PandoraPartyProject

シナリオ詳細

貴族のメイド、募集中

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ノージィ家の緊急事態
 よく磨かれた希少木材の机が陽光に照っている。
 スタンドに羽根ペンをさした男は、金色の髭をすいっと撫でた。
「メイドたちがいないと、屋敷も静かだね」
 窓のそとを見れば、いつもはメイドが世話をしている庭ががらんと広がっていた。見えるは蝶と鳥ばかり。
 ここは幻想の王都に建てられた、貴族ノージィ家の大屋敷だ。金色の髭をした男が、その主人であるところのノージィ氏である。
 机を挟んだ向かい側で、眼鏡をかけたメイド長が肩をすくめた。
「年の明けまでずっと働きづめでしたから。今頃故郷で羽を伸ばしていることでしょう。しばらくは私だけで家事をこなしますが、旦那様だけならば大丈夫でしょうね」
「うん、そうだね。うん、うん……」
 髭をつまんでちらちらとメイド長の顔を見る。
「なんですか、言いたいことでも」
「言っても怒らない?」
「事と次第によっては怒りますけど」
 ノージィ氏はうーんと唸って、髭をくるくるやりはじめた。
「あのね、隣領の貴族たちが集まって、新年のパーティーをしたいねって話になってね」
「はい……」
 メイド長の目がゆっくりと目が細くなる。
「前はカサドラ氏のところで、その前はベーナス氏のところだったでしょ? だから今度は僕の番だねって言って、それで……」
「それで?」
 目以外を笑顔にして、メイド長が一歩詰め寄った。
 ノージィ氏は両手を合わせ、机に額がつくほどに頭を下げた。
「あさって僕の屋敷でパーティーすることになりました! ごめん!」
 顔を上げ、目をぐるりと回すメイド長。
 『仕方ありませんね』と言って机の上の紙にさらさらとペンを走らせる。
 題字はズバリ――

 『メイド募集のお知らせ』

●ギルド人材豊富につき、家事請け負いとて……
「あら、来てもらって悪いわね。あなたにはピッタリの依頼だと思ったのよ」
 ギルド・ローレットの情報屋、プルー・ビビットカラーは頑丈なテーブルに腰掛けた。
「今、ノージィ家の大屋敷が一週間限りのメイドを求めているの。
 といっても短期間だけのお仕事よ。貴族がパーティを開くから、その期間だけお料理やお掃除を手伝って欲しいそうなの。
 できれば『メイドがしっかり働いている』というポーズも欲しいそうだけれど……高望みはしないそうよ。専門家ではないものね」
 ふふ、と笑って口元に手を当てるブルー。
 集まったイレギュラーズが興味をもった様子を確認すると、話を続けるべくメモを取り出した。

「仕事場にはパーティの前日、ないしは前々日から入ることになるわ。
 メイドらしい仕草や仕事のしかたが分からない人のために、メイド長がレクチャーする期間ね。
 それに加えて、パーティー前に屋敷をぴかぴかに掃除しなくてはならないから……ここが一番大変だわ」
 メイドの服は貸し出して貰えるし、仕事のしかたは教えて貰える。
 重要なのはひろーい屋敷の掃除と沢山のごちそうを作ること。そしてパーティーでそれらを振る舞うことだ。
「たかがメイド、たかがパーティと侮ってはだめよ? 貴族のパーティは政治の一環。もしノージィ氏が貧相なパーティなんて開いてしまったら領地が弱っていると思われてしまうわ。何かしらのルートで領民がつらい目に遭わされてしまうかもしれない。
 いいパーティを開くことは、領民の暮らしを守ることでもあるのね」

 雇用主であり屋敷の主人であるノージィ氏は周辺領地を治める貴族だ。
 温厚で人当たりがよく、領民からも愛されるという人柄らしい。
 そのぶん気が弱くて周りの貴族から押され気味なのが欠点なのだが……。
「ノージィ氏はローレットを頼ってくれているわ。ここでキッチリ仕事をして『なんでもできるローレット』というところ見せたいわね。勿論、それが出来るって信じてるわ。お願いね?」

GMコメント

 おかえりなさいませ、イレギュラーズ!
 突然ですが家事はお得意ですか? もしそうなら、ぜひこのシナリオにいらしてください!
 メイドのお仕事に興味がある方、誰かのお世話をしてみたい方、なんかおもしろそーだなと思った方も大歓迎です!

●概要、メイドのお仕事
 『ノージィ家の大屋敷でメイドとして働く』『ノージィ家主催のパーティを成功させる』。
 これが依頼内容であり、シナリオ最低成功条件となっております。
 成功度合いは『周辺貴族たちが見に来たときに屋敷が綺麗になっているか、料理が良いか、パーティを楽しめたか』で決まります。

 雇用主のノージィ氏は頑張って働く人が大好きなので、仕事を完璧にこなしていなくてもがんばっていれば評価してくれます。勿論、完璧な仕事をこなせばその分大満足を得られるでしょう。
 メイドのこと(もしくは家事)が全く分からない方でも、メイド長のカチュウさんが教えてくれます。カチュウさんは基本放任主義なので、自分で出来る人にはあえて手を出しません。

・お掃除
 屋敷は幻想の王都にあり、主人のノージィ氏、メイド長のカチュウさんの二人だけが残っています。残りのスタッフはみんな休暇を与えて里に帰らせているのです。
 なので、パーティまでに屋敷をぴかぴかに掃除しなくてはいけません。
 ノージィ家の敷地は大きく――本邸、メイド長や衛兵詰め所を兼ねた別宅、倉庫、庭というかんじで並んでいます。
 最低でも本邸くらいはしっかり掃除しておきたいですね。

 服はサイズの合うものを貸して貰えますが、自前のオリジナルメイド服を着てきてもOKです。
 ちなみに貸して貰える服は古風なイギリスメイドの服です。要するに白エプロンと黒のロングスカートワンピースです。

・お料理
 パーティーには五人の貴族とその家族(妻と子供たち)が参加します。
 お料理を沢山つくる必要があるので、もしお料理が得意な方がいましたら、ぜひぜひ手を貸してあげてください。
 メイド長も料理に加わるので、普通にお手伝いするだけでもそれなりに効果があがります。

・パーティー当日
 五人の貴族とその家族(要するに家族五組分)が馬車でやってくるので、それを出迎えてパーティーへと招き入れます。
 普通に会話をして食事をするだけでも成立するのですが、何かしら余興があったり貴族たちが(いい意味で)驚いたり楽しんだりできる工夫があるととっても喜ばれるでしょう。

【オマケ】
・メイド長カチュウのスキル
 『料理』『礼儀作法』『家事全般』
 スキルの入れ替えで他にもいくつかこなせますが、今回はこの構成です。

・今回役に立つかも知れないスキル
 『家事全般』をはじめとする家事系のスキルが役に立ちます。
 他にも『接客』などの社交スキル。『音楽』『美術』といった芸術スキルも活きてきます。
 勿論そればかりではありません。皆さんの個性やギフトを活かした工夫もきっと役にたつでしょう!

  • 貴族のメイド、募集中完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月19日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

嶺渡・蘇芳(p3p000520)
お料理しましょ
秋月・キツネ(p3p000570)
でっかいもふもふ
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
陽陰・比(p3p001900)
光天水
ルティアニス・ディフ・パルフェ(p3p002113)
おてんば歌姫の冒険
XIII(p3p002594)
ewige Liebe
クァレ・シアナミド(p3p002601)
額面通りの電気くらげ
セレスタイト・シェリルクーン(p3p003642)
万物読みし繙く英知

リプレイ

●メイド服がお似合いで
 窓の外を青い小鳥が飛んで行く。
 上等な絨毯の続く廊下で、『羽休め』嶺渡・蘇芳(p3p000520)は足を止めた。
 小さなフリルのついた白いエプロンをはたき、首元をしっかりと閉じた襟元をつまんでひっぱる。
「うふふー。少しの間とはいえ、貴族の厨房に入れるなんてうれしいわー」
 垂れ気味の目と目尻のほくろも相まって、落ち着いたメイド装束がえらく似合っていた。
 一方で、『でっかいもふもふ』秋月・キツネ(p3p000570)もふかふかとした毛皮とおっとした顔つきがメイド服に不思議とマッチしている。こうした風景が普通にあるのも、この世界ならではだ。
「ふふ、腕が鳴るわね」
 にっこりとするキツネ。ただメイド服を着ただけだというのに、どうにもサマになっていた。
「私は普段の服装で大丈夫ですかぁ?」
 背中のはねにちょんと触れて後ろを振り返る『万物読みし繙く英知』セレスタイト・シェリルクーン(p3p003642)。
 後ろできょろきょろとしている『空歌う笛の音』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)。
「今日は普段の服装でいいって言われてたよ。燕尾服を貸してくれるけど、背中のあいたものがすぐに用意できなかったんだって。オイラは、どうしてもっていうならメイド服でも……!」
 ぷるぷるしはじめるアクセルに、『放蕩さん』陽陰・比(p3p001900)がぽんと肩を叩いた。
「無理、しなくていいんだよ?」
 ついさっきまで男性だった比は、メイド服のよく似合う女の子になっていた。
 ぎょっとして二度見するアクセル。
「こうやって性別がチェンジできるわけじゃないしさ?」
「べ、便利だね……!」
 その、いっぽう。
「…………」
 『ewige Liebe』XIII(p3p002594)がつんとすました顔で窓の外を見ていた。
「ほほー! みんなメイド服似合ってるじゃねーですか! 肩とかひらひらしてやがります! ほらほら」
 XIIIのまわりをくるくるしながら服のフリル部分を見せてくる『額面通りの電気くらげ』クァレ・シアナミド(p3p002601)。
「仕事はよくしらねーですが、メイド服は着てみたかったのですよ」
「分かるわその気持ち。なんだかシックで、しゃきっとするわよね!」
 身体を左右にひねってスカートをひらひらさせてみる『おてんば歌姫の冒険』ルティアニス・ディフ・パルフェ(p3p002113)。
 XIIIがやっと視線をあわせてきた。
「初依頼がメイド業務になるとは我ながら意外ですが……どのような内容であれ完璧にこなすのが、傭兵というものです」
「そうね! がんばりましょう!」
「さっきいいサボいポイントみつけたから、教えてやるです!」
「……」
 通じているのか居ないのか、少なくとも意気は合ったようである。
 そうこうしていると、メイド長のカチュウさんが彼女たちのところまでやってきた。
「皆さん、よくお似合いですよ。男性のかたには後で燕尾服を押し立てするとして……まずは主人のノージィへ挨拶に行きましょう。その時点から皆さんには正式に屋敷のメイドになるのですから、しゃきっとお願いしますね」
 はい、了解、まかせて、やってやるです、がんばるわー。などなど。それぞれに頷いて、八人はカチュウの案内で主人の部屋へと招かれた。

 ノージィ氏は幻想貴族の中でも立場の弱い、わずかな農地をもつばかりの小貴族だ。
 当人派といえば、少しお腹のでっぱったどこか人の良さそうな人物である。
 クァレや比はこんな貴族もいるんだなあという反応をしたが、さておき……。
「やあ、みんな。急な募集なのに集まってくれてありがとうね。本当ならちゃんと訓練をしてから客前に出してあげられたんだけど、ホントに急なことで無理を言っちゃって、ゴメンね?」
「心配ねーです! 泥船に乗ったつもりでいやがれです!」
「それを言うなら大船ね」
 手をビッと上げるクァレと、彼女の後ろ襟をひっぱって下げるルティアニス。
 ノージィ氏はにこにことしながら書類にサインとスタンプをすると、それをカチュウに手渡した。
「これから数日の間、きみたちは正式にノージィ家のメイドになった。身柄は保証するし、必要なものがあったらなんでも言ってね。分からないことがあったら、カチュウに聞けば大丈夫だ。他に聞いておくことはあるかな」
 いいえ、と首を振るセレスタイトとXIII。他のメンバーも大体同じような反応だ。
「それじゃあ早速取りかかって貰おうね。カチュウさん、何から始めたらいい?」
「庭と本邸のお掃除、あとはお料理の支度でしょうか」
 そこまで話すと、キツネと蘇芳がピッと小さく手を上げた。
「それなら私たちが受け持つわ」
「お料理は得意なのー」
「わかりました。キッチンを案内します。他の方にも案内するので……」
 と言って、部屋の扉を開けた。
 すると。
「あ、まって」
 ノージィ氏が声をかけた。
 振り返る皆に、優しい顔でこう言った。
「みんな、頼りにしてるからね」

●イレギュラーズの静かなる聖戦
 客が自由に値段を決めていい洋食店が仮にあったとして、お店がピカピカだった時と部屋の端にホコリがたまっていた時とでは、値段に少なくない差がつくものだ……という研究をした学者がいる。
 貴族の屋敷も似たようなもので、周辺貴族からの品定めは屋敷の隅々にまで及ぶのだ。
「あまりフィールドワークは得意じゃないんですけどもぉ、お部屋の掃除よりは戦力になれそうなので、がんばりますねぇ」
 そう言って広い庭の掃除に出たセレスタイトは、リズミカルに雑草や葉っぱの処理をしていた。
 庭仕事は草むしりに始まり草むしりに終わるとはカチュウさんの弁だが、繊細そうな手で草を根っこから抜いていくセレスタイトの姿は不思議と整って見えた。
 セレスタイトがふと見上げると、アクセルがバケツとモップをさげて屋敷の上階へと飛んでいた。
「折角飛べるんだから、高いところのお掃除は任せてね!」
 アクセルは足でもって器用にモップを掴むと、ハシゴの必要な窓の外側をきゅっきゅと磨き始めた。
 屋敷を訪れた人が見上げたとき、高い位置の窓がキレイになっていればきっと良い気持ちがするだろう。
 最後にバケツで水をかけて洗い流して水をぬぐえばおしまいだ。
 けれどそこで……。
「あっ!」
 うっかり水をぬぐう道具を落としてしまった。
 あぶないよ! と呼びかけようとするそのまえに……下にいたXIIIは落ちてきた道具をぱしりとキャッチしていた。
「問題ありません」
 そういって道具を投げて返すと、XIIIは庭仕事に戻った。
 雑草は根っこを残すとすぐ生える。除草剤を撒いて根を枯らし、弱ったところを抜き取っていくというのが基本のパターンだが……。
「精密動作には自信があります」
 目をきゅっと細めると、XIIIは除草剤の噴射機を構えた。
 土ではなく葉にかけ、吸収させる。間違っても残すべき植木の葉にかけてはならない。言ってみれば弾ぶれの激しいシューティングゲームのようなものだ。
 XIIIはカチュウから教わった話の要点を深く理解して、雑草の除去任務に取りかかった。
 ……と、そんな一連のあれこれをカチュウさんが頷きながら見ていた。
「なるほど、皆さん立派ですね」
「そうかしら。私なんて掃除のことは殆ど知らないのよ?」
 玄関の掃きそうじをしていたルティアニスがちょこんと顔を出す。
 カチュウは首を横に振った。
「メイドの真なるは技術ではございません。御家のためにできることをするという心こそ、尊いのです。ルティアニスさん、あなたもですよ」
 えへへ、そうかしら。といって照れるルティアニス。
 そこへ比がやってきた。籠いっぱいの洗濯物をかかえて。
「それにしても、お屋敷ってすっごく広いね。隅々までってわけにはいかないから、要点だけ綺麗にする必要があるかも」
 などと言いながら、比はテキパキと仕事をこなしていた。
 普通の人ではまるで分からない洗濯の手順も、掃除の基礎も、家事全般は教えなくてもそれなりにこなせていたのだ。
 ふむと、ルティアニスは箒片手に腕組みをした。
「お客さんが見るのはお屋敷の外側と、玄関と、広間までの間だけよね。あとお手洗いとか……」
「少なくとも別宅は外側だけの掃除で大丈夫かも。時間に余裕があったらやっておこうね……って、勝手に段取り決めちゃダメだったかな?」
 カチュウにふるように振り返ると、彼女はとんでもないというふうに微笑んだ。
「家事をこなすべく自分から動くのは大事なことです。お任せしても?」
「うん!」
 比はぽすんと自分の胸を叩いた。
「まかせて! ……じゃなかった任せてください、メイド長!」
「うわー! どいてどいて、あぶねーです!」
 なんてやっていると、廊下のはじからクァレが現われた。
 モップがけをしながら全力でダッシュしてくるクァレである。
 うわっと、と言いながら飛び退く比とルティアニス。その間を駆け抜けるクァレ。
 突き当たりでターンしてぎゅいんと戻ってくると、踵でブレーキをかけた。
「なんか楽しい話です?」
「そうじゃないけど……やけに元気ね」
「掃除得意なのですよっ」
 モップを王様の剣がごとく掴んでえっへんと胸を張るクァレ。
 もちろん言葉だけではないようで、彼女の通ってきた床はぴかぴかになっていた。
 くすくすと笑うカチュウ。
「ここは任せても大丈夫そうですね。キッチンに行ってくるので、なにかあったら声をかけてください」
 そういって立ち去るカチュウ。クァレは『いってらっしゃーい』と手を振ってから、ここぞとばかりに階段下のスペースに潜り込んだ。
「じゃ、暫く休憩するからカチュウさん来たら起こしてください」
「サボるんじゃないのよっ!」
 そしてルティアニスに引っ張り出された。

 キッチンではキツネと蘇芳がパーティのメニューについて話し合っていた。
 様子を見に来たカチュウさんへと振り返る。
「あらー、丁度良かったわー。メニューを試作していたところなのー」
「旅人(ウォーカー)さんが持ち込んだレシピを再現してみるのはどうかしら、って話していたのよ」
「異世界のレシピですか……幻想に定着したものも多いと聞きますし、斬新でおもしろそうですね。例えばどんな?」
「オコノミヤキクレープよ」
 と言って、キツネが差し出したのはものすごくかわった料理だった。
 豚肉と葉野菜を炒め、水でゆるく溶い小麦粉を焼いたものをとろっと辛め、野菜を煮込んだソースと混ぜ合わせたものだ。そこに香りのよい乾燥海藻粉末をまぶして卵と小麦で薄く焼いた生地でくるむという……一言で表わしづらいなにかである。
 キツネが話して蘇芳が作るというコンビネーションでできあがったこの料理。離せるキツネもたいしたものだが、即座に作れる蘇芳もだいぶヤバかった。
 食べてみるとこれがびっくり、がっつりとした肉料理だけれどとろっとした食感があって、中がいつまでもほくほくに暖かい。かぶりつくという都合上少し豪快な気持ちになれて、ついでにはみ出さないように食べようとすればするほどちょっと楽しくなれるという……なかなか気分のよい食べ物だ。
 勿論これだけに限らない。
 二人は他にも無難で喜ばれる料理をいくつも準備していた。
 キツネの料理技術はなかなかのもので、手際よく沢山の料理をこなしてくれる。
 それだけでも相当頼もしいのに、蘇芳はちょっとしたオバケみたいな働きぶりを見せていた。
 スキルやクラス、そしてギフトのたまもの……とばかりは言えない。蘇芳の人柄や、それだけの仕事をほんのり笑いながら余裕をもってこなしてみせる姿に、カチュウ含め周囲の安心感をよぶのだ。
 ぺたんと額に手を当てるカチュウ。
「めまいがするほど優秀ですね。うちにコックが居なかったら、必死に勧誘しているところです」
「あらあら、お世辞でもうれしいわー」
 蘇芳たちはほっこりと笑った。

●パーティ
 貴族のホストは緊張する。
 屋敷の前に並んだセレスタイトやアクセルは、新しく丈を合わせてもらった燕尾服を着て襟元のタイをなおしていた。
 横ではこっそり自分も燕尾をしつらえてもらったクァレが『どやあ』という顔をしている。
 ここへくればセレスタイトも負けてない。本で身につけたというたかい音楽や技術の知識。そして家で叩き込まれたという礼儀作法でもって、やってくる貴族たちを丁寧に迎えた。
 一方で(今度はあえての執事ルックで)出迎えた男性版の比が、得意の接客技術を応用して貴族のお嬢様がたを案内した。
「さ、私も行ってくるわ。表舞台には強いのよ!」
 ルティアニスはメイドとは思えないほど華やかなオーラを解き放ち、パーティへやってきた男性貴族たちを優雅に迎え入れていく。
 キッチンも大忙しだ。
 一人で何人分も働く蘇芳やキツネのおかげでうまく回っているが、それでも足りない分はXIIIがキッチリと要所要所で手伝いに回っていた。
「食器を並べる順番は覚えましたね?」
「問題ありません」
 精密作業は得意ですから。そう言って、XIIIは銀のトレーを掴んだ。

 さて、パーティにはサプライズがつきものだ。
 会場の空気が充分に暖まった所で、部屋の明かりがぱっと消えた。
 かと思えば、豊かな楽器演奏が始まる。
 何事かとあたりを見回す貴族たちの注目を集めるかのように、クァレがオーロラ色のぱちぱちを纏って自らをライトアップしはじめた。
 わっと暖かい驚きが声になって帰ってくる。
 ここぞとばかりにXIIIたちがワイヤーを引き、天井に吊るしたベンチをゆっくりと降下させていく。
 腰掛けているのは弦楽器をもったアクセルだ。アクセルは美しい歌声を部屋いっぱいに響かせた。
 サプライズは畳みかけ。アクセルの歌が一曲終わったところで、次の歌に入った。
 と同時に、キツネがワゴンにフルーツをつんで現われた。
 手にはデザインナイフ。キツネは少し大仰におじぎをすると、フルーツに彫刻を施していった。
「あれは何だ?」
「フルーツカービングですよぉ」
 料理というよりアートの分野だ。詳しいセレスタイトが貴族にそっと解説を加えていく。
 前日、料理と一緒に沢山訓練したかいがあったというものだ。美しく施された彫刻に、貴族たちが拍手を送りはじめる。
 そこへ更に畳みかけるはキッチンマイスター蘇芳である。
 キツネが抜けている間ほとんど一人でキッチンを回していた彼女だが、満を持して――クレープシュゼットをもっての登場である。
 カラメルソースをかけたクレープだが、これを客の目の前で仕上げる豪快なパフォーマンスをしてみせた。わっと燃え上がる炎に会場の誰もがびっくりして、思わず笑ってしまった。
 こうしてパーティは盛り上がり、貴族たちはみな満足して帰って行った。

 それからしばらくして、お片付けを終えた翌日。
 屋敷の前にはノージィ氏とカチュウ、そして帰る支度を終えたイレギュラーズたちがいた。
「このたびは本当にお世話になりました」
「おかげで、今年も無事に乗り越えることができそうだよ。今度は仕事じゃ無く、遊びに来てね。お客として歓迎するよ」
 八人は深く感謝され、お土産を沢山もたされて帰された。
 良きメイド、良き執事としての栄誉と共に。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした、皆様。
お料理やお掃除、歌や礼儀作法などなど……得意分野をもった方はここぞとばかりの、とっても素敵な大活躍でしたね。
もちろんそれだけではございません。有効なスキルをもたずともどこまでやれるかというプレイング力も見せ所のひとつなのですが、皆さんとっても素敵なプレイングでした。
ぜひまた、シナリオに遊びに来てくださいね。
心よりお待ちしております。

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