぴちっとした角や直線があったりする。遠く(?)には岩山のように見えなくも無い何かがあった。
「誰か、何か聞こえますか?」
 振り返ってみるが、皆NOと応えた。
 この絵画に入って急に全く別の風景に出くわすとは考えにくいので、観察するべきは絵画の内容なのだが……。
「これ、木をねじ切って時計を溶かし、荒野を抉ることが出来る程の存在が居る可能性もある、か? 絵の中の未知の怪物、戦えるのなら是非とも戦いたものだ」
「その怪物が食い荒らした跡だとか?」
 ルーキスはケントの感想にそう返してみたが、時計の溶けかたが現実のそれとはどうも異なるように思えた。
 金属を溶解させたというより、時計という物体が急にふにゃふにゃになったかのような印象があるのだ。
 まあ、硬い物を急にふにゃふにゃにするような怪物がいてもそれはそれで恐ろしいのだが……。
「ではこういうのはどうかな」
 ルーキスはロープの先を丸く結ぶと、絵画の中にスッと入れてみた。(ロープだけ投げ込もうとしたら軽く弾かれたためだ)
「迷宮攻略の糸玉ではないけど。目印には使えるかな」
 観察してみるが、風景に違いは見えない。暫くロープを動かしてみたが、やがて絵画の表面でぷつんと千切れてしまった。
「暫く観察を続けていてください。わたくしたちはファリブさんと少し……」
 エリザベスが目配せをすると、アイオーラとアルテミアも頷いてファリブ氏と話し込み始めた。

 まずはアルテミアからの要求である。
 『他の誰も知らない、兄弟間でのみ分かる合言葉』をファリブ氏に尋ねてみた。すると、普段たまにする会話のなかで用いられる内輪的ジョークを教えてくれた。
 次にエリザベスとアイオーラはそれぞれ、ドメネク氏に対する説得の文句を手紙に書くように求めた。
 これに対してもファリブは『少し時間をくれ』といって部屋に籠もった後、手紙を封筒にいれたものを手渡してくれた。
 準備はこんなところだろう。
 彼女たちは最後に装備の確認をすると、一人ずつ絵画の中へと入っていくことにした。

 一般的なキャンバスに描かれた油絵だ。
 しかしその表面に手をふれると、まるで水面を沈むかのように手が向こう側へと入っていくのが分かった。
 入った手は見えないので水というより泥なのだが、そのまま息を止めて、思い切って頭から中に入ってみる。
 するとまず、ふわりと吹き付ける風を感じることになる。
 目を開ければ絵画に見た光景。それがよりリアルに、そしてどこか非現実的なものとして広がっていた。
 振り向けば先程の絵画と同じ大きさの真っ白なボード(白紙状態のキャンバスだ)が存在している。
 試しにそこへ頭を入れてみれば、ファリブ氏の待つ部屋に出た。
 ここを拠点にして探索を進めれば、きっとドメネク氏も見つけることができるだろう。
 イレギュラーズたちは、早速探索を開始した。

●硬質と軟質への固執
 不思議な空間であることは、誰にとっても明らかだった。
 四音は吹き付ける風に髪をおさえ、風景を観察している。
 絵画に描かれているものがそのままあるだけの光景……というべきなのだろうか?
 より正確に、感覚にそって表現するならば、絵画を観察しているときに『こういう場所なんだろうなあ』と考えたままの風景が広がっていた。
 風は熱くもなく冷たくもなく、かといってぬるい気もしない。ただ『風が吹いているな』と感じるだけの奇妙ななにかである。
 四音からすれば、あまりに『そのまんま』すぎてかえって身構えてしまうくらいだ。
 ふと見ると、エリザベスが仰向け姿勢で木にぶら下がっていた。
 物干し竿にかかったお布団みたいに(膝をフックにして)ぶら下がっていた。
「……何を?」
「時計の気持ちになってみようかと」
 言われてみれば、エリザベスの隣では同じように時計がぶら下がっている。それこそお布団みたいにぺたんとした具合だ。
「しかし、おかしな空間でございますね。空は青くて明るいのに太陽が見えないですし、時間が経過しているのかしていないのか」
 こんな場所にいれば誰でもおかしくなりそうだが、ドメネク氏は大丈夫なのだろうか。
「ドメネク様には一旦戻っていただいてからこの世界との付き合い方を熟慮していただきたいところでございますが、既に正気を失っている可能性も。その時は少々手荒くなりましょうか」
「……」
 最悪、死んでしまっていれば死体や装身具を回収するつもりだ。そうなっていてほしいとまでは思わないだろうが、備えて悪いことはない。
 とりあえず探索しないことには始まらない。
 四音はエリザベスを連れて歩き始め――終わった。
 おかしな語り口になってしまったが、事実である。
 その場から移動しようと歩き始めた時には、自分たちは真っ白な平面の上にいた。絵画の奥のほうに描かれていた風景である。
「…………」
 そこに、男が寝そべっていた。
 やたらと顔立ちがよく、高級そうな紳士服を着ていた。おかしなところがあるとすれば、髭がピッチリとまとまって針のようにぴんと立っているところだろうか。
 あまりに普通にいたので、一瞬気づかなかったくらいだが……。
「あの……」
「なにか」
「……どちらさまですか?」
「『どちらさま』か?」
 男は三秒ほど思考する顔をしたのち、くしゃっとした表情をした。
「私は神だ」
「「…………」」
 この時、四音とエリザベスは別々のことを考えたが、奇しくも全く同じ顔をした。

 この混沌の世において神を名乗る者は……けっこういる。
 偽って神を自称する詐欺師もいれば、本当にどこかの世界の神だった者もいるだろうし、もしかしたら神かそれに近い何かも実在するやもしれない。(存在証明をはじめとするルールを制定する存在については除外するものとする)
 別の場所。岩山の上。
 全く同じことを、アルテミアたちは言われていた。
 念を押して述べておくが、彼女たちは手分けしてドメネク氏を探そうとしたわけではない。まとまって動くつもりだったし、なんなら全員一緒に同じ方向へ移動を開始したはずである。
 が、気づいたらこの岩山にいた。
 そうして、キューブ状の岩に腰掛けるドメネク氏を見つけたが、ファリブ氏に確認した質問を投げかけたところ急に『私は神だ』と言い出したものだからアルテミアが即座に(そして物理的に)ぶった切った次第である。
 自称神は上半身と下半身がわかれたまま、ドメネク氏だったものは顔をくしゃっとさせた。ほつれてしまった髭を指先でピンとなおし、上半身だけで器用に寝そべってみせた。
「ひどいな。『彼』を見たかったのではなかったのか」
「偽物に会いたかったわけじゃないのよ?」
「違いがどれほどある」
「うーん……『赤い靴』と『ガラスの靴』くらい?」
 アイオーラがそう表現してやると、自称神はぱっと表情を明るくした。
 目に見えてわかるくらい表情の幅が広い。髭もなぜか途中で枝分かれして8の字になっている。
「気に入った。少し待っていろ。もう一つの願いも叶えよう」
 自称神はどこからともなく絵筆のようなものを取り出すと、空中にぺたぺたと色を塗り始めた。
 するとどうだろう。
 巨大な時計と綿、そして岩石と雪がみるみる融合していびつなゴーレムができあがったでは無いか。
 ゴーレムは目覚まし時計のようにジリリリリと咆哮(?)をあげると、アイオーラたちに襲いかかった。
 アイオーラたちは一様にこう思ったところである。
 『願ってない』。

 ゴーレムの踏みつけを四方へ飛び退くことで回避するアルテミアたち。
 ルーキスは大きく距離をとると、ホルダーから取り出した魔法石を指で弾いた。
「絵の中ですら戦闘とはね、珍しいことがあるもんだ!」
 魔力銃を振り込んで魔法石を装填。充填された魔力を集め、ゴーレムの胸めがけて連続発砲した。
「久し振りの試し撃ちには丁度良いか」
 燐光が小さな花火のように走り、色鮮やかな魔力弾がゴーレムの胸に吸い込まれていった。
 いくつもの魔力爆発がおき、ゴーレムの身体が傾く。
「絵画の中の世界。未知の怪物。……望むところだ」
 ケントは剣をしっかりと握り込み、ゴーレムへと突撃した。
 彼の頭を狙ったパンチを飛び込み前転で回避。足下へ滑り込むと、すれ違うようにしてスネへの斬撃を叩き込む。
 ジリリリリと吠えるゴーレム。
 足を庇うように片膝をつき、その隙をつくようにしてアルテミアが膝を駆け上がっていった。
 胸へと剣を叩き込む。
 ゴーレムにはヒビがひろがり、全身が一度ぶくっとふくれあがったかと思うと大量のキャンディドロップになって散った。
「……終わったか」
 大量のカリフラワーをベッドにして寝そべる自称神。
 枕元に置いた皿には煮た豆が数粒転がっており、それをフォークでつまんでは口に運んでいた。
「ドメネクさんに会わせてほしんだけど……」
 アイオーラが靴のヒールで地面をカンカンと叩いた。
「行けばいい。進めば着くだろう」
 なにを? アイオーラは首を傾げながら二歩うしろに下がった――ところで、景色が切り替わった。
 茶色くて真っ平らな整形された土の上である。あちこちに溶けた時計が落ちている。自称神はもういない。

 蜜姫が見回すと、仲間が八人みなそろっていた。
 ばらばらになってしまったかと思っていたアトスもほっとした様子だ。
 見ると、ドメネク氏(部屋の肖像画の通りの人物だ)が木の椅子に座って本を読んでいた。赤い本で、文字がかすれているが表紙には『闘争』という文字があるように見えた。
「……おや、こんな所に珍しい。どなたかな?」
「えっとね」
 アトスは歌を聴いてくださいとお願いしたあと、呼吸を整えて歌い始めた。
 探し人と家族をテーマにした歌で、ファリブ氏の気持ちを代弁するための歌だった。
 歌に込めた意味も伝わったようで、ドメネク氏は拍手をした。
「ありがとう。死んだ弟も報われるよ」
「……?」
 いまいち話が噛み合っていない気がして、アトスは小首を傾げた。
 自分がちゃんと理解できてないだけかなと蜜姫の方を見たが、蜜姫も似たようなリアクションをしていた。
「弟さんがすごく心配してるの」
「そうか……」
 ドメネク氏はぱたんと本を閉じると、膝の上に置いた。
 誰か説得をしてくれれば、と振り返るが、エリザベスや四音たちが少しもめているようだ。
「どうしたの?」
「いえ……ファリブ氏から受け取った手紙が無くなっていまして」
「仕方ありませんね。自力で語りかけましょう」

 さて、ここからの話はとてもこじれてしまうので、要約して語ることにしよう。
 ドメネク氏と遭遇できたイレギュラーズたちは、弟ファリブ氏が心配して探していることを伝えた。
 ドメネク氏は話を充分に聞いた後、それでも帰ることはできないと答えた。
 イレギュラーズたちは氏が正気を失っている可能性を話し合ってみたが、会話している限り急にテンションがおかしくなるようなことはないし、ぱっと見た限り健常な様子だ。試しに斜め四十五度から殴ってみるのはちょっとお行儀が悪かろうという話にもなった。
 本人はどうしても帰りたくない様子なので、イレギュラーズたちは氏の意志を尊重することにした。
 なら証明になるものを貰ってくるように言われたと話してみると、ドメネク氏はじぶんのしていたネクタイをほどいて差し出してきた。
「今日は来てくれてありがとう。イラドの話だと窓はもう閉じるそうだ。最後に弟の話を聞けて良かったよ」
 と、そんなことを話したところで、彼らの意識は途切れた。

 気づけば皆、ファリブ氏の部屋にいた。
 絵画はどうなったのかと確認してみると、そこには白紙のキャンバスがあるのみ。あの風景は忽然と消えてしまっていた。
 声を聞きつけてやってきたファリブ氏にドメネク氏のことを話した。
「そうか。兄は戻りたくないと……いや、そういうことならいいんだ。兄が元気にしているなら、私はそれで満足だよ。教えてくれて、本当にありがとう」
 最後に預かったネクタイを渡すと、ファリブ氏は目を見開いて言った。
「これは私のネクタイじゃないか。無くなっていたんだ。兄が持っていたんだなあ」

 かくしてイラド遺画にまつわる不思議な依頼は幕を閉じた。
 絵画に再び絵が現われることはなく、中に入ることもなくなったという。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!
 ――good end!

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