《狐の嫁入り　第五幕》獣人達の春祭り

オープニング

■毎年恒例だったらしいよ？
「どうでしょうか、旦那様。このような手はずで」
「……ふむ。良いだろう。お前の思うようにやってみよ」
　狐人の護り人がいる、広大な森。そこの館にて、主であるアングラーと娘婿のコルスが一つの書類を前に、話し合いを進めていた。
　険しい顔つきを崩さないアングラーに内心冷や汗をかいていたコルスだが、許可が降りて息を吐く。
「まだ安心するには早いぞ。きちんと成果をあげてみせろ」
「……失礼しました。わかっております、フォレスト家の名に恥じないものを」
　一礼を残し部屋を後にするコルスを、心配そうにシルヴィアが声をかける。
「ずっとそこにいたのかい？」
「ええ、だって不安だったもの。お父様がきちんと認めて下さるかどうか……」
「大丈夫、今年は全部任せて下さるようだ」
「良かった……」
　胸を撫で下ろすシルヴィア。夫からの報告は良いもので、しかしこれから忙しくなるぞ、と気を引き締める。
「ところでギルは？」
「ジュニア君のところよ」
「……まったくしょうがないなあいつは。でもちょうどいい。彼ら一族も招待しなければだしね」
「ええ」
　そして二人して並び、窓から森を眺める。
　森の一角には、今は華やかに咲き乱れる薄紅色の……見事な桜並木があった。
　彼ら護り人は、春になると一年の安息と繁栄を祈る祭りを行う風習があり。その際には近くに住まう人々も集まるのだ。
　今回の祭りは、長であるアングラーではなく。娘婿のコルスが指揮を執る。将来一族を背負う男となる為に。

■一方その頃騒ぎ好きのあの男は
「今年も春祭りの時期か」
「ああ、そうだ。招待状も来てるぜ」
　城塞都市を治めるルークス家をはじめとして、一般の人々にまで祭りの招待状は届いていた。毎年この祭りには都市総出で参加している。
　この時ばかりは無礼講とばかりに朝まで酒を飲み通すのが騎士団の恒例行事であった。
「……ふむ。なあ、馬鹿息子よ」
「なんだよバカ親父？」
　一瞬の沈黙。そして乱闘音。
　後には床に叩き伏せられた息子、イグニスと。得意げに息子の背に座るスーラク。
「まだまだ青いわ」
「……クソ」
「話を戻すが。我らも一度、祭りをやってみんか？」
　女好きで馬鹿騒ぎ好きで酒好きであるこの父親。時折思いつきだけで動いてしまうのが悪い癖。
　そのせいで妻にも逃げられたというのに、反省を一切していない。
「……正気かよ」
「正気も正気じゃ。ほれ、お前の嫁はあの家の生まれだろ？色々アドバイスを聞いてだな」
　こうなれば止まらない。血の繋がりがあるが故に逃げられないと悟ったイグニスは、胃が痛むのを感じた。
「お。オーク達にも協力して貰わんとな」

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第2章

第2章 第1節

数日後、城塞都市は大いに賑わっていた。
楽しいリズムに合わせた音楽、それに合わせて踊る人々。
行き交う人々相手に自慢の品々を見せる出店。

初めて行う盛大な春祭り。そこに住まう人々は力いっぱい楽しんでいた。
ここであなたが取る行動は……

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第2章 第2節

「店で買い物したいけど、このgold使えなさそうよね。世界が違うなら通貨もきっと違うと思うし……」
　祭りで賑わいを見せる城塞都市に、一人の女性が姿を見せる。人混みの中にあって大変目立つその容姿、人並み外れた美貌と……大の男も軽く見下ろせる体躯が嫌でも目立つ。
　そんな彼女、コレット・ロンバルド（p3p001192）はなにかを探しているようで周囲をきょろきょろと見渡している。そこへ……。
「よう嬢ちゃん、どうしたよ？」
「あ……いえ、これの換金ってできますか？」
　気さくに話しかける一人の男性。彼にコレットは手に載せた金貨を見せる。
「へぇ……こいつは見たこともねぇな。……うっし、いいだろう、嬢ちゃん美人だし俺が個人的に買ってやる」
「え、よろしいのですか？」
　ニカッと笑うその男に少しばかり申し訳無さが出てくるが、折角の厚意だし…と、お願いする事に。彼に金貨を渡すとすぐに袋いっぱいの銅貨が渡される。
　余りにも多いと思った為に返そうとするが男は手を振り。
「いいんだよ、ここじゃ俺がルールだからな！」
「……それでは有り難く」
　一礼をして男と別れるコレットは、上機嫌で出店を回り始める。

　余談だが、後に「何勝手な事してんだ親父！？」とその男は怒られたそうな。

成否

成功

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第2章 第3節

「祭りに次ぐ祭り。少し疲れちゃうかも……？」
　そんな事を言いながらも、『初日吊り候補』セリア＝ファンベル（p3p004040）は出店を見て回っていた。いくつか髪飾りや指輪など、安く買えたのをほくほく笑顔で抱えながら。
　しかし基本引きこもり生活をしていたセリアだ、人混みに揉まれて居続けるのは少し疲れてきたのは事実。休める場所を求めて案内板を見つめる。
「宿屋は……ああ、こっちね」
　一度休もうと決めたセリアは、それからは誘惑に負けそうになる心が睡眠欲が上回り。祭りの喧騒などどこ吹く風。
　やっと宿屋についたと思えば、更に嬉しいサプライズが待っていた。
「おや、お嬢さん確か……以前この街を救ってくれた人だね？」
「え？」
　いつぞやのオークロードとの戦いの時に、セリアの事を見ていた人が宿屋を経営していたのだ。報われない事の多い彼女だが、この世界ではそうではない。頑張れば報われる、必ず。
「お代はいいよ。英雄様からはもらえないさ」
「あ、ありがとう」
　少し照れくさい思いをしながらも、案内されたベッドに倒れ込む。
　何ヶ月ぶりだろうか。きちんと休むのは。
　少し外の賑やかさが気になるが、限界だったセリアは目を瞑る。脳裏に、未だ見つからぬ母へ髪飾りを送る姿を幻視しながら……。

成否

成功

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第2章 第4節

当人は全く気づいていないのだが、街の長の厚意により貨幣を手に入れたコレット・ロンバルド（p3p001192）は、知らず笑みが浮かんでいた。
　元々コレクター気質なのもあり、この銅貨もお土産にしようと考えていたのだ。
　さておき、出店に何かいいものはないかと見て回る。やはり彼女の体躯は人の目を惹きつける。なにせ大柄なオーク族の男よりも更に大きいのだ。そんな彼女がずい、と頭を下げて商品を覗き込むのは当人にその気はなくとも威圧感がある。
　とりわけ、臆病な性格の子には……。
「ひ、ひぃっ！？」
「あ、そんなに怯えないでください。ちょっと見させて頂くだけですから」
　見た目美少女だったオークの変化まで、恐怖で解けてしまった程である。本人に悪気はないのだが……。

　何を買うでもなく一通りぐるっと街を回ったコレットは、来た道を引き返し気になっていた店のお土産を買い漁る。
　何に使うのかわからない木像や、魔法で加工されたドライフラワー。そして……。
「あ……ど、どうも」
「先程はどうも」
　例の臆病オークの店に戻ってきた。一度顔を合わしているからか、今度は変化は解けていないが……まだ緊張はしているようだ。
　しかし、コレットが一つ品物を取りお代を渡すと。パァっと顔を綻ばせていたのが何故か印象に残った……。

成否

成功

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第2章 第5節

　連日のお祭り騒ぎも遂に佳境に。
　最後に、城塞都市の長スーラクが趣味で開催を決定した闘技大会が行われる。
「俺に勝てば望みの褒美を与えるぞ！」
　と挑発めいた事を言っていたが、もちろん彼は負ける気はない。騎士団長でもあるのだから、誰にも負けることはないと高をくくっているのだ。
　これを覆せるか否か……それが観客たちの見どころになっている。